721. 雁の寺
《ネタバレ》 水上勉の原作を読んだわけではないが、映画を見るだけでもそのすばらしさを感じる。 捨て子として育ち寺にあずられた慈念、母を慕う気持ちはいくら修行を積もうとも消えることはなかった。彼の目の前で繰り広げられる和尚と里子の痴態の数々、それが人を殺めるという犯行を引き起こしたのだろうか。それでも気持ちは救われず木村功の竺道に問いつめる。その結果が寺を去る決心になったのだろうが・・・。 映画は三島雅夫の和尚がすばらしく、若尾文子も美しく悩ましい。しかし何と言っても南嶽が描いた雁の絵、最初に出てきて最後に全容を現す。慈念によって破られた親子の雁、それだけが新しく張り替えられている。物語の主題を現すかのように・・・。 [DVD(邦画)] 8点(2011-07-04 20:07:42) |
722. サンダカン八番娼館 望郷
《ネタバレ》 山崎朋子さんのノンフィクション小説「サンダカン八番娼館」の映画化であり、栗原小巻さん演じるルポライター三谷圭子さんは、まさに山崎さんその人であろう。彼女は女性史研究の第一人者であり、この小説によって「からゆきさん」を広く紹介した。 戦前の日本の恥部とまで言われ海外で働くことになった娼婦たち。映画は田中絹代、高橋洋子の二人のおサキさんによって、つらく悲しく物語られる。そこには私たちが目を背けてはならない「からゆきさん」の実態がある。 しかし、この映画はそれだけではない、人間が何を信じどう生きるかを教えてくれているようにも思う。 映画の最初の方で、田中絹代さんが栗原さんのことを息子の嫁と紹介するが、映画が進むにつれ、なぜ嫁と言ったのかわかってくる。そして圧巻なのがラスト近くの栗原さんが明日帰ると田中さんに告げた場面だろう。「私の素性を聞こうともしなかった」「人には都合というものがあるじゃろう。」このあたりになると私は何度見ても涙が止まらない。 誰かが言った、「役者は演じるのではなく、その役になりきることだ」と。 [映画館(邦画)] 9点(2011-07-01 23:52:08) |
723. 最高殊勲夫人
「青空娘」に続いての鑑賞。原作監督主演が同じメンバーでの映画だが、サラリーマンということで、いくらかは源氏鶏太らしくなっている。同じシチュエーションが2度も起こった。ならば3度目はあるのかということが注目の的になるが、途中までで結論が見えてくる。2度あることは3度あるのだと・・・。 あとはどのようにまとめるのかということだが、これも無難に落ち着いた。 [DVD(邦画)] 6点(2011-07-01 13:13:10) |
724. 青空娘
源氏鶏太と言えば「三等重役」に代表されるサラリーマン小説が有名であり、私も若い頃何冊も読んだものである。ユーモアに富んだ軽妙な語り口と明るくさわやかな感じが私の好みであった。その源氏鶏太の映画作品とあればと期待して見たのだが、評価は微妙。映画にしてしまうとわざとらしさが目立って気になってしまった。 [DVD(邦画)] 5点(2011-07-01 10:42:57) |
725. 男はつらいよ 奮闘篇
《ネタバレ》 寅さんも第3作以降渡世人ぽくっていまいちと思っていたが、ここで久しぶりのヒット(だと思う。)いつもの馬鹿さ加減もほどよくセーブされ、世話好きで人情味のある寅さんになっている。 映画2作目の出演となる榊原るみが、津軽から出てきた少女(一番若いマドンナ)を好演している。寅さんも女性の方から結婚を持ち出されたのは初めてであり、訳ありとは言えいじらしかった。 その他久々登場の実母お菊さんや妹さくらさんの、寅さんを心配する心もひとしお、この映画には心打たれてしまった。 「緑は異なるもの、味なるものよ」は私もさくらさん同様わからなかったが、博さんはさすがだった。 [DVD(邦画)] 8点(2011-06-30 22:21:35)(良:1票) |
726. 祇園の姉妹(1936)
《ネタバレ》 DVD特典で新藤兼人氏が監督溝口健二について語っていた。「祇園の芸妓を人間としてありのままを描いている。彼の作品の根底はこの映画で確立し、溝口流リアリズムとして高く評価された」と。 姉が生まれながらの昔風芸妓だったのに対し、妹は学校出のハイカラな芸妓、姉妹は性格も考え方も好対照だった。義理と人情を大切にするか、お金のためと割り切って上手に振る舞うかは、今日でも問題になるところだ。 妹は自分だけでなく姉のためと思っていろいろ画策したあげく、大けがをする羽目になってしまう。私の心の中には、自業自得だと攻められぬ悲しさが残った。 19歳の山田五十鈴は美しく、この頃から大器を予感させるものがあった。 [DVD(邦画)] 8点(2011-06-24 07:22:33) |
727. 近松物語
《ネタバレ》 最高傑作! 見終わってしばらくは何も言葉が出なかった。 二人は、事件が起こるまでは、御真造さんと手代という関係しかなかったはずである。それが周囲の者たちの身勝手な行動によりどんどん追いつめられ、それがますます二人の絆を深めていく。 主従の関係と男尊女卑、現代感覚では到底考えも及ばないことが、その昔は当然のこととして考えられていた。その封建社会の業を余すことなく表している。 この映画はおさん茂兵衛の悲しい物語、一時は心中を考えながらも、二人がそろって暮らせる土地を探し求めていくが、果たせず捕らえられてしまう。しかし、それは彼らにとっては二人そろって死ねることへの安堵の喜びであったのだろうか。 さすが溝口健二監督、ひとえに感謝。そして香川さんも大女優の地位を確立。 [DVD(邦画)] 10点(2011-06-22 21:25:54) |
728. 顔(1957)
これはいくら何でもひどい、清張が泣く。原作は短編とはいえ、松本清張最初の推理小説であり、賞を得てその道の作家として第一歩を踏み出した記念すべき作品である。 顔が知られるようにはなりたいが、顔が出ることにより忌まわしい過去が明るみになっても困る。そこに主人公の苦悩があり、策におぼれて失敗することになるのだが・・・。 この小説は何度もテレビドラマ化されており、近年ではNHKでも生誕100年を記念して制作されたほどだ。 ところがこの映画は、何と主役(犯人役)を女性にするなど、原作の面影はどこにもないし、都合がよい展開は下記の方が指摘されているとおりである。岡田茉莉子を主役にするならば、もっと深みのある作品にできたはず、それだけの女優さんなのだから・・・。 [DVD(邦画)] 3点(2011-06-20 22:28:16) |
729. となりのトトロ
この映画も息子と親子で見た映画。息子は「ラピュタ」の方が好きだったが、私は「トトロ」の方が好きだった。 アニメはたいがい一度見れば後は見なくても・・・だが、この「トトロ」は何度見てもすばらしい。ほのぼのとした暖かさがあり、宮崎アニメでは最高だと思う。 トトロ、真っ黒くろすけ、猫バス、夢があってユニーク。最近は変に解釈する人もいるようだが、素直な気持ちで素直に見てほしい。 [地上波(吹替)] 8点(2011-06-14 21:21:14) |
730. ルパン三世 カリオストロの城
ラピュタよりももちろん前の映画だけど、映画を見たのはラピュタより後。子どもができてからは、映画館で映画を見る回数がめっぽう減り、家で子どもとテレビを見る度合いが増えた。 息子は漫画が好きでルパン3世もたくさん読んでいたし、テレビのアニメにも結構付き合わせられた。そのほとんどは忘れてしまったが、このアニメだけはしっかり覚えている。それだけおもしろく人気のあるアニメだったのだろう。 [地上波(邦画)] 6点(2011-06-13 09:52:26) |
731. 戦争と人間 第三部 完結篇
《ネタバレ》 映画こそ「完結編」だが、原作の長編小説(18巻)のまだ中程である。第一部の映画が制作されたとき、作者五味川純平はすでに12巻まで完成させており、この第三部に続き続編も作られるはずであった。しかし、日活の社運をかけて投じられたこのシリーズも資金面が力尽き、三巻で打ち切られてしまいった。太平洋戦争から戦後の東京裁判へと続く流れが描かれず終わってしまったのは実に残念という他はない。 しかしこの第三部は、第一部と同様に大変なできばえである。戦争を食い物にのし上がる財閥、無謀な戦争をひたすら突き進む日本軍、軍国主義に翻弄される人々、戦争によって親兄弟を亡くした日本人や中国の人々、映画は残酷なまでに赤裸々に戦争とは何かを描き続ける。 今回またDVDで10時間に及ぶドラマを2日間に分けて再鑑賞したが、せひとも他の方々にも通して見てほしいと思う。 さまざまなシーンが目に浮かぶが、吉永小百合や夏純子らの愛する男に尽くす女心が痛々しい。戦争を知らない世代が、何かと他国の批判をする現世にあって、人の命の尊さと平和のありがたさを感じられずにはいられなかった。 [映画館(邦画)] 8点(2011-06-11 08:45:11) |
732. 戦争と人間 第二部 愛と悲しみの山河
《ネタバレ》 時間的にも長く、登場する人物も多いこの映画で、どこに焦点をあててコメントするか結構難しい。この映画は第1部の終わりに起こった満州事変後のドラマであり、子役だった少年少女役も、北大路欣也、吉永小百合、山本圭らが登場し益々豪華となる。 ただ佐久間良子の登場はどうだったろう、北大路との愛も何かよろめきドラマに思えて多少の減点。 この映画は戦争へと驀進するため、穏健派だった人も急進派に従わざるを得なくなる運命を描いている。また戦争を回避する者に対しては、異端者、アカと弾圧される運命になる。拷問を受ける場面など目を背けたくなるが、歴史の事実として重く受け止める必要がある。戦争に反対していた者が、留置場から出されると同時に前線に送り出される非情さと金持ち故に戦争から逃れる狡猾さは、まさに対照的である。 [映画館(邦画)] 7点(2011-06-11 06:59:31) |
733. 戦争と人間 第一部 運命の序曲
《ネタバレ》 戦争というものに対して、これほどまで正面から堂々と踏み込んだ映画は他に類を見ない。昭和初期の日本の成長発展とその野望とともに歩んだ戦争への道を、これ以上詳しく表すことができないほど、丁寧にかつ客観的立場で踏み込んでいる。おそらく相当入念な検証がなされたことだろう。日本の近代史を知る上で教科書以上の歴史的教材である。 映画は1928年(昭和3年)の張作霖の乗った列車を関東軍が爆破させるということから始まる。常に戦争は大義が必要であり、そのためにはいかなる画策、謀略も辞さないということが手に取るようにわかる。 また、日本の新興財閥は利益拡大のため、清王朝滅亡後の弱体化した中国につけこみ、満州の地を我がものにしようと勢力をひろげていく。 伍代家にあっては、強行推進派の喬介(芦田伸介)英介(高橋悦司)と慎重に構える由介(滝沢修)、また若輩ながらそれに疑問を持つ俊介(中村勘九郎)を軸に、ヒロイン由紀子(浅丘ルリ子)の奔放な愛をからめて、壮大なドラマとなっている。 印象的なシーンは数多くあるが、音楽好きの私には、由紀子がサロンで弾く「幻想即興曲」が美しい調べとなって記憶に残っているし、石原莞爾や板垣征四郎という実在の関東軍参謀も登場する。 また伍代家を取り巻く人物として、標兄弟や柘植中尉、伍代産業で働く高畠や鴫田、親中派の服部医師、中国人趙親子など、有名どころが数多く登場、石原裕次郎も出演しているのだがどこに出てきたかかすんでしまうほどである。 [映画館(邦画)] 9点(2011-06-11 05:13:56)(良:1票) |
734. 遥かなる山の呼び声
まさに「民子三部作」の最後を飾るのにふさわしい映画であり、私の見た映画の中で邦画ベスト1、自信を持って薦められる映画である。 井川比佐志が出てないのは残念であるが、その代わりと言っては甚だ失礼ながら、無口で不器用さを誇る高倉健がぴったりの役を演じている。そしてハナ肇、ラストの感動は言葉では表せないほど、文句なしの満点。 [映画館(邦画)] 10点(2011-06-08 17:24:14) |
735. 故郷(1972)
こういった映画、好きだなあ、実にいい。派手な所は一つもなく、淡々と進む物語。描かれているのは古くなった石船とそこで生活している船長の夫と機関長である妻、そしてそれを取り巻く人々。そして、故郷を離れなければならなくなった家族のさびしい想い、それらがひしひしと伝わってくる。「時代の流れとか大きなもんには勝てんとか、それは何のことかいのう」と。そしてまたおなじみの寅さんとはまったく違う役柄の渥美清、よそ者でありながら、奥さんの墓を守って島に住み着く姿もまた美しい。 「家族」という映画に深い感銘を覚え、また「故郷」という映画でさらに感動は大きくなった。山田監督以下のスタッフ・キャストのメンバーのすばらしさ、私の「倍賞千恵子・山田洋次」のラインが確立された映画であった。 [映画館(邦画)] 9点(2011-06-08 16:27:33)(良:2票) |
736. 男はつらいよ 純情篇
シリーズの中では地味だけど、落ち着きがあって味のある映画だと思います。その雰囲気を醸し出しているのが若尾文子さん、どこか他のマドンナとは違う、さすが大映を背負った名女優だと感じさせてくれます。 それと何と言っても、ラストのさくらとの別れのシーン、「故郷とは・・・」と言いつつ、列車のドアが閉まる、名シーンだと思う。 また宮本信子さん、森繁久彌さんもこれだけで終わってしまうのがもったいないくらい。 [DVD(邦画)] 6点(2011-06-08 07:37:39) |
737. 男はつらいよ 望郷篇
前半部のヤクザっぽさが強いのは好きではないが、汗と油にまみれて地道に働きたいという寅さんの決意は今度こそ本物ではと思わせる。事実豆腐屋で働き始めたときは順調だったし、マドンナの長山藍子に対する気持ちも、今回は勘違いだけではすまされない。むしろ長山さんの方に対して鈍感さを感じるくらいだ。 さて、前半部の見所は蒸気機関車デコイチ、SLファンには見逃せないだろう。 [DVD(邦画)] 6点(2011-06-07 21:12:25) |
738. 家族(1970)
《ネタバレ》 懐かしき映画「家族」実に思いで深い。東京五輪から大阪万博へと高度経済成長の波に乗り世界第2の経済大国へと発展していった日本、その片側には閉山危機が迫る炭鉱があり、もう片側には開拓の夢が広がる原野があった。この映画はその日本西端の島から、長崎、福山、大阪、東京、北海道と東端の開拓村にたどり着くまでの3000kmの旅の映画であり、旅する家族にとっては実につらくて悲しいものとなった。 なぜそれほどまでして旅を続けなければならなかったか、つっこみを入れたくなるのは第三者としての感情というもの。いったん走り出したからには後には引けない厳しい現実があったのだと思う。幼子を亡くしたのは実に残念なことであったが、祖父の場合はあの炭鉱節での笑顔を思うと、あれで良かったのかもしれないと少しは救われる。 この映画は日本のロードムービーとして確固たる地位を誇っているが、またそこに描かれているのは、1970年という時代のそのままの日本の姿である。若き人にはその時代風景をもぜひ見てほしい。 [映画館(邦画)] 9点(2011-06-06 17:05:20)(良:1票) |
739. 風の又三郎(1957)
小学生の頃、学校で見た映画。50年以上経っても「どおっどど、どどど」で始まるあの歌は、鮮明に覚えていた。DVD化され再鑑賞したのだが、原作のいくつかのエピソードが省かれている以外ほとんど忠実に再現化されている。 児童劇に近く、演技も決して上手とは思えないが、宮沢賢治の「風の又三郎」を知る上で、格好の材料になると思う。 複式学級の先生役を若い加藤嘉さんが演じているし、あの懐かしき左卜全さんも見ることができる。主役の山内賢さんは当時は久保賢という名前だった。 ところで鑑賞環境分類で困るのは、学校や公民館あるいは研究集会などで見た映画はどれに入るのだろう? とりあえず、試写会ということにしているが・・・。 [試写会(邦画)] 6点(2011-06-06 06:12:07) |
740. 野菊の墓(1981)
これは驚き、かつてのモノクロの「野菊の如き君なりき」が明治の民子と政夫としたら、この映画は昭和の民子と政夫を思わせるではないか。 もちろんそれが単純に悪いと決めつけるものではなく、これはこれで良い映画である。ただ惜しむらくは主人公二人の演技の未熟さというより、魅力のなさかもしれない。それに引き替え脇役陣の見事さは光るのだが・・・。 一番のまずさは、民子が政夫よりも年長とさんざん語られながらも、そうは見えないこと。アイドル云々よりも、松田聖子が実年齢より若く見えるあの甘ったるさにあるのかもしれないし、「民さんは野菊のような人だ」と政夫が思っても、私には到底思えないことかもしれない。 後にヒットしたレコードの「矢切の渡し」が、この映画の別れの場となる渡し場だったとは、恥ずかしながらずっと後になって知った。 [DVD(邦画)] 5点(2011-06-04 09:39:42)(笑:1票) |