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ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 615
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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61.  名探偵コナン 時計じかけの摩天楼 《ネタバレ》 
 冒頭にて、十分近くも掛けて「このシリーズのお約束である『眠りの小五郎』の場面」「あらすじ」「コナンが装備しているメカの説明」まで披露してくれるという、実に親切設計な一品。  予備知識が無くとも楽しめるように……という、作り手側の配慮が感じられました。   「ボク、子供だから分かんないよ。何かヒント教えて」という甘え声での台詞など、コナン(=新一)が自らのハンディキャップを逆手に取って、犯人から情報を引き出す件も面白かったです。  蘭とのロマンスも含め、ちゃんと「子供になってしまった高校生探偵」だからこそ出来るストーリー展開にしているのですよね。  作中には「新幹線大爆破」や「ジャガーノート」など、過去の名作映画から拝借したネタも多いのですが、こういったコナンならではの魅力も忘れずに盛り込んである為、観客としても抵抗無く楽しめる感じです。   モリアーティ教授をモデルにした怪し過ぎる建築家が、そのまま犯人だったのには笑っちゃいましたけど、作劇として「犯人は誰か?」より「どうやって爆発を食い止めるか?」に重きを置いた結果なのだろうなと、納得出来る範囲内。  記念すべき映画第一作だから、犯人にはビッグネームが元ネタの人物を配したいという考えもあったのかなぁ、と推測する次第です。   電車ではなく、線路の方に爆弾が仕掛けられていると見抜く件や、爆弾解体のシーンにてモノクロ画面にし、赤と青の配線のどちらを切ったのか分かり難くする演出なんかも良かったですね。  特に後者に関しては、初見の際にかなり感心させられたのを憶えています。   難点としては、立て続けに事件が起きる構造上、テレビの数話分を繋げてみせた「総集編」めいた色合いが濃い事が挙げられるでしょうか。  それと「赤い糸が無い」「コナンのままじゃ駄目」という独白で終わる形なのも、ギャグ描写とはいえ、少し後味が悪かったです。  この作品の特性上「たとえ見た目が変わっても中身が同じだから蘭とも愛し合える」あるいは「歩美ちゃん達と一緒に過ごすコナンとしての人生も悪くない」なんて結論にはならず「何時かは新一に戻りたい」という願いをコナンが抱き続けるのは当然なのでしょうが、ハッピーエンドの後にそれをやられちゃうと、やっぱり寂しい。   後は……コナンの仲間である少年探偵団の活躍が無かったとか、気になるのは精々そのくらいですね。  娯楽作品として、バランス良く纏まっている映画だと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2017-05-28 16:45:12)(良:2票)
62.  借りぐらしのアリエッティ 《ネタバレ》 
 こういった設定の映画である以上「小人から見た世界」が面白く描かれていれば問題無いと考えながら視聴した為、まず満足。   部屋に飾られている大きな時計が人間の腕時計だったり、お茶を淹れる際にも水滴が大きかったり、猫や狸が巨大な獣だったりと、色々楽しかったですね。  逆さに伏せられた硝子のコップを、物珍しい美術品のように眺めるアリエッティというシーンも印象深い。  ……ただ、虫が巨大なサイズで気持ち悪かったのは難点かも。  ダンゴムシをボール代わりにして弄んだりする描写なんかは、ちょっと引いちゃうものがありました。   タイトルになっている「借りぐらし」に関しては、いくら作中で「人間から借りているだけ」と主張されても、明らかに泥棒だよなぁ……と思えてしまい、ノリ切れず。  もうちょっと小人なりに人間の生活に貢献しているとか、借りた分を些細なお手伝いなどで返してみせる描写があれば納得出来たのでしょうが、小人はひたすら人間を恐れて隠れつつ盗みを働いているだけですからね。  ただ単に「借り」と「狩り」のダブルミーニングにしたかっただけでは? と感じられました。   ドールハウスと小人の寸法がピッタリ同じというのは、ご都合主義だとばかり思っていたのに「実は小人の為に作らせた代物」だったと判明する辺りなんかは、上手い脚本だなと感心。  アリエッティの母親救出の件で、さながらスパイ物めいた音楽と演出になったり、窓を開ける際に「人間には出来ない事でも小人なら出来る」と示す流れになったりするのも良かったですね。  原作の元ネタと思しき「秘密の花園」を読んでいるシーンなんかも、思わずニヤリ。  「秘密の花園」→「床下の小人たち」→「借りぐらしのアリエッティ」の三作品には、それぞれ四十年以上の間隔が空いている事を思うと、魅力的なストーリーラインは時を越えて受け継がれるのだと、しみじみ実感させられます。   そして、事前に調べなくても「ヒロインの描き方が全然ロリコンっぽくない」という時点で宮崎監督作じゃないと気付いた本作なのですが、これも結果的には良い作用を齎したんじゃないかと思えます。  小人の美少女なんて、如何にもフェチ心をくすぐる題材だし、やりようによっては幾らでもエロティックに出来たのでしょうけど、そちらは極めて薄味な作り。  それが物足りない人もいるのでしょうが、自分としては好みなバランスでした。   むしろ脚本と監督の溝というか、作中の台詞と全体の流れが噛み合っていないのでは? という点が気になりましたね。  脚本を書いた人がビッグネームな時に起こりやすい現象なのですが、監督さんが脚本に気を使って、書かれていた台詞をそのまま採用してしまったがゆえに生じる違和感のようなものがありました。  その最たるものが「君は僕の心臓の一部だ」というクライマックスの台詞であり、確かに感動的なのですが、それまでの流れを考えると、どうしても(そこまで言う程の深い交流があったかな?)なんて思っちゃうのですよね。  死にゆく病人と滅びゆく種族とで、シンパシーを感じたのだろうけど、長年連れ添った恋人同士じゃあるまいし……なんて、ついつい意地悪く考えてしまいました。  別れのシーンは、台詞だけでなく、音楽や演出も悪くなくて、グッと来るものがあっただけに、そこが凄く残念。   それと、中盤に母娘で針仕事をしながら「この大きな袋は何なの?」と娘が尋ねるも、母親は答えないというシーンがあるんですよね。  ここ、てっきり気球かヨットの帆を作っていて、それが引っ越しの際に役立つのではと予想していたのですが、見事に外れました。  こちらは、ちょびっとだけ残念。   でも、本作には「薬缶に乗って河を移動する、静かなエンディング」の方が似合っていたようにも思えますね。  希望の象徴と言うべき海のポスターを効果的に活用し、単なる悲劇では終わらせず、より良い明日に向けての「旅立ち」を感じさせる終わり方であった点も含め、中々に心地良い映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2017-05-10 10:18:04)(良:1票)
63.  北斎漫画 《ネタバレ》 
 夕立の中、皆が雨宿りする中で、一人だけ雨を意に介さず歩き続ける主人公の姿が、非常に印象的。  冒頭のシーンだけでなく、ラストカットでも同様の姿が描かれており、新藤監督としても、この「雨の中を歩く葛飾北斎」という強烈なイメージこそが、この映画を象徴するものであると考えていた事が窺えます。   十返舎一九や歌麿など、北斎の他にも当時の著名人が次々に登場する為、それだけでもワクワクするものがありましたね。  特に曲亭馬琴の登場のさせ方は上手く、北斎を居候させてやっている気の良い親父さんが「滝沢馬琴だとか、曲亭馬琴だとか、ご大層な名前付けて粋がって……」と妻に詰られる形で、自然と「この人が馬琴だったのか!」と観客を驚かせてくれるのだから、心憎い。  ちゃんと事前に「読み本書きを目指している」という伏線があった為、違和感も無かったですし、予め正体を察していた人でも、ここの件はニヤリとさせられたんじゃないかなぁ、と思います。   泥臭い創作者達の物語という事で、基本的なストーリーは非常に好ましいものがあったのですが、難点としては「いくらなんでもエロスに偏り過ぎ」「老人になってからの件はコントにしか見えない」という辺りが挙げられそう。  本映画の「売り」の一つであろう「蛸と女体の絡み」にしたって、そちらの性癖に疎いせいか、自分としては全くピンと来なくて、むしろ白けてしまったのですよね。   終盤にて「枕絵は、もうこれでおしめぇだ」「いつまでも若ぇ娘と茶番している暇は無ぇわな」と吐き捨て、いよいよ北斎が「俺自身が納得出来る絵」に取り掛かろうとした矢先に死んでしまう……という展開なのも、実に寂しい。  結局、この映画では「若ぇ娘との茶番」がメインになっており「富嶽三十六景」の件なんかも、サラッと短時間で流されてしまっていますからね。  劇中で描かれる北斎の人物像はとても魅力的だったと思うのですが「えっ、そこにスポット当てちゃうの?」という感じで、戸惑いの方が大きかったです。   情熱を秘めた主人公の北斎、良き友人であった馬琴、複雑な魅力を備えた娘のお栄の存在、この三者だけでも十分面白いだろうに、何で余計なエロスを交えちゃうかなぁ……と思ってしまったくらい。  自分の場合、そういうのはサービスシーン的にチラッと挟むくらいが好ましく、この映画みたいにメインに据えられてしまうと、どうも「そんなに沢山はいらないよ」と辟易してしまうみたいです。   そんなこんなで、中盤以降は観ていてテンションが下がってしまったのですが、それでもラストシーンの「雨の中の北斎」を目にすると、良い映画だなぁ……と思ってしまうのだから、全く以て困り物。  「終わり良ければ総て良し」という言葉を連想させられる、そんな一品でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2017-04-18 16:31:10)
64.  兵隊やくざ 《ネタバレ》 
 冒頭にて「荒野に孤立した巨大な刑務所」という言葉が出てきますが、実際に刑務所映画に近いテイストを感じられましたね。  主人公の一人である大宮は極道だし、囚人同士の争いの代わりに日本兵同士で争うし、最後は脱走劇で終わるしで、非常に似通っていたと思います。   「兵隊の話は、もう御免」「カーキ色を見る度に胸糞が悪くなる」なんて独白から始まる以上、軍隊批判というテーマも込められていたのでしょうが、自分としては上述の通り「刑務所映画の軍隊版」という印象のまま観賞した為、重苦しい気分にはならず、娯楽作品として楽しむ事が出来ました。   とにかく上官が部下を殴る蹴るを繰り返し、胸糞が悪くなったところで、主人公の大宮と有田とが力と知恵を駆使してやり返してくれる訳だから、非常に痛快。  軍隊は階級が全てだとばかり思っていたら、さにあらず、実は勤務年数も力関係に大きく作用しているという辺りも、非常に興味深いものがありましたね。  喧嘩する相手が二年兵だと分かった途端に態度を豹変させ、上官であるはずの伍長に遠慮なく殴り返し、対等の条件での決闘に持ち込む件なんてもう、痺れちゃいました。   頭の良い兄貴分と、腕っぷしが強い弟分。  そんな凸凹コンビの二人が、様々な苦難を乗り越え、絆を深める姿を見せてくれる為、観ているこちらとしても微笑ましく、心地良い気分に浸れるのですよね。  それでも最後の最後「国家の命令」という強大な力には逆らえないのか……と思わされたところで、見事に逃げ出してみせるという流れも良かったです。   ただ、取り残された他の兵達は一年後に全員戦死したと語られている為、ちょっと影を落とす形となっており、爽快さに欠けるものがあったのは残念。  状況を考えれば仕方ないのだけど、主人公達だけが逃げて、残された皆は死んでしまったという形だから、罪悪感が伴うんですね。  戦争だから人が死ぬのは当たり前だし、軍隊に所属した以上は殺されたって不思議じゃないのでしょうが、それでもその重苦しい語り口と、直後の脱走劇の明るい描き方は、ミスマッチであるように感じられました。  ここの部分を、もうちょっと受け入れやすく描かれていたら、戦争映画ならぬ兵隊映画の傑作として、大絶賛出来た気がします。   それと、大宮を演じる勝新太郎が刃物を用いてチャンバラを披露するシーンがある訳だけど、それが原作小説にもある要素なのか、映画特有の「勝新ならチャンバラも見せなきゃ」というサービスなのかも、気になるところですね。  もし後者であったとすれば嬉しいのですが、真相や如何に。
[DVD(邦画)] 6点(2017-04-13 22:21:04)
65.  釣りバカ日誌 《ネタバレ》 
 映画「釣りバカ日誌」が一作限りで終わらずシリーズ化した理由としては「ここで終わられたんじゃあ、どうにもスッキリしないから」という点も大きいんじゃないでしょうか。  勿論、映画単体としても面白いのは確かなんですが、本作では「スーさんが社長だと知った後のハマちゃんの葛藤」「二人の和解」の比重が薄めで、ちょっと勿体無く感じられるんです。  他の同僚は見送りに来てくれたのに、四国に帰る新幹線の中で電話して終わり(しかもスーさんと話すのはハマちゃんではなく、妻であるみち子さんのみ)というのは、如何にも寂しい。  作り手側も続編を意識して、あえてこういう終わり方にしたのか、それとも単なる尺不足だったのか、気になるところです。   「合体!」「熱烈合体!!」の表現は、最初(何それ?)と呆れていたはずなのに、二回も三回も繰り返されると笑っちゃいましたし、下ネタなのに何処かほのぼのするものもあって、良かったと思います。  「釣りは道具じゃないからね」と言ってたくせに、いざスーさんが先に釣り上げたら「道具が良いからね」と言い訳するハマちゃんという、伏線を活かした笑いについても、上手いなぁと感心。   スーさんの見送りを兼ねて一緒に夜の町を歩きながら、みち子さんがハマちゃんとの馴れ初めについて話す場面なんかも、優しい雰囲気があって好きですね。  「僕は貴女を幸せにする自信はありません」「しかし僕が幸せになる自信は絶対ある」というプロポーズの言葉って、凄く素敵だと思います。  この後、ハマちゃんもみち子さんもスーさんも「幸せ」な人生を送る事が続編の数々にて描かれている訳であり、そう考えると、とても温かい気持ちに浸れました。
[DVD(邦画)] 6点(2017-04-12 09:55:41)
66.  僕達急行 A列車で行こう 《ネタバレ》 
 優しい映画ですね。  登場人物は善人ばかりだし、失恋というテーマを扱っていながらも暗くなり過ぎる事は無く、仕事での成功や友情など、明るく幸福な要素の方が色濃く描かれているように感じました。   森田監督の遺作という事で、最後に「ありがとう」という文字が浮かび上がる演出も、じんわりと胸に沁みるものがあります。  それだけに、全面的に作品を褒めたくなるような気持ちも強いのですが……正直に言うと、退屈に思えたシーンも多かったです。  「融資してくれーっ!」や「いちごミルク」の件なんかも、あと一歩で感動出来そうだったのに、ちょっとわざとらしく思えてしまい、ノリ切れない。   ゲームの話で盛り上がり、効果音付きで戯れてみせる件も、どうにもオタクっぽ過ぎるというか、観ていて痛々しく感じちゃいましたね。  監督さんに悪意は無いんだろうけど「鉄道の話で盛り上がるシーン」は非常に夢がある感じに描かれているのに「ゲームの話で盛り上がるシーン」はギャグで済まされており、そこに違和感が生じてしまった気がします。   その一方で、やはり主題となる「鉄道」に関する描写は力が入っているというか「模型」や「駅弁」など、押さえるべき点はキチッと押さえている感じがして、非常に好ましかったです。  自動車ではなく、電車を用いての移動ならば、恋人同士で話したり触れ合ったりする事に集中出来るし、お酒だって飲めるんだと示す辺りも上手い。   主人公が二人いる事を活かし「音楽を聴きながら窓に流れる風景を眺める」「電車が立てる駆動音や車輪の音に耳を傾ける」というタイプの異なる楽しみ方について、お互いに語らせる辺りも良かったですね。  それがラストの鉄道旅行における伏線となっており、音楽否定派だった方が笑顔で音楽を聴いている姿に繋がっていたりするんだから、実に微笑ましい話。   趣味を持つというのは如何に楽しい事か、友達がいる事は如何に素晴らしいかと教えてくれる、そんな一品でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2017-04-10 19:44:44)
67.  冷たい熱帯魚 《ネタバレ》 
 てっきり主人公が「連続殺人の主犯」だと思っていたのですが、さにあらず「傍観者」「共犯者」という立場の人であった事に驚かされました。   で、そんな彼も次々に人を殺していくようになる終盤の展開は圧巻だったのですが……何故でしょう? 同監督作の「愛のむきだし」や「地獄でなぜ悪い」程の衝撃は無かったように思えましたね。  単純に、自分がこの手の衝撃に慣れてしまったというのが大きいのかも知れませんが (実録犯罪物路線かと思ったけど、結局は何時もの園子温映画になるのか……)  と、達観するような思いで画面を眺めていた気がします。   勿論、そんな「何時もの園子温映画」は好きなんですけど、本作に関しては最後まで実録風に纏めて欲しかったという気持ちが強いですね。  監督さんも「主人公が疑似的な父親である村田を刺す場面」で終わらせても良かったかも知れないとインタビューで語っておられるみたいで、自分としてもそちらの方が自然な仕上がりになったんじゃないかと思えました。   序盤「冷凍食品をレンジで温めるだけの妻」「食事中でも平気で携帯電話を使い、途中で抜け出す娘」「妻の喫煙を見て見ぬ振りをする主人公」などの印象的なシーンによって、家庭が崩壊している事を端的に示してみせる手腕は、お見事。  でんでん演じる村田も存在感があって良かったし、吹越満演じる社本の善良さと臆病さが入り交じった感じも秀逸でしたね。  先程の発言に反するような形となりますが、終盤の主人公の変貌っぷりというか、眼鏡を捨ててからの吹っ切れっぷりは痛快なものがあり、こういう姿を恰好良く演じられる辺りには、役者さんの凄みを感じます。  監督さんも何だかんだで終盤の展開をカットせず採用したのは、主演俳優の熱演に「これを切り捨てるのは惜しい」と思われたから、なのかも知れませんね。   ラストシーンに関しては、父親の死体を蹴り続ける娘の感情が「本心から父親の死を喜んでいる」「実は内心では死を悲しんでおり、起き上がって欲しいと願っている」「その両方」と、大まかに三通りに分けて解釈出来るようになっており、これに関しては(上手いなぁ)という思いと(ズルいなぁ)という思いとが混在。  元々この手の「観客に判断を委ねる」ような結末って好みではない事が多いのですが、本作に関しては主人公の自殺で幕を下ろす形でもある為、どうしても「逃げた」という印象が強かったりしたんですよね。  「人生ってのは痛い」と主人公が説教するのは結構だけど、その後に自殺されたんじゃあ「人生は痛い。だから死にます」という敗北にしか思えない訳で、そんな後ろ向きな終わり方されても困るよ……というのが正直な感想。  最後に「丸く、青い地球」を映し出して終わるというのも「地球は単なる岩だ」という劇中の台詞に照らし合わせると、現実逃避の象徴であるように思えてしまいます。   とかく園子温監督の作品はパワーがある為、それが自分好みの方向に進んでくれた時は凄まじい傑作に思えるのですが、好みから外れてしまうと、何ともコメントに困る品が出来上がる……そんな事を再確認させてくれた一品でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-04-06 17:10:31)(良:1票)
68.  恐竜・怪鳥の伝説 《ネタバレ》 
 とにかく恐竜の姿を見せずに焦らすもんだから「早くしてくれよ……」と、ヤキモキさせられましたね。  映画が始まってから四十分程が経過し、我慢の限界が近くなったところで、ボートに乗った女性が襲われるシーンに突入するという流れ。  ここで、それまで焦らされた分を取り戻すかのように、たっぷりとプレシオザウルスの姿を見せてくれたのが嬉しかったです。  女性が喰われるシーンが予想以上に残酷で、血生臭い演出であった点も、衝撃的でした。   ボートにしがみ付いてきて、まだ生きているかと思われた女性を引き上げたら、上半身だけの姿になっていた場面なんて、ちょっとしたトラウマ物。  この辺りの描写は恐竜映画というより、鮫などを題材としたモンスター・パニック物に近い魅力があったように思えますね。  実際に「JAWS/ジョーズ」の影響を受けて作られた品という逸話もあったりして、大いに納得です。   現代の観点からすると、ちょっと稚拙に見えちゃう特撮。  歌詞も曲調も、映画の内容と全然合っていない気がする歌やBGM。  「恐竜がいるなら翼竜がいてもおかしくない」という理屈で、唐突にランフォリンクスまで出てきちゃう脚本。  それらは普通なら欠点となりそうなところなのですが、自分としては妙に愛嬌が感じられて、憎めなかったです。  渡瀬恒彦演じる主人公が、恐竜の生存を信じていた亡父のロマンを受け継ぐかのような形で恐竜と向き合い「プレシオザウルス、お前はやっぱり生きていた……」と胸中で呟く場面なんかも、凄くシュールで、ほんのり情感も込められていて、何となくお気に入り。   それでも、いざ恐竜と怪鳥との戦いになると失速感が半端無かったというか「無理して戦わせなくても良かったんじゃないの?」なんて思えてしまったのが残念でしたね。  作り手としても力を込めたのは上述の「恐竜が人を襲う場面」であって、終盤の対決場面は、大してやる気が無かったんじゃなかろうか……って気がしました。  最後はお約束の「火山が全てを飲み込む」エンドだし、主人公とヒロインが溶岩に飲み込まれまいと樹にしがみついてジタバタする場面を延々引っ張るしで、流石にシュールさを楽しむ余裕も失せて、退屈な気持ちの方が強かったです。  主人公達が死んだのを連想させるバッドエンド風味なのも、好みとは言い難い。   とはいえ、最初から「奇妙奇天烈な怪獣映画」という予備知識があった為、大抵の事柄にはツッコミを入れながら笑って観られたし「予想以上に凶暴で恐ろしいプレシオザウルス」というサプライズもあった為、何だかんだで楽しめた一品でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-03-22 01:45:55)(良:1票)
69.  包帯クラブ 《ネタバレ》 
 監督が堤幸彦で、原作が天童荒太。  「この組み合わせ、上手くいくのかな?」と不安に思っていたのですが、杞憂に過ぎませんでしたね。   どうしてもコメディタッチな作風になってしまうんじゃないかという不安は「鬱屈とした展開が続いても、どこか可笑しみがあって、重苦しくならない」という形で、良い方向に昇華されていましたし、真面目な場面はキチンと真面目に撮るという切り替えが、しっかり行われている事にも感心。  職人監督と呼ぶに相応しい、手堅い仕事ぶりだったと思います。   幾つか不満点もあったのですが、その一つとして主人公達の身勝手さ、まだ未熟ゆえの「厨二病」っぽさが挙げられて、そこは観ていて痛々しく感じられましたね。  青春映画には付き物な話だし、だからこそリアルなのだとも考えられるのですが 「上から見下ろしてモノ言ってんじゃねぇよ」 「アンタが世間の何を知ってるって言うんだよ」  と不良娘が金持ちの友達に説教するシーンでは、どう見ても不良娘の方が「上から目線」で「世間知らず」じゃないかと思えたりして、感情移入し難いものがありました。  学校側に包帯クラブの活動がバレた際に、自分達がやった事じゃないとしらばっくれて「私達のこと信じてくれないんですか?」と泣き真似する件なんかは、正直言ってドン引き。  騒動を巻き起こして警察に捕まった後に「親父さんが偉い人だから釈放してもらえた」というオチが付く辺りも、凄く恰好悪かったです。  また、原作者の著作に関しては「家族狩り」と「永遠の仔」くらいしか読んでいないのですが、その二つに続いて子供の性的虐待が扱われていたものだから「またかよ」と、少々食傷気味になってしまう気持ちもありましたね。   それらに対し、良かった点はと言えば、まず「包帯クラブ」の活動を行う姿が、とても楽しそうであった事が挙げられます。  ともすれば「癒し」「許し」「救い」などのイメージばかりが先走って、宗教的な画面にもなってしまいそうなのに、あくまでも「若者達のクラブ活動」である事を忘れておらず、観ていて「自分もやってみたいな」と思わされるような魅力がありました。  特にお気に入りの「鉄棒に巻き付けた包帯を逆上がりさせる」件が、実は伏線であり、ラストシーンにて鮮やかに回収される流れなんて、凄く嬉しかったですね。  飲食店に皆で集まって、美味しそうに料理を頬張りながら「将来の夢」を語り合うというのも、微笑ましくて良い。   「誰も知らない」で抜群の存在感を放っていた柳楽優弥が、立派に成長した姿を見せてくれるのも嬉しかったですね。  彼が演じるディノが経験した事件と、その後の顛末に関しては「被害者だけでなく、加害者も、難を逃れた第三者さえもが、傷を負っている」という形になっており、色々と考えさせられるものがありました。  罪悪感を乗り越えて、久し振りに再会した男友達と交わす会話の内容が「包帯クラブに所属している女の子達は可愛いかどうか」なんていう下世話な内容である辺りも、実に良い。  「包帯も自分で巻けるようになった」という台詞によって、彼が自力で立ち直ったのだという事を、端的に示す辺りも上手かったと思います。   包帯そのものには傷を治す力なんてなかったとしても「自分の事を想って、包帯を巻いてくれた人がいる」という事実によって、人が癒される事もあるのだなと、しみじみ感じられる。  ちょっぴり痛みも伴うけれど、それ以上に優しい映画でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-01-25 13:30:07)(良:1票)
70.  パコと魔法の絵本 《ネタバレ》 
 「大人向けの絵本」という、一見すると矛盾した表現が似合う作品。   中島監督作といえば「下妻物語」も「嫌われ松子の一生」も、現代の寓話、大人の為の絵本というフレーズが似合いそうな趣きがありましたからね。  本作においても、感動と笑い、対話と活劇、それぞれの要素がバランス良く詰め込まれていたように思えます。   印象深いのは、人間としての「強さ」に拘っていた主人公の大貫が 「強くなきゃ、会社も興せなかったし、財産だって……」  と言いかけてから、手に入れた二つが絶対的な価値を持つものではないと悟ったように、言葉を詰まらせるシーン。  正直、ここに至るまでは (いくらなんでもオタクっぽさが濃過ぎる) (テンションの高いギャグシーンにも付いていけないし、この映画とは相性が悪い)  と、少々うんざりしながら観賞していただけに、ここでハッとさせられた感じでしたね。  劇中の大貫が「周りを見下していた傲慢な人間から、心を入れ替えて誠実になる」という変化を遂げる流れと、観客として、上手くシンクロ出来た気がします。   この手の「主人公の改心話」というのは王道ネタであり、決して目新しくはないのですが 「急に良い人ぶりやがって」 「今更善人ぶったって手遅れなんだよ」  という批判が、作中で行われている辺りも面白かったです。  人生という枠組みで考えてみた場合、晩年に良い人になったとしても、それまでの長い年月を悪人として過ごしたのだとすれば、彼を一概に「善人」という括りでは語れないでしょうからね。  物語としては、悪人から善人に転身した者の方が輝いてみえたりもしますが、実際は「一度も悪人にならず、生涯を善人で通した人」の方が、ずっと立派だよなぁ……なんて考えが浮かんできたりもしました。  こういった道徳的な側面というか「観る者に考えさせる」描写を挟んでいる辺りは、実に絵本らしくて良かったと思います。   個人的に最も好きなのは、落ちぶれた元子役と、彼のファンだった看護婦とのやり取り。 「その子は、ろくでなしの親と二人暮らしで、貧乏で、馬鹿で、不良で、生きてても、何にも良い事なくて……」 「だけど、その男の子を観ている時だけは、凄く幸せで……」 「アンタは、その子の夢だった」  という独白から、彼に「俳優」としての再起を促す件は、本当に良かったですね。  この映画におけるクライマックスは、ここだったんじゃないかと思ってしまうくらい。   それが影響しての事なのか、終盤にたっぷりと尺を取って描かれる「ガマ王子VSザリガニ魔人」の劇については(ちょっと、長過ぎじゃない?)と思えたりもして、残念。  「皆で劇をやろう!」と決意して、それぞれ稽古したりする件が一番盛り上がっていたと思うので、劇そのものは、もっと短く、アッサリ済ませた方が良かったんじゃないでしょうか。   それと、本作の特徴としては、感動と笑いを交互に提供するような演出が挙げられるのですが、劇の中でザリガニ王子を倒す件で「笑い」の方を選択し「ドリフかい!」で倒しちゃうのも、ちょっと好みとは違っていましたね。  それまで充分に笑いは取っていた訳だし、敵役を倒す場面はシリアスに、感動の方で〆て欲しいと願っていただけに(あぁ、そっちを選んだのかぁ……)と嘆息させられた形。   劇の最中、発作を起こして死んだと思われた大貫が、実は生きていたというオチの後 「死んだ方が良かったかにゃ?」 「そっちの方が感動的だし……」  なんて会話を交わして、笑いを取ったのに、大貫を改心させたパコの方が死んでしまうという「感動的」な展開に移行するのも、ちょっと悪趣味に思えてしまい、ノリ切れず。   最初は白け、途中からは大いに没頭し、終盤にて再び白けてしまったという形の為、何とも評価が難しいですね。  「観客をふるいにかける映画」なんて言葉がありますが、この映画で最後まで落ちる事なく楽しめた人にとっては、凄まじい傑作と思えるんじゃないでしょうか。  自分は残念ながら脱落してしまった訳ですが……  付いていけずに落とされた後にも、魅力の余韻が残る一品でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-01-25 06:39:11)(良:1票)
71.  赤穂城断絶 《ネタバレ》 
 深作監督の描く「仁義なき忠臣蔵」と聞き及び、さぞやバイオレンスな内容なのだろうなと予想していたのですが、思っていた以上に王道な作り。   吉良邸討ち入りのシーンでは血生臭さ全開だし、小林平八郎(渡瀬恒彦)と不破数右衛門(千葉真一)というファン感涙の戦いも用意されてはいるのですが、全ては「忠臣蔵」というオーソドックスな物語の枠に収まっている印象でしたね。  それだけ、この題材は器が大きいという事なのだろうなと納得し、安心感も覚える一方で「どうせなら、もっと破天荒な内容にして欲しかったなぁ」という物足りなさもあったりしました。   思うに、赤穂城にて「すわ籠城戦か」と盛り上がる件や、上述の討ち入りの件では確かに「この映画だからこその、荒々しい魅力」を感じられたのですが、吉良殺害を成功させた後の切腹までのシーンが妙に長く、そこで平坦な演出が続く関係上「結局は、数ある忠臣蔵映画の中の一つ」という印象に繋がってしまった気がしますね。  勿論、内蔵助の切腹シーンは迫力があったし、深作監督の面目躍如といった感じでしたが「討ち入りから切腹までの時間を、もっと短く纏めていれば、より鮮烈な印象を与えられたのではないかな……」と思ってしまったのも事実です。   それと、橋本平左衛門のエピソードは単体で観れば面白いのですが、メロドラマ的な悲劇となっており、この映画の中では浮いているように感じられたりもして、ちょっと残念。  浅野大学による御家再興が認められそうになっても、あまり嬉しそうな素振りを見せず、そちらよりも「吉良を討って浅野家は武門の家柄である事を示す」のに拘っていそうな武闘派な内蔵助に期待感が高まっていただけに、中盤以降どんどん出番が減ってしまうのが、何だか拍子抜けだったのですよね。  一時的に橋本が主役格となり、彼が死んで再び内蔵助に主点が戻るという構成なのが、どうも落ち着かない印象を受けてしまいました。   最後は、ともすればバッドエンドにも感じられそうな空気の中で「時代と共に人の心も変ったが、今もなお(赤穂四十七士に)香華を手向ける人が絶えない」というテロップを挟んだ辺りには、作り手の優しさが感じられましたね。  後味も悪くないし、印象に残る場面も多いという、中々の満足感が味わえる一品でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-01-12 23:45:55)
72.  予告犯 《ネタバレ》 
 この映画、面白いです。   面白いんですけど……序盤の拷問シーンで「悪趣味だなぁ」と思い、終盤の感動シーンで再び同じ感想を抱いてしまったので、どうも手放しでは褒められない内容。  「良い話にしようとしているのは分かるけど、無理あるよね?」という思いが浮かんで来てしまい、中々それが消え去ってくれなかったのです。   結局のところ、本作を楽しむ上でのキーポイントは「外国人の友達が死んでしまった」→「彼は死ぬ前に父親に会いたいと願っていた」→「自分達で探しても父親は見つからない」→「日本で一番捜査力が高いのは警察。死んだ友人の名前を騙って事件を起こし、彼らを動員して父親を探させよう」という、犯人達の行動を受け入れられるかどうかに尽きるのではないでしょうか。  自分としては「死んだ友人の名前を騙って」の部分が、ちょっと受け入れられなくて、本当に友達想いの奴なら、そんな事はしないだろうと白けてしまい、残念でしたね。  作中のテーマとしては「理由があって、頑張れない奴もいる」という、社会的弱者の存在を肯定するような意図があったのだと思われます。  けれど、就職活動はともかく、父親探しにおいて主人公達が「頑張れない」理由がハッキリしなくて、真っ当な方法では探せないと諦めて、死んだ友達に犯罪者の汚名を着せるのを承知の上で、楽な手段を選んだだけとしか思えないのです。  せめて「何年もかけて自力で探したけど手掛かりすら掴めなくて、止むを得ず最後の手段を選んだ」という形なら納得も出来るのですが、そういった過程を経ていないので、主人公達が努力を放棄したようにしか見えない。  酷く典型的な台詞になってしまうのですが「そんなやり方を、本当に生前の友人は望んでいたのか?」という疑問も浮かんできます。   それらの罪を償う為の自殺オチだったのでしょうが、終盤やたらと主人公を賛美する展開になっているものだから、どうも作り手との価値観のズレを感じました。  主人公と対峙し、その思想を否定する立場だった美人女刑事にまで「全てを予告し、やり遂げた」と嬉しそうに言わせたりしたのは、ちょっとやり過ぎだったんじゃないかなと。  生き残った犯人グループの仲間が、罪を全部主人公に被せて自分達だけ助かる件も、シニカルに描くのではなく「主人公の自己犠牲の美しさ」を強調するような演出だったりするものだから(えっ、そこで感動させようとするの?)と驚いてしまったくらい。   その他、主人公が会社での陰口に気が付く件なんかも、あまりにも非現実的な「周りの人間は皆、嫌な奴」過ぎて(これ、現実なの? それとも主人公がそういう被害妄想を抱いているって描写なの?)と戸惑ってしまったし、女刑事と犯人の追跡シーンでも(どうして応援を呼ばないんだ? 刑事なら何らかの連絡手段は確保しておくべきでは?)と集中力が削がれてしまった形でしたね。  そういった諸々が伏線なのかと思いきや、全然そんな事は無かったという意味も含めて、終盤の展開が本当に残念。   「作中で明かされた真相に納得がいかなかった」というパターンの為、ついつい文句を並べてしまいましたが、以下は良かった点を。  まず、導入部から展開がスピーディーで「異常な犯人、シンブンシの目的は何か?」と観客にも推理させていく流れは、とても楽しかったですね。  映画の構成としては、序盤は刑事側の目線で事件を追いかけていく形であり、中盤以降に主人公=犯人へと視線転換して、その背景が明かされる訳ですが、順番が逆だったら冗長な話になっていたでしょうし、この導入部には「掴みが上手い」と感心。  主演の生田斗真の力によって、新聞紙で覆面をして犯行予告するシーンでも、ダークヒーロー的な恰好良さが醸し出されており、作中で彼らの賛同者が生まれていく展開に、さほど不自然さを感じさせなかった辺りも有難かったです。  ここのハードルをクリアしてくれないと、作中の世界観が根底から崩れかねないので。   犯人グループが仲良くなっていく過程も、短いながらも丁寧に描かれており、青春ドラマとしての魅力も備えている形。  主人公の「友達が欲しい」という夢が叶っていたのを示す、和気藹々としたやり取りを、最後の最後に持って来て、カタルシスを与えて終わらせた辺りも、上手かったですね。  ここで「良い友達を持つ事が出来て、幸せだ」などと口に出しては言わせず、主人公の表情や音楽などで伝えてみせる演出は、本当に好み。  決してハッピーエンドではないはずなのに、それに近い味わいがありました。   色々と気になる点は多かったのですが、それらを差し引いても面白かったし、良い映画だったと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-12-28 12:09:22)(良:1票)
73.  四十七人の刺客 《ネタバレ》 
 とにかく展開が早い早い。  なんせ冒頭いきなり「大石内蔵助は既に藤沢を出て、鎌倉に潜入していた」とナレーションで語られるくらいですからね。  大石内蔵助とは何者なのか、何故鎌倉に潜入したのか、などの説明は放ったらかしにして、どんどんストーリーが進行していくという形。  忠臣蔵映画には上下巻に分かれている代物も珍しくない為、もしや下巻に相当するディスクから再生してしまったのだろうかと、確認してしまったくらいです。   全体的に「観客の皆は、忠臣蔵のストーリーくらい当然知っているよね?」という前提で作られているようであり、予備知識が備わっていない人にとっては不親切な作りにも思えましたね。  せっかくナレーションで色々と説明してくれているのに、それも「コレはこういう役職であり、この人はこういう人で~」と理解を促すような内容ではなく、あくまでも状況説明に留まっている感じ。   大石側と色部側の謀略戦にスポットが当てられているのは面白かったのですが、どちらかといえば宮沢りえ演じるヒロインとの恋模様が中心となっているのも、ちょっぴり不満。  幾らなんでも男女の年齢差があり過ぎて、アンバランスな組み合わせに思えるのに、描き方はといえば「普通の男と女」といった感じでスタンダートに仕上げられているのが、観ていて居心地が悪かったのですよね。  ラストシーンといい、ともすれば宮沢りえのアイドル映画と言えそうなくらいの登場比率なのですが、自分としては彼女は脇役に留めておいた方が良かったんじゃないか、と思えてしまいました。   その一方で「襲撃者に足音を消されぬよう、屋敷の周りに貝殻を敷き詰めておいたりして、入念な準備を整えた上で敵を返り討ちにする大石親子」などの場面は、実に良かったですね。  切り裂く時の音が空振りしているようにしか聞こえない点など「えっ?」と思わされる瞬間もありましたが、ハードボイルドな高倉内蔵助の魅力が堪能出来たワンシーンでした。   終盤にて、黒尽くめの刺客が吉良邸の門前に集い「四十七人」と総数を読み上げられる場面もテンションが上がりましたし「握り飯と水を補給する」「刃毀れに備えて替えの刀を用意しておく」といった兵站面を重視した描写も良い。  吉良屋敷に迷路が拵えてある点などは、冒頭で知らされた際には「えっ、何それ」「そんなコミカルな忠臣蔵だったの?」という戸惑いの方が大きかったのですが、それも実際に戦う場面では、予想していたよりもシリアスな見せ方で「殺し合い」という空気を決定的に損なってはおらず、上手いなぁと感心。  いざ討ち入りになってから、唐突に「実は吉良屋敷は迷路になっていたのだ」と種明かしされる形だったら、流石に「なんだそりゃ!」と衝撃を受けてしまい、テンションだだ下がりになっていたでしょうけど、この場合は映画が始まってすぐに「迷路になっているよ」と観客に教えておく事により、自然と消化されるのを待つというテクニックが用いられているのですよね。  それが効果を発揮してくれたみたいです。   ラストの大石の一言「知りとうない」に関しては、色々と解釈の分かれそうなところ。 「武士の意地を見せる為に決起したのだから、本当は真相など、どうでも良い」 「最初は真相を知りたいという気持ちもあったが、もはや自らの死も覚悟して討ち入りした以上、真相究明などは些事に過ぎない」  などと考える事も出来そうな感じでしたね。   以下は、自分なりの解釈。  「討たれる覚えはない」「いきなり浅野が喚いて、儂に切り掛かってきたのだ」「二人の間に遺恨などあろうはずがない」という吉良側の証言を信じるなら、恐らく真相は「浅野が乱心した」というものであり、吉良を含めた幕府側が口を噤んでいたのも、浅野の名誉を慮っての事だったのではないでしょうか。  つまり、大石が「知りとうない」と言い放ったのは「真相に興味がない」ではなく「真相を知りたくない」という意思表明。  吉良の口を永遠に塞ぐ事こそが、討ち入りの目的の一つだったのではないかな、と。  そもそも大石は情報戦の一環として「浅野内匠頭は賄賂を行わなかった正義の人である」という噂を流すなど、主君を美化しようとする意志が窺える男です。  内心では薄々「殿は乱心めされたのだ」と勘付きつつも、序盤で仲間に語り聞かせた通りの「優しい殿」であって欲しかったという願いゆえに、吉良の口から真相を聞かされる事を拒み、浅野のように派手に刀を振り下ろす事なく、冷静に突き殺してみせたのではないか、と感じられました。   もし、本当にそうであったとすれば、何とも切ない映画だと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-12-06 19:47:57)(良:1票)
74.  武士の一分 《ネタバレ》 
 姉妹作とも言うべき「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」については、何年も前に観賞済み。  何となく観そびれていた本作にも、ようやく手を出してみたのですが、上記二作と変わらず楽しむ事が出来ましたね。   とにもかくにも主演に「現代のアイドル俳優」というイメージが強過ぎる為、最初の内は「武士という割には軽過ぎる」という違和感もあったのですが、それが中盤以降の悲劇的な展開との落差を生む事に繋がっており、結果的には良かったと思います。  妻の加世、中間の徳平に軽口を叩く姿も、ちょっぴり嫌味なのに愛嬌がある辺りなんかは、正に木村拓哉という存在だからこそ、という感じ。   また、真っ当な殺陣の魅力に関しては一作目の「たそがれ清兵衛」で存分に描いている為、二作目と三作目においては「隠し剣」「盲目の武士の戦い」という変化球で攻めた辺りも正解だったのではないでしょうか。  歴代の中でも、間違いなく本作が一番不利な状況下での戦いであった為、前二作と同じ流れで最後は主人公が勝つだろうと安心しつつも「本当に勝てるの?」という緊張感を、適度に抱く事が出来たと思います。  あえて言うなら「決闘の場所の下調べくらいはしておくべきじゃないか」とも思えましたが、それをやるのは卑怯という価値観なのかなと、何とか納得出来る範疇でした。   それよりも個人的に残念であったのは、タイトルにもなっている「武士の一分」の使い方について。  復讐の動機は、妻が辱められた事にあると言い出せず「武士の一分としか申し上げられません」と絞り出すような声で訴える場面は凄く良かったと思うのですが、その後も「武士の一分」という言葉を繰り返し用いるものだから、ちょっと重みが薄れたように感じられてしまったのですよね。  全ては「あの御仁にも、武士の一分というものはあったのか」という台詞に繋げる為だったのかも知れませんが、それならせめて使用は二回までに留めて欲しかったなぁ、と。   脇役に関しては魅力的な顔触れが揃っており、本人に悪気は無くとも傍迷惑な叔母さんは妙に憎めなかったし、意外な名君であった殿様の存在感も良かったですね。  特に後者に関しては、主人公の失明後も「大儀」と一声掛けるだけであり、所詮は家臣の事など軽く考えている天上人なのだと示す場面があっただけに、その後に真相が明かされる場面には、完全に参ってしまいました。  家老の結論を覆し、藩主自ら主人公を庇ってみせたのだと判明する、あそこの件が、この映画のクライマックスだったのではないでしょうか。   結局、決闘については周りに知られぬまま、主人公の仇討ちが咎められる事も無く、離縁した妻とも再び結ばれるハッピーエンドを迎えた本作。  ですが、あの殿様であれば、たとえ事情を知ったとしても、きっと公明正大な処置を下されたのではないかな、と思えました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-11-17 12:10:58)(良:2票)
75.  金閣寺 《ネタバレ》 
 1958年の「炎上」に比べると、かなり原作に忠実に映像化されている一品。   特色としては、エロティックな表現が強まっている事が挙げられそうで「米兵に指示されて女の腹を踏みつける場面」「母が不義を働く姿を寝床から見つめる場面」などは、思わず目を背けたくなるような鮮烈さがありましたね。  これらが単なる「観客へのサービス」で終わらずに「主人公が金閣寺に火を点けた理由」とも密接に絡んでいる作りには感心させられましたが、それによって主人公が単なるマザコン青年にしか思えない形となっていたりもして、少々残念。   母親と、主人公の初恋の相手である「有為子」の比重が増している為、金閣寺の存在感というか、重要性が薄れてしまっている点も気になりましたね。  何せクライマックスの放火シーンにて、火を放った直後には母の乳房に吸い付く幻影を見ているし、最後の一言は「有為子」であるのだから、結局主人公が執着していたのは「女性」であって、金閣寺の「美」に対してではなかったのだな……と、寂しく思えてしまいました。   主人公の友人である鶴川についても、比較的出番を確保されてはいたのですが、原作にあったような「主人公と明るい昼の世界とをつなぐ一縷の糸」というほどの重要性は感じられず、単なる男友達という枠の中に収まっていて、どうにも物足りない。  原作を未読の方からすると、鶴川の葬式で泣いていた主人公の姿が「どうして、そこまで悲しむの?」と、不可解に思えたのではないでしょうか。  内面描写が主となる小説ではなく、映画で表現する以上は、破天荒な柏木の方にスポットを当てるのが正解なのかも知れませんが「炎上」に続けて扱いが悪かった鶴川というキャラクターが、何だか哀れに感じられましたね。  主人公と正反対に思えて、その実は非常に近しい性質を備え持っていた彼が「自殺」という道を選んだからこそ、原作におけるラストシーンの「死を拒み、生を選ぶ」行為の美しさが際立つ訳なのだから、そこは外して欲しくなかったところです。   そんな不満点もありましたが「この世界の全てを拒んでいる有為子の美しさ」「神聖な儀式のように、茶碗に母乳を注ぎ入れる女性」などの場面が、丁寧に映像化されている辺りは、素直に嬉しかったです。  舞い散る火花を見つめながら、息を切らして煙草を喫む主人公の姿なんかも、金閣寺を征服してみせたという達成感、ギラギラした野性的な魅力のようなものが感じられて、良かったですね。  原作とも「炎上」とも異なる魅力を備えた、しっかりと完成された一品であったと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-10-30 03:09:02)
76.  あしたのジョー(2010) 《ネタバレ》 
 観賞中「えっ? ウルフ金串戦もやるの?」「力石の死後まで描くの?」と二度吃驚。  おまけに映画オリジナルのエピソードとして「ドヤ街に憎しみを抱く白木葉子」なども追加しているものだから、実にボリューム満点。  それを二時間ほどに纏めてみせて、これ一本だけでもキチンと完結している品に仕上げた手腕は見事だと思うのですが、やはり駆け足な印象も受けてしまい、評価の難しいところですね。   自分としては、如何に魅力的だとしても「ダブル&トリプルクロスカウンター」の存在共々ウルフ戦はカットし、もっとジョーと力石に焦点を合わせた作りの方が良かったのでは……と考える次第。  恐らくはアニメ版のリスペクトと思しきスローモーション演出を「力石との初戦」→「ウルフ戦」→「力石との再戦」と立ち続けに見せられる形となっているので、どうしても単調な印象を受けてしまうのですよね。  後述の減量シーンに関しても、もっと尺を取って描き、普段は紳士的に振る舞っていた力石がマナーを無視して果実に齧り付く場面なども再現してくれていたら、更に感動出来たかも。   役者陣に関しては、主役二人の見事な肉体改造っぷりも併せて、ほぼ文句無し。  丹下段平のルックスだけは、あまりにも漫画チックで浮いているような印象は受けましたが、それを打ち消すほどの迫力が力石から感じられましたね。  減量中に我を失い、水を求めて彷徨うシーンなんて「台詞回しは原作漫画の方が詩的で良かったかな……」と頭の片隅では冷静に思っているはずなのに、目線は画面に釘付けという、不思議な感覚を味わう事が出来ました。  特に嬉しかったのが、力石の死因となったであろう「後頭部をロープで強打してしまう場面」が、より印象的になっていた事。  原作漫画では少しインパクトが弱かった気もしただけに(もしかして死ぬんじゃないか?)と初見でも思えるような仕上がりになっているのは衝撃でしたし、それはひとえに、力石を演じた伊勢谷友介の力が大きかったのではないでしょうか。  生きている俳優が「この人は、もうすぐ死んでしまうんだ……」と観客に思い込ませるのは、とても大変な事でしょうが、本作ではそれを見事に成し遂げてみせたように思えます。   終盤にて「ジョーが如何にして力石の死の衝撃から立ち直ったか」を描く尺が足りず、観客の想像に委ねる「空白の一年からの帰還」で済ませてしまったのは非常に残念でしたが、リングの中に力石の幻影が現れる場面は、とても良かったですね。  ここって、一歩間違えれば「ジョーもリングで死なせようとして誘っている死神」としての力石にしか見えなくなってしまうはずなのに、全くそれを感じさせない笑顔で「二人の友情の証としてのボクシング」の魅力、楽しさや面白さを伝えてくれているのです。  力石の死をクライマックスに据える以上、後味の良いハッピーエンドにするのは難しいと思っていただけに、それを裏切ってくれた事が、実に痛快。   原作の最終回におけるジョーの生死は未だに議論の的となっていますが、少なくとも本作におけるジョーはリングで死を迎える事なく、引退後もボクシングに関わりながらドヤ街で生き続けたのではないかな、と思えました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-10-16 11:58:54)
77.  お葬式 《ネタバレ》 
 病院の定期検診にて健康のお墨付きを貰い、その祝いとばかりに贅沢をして「ロースハム」「アボカド」「鰻」を食す。  主人公の父親は、そんな幸せな瞬間を味わった後に最期を迎えた訳で、この導入部からして、何だか本作の内容が窺えるような気がしましたね。  確かに怖いものやら悲しいものやら色々と含まれているのだけど、根本的には「楽しい」「面白い」「幸せ」といった、前向きな要素の数々で構成されている感じ。   それにしてもまぁ、主人公が不倫相手の女性と、互いに喪服のまま性行為に耽るシーンには、度胆を抜かれました。  妻役が宮本信子である点も含めて、この主人公は明らかに監督の伊丹十三そのものだろうに「えっ? そんな事しちゃって大丈夫なの?」と、観ているコチラがドキドキしてしまったくらい。  勿論、やっている事は単なる不貞行為なのだから、嫌悪感を抱いていてもおかしくないシーンだったのですが、衝撃が大きかったゆえか、余り拒否反応は出て来なくて、不思議な感覚でしたね。  下品かつ失礼な表現で申し訳ないのですが「女優さんのお尻、あんまり綺麗じゃないなぁ……」という考えが、薄ぼんやりと浮かんできて、その後は気が付けば画面に釘付けになっていました。   夫の不倫なんて全部承知の上よと言わんばかりの表情で、妻が丸太式のブランコを漕いでいる姿なんかも、実に印象深い。  何やら恐ろしげな演出だったのですが、何となく自分には「夫の情けない行いを止める事が出来ない女の弱さ、滑稽さ」のようなものを感じてしまい、怖い顔をしているはずの彼女が、哀れに思えたりもしましたね。   そんな場面を経ているにも拘らず、終盤にて「大丈夫よ、貴方」「貴方、何時だって上手くいくんだから」と夫を励ましてくれたりもするのだから(良い嫁さんだなぁ)と、しみじみ感心。  ここの台詞は「初監督作品」への不安を抱えた伊丹監督自身に対しての言葉でもあるのでしょうね。  不倫問題が悲劇的な結末に繋がらなかった事にはホッとする一方で、放ったらかしな扱いには、居心地の悪さも覚えたのですが、きっとこのシーンにおける妻の優しい態度こそが「それでも貴方を愛して、夫婦として支え続けてあげる」というメッセージ、彼女なりの「許し」の証なのでは……と、推測する次第。  ちょっと男にとって都合が良過ぎる考えですが、どうも伊丹映画におけるヒロイン=宮本信子って、こういう「アンタにとって都合の良い女でいてあげるよ」的な優しさを漂わせているもんだから、ついつい、それに甘えたくなってしまいます。   火葬場にて、職員の人から「死体が生き返ったりしないか心配になる」「赤ちゃんの死体は骨まで燃やし尽くさないよう、弱めの火で、静かに焼いてやらないといけない」という話を聞かされる件なんて、さながら社会科見学のよう。  作法なども含め、恐らくは監督としても意図的に「お葬式の教材ビデオ」めいた側面を持たせているとは思うのですが、自分としては少し苦手に感じたというか(そういうのは、ちゃんと他で勉強するよ)なんて気持ちに襲われたりもして、残念でしたね。  同監督の作品なら「ミンボーの女」における「ヤクザのあしらい方講座」などは、同じ教材ビデオのようでも、ちゃんと観ている限りでも痛快で面白かったのですが、デビュー作である本作に関しては、そういった娯楽的観点のようなものが、まだ充分に育まれていないように思えました。   そんな中でも、香典が風に舞って、人々が慌てて拾い集める事になるシーンのユーモラスさ。  最後の最後に、故人の妻が感動的な挨拶をして、綺麗に締める辺りの手腕などは、流石といった感じ。   自分の場合は、事前に伊丹監督の後年の作を観賞済みであった為、どうしてもそれらと比較し「未熟さ」「稚拙さ」の方を感じ取ってしまったみたいですが、もしも、この映画が「伊丹映画初体験」であったなら (デビュー作で、これだけのモノを撮るだなんて、凄い!)  と、もっと興奮し、感動出来たかも知れませんね。  非常に惜しまれる映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-10-07 05:34:42)
78.  耳をすませば(1995) 《ネタバレ》 
 何といっても印象深いのは、図書カードの件。  自分と全く同じ好みをした異性がいるだなんて、正に運命。  天沢くんに惹かれる主人公の気持ちも分かるなぁ……と思っていたら、それは運命でも偶然でも何でもなく、単に「好きになった女の子が読みそうな本を、男が片っ端から借りていただけ」だったと判明して、もう吃驚です。  主人公もコレには引いちゃうんじゃないかなと思っていたら、頬を染めて、ときめいている様子だった事には、更に驚かされましたね。  昔の恋愛映画って、現代の観点からすると「これってストーカーでは?」とツッコミたくなる展開が多いんですが、本作もその一例として挙げる事が出来そう。   監督は近藤喜文ですが、脚本や絵コンテなどは宮崎駿が担当している為か(相変わらずのロリコン映画だなぁ……)と思わせてくれる事にも、何だかほのぼの。  本当に、拘りを持って「如何に主人公の少女を可愛く描くか」を突き詰めたのが伝わってきて、恐らくは性癖的に近しい要素を持っている自分としても「あざとい」「不道徳」と思いつつも、惹かれるものがありました。   そして、これが大事なポイントなのだと思うのですが、本作って少女だけでなく、相手役となる少年も、凄く魅力的に描かれているんですよね。  美男子で、優等生で、特別な才能を持っていて、夢に向かって一直線でと、同性の自分からすると嘘臭く感じるくらいなのですが、そもそも劇中の主人公カップルって「女性から見ると嘘みたいな少女」と「男性から見ると嘘みたいな少年」という組み合わせで成立しているのであり、そこが男女問わず観客の心を掴む要因になっている気がします。   男友達に対し「本当に鈍いわね」と怒っていた主人公が、実は自分の方がずっと鈍感だったと分かる流れも面白かったし「人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。何が起きても誰のせいにも出来ないからね」という父親の台詞も、胸に沁みるものがありました。   もう一つ印象深いのは「自分よりずっと頑張っている奴に、頑張れなんて言えないもん」という台詞。  主人公が天沢君に対して引け目を感じていた理由が、この一言に集約されている感じがして、とても秀逸だと思いましたね。   そもそも本作って、天沢君は典型的な「王子様」キャラだし、そんな彼と、ごく普通の女の子が結ばれるという、極めて少女漫画的なストーリーなんです。  にも拘らず、男である自分が観ても共感を持てるのは、具体的に「彼に見合うような人間になる為に、主人公も頑張る」という姿が描かれてるからなんですね。  だからこそ応援したくなるし、そんな「頑張り」が暴走して、勉強の方が疎かになってしまい、しっかり者な姉との口喧嘩にて、つい強がって「高校なんて行かないから」と言っちゃう辺りも、痛々しいくらいにリアルに感じました。  この辺り(ちゃんと彼の事を家族にも話した方が良いのでは?)と、大人になった今では思ってしまうのですが、子供の頃って、こういう不思議な意固地さがありましたからね。  何だか懐かしい気持ちと、恥ずかしい気持ちを、同時に味わう事が出来ました。   クライマックスの、まだ薄暗い夜明け前。  自転車に二人乗りして「オレだけの秘密の場所」に向かうシークエンスなんか、本当に素晴らしく、それと同時に面映ゆくて、観ていられないくらい。  「それじゃ寒いぞ」と彼女に上着を渡す仕草。  「私も会いたかった」と彼の背中に頭を添えて呟く主人公の姿など、青少年が憧れてしまうシチュエーションが「これでもか!」と詰め込まれているのだから、もう圧倒されちゃいます。  上述の「彼に一方的に幸せにしてもらうだけの女の子ではありたくない」という想いが、坂道での「共同作業」にも表れており、これには(良いカップルだなぁ……)と、素直に祝福したい気持ちになれましたね。  最後には、結婚の約束までしちゃう事すらも、この二人ならば、自然に思えます。  万が一結ばれなかったとしても、一連の出来事の数々は、素敵な初恋の思い出として、いつまでも心の中に残りそう。   脇役であった杉村君と夕子ちゃんの恋の顛末を、エンドロールの中でサラリと描いてみせるのも、御洒落でしたね。  天邪鬼な自分からすると、主人公カップルが眩し過ぎて、まるで幻みたいで、どうにも感情移入しきれない部分もあったりしたのですが……  それを差し引いても、良い映画だったと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-10-06 04:50:57)(良:1票)
79.  半分の月がのぼる空 《ネタバレ》 
 作中にて「こういうの言うのって、疲れるね」との台詞がありましたが、観ているこちらまで疲れてしまうような内容。   まず、大泉洋が主人公の未来の姿であったという叙述トリックについては、見事に騙されました。  その驚きと感動が同時に味わえる演出は確かに凄いと思うのですが、ただ一点。  主人公には娘の未来がいるにも拘らず「里香がおらん俺の人生、空っぽや」なんて、それだけは父親として絶対に言っちゃいかんだろうという台詞を口にしたのが、受け入れ難いものがあったのですよね。  過度な自己憐憫で泣かせようという、作り手の意図が透けて見えたように思えて、折角の感動的な場面なのに、白けた気持ちになってしまいました。  せめて、その後にもっと明確に「自分には娘がいた」と気付いて反省したり、この子の為に頑張って生きようと決意するシーンがあったりすれば良かったのですが、それも無し。  また、最後に勇気を出して手術を行うと決意する理由も「里香の命令やもんで」って、照れ隠しではなく単なるヒロイン依存症に思えてしまい、残念でした。   基本的にはベタな「難病もの」であり、王道の魅力を備えているのだから、ツボにハマれば、素直に感動出来たのだと思います。  けれど、本作は自分の好みとは違っていたみたいで、何だか凄く勿体無い気持ちになりましたね。   一緒に病院を抜け出して、ヒロインの思い出の場所に連れて行ってあげる件。  そして学校の劇に、急遽代役として二人が出演する件などは、ご都合主義ではあるけれど「青少年がやってみたいと願う事を、映画の中で疑似体験させてくれる」という意味では、とても良かったですし、好印象。  特に後者の最中にて「私は、一瞬でも長く貴方の御傍にいたいんです」という台詞を、ヒロインが迷った末に口にする流れなんかは、本作の白眉であるように感じられました。  その劇の後、お姫様の恰好のまま倒れたヒロインを、王子様の恰好をした主人公が病院へと運ぶシーンにて、おんぶ等ではなく、ちゃんとお姫様抱っこで運んでいる辺りにも感心。  こういった細かい部分にて、観客の喜ばせ方を心得ているかどうかって、とても大切な事だと思います。   宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」が作中で効果的に扱われている辺りなども、ファンとしては嬉しい限り。  ラストにて、二人のキスと同時に、エンディング曲が流れ出す演出も秀逸でしたね。  性行為などの演出は徹底的に省いているのも「純愛」「真摯な物語」といった感じがして、作り手の誠実さが伝わってきます。   細かい部分での違和感、好みの違いはありましたが……  決して嫌いにはなれない、とても真面目な映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-09-28 22:03:22)(良:1票)
80.  二代目はクリスチャン 《ネタバレ》 
 主人公であるシスターの「相手役」となる男性が三人もいる為、やや忙しない印象を受ける本作。  そんな中、最もコミカルで情けない印象のあった神代が最後まで生き残り、オイシイところを持って行く辺りは、如何にもつかこうへいらしい作風だなと思えて、嬉しかったですね。  また、自分としては最初に画面に登場した晴彦が主役格になるだろうと予想していただけに、かなり早い段階(映画が始まって一時間ほど)で彼が死亡する展開にも吃驚でした。   ちょっと気になったのは、作中でシスターが賽の目を当てる才能を発揮する場面。  てっきり何かの伏線かなと思っていたのですが、終盤には全く出て来なかった為、何だか置いてけぼりな感じを受けたのですよね。  最初は「信仰心によって齎された超常的な力がある」と解釈していたのですが、今になって考えてみるに「父親も伝説的な侠客だった彼女には、極道の素質がある」という描写だったのでしょうか?  それならば、クライマックスにて敵対組織を壊滅させた強さにも一応納得なのですが、もう少し分かり易い形にしても良かったんじゃないかな、と。   終盤、教会を襲撃されて仲間達が次々に殺されていく展開は、迫力があり、ユーモアもあり、良かったですね。  敵がバズーカまで持ち出して、教会の中に撃ち込んだ際には、不謹慎ながらも「そこまでやるか!」と笑ってしまったくらい。  その一方で、復讐を訴える信徒が「父親殺し」の過去を告白するシーンは、非常にシリアスで、真に迫っていてと、演出の緩急が見事だったと思います。   とうとう刀を手にした主人公と、北大路欣也演じる英二との、雨の中での対話。  そして殴り込みをかけたシスターが 「悔い改めたい奴は、十字を切りやがれ!」  と啖呵を切る場面なんかも、忘れ難い味がありました。   神代が全ての罪を背負うという決着の付け方には (本当に、それで良いの?)  とも思ってしまうのですが、この辺りは「男が好きな女の為に、恰好を付けてみせる」という、つかこうへいイズム、独特の美学ゆえの結末だから、文句を付ける方が野暮なのでしょうね。   そういった諸々の価値観も含め、主人公が女性であるにも関わらず、非常に男性的な映画であったように思えました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-09-22 16:30:30)
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