1. 黒猫・白猫
《ネタバレ》 良く言えば「生命力あふれる」、違う表現をすれば「カオス」な賑々しさ。人も動物も入り乱れてとにかく元気。若者は恋愛中、オヤジ連中は賭け事や犯罪で一攫千金を目論み、殺人は起こるわ豚は車を食べるわガチョウは群れるわで、ハリウッドや西ヨーロッパ仕様のいわゆる「きちんと感」に慣れた目で観るとかなり強烈です。これが東欧白人のパワーか・・。 本作においてプロ俳優はなんと3名しかいないというではありませんか。本物のロマの人たちの発散するパルス、エネルギーが本作をまるごと包んでます。あんなに歯の弱った役者がアップになる映画はかつて見たことないもんなあ。 力業なんてレベルを超えた、強引なハッピーに次ぐハッピーエンド。呆気にとられもしますが、じわじわときます。笑っちゃいました。 これほどに陽気なエンディングは、監督のバックボーンである故国が苦難の多かったことと影響しているのでしょうか。 ところで、豚がむしゃむしゃと食べていた廃車って、かつて東ドイツで製造されていた‶紙でできた車”なのかな。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2022-10-22 16:24:51) |
2. クラウド アトラス
《ネタバレ》 いや、始まってたっぷり一時間半は何がどうなってんのか、おそらく学生の頃必修物理を受けさせられていた時の顔になっていたと思う。だって六本もあるんだよブツ切りのお話が!「あれ、ええとこの人はどういった描写からスタートしてどこまで行ったんだっけ」と話が切り替わる度記憶を遡らなくてはならないし、その間も話は進むしで、客に親切な作りではないですねえ。ワタシはほぼ根気試しみたくなりました。 でも中盤を過ぎるとようやく外枠を掴めてきます。ソンミの命をかけた想い「きっと誰かに届いている」がそれこそ全六話に通じていたのだと判ったときは感動を覚えますし、彼女の「死はひとつの扉にすぎない」も輪廻をざっくり言い表したフレーズで印象的でした。 けど三時間もの長尺、深遠そうなテーマ、何人分も演じた役者の仕事ぶり、お金のかかってそうな画、と構えがとにもかくにも大仰。残念ながらそれに見合うような鑑賞後の充実感には遠いです。「ああ、そういう仕掛けだったのねなるほど」どまりの感想になってしまうのはなんかねえ、残念ですよね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-03-14 16:41:03) |
3. グランド・ブダペスト・ホテル
きれいな映像に、さっさと展開する良すぎるほどのテンポ、どことなく常識とのズレを感じさせるシュールな感性等、おそらくこの監督にしか作れない世界観であろうと思う。ウマが合うか合わないか、ですな。私はコメディ部分のさじ加減にちょっと乗れなくて、特に終盤の雪山の場面はあまりにカトゥーン過ぎて興ざめしてしまった。それにこんなにもインパクト”強”の有名俳優ばかりってのも話のバランス的にどうなんでしょう。ジュード・ロウが主人公となって話を回してゆくんだな、と誰だって期待するわ。レイフ・ファインズがコメディもそこそこできる、って発見はできたんだけどな。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2017-05-25 23:31:11) |
4. グッバイ、レーニン!
《ネタバレ》 国家によって台無しにされた個人の人生を描いているけれど、重たくならず場面によってはコミカルに描いているその筆致に感服する。 どの人物も(脇に至るまで)きちんと人間が描かれていることに脚本の良質なことを感じる。母のために献身的にがんばる息子ダニエル、それよりちょっと現実的な姉、彼ら家族を生暖かく見守る周囲の人々と。 お母さん、大変な人生でしたね。幼子を連れてすでに当局に目をつけられている夫のもとへ亡命するなど、怖ろしくて勇気を奮い起こすことなど容易ではなかったことでしょう。反動で共産活動に精を出す、その気持ち分からなくもないです。こつこつ貯めた貯金が価値を失くしても、こんなにも愛のある息子さんが育ったではないですか。 人生の去り際に、わが子のしたことを悟って息子を見つめる母の眼差し。世の中の真実を知っても、皆が心配したようにお母さんは壊れたりしなかった。母の愛は真に強く優しい。 統一後の東側の混乱ぶりを市民目線で知るのは初めてで、勉強にもなった。道路わきに積まれた古い家具、(それもすぐには回収に来ない)我慢に我慢を重ねてきた市民らの思いの象徴のようだった。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-09-03 00:05:04) |
5. クラッシュ(2004)
《ネタバレ》 人の心の奥深さや矛盾をうまいこと突いてくるなあと思った。人の心は多面体、誰でも黒い面、白い面をちょっとずつ持っている。終わりのないスパイラルの様な差別や憎悪を前にして立ちすくみそうになるけど、その上で映画としての回答を控えめに出してみせている。人物みな存在感あるけれど、差別主義をおおっぴらにしていたM・ディロンと、彼に不快感を感じ袂を分かつ二人の警官のエピソードが強烈に皮肉が効いていた。ちょっと呆然とした。この映画が用意したのは空砲を選んだペルシャ人の娘。武器を最初から放棄した彼女の選択こそが女の子とその家族、自分の父親をも救うことになった。社会の片隅で、確実にほぐれた偏見の一端。見事なエンディングだったと思います。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-08-14 15:54:49) |