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no oneさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 487
性別 男性
ブログのURL https://www.jtnews.jp/blog/23806/
年齢 41歳
自己紹介 多少の恥は承知の上で素直に書きます。

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21.  田園に死す 《ネタバレ》 
さすが詩人だけあって、タイトルがいいですね。  田園風景に突拍子もないアイテムを放り込んで、それを違和感なく調和させるセンスがすごい。狂気の世界でありながら独自の秩序を持ち、不思議に整然としている。下北半島を「まさかり」に見立てて、青森県のかたちを「人の首を切り落とす瞬間」だという発想なんて、完全に逝っちゃってる。鈴木清順とはまた違ったおどろおどろしさがあり、寺山なりの世界観が確立されている。天才的に狂っている。  明らかに異次元の世界ではあるけれど、それを通して日本の土俗的精神の本質ともいうべきものを浮き彫りにしているように思った。田舎の人間=心の温かい人間とステレオタイプにいわれがちだけど、日本でもっとも自殺率の高い県ワースト3が東北の三県だったりするように、強固な農村共同体によって苦しめられてきた人々は少なくない(自分も東北の出身だから遠慮なくいわせてもらう)。寺山修司はそうした田舎の暗部を鋭く抉っているように思える。異様な世界観ではあるが、むしろ現実を端的に表した結果としてそうなったのだろう。  母子関係という中心的な題材には共感しにくかったが、最後の独白にはそれなりに胸を揺さぶられた。幻想のなかでなお、寺山を支配する人間関係という呪縛。地方の因習にも似た歪んだ精神の戒律が、彼をがんじがらめにして離さない。マザーコンプレックスについてはともかく、そうした人間同士の「呪」のあり方は理解できるように思った。
[ビデオ(邦画)] 8点(2007-02-27 23:34:42)
22.  砂の器 《ネタバレ》 
泣ければいいってもんでもないでしょうが、さすがにこれは泣きました。加藤嘉のあの腹の底から搾り出すような慟哭シーンには胸を揺さぶられます。一件の地味な殺人事件から人の抱える業、日本社会の暗部が浮き上がってくるプロットは見事の一言。終盤の音楽とともに犯人の過去、刑事たちの捜査をつなげてみせる演出もほんとうに上手かった。久しぶりにとても見応えのある、重厚な人間ドラマを観た気がします。
[DVD(字幕)] 8点(2007-01-22 23:24:25)
23.  アカルイミライ 《ネタバレ》 
この作品で特異なのは、仁村があんな性格になってしまった背景や、有田が人を殺した動機が、最後まで明確にされないところだと思う。普通であれば崩壊した家庭だとか幼児虐待の過去とかをおざなりにでも付け足して、とりあえず説明をつけてしまうもの。しかしあえて一切説明しないことで(そもそも明確に説明できる類のものではないのだが)、作品の深みはいっそう増しているように思う。当然有田の父も仁村のことは一切わからないわけだけど、それでも仁村を抱きしめて「許す」と言う。その一言の大きさ、重さが印象に残った。  現代的でスタイリッシュな映像が心地良い。ちなみにオダギリジョーと浅野忠信の服装は映画の雰囲気を作るのには一役買っていたけれど、キャラクター的にはズレがあったような気がした。無気力で投げやりで、性欲も感じさせないようなさばさばした若者が、あんなにおしゃれでかっこよくいられるはずがないだろう。  タイトルが最後の最後に出るのもよかった。いちおうの着地点を見つけた仁村とは違って、あのぶらぶら歩く高校生たちの“明るい未来”がこれから始まる――というか、彼らはそれを見つけ出さなくてはならないんだなと思った。未来に向かう結末は、陰惨な作品にびっくりするほど爽快な後味を添えている。   むしろこの映画全体が、“アカルイミライ”のためのプロローグだったのかもしれない。
[DVD(邦画)] 8点(2007-01-03 22:59:47)
24.  かもめ食堂
「フィンランド人ってなんでゆったりしているのかしら」という疑問に対してフィンランド人が、「森がありますから」と答える場面がある。で、実際に森に行ってみて、たいしたできごともなく、せっかく採ってきたきのこも落としてしまったのに、「よかったわぁ」と満足できてしまう。この映画全体が、そんな存在だった。  劇的なドラマもなく、人生の深遠に対する考察もない。だけど単純に居心地が良くて、忘れ難くて、またいつか観返してもいいかな、と思えた。「世界の終りに何をするか」という問いに対して、「好きな人たちとおいしいものを食べる」と答えられる単純さ、素晴らしさ。そうそう、なんだかんだ言ってそういうことが一番大切なんですよね。ありふれた日常の価値を噛みしめる力というものが。  役者さんがまた良い。ちょっと失礼な言い方ですが、これが美女三人組であればこうは行かなかったでしょう。片桐はいりの外見はたくましくて内面は繊細すぎるというキャラクターは、なんだかムーミン谷の住人を思い起こさせる。脇役みんなにも言えることだけど、これといった長所もなくむしろ欠点の方が目に付くのに、妙に可愛らしくて魅力的だったりする。不完全なものに対してあれこれ批評するわけでなく、やんわりと受容してしまう大らかな空気がある。  毎日が多忙で鬱病になりかかっているような人におすすめ。森林浴をするように安らげる作品です。
[DVD(邦画)] 8点(2006-12-16 10:46:57)(良:1票)
25.  コーヒー&シガレッツ
こういう作風は苦手だな、と思い込んで敬遠していたけれど、なかなかどうして面白かった。普段は時間を無駄にしないことにかりかりしている自分のような人間が、時間を無駄にすることの楽しさを描いた作品を楽しめたのは意外だった。コーヒーにスプーンを突っ込んでかちゃかちゃかき回す音までが心地よい。人によって合う合わないの差が大きいようだけど、合う人はとても幸せな気持ちになれるだろうと思う。
[DVD(字幕)] 8点(2006-11-22 12:20:05)
26.  切腹
深い分析は皆さんにお任せして軽いことを言わせてもらいますが、とても「かっこいい」作品ですね。個人的には時代劇は苦手で、情念の濃い、野暮ったさと紙一重の熱さが好きになれないのだけど、その点この映画に関してはとてもクールで、ドライな描き方だと思う(かといって人間ドラマがなっていないというわけではない)。演歌調というよりは暗鬱なブリティッシュ・ロック的な。冒頭の音楽なんかは明らかに日本の伝統楽器を用いているのに、どことなくグランジっぽいし、直線で区切られることの多い武家屋敷の映像は日本的な美とは真逆の冷徹さを感じさせる。「スタイリッシュ」という形容詞の似合う時代劇はとても珍しいと思う。
[ビデオ(邦画)] 8点(2006-08-09 16:48:46)
27.  ペパーミント・キャンディー
時系列をだんだん過去に遡っていくという『メメント』的構成で描かれる(こっちのが先ですが)、骨太の人間ドラマ。T・H・クックの小説を思わせる素晴らしい出来ばえ。独特の長回しは脚本で上手く消化された自然な仕上がりとなっているし、暗鬱だが不思議と美しさを感じさせる映像も悪くない。終盤で明らかになる主人公の過去がほぼ予想通りだったので一時冷めかけたが、そこはソル・ギョングの熱演に救われた。本当に素晴らしい役者さんで、彼がいなければこの映画の魅力は半減していただろうと思う。あの懐中電灯の場面はすごい!
[ビデオ(字幕)] 8点(2006-06-29 14:14:33)
28.  リアリズムの宿
山下監督の画に対するこだわりはすごい。とくに海の映像は本当に美しくて、思わず見惚れてしまうほどだ。この鮮烈な映像とくだらない内容のギャップがまた面白い。  出演者インタビューによると主人公らはいちおう成長しているらしいのだが、男二人がちょっと仲良くなっただけにしか見えない。たぶん、普通の青春ものの主人公たちの五十分の一くらいしか成長していないのだろう。  誰もが共感できるのに誰もが忘れてしまうような些細なできごとを記憶しておいて、決してドラマチックではない日常からドラマを紡ぎだす。日常から物語を紡ぐのは小説の世界でいえば女流作家の領域。野暮ったい男の映画ではあるが、その実よっぽど鋭敏な感性を備えていなければできない芸当ではないだろうか。  ひたすらかっこ悪くて汚くて現実的、それなのにときどきはっとするほど美しい光景が広がる。不思議な味わいの作品。
[DVD(字幕)] 8点(2006-02-18 22:40:30)
29.  浮雲(1955) 《ネタバレ》 
最近読んだ小説に、「恋をする女性は現実の男を見つめているとは限らなくて、もっと遠くにあるよくわからないもの、途方もなく美しい極みたいなものに焦がれていることがある」という意味の一節があった。たぶんこの映画のゆき子がそうだったんじゃないかと思う。   敗戦後の何もかもが色を失った苦しい時代に、南国で過ごしたひたすらに幸福な時の記憶を抱きしめて生きる。親類に性的な虐待を受けていたゆき子のなかでは、暗い思い出のある日本を遠く離れて過ごした日々が、本当に美しく輝いていたのだろう。しかしゆき子を待っていたのは、日本の敗戦と貧困、愛した男のみすぼらしい本性。   本当はここで足を踏ん張って、前に進む道を選ばなければいけなかった。甘い時代の残像を追いかけて生きるべきじゃなかったのだ。しかし未来を見なかったがために、ゆき子は地に足の着かないまま、ふわふわと漂流するような人生を送ることになってしまう。   娼婦のまねごとをして、インチキ宗教家の親類に生活を頼ったかと思うと、大金を盗んで逃げる。堅実な職業に就いたり家庭を作って定住したりはしない。だけど人間は本来、安住の地を求める生き物だ。どこか特定の場所にしっかり根を張って、しっかりした人間関係を築くことで、自分が帰ってくる居場所を作りたがる生き物だと思う。放浪生活を送る人間ほど、繋がることへの渇望を抱いている。ゆき子のそれはあまりにも強く、それゆえに却って現実を見失ってしまう。   劇中では殺人事件なども起きており、後になって考えるとかなり劇的な物語なのだが、観賞中はそれほど違和感を覚えないで普通に流していた。それほど自然で説得力のある演出だったのだ。しかもとにかく観る者を引き込むのが上手い! 暗い内容にもかかわらず、前のめりで鑑賞してしまった。これほど強烈かつリアルな人間ドラマはなかなかない。成瀬巳喜男の比類ない才能を思い知った。
[DVD(字幕)] 8点(2006-02-09 03:46:59)
30.  くりいむレモン
空の美しさが印象的だ。冒頭で妹が一人歩いている上空を、電線が斜めに区切っている。こういう絵作りの上手さは絶妙である。画質がVシネっぽくてチープ残念でならない。   北野作品のように間の長い映画ってちょっと苦手なんだけど、これはかなりリアルだったのですんなり観られた。沈黙の多いタイプの作品としては成功している方だと思う。   たとえば妹が電話を終えた直後に「ユウスケさんがお兄ちゃんのこと変態だって言ってたよ」と報告し、ヒロシ(兄)は軽く動揺し、声が上ずる場面。たぶん、〈え? 何? 俺が妹にちょっと惹かれてるってあいつは気づいてて、妹に言っちゃったわけ? いや、まさかそんなはずはない。でも…〉というようなことを考えていたんだと思う。気づかれていないは思いつつ、後ろめたいことがあるので確信はもてず、発言がどことなく不自然になる。この微妙な心理描写に、目が釘付けだった。主人公の気持が手に取るようにわかるのだ。それどころか、二人とも言葉がカミカミで会話のキャッチボールが微妙に成り立たない、という現実にはありえても映画ではついぞ観たことのない場面もある。   たいていの映画ではこぎれいな台詞を噛んだり被ったりすることなく応酬するものであって、ここまで現実的な間の悪さ、ぎこちなさを再現しようとはしない。このひねくれたリアリズムが非常に斬新に感じた。原作はおそらく典型的な男の願望充足ストーリーなのだろうが、それをここまでリアルで繊細なドラマに仕上げてしまう監督の技量に感動した。地味だが、細やかな心の動きを感じさせる良作だと思う。
[DVD(字幕)] 8点(2006-02-03 16:17:19)(良:2票)
31.  顔(1999)
きれいな映像はほとんど皆無、汚くってみっともなくて、泥臭さの漂ってくるような映画。嘔吐の場面が四回もある(笑)。でもたまにはこんなとことんかっこ悪い映画があっていいと思う。映画に限らず、多くのドラマというものは、苦悩や悲劇ですらかっこいい。主人公たちが辛い思いをしていても、それなりに格好がついている。だけど、現実にはそんなええかっこばかりでは生きていけないもの。辛いことがあれば酒飲んでゲロを吐くこともある。地面を這いずってでも生きていくことにしがみつく、なりふりかまわない強さ。主人公は劣等感の塊ではあっても、ネガティヴになってくよくよ悩むことはない。嫌なことがあれば大声で泣きわめき、とりあえず忘れて全力で逃げる。彼女の常に前に進む姿があるからこそ、この深刻な物語が暗いトーンに支配されることはない。彼女の身体の奧から湧いてくるようなエネルギーには爽快感すら覚えた。「どんなに滑稽でもいい。とにかく生きろ!」――監督の力強い応援の声が聞こえてくるかのようだ。快作。
[ビデオ(字幕)] 8点(2006-01-12 14:53:01)
32.  GONIN
山本英夫の漫画『殺し屋1』が好きな人は好きだろう(映画の方じゃなくて原作ね)。ていうか山本英夫はこの映画からインスピレーションを得たとしか思えないほど、主要プロットは酷似している。ヤクザを題材としたハードバイオレンスであり、戦いだけで紡ぐ超シンプルなストーリーがそのまんま。恋人を目の前でレイプされたシーンなんかどこかで見た気がする。でもどちらもそれなりに楽しめる作品となっているので、両作品に触れて損はないだろう(違いを挙げるなら、『GONIN』の方はリアルで銃撃戦主体、同性愛の空気が強く、『殺し屋1』の方はキャラクターの濃さが特化しているといった部分だろうか)。凄まじい暴力描写は受けつけない人の方が多数派なのではないかと思う。ビートたけしの演じるゲイの殺し屋にはしびれた。バイオレンス大好き、格闘技観戦にはわくわくするぜ、という血の気の多い方におすすめします。
[DVD(字幕)] 8点(2006-01-06 05:07:35)
33.  天国と地獄 《ネタバレ》 
リアルな捜査の過程は、高村薫の『マークスの山』を思わせた。警察という組織が犯罪に対しどう動き、追い詰めていくのかが丹念に描写され、重厚な味わいがある。  とくに、権藤と面会したときの犯人の独白がよかった。犯人は財産を失った権藤をみてあざ笑いたかったのだろうが、権藤は冷静に将来への前向きな展望を語り、犯人を憎むどころか憐れんでいる。犯人はいわば自身の過酷な境遇への憎しみを、たまたま目に付いた人物へと転化していたに過ぎなかった。堂々とした目の前の男に、自分の不幸ばかり嘆いていた己の過ちに気づく。狡猾な犯人の完全な敗北。虚勢が一気に崩れ、叫びだす様子は真に迫り、すさまじい迫力があった。  ただ、私の集中力に問題があるのか、見終えて少し疲れてしまった。こんなに長くしなくても、情報量を減らさずにもっと短くまとめることができたのでは? 丁寧に描いている意味がよくわからない場面がいくつかあった。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2005-11-14 01:45:13)(良:1票)
34.  赤目四十八瀧心中未遂
勢子さんにあげるための香り袋を綾が手にとるシーンで、次に出る台詞がわかった――「これ、あたしにちょうだい」。思わず苦笑した。いかにも女性らしい言葉、いかにも女性らしい逞しさだと思う。生島の弱さを見透かして心中をやめたのにもかかわらず、他の女への贈り物を取り上げる。そこにちょっとは嫉妬というか、生島に自分を最優先させたい気持ち、支配欲のような気持ちが働いていたと推測する。もしかしたらただ単にほしかっただけなのかもしれないが、それにしても、あの台詞から感じる逞しさとずうずうしさ、そしてちょっと可愛いらしい感じが、いかにも女の強さだと思った。    最終的には兄貴に売られて博多に行くことを選んだ彼女の姿を生島は間抜け面で見送ることしかできない。綾はあんなにどうどうとしてるのに(強いよなぁ、そりゃ刺青入れられても悲鳴あげないわ)。    主人公はとんでもなくだめ人間で、綾の存在でその弱さがいっそう際立った。でも最後に少年の日に追いかけた蝶々を見つけたのは、彼が再び生きる意志を抱く象徴だったのだろうか? 綾に出会うことで極楽の鳥たる蝶々を見つけて、もう一度それを追いかける道を選んだのだろうか。それとも結局、蝶々を捕まえることはできないということだろうか。前者であってほしいと願う。とことん情けない主人公だったが、あんなに強い女性に出会ったなら、さすがに目を覚ましてもいいんじゃないかと思う。頑張って生きてみてもいいんじゃないか? 心中は未遂に終わったんだから。
[DVD(字幕)] 8点(2005-06-13 11:36:01)(良:1票)
35.  うなぎ
潔癖で妻の裏切りも許せなかった男が、不倫して妊娠して金融とトラブル起こした女とやり直す。人間の汚さを受け入れられるようになってようやく安住が訪れ、うなぎと会話する生活から脱却できるようになる。テーマとしてはシリアスなんだけど、笑えます。いくら人間不信だからって、うなぎが友達かよ! 高崎の言う通り、幼稚園児レベルだと思います。いやなやつでしたが、なんだかんだいってあの変態の罵倒が山下にとって一番ためになるアドバイスだったんじゃないでしょうか。
[ビデオ(字幕)] 8点(2005-05-24 11:27:58)
36.  THE END OF EVANGELION 新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に 《ネタバレ》 
謎解きうんぬんで論じられることが多いみたいですが、別にそこにこだわらなくても人間ドラマとして充分観ごたえがある作品だと思います。補完計画の目的(すべての人間の心の統合)さえわかれば大体話の流れはつかめます。もちろんそういう楽しみ方もありでしょうが、ミステリーではないのだから、説明されない謎は物語に奥行きを与える装飾だと割り切ってもいいんじゃないでしょうか。むしろこの作品の見所は執拗なまでに細かく、真に迫った心理描写でしょう。  まともに親の愛情を得られないまま育った主人公たちは心に支えを持たず、常に不安定です。しかも救いの手が差し伸べられるどころか、次々と希望を失っていきます。少しでも共感できる人ならかなり苦しいはず。そしてクライマックス、主人公は辛い現実世界から逃げ出すチャンスを与えられ、最終的には現実を選ぶわけですが、結末がまたひどい。せっかく主人公が勇気を出したんだから希望的なラストかと思いきや、「気持ち悪い」ってヒロインに拒否されておしまいなんですから。でもこの残酷な結末だからこそよかったと思います。傷ついている人間に安易な希望、逃げ場を提示することがやさしさではないからです。 よく独り善がりと言われる作品ですが、単純に観客受けを狙わず、本当の意味で心の糧になるものを伝えようとした結果なんだと思います。  軽い気持ちで楽しめるような娯楽作ではありません。もちろん娯楽として優れた部分もありますが、生きていくことの苦しさ、人間の弱さに正面から向き合った作品です。良かれ悪しかれ、観る者に強い印象を与えずにはいられないでしょう。
[ビデオ(字幕)] 8点(2005-05-02 23:27:57)
37.  歌行燈(1943)
映画を見てこれほど日本の伝統芸能の美を強く感じたのは初めて。能の舞台とか生で見たくなりましたから。能を映像で観た経験はないわけではないのだけど、正直今までたいしていいとは思えなかった。しかしこの映画では現代のJポップ(つまり僕が普段聴くような音楽)からはかけ離れた歌声が、素直に美しいと感じられる。その文化に馴染みのない人間まで感動させるというのは、生半可なことではありません。  とくに終盤、お袖の舞がきっかけとなって離れ離れになっていた人々が運命的に結び付けられるシーン。震えましたね、寒気がして。いつもとぼけている次郎蔵が突然真剣な目になって鼓を構えるのもかっこよかった。喜多八の「真に努力して身につけた芸は人の心を打つもの」(←うろ覚え。絶対間違ってる…)という言葉、その通りです。芸に身を捧げる人の想い、映画という芸(?)に込められた成瀬監督の想いを感じました。美の追求の果てに生まれた作品は、時代を超えて胸を打ちます。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2005-04-25 23:31:55)(良:2票)
38.  誰も知らない(2004)
「誰も知らない」――鑑賞中、この題名を何度も頭の中で呟いていた。 来るはずのない母親を駅まで迎えに行く二人の姿、モノレールの光。援助交際で得た金を受け取ることができず、街を駆け抜ける明。暗い飛行場で穴を掘るガリガリという音。暗い道を子供だけで歩く場面を観ていると、子供の頃に迷子になってしまったときの心細い気持ちを思い出す。  あの頃は、ちょっと親とはぐれてしまっただけで、もう二度と会えないんじゃないかとパニックになって泣いていた。この映画を観ている間、ずっとそんな心細さが胸を占めていた。子供たちはこんなにも危ういのに、「誰も知らない」。哀しく、辛い題名だ。呟くだけで、寄る辺ない感じ、どうしようもない心細さが襲ってくる。安心できる居場所、守ってくれるものが何もないという途方もない寂しさ。痛みに満ちた映画だ。この痛みは決して忘れることができないと思う。
8点(2005-03-20 10:06:05)(良:2票)
39.  うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー
ある小説の一説にこんなのがあります。登場人物の子供の台詞で、「僕が神様ならもっと素敵な世界を作る。この世界と同じように僕とパパとママがいて、でも誰も年をとらなくて、永遠に幸せでいられる世界にするよ」なんてちょっと切ないことを言うんです。就職活動を間近に控えた大学生の僕自身も、いつまでも楽しい時間が続けばいいと願う気持ちはわかります。でも楽しいだけの理想郷は空虚で、たとえ辛いことがあるとしても現実の世界の方がいい。虚ろな理想世界と過酷な現実世界のどちらを選ぶか、というテーマは「エヴァ」や村上春樹の『海辺のカフカ』を先取りしています。この映画が公開された年は自分が生まれた次の年。そんな時代にこれだけ先鋭的な作品があったと知って驚きました。
8点(2004-12-26 06:42:31)(良:1票)
40.  降霊<TVM>(1999)
『降霊』という題を文字通りに受け取ってはいけない。この映画の怖さは、霊の怖さではなく、人間の怖さだ。はじめは単なる幽霊物のようだが、だんだん犯罪サスペンスの趣になり、やがて霊媒師の女性の心のゆがみが明らかになる。そして、役所広司の前に本当の幽霊ではない、彼自身の罪の意識が「降霊」する。これは、怖い。
8点(2004-02-28 05:37:24)(良:1票)
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