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かたゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1885
性別 男性
年齢 48歳
自己紹介 自分なりの評価の基準は、
10・超大好きな作品。完璧。映画として傑作であるばかりでなく、自分の好みと見事に合致している。
9・大好きな作品。完璧に近い完成度。手放しに歴史に残る傑作といっていい。
8・好きな作品。本当に面白い。欠点があるかもしれないが、それも含めて好き。
7・少し好きな作品。普通に面白い。欠点もあるかもしれないが、そんなに気にならない。
6・普通の作品。可も無く不可も無く。最後までストレスなく観られる。面白いけど、心に残るものはあまりない。
5・少しつまらない作品。最後まで観るのにちょっとストレスを感じた。面白い部分も多少はあった。
4・つまらない作品。最後まで観るのが苦痛だった。ほとんど面白いところが感じられなかった。
3・かなりつまらない作品。最後まで観た自分を褒めてあげたい。観終えた後に、怒りのあまりDVDを割りそうになった。
2・超つまらない作品。時間と金を返せ。観終えた後に、怒りのあまり製作者全員を殴りに行きたくなった。
1・絶望的につまらない作品。最低。観終えた後に、怒りを通り越して死にたくなった。
0・死霊の盆踊り。

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21.  消えない罪 《ネタバレ》 
彼女の名は、ルース・スレイター。過去、保安官を射殺した罪で捕まり、20年も服役して今日出所してきたばかりの哀しい女性だ。当然仕事もなければ貯金もゼロ、両親はすでに亡くなり友人ももはや音信不通、頼るあてもない。そんなルースの唯一の心の拠り所は、彼女が捕まったときに離れ離れとなってしまった幼い妹の存在だった。当時5歳だった妹との生活は、これまで辛いことばかりだったルースの人生の中で一番光り輝いていた瞬間だった。だが、これまで獄中から何度も手紙を書いたが返信は一切なし、面会すら叶わず、知っていることは風の便りに何処かの裕福な家庭に養子に貰われたという情報だけ。生きていれば今頃25歳になっているはず。小さな水産加工会社に採用され働き始めた彼女は、独力で妹の行方を捜し始める。でも、警官殺しの過去は簡単には彼女を許してくれない。世間からの厳しい目に晒され、次第に孤立してゆくルース。さらには事件の遺族から嫌がらせの電話まで受けるように。どんどんと追い詰められてゆくルースだったが、相談を聞いた優しい弁護士から妹の居場所を突き止めたとの知らせが届き……。許されざる罪を犯してしまった孤独な女性の更生の日々を淡々と見つめたヒューマン・ドラマ。世間から孤立し、次第に行き場を失くしてゆくそんな元犯罪者を演じるのは実力派女優サンドラ・ブロック。観ればみるほど気が滅入るような陰鬱なお話なのですが、監督の丁寧な演出のおかげで最後まで惹き込まれて観ることが出来ました。刑務所から出所してきたばかりの彼女の日常をひたすら追うのではなく、彼女と偶然知り合うことになった弁護士一家、彼女と生き別れ今は義理の家族と幸せに暮らしている妹、そして彼女に父親を殺された被害者遺族、それぞれのドラマに焦点をあてる演出は相当巧み。互いに信じる価値観や信念があり、それが相容れないためにどんどんとぶつかり合ってゆく様は、誰もの気持ちが分かるぶん切なさが半端ないです。ただ唯一の肉親に会いたい主人公、今やかけがえのない家族の一員である娘を守りたい義理の親たち、主人公に父親を殺され人生をめちゃくちゃにされた兄弟……。「きっとこれは誰も幸せにならない暗い結末を迎えるんだろうな」と正直、げんなりしながら観ていたのだけど、でも、最後のシーンで自分は救われたような気持ちになりました。確かに現状は何も変わっちゃいない、何なら事態はますます複雑で不幸になるかもしれない。それでも主人公は最後、生きる希望を取り戻した。不幸で理不尽な現実に微かな希望の光を当てる、慈しみに満ちた秀作。
[インターネット(字幕)] 8点(2023-01-30 08:05:12)
22.  17歳の瞳に映る世界 《ネタバレ》 
ペンシルバニアの田舎町で平凡な毎日を送る17歳の高校生オータムは、何処にでもいるような普通の女の子。保守的な両親の元、スーパーのレジ打ちのバイトをしながらただなんとなく日々を過ごしている。そんなある日、オータムはもう一か月以上も生理が来ていないことに気づく。密かに訪れた町の産婦人科で診察してもらった彼女に告げられたのは、妊娠10週目という事実。予想もしていなかったことに思わず動揺してしまうオータム。とてもじゃないが両親に話すことは出来ない。そもそも産んで育てる勇気もない。だが、彼女が暮らすペンシルバニアでは、未成年の妊娠中絶には両親の同意が必要だった。ここから遠く離れたニューヨークに行けば、お金さえ払えば手術を受けられる――。ネットで調べてそのことを知ったオータムは、唯一の親友でバイト仲間のスカイラーとともに夜行バスへと乗り込むのだった……。中絶手術を受けるためにニューヨークへと向かう17歳の2人の少女の旅路を終始淡々と見つめたガールズ・ロードムービー。そんななんともネガティブなお話なのに、あまり暗さを感じさせないのはこの監督のリリシズムに満ちた詩的センスによるところが大きい。それぞれに孤独を抱えたこの少女たちの旅路は終始不安定で今にも壊れてしまいそうな危うさが漂っているのに、非常に美しく洗練されている。この感性はなかなかのもの。親身になって相談に乗ってくれていると思っていた、地元の産科医のおばちゃんがゴリゴリの中絶反対派だというのもリアル。一日で終わると思っていた手術が、この産科医の誤診のせいで二日かかってしまうというはなんとも皮肉ですね。すぐにお金もなくなり、泊まるあてもなくなって次第に追い詰められてゆく2人。親友がお金を稼ぐために会ったばかりの男とキスをするシーンで、柱の陰で主人公と密かに手を繋ぐところはとても切ない余韻を残してくれます。この二人の友情が永遠に続けばいいと願わずにはいられない名シーンでした。他にも、中絶前にカウンセラーが幾つも質問する中で、最初は服用している薬だとか病歴だとかだったのが最後の方で男の暴力についての質問に変わってゆくシーン。最初は気丈に振る舞っていた主人公が次第に涙をこらえられなくなるところも、男の身勝手な欲望への女性たちの静かな怒りが感じられ色々と考えさせられます。全てが終わったあと、空虚な笑顔で会話する2人、虚しさと充実感が入り混じって何とも切ない。エンドロールで流れる歌がまた染みます。とにかく2人の等身大の魅力にやられました。シスターフッド映画の新たな地平を拓いた、なかなかの秀作と言っていいんじゃないでしょうか。この監督、これから要注目ですね。
[DVD(字幕)] 8点(2022-10-18 04:15:50)
23.  ブラックバード 家族が家族であるうちに 《ネタバレ》 
アメリカ郊外ののどかな田舎町に建てられた一軒の豪華な邸宅。そこで暮らすのは、医者である夫と二人で暮らす初老の女性リリーだ。ある日、そこに彼女の二人の娘、ジェニファーとアンナがそれぞれ夫とパートナーを伴って帰ってくる。目的は、週末のディナーをともに過ごすため。孫にあたるジェニファーの息子やリリー夫妻とずっと親友関係にあるリズという女性も加わり、楽しい夜になるはずだった。だが、彼らの表情は何処か不安げで隠し切れない哀しみに満ちている。何故なら、夜が明けるとリリーはもうこの世に居なくなってしまうから――。彼女は徐々に全身の身体機能が失われ、半年後には完全なる植物状態になることが分かっており、身体の自由が利くうちに自ら人生を終わらせることにしたのだ。そう、これはリリーが最後に過ごす家族水入らずのディナー。夫も二人の娘たちも母親の決断を容認し、最後は穏やかに逝かせてあげようと決意したはずだった。だが、夜も更けてゆくとそれぞれに抱え込んだ思惑が抑えきれなくなり、とうとう爆発してしまう……。尊厳死を決断した女性とその家族の最後の夜を淡々と見つめたヒューマン・ドラマ。アカデミー賞の栄誉に輝くベテラン女優スーザン・サランドンとケイト・ウィンスレットがそんな確執を抱えた母子を熱演しております。難病に侵された女性の尊厳死という大変重いテーマを扱っていながら、全体に漂う空気はほのぼのとしていてこのギャップが何とも言えない気持ちにさせられますね。死を決意した祖母を演じるスーザン・サランドンの、悲愴感を漂わせながらも微塵も同情を求めていないその凛とした佇まいがとても魅力的。彼女とケイト・ウィンスレットとのそれぞれの思いがぶつかりあう濃密な演技合戦はとても見応えありました。そして今回意外だったのは、次女役のミア・ワシコウスカ。精神的に不安定で自殺未遂を繰り返す問題児をリアルに演じていて、この二人に負けず劣らずの熱演を見せてくれます。この人、いつの間にここまでの実力をつけたんでしょうね。内容の方は、もちろん非常にデリケートな問題を扱っているので当然賛否が分かれるところ。でも僕は、善悪の彼岸を越えた、「永遠に分かり合えない家族の切なさ」を感じてとても心に染みました。最後、それでもそんな分かり合えない家族の元へと帰ってゆく登場人物たちの後ろ姿が何とも切ない。シリアス版『8月の家族たち』とも呼ぶべき、深い慈愛に満ちた良品と言っていいでしょう。
[DVD(字幕)] 8点(2022-01-07 02:00:50)
24.  ファーザー 《ネタバレ》 
ここは、ロンドンのとある平凡なマンションの一室。取り立てて豪華なわけでもないが、それでも一家族が過ごすには充分な広さを備えている。そこで暮らすのは妻に先立たれた孤独な老人、アンソニー。まだまだ足腰は健在で、日々の家事は問題なくこなせると自負している。それにずっと昔に独立した娘アンも頻繁に訪ねてきてくれ身の回りの世話を焼いてくれる。寂しいながらも、現役の頃と変わらぬ生活を今も続けている。そんなアンソニーだったが、最近自分でも認知機能が急速に衰え始めていると自覚せざるをえなかった。日々の記憶が曖昧になり、自分でも何をしていたのか分からなくなることもしばしば。そんな折、頼りの娘アンが恋人とともにパリに移住すると言い出すのだった――。代わりにアンが雇ったという介護人がやって来るのだが、アンソニーは赤の他人が自分の家にいることがどうにも落ち着かない。しかも自分の大切な時計がいつの間にか無くなっている。きっとあいつが盗んだに違いない。そう決めつけたアンソニーは、口論の末にその介護人を追い出してしまうのだった。血相を変えてやって来るアン。だが、いつの間にか家にはアンと結婚して10年になるという見知らぬ男が現れる。しかもアンは、自分はパリに移住なんかしないと言い出すうえに、ここは自分たち夫婦の家だと主張するのだった…。現実と妄想がどんどんと曖昧になってゆく、そんなとある認知症の老人を幻想的に描いたヒューマン・ドラマ。主演を務めた名優アンソニー・ホプキンスはこの役で、アカデミー主演男優賞を史上最高齢となる83歳で受賞しております。観る前は何だか辛気臭そうな内容なのかなと思ったのですが、これがなかなか幻想の扱い方が非常に巧いシュルレアリスム劇の逸品に仕上がっておりました。娘婿と諍いをするディナーのシーンなど、気が付いたら冒頭へと戻っているところなどとても巧い。時間はずっと流れていたと思わせといて、最後の老人ホームへと収斂させてゆく展開も見事というほかない。過去と現在の境界が曖昧となり、娘をはじめ彼女の夫や介護人が全て誰が誰だが分からなくなる…。自分の認識がぼろぼろと崩れてゆく恐怖がひしひしと感じられ、もはやとても他人事とは思えません。認知症の人の頭の中ってきっとこうなんだろうなと思わせるだけの説得力が、ここにはある。A・ホプキンスの見事な熱演もそんな恐怖をますます増幅させ、より悲哀を深くさせますね。またこの監督の気品に満ちた映像センスも素晴らしく、過去と現代を繋ぐ見事な編集も相まって、とてもこれが映画デビュー作とは思えない気迫が感じられます。今回は認知症の老人というテーマでしたが、この監督の違う題材の作品も観てみたいと思わせるなかなかの良作でありました。
[インターネット(字幕)] 8点(2021-11-11 01:33:49)
25.  テリー・ギリアムのドン・キホーテ 《ネタバレ》 
度重なるトラブルや資金難により、何度も何度も挫折を繰り返してきた映画『ドン・キホーテ』。何十年にもわたり、この映画の完成に執念を燃やし続けてきた鬼才テリー・ギリアムが、この度満を持して完成させることが出来ました!!いやー、長年彼の大ファンの自分としてはこれは観ないわけにはいきますまい。相変わらず支離滅裂で意味不明な内容なのに、最後まで見せきるのはギリアム御大の唯一無二と言ってもいい、この独創的な〝画〟の力。次から次へと繰り出される奇妙で摩訶不思議なキャラクターや世界観に僕は素直に圧倒されました。特に今回は、彼往年の名作『バンデッドQ』や『フィッシャー・キング』を髣髴とさせるネタが最初から最後までてんこ盛り。自らがドン・キホーテだという妄想に取り憑かれてしまった爺さんをはじめ、社会の枠からはみ出してしまった人々の乱痴気騒ぎは遊び心満載で素晴らしいとしか言いようがない。スマホやDVDが出てくる現代社会と騎士道やお城などの中世世界を自在に混在させ、最後は主人公の映画監督自身がドン・キホーテの妄想に取り憑かれていたという完璧なオチ。生粋のギリアムファンの自分としては最後までテンション爆上がりで見てしまいました。いやー、サイコーだぜ、ギリアム!!まあこれだけ待たせておいて、その割にはいまいちスケールが小さい感じは否めないですけど、僕は充分満足。とにかく今は、「ようやく完成出来て良かったね、お疲れさま、ギリアム」と言ってあげたい。
[DVD(字幕)] 8点(2021-05-25 00:44:02)
26.  日の名残り 《ネタバレ》 
第一次大戦後から第二次世界大戦にかけての激動の時代を、英国上流階級の貴族に仕えるある執事の視点から描いたヒューマン・ドラマ。原作は、今や世界的な大作家となった日系英国人カズオ・イシグロ。主演を務めるのは、もうこれ以上ないくらいのまさに嵌まり役というしかない名優アンソニー・ホプキンス。もちろん本作のことはずっと前から知っていたのですが、以前読んだ原作があまりに素晴らしかったので、そのイメージが壊されるんじゃないかとの懸念が拭えず、ずっと未鑑賞のままでした(だって『わたしを離さないで』という前例があるしね)。でも、ネット配信サービスのラインナップの中に本作のタイトルがあったので、満を持して今回鑑賞してみました。率直な感想を述べさせてもらうと、いや、なかなか良かったんじゃないでしょうか。原作では、このスティーブンスという堅物の執事の「私」という一人称で話が進んでいくのだけど、もちろんこの執事は仕事一筋の超真面目人間なのでそこに一切個人的な感情は書かれていません。でも、読者は彼の同僚である女性への秘めたる想いをひしひしと感じとることが出来て、その切なさに誰もが胸打たれずにはいられないというまさに名作と呼ぶにふさわしい作品でした。映画では逆に、この主人公のモノローグを一切使わなかったのは英断だったと思います。それでもちゃんとこのスティーブンスの仕事第一主義に徹するあまり、自らの感情を二の次にしてきたことの後悔や孤独感をちゃんと感じ取れたのは凄いことですね。特に、この主人公と密かに想いを寄せるヒロインが暗い部屋の中でぐっと近づくシーンは出色の名シーンでした。「もしあの時、ほんのちょっと勇気を出して彼女にキスしていれば僕の人生は違ってたかもなぁ」なんて、誰もがふと思い出すような青臭い感情をビシバシ突いてきて、もう切ないのなんの(笑)。んでも確かに、この彼女が結婚を機に仕事を辞めることを決断した夜、思わず部屋で泣いてしまった彼女の元へとスティーブンスが入ってゆくというのはやり過ぎですね。ここは原作通り、スティーブンスが部屋のドアの前で彼女の泣き声を聞いたのにそれでも声を掛けられなかったとした方がより、後のこの主人公の悔恨がくっきりと際立ったと思うんですけどね。とはいえ、歴史の巨大なうねりの中でちっぽけに埋もれてゆく個人の感情という何処か日本的な〝もののあはれ〟もしっかりと描かれていたし、なかなか良い映画化作品だったんじゃないでしょうか。教訓。キスしなかったことを後悔するより、キスして後悔した方が絶対いい!
[インターネット(字幕)] 8点(2020-11-14 01:17:20)
27.  ピーターラビット 《ネタバレ》 
舞台は自然豊かな田園風景が拡がるイギリスののどかな田舎町。そこでは祖先より代々受け継いだ庭を巡り、性悪じじいと熾烈な闘いを繰り広げる小さな動物たちがいた。青いジャケットを羽織った動物たちのリーダーの名は、ピーターラビット。彼の指揮の下、うさぎたちは性悪じじいに対していつ果てるとも知れぬゲリラ戦を展開していた。そんなある日、唐突にじじいが心臓発作で死亡する。闘いは彼とその仲間たちの勝利で終わったかに思われた。だが、庭を相続したじじいの甥が新たにやって来たことから、長い闘いの第二幕が切って落とされるのだった。さらにはうさぎたちと同盟関係にあると信じられていた画家のお姉さんがその甥と恋に落ちてしまったことから、争いはますます混迷の度を深めてゆく。不毛な闘いの果てに人間と動物たちは何を見るのか?イギリスの有名な児童文学を原作に、うさぎたちと人間との小さなお庭を巡るバトルをスラップスティックに描いたファンタジー。原作のことはよく知らないまま、さして期待せずに今回鑑賞してみたのですが、これがなかなかブラックな内容でいい意味で期待を裏切られました。なんたって冒頭から、ピーター・ラビットのお父さんは敵のおじいさんにパイにして食べられたと説明されるんですから!そして心臓発作で死んだおじいさんが〝アイス販売車〟で運び去られると、動物たちが家の中で狂喜乱舞のパーティーを開くというハチャメチャぶり。いや、いくら敵とは言え、おじいさん死んでますから(笑)。そしてやって来る甥の潔癖症男との闘いも狩猟用の罠やら電気網やら果ては爆薬まで使ってのもはや殺し合い。『パディントン』も裸足で逃げ出すようなそんな不謹慎な内容に僕はかなりテンション上がっちゃいましたわ~。甥が電気ショックでいちいち吹き飛ばされたり、ニワトリが朝一で鳴く理由が実は昨日の不満を爆発させていたり、ミュージカル担当の鳥たちが毎回酷い目に遭わされたりと、細かなネタの数々もいちいち笑えます。何も知らない画家のお姉さんの目の前では仲良くしてるうさぎと甥が、彼女が居なくなった瞬間にボコボコに殴り合うというのはベタですけど、やぱ面白いっすね~。何気におじいさんが死んだことを最後まで誰も悲しまなかったのもけっこうツボでした。んで、最後は無理やりなハッピー・エンドで気分爽快!いやー、内容のブラックさとうさぎたちのもふもふ可愛さのギャップに萌えました。8点!
[DVD(字幕)] 8点(2020-03-23 02:51:41)
28.  アナと世界の終わり 《ネタバレ》 
彼女の名は、アナ。何処にでもいるような平凡な女子高生だ。数年前に母親を亡くしてから過保護な父親の鬱陶しい過干渉に頭を悩ませ、なんとなく付き合っている冴えない彼氏にも不満爆発、頭の固い学校の校長先生なんて早く死んじゃえばいいと思っている。唯一の希望は、高校を卒業してから旅立つ予定のオーストラリア一周ヒッチハイク旅。そんな彼女が迎えた高校生活最後のクリスマス。だけど、アナは自分でも分かっている。今日もきっと退屈な一日が始まるはずだということを――。だがその日、爆発しそうなエネルギーを何故か歌にして発散していたアナが目にしたのは、ゾンビに支配された世界の終わりの光景だった!原因不明のウイルスによって生ける屍が大量発生した世界を、アナとその仲間たちは持ち前の若いエネルギーと歌だけを武器に乗り越えようとするのだが……。ゾンビ・パニックと青春ミュージカルの奇跡の融合というアイデア一発勝負のそんな本作、「どうせ、イロものなんじゃろ」と大して期待せずに今回鑑賞してみました。なんですけど、え、意外にも僕はけっこう面白かったんですけど、これ。キラキラと輝くようなアナのミュージカルな日常に血みどろゾンビが同居するというマジカル・ポップなこの世界観は個人的にめっちゃツボでした。顔に返り血をつけたままクリスマスツリーの飾りの杖を武器に戦うアナをはじめ、彼女の仲間たちもそれぞれにキャラが立ってるのも大変グッド。あのクリスマスツリーのセーター(スイッチ入れたらイルミネーションつく!笑)を着たアナの彼氏の絶妙のダサさ具合いなんて思わず笑っちゃいました。他にもレズビアンな女の子やマッチョな元カレもみんな個性的で、彼らがそれぞれの方法でゾンビと戦うシーンもテンポが良くて普通に楽しい。全体を通して適度にグロく、適度にシニカル、そして適度にポップ。この絶妙な匙加減なんて監督、なかなかいいセンスしてるんじゃないですかね。そして後半はゾンビ映画としてちゃんと(?)仲間たちが次々犠牲になってゆくのもセオリー通りでいい。お互いゾンビに噛まれたリア充カップルがキスしながら最期を迎えようとするシーンなんてけっこう切なかったですし。後半になるにつれ、どんどんとぶっ壊れてゆく悪役の校長先生もナイスな仕事してます。そして、最後までミュージカルとしてそれぞれの楽曲のクオリティが下がらないのも普通に凄いと思います。うん、賛否両論あるみたいですけど僕はけっこう面白かった。8点!
[DVD(字幕)] 8点(2020-01-22 00:33:45)
29.  ルイの9番目の人生 《ネタバレ》 
今年で9歳になるルイ・ドラックス少年は、これまで普通の子供とは少し違う人生を歩んできた。逆子として緊急の帝王切開でこの世に生を受け、その16週間後にはベビーベッドの上から落ちてきたシャンデリアの直撃を受け小さな肋骨が粉々になったのだ。その後も毎年毒蜘蛛や蜂に刺されたり、感電死しかけたり、食中毒もしょっちゅう。そう、彼は年に一度は死にかける自称事故多発少年なのだ――。そして9歳の誕生日を迎えたその日、ルイはとうとう死の淵を彷徨うほどの大事故に遭遇する。ルイを愛していたはずの父親が何故か突然彼を崖から突き落とし、失踪してしまったのだ。昏睡状態へと陥ってしまったルイ少年の担当となったパスカル医師は、彼を何としても目覚めさせるため、ルイのこれまで歩んできた人生を辿り始める。すると、彼の周りで理屈では説明できない不可解な出来事が起こり始め…。数奇な運命に翻弄される9歳の少年ルイ・ドラックスの隠された真実を巡るファンタジー・ドラマ。どことなくティム・バートンを髣髴させる、このちょっぴり毒の効いた寓話的な世界観は個人的にかなり好みなので冒頭から惹き込まれました。とにかくこの何度も何度も死にかけるルイ・ドラックス少年が凄く魅力的で大変グッド。普通こんな目に遭い続けたら悲壮感が半端ないだろうけど、何故か彼は常に明るく前向きでしかも大人たちをかなり冷静に観察して非常に聡明なんですよね。そうして展開される物語もかなり独特で、海の怪物を描いたファンタジーなのか少年の事故の真相を巡るミステリーなのか夫婦の屈折した愛情を描いたラブストーリーなのかそれとも昏睡状態の少年の周りで起きる不可思議な現象を巡るホラーなのか、ジャンル分け不能で、でもその全ての要素が絶妙のバランス感覚で配合されていて、もう奇跡のような完成度の高さでした。昏睡状態の少年が迷い込む海の底の映像もとてもきれいでセンス抜群!そしてラストに明かされる驚愕の真実――。これまで張り巡らされた伏線が見事に回収されて、もう素晴らしいとしか言いようがありません。監督はなんと『ピラニア3D』などのバカ映画を何本も撮ってきた(特に前作の『ホーンズ』は酷かった!笑)、アレクサンドル・アジャ。いったい彼に何があったのでしょう(笑)。まるで雷にでも打たれたかのような変貌ぶりに、彼の身に何か奇跡でも起こったのかと勘繰りたくなりますね~。うん、いい映画でした。8点!
[DVD(字幕)] 8点(2019-06-20 22:42:42)
30.  光をくれた人 《ネタバレ》 
第一次大戦で心に深い傷を負った元兵士トム。退役後、何もかもを捨て去るようにして静かな港町へと辿り着いた彼は、小さな孤島に聳え立つ灯台の灯台守という職を得る。以来彼は、深い孤独の中でただひたすら海を照らす光を守り続けていた。ある日、そんな孤独なトムの人生に新たな光が差すことに。港町に住む純朴な女性イザベルと恋に落ちたトムは、情熱的な交際期間を経て、彼女を妻として灯台のある島へと迎え入れることになるのだった。誰にも邪魔されず、平穏ながらもただただ幸せな日々を過ごすトムとイザベル。だが、そんな幸せな日々も長くは続かなかった。子供を強く望んだ二人だったが、最初に身ごもった子供は流産し、二人目も死産してしまう。心身ともに疲れ果て息詰まるような生活を続けていた二人。だがある日、そんなトムとイザベルのもとに信じられないようなことが起こる。一艘の小さなボートが島へと流れ着き、その中に若い男の遺体と生まれたばかりの小さな女の子が横たわっていたのだ。すぐに当局へと報告するというトムを説得し、イザベルはその女の子にルーシーという名をつけ、自らの子供として育てていくことを決意するのだった――。物語はその後、罪を隠しただ幸せそうな夫婦を演じていた二人が数年後、教会で衝撃的な事実を知ることで急展開することになる。そう、彼らがルーシーを授かったのと同じころ、生まれたばかりの女の子が父親の乗ったボートで行方不明となる事件が起こっていたのだ。残された母親はただひたすら子供の行方を追い続けていた。「もう隠しておけない。真実を話すべきだ」というトムに、イザベルは「私が母親よ。何も言わないで」と訴える。親の性とは言え、見ていてなんとも心苦しい展開が続く。誰も悪くはない。ただ心が少し弱かっただけ。そんな人々の悲劇など我関せずとばかりに海は今日も波打ち続ける……。デビュー以来、美しい映像でもって人生の光と闇を見つめ続けるデレク・シアンフランス監督の美質が今回も冴え渡っている。本当の家族としか思えない役者たちの演技も素晴らしい(主役を演じた二人はこの後、本当の家族になったらしいが)。最後、年老いた主人公の元に成長した娘が訪ねてくるシーンなど、年月の重みを感じさせ涙なくしては観れなかった。ときに暗い海へと沈み込みそうになる人生というものに、微かな道しるべともなる明るい光を投げかけるような味わい深い一篇だ。
[DVD(字幕)] 8点(2018-12-04 22:21:49)
31.  セブン・シスターズ 《ネタバレ》 
環境破壊と極端な人口増加によって深刻な食糧不足へと陥ってしまった未来社会。政府は人口抑制策の一環として、強硬な児童分配法を施行。一家庭が持てる子供の数を一人とし、二人目以降が生まれるとその子は強制的にコールドスリープで眠りにつかされることになるのだった。そんななか、ある一人の女性が七つ子を産んで亡くなってしまう。このままいくと一人を除く六人の赤ん坊が強制的に当局に収容されることは明らか。「そんな勝手なことは誰にもさせない!」。残された女性の父親は、そう七人姉妹を秘密裡に育てることを決意する。それぞれに月曜から日曜までの名前を付け、それぞれの曜日にしか外出できないルールを設け、彼女たちを〝一人の女性〟として育ててゆく――。30年後、順調に成長した〝彼女〟は、大銀行の行員として順調に出世コースを歩んでいた。それぞれに悩みを抱えながらも自らの個性を殺し、日々、七人一役をこなしていた姉妹たち。だが、そんな平和な日々は突如として終わりを迎えるのだった。月曜が仕事が終わっても帰ってこず、連絡も取れないまま行方不明となってしまった!果たして月曜は何処に消えてしまったのか?残された六人の姉妹は、それぞれの長所を活かしながら消えた月曜を捜しはじめるのだが…。一人の女性として育てられた、そんな七人姉妹の闘いをノンストップで描いた近未来SF・アクション。という荒唐無稽な設定ながら、勢いとキレのあるアクションの数々で最後まで見せきったところは素直に素晴らしかったですね。いや、これ、ほとんど期待せずに観たんですけど、なかなかの掘り出しもんでしたよ。特に、一人七役を演じたノオミ・ラパスがまさに嵌まり役でした。ちゃんと誰もが別人に見えたですもん。イケイケのねーちゃんからオタク女子、普段は強がってるけど男には奥手の女性だとか、難しい演じ分けを見事にこなしておりました。そして、そんな七人姉妹が次第に追い詰められ次々と命を落としていくという演出もだいぶエッジが効いていて大変満足。ことの真相は途中で予想できたものの、コールドスリープの正体とかは普通に「おお!」となりました。いやー、なかなか面白かったです!8点!
[DVD(字幕)] 8点(2018-11-24 23:48:27)
32.  T2 トレインスポッティング 《ネタバレ》 
前作から20年、あのどうしようもないクズどもが中年になって帰ってきた!!前作をこよなく愛する自分としては、あの四人に再び出会えただけで感激ですわ。てか、20年も経ってんのにどいつもこいつも相も変わらずのクズっぷりに――シックボーイはヒモになってるおねーちゃんを使って美人局、スパットはヘロインが止められず相変わらずどん底生活、ベグビーはイタい性格が災いして長年の刑務所暮らし、そして前作でクズから脱却したかと思われたレントンも冴えない中年に――もう苦笑いしながら最後まで楽しまさせていただきました。何気にお遊び好きの女子高生だったダイアンが敏腕弁護士になっていたのも嬉しいサプライズ。ダニー・ボイルは歳とっても映像&音楽センスが全く衰え知らずですね~。なかなかナイスな続編の登場でございました。
[DVD(字幕)] 8点(2018-04-25 23:11:30)
33.  アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場 《ネタバレ》 
ケニア、ナイロビ。スラム街の一画に佇む、何処にでもあるような平凡な一軒家。誰にも悟られることなく遥か上空からこの家を監視する“目”がある。一瞬にして目標物を破壊することが出来るミサイルを搭載した、その目とは、無人偵察ドローンだ。遠く離れたロンドンからその目を通して現地を観察するのは、英国対テロ特殊部隊パウエル大佐。イスラム過激派アル・シャハブのテロ行為を阻止することが彼女の主な任務であり、今回の作戦は六年間地道に追い続けてきた組織の幹部を捕獲するためのものだ。遠く離れたネバタ州からドローンを遠隔操作するアメリカ海兵隊や現地で実際に突入するケニア軍らの協力を得て、今まさに作戦を実行しようとしていたその時、パウエル大佐は予想外の事態に直面する。テロ組織の幹部たちが突如、アル・シャハブ支配地域に移動したばかりか、そこで自爆テロを実行するための準備をし始めたのだ。大規模な戦闘となるためケニア軍は動けず、テロを阻止するためにはドローンからのミサイル攻撃しかない。政府の制服組やアメリカとの緊迫の交渉の末、民間人の犠牲を払ってでも攻撃を実行するしかないという結論に達したその時、そのアジトの裏で何の罪もない一人の少女がパンを売り始めたのだった…。自爆テロを実行されれば最低でも80人規模の犠牲は避けられない。だが、そのために無垢な少女を犠牲にしてもいいのか。パウエル大佐はぎりぎりの決断を迫られる――。ヘレン・ミレンやアラン・リックマンをはじめとする実力派の役者陣が織りなす、この緊迫感に満ちた駆け引きは非常に見応えがありました。責任の押し付け合いばかりを繰り返す官僚や政治家、彼らに翻弄される軍事作戦の責任者、ドローンから実際にミサイルを発射するアメリカ軍の兵士、現地で危険な任務にあたるケニア人、正義の名の下にテロを実行しようとするイスラム過激派、そして何も知らない無垢な少女…。一つも先の読めない展開は最後まで緊張感を途切れさせることなく続き、まるで自らも議論に参加しているような錯覚さえ起こさせます。非常に考え抜かれた優れた脚本と言っていいんじゃないでしょうか。監督は、かつて南アフリカの悲惨な実情を無垢な少年の目線で描いた『ツォツィ』を撮ったギャビン・フッド。なるほど、この全編に漲るリアリティはこの監督ならではのものだったのですね。物語の最後、事態は悲惨な重たい現実を迎えます。何が正解で何が間違っていたのか――。明確な答えなどない現実を監督は容赦なく観客に提示して終わっていきます。なかなか深い問題を描いた社会派ドラマの秀作でありました。
[DVD(字幕)] 8点(2018-03-16 01:31:30)
34.  キャロル(2015) 《ネタバレ》 
私の天使、天から落ちたひと――。1950年代のニューヨーク、まだ同性愛に厳しい保守的な思想が色濃く残っていたこの時代。デパート店員として平凡な日々を過ごしていたテレーズはある日、運命の人と出逢ってしまうのだった。相手の名は、キャロル。愛のない結婚生活に終止符を打ち、かけがえのない一人娘とともに新たな生活に踏み出そうとしていた美しい女性だった。人目を忍んで何度も逢瀬を重ねた二人は、ある夜、重大な決断を下す。「このまま何もかもを捨てて二人で旅に出ましょう。気の赴くまま、どこまでも西へと……」。離婚するなら娘の親権は渡さないと強硬な態度に出る夫、どうせすぐに自分の元へと戻ってくると言い張る横柄な彼氏。面倒なしがらみを一切捨てて、ただ運命の赴くまま西へと逃避行を続けてゆくキャロルとテレーズ。やがて、二人は女同士の友情を遥かに超えた運命の恋という名の美酒に溶けてゆく……。同性愛者でもあった人気ミステリー作家が別名義で発表した恋愛小説を詩情豊かに映像化した大人のラブストーリー。この映画の最大の美点は主役を演じた、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの二人の魅力に尽きると思います。社会の理不尽な仕打ちに抗うためプライドと美意識で必死に武装するキャロル、かたや自分の感情に常に忠実であろうとする若く美しい女性テレーズ。正反対であるがゆえ、またどちらも社会の中で生まれついてのマイノリティであるがゆえに、お互いの魅力に強く惹かれ合ってゆく二人。極めて純粋で情熱的な愛の形をこれほどまでに美しく演じた彼女たちの奇跡の共演に、最大限の賛辞を贈りたい。特に、二人が初めて身体を重ね合わせるシーン、僕がこれまで観たすべての映画の中でも比肩しうるもののない、もっとも官能的で美しいベッドシーンでした。もちろんそんな二人の複雑な心理を繊細に紡いだ、監督の演出力の高さも忘れてはなりません。女と女という狭い枠を超越する普遍的な愛の物語。至高の映画体験をさせてもらいました。8点。
[DVD(字幕)] 8点(2017-07-11 00:01:37)
35.  ニンフォマニアック Vol.1 《ネタバレ》 
「聞いてくれる?十代のころ、私は仲間たちとある会を作ったの」「どんな会だ?」「ファックと好色でいる権利の会よ。みんなで一緒にオナニーとかするの…。恋人は持たない。同じ男とは2度とヤらない。私たちは反抗的だった」「そうか…。で、そんな君たちは何に反抗してた?」「愛よ」「愛?」「そう、愛。愛なんてくだらないものに取り憑かれたこの世の中と闘っていたの」――。雪が舞い、冷風吹き荒ぶ寒い冬のとある夜。〝男〟は、道端に痣だらけになって捨てられたある〝女〟を発見するのだった。救急車も警察も要らない、ただ温かい紅茶が飲みたいと願う彼女を〝男〟は躊躇うことなく家へと連れて帰ってくる。〝女〟の名前はジョー。自らを生まれついての“ニンフォマニア(色情狂)”だと言う。雪が降り積もる音まで聞こえてきそうな静かな部屋の中で、ジョーは〝男〟にこれまでの性にまみれた自分の人生を赤裸々に語り始めるのだった…。人間の愚かさや社会の不条理をその冷徹なまでの視線で持って見つめ続けてきた鬱映画の巨匠ラース・フォン・トリアー監督の最新作は、そんな人間の性の醜さをシニカルに描いた意欲作でした。いやー、相変わらずこの人は人間、及び人間の生きる源泉であるはずのリビドー(性衝動、性欲)が嫌いなんでしょうね。なんだか中二病をこじらせた挙句にオナ禁している日本の若い男と精神構造的に似ているような気が…(笑)。でも、本作はそんな自分の言ってしまえばしょーもない悩みをまるで自己戯画化するような視線があって素直に面白かったです。きっと、そんなニンフォマニアであるジョーの話に、倫理観を一切持たずに耳を傾ける聞き手の男は、トリアー自身の投影なのでしょうね。観終わって、僕は遥か昔に読んだ18世紀フランスの自然主義文学の大家モーパッサンの代表作『女の一生』の中に出てくる神父のことを思い出してしまいました。その神父は、とても厳格で保守的でセックスこそが諸悪の根源であると妄信していて、道を歩いていた妊娠中の普通の雌犬を「この淫乱め!」と蹴り上げてしまうのです!馬鹿ですよね。セックスは人間が生きる上での重要な営みであるけれど、だからといって誰彼構わず何処ででもセックスするのは許されない。だから人は、その中間に倫理観という線を引くのだけど、この線引きの位置がいつの世も曖昧なものだから人間は何処までも愚かで社会から不幸な現実はなくならない…。そんな曖昧な線引き(もしかしてその位置を愛と呼ぶのか?笑)なんか完全に無視しちゃっているジョーのセックス遍歴の旅路は観ていて爽快ですらありました。そんなセックス大好きっ子だったジョーが最後に呟く衝撃の発言…(笑)。Vol.2も期待して観てみようと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2015-08-08 01:56:51)
36.  ラッシュ/プライドと友情 《ネタバレ》 
「無理だね、1~2回なら勢いで僕に勝てたとしても、君がシーズンを制するのは不可能だ。チャンピオンになるにはスピードだけじゃない、徹底的に考え抜かれた戦略こそがものを言うのさ。出勤して、レースに勝って、家に帰る。それが全て。君みたいに、酒場に繰り出して阿呆どもと与太話などしない。結婚したんだろ、君もちゃんと家に帰れ、ジェームズ・ハント」――。1970年代、常に死と隣り合わせの世界で相手より0.1秒でも速く走ることを競い合うF1レーサーたち。そんな刹那的な世界で、めきめきと頭角を現してきた全く正反対の性格を持つライバル同士、ジェームズ・ハントとニキ・ラウダは共に全く違うやり方でそれぞれにチャンピオンを目指すのだった。情熱的で派手な私生活のハントは死をも怖れぬ大胆な走りでトップを目指し、常に冷静沈着なラウダはマシンの性能やサーキットの攻略分析などを駆使し着実に勝利を収めていく。だが、76年、F1の世界で墓場とも呼ばれているもっとも危険なサーキットに出場した2人に悲劇が訪れるのだった……。実話を基に、F1レーサーという華やかな世界に生きる、全く正反対の2人の男の“プライドと友情”が複雑に交錯する刹那的な日々をエネルギッシュに描き出すヒューマン・ドラマ。もういかにもロン・ハワードといった、抜群の安定度を誇るエンタメ映画の逸品に仕上がっていましたね、これ。極めて分かりやすいストーリーテリング、全編にわたって再現された手に汗握る迫力のレースシーン、否が応にもテンション上がっちゃう瀕死の重傷を負った男の奇跡の復活劇…。まあ、ベタっちゃあベタですけど、やっぱり素直に面白かったっす!さすがエンタメ映画職人のロン・ハワード、相変わらず良い仕事しますね~。クライマックスでの、チャンピオンの座を賭けた2人の白熱のレースシーンにはもう久し振りに「こいつら、なんて格好良い男たちなんだよ、こんにゃろー!」と心からワクワクしちゃったし。F1レースどころか、車にすら全く興味のない僕でも当時の彼らのレース映像を見たくなりました。個人的には、もう少しアクの強さみたいなものがあればなお良かったけれど、それは欲張りと言うものかな。うん、面白かった!8点!
[DVD(字幕)] 8点(2015-05-09 22:01:37)(良:1票)
37.  それでも夜は明ける 《ネタバレ》 
私の名前はソロモン・ノーサップ、自由黒人だ。信じてくれ、拘束される理由など何もない!この鎖を解いてくれたら人違いだと証明できる。お願いだ、私は決して奴隷なんかではないんだ――。1841年、ニューヨーク。愛する妻と二人の子供たちと共に充実した毎日をおくる自由黒人であるソロモンは、ある日、奴隷商人の男たちに騙され拉致監禁される。そのまま、彼は奴隷として有無を言わさずアメリカ南部の農場へと売り飛ばされるのだった。まだ、黒人が“家畜”と同じ扱いを受けていた時代。様々な農場を転々としていくうちに、ソロモンは白人からゴミのような扱いを受けている黒人たちの悲惨な現実を目の当たりにしてゆくのだった……。実話を基に、まだ黒人が白人たちの奴隷として悲惨な現実を生きていた時代に、数奇な運命を生きたとある男の12年に及ぶ奴隷生活を冷徹に見つめたヒューマン・ドラマ。こういう作品を観ると、いかに白人が有色人種を下に見ているかがよく分かります。もう全編にわたって、思わず目を背けたくなるような理不尽で残酷な現実のオンパレード。監督は黒人ということで、その積年の怨嗟の表明には目を見張るものがある。主人公が首を括られた状態でほとんど一日放置されたり、ただ自らの身体を洗いたくて石鹸を借りに行った女性が酷い鞭打ちの刑に処されたり…。「どうして私がニガーをこんなにも痛めつけるかだって?違う、私は自分の所有物で遊んでいるだけだ。こうしている時間が一番楽しい。黒人をいたぶる、これ以上気の晴れる遊びはない」と平然と言ってのける白人の農場主には、人間の極限の愚かさを見せ付けられて寒気すら覚えてしまいます。昨今、アメリカで多発する警察官による人種差別的暴行事件に端を発する暴動を目にしていると、本作がますますそんな人種対立を煽る結果になるのではないかと危惧するばかり。でも、この残酷な現実から目を逸らさずあくまで冷静に黒人たちの歴史と怨念を直視した、この監督の情熱はやはり賞賛に値する。広島や長崎に半ば実験目的で原爆を投下された同じく有色人種である我々日本人としても他人事とは思えません。これから先も人種差別という病理は絶対になくならない酷い世の中なのかもしれないけれど、それでも希望を見失わずに生きたソロモンに僕は生きる勇気を与えてもらえたような気がします。良い映画でした。
[DVD(字幕)] 8点(2015-05-01 01:22:08)
38.  ザ・イースト 《ネタバレ》 
「我々は“ザ・イースト”。お前たちは自分の利益を守るために見知らぬ土地を汚染した。そこに住む人々や動物たちがどれほどの被害を被るかを分かっていながら…。犯した罪から逃れることは出来ない。大企業のCEOたち、我々はお前たちの住所を知っている。罪を犯した者には同じ恐怖を味わわせてやる。環境を破壊すれば、お前の土地も破壊する。我々はザ・イースト。そう、これは始まりに過ぎない」――。罪を犯した大企業に報復のテロ活動を行う過激な環境保護団体、ザ・イースト。民間企業に工作員として採用された元FBI捜査官サラは、そんな非合法組織へと潜入捜査を開始する。恋人との平穏な生活も犠牲にして、そんな独自の信念を持つ彼らとの共同生活へとどっぷりと浸っていくサラ。だが、彼らの主張へと耳を傾けていくうちに、次第に彼女のこれまで信じてきた価値観が揺らぎ始めていくのだった…。とにかく、この作品の最後まで途切れることなく続く息が詰まるような緊張感には素直に圧倒されました。監督の程よく抑制の利いた演出力はもう完成の域に達しており、特にこのテロリストのメンバーたちのそれぞれの個性や魅力をきちんと描き分けているところなどなかなかのもの。正義感から出発した彼らが、カルト宗教まがいの怪しい儀式に拘ったり食料調達にごみ漁りするところなど彼らの狂信性を自然に炙りだしていて巧い!テロを行う前に流される曲が荘厳なピアノソナタなのも、単なるエンタメ映画に終わらせないという監督の知性が感じられますね。物語の終盤、彼らの本当の目的が明かされる驚きの展開にも見事に騙されてしまいました。そして、本作が何より優れているのは、大企業にもこの環境保護団体にもどちらにも肩入れしないその極めてストイックな姿勢でしょう。双方の主張もそして各々が抱える問題点も徹底的に透徹した目で描くことで、観客に問題提起して終わるというこの印象的なラストには久し振りにガツンとやられました。本作で主役を演じた女優さんは共同脚本としても名を連ねているのですね。うん、久々に美貌と知性と演技力を兼ね備えた、将来が楽しみな才能に出会えたように思います。次は是非、シーシェパードを槍玉に挙げてもらいたいものですね(笑)。
[DVD(字幕)] 8点(2015-03-09 21:27:15)(良:1票)
39.  SHAME -シェイム- 《ネタバレ》 
皆さん、都会で生きていると、たまに疑問に思うことはありませんか?街のいたるところに存在するコンビニに入れば、その雑誌コーナーの片隅には必ずと言っていいほど、いかがわしい雑誌――敢えて下世話な言い方をすればエロ本の棚が存在しています。ビデオ屋さんの18禁コーナーに入れば夥しい数の他人のセックスを収めたDVDが並び、ネットを開けば簡単に過激な動画を見ることが出来ます。電話を掛ければ、そういう女の人がすぐにやって来てくれ、繁華街に行けばさらに過激な性的サービスを供給してくれるお店を利用することが出来ます。なのに社会では、電車に乗っていると日常的に人身事故に出くわし、理不尽な暴力事件はあとを絶たず、幼児虐待やストーカー殺人などといった悲惨な事件も一向になくなる気配はありません。そして世界の何処かでは今も戦争が続き、貧困や飢餓が貧しい人々を苦しめている。それでも僕たちは自分の性欲を満足させるためにエロ本を買い風俗店に足を運ぶ。人のことなどどうでもいいと言わんばかりに……。いったい人間とは何処まで愚かな恥ずべき生き物なのだろうって。本作の主人公であるサラリーマン、ブランドンもそんな都会の片隅で、まるで日々恥の上塗りをするかのような刹那的な日常を生きている。行きずりの女と愛のないセックスに溺れ、商売女を自宅のマンションに呼んで快楽を貪り、あまつさえ仕事中にトイレにこもっては自慰行為に耽る…。なのに少しも満たされない孤独な心を抱えた彼の元にある日、「何処にも行き場所がないの!お願い、ここに住まわせて…」と、同じく鬱屈した日々を送っていた妹のシシーが転がり込んでくる。お互いの孤独を敏感に感じ取った2人でしたが、少しも正直になれない彼らはすぐに互いの心を傷付け合い、ますますその閉塞感を強めてしまうのでした。そして彼らは自らが生きる理由すら次第に見失ってゆく……。そんな愚かな人間たちの姿を冷徹に見つめながらも、物語は最後、微かな――今にも消え入りそうな本当に微かな希望の残像のようなものを残して静かに幕を閉じます。正直、見れば見るほど気が滅入るような作品なのですが、美麗な映像と実力ある役者陣の熱演、そして何よりも悲哀に満ちた美しい音楽とによって、胸を打つ哀切な人間ドラマへと見事に昇華されている。素晴らしいとしか言いようがない。人間は誰もが“恥(シェイム)”を抱えた愚かしい生き物、それでも人は幸せを求めて必死に生きてゆく。そんな当たり前のことをあらためて教えてくれる、美しい作品でありました。
[DVD(字幕)] 8点(2015-01-09 00:51:18)
40.  ショーン・オブ・ザ・デッド 《ネタバレ》 
何をやってもうまくいかない冴えない男、ショーン。幼馴染みで同居人のこれまたどうしようもない駄目男エドのことが原因で彼女にフラれてしまった彼は、とことん大酒喰らって憂さ晴らしすることに。しかし、翌朝酷い二日酔いで目覚めてみると、いろいろあって街はゾンビで溢れ返っていた!未練たらたらのショーンは、すぐさま元カノを助けに行き近くに住む母親も救いみんなで行き付けのパブへと逃げ込んで襲いくるゾンビどもを撃退しビール飲みながら誰かが助けに来てくれるの待つという完璧な計画(?)を立てると、一緒に飲んでいたポンコツ人間エドと共に決死の覚悟で家を飛び出すのだった!いやー、良いですね、これ。久々におれの好みと見事に合致した、とことん馬鹿馬鹿しい映画と出合ってしまいました。ゾンビが次第に侵食して街がどんどん危機的状況に追い込まれていくのに、それに全く気付かないショーンの鈍感っぷりと、どこまでもお馬鹿なのだけどなんか憎めないエドとの呑気な遣り取りがめちゃツボでした。全編に散りばめられたくだらない(褒め言葉!)ギャグの数々もいちいち笑えます。大量のゾンビの群れのなかを、ゾンビのふりして遣り過ごしちゃうって、おい!そんな徹底的にコメディかと思いきや、後半、パブに辿り着いた登場人物たち各々に細やかな設定が創り込まれていて人間ドラマとしても意外に見応えありました。結局、パブに行かなければ全員助かってたじゃん!というブラックなオチ(ミストにも通じる?笑)とかもナイス!うん、面白かったっす!もっと早く観れば良かったなー。
[DVD(字幕)] 8点(2014-01-21 08:48:46)(良:1票)
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