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ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 615
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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21.  レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い 《ネタバレ》 
 子供の頃に観て以来、大好きな映画。   改めて再見すると「ヒロインのスザンナに共感出来ない」「主人公トリスタンが家に帰る場面を感動的に描くのは、二回繰り返さず一回に留めて欲しかった」等々、欠点らしき物も見つかるんですが……  (あぁ、やっぱり良いなぁ)って感じる場面の方が多かったですね。   特に「弟であるサミュエルの死」の件は、何度観ても胸に迫るものがあります。  瀕死の弟を抱き起こし「もう大丈夫だ」「家へ帰ろう」と呼びかける兄の姿。  ちっとも大丈夫じゃないし、弟は二度と家へ帰れないという現実が痛いほど分かるだけに、トリスタンの切なる願いと、それが叶わない絶望とが伝わってきて、忘れ難い名場面です。   そんなトリスタンが「神を呪う」と叫んだり、トリスタンの父が「アメリカ先住民を守ろうとしたが、守れなかった軍人」という立場だったりと、本来はキリスト教徒や米国人向けに作られた映画なのでしょうけど……  そのどちらにも該当しない自分でも、充分に面白かったですね。  むしろ、この映画で描かれた世界や歴史、価値観とは無縁であるからこそ、一種のファンタジーとして、夢に浸るような気持ちで楽しめたのかも知れません。   映画の要所要所で手紙が読み上げられるのも、程好いアクセントになってると思うし、序盤にも中盤にもクマを登場させてあるので「最後に主人公は、クマと戦って死ぬ」という、一見すると突飛な結末にも、しっかり納得出来る作りなのも嬉しかったです。  (この主人公の最期は、クマと戦わなきゃ駄目だ。そうじゃなかったら嘘だ)とまで思わせてくれたんだから、本当に凄い。  モンスターパニック物とは毛色が違うけど、これも一種の「クマ映画」と呼べそうですね。   それと、自分は先程「ヒロインのスザンナ」と書きましたが、どちらかといえばイザベル・スーの方が、ヒロインと呼ぶに相応しい気がします。  幼い少女時代から、健気にトリスタンを想い続け、最後は彼の妻となる。  大人になった今観ると「何があっても貴方への気持ちは変わらない」「待ってるわ、どんなに長くなっても」とトリスタンに言ってたスザンナが、彼の兄であるアルフレッドと結婚しちゃう事や「イザベルの死を願ってた」と言い出す事に、流石に付いて行けない気持ちになったりもするんだけど……  それでも楽しめたのは、彼女のアンチテーゼとも言うべき存在として「本当に何があっても、トリスタンを一途に想い続けたイザベル」が登場しているからだと思います。   そんな感じで、アレコレ分析させる余地もあるし、難しい事を考えず「男女の恋愛映画」「家族愛を描いた映画」として感覚的に楽しむのも可能だし、何ていうか、懐の大きい作品なんですよね。  老いて活舌の悪くなった父が、黒板に「(お前に会えて)嬉しい」と書いて、息子との再会を喜ぶ場面も良いし、不遇だった長兄のアルフレッドが、最後に父と弟を救ってオイシイとこ持っていくのも良い。  ブラッド・ピットの俳優人生で、最も美しい瞬間を収めたフィルムってだけでも、充分に価値があると思います。   作中で描かれるモンタナの風景も雄大で、音楽も幻想的な響きがあって、夢心地にさせてくれる。  初めて観た時から、今も変わらずに……  自分にとっての「夢のような映画」と言える一本です。
[DVD(吹替)] 8点(2023-06-14 01:51:09)
22.  ザ・ワイルド 《ネタバレ》 
 サメ映画ならぬクマ映画の中では、本作が一番好きですね。   といっても「王道のクマ映画」「クマ映画といえばコレ」なんていうテンプレな品では決してなく、むしろ「個性的なクマ映画」と言えそうな内容。  億万長者な老人が主人公ってだけでも大分珍しいと思うし、主演がアンソニー・ホプキンスで、その相棒がアレック・ボールドウィンというのも、強烈な組み合わせですよね。  モンスターパニック映画というより、人間ドラマという趣が強い内容になってるのは、それだけ俳優陣に「濃い」のが揃ってるからだと思います。   メインの二人だけでなく、ドラマ「OZ/オズ」で馴染み深いハロルド・ペリノーが出演してるのも嬉しかったし、大好きな映画「レジェンド・オブ・フォール」(1994年)で主人公と相対したクマが、本作でも出演してるって事にも吃驚。  そのクマはバートという名前であり、他にも色々な作品に出演してるとの事で(人間の世界だけでなく、クマの世界にも名優は存在するんだな……)なんて、しみじみと感じ入りました。   それと、この手の映画では「平時は有能な金持ち」って「緊急事態では役に立たず足を引っ張る」のがお約束なのに、本作では持ち前の知識を活かして大活躍しちゃうっていうのも、意外性があって良かったです。  この辺りに関しては、モンスターパニック映画が好きで、色々観ていて「お約束」を知ってる人ほど、意表を突かれて楽しめるんじゃないかと。   親切に接してくれる人が、実は金目当てだと覚って拍子抜けしちゃう場面とか、主人公の孤独を描く上で「お金持ち設定」を、ちゃんと活かしてるのも良いですね。  遭難事故においては、金持ちである事なんて何の役にも立たず、主人公は持ち前の知恵と精神力とで生き抜いてみせたのに、平和な日常の世界では、誰も彼の内面を見てくれず、持ってる金を目当てに近寄る連中ばかり……という空しさが、丁寧に描かれていたと思います。   「腕時計が壊れてる」「熊を捕獲する為の落とし穴」などの伏線が、きちんと提示されていた辺りも良かったし、熊から逃げるのは不可能なので殺すって結論に至る場面も恰好良くって、お気に入り。  終幕の場面にて、主人公は相棒のボブが死んでしまった事を「友を失った」という形で悲しむ訳だけど、その感情の中には「これで、自分の生涯で最も輝いた姿を知る者がいなくなってしまった」という哀切もあったのではないか……と思えるくらい、野生の世界で生き抜く彼の姿は凛々しくて、美しかったです。   難点としては……終わり方が少々物足りないって事が挙げられそうかな?  結局、ボブと浮気してた妻を許すのかどうかって辺りも明確な結論を出してないし、何だかスッキリしないんです。  「潜在的な同性愛嗜好」なんて台詞もありましたし「実は主人公が愛してたのは妻ではなく、友人のボブの方」あるいは「亡き友の名誉を守る為、彼の醜聞を秘密のままにしておく為、仕方無く妻の不倫に気付かぬ振りをした」って事なのかとも思えるんですが、真相や如何に。   いずれにせよ「王道なクマ映画とは言えない」「これを観てクマ映画に興味持っても、他にこんな内容のクマ映画は滅多に無い」って点を加味した上でも、誰かにクマ映画を薦めるとしたら、迷いなく本作を選んじゃいますね。  サメ映画界よりも不遇なクマ映画界に颯爽と現れた、奇跡のような一本だと思います。 
[DVD(吹替)] 8点(2023-05-19 09:52:51)(良:1票)
23.  レッド・ドラゴン(2002) 《ネタバレ》 
 ドラマ版「ハンニバル」を観終わった勢いで、本作も久し振りに鑑賞。  シーズン3の6話分ほどを掛けて「レッド・ドラゴン」を映像化したドラマ版に比べると流石に薄味とか、でも「刑事グラハム/凍りついた欲望」に比べれば原作にも忠実だし濃厚な作りとか、どうしても他作品と比較して論じたくなるのですが……  その場合はドラマ版「ハンニバル」の事ばかり語ってしまいそうなので、以下は、なるべく映画単品としての評価を。   まず、ウィル・グレアムを演じたエドワード・ノートンは、文句無しで良かったです。  脇役陣も豪華だし、特にハーヴェイ・カイテルがウィルの上司役で登場した際には、思わず声が出そうになったくらい。  出番が少なめなウィルの妻子に至るまで、しっかりと良い役者が揃っており、安心して鑑賞する事が出来ました。   二時間ほどの尺の中で「レッド・ドラゴン」という物語に必要な事は、大体やってくれているのも嬉しい。  冒頭にて「ハンニバル・レクターの逮捕劇」を、僅か八分ほどでスピーディーに描いてるのは見事だったし「ウィルにクリスマスカードを送ってる」「自分達は似た者同士だと語る」などの場面を挟み、レクターがウィルに抱く感情は、単なる憎しみではないと、自然に描いているのも良いですね。  物語のラストでウィルに送った手紙からしても、レクターは「自分を捕えたウィルに復讐した」というだけでなく、彼なりのラブコールを送り、そして振られたのだと感じさせるような作りになってる。  家族を守る為に傷付いたウィルと、黒幕として暗躍したレクターの二人、どちらが勝者で、どちらが敗者であったろうかと考えさせられる、この味わい深い決着の付け方は、実に好みです。   主犯となるダラハイドも丁寧に描かれており、凶悪な殺人鬼にも拘わらず(可哀想な奴だ)(盲目の女性と結ばれて、幸せになって欲しかったな……)なんて思わせてくれたんだから、お見事。  作中最大のトリック「自殺したと見せかけて、実は生きていた犯人」の場面に関しても、文字媒体ではない映像媒体で表現するのは大変だろうに、自然な仕上がりになってたと思います。   幼い息子を人質に取られたウィルが、ダラハイドのトラウマを刺激して息子を救う場面も良いですね。  ウィルの恰好良さは勿論、ダラハイド側の「こいつだけは許せない」という怒りも伝わって来る、忘れ難い名場面です。   難点としては……  「暗い部屋で電灯を点けると同時に血痕を目撃する場面」なんかは、ちょっと古臭い演出に思えた事。  それと、終わり方が微妙だった事が挙げられそうですね。  クラリスがレクターに会いたがってるという「羊たちの沈黙」に繋がる場面で終わったのですが、ファンサービスが露骨過ぎるというか……  (これは「レッド・ドラゴン」が好きな人じゃなく「羊たちの沈黙」が好きな人の為の仕掛けだよな)と思えて、どうも喜べないんですよね。   クラリスよりウィルが、そしてレクターよりダラハイドが好きな身としては、ちゃんと「レッド・ドラゴン」の物語として完結させて欲しかったです。
[DVD(吹替)] 8点(2023-05-10 02:07:12)(良:2票)
24.  ステイ・フレンズ 《ネタバレ》 
 映画オタクの思考とは不思議なもので、時に「世間の評価が高く、きっと感動出来るであろう名作」よりも「評価がイマイチで、程々の満足感しか得られないであろう凡作」を観たくなる事があります。  そんな訳で、本作も「凡作」目当てに鑑賞したという、期待値の低い一本だったのですが……   これがもう、意外なくらいに面白くって、吃驚しちゃいましたね。  序盤にて「それぞれ他の相手と電話してるのに、まるで二人がデートしてるかのように話が合ってる」っていう主人公カップルの場面で、もう心奪われたし、そこから先も中弛みを感じる事無く、最後まで楽しく完走出来たんだから凄い。   本当、何でこんなに面白かったんだろうと考えてみたんですが……  まず、主人公の設定が良かったと思います。  主人公のディランって、社会的に成功してる若きエリートで、普通ならとても感情移入出来ない存在なのに、不思議なくらい「等身大の若者」としての魅力が有ったんです。  それは演者さんの力も大きいんだろうけど、個人的には彼を「初めてニューヨークを訪れ、ヒロインに案内してもらう若者」として描いてたのが、大きかったように思えます。  「新天地を訪れた、何も知らない存在」という主人公だからこそ、観ている側としても、まるで自分がニューヨークを案内されてるかのような気持ちになれた訳だし、自然な形で観客と主人公を一体化させてるのが上手い。   物語が進むにつれ、完璧なエリートと思われたディランが、意外と弱点が多くて憎めない奴なんだって分かる流れも、良かったです。  この辺りは、もしかしたら女性の観客からすると「カッコいいと思ってたのに、幻滅」って感じちゃうかも知れませんが、彼を恋愛対象ではなく、感情移入の対象として捉えていた自分としては、大いに共感。  ヒロインのジェイミーも、お姫様願望が強くて、色々と「重い」タイプだったりするんだけど、ちゃんと可愛く思えたし……  こういう「欠点が愛嬌に感じられる描き方」って、とても大切ですよね。   認知症の父という存在も、明るく楽しい物語の中で、不協和音にならない程度の「シリアスな現実」として、良いアクセントになってたと思います。  特に終盤、空港で父に倣い、ディランも一緒にズボンを脱いで話す場面は、何かもう、凄くグッと来ちゃったんですよね。  この映画って、その場面までは「普通のラブコメ」「ありきたりな展開」でしかなかったのに、ここで主人公が「普通である事」を奪われてしまった父親と向き合い、当たり前にあると思っていた「普通」が、何時かは失われる事を説かれるんです。  主人公が親しい人に説得されて、ヒロインに告白するというラブコメお約束の流れでしかないはずなのに、この「人生は短い。だから、愛する彼女と共に過ごしたい」と主人公が悟る場面は、本当に秀逸であり、魅せ方次第でこんなに印象が変わるのかって、感心しちゃったくらい。   その後に訪れる、これまたお約束な「主人公からヒロインへの告白場面」も、良かったですね。  ジェイミーが「映画のヒロインになってみたい」と呟いていた事を踏まえての「映画のヒロインにしてあげる」という告白の仕方が、本当にロマンティック。  (うわぁ……良いなぁ、これ)(すっごく良い映画だな)って、しみじみ感じちゃいました。   改めて振り返ってみても、あらすじというか、全体の流れは「王道」「普通」なラブコメ映画でしかないのに「お約束の場面」をセンス抜群な演出で決めてくれてる御蔭で、特別な映画になってると感じられましたね。  その他にも、ディランの同僚に、ジェイミーの母親といった脇役陣も良い味を出していたし、劇中で流れる曲も好みだったしで、もう文句無し。   「ラブコメ映画のエンディングで流れるNG集を観て、幸せそうに笑う二人」で終わるという、現実と虚構が二重構造になってるハッピーエンドも、とても良かったです。   109分という時間を、映画と共に楽しく過ごせました。
[DVD(吹替)] 8点(2023-04-11 07:32:06)(良:1票)
25.  第十七捕虜収容所 《ネタバレ》 
 「大脱走」(1963年)の元ネタの一つ……というより、多くの脱獄映画に影響を与えた、金字塔的作品ですね。  主人公のセフトンは、後の映画における「調達屋」達の原型となっているし、本作が後世に与えた影響は大きいと思います。   とはいえ「映画好きなら、勉強の為にも観ておくべき一本」なんて堅苦しい存在ではなく「今観ても楽しめる、愉快な白黒映画」って呼べる代物なのが、何とも嬉しい。  原作が舞台劇という事もあり、基本的に捕虜収容所の建物内で物語が進行するのですが、閉塞感だけでなく、不思議な解放感もあるんですよね。  象徴的なのが劇中曲の「ジョニーが凱旋するとき」であり、その勇壮な響きが、鬱屈とした空気を吹き飛ばしていたように思えます。   貧しいスープの食事を取る皆の前で、セフトンが目玉焼きを作る場面が美味しそうとか、極限状況ならではの「普通の事が贅沢になる可笑しさ」を描いてる点も良いですね。  こういう時、普通の映画なら羨ましがる側が主人公なんだけど、本作に関しては「贅沢をして、仲間に見せ付ける側」が主人公というのも、非常に斬新。  ビリー・ワイルダー監督としては、その辺のバランスを考慮し「贅沢する側」のセフトンだけじゃなく「羨ましがる側」のハリーとアニマルにも尺を割いて、副主人公的な扱いにしたんじゃないかと思えますが……  自分としては、もっとセフトン中心に作って欲しかったなと感じちゃうくらいに、彼が魅力的でしたね。   皆を救う英雄としての側面、皆に嫌われる悪党としての側面、その二つをバランス良く備え持っており、七十年近くを経た今観ても新鮮に思える主人公像を描いてるんだから、本当に凄い。  「入所直後に毛布や靴を盗まれた」(=だから仲間を信用していない)というエピソードを、さらっと語らせて、セフトンの人物像に深みを与えてる辺りも良いですね。  回想シーンなどで尺を取らずとも、短く話すだけで充分に説得力があったし、この辺りは流石ウィリアム・ホールデンだなと、改めて感服しました。   仲間を密告したと疑われ、散々に殴られ傷付いた顔で「本物の密告者を見つけ出す」と宣告する場面も、震えるくらいに恰好良い。  そんな主人公セフトンが、終盤に自己犠牲な行動に出る訳だけど、それにも「ダンバー中尉の親から礼金をせしめる」という目的があるので納得出来るし、この辺りの描き方が、凄く良いんですよね。  (あの悪党セフトンが、英雄的な行動をするなんて……)という意外性の魅力と、確かな説得力、両方を描く事に成功しているんだから、お見事です。  脱走の直前「もし、どこかで会っても知らん顔しような」と、仲間達に冷たい言葉を残していくんだけど、その後に笑顔で敬礼して去っていく姿も印象的であり、セフトンの二面性の魅力が色濃く表れた、忘れ難い名場面だったと思います。   そういった訳で「主人公の魅力」に関しては、今観ても斬新だと思えるのですが……  「密告者が誰なのか」の種明かしの方は、非常に分かり易く、少々拍子抜けしちゃうのは、残念でしたね。  本当に振りや伏線が丁寧なので「このジャンルが未熟な当時でも、観客が理解出来た展開」って意味では賞賛されるべきなんだろうけど、個人的には、もうちょっと難易度を高くして欲しかったです。  何せ、セフトンより先に「密告者が誰なのか」を観客に明かす構成になっていますからね。  これは、如何にも寂しい。  やはり、セフトンと観客を一体化させて、同時に犯人を突き止める形にした方が「ああ、そうか」と喜ぶセフトンの姿にも、よりカタルシスを得られたんじゃないかと思います。   ……ただ、そんな犯人の正体を踏まえた上で二度目の鑑賞をすると「皆の頼れる兄貴分」って感じに振る舞ってる犯人の姿が白々しくて面白いとか、やっぱり長所の方が圧倒的に多い映画なんですよね。  作中一番のツッコミ所だろう「犯人を外に出して、警備兵に撃たせる場面」に関しても(助けを求められちゃうし、口と手を縛ったままで放り出した方が良かったのでは?)と思わずにはいられないんだけど(まぁ、皆して裏切り者への怒りで頭に血が上ってたから、冷静に考えられなかったんだろう)と、好意的に解釈したくなるんです。   他にも、撃たれた後の演技が微妙で、死体のはずなのに生きてるとしか思えない場面とか、不自然で嘘臭い箇所があっても、劇中の捕虜よろしく「俺は信じるよ」って気持ちにさせてくれるんだから、本当にズルいというか、憎めない映画ですね。  きっと今後も、いつまでも嫌いになれないまま、好きな映画のままであり続ける気がします。
[DVD(字幕)] 8点(2022-12-14 00:49:52)
26.  ザ・チェイス 《ネタバレ》 
 無駄な説明を省いて、映画が始まって直ぐに「ヒロインを誘拐してからの逃走」→「主人公と警官達のカーチェイス」という流れに突入するのが気持ち良い。  こういう構成の場合「面白さのピークを序盤に持ってきたせいで、途中からダレてしまう」って形になる品も多いのですが、本作に関しては最後までピークを維持出来ていたし、その一事だけでも傑作と呼べると思います。   基本はコメディでありながら、程好くシリアスな要素を織り交ぜているのも見事であり「安心して楽しめる娯楽映画なんだけど、結末は読めない」ってバランスに仕上げてあるのも良い。  本作の元ネタって、恐らく「パティ・ハースト事件」(お金持ちの令嬢が誘拐され、犯人と恋仲になってしまう)じゃないかと思うんですが、それがまた「悲劇的な結末」に辿り着くのを示唆しているんですよね。  あの事件を知っている観客であれば、単純なハッピーエンドにはならないだろうと考えるし、それゆえに主人公が追い詰められ、物悲しい音楽が流れる「ニュー・シネマ的な射殺オチ」を見せられても、納得出来ちゃう。   ところが、この映画はそこで終わらせずに、更に一歩踏み込んでみせたんです。  上述の射殺シーンは主人公の妄想(=目を瞑った間に考えていた未来予測)だったと判明し、底抜けに明るいハッピーエンドに着地する。  この「実際にあった事件をハッピーに変えてみせる」という手法は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019年)でも用いられているし、本作が先駆的な品であった事を証明してる気がします。   劇中にてThe Offspringの曲が使われているのも嬉しかったし、マスコミが事件を面白可笑しく報道する様を、皮肉たっぷりに描いてる点も良いですね。  そういったマスコミ連中や、ヒロインの父親が適度に憎たらしい存在であるからこそ、彼らを出し抜いて主人公カップルが逃亡成功するのに喝采を送れる訳であり、本当に上手い作り。  チョコバーを銃に思い込ませた事が伏線の「もうキミを人質には出来ない。銃を食っちゃったし」って台詞も洒落てるし、カーチェイスだけでなく、会話劇としての面白さもあったと思います。   難点を挙げるとしたら……主人公が無実の罪を着せられた「ピエロ強盗」の真犯人の顛末が不明なので、モヤモヤが残っちゃう事が挙げられそうですね。  あそこに関しては「実は交通事故で死んでいた」とか「他の事件で有罪になって服役中」とか、そんな情報を主人公の弁護士が伝えてくれていたら、よりスッキリとした結末になっていたかも。   チャーリー・シーンは好きな俳優さんだし、誰もが知ってる名作映画にも数多く出演されてる方ですが……  そんな彼の「隠れた傑作」を教えて欲しいと言われたら、本作を紹介したくなる。  オススメの一本です。
[地上波(吹替)] 8点(2022-11-15 02:54:26)(良:1票)
27.  ザ・グリード 《ネタバレ》 
 「乗客の殆どが消えた豪華客船に、主人公達が遭遇する」という、マリー・セレスト号事件のような粗筋なのですが……  この映画には「怪談」「謎解き」的な要素なんか皆無で、ひたすら分かり易いモンスター映画として作ってあるのが痛快でしたね。   上述の「乗客が消えた理由」に関しても、普通なら途中まで謎にして不気味な雰囲気を漂わすもんなのに、本作に関しては「怪物が豪華客船を襲撃する場面」を、序盤で描いちゃってるんです。  これには本当、驚かされました。  低予算の映画であれば間違いなく省略してたはずの場面を、惜しみなく見せるというサービス精神。  「観客の想像に委ねる」という形で「逃げる」事も許されたはずなのに、それを良しとせず「観客の想像より、もっと凄いのを見せてやるぜ」とばかりに、迫力満点な襲撃シーンを描いてみせた作り手の心意気には、もう感服するばかりです。   映画オタクって、つい低予算な映画を評価したがるものなんですけど、本作に関しては(予算があるって、良いもんだな……)と思えたし「必要な場面の為に、必要な予算を確保してみせた」というのは、立派な長所の一つなんだなって、蒙を啓かせてもらった気分。    そんな怪物襲撃の場面だけでなく、怪物と対峙する人間側の描写も、魅力たっぷりで良かったですね。  特に、主人公であるフィネガンの描き方が良い。  金の為なら怪しい仕事も引き受ける船長という、アウトローな人物なんだけど、部下を救う為に危険を冒したりとか「良い人」としての面も、ちゃんと描いてる。  強さや頼もしさも程好いバランスであり、銃を持った強盗達に一歩も退かないタフガイっぷりを見せた後「寿命が縮んだぜ……」と、小声で弱音を吐いたりするんですよね。  何とも憎めなくて、この手の映画の主人公としては、理想形の一つとすら思えました。   脇を固める部下のパントゥッチに、ヒロインである女怪盗のトリリアンも良い味を出しており、この三人が生き残るハッピーエンドであった事は、本当嬉しかったです。  他人を犠牲にして助かろうとした結果、悲惨な末路を辿る強盗犯のボスも印象深いし、本作が「勧善懲悪」を重視した映画であった事が窺えますね。  主人公達が生き延びた事を素直に喜び、悪人達が死んだ事に関しては「自業自得」と思えるのって、本当に理想的。   他にも「敵の本体が姿を現す際の、怪獣映画みたいなBGMが素敵」とか「怪物の目玉をショットガンで撃ち抜く場面が最高」とか、褒め出したらキリが無い映画です。   ただ、終わり方に関しては……  出来れば「主人公達三人が生き残ったハッピーエンド」という、爽やかな形で終わらせて欲しかったですね。  「ようやく辿り着いた島には、更なる怪物が待っていた」って暗示させる終わり方も、まぁ悪くはないんだけど、せっかく「怪物を退治してみせた達成感」を上手く描けてた訳だから、そのまま終わっても良かったと思うんですよね。  「今度は何だ?」という主人公の決め台詞で終わるのに、その「今度」を描かず仕舞いっていうのが、何とも意地悪に思えて仕方無かったです。   総評としては「終わり方に難有りだけど、中々の傑作と呼べる一品」って感じに落ち着くでしょうか。  この作品の一年後、ソマーズ監督は「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」(1999年)をヒットさせ、その続編も手掛けた訳だけど……  自分としては「ザ・グリード」の続編も、是非観たかったです。
[DVD(吹替)] 8点(2022-07-21 21:15:24)(良:2票)
28.  コヨーテ・アグリー 《ネタバレ》 
 若者が夢を叶えるまでを描いた、シンプルで気持ちの良い映画。   実在の店をモデルにしているようですが、特に柵のようなものも感じさせず、自然に仕上がっていたと思いますね。  アパートの屋上で歌う場面からは「都会で一人ぼっちの田舎娘」という切なさが伝わってきたし、ニューヨークを舞台にした意味も、しっかり有ったんじゃないかと。   一応、部屋に泥棒が入る場面などで「都会の恐ろしさ」も描いていますが「ニューヨークの人達も、良い人ばかり」という、牧歌的な世界観である辺りも嬉しい。  困窮してる主人公を見かねて、見ず知らずのオジサンが食事を奢ってくれる場面とか(良いなぁ……)って、しみじみ思っちゃいましたね。  冷たいイメージのある都会だからこそ、人の好意が身に沁みるという訳で、凄く印象深い。  「夢を叶える為にニューヨークに来たけど、妥協して別の仕事してる人なんて沢山いる」という事が丁寧に描かれているのも、本作に深みを与えていた気がします。    そんな「妥協した大人」の代表であるコヨーテ・アグリーの店長といい、主人公ヴァイオレットの父親といい、魅力的な脇役が揃っている点も良い。  自分としては、ケヴィン・オドネルというキャラクターが、特にお気に入りでしたね。  女性主人公なラブコメの相手役って、高嶺の花である「王子様」と身近で親しみやすい「彼氏くん」に分かれる訳ですが、本作のケヴィンは後者のタイプ。  幾つもの仕事を掛け持ちして、頑張って生きてる姿が眩しいくらいだったし、マッチョな二枚目なのに、意外とアメコミオタクだったりするのも憎めない。  一歩間違えれば「胡散臭い、女性に都合が良いだけのイケメンキャラ」になりそうなもんなのに、同性の自分から見ても好ましいバランスに仕上がってたんだから、お見事でした。   「アメイジング・スパイダーマン」や「最初のサイン」といったアイテムの使い方も上手いし、練習して瓶捌きが上手くなる場面など「働く楽しさ」が伝わってくる内容なのも良い。  そして何と言っても、ヴァイオレットがステージ恐怖症を克服し、唄い出す場面が素晴らしかったです。  これまで彼女を支えてきた人々が、歌声を聴いた途端に、嬉しそうな笑顔になる。  「夢を叶える事」だけでなく「夢見る人を支え、応援する事」も素晴らしいと伝えてくれる、文句無しの名場面だったと思います。   ヴァイオレットに対し、何かと嫌味な態度で接してたレイチェルが、野次を飛ばす客を黙らせる場面も痛快だったし、そういう「ツンデレな魅力」を感じさせるキャラクターが多かった気がしますね。  個人的には嬉しい事なんだけど、誰も彼もが「嫌な人かと思ったけど、実は良い人」ってオチになっちゃうので、その辺は好みが分かれてしまう部分かも。  後は主人公のステージ恐怖症について、描写が曖昧なのも(冒頭、友達と一緒にステージで唄ってるので後の展開と少々矛盾してる)欠点となりそうです。   こういう明るく楽しいノリで、若者向けの映画って、何だかそれだけで「傑作」とか「名作」とかいう言葉が似合わない気がしちゃうけど……  この映画には、そんな言葉より「好きな映画」って言葉の方が似合っちゃうんだから、仕方無いですね。  たとえ映画史に残る名作であっても、一度観れば充分だって感じる品も多いのですが、本作は定期的に観返したくなる。  オススメの一本です。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2022-06-30 15:14:53)(良:1票)
29.  ブルー・ストリーク 《ネタバレ》 
 「ビバリーヒルズ・コップ」(1984年)に影響を受けた映画なんて、星の数ほどある訳ですが……  その中でもオリジナルに比肩するほどの傑作は何かと考えたら、真っ先に本作が思い浮かびますね。   単純に「面白い」「出来が良い」っていうのもありますが「元々は犯罪者という経歴を活かし、型破りな捜査を行う主人公刑事」っていう面白さを「ビバリーヒルズ・コップ」以上に描いてる点が素晴らしい。  次々に事件を解決し、周りから「アイツは凄い刑事だ」と誤解されていく様も愉快だし、この一点においては間違い無く元ネタを越えてると思えます。    それと、本作には二面性の魅力があり「マローン刑事による事件捜査パート」だけでなく「泥棒のマイルズによる侵入窃盗パート」も、しっかり面白く描けてるんですよね。  冒頭、ダイヤを盗みに入る場面だけでもワクワクさせられるし、なるべく人を傷付けないよう行動してるから、観客に不快感も抱かせない。  この辺りのバランスが絶妙で、ホントに理想的な「悪党主人公」であったように思えます。   ……先程「悪党主人公」と断ずる事によって気付かされましたが、本作って主人公のマイルズが「刑事を演じている内に正義感に目覚め、罪を悔いて改心する」なんて展開には全くならず、一貫して「悪党」のままであるっていうのも、凄いポイントですよね。  カールソン刑事達とは友情が芽生えているけど、彼らの為にと自首したりはせず、最後もダイヤを持ち逃げしちゃう。  それでも(こいつ、酷ぇ奴だな)とは思わなかったし、鮮やかに逃げ切った姿が痛快ですらあったんだから、もう御見事です。  脚本と演出、どちらも高いレベルにあったからこそ成し得た偉業と、そう呼んでも差し支えないくらい、凄い事だと思います。   一応、欠点も述べておくなら「女っ気も出しておこう」というサービス精神ゆえか「恋人のジャニース」「グリーン弁護士」などを登場させているのは、ちょっと無理矢理な感じで、浮いているように思えた事。  あと、ラストに仇敵のディークを殺す場面は、如何にも恰好付け過ぎで、違和感あった事が挙げられそうですね。  それまでのマイルズのキャラとも合ってないと思うし、事前に「ディークを殺すのを躊躇い、銃を持つ手が震える場面」があったのとも矛盾してる。  監督としては「最後を恰好良く〆て、ギャップに震えさせたい」って意図があったのかも知れませんが、正直ハズしてた気がします。   それと、マイルズとの別れの際にカールソン刑事が「その内、会えるかも」と言ってるのも、ちょっと残念。  続編を意識させるというか、期待を煽るような台詞だったのに、2022年現在「ブルー・ストリーク」の続編は作られていない訳ですからね。  これって、実に残酷な描写だと思います。   本当、今からでも続編を作って欲しいな、再びこの映画の世界に浸ってみたいなと思わせてくれる……  そんな一品でありました。
[DVD(吹替)] 8点(2022-05-05 04:39:24)(良:1票)
30.  ビバリーヒルズ・コップ 《ネタバレ》 
 刑事物における金字塔と言える映画ですね。  こういったジャンルの場合、どうしても主人公二組による「バディ形式」が多くなってしまうものなのですが、本作の主人公は一人。  それだけに、主演のエディ・マーフィの魅力を堪能出来る作りになっていると思います。   と言っても、主演の魅力に頼りっ放しの映画という訳では無く、脇役にも「血が通ってる」と感じさせてくれるのが、本作の特長ですよね。  例えば、冒頭でトラックを暴走させて警察から逃げようとする悪人なんかも、カーチェイスを繰り広げている内に楽しくなって笑顔になる場面があったりして、妙に憎めない。  バナナをタダでくれたホテルの従業員にも愛嬌があるし、画廊で働いてるセルジュにも「3」で再登場するに相応しいような存在感がありましたからね。  勿論「ビバリーヒルズの警官」にあたるタガートとローズウッド達も良い味を出しており、彼らが主人公のアクセルと仲良くなっていく様は、とても微笑ましかったです。   ラストにて、皆で口裏を合わせてアクセルを庇ってみせる場面とか、悪い事をしているんだけど、それによって「仲間としての連帯感」が生まれた事を自然に描いており、観ているこっちまで、その仲間の輪に入れたような気持ちにしてくれるのも、凄く良い。  観客との「秘密の共有」を丁寧に描いているという一点においても、本作は優れた映画だと思います。   そんな本作の難点としては……主人公の行動が「模範的な刑事」とは程遠く、観ている側としても「これは、倫理的にアレコレ言うような映画じゃない」と頭を切り替える必要があるとか、精々そのくらいかな?  あとは、主人公の動機となる「親友のマイキーを殺された仇討ち」に関しても、良く良く考えてみると「金(正確には無記名債券)を盗んだマイキーが悪いのでは?」って思えてきちゃうのは、引っ掛かる部分ですね。  もうちょっとマイキーを「不当に殺された被害者」として描き、自業自得な感じを抑えてくれていたら、もっと素直に主人公を応援出来たかも。   ちなみに、本作は元々シルヴェスター・スタローンが主演する予定だったとの事で、コメディ色を薄めた映画にしたいというスタローン側と制作側とで意見が分かれ、その結果「スタローンなりのビバリーヒルズ・コップ」として「コブラ」(1986年)が生まれたというのも、中々興味深い逸話ですね。  本作は後のエディ・マーフィ主演映画に比べると「親友を殺された仇討ちをするという、ハードボイルドな粗筋」「銃撃戦が意外とシリアスで恰好良い」という珍しい長所を備えているんですが、それって元々はスタローン主演作だったからでは? って思えちゃうんです。  あるいは「48時間」(1982年)の影響かとも考えられますが、そちらでも「仇討ちをする刑事」はニック・ノルティの役でしたからね。  やはり主演の交代劇により「本来エディ・マーフィには相応しくないような映画を、エディ・マーフィが自分色に染め上げている」という、独特の魅力が生まれる形になったんだと思います。   本作は映画史に残る傑作ですが、演者や監督の力だけでなく、そんな「素敵な偶然」も作用した結果、そうなったんじゃないかと思えば、浪漫を感じちゃいますね。  エディ・マーフィの代表作でありながら、エディ・マーフィらしからぬ魅力も味わえるという、何だか御得な一品でした。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2022-04-29 14:59:53)(良:2票)
31.  生きてこそ 《ネタバレ》 
 実話という衝撃が大き過ぎる映画なのですが、単純にサバイバル物として考えても、良く出来てますよね。  完全なフィクションとして提供されても「これは凄い、傑作だ」と唸るくらいに面白い。  本作には「実際に起こった悲劇を風化させない為、後世に伝える為」という制作意図もあったのでしょうけど「観客を楽しませる娯楽映画」としても、立派に成立してると思います。   序盤にて飛行機が墜落する場面も迫力があり、映画としての「掴み」に成功してる辺りにも、感心しちゃいましたね。  他にも「普通の道だと思って足を踏み出したら、実は崖の上に雪が積もっていただけで転落死しそうになる場面」もあったりして、視覚的なスリルを味わえる作りになってる。  「明日救出が来ると勘違いして、配給制にしていたチョコやワインを一気に消費しちゃう」とか「新しいスーツケースを見つけ、その中の歯磨き粉を夢中で貪る」とか、極限状態ならではの可笑しさ、面白さを丁寧に描いている点も良かったです。  最初はギターを弾く余裕があったのに、後に暖を取る為にギターを燃やしてしまう描写なんかも、徐々に状況が切迫してる事を伝える効果があって、印象深い。   それと、実際にあった墜落事故について調べてみると、宗教的な色合いが強く「仲間の遺体を食べる」事が可能だったのは「彼らがキリスト教徒だったから」「聖体拝領という儀式が存在したから」こそと思える感じなのですが、本作はそういった説明を必要最小限に止めてるんですよね。  それによって、キリスト教徒ではない観客にも感情移入させる事に成功してるし、この辺りのバランス感覚の巧みさが、本作を傑作たらしめているように思えました。   主人公格と思われたキャプテンのアントニオが中盤で死亡してしまったり、最初は眼鏡姿で頼りない印象だったナンド・パラードが皆を救う為の脱出行を成功させたりといった具合に、群像劇としての魅力が詰まってる作りなのも良い。  こういったサバイバル物において「誰が生き残るのか分からない」と思える作りになってるのは、物語としての大きな強みですからね。  「前半はアントニオが主役と思わせておいて、実はナンドが主役だったと後半に明かす」「全体を通してメインになる存在としては、医学生のロベルト・カネッサを用意する」という構成にしているのは、本当に上手かったと思います。   捜索が打ち切られた事を「良い知らせだ」「これで自分の力で脱出しなきゃならん事が、ハッキリした」と語る場面や、山を越えた後に更なる山脈が広がってるのを目にしても「歩いてみせるさ」と諦めず前進を続ける場面にも、感動させられましたね。  思えば上記二つの場面とも、主人公のナンドの魅力が光る場面でしたし「途中まで脇役かと思われた人物が、実は主人公である」という変則的な手法なのに納得させられたのは、彼の魅力に依るところが大きいように思えます。   それだけに、そんなナンド達の「奇蹟の脱出行」の描写が短く「絶対無理と思ってたけど、意外と何とかなった」としか思えない描き方になってるのが気になっちゃうんですが……  まぁ「そこに尺を取り過ぎても、冗長になってしまうから」という判断ゆえなのでしょうね、きっと。   ちなみに、本作は群像劇であるがゆえに、ナンド・パラード目線で書かれた「アンデスの奇蹟」(2006年)とは受ける印象が違っており、その差異に関しても興味深いものがありました。  脱出を成し遂げた二人に関しても、本作では「無謀で我の強いナンドに苦労させられる、常識人のカネッサ」って対比になってるのに対し「アンデスの奇蹟」を読んでみると「一途で誠実なナンドと、有能だが毒舌で偏屈なカネッサ」っていうコンビになっているんです。  自分としては後者の方が魅力的に思えたくらいなので、こちらのキャラクター像に合わせた映画も、何時か観てみたいですね。   それと「アンデスの奇蹟」においては「ナンドが旅立つ際に、片方だけ残していった子供靴の由来」「目を保護する為のサングラスの作り方」に関しても詳細な説明が為されており、映画で気になってた部分の答え合わせが行われているのも、見逃せないポイント。  本作は紛れも無い傑作であり、これ単品でも満足出来ちゃう仕上がりなのですが……  原作となったドキュメンタリーの「生存者」(1974年)そしてナンドの自伝と言うべき「アンデスの奇蹟」を併読すると、より楽しめると思うので、オススメしておきたいです。
[DVD(吹替)] 8点(2022-03-24 20:37:51)(良:2票)
32.  ペントハウス 《ネタバレ》 
 「オーシャンズ11」の監督を降板したブレット・ラトナーが、そのリベンジのように撮った映画って印象ですね。   オールスター感は薄めだけど、その分だけ主演のベン・スティラーの魅力が光る仕上がりになっており、個人的には大いに満足。  ビジュアル的に最高に恰好良い彼を収めたフィルムってだけでも、凄く価値があると思うんですよね。  微かに白髪交じりな「老け具合」さえも魅力的に思えちゃうし(この人、恰好良い歳の取り方してるよなぁ……)って、惚れ惚れしちゃいました。   ストーリーとしては「善人が泥棒になる話」であり、中々感情移入し難いはずなのですが、その点を上手く仕上げている辺りも、お見事。  「大金を盗んで楽に暮らしたい」なんていう身勝手な動機ではなく「皆の年金を取り戻す」という目的がある為、主人公のジョシュを自然と応援したくなるんですよね。  そもそも皆の年金が失われたのは「ジョシュが悪人のアーサー・ショウを信頼して、金を預けてしまったから」なので、一種の贖罪行為になってるという点も上手い。  この辺り、ジョシュに全く咎が無いとなると「無償で皆を救おうとする聖人」タイプの主人公になってしまい、ちょっと鼻白んじゃいますからね。  自殺未遂したレスターに同情している、と言い張るアーサーに対し 「……じゃあ、何故レスターが無事か訊かない?」  と静かに問い返す場面も印象的であり、彼の犯行動機が「自分の為」ではなく「他人の為」である事が伝わってくる、良い場面だったと思います。   上述の台詞もそうなんですが、この映画って「如何にも名台詞って感じではない、さりげない台詞が凄く良い」って特長があるんですよね。  特に終盤にて、何とか助かろうと取り引きを持ち掛けるアーサーに対し、主人公達が「チップは頂かない決まり」と答えるのも恰好良くて、痺れちゃいました。  そういった会話劇としての魅力だけでなく「宙吊りの車に掴まって、高層ビルから落ちそうになる」っていうスタント場面もあったりして、視覚的に分かり易い魅力も備わってるし、本当にバランスの良い映画だったと思います。  序盤にて、こっそり司法試験の勉強してたジョシュの部下が、いずれジョシュを助けてくれる展開なんだろうなと思っていたら、やっぱりそうなったって辺りも、実に気持ち良い。   一応、難点も挙げておくなら……  副主人公かと思われた泥棒のスライドが、全然活躍しなかった事が該当するでしょうか。  活躍しないだけなら、まだ良いんだけど「ジョシュとの間に絆が生まれてるように思えなかった」っていうのが、何とも寂しかったですね。  例えば、金を独り占めしようと銃を向ける場面にて、幼馴染であるジョシュとの子供時代を思い出し、結局撃てなくて悪態をつきながら銃を下ろすとか、そういう場面があれば、もっと印象も違ってた気がします。   後は、そもそもの犯行計画が杜撰過ぎるって点も該当しそうだけど……まぁ、この点に関しては「アーサーを終身刑にした代わりに、主人公も窃盗罪で二年ほど服役する」という相討ちに近い結末だった為、さほど違和感は抱かずに済みましたね。  特に悩んだりもせず、淡々と「クィーンを犠牲にする」事を決意した辺り、いざとなったら自分が全ての罪を背負って逮捕されるって、最初から覚悟の上だったんだと思われます。   ラストにて、屋上のプールに隠してた車を取り出す爽快感も素晴らしいし……  色々欠点があるのを承知の上で、それでもなお「傑作」と呼びたくなる。  ベン・スティラーの代表作の一つとして、彼を好きな方には、是非オススメしたいです。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2022-01-12 17:54:23)(良:2票)
33.  いとこのビニー 《ネタバレ》 
 記念すべき500本目のレビューだから、明るく楽しい気分になれる映画が良いなと思い、本作をチョイス。   良く考えたら作中で死者も出ているし、何もかも全てハッピーエンドって訳ではない品なのですが……  久々の鑑賞後には(やっぱり、これを選んで良かった)と、しみじみ感じる事が出来ましたね。  そのくらい、終盤の逆転劇が痛快。  「被告人の無罪を証明する」という、裁判物ならではのカタルシスを、存分に味わう事が出来ました。   「ツナ缶の万引き」「アメリカ南部への偏見」などの要素によって、無実のはずの若者二人が殺人容疑を掛けられてしまう流れを、丁寧に描いている点も良いですね。  (そりゃあ犯人と誤解されるよ)(嫌な印象を持たれて当然だよ)って感じで説得力があるし、それでいて若者二人を嫌いにはなれないという、そのバランスが絶妙だったと思います。   他にも「ヒロインのリサは車に詳しい」「ビニーは裁判に不慣れなだけで、本当は賢い」という伏線が、序盤から張られている事にも感心しちゃうしで、作りが丁寧なんですよね。  裁判で無罪を証明する事が、そのまま真犯人の逮捕に繋がる形になってる点も、とても好み。  裁判物では「無罪は証明出来たけど、真犯人は不明のまま」ってオチの品もあったりして、モヤモヤさせられた経験があるだけに、本作は後味スッキリで気持ち良かったです。   食堂のメニューが「朝食」「昼食」「夕食」の三つしかない、という場面なんかも、妙に好きですね。  こういうさり気ないユーモアって、御洒落だなって思えます。   それと、自分が一番お気に入りなのは、煉瓦とトランプの喩え話の件。  ここって「ビニーは頭の良い人間である」と示すだけでなく「ビニーは本当に、ビルの無実を信じてる」事を描いた場面でもあるんですよね。  「お前は、無実なんだから」という一言が、凄く恰好良い。  作中において、一瞬たりとも「ビルが犯人かも知れない」と疑う場面が無い事も含め、この「被告の無実を心から信じてる弁護士」という描き方は、本当に良かったです。  弁護士にとって一番大切な事は、何よりもそこなんじゃないかと思えました。   そんな本作の難点を挙げるとすれば……  最後の最後、マロイ判事に助けてもらう形になったのは恰好悪かったとか、精々そのくらいかな?    いずれにせよ、数ある裁判映画の中でも、特にお気に入りと呼べそうな一本ですね。  何時か、1000本目のレビューを書く時が訪れた際には、この映画に負けないくらいの傑作をチョイスしたいものです。
[DVD(吹替)] 8点(2021-07-09 20:39:23)(良:3票)
34.  アメリカン・パイパイパイ! 完結編 俺たちの同騒会 《ネタバレ》 
 初代主人公のジム・レヴェンスタインが復帰した、記念すべき一品。   そんなジムだけでなく、他にもオールスターな面子が揃っており、特に「3」の結婚式で不在だったオズまで駆けつけているのが、嬉しくて仕方無かったですね。  初代のヒロイン勢も全員揃っているし、シャーマンにジェシカといった脇役陣まで集結しているんだから、もうそれだけで感激。  シリーズのファンにとっては、最高のお祭り映画だと思います。   妻のミッシェルは、おばさんになってもキュートだし、息子のエヴァンも可愛いしで、そんな主人公一家の姿を描いた冒頭部だけでも、楽しくなっちゃいましたね。  この後、ジムは隣に住んでた女の子のカーラに迫られ、不倫を犯しそうになる訳だけど「妻と息子の為にも、裏切れない」と誘惑を拒むジムの姿に説得力があったのは、それくらい「妻も息子も可愛い」んだって分かる場面が、事前に用意されていたお陰だと思います。   シリーズ皆勤賞となるジム父の使い方も絶妙で、ジムが「昔、愛読していたエロ雑誌」を懐かしそうに読んでいる後ろで、すいーっと部屋に入ってくるだけでも面白いんだから、もう脱帽。  途中、ジムの母が死去していたと分かり、しんみりしちゃう一幕もあったんだけど……  そこで暗くなり過ぎず「ジムの父に、デート相手を探してあげよう」っていう、明るい展開に突入するのが、如何にもこのシリーズらしくて良かったですね。  紆余曲折の末、最終的にはスティフラーの母とデートする仲になるってのも面白い。  フィンチが二人の関係を知った時、どんな反応を示すのか、気になって仕方無いです。   他にも「初代でスクーターに乗っていたフィンチが、颯爽とバイクで登場する」とか、シリーズのファンならニヤリとさせられる描写が多くて、良い意味でサービス精神豊富な映画だったと思いますね。  上述のジムに関してもそうなんですが「浮気」「不倫」といった関係に発展しそうになっても「男が勇気を出して断る」「今の恋人が、実は酷い奴だったと分かる」って答えに着地する為、罪悪感とか、不快感とかを抱かずに観られるんです。  これ、何気無い事かも知れないけど、凄く大事だと思うんですよね。  作り手にとっての「サービス精神」とは、観客を喜ばせる為の「プラスを生み出す配慮」だけでなく、観客を失望させないという「マイナスを防ぐ配慮」も指すんだなって、感心させられるものがありました。   後半、高校時代の「将来の夢」について話す場面では、大人の青春映画ならではの感動があったし 「妥協して生きてるのも、つまらない仕事してるのも、みんな同じだよ」 「恥と思う必要なんか無い」  という劇中の台詞には、本当にグッと来ちゃいましたね。  皮肉な目線で見れば、そんなの「負け犬達の慰め合い、傷の舐め合い」に過ぎないのかも知れないけど……  傷を舐め合える仲間がいるって事は、とても素敵な事なんじゃないかと思えました。   ジムが朝目覚めると、下半身裸で昨夜の記憶が無くなっていたという「ハングオーバー!」っぽい場面は、あまり意味が無かった事。  心臓発作を起こしたボブが無事かどうか、作中でハッキリ言及して欲しかった事など、欠点というか、気になる点も幾つかあるにはあるんですが、もうホント、そんなのどうでも良くなっちゃうくらいに楽しかったですね。   クライマックスには、スティフラーの母に負けないくらい美人なフィンチの母が登場し、スティフラーと結ばれるサプライズ展開もあったりして、下世話なネタのはずなのに、つい笑っちゃいます。  エンドロールにて、高校時代の写真や結婚式の写真が流れるのも、本当に素敵な演出で……  「時代が変わっても、五人はずっと仲間のままなんだ」と、しみじみ感じさせてくれました。   本作のパッケージを眺めてみると、そこには邦題で「完結編」なんて書かれている訳ですが、劇中では再会を誓う乾杯で終わっているし、自分としても是非続編に期待したいですね。  出来るなら、息子のエヴァン君が小学生か中学生、自慰を始めるくらいの思春期まで成長し、父親であるジムが戸惑いつつも一緒に成長するような……  かつてのジム父と同じように、今度はジムが息子を優しく見守り、助言を与えてあげるような、そんな「良い映画」であって欲しいものです。
[DVD(吹替)] 8点(2020-05-16 09:01:18)(良:1票)
35.  アメリカン・サマー・ストーリー 《ネタバレ》 
   初代では自慰の現場を両親に見られたのに対し、本作では女性と本番真っ最中な姿を見られてしまうっていう導入部が凄いですね。  こういう形で「前作よりパワーアップした事」を伝えてくれちゃう映画って、ちょっと他には思いつかないです。   そんな下ネタ部分だけではなく、青春映画としてもしっかりパワーアップしており「夏休みの楽しさ」を存分に感じられる内容になっているのが嬉しい。  前作で宙ぶらりんだったジムとミッシェルの関係に、きちっと決着が付いている点も良いですね。  「主人公の恋路を応援してくれる女友達」枠が好きな自分としては、実に好みな展開であり「憧れのマドンナ」枠のナディアではなく、ミッシェルと結ばれると分かった時には、思わずガッツポーズ取っちゃったくらい。  二人の関係性という意味では、前作からの繋げ方が強引だし、初見の際には(ミッシェルって、こんなに良い子だったの?)と戸惑う気持ちもあったりしたんですが……  何度目かの鑑賞となった今回は、そんな違和感も消え去り、素直に祝福する事が出来ました。   愛する彼女が出来たお陰で、すっかり真面目になったオズの変貌っぷりも面白かったし、前作にて「人生で一番楽しいのは、今だよ」と語っていたケビンが、高校時代の思い出に囚われる事から脱して、大人へと成長してみせる流れも良い。  アメリカン・パイシリーズって、基本的には能天気なコメディなんだけど、青春ドラマとしても良質なんだって事を、オズやケビンが証明してくれた気がしますね。  ケビンを励まし、夕暮れの中、主人公四人組のシルエットが並んで歩く場面にも、本当にグッと来ちゃいました。    そんな主人公達だけでなく、振られたナディアに、憎まれ役のシャーマンなど、脇役陣にも優しい眼差しが注がれており、それぞれを幸せな結末に導いてくれるのも、本作の長所ですよね。  シリーズ通してのMVPと呼べそうな「ジムの父」も、存分に存在感を発揮しており「息子想いだが、どこかズレてる」感じが、面白くって仕方無かったです。  病院でのやり取りには笑わせてもらったし、その後、気まずい思いをしているジムに対し「お前は自慢の息子だ」と優しく伝える姿なんかも、凄く好き。  笑いと感動の緩急があって、二つの要素が、互いを引き立て合う効果があったと思います。   賑やかなパーティーが終わり、これで「めでたし、めでたし」かと思われたところで、スティフラーのママが颯爽と登場して〆てくれるのも、お約束な魅力があって良いですね。  (そう来なくっちゃ!)とテンション上がったまま、笑顔のままで、エンドロールを眺める事が出来ました。   学生時代を卒業し、大人になった後も、夏が来る度に観返したくなる。  クライマックスとなる告白シーンだけでなく、皆で別荘に向かう場面や、だらだらとトランプ遊びしたりする場面を、もう一度観たくなる。  理想の「夏休み映画」と呼べそうな、良い映画です。
[DVD(吹替)] 8点(2020-05-16 08:34:52)(良:1票)
36.  裏窓(1954) 《ネタバレ》 
 これ、話の根幹となるサスペンス部分よりも「他人の生活を覗き見する」という枝葉の部分の方が、よっぽど面白い映画ですよね。   なんせ前者に関しては「隣人が殺人犯じゃないかと疑ったら、本当にそうだった」というだけなので、今観ると新鮮味が無いというか、予定調和過ぎて楽しめないってところがあるんです。  でも、後者に関しては今でも斬新だし、普遍的な魅力があると思います。   自分が特に好きなのは「ベランダに布団を敷いて、仲良く眠るカップル」の描写ですね。  このベランダがまた、本当に布団を敷くのにピッタリなサイズというか、絶妙な手狭さで(良いなぁ……このベランダで、布団敷いて眠れたら楽しいだろうな)って、そんな風に思えちゃうんです。   飼い犬を籠に乗せ、それをエレベータのように地面に下ろす描写も、凄くミニチュア的な魅力があって好き。  もし、自分に模型作りの腕前があったら、きっとこの「裏窓の世界」を再現していたんじゃないかって気がします。   第二のメインストーリーと呼べそうな「孤独な女性」の描写も、凄く良いですよね。  殺人犯に関しては(どうせ逮捕されて終わりだろうな)と達観して観ていられたけれど、彼女に関しては本当にどうなるか読めなくて、自殺エンドも有り得るのではと思えただけに、作曲家の男性と結ばれ、幸せな結末を迎えてくれたのが、本当に嬉しかったです。  ラストシーンに関しては、バレエダンサーのトルソ女史も恋人と再会出来て、全体的にハッピーエンド色が強めな中「夫を詰る妻」という、新たな波乱を予感させる一コマも挟んでいるのが、ヒッチコックらしいシニカルさで、クスッとさせられましたね。  もしや、些細な口喧嘩から第二の殺人に発展する可能性もあるのでは……と思えるし、主人公が窓の外に興味を失くした後も、自分としては、もっともっと「裏窓の世界」を眺めていたくなっちゃいました。   それと、本作は細かい部分が丁寧に作られている点も、忘れちゃいけない魅力ですよね。  「窓を開けっ放しのままで犯行に及ぶ訳が無い」とヒロインや刑事に言わせて、主人公の話を中々信じてもらえない理由にしている辺りなんて、特に上手い。  この映画の仕組み上、どうしても「犯人は何故か窓を開けたままにしている」っていう不自然さを押し通さなきゃいけない訳で、それについて全く言及しないのではなく、むしろ率先してネタにして「だから主人公は信用してもらえないのだ」という形で活用してみせたのは、本当に見事だと思います。   裏窓からの視点に固定されている為、さながら舞台を眺めているような趣があるのも、特別な映画って感じがして楽しい。  女性が飼い犬の死を嘆き「ここで誰からも好かれてたのは、この子だけ」「だからなの? 妬ましいから殺したの?」と訴える様も、如何にも舞台劇といった感じでしたよね。  この辺りは、ヒッチコックも意図的に舞台っぽい物言いにさせたのかな、と思えました。   わざとらしいBGMを流さず「近所の作曲家の演奏が聴こえてくる」って演出にしているのも上品だし、視点が固定されているがゆえの「一方的に覗き続けていた相手と、目が合ってしまう」場面の衝撃も、実に良かったです。   そんな本作の短所はといえば……  肝心の主人公カップルには魅力を感じなかった事。  犯人と対決するクライマックスが、全然盛り上がらなかった事。  この二点が挙げられるでしょうか。   こうして書くと(いや、それって重大過ぎる欠点でしょ)(主人公達に魅力が無くて、クライマックスが盛り上がらない映画って、本当に面白いの?)って、我ながら不思議に思えてくるんですが、それでも間違いなく面白いし、傑作なんですよねコレ。  幹は細く頼りなかったとしても、枝葉が豊かに茂っていて、美しい樹木として成立している感じ。   鑑賞後も「裏窓から見える、小さな世界」が懐かしく思えて、何度でも再見したくなるような……  そんな、愛らしい映画でありました。
[DVD(字幕)] 8点(2020-04-27 08:01:51)(良:2票)
37.  ラッキー・ガール 《ネタバレ》 
 「ラブコメなんて女子が観るもの」という考えだった自分に「ラブコメって、こんなに面白かったのか!」という衝撃を与えてくれた、記念すべき一本。   久々に再見してみると、非常にシンプルな作りであり(ありがちなラブコメでしかなくて、際立った傑作という訳ではなかったんだな)と、寂しい想いに駆られたりもしたんですが……  それでもなお、本作が「面白い映画」「好きな映画」である事は揺らぎませんでしたね。   主人公アシュレーを演じるリンジー・ローハンは魅力的だし、後にカーク船長となるクリス・パインが、彼女と対になる「とことん不運な彼氏」のジェイクを演じているのも面白い。  思えば、この映画を初めて観た頃の自分って(ラブコメ映画に出てくる彼氏役ときたら、男の自分には嘘臭くて耐えられないような奴ばかり)っていう偏見があった気がするんですよね。  でも、本作のジェイクには自然と感情移入出来たし(良い奴だなぁ……幸せになって欲しいな)と応援する気持ちになれたんだから、これって凄い事だと思います。   脇役も充実しており、ジェイクの隣に住んでる幼女のケイティなんて、特にキュートでしたね。  アシュレーが不運になっても決して見放したりせず、一緒に同居生活を送ってくれる女友達の存在も、実に好ましい。  ボウリング場で慣れない仕事を頑張る場面や、洗濯室で泡まみれになって戯れる場面など、昔観て(良いな)と思えた場面に対し、今観ても同じようなトキメキを感じられた事も嬉しかったです。   ラストの「二人同時にケイティにキスをする」という解決法も(そう来たか!)という感じで、意外性があって良かったですね。  今後の主人公カップルは、不運続きな人生になってしまうかも知れないけど、ケイティが傍にいて支えてあげれば大丈夫じゃないかなーって思えるし、ちゃんとハッピーエンドと呼べそうな雰囲気で終わっているのが嬉しい。  再び人生の岐路に立たされるようなイベントが起こったら、ケイティからキスしてもらって一時的に幸運を授かり、事を済ませた後に再びキスしてケイティに幸運を返す、なんて日々を送ってそうな気もしますね。   あえて難点を挙げるとすれば……「会議のプレゼンが成功」とか「車に轢かれても平気」とか(それって運が良いだけで済む話なの?)と思えてモヤッとする場面があるとか、それくらいでしょうか。  あとは、クライマックスの演奏シーンで、もっと盛り上げてくれていたら、文句無しの傑作と呼べていたかも。   思春期の頃、この映画と出会っていなかったら、ラブコメを好きになれないまま、多くのラブコメ映画を楽しめないままだったかも知れないなと思えば、ちょっと身震いするような気分になりますね。  そういう意味では、とても特別な映画ですし、忘れ難い一品です。
[DVD(吹替)] 8点(2019-11-28 18:50:03)
38.  きみがくれた未来 《ネタバレ》 
 こんなに可愛くって、しかもレッドソックスのファンな弟がいるだなんて、全くもって主人公が羨ましい。   一応、本作には女性のヒロインも登場しているのですが、明らかに「男女のロマンス」よりも「兄弟の絆」を重視した作りになっていますよね。  大人な自分としては、自然に兄の側に感情移入し (こんな可愛い弟がいたら、そりゃあ楽しいだろうな)  と思えた訳ですが、多分コレ、幼い子供が弟の側に感情移入して観たとしても (こんな恰好良いお兄ちゃんがいたら、きっと楽しいだろな)  って思えたんじゃないでしょうか。  そのくらい「理想の兄弟像」が描けていると思うし、兄を演じたザック・エフロンも、弟を演じたチャーリー・ターハンも、素晴らしく魅力的だったと思います。   「主人公は幽霊と会話出来るし、触れ合う事も出来る」という設定の使い方も上手かったですね。  特に序盤の、サリバン中尉殿とのやり取りなんて、凄く好き。  出征して戦死した友人に対し「俺も一緒に行けば良かった」と悲し気に訴える主人公と「来なくて良かったんだ」と笑顔で応え、静かに立ち去る友人。  ベタなやり取りなんだけど、じんわり心に沁みるものがあって、とても良かったです。  「実はヒロインも幽霊だった(正確には、仮死状態による生霊?)」というドンデン返しについても、彼女が墓場で眠っていたという伏線なども含めて、鮮やかに決まっていたんじゃないかと。   それと、この映画って「何時までも死者に囚われていないで、前を向いて生きるべき」という、ありがちなテーマを扱っている訳だけど、それがちっとも陳腐に思えなかったんですよね。  何せ本作においては「主人公は幽霊と会話出来るし、触れ合う事も出来る。たとえ幽霊でも弟と一緒にいれば、弟が生きていた時と何も変わらない、楽しい日々を過ごせる」という設定な訳なのだから、主人公が世捨て人のような暮らしをしていても納得出来るし、自然と感情移入出来ちゃうんです。  この手の映画の場合、いつまでもウジウジ悩んでいる主人公に共感出来ず、むしろ主人公を励ます側の目線で観てしまう事が多い自分ですら、本作に限っては完全に主人公側の目線で観る事が出来た訳だし、これって何気に凄い事なんじゃないでしょうか。  「良くあるタイプの映画でも、設定や描き方に一工夫加える事によって、独特な味わいになる」例の一つとして、大いに評価したいところです。   弟とのキャッチボールに、恋の悩み相談、雨の森ではしゃいで遊ぶ姿なんかも非常に楽し気に描かれており  (このままずっと、兄弟一緒の世界で生きていくのも、それはそれで素敵な事じゃないか……)  と思わせる作りになっているのも、凄いですよね。  「死者に囚われて生きる事」を決定的に否定するような真似はせず、むしろその生き方の魅力を存分に描いておいたからこそ、終盤における主人公の決断「弟と共に過ごす日々よりも、愛する女性の命を救う事を選ぶ」行為にも重みが出てくる訳で、この前後の繋げ方は、本当に良かったと思います。   約束の森で、一人ぼっちになった弟が「兄は自分よりも大切な存在を見つけたんだ」と悟ったかのように、寂しげに立ち去るも、恨み言などは一切口にせず「お兄ちゃん」「好きだよ」と呟いてから消えゆく様も、本当に健気で……観返す度に瞳が潤んじゃうくらい。  ラストシーンにて、以前のように会話する事も、触れ合う事も出来なくなってしまった兄弟が「それでも、何時かまた会える」「会えない間も、いつまでも俺達は兄弟だ」と約束を交わす終わり方も、凄く好きですね。   冷静になって考えてみると、肝心のヒロインには魅力を感じなかったとか、弟がお兄ちゃんにしか執着してないので両親の置いてけぼり感が凄いとか、色々と難点もある映画なんですが……  眩しいくらいの長所の数々が、それらを優しく包み込んで、忘れさせてくれた気がします。   「面白い映画」という以上に「好きな映画」として、誰かにオススメしたくなる一品でした。
[DVD(吹替)] 8点(2019-11-07 06:36:42)(良:1票)
39.  リトルデビル 《ネタバレ》 
 明らかに「オーメン」(1976年)の亜流作なのですが、単なる模倣で終わらず「たとえ悪魔であろうと、我が子である以上は守ろうとする主人公」という物語に昇華してみせたのが、お見事でしたね。   中盤までは「義子のルーカスが悪魔であると知り、殺そうとする主人公」という「オーメン」そのまんまな展開であっただけに、途中で主人公が思い直し、全く違った方向性へと舵取りするのが、実に痛快。  監督は前作の「タッカーとデイル」でも、王道スプラッター映画をパロった上でハッピーエンドな着地を迎えてみせ(そう来たか!)と唸らせてくれたものでしたが、本作もそれに近しい魅力を備えており(やっぱりイーライ・クレイグ監督の映画は良いなぁ……)って、しみじみ感じさせてくれました。  2019年現在、僅か二本の映画しか発表していない寡作の人というのが、非常に惜しまれます。   配役も絶妙であり、特に子役のオーウェン・アトラスは「無表情だと不気味なのに、笑うと可愛い」というルーカス役を、見事に演じ切っていましたね。  この映画のストーリー上、主人公だけでなく観客にも「ルーカスは不気味に思えたけど、実は可愛くて良い子なんだ」と感じさせる必要がある訳なのですが、その点に関しては、文句無しでクリアしていたと思います。  プールで父子が仲良くなる件も微笑ましかったし、笑顔を見せる場面では、主人公同様に観ているこっちまで(笑うと、こんなに可愛かったのか……)と、ドキッとしちゃう。  アイスを舐めながら、主人公の事を初めて「パパ」と呼ぶ姿なんて、もう抱きしめたくなるくらいに愛らしかったです。   レズビアン(?)な同僚のアルも良い味出してるし、出番は少なめながら、主人公の妻に女性としての魅力が感じられた辺りも嬉しかったですね。  モンスタートラックや、最優秀パパのボールなど、伏線の張り方や、回収の仕方も鮮やかだったと思います。   主人公自身が「父親に捨てられた」という過去を持っている為、ルーカスに幼少期の自分の姿を重ね合わせ、自然と心を開いていく流れにしたのも上手い。 「お前の本当の父親が誰でも関係無い」 「お前はお前だ。何時だってなりたい自分になれる」  という台詞は、ルーカスに語り聞かせる以上に、自分に言い聞かせる効果もあったんだろうなと、自然と納得する事が出来ました。  主人公が「息子殺し」な自分ではなく「息子を守ってみせる」自分になる事を選ぶ展開にも繋がっている訳で、この辺りの脚本は、本当に巧みだったと思います。  「義理の父親です」という、ルーカスの父親である事を間接的に否定する台詞を何度も繰り返しておいた上で、クライマックスにて「絶対に離さない、お前の父親だから」と主人公に言わせる構成にも、グッと来ちゃいました。   難点としては、意味ありげな双子の少女が、本筋に絡まず終わってしまうのは寂しい事。  ルーカスの言葉で飛び降り自殺を図った理科教師が、どう見ても死んでるので、入院くらいで済ませた方が良かったんじゃないかと思えた事。  終盤に集結したパパ友が全く活躍しておらず、存在意義が感じられなかった事とか、その辺りが挙げられそう。   それと、プールでルーカスを救う場面では、出来れば「神の啓示」ではなく、完全に自分の意思で助けに飛び込んで欲しかったなと思えたのですが……  これに関しては、何度も観賞している内に(たとえ神様から「見殺しにしろ」と命じられても、主人公なら助けたはずだ)と、次第に考え方が変わってきましたね。  上述の「なりたい自分になれる」という台詞もありますし「神様のお蔭で、息子を殺さずに済んだ」という訳ではなく「神様は、悩める主人公に助言をしてあげただけ」って事なんだと思います。   父子で出場した丘下りレースにて「スピードを出し過ぎるな」と言われても聞き入れず、笑顔ではしゃぐルーカスの姿を映し出し(やっぱりこの子、悪魔だな……)って感じさせて終わるのも、非常に御洒落。  期待値の高い中で観賞したのですが、そんな高いハードルすらも飛び越えてくれた、気持ちの良い一品でした。
[インターネット(吹替)] 8点(2019-09-25 16:53:08)
40.  ホーム・アローン2 《ネタバレ》 
 前作と立て続けに観賞したのですが「バズ君、キャラ変わってない?」と、その事が真っ先に気になっちゃいましたね。  作中で一年経過しているので、思春期の盛りを迎えてより狡猾で気障っぽい性格になったとも考えられますが、主人公のケビンが殆ど変っていないように思えただけに、ちょっと違和感がありました。   とはいえ、そんな「前作と続けて観たからこその違和感」もあった一方で……  1:今度はケビンが置いてけぼりを食らわずに、無事に車に乗り込む。 2:バールをワイングラスの乾杯のようにぶつけ合う泥棒二人組。 3:既に通報した後なのに「警察を呼ぶよ」と挑発するケビン。   などの「前作を観ていればニヤリとする部分」も沢山あったりしたもんだから、やっぱり続けて観て正解だったなと、嬉しくなっちゃいましたね。  ビデオカメラやロケット花火などの小道具を「これ、後で使いますから」とばかりに、序盤にて分かり易く登場させている点も好印象。  たとえ舞台が豪邸から高級ホテルに変わったとしても「映画を観ながらアイスを頬張るシーン」は、しっかり用意されていた辺りも、自分としては大いに評価したいです。   また、前作には無かった本作独自の面白さもプラスされており、中でも空港での「ケビンはいない」という伝言ゲームの件なんかは、かなり好きですね。  カメラワークの巧みさと、大人数のキャストが揃っているからこその、映画的な面白さがある。  ニューヨークを一人で観光する楽しさも描かれていたし、高級リムジンでピザとコーラを味わう場面なんかも、凄く印象的。  中盤には「夜のニューヨークの怖さ」が伝わってくる場面も用意されており、観ているこっちまでケビンと同じように不安になり、ケビンが襲われたり攫われたりしないかと心配になってしまったんだから、この辺の「子供が主役だからこその緊迫感の出し方」は、やはり上手かったと思います。   前作のシャベルおじさん同様「主人公と心温まる交流をする大人」枠もしっかり用意されており、個人的には、その鳩おばさんとの会話シーンが本作の白眉だった気がしますね。  「ハートもローラースケートと同じ。仕舞い込んでいないで使わないと」の例え話には感心させられたし「人間っていうのは誰でも、自分を認めてもらいたいと願っている」というおばさんの言葉が、ラストにて家族の皆から認められるケビンというオチに繋がっている辺りも、凄く綺麗な流れでした。   一度は彼女と別れ「もう二度と会えないかも知れない」と言わせていたくせに、土壇場で彼女が助けてくれたり、最後に再び出会ったりと、二回もサプライズを与えてくれた点も良かったですね。  結果としては前回と同じような展開になった訳ですが、ここは(前回と同じ展開にはすまい)と観客に思わせる誘導の仕方が巧みで、見事に驚かされちゃいました。  シャベルおじさんと違って、鳩おばさんは武器を持ってないから助けてくれる場面が想像し難いってのも、良い煙幕になっていたんじゃないかと。   そんな中「子供病院に寄付する為のお金を盗もうとしたので、懲らしめる」っていう大義名分があるせいか、前作より罠の威力がアップしており、泥棒達が可哀想で笑うに笑えなかったって部分は、欠点だと感じてしまうのですが……  それよりも、長所の方がずっと多かったと思いますね。   前作はひたすら可愛いだけだったケビンが、ちょっと成長して男の子らしい恰好良さを身に付けている辺りなんかも、成長を見守る親のような気分になれて、嬉しくなっちゃう。  「第二次クリスマス大戦、開始」と宣言する姿には、少年兵士のような凛々しさすら漂っていた気がします。   「ニューヨークで一人ぼっち」な寂しさを味わったケビンだからこそ、同じように一人ぼっちな鳩おばさんと友達になれて「もう一人じゃないよ」と伝える事が出来た……  そんな素敵なハッピーエンドに至るまで、楽しい時間を過ごせました。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2018-12-25 23:59:55)
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