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かたゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1888
性別 男性
年齢 48歳
自己紹介 自分なりの評価の基準は、
10・超大好きな作品。完璧。映画として傑作であるばかりでなく、自分の好みと見事に合致している。
9・大好きな作品。完璧に近い完成度。手放しに歴史に残る傑作といっていい。
8・好きな作品。本当に面白い。欠点があるかもしれないが、それも含めて好き。
7・少し好きな作品。普通に面白い。欠点もあるかもしれないが、そんなに気にならない。
6・普通の作品。可も無く不可も無く。最後までストレスなく観られる。面白いけど、心に残るものはあまりない。
5・少しつまらない作品。最後まで観るのにちょっとストレスを感じた。面白い部分も多少はあった。
4・つまらない作品。最後まで観るのが苦痛だった。ほとんど面白いところが感じられなかった。
3・かなりつまらない作品。最後まで観た自分を褒めてあげたい。観終えた後に、怒りのあまりDVDを割りそうになった。
2・超つまらない作品。時間と金を返せ。観終えた後に、怒りのあまり製作者全員を殴りに行きたくなった。
1・絶望的につまらない作品。最低。観終えた後に、怒りを通り越して死にたくなった。
0・死霊の盆踊り。

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21.  17歳の瞳に映る世界 《ネタバレ》 
ペンシルバニアの田舎町で平凡な毎日を送る17歳の高校生オータムは、何処にでもいるような普通の女の子。保守的な両親の元、スーパーのレジ打ちのバイトをしながらただなんとなく日々を過ごしている。そんなある日、オータムはもう一か月以上も生理が来ていないことに気づく。密かに訪れた町の産婦人科で診察してもらった彼女に告げられたのは、妊娠10週目という事実。予想もしていなかったことに思わず動揺してしまうオータム。とてもじゃないが両親に話すことは出来ない。そもそも産んで育てる勇気もない。だが、彼女が暮らすペンシルバニアでは、未成年の妊娠中絶には両親の同意が必要だった。ここから遠く離れたニューヨークに行けば、お金さえ払えば手術を受けられる――。ネットで調べてそのことを知ったオータムは、唯一の親友でバイト仲間のスカイラーとともに夜行バスへと乗り込むのだった……。中絶手術を受けるためにニューヨークへと向かう17歳の2人の少女の旅路を終始淡々と見つめたガールズ・ロードムービー。そんななんともネガティブなお話なのに、あまり暗さを感じさせないのはこの監督のリリシズムに満ちた詩的センスによるところが大きい。それぞれに孤独を抱えたこの少女たちの旅路は終始不安定で今にも壊れてしまいそうな危うさが漂っているのに、非常に美しく洗練されている。この感性はなかなかのもの。親身になって相談に乗ってくれていると思っていた、地元の産科医のおばちゃんがゴリゴリの中絶反対派だというのもリアル。一日で終わると思っていた手術が、この産科医の誤診のせいで二日かかってしまうというはなんとも皮肉ですね。すぐにお金もなくなり、泊まるあてもなくなって次第に追い詰められてゆく2人。親友がお金を稼ぐために会ったばかりの男とキスをするシーンで、柱の陰で主人公と密かに手を繋ぐところはとても切ない余韻を残してくれます。この二人の友情が永遠に続けばいいと願わずにはいられない名シーンでした。他にも、中絶前にカウンセラーが幾つも質問する中で、最初は服用している薬だとか病歴だとかだったのが最後の方で男の暴力についての質問に変わってゆくシーン。最初は気丈に振る舞っていた主人公が次第に涙をこらえられなくなるところも、男の身勝手な欲望への女性たちの静かな怒りが感じられ色々と考えさせられます。全てが終わったあと、空虚な笑顔で会話する2人、虚しさと充実感が入り混じって何とも切ない。エンドロールで流れる歌がまた染みます。とにかく2人の等身大の魅力にやられました。シスターフッド映画の新たな地平を拓いた、なかなかの秀作と言っていいんじゃないでしょうか。この監督、これから要注目ですね。
[DVD(字幕)] 8点(2022-10-18 04:15:50)
22.  グリード ファストファッション帝国の真実 《ネタバレ》 
低価格を売りにアパレル業界を席巻したファストファッションブランド、モンダ。その創業者にして一代で巨額の富を築き上げたリチャード・マクリディの半生を、彼を取材するジャーナリストの目線で描いた社会派コメディ。普段私たちが安く買っているTシャツやズボンの裏側には、低賃金で長時間労働を強いられている発展途上国の貧しい人々の犠牲があるという本作の主張は確かに分かります。ますます拡がってゆく富裕層と貧困層との格差がさまざまな悲劇を生み出しているという、現代の社会問題をシニカルに見つめるその抑制の効いた効いたスタンスもいい。ただ、それが映画としての面白さに繋がっているかというと正直微妙。世の不条理に鋭く迫る社会派ドラマなのか、それとも毒気の効いたブラックコメデイなのか、そのどちらにも振り切れていないので、最後までなんとも居心地の悪い鑑賞後感でございました。実在の有名人を幾つも出して混乱と狂騒を極めてゆくパーティーとかももっとやり過ぎなくらい無茶苦茶やってくれても良かったような。最後のライオンのくだりも生々しくていまいち笑えない。ただ、「この笑えない現実はこれからも続いてゆく、私たちが安い服を買い続ける限り」という最後のオチは皮肉が効いていてなかなか良かった。胡散臭い成金経営者を飄々と演じたスティーブ・クーガンもバッチリ嵌まっていて大変グッド。普段私たちが安く買っている様々な商品の裏側を知れるという意味でも観てよかったかな。とは言え、自分は近々、ユニクロに秋服を買いに行く予定なんですけどね(笑)。すんません、安月給なもんで!!
[DVD(字幕)] 6点(2022-10-03 06:00:55)
23.  355 《ネタバレ》 
世界中のあらゆるコンピューターをハッキング出来る危険なデバイスを悪の組織から奪還するため、世界各国から集結した凄腕女性エージェントたち、その名も「355」。彼女たちの世界を股にかけた大活躍をゴージャス&エレガンスに描いたスパイアクション。まあ既視感満載のよくある内容なのですが、ジェシカ・チャスティンやダイアン・クルーガー、ペネロペ・クルスという豪華なキャスト陣に惹かれ今回鑑賞。なんですが、正直演出が大雑把というか雑というか、大まかなストーリーは何となく把握できるものの、彼女たちが今何のためにこういう行動を取っているかがいまいち分かりづらく、自分はそこまで楽しめませんでした。もう少し丁寧な演出を心がけてほしかったですね。それにたくさんお金を掛けたであろうアクション・シーンは確かに迫力あったのですが、ちょっと全体的に古臭い印象を受けてしまったのも残念ポイント。あと、こーゆー軽いノリのエンタメ作品のわりに人が死に過ぎるのもどうかと思います。デバイスの危険性を強調するために旅客機を何機も墜落させるのは明らかにやり過ぎだし、主人公たちの大切な人が悪の組織に軒並み殺されちゃうのも物語として必要だったんですかね?ペネロペ・クルスの家族以外、父親や恋人やパートナーが全員彼女たちの目の前で殺されちゃうのってさすがに重すぎでしょ!なのに最後は、「今回も任務は大成功、んじゃまた次のミッションで」ってみんなで颯爽と去ってゆくのは、さすがに気持ちの切り替え早すぎちゃいまっか(笑)。観ているだけで絵になるハリウッド・セレブたちの豪華共演に+1点!
[DVD(字幕)] 5点(2022-09-02 06:54:58)(良:1票)
24.  THE INFORMER 三秒間の死角 《ネタバレ》 
自由と引き換えにFBIの潜入捜査官となった元犯罪者の男が、様々な組織の思惑と陰謀により再び刑務所へと舞い戻ってしまうというお話。全編を覆うひりひりするような緊張感はなかなかのものだったし、ロザムンド・パイクやクライヴ・オーウェンといったベテラン勢の熱演は見応えありました。特に、犯罪組織とFBI双方に嵌められ、刑務所で孤立無援となってしまう主人公の焦燥感は息が詰まるほど。ただ、それに対して脚本がいまいち。話が無駄にややこしいうえに、後半になるにつれどんどんとサスペンスが盛り下がってゆくというのが映画として致命的。主人公が最後にどうしてそんな行動を取ったかもよく分かんないし、なぜ、最後の最後でクライヴ・オーウェンが捕まったのかも意味不明。ストーリーの見せ方をもっと考えてほしかった。残念!
[DVD(字幕)] 4点(2022-08-09 04:55:21)(良:1票)
25.  ジェントルメン(2019) 《ネタバレ》 
引退を決意した麻薬王の資産を狙って、それぞれに蠢き始めた暗黒街の〝紳士たち〟を終始軽快に描いたクライム・サスペンス。マシュー・マコノヒーやコリン・ファレル、それに懐かしのヒュー・グラントなど豪華な面々がそんな個性豊かなワルたちをのびのびと演じております。監督は、この手のジャンルを得意とするガイ・リッチー。と言う訳で今回期待して鑑賞してみました。うーん、期待が高すぎたのか、なんかイマイチな出来でしたね、これ。とにかくテンポが悪い!探偵と麻薬組織の幹部がボスの秘密をめぐってひたすら駆け引きを繰り返す会話劇が物語の縦軸となり、そこから過去の話が回想形式で再現されるという本作の構造。これがうまく機能してないんじゃないかな。この先面白くなりそう!ってところでいちいち現在のシーンに戻るので、なんか集中力が途切れちゃうんですよね。演技派でならしたマシュー・マコノヒーだけにタメの演技を多用しているのもテンポの悪さに拍車をかけているような?お話自体はそこそこ面白かっただけに、もう少し見せ方を頑張ってほしかったです。うーん、次作に期待!
[DVD(字幕)] 5点(2022-06-17 02:48:01)
26.  アリス&ピーター・パン はじまりの物語 《ネタバレ》 
誰もが知る児童文学の名作『不思議の国のアリス』と『ピーターパン』がもし兄妹だったら?という驚きの発想でもって描かれたファンタジー・アドベンチャー。率直に言ってさっぱり面白くなかったんですけど、それ以上に観終わった後、心にモヤモヤとしたものが残る何ともすっきりしない作品でしたね、これ。例えば、これまで白人の子供が演じるのが普通だったアリスとピーターパンを今作では黒人の子供たちが演じております。それはそれで別に何の問題もないし黒人の子供たちがアリスとピーターパンを演じても全然オッケーだと思うんですけど、そこには一言なにがしかの説明がないと物語にうまく入り込めませんって!あと、子供たちの母親役を白人であるアンジェリーナ・ジョリーが演じてるんですけど、これも凄く違和感ありあり。父親は普通に黒人で子供たちも見た目はハーフっぽくないし、彼女は義理の母という設定なんですかね?ここら辺も全く説明がされてないので、すんごく気持ち悪い。何か一言「これはこういう理由なんですよ」というセリフがあるだけで普通に受け入れられるのに、それも敢えてのスルーなんですかね。あらゆる人種への配慮を重視した結果、こんな感じになりましたみたいな、行き過ぎたポリコレの末路のようなものを感じて僕はどうにも受け入れられませんでした。間違ってたらごめんなさい!
[DVD(字幕)] 3点(2022-06-14 02:09:09)
27.  ラストナイト・イン・ソーホー 《ネタバレ》 
彼女の名は、エロイーズ・ターナー。ちょっぴり夢見がちな18歳の女の子だ。ファッションデザイナーを目指す彼女は、今回念願だったデザイン専門学校に合格し、ロンドンのソーホーへと引っ越すことに。だが、学生寮での生活に馴染めず、エロイーズは早々にアパートで一人暮らしを始めるのだった。古くからあるそのアパートは、年老いた女性が一人で暮らす館の屋根裏部屋だった。隣のフランス料理店のネオンが煌々と輝くその部屋でのはじめての夜、エロイーズは不思議な体験をする――。なんと彼女はきらびやかなネオンに彩られた1960年代のソーホーへと迷い込んでいたのだ。ノスタルジックな音楽が絶えず流れるその世界で、エロイーズはサンディという名の歌手を夢見る素敵な少女と出会う。夜ごと夢の中で彼女の姿を見つめていたエロイーズは、次第に彼女の意識と一体化し始めるのだった。夢とも幻想ともつかぬそんな魅惑的な世界にすっかりのめり込むエロイーズ。だが、サンデイが悪い男に騙され生活が荒んでゆくと、エロイーズの実生活にも良からぬ影響を及ぼし始める。やがて、彼女は気づいてしまう。サンディは60年代に実際に生きていた少女であることを……。自分が生まれる前に生きていた少女を救うため、孤軍奮闘する女子大生を幻想的に描いたサスペンス・スリラー。監督は、エンタメ映画界を牽引する才人、エドガー・ライト。いかにもこの監督らしい、拘りに拘ったであろう映像と音楽の使い方はすんごく良かったです。キラキラと光り輝くような美しい映像といかにも60年代らしい楽しげでポップな音楽が完璧に融合していて、もう観ているだけでワクワクしちゃいますね。そんな夢のような世界の中でシンクロする二人の女の子もそれぞれに魅力的で大変グッド。特にダンスホールで、二人がくるくる踊りながら次々と入れ替わるシーンは出色の名シーンでした。それがやがて悪夢のような残酷な世界へと塗り替わってゆくのも自然で素晴らしい。一言で表すなら、『マルホランド・ドライブ』のライト版とも呼ぶべき内容ですが、こちらは何処までもエンタメで最後まで楽しんで観ることが出来ました。ただ、残念だったのは、最後に明かされることの真相がいまいち腑に落ちないところ。特に物語の随所に登場する怪しげなお爺さん。恐らく観客のミスリードを狙ったんでしょうけれど、さすがに無理がある。また、肝心のサンディの正体もどんでん返しを狙いすぎて彼女の魅力が半減しちゃってて凄く勿体ない。とは言え、60年代の怪しげなソーホーの雰囲気やぞくぞくするようなミステリアスな世界観などは充分堪能できました。女性の社会的自立というテーマも今日的でいい。うん、7点!
[DVD(字幕)] 7点(2022-05-06 08:06:48)
28.  プロミシング・ヤング・ウーマン 《ネタバレ》 
彼女の名は、キャシー・カサンドラ。何処にでもいるような平凡なフリーターだ。町の小さなコーヒーショップで働く彼女は、もうすぐ30になろうとしている。実家で両親と暮らし、特に夢や理想があるわけでもなく、長い間彼氏もいない。そんなキャシーだったが、彼女には誰も知らないとある秘密があった。それは、夜な夜な濃い化粧をして酒場へと出向き、そこで泥酔したふりをして寄って来たスケベな男どもに制裁を加えること。下心満々で近づいてきた男どもは、必ず彼女の仕掛けた罠にかかり恐怖の一夜を過ごすことになるのだ。だが、それは当然危険と隣り合わせの行為でもあった。なぜ、キャシーはそんな危険を犯してまで男どもを憎むのか?それは彼女がまだ医大生だった時に、親友だったクラスメイトがとある事件がきっかけで人生を台無しにされてしまったことが原因だった…。心に闇を抱えたある一人の女性の孤独な復讐を描いたサスペンス・ドラマ。若い女はとにかくヤる対象としか考えていない男どもへと、そんな執念ともいえる憎しみを抱く主人公を演じるのはキャリー・マリガン。確かに凄く良く出来たお話で彼女の鬼気迫るような演技もあって最後まで目が離せかったんですけど、やはり男としては何とも居心地の悪い映画でした。自分は男ですが、長い間世間で生きていると「女は頑張った自分へのご褒美だ」と真剣に考えているような男どもが圧倒的に多いなとは感じます。そんな横柄で醜い男に自分は絶対ならないでいようと思う反面、自分も欲求不満を感じたら普通にAVも見ますし、日常生活で女性を図らずも性的な目で見てしまうこともあります。この映画はそういう男性の習性を全否定してるんですよね。恋愛小説の名手と言われ自分も大好きだった女性作家、島本理生さんが代表作『ナラタージュ』の中で、「男のお〇んちんなんて全部ちょん切ってしまえばいい」と書いていたのを読んで正直引いてしまったことを思い出してしまいました。でも、そんな居心地の悪さを終始感じながらも、それでもこの映画を面白いと思えてしまうのは、この感覚がとにかく振り切れているから。「男ども、あんまり調子に乗ってるとそのうち大事なものをちょん切ってしまうぞ!それこそ命懸けでね」という痛快さがとにかく最高なんです。その矛先は、男社会にうまいこと順応して生きている女どもへも向けられているのもフェアで良い。主人公が心惹かれる優しい彼氏もまた同じような過去を持っていたなんて、この男への不信感はもはや徹底している。未だ根強く残る男社会への笑えない寓話として、僕は最後まで面白く観ることが出来ました。自分を含めた男たち、あんまり調子に乗りすぎないように気をつけよう!ちなみに自分、島本理生さんは今も大好きです。
[DVD(字幕)] 9点(2022-04-04 05:39:39)
29.  モーリタニアン 黒塗りの記録 《ネタバレ》 
世界を震撼させた米中枢同時多発テロ。その直後にアルカイダとの関係が疑われ、アメリカの情報機関に拘束されたとあるモーリタニア人は、何の裁判も受けることなくキューバのグアンタナモ米軍基地に送られ、そのまま何年も拘束されることになる。しかもその取り調べは過酷な拷問を伴う非人道的なものだった。本作は、そんな理不尽な運命に翻弄されたとある青年の苦難の日々を弁護士と米軍検事双方の視点から見つめた実話ドラマだ。人権派のベテラン弁護士を演じたのは本作でゴールデングローブ賞を受賞したジョディ・フォスター、正義感に燃える米軍将校役には人気俳優ベネディクト・カンバーバッチ。監督は、社会性の強いエンタメを得意とするケビン・マクドナルド。と言う訳で今回鑑賞してみたのだが、正直自分は最後まで嵌まれなかった。一言で表すなら、「ザ・事実の羅列」。過酷な運命に翻弄されながらも決して希望を失わなかったこの一人のモーリタニア人のドラマは確かに凄いと思うのだが、それが映画的な面白さに繋がっているかというと自分は否と言わざるを得なかった。何故なら肝心のこの裁判の過程が何とも分かりにくいのだ。ジョディ・フォスター演じる弁護士が、結局この青年を無罪にしたいのか、それとも不当な拘束を今すぐ止めるように訴えたいのか、あるいはブッシュ大統領をはじめとする政権幹部を訴えたいのか、その目的がいまいち分かりにくい。なので法廷劇としてのカタルシスを最後まで得られることなく、淡々と終わってしまった。また、悪名高いグアンタナモ収容所での主人公の拷問の日々もシュルレアリスム風に描いているのだが、その映像も単純にセンスが感じられず何とも残念。これをもしデビッド・リンチやダーレン・アロノフスキーが撮ったら、悪夢的なイメージが炸裂する強烈なシーンになっていたであろうに。あの時代、テロとの戦いという美名の裏で、こんな理不尽な事実がまかり通っていた。そのことをより多くの人に知ってもらいたいというこの監督の思いには好感が持てるだけに、惜しい。
[DVD(字幕)] 5点(2022-04-01 01:40:14)(良:1票)
30.  アンモナイトの目覚め 《ネタバレ》 
彼女の名は、メアリー・アニング。かつて地元の海岸で発掘した化石が、まだ未発見だった貴重な恐竜のものだということが判明し、一躍時の人となったアマチュア古生物学者だ。発見した化石は大英博物館に展示されるまでになったものの、生来の気難しい性格からメアリーはすぐ世間から忘れられ、今は自ら採掘したアンモナイトの化石を扱う土産物店を細々と営んでいる。結婚もせず、年老いた母親と質素で侘しい生活をずっと続けてきたメアリー。そんな彼女の元にある日、都会で裕福な生活を送る古生物学者が訪れる。彼女の化石発掘技術に非常に感銘を受けた彼は、鬱病を患いずっと闘病生活を続ける自らの妻シャーロットをしばらく助手として雇ってほしいと提案するのだった――。当初は断ったメアリーだったが、多額の報酬に惹かれ渋々了承する。そうして始まった二人の生活。人生を半ば諦めた孤独な女性と夫から体よく厄介払いされた妻。社会から零れ落ちそうになっていた二人は、いつしか惹かれ合い、やがて一線を越えてしまう……。19世紀イギリスを舞台に、そんな許されざる恋に身を焦がす二人の女性を淡々と綴った文芸ドラマ。ベテラン女優ケイト・ウィンスレットと今最も勢いのある若手女優シアーシャ・ローナンが初共演ということで今回鑑賞してみました。ほとんど音楽も使われずひたすら海岸に打ち寄せる激しい波の音が流れ続ける中、この二人がただ黙々と化石採掘を続ける展開がずっと続くのですがそれでも見ていられるのはこの二人の演技力によるところが大きい。特に、もはや人生を諦めてしまったおばさんをじっとりと演じたK・ウィンスレット。ハリウッドセレブだということを忘れさせるほど完全にオーラを消していて、でもこの若き人妻に惹かれ始めていく辺りから内に秘めた情熱を取り戻してゆく姿を丁寧に演じていて素晴らしいとしか言いようがない。荒々しい海岸を背景にこの二人の危うい関係を美しく刻み込んだ、この監督の美的センスもいい仕事している。何だか中世の優れた絵画を観ているようでした。ただ、時折挟まれる二人のベッドシーンが妙に生々しかったのは恐らく賛否が分かれるところ。自分はちょっと直截的に過ぎるような気がしました。もう少し抑えてもよかったでは。とは言え、最後の二人の葛藤は何とも切なく、これから先、二人が少しでも幸せになってほしいと祈らずにはいられない佳品でありました。
[DVD(字幕)] 7点(2022-03-31 05:17:03)
31.  007/ノー・タイム・トゥ・ダイ 《ネタバレ》 
超一流の諜報部員にして稀代のプレイボーイ、政府から唯一殺しのライセンスを許され、様々なハイテク武器を駆使して何度も世界を救ってきたエージェント、その名もジェームズ・ボンド。そんな彼の最後?のミッションを描いたシリーズ最新作。正直、自分は本シリーズとは昔から相性が悪いんですけど、何かと話題だったので今回鑑賞してみました。結果は……、残念ながら今回も全く嵌まれませんでした。映像やアクションシーンなどはどれもセンスがあってスタイリッシュで良かったとは思うんですけどね。特にオープニングの歌のシーンはかなり格好良かったです!でも、それ以降はどんどんと気持ちが離れてゆくばかり。やはり自分はこのジェームズ・ボンドというキャラクターが好きになれませんでした。こればっかりは好みの問題なので如何ともしがたい。
[DVD(字幕)] 5点(2022-03-24 05:54:47)
32.  フロッグ 《ネタバレ》 
始まりは、10歳の少年の失踪事件だった――。人気のない森の中である日、一人の少年が謎の失踪を遂げる。現場に残されていたのは、少年が乗っていた自転車と緑色のナイフのみ。そしてそのナイフは、10年以上前に発生した連続誘拐殺人事件で使われた凶器と同じものだった。だが、犯人はすでに捕まり刑務所に収監されている。犯人が再び犯行を行うことは不可能だ。かつてその犯人を逮捕したハーパー刑事は再び、事件の捜査を担当することに。これは模倣犯なのか、それともかつての犯人は冤罪だったのか?難航する捜査を尻目に、今度はハーパー刑事の自宅で不可解な現象が続発するのだった。いつの間にか無くなっている銀食器、急に点灯するテレビ、そして家の中を密かに蠢く謎の影……。次第に追い詰められてゆくハーパー刑事とその家族たち。果たしてこの事件に隠された驚きの真相とは。少年誘拐事件をきっかけに、そんな不可解な現象に巻き込まれてゆくある家族を描いたサスペンス・スリラー。なんか思いっ切りB級感プンプンのそんな本作、さして期待せずに今回鑑賞してみました。ところがどうして、これがエッジの効いた演出の力が光るなかなかの掘り出し物でいい意味で裏切られました。物語の前半は余りにもお話がフワフワしてて「なんだよく分からない映画だな」と思いつつも、その不穏な世界観に引っ張られて見ていたんです。ところが物語の中盤、驚きのどんでん返しが!そうか、全てはそういうことだったのね!これは確かに予想が出来ませんでしたわ。まあネタとしては、ちょっと前の怪しいジジイをテーマにした某B級映画でも使われてましたが、見せ方としてはこちらの方が相当巧い。なるほどアレは実はそういうことで、アレはこいつのアレだったのね…ってこれだけ聞いてもさっぱり意味分からないでしょうけど(笑)。急に手持ちの手振れ映像に切り替わるのもいいセンスしてるし、なかなか面白いじゃん、これ!っと思っていたら、まさかの更なるどんでん返しが!いやー、これは完全にやられちゃいました。この脚本はかなり作り込まれてますね~~。明らかな低予算映画だけど、練られた脚本の力と工夫を凝らした映像の見せ方で幾らでも面白い映画が創れるという見本のような作品でありました。これは是非とも予備知識なしで観てもらいたい一本。
[DVD(字幕)] 7点(2022-03-03 03:37:30)(良:1票)
33.  オフィシャル・シークレット 《ネタバレ》 
2003年、イラク戦争開戦前夜のイギリス。政府の諜報機関で北京語の専門家として働くキャサリン・ガンは、そんなきな臭い空気に違和感を覚えながらも黙々と働いていた。そんなある日、彼女はアメリカの同じく諜報機関からあるメールを受ける。それは、イラク攻撃の正当な根拠となる国連決議をえるために、小国の代表団を盗聴せよというものだった。しかも場合によっては脅してでも票を獲得せよとも読める内容に、キャサリンは激しく動揺する。「政府は国民を騙してでも戦争をしたがっている」――。深い憤りを感じた彼女は、密かにメールを持ち出し、それをマスコミへと流出させるのだった。だが、それが記事となって世に出ると、キャサリンの想像を超えるような政府による圧力が重くのしかかることに。連日の厳しい聞き込み調査に同僚の解雇をもちらつかせる嫌がらせ……。我慢できなくなった彼女は思わず自分が犯人だと名乗り出るのだったが、国家権力の横暴は予想を遥かに超えるものだった。イラク戦争の裏に隠された不当な国家機密を巡り、人生を翻弄される平凡な女性の運命を描いたポリティカル・サスペンス。人気女優キーラ・ナイトレイがそんな国家権力と戦う女性を熱演しているということで今回鑑賞してみました。監督は、大国の思惑によって振り回される第三世界の真実を常に弱者の視点から見つめるギャビン・フッド。この監督の前作でも見せた、綿密な取材に基づくであろうリアルな演出は今回も健在。こういう権謀術数渦巻く政治劇って、普通は政権中枢の政治家たちを大きくクローズアップするもの。でも、本作では政府機関で働いているもののあくまで何処にでもいる平凡な女性であるこの主人公の目線からのみ描いている。おかげで、ちょっとした正義感から起こした行動のはずなのに、それが原因で人生を破滅させかねない事態に陥る恐怖がひしひしと感じられました。己が利益のためには、無力な一市民など簡単に踏み潰してしまう国家権力の横暴に改めて空恐ろしさを覚えます。また、リークされた情報をすっぱ抜いた新聞社内のドラマも良く描けている。特にメールを勝手に校正して窮地に陥ってしまう女性事務員のエピソードは何とも切ないですね。そして、最後の裁判の結果。こんな不毛な戦争で命を落とした多くのイラク国民やアメリカ兵たちのことを思うと、決して手放しでは喜べない。国家権力がいかに自らの都合のいいように情報を操作しているかがよく分かる、良質の政治サスペンスでした。
[DVD(字幕)] 7点(2022-02-24 06:00:31)
34.  ブラックバード 家族が家族であるうちに 《ネタバレ》 
アメリカ郊外ののどかな田舎町に建てられた一軒の豪華な邸宅。そこで暮らすのは、医者である夫と二人で暮らす初老の女性リリーだ。ある日、そこに彼女の二人の娘、ジェニファーとアンナがそれぞれ夫とパートナーを伴って帰ってくる。目的は、週末のディナーをともに過ごすため。孫にあたるジェニファーの息子やリリー夫妻とずっと親友関係にあるリズという女性も加わり、楽しい夜になるはずだった。だが、彼らの表情は何処か不安げで隠し切れない哀しみに満ちている。何故なら、夜が明けるとリリーはもうこの世に居なくなってしまうから――。彼女は徐々に全身の身体機能が失われ、半年後には完全なる植物状態になることが分かっており、身体の自由が利くうちに自ら人生を終わらせることにしたのだ。そう、これはリリーが最後に過ごす家族水入らずのディナー。夫も二人の娘たちも母親の決断を容認し、最後は穏やかに逝かせてあげようと決意したはずだった。だが、夜も更けてゆくとそれぞれに抱え込んだ思惑が抑えきれなくなり、とうとう爆発してしまう……。尊厳死を決断した女性とその家族の最後の夜を淡々と見つめたヒューマン・ドラマ。アカデミー賞の栄誉に輝くベテラン女優スーザン・サランドンとケイト・ウィンスレットがそんな確執を抱えた母子を熱演しております。難病に侵された女性の尊厳死という大変重いテーマを扱っていながら、全体に漂う空気はほのぼのとしていてこのギャップが何とも言えない気持ちにさせられますね。死を決意した祖母を演じるスーザン・サランドンの、悲愴感を漂わせながらも微塵も同情を求めていないその凛とした佇まいがとても魅力的。彼女とケイト・ウィンスレットとのそれぞれの思いがぶつかりあう濃密な演技合戦はとても見応えありました。そして今回意外だったのは、次女役のミア・ワシコウスカ。精神的に不安定で自殺未遂を繰り返す問題児をリアルに演じていて、この二人に負けず劣らずの熱演を見せてくれます。この人、いつの間にここまでの実力をつけたんでしょうね。内容の方は、もちろん非常にデリケートな問題を扱っているので当然賛否が分かれるところ。でも僕は、善悪の彼岸を越えた、「永遠に分かり合えない家族の切なさ」を感じてとても心に染みました。最後、それでもそんな分かり合えない家族の元へと帰ってゆく登場人物たちの後ろ姿が何とも切ない。シリアス版『8月の家族たち』とも呼ぶべき、深い慈愛に満ちた良品と言っていいでしょう。
[DVD(字幕)] 8点(2022-01-07 02:00:50)
35.  プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵 《ネタバレ》 
1970年代、アパルトヘイトの嵐が吹き荒れていた時代の南アフリカ。政府のそんな理不尽な人種隔離政策に反発し、非合法な活動を続けていたある二人の白人青年が逮捕される。彼らの名は、ティム・ジェンキンとスティーブン・リー。裁判の結果は、それぞれ懲役12年と8年の実刑だった。判決は瞬く間に確定し、彼らは速やかに当時地獄と恐れられていた白人専用のプレトリア刑務所へと収監されるのだった――。だが、彼らはまだ諦めたわけではなかった。愛する者のためになんとしても脱獄しようと目論むティムが考えた驚きの方法。それは、刑務官が常に腰にぶら下げている鍵の形を暗記し、それを木で彫って複製しようというものだった。少しでも力を加えればすぐ折れるうえに、刑務所のドアを開けるためには外から差し込まなければならない。しかもそんな鍵が外に出るまでに10もあるのだった。無謀とも言える彼らの計画だったが、それでもティムとスティーブンは持ち前の執念と正義への情熱でもって少しずつ鍵を彫り続けてゆくのだが……。実話を基に、難攻不落とも言われた刑務所から決死の脱獄を図った二人の青年を描いたプリズン・サスペンス。主演を務めるのは、髭もじゃ顔がすっかりトレードマークとなったダニエル・ラドクリフ君。まぁいわゆる古典的な脱獄ものなのですが、本作の特徴はその脱獄の方法が木材で鍵のコピーを作ろうとするところ。しかも目で見ただけでその鍵の形を覚えようと言うのですからまさに無謀。そんな馬鹿な…と思わなくもないですが、この時代のしかも南アフリカですからこれくらいセキュリティが甘々だったのでしょうかね。これが実話じゃなかったら、「脚本家、テキトーに書きすぎ!」と途中で冷めていたところでしょう。とはいえ、脱獄のドラマだけに特化した本作は、その手のツボは押さえられていたのでけっこう楽しんで見れました。冷酷非道な刑務官にいつ見つかるか、彼らの計画がいつか露見するんじゃないのかと最後までハラハラドキドキの連続で目が離せなかったです。ただ、全体的な感想としては正直薄味。もう少し政治的な背景も描かれていればより深みが増しただろうけど、そこは敢えてバッサリ切っちゃったのは良かったのか悪かったのか。シンプルな脱獄ものとしては普通に面白かったんですけどね。
[DVD(字幕)] 7点(2021-12-28 03:30:23)
36.  パワー・オブ・ザ・ドッグ 《ネタバレ》 
1920年代のアメリカ南部を舞台に、牧場主の兄弟とこの家に嫁ぐことになったとある未亡人、そして彼女の息子のそれぞれ複雑に絡み合う思惑を濃密に描いた心理サスペンス。主演を務めるのは、人気俳優ベネディクト・カンバーバッチとベテラン女優キルスティン・ダンスト。監督は、カンヌでパルムドールを受賞した名匠ジェーン・カンピオン。というわけで、観ながら思い出されるのはやはり同監督の名作『ピアノ・レッスン』でしょう。許されぬ愛に身を焦がす男女をこってり濃厚に演じたホリー・ハンター&ハーベイ・カイテルに負けず劣らずの熱演を見せてくれます。特に、ほとんど風呂にも入らず悪臭を放つ荒くれ者でありながら実は繊細な心の持ち主である牧場主を演じたB・ガンバ―バッチは見事でした。愛のない結婚生活から次第に酒に溺れてゆくK・ダンストの切なげな表情もなかなか良かったです。そして、最初は頼りない若者に過ぎなかった彼女の息子が次第に何考えているのか分からない得体のしれない存在へと変貌してゆくのも不気味でいい。ただ、『ピアノ・レッスン』と比べるとどうしても地味な印象を持ってしまったのも事実。何が足りないのかと考えてみると、それはやはり音楽なんじゃないでしょうか。あちらでは世界的なピアノ奏者マイケル・ナイマンの繊細で美しい旋律を持ったピアノ曲が全編に流れていて、非常に気品溢れる芸術作品へと昇華されておりました。対して本作、最後までほとんど音楽が使われず、終盤まで何とも地味な展開で気持ちが離れてしまうこともしばしば。最後に各々の思惑が明らかにされ、人間の底知れぬ怖さが浮き彫りになるというのは良かったのですが、いかんせんそこまでが長すぎます。いろいろと興味深い部分も多かったのですが、それと同じくらい欠点も目につく作品でありました。
[インターネット(字幕)] 6点(2021-12-14 02:42:12)
37.  ファーザー 《ネタバレ》 
ここは、ロンドンのとある平凡なマンションの一室。取り立てて豪華なわけでもないが、それでも一家族が過ごすには充分な広さを備えている。そこで暮らすのは妻に先立たれた孤独な老人、アンソニー。まだまだ足腰は健在で、日々の家事は問題なくこなせると自負している。それにずっと昔に独立した娘アンも頻繁に訪ねてきてくれ身の回りの世話を焼いてくれる。寂しいながらも、現役の頃と変わらぬ生活を今も続けている。そんなアンソニーだったが、最近自分でも認知機能が急速に衰え始めていると自覚せざるをえなかった。日々の記憶が曖昧になり、自分でも何をしていたのか分からなくなることもしばしば。そんな折、頼りの娘アンが恋人とともにパリに移住すると言い出すのだった――。代わりにアンが雇ったという介護人がやって来るのだが、アンソニーは赤の他人が自分の家にいることがどうにも落ち着かない。しかも自分の大切な時計がいつの間にか無くなっている。きっとあいつが盗んだに違いない。そう決めつけたアンソニーは、口論の末にその介護人を追い出してしまうのだった。血相を変えてやって来るアン。だが、いつの間にか家にはアンと結婚して10年になるという見知らぬ男が現れる。しかもアンは、自分はパリに移住なんかしないと言い出すうえに、ここは自分たち夫婦の家だと主張するのだった…。現実と妄想がどんどんと曖昧になってゆく、そんなとある認知症の老人を幻想的に描いたヒューマン・ドラマ。主演を務めた名優アンソニー・ホプキンスはこの役で、アカデミー主演男優賞を史上最高齢となる83歳で受賞しております。観る前は何だか辛気臭そうな内容なのかなと思ったのですが、これがなかなか幻想の扱い方が非常に巧いシュルレアリスム劇の逸品に仕上がっておりました。娘婿と諍いをするディナーのシーンなど、気が付いたら冒頭へと戻っているところなどとても巧い。時間はずっと流れていたと思わせといて、最後の老人ホームへと収斂させてゆく展開も見事というほかない。過去と現在の境界が曖昧となり、娘をはじめ彼女の夫や介護人が全て誰が誰だが分からなくなる…。自分の認識がぼろぼろと崩れてゆく恐怖がひしひしと感じられ、もはやとても他人事とは思えません。認知症の人の頭の中ってきっとこうなんだろうなと思わせるだけの説得力が、ここにはある。A・ホプキンスの見事な熱演もそんな恐怖をますます増幅させ、より悲哀を深くさせますね。またこの監督の気品に満ちた映像センスも素晴らしく、過去と現代を繋ぐ見事な編集も相まって、とてもこれが映画デビュー作とは思えない気迫が感じられます。今回は認知症の老人というテーマでしたが、この監督の違う題材の作品も観てみたいと思わせるなかなかの良作でありました。
[インターネット(字幕)] 8点(2021-11-11 01:33:49)
38.  時の面影 《ネタバレ》 
第二次大戦前夜、イギリスの歴史を揺るがすような世紀の大発見をなしたとあるアマチュア考古学者と地主の未亡人との交流を実話を元に描いたヒューマン・ドラマ。ベテラン俳優レイフ・ファインズとキャリー・マリガンが豪華共演ということで今回鑑賞。丁寧な演出と確かな時代考証、そして全体に漂う気品に満ちた美しい雰囲気とで終始心地よく観ることが出来ました。主演俳優二人の抑制の効いた静かな熱演も素晴らしく、何より第二次大戦前夜のイギリスを覆っていたであろう不穏な空気を忠実に再現することに成功している。と、作品の世界観はなかなか素晴らしかったのですが、肝心のお話の方には僕はちょっと物足りないものを感じてしまいました。一言で表すなら、「ザ・事実の羅列」。色んなエピソードが並列的に描かれるのですが、軸となるお話が何とも弱い。学会から軽視され続けた異端学者の偉業達成、戦争によって夫を失った未亡人の苦悩、宇宙に憧れる少年の鬱屈した青春の日々、これらのいったいどれをメインに見ればいいのか最後まで分かりません。特に、リリー・ジェイムズ演じる助手研究員の不倫話は明らかに不要。彼女が出てきて二人の男とチュッチュチュッチュするたびに何だか白けた気分になっちゃいましたわ。いや、見たいのはそこじゃないですから。全体に漂うこのノスタルジックな雰囲気や、世紀の大発見の裏に隠された市井の人々の努力を現代に蘇らせたその着想などは大変良かっただけに、惜しい。
[インターネット(字幕)] 6点(2021-10-12 00:30:14)
39.  ウルフ・アワー 《ネタバレ》 
1977年、記録的な猛暑によりうだるような熱気に包まれたニューヨーク。新進気鋭の女流作家ジューン・リーは、処女作がいきなりベストセラーとなったものの、自らの家族をモデルとしたとされるそのスキャンダラスな内容により賛否両論を巻き起こし、以来プレッシャーから二作目を書けずにいた。そればかりか世間の目を恐れるあまり、ブロンクスの狭いアパートの一室に引きこもり、一歩も外に出られなくなってしまう。買い物も近所のスーパーの店員に届けてもらい、ゴミも窓から捨てるような徹底ぶり。しかも外の世界では女性ばかりを狙った連続殺人鬼が暗躍し、不満を訴える市民が今にも暴動を起こしそうになっている。部屋の掃除すらままならず、貯金もあとわずかで底を尽きそうに。追い打ちをかけるように、謎の人物が何度も部屋のインターフォンを鳴らしてくるのだった。そんな内外の不安要素に心が押しつぶされそうになりながらも、新作執筆のためにタイプライターへと向かう彼女だったが…。引きこもりの女性作家のそんな極限状況を乾いたタッチで見せる密室劇。制作・主演を務めるのは演技派として名高いベテラン女優、ナオミ・ワッツ。ほぼ彼女の一人芝居となる本作、舞台もほとんどこの薄汚れたアパートの一室のみなので、お話としては非常に単調になってしまいがちなのは自明の理。なので作品としてのカギとなるのは、監督の演出力だと思うのです。ところがこれがどうにもショボい。ずっと思わせぶりなだけで大して深みもないエピソードが延々続き、正直僕はあくびが止まりませんでした。こういうのってあくまでリアルに徹して脚本の力で見せきるか、それかもっとシュルレアリスム風の不条理劇に振り切るかだと思うんですけど、それもどっちつかずで何とも中途半端としか言いようがない。最後のオチなんていかにも取ってつけたようでもう呆れてしまいましたわ。相変わらずのカメレオン女優ぶりを発揮した、ナオミ・ワッツの熱演に+1点!
[DVD(字幕)] 4点(2021-09-24 17:30:33)
40.  ロックダウン(2021) 《ネタバレ》 
コロナ禍による都市封鎖――いわゆるロックダウン中のロンドンを舞台に、高級ダイヤを強奪しようと企む男女を終始軽快に描いたクライム・サスペンス。監督は、ハリウッドのエンタメ映画界を牽引するダグ・リーマン。主演には、人気女優アン・ハサウェイをはじめ、ベン・キングズレーやベン・スティラーといった新旧実力派俳優。新型コロナウィルス蔓延という未曽有の危機に直面し映画製作そのものがストップするなか、その危機を逆手にとって実際にロックダウン中のロンドンで撮影を決行したという本作、大変興味深く今回鑑賞してみました。なのですが、いや、これは正直アカンでしょ。倦怠期を迎えた同棲中のカップルがひたすら口喧嘩を繰り返し、そこにたまにズーム会議の映像が差し挟まれるだけというストーリーもへったくれもない展開が延々続き、もう退屈で退屈であくびが止まんなかったです。最後の方でダイヤ強奪ミッションがようやく開始されるわけですが、これもまたさっぱり面白くない。ロックダウン中の撮影ということでなかなか大変だったというのは分かるけど、さすがにこの出来なら中止した方が良かったんじゃないでしょうか。コロナ禍で撮影そのものが困難となり、ここ最近は公開される作品が明らかに減少している映画界。それでも頑張って良い映画を創ろうというスタッフたちの矜持には素直にエールを送りたいんですけどね。早くコロナが収まって、これまで通りお金と人材をアホほどかけて制作されたハリウッド超大作が普通に公開されることを願うばかりです。
[DVD(字幕)] 2点(2021-09-03 03:00:08)
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