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ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 615
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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1.  第三の男 《ネタバレ》 
 オーソン・ウェルズという天才に触れるにあたって、監督としての彼を知るには「市民ケーン」が、そして俳優としての彼を知るには「第三の男」が、最も適しているのではないでしょうか。   有名過ぎる観覧車での長台詞や、初登場シーンにおける不敵な笑顔にも痺れますが、特に記憶に残るのは、クライマックスにおける地下水道での姿。  それまでの飄々とした「ハリー・ライム」の姿が嘘のように、這いつくばって階段を上り、暗い地下に光を齎す出口へと手を伸ばす姿が、とても印象深いですね。  どうしようもなく「人間」そのものを感じさせるというか、これほど強烈に映画の中の人物に感情移入させてくれた場面は、ちょっと他には思い付きません。   そんなハリーが、拳銃を手にした主人公を前にして、死を受け入れたように微かに頷く表情なんかも、これまた素晴らしいのですが、この映画の特筆すべき点は、最後の最後。  これほどの存在感を放つ「第三の男」が画面から姿を消した後に、映画としての絶頂を迎えるラストシーンが待っている事にあるのだと思います。   映画は娯楽作品であると同時に、芸術作品でもあると感じさせてくれる一分間。  是非とも多くの人に体験して頂き、こんな作品があるのだという事を知ってもらいたくなる。  そんな、特別な美しさを秘めた映画でした。
[DVD(字幕)] 10点(2016-04-04 07:58:31)(良:2票)
2.  オースティンランド 恋するテーマパーク 《ネタバレ》 
 ちょっと評価が難しい一品。   それというのも、この映画って観客が「女性である事」「作家ジェーン・オースティンのファンである事」を想定して作られている感じなんですよね。  なのに自分と来たら「男性」「オースティン作品は映画やドラマでしか知らない」という立場な訳だから、流石に門外漢過ぎる気がします。  ……でも、そんな自分の価値観からしても、面白い映画であった事は間違い無いです。   監督はジャレッド・ヘス(代表作「ナポレオン・ダイナマイト」)の妻である、ジェルーシャ・ヘス。  元々、夫の作品で共同脚本を務めていた為か、これがデビュー作とは思えないほど自然な仕上がりとなっており、落ち着いて観賞する事が出来ましたね。  低予算な作りであり、イギリス摂政時代を完全に再現しているとは言い難いのですが、それが却って劇中の「オースティンランド」の小規模さとシンクロし、リアルな箱庭感を生み出していたと思います。   主人公のジェーンが(何か、思っていたのと違うなぁ……)と失望しちゃう気持ちも分かるし(でも、せっかく全財産を注ぎ込んで訪れたんだから、楽しまなきゃ!)と自らに言い聞かせるようにする辺りなんかも、凄く小市民的で、好感が持てました。   ストーリーの流れとしては、所謂「幻想の世界に浸っていた主人公が、現実と向き合う話」「オタク趣味から卒業する話」な訳だけど、主演にケリー・ラッセルという美女を配する事によって、あまり痛々しい印象を与えない作りになっているのも、ありがたい。  短い出番ながら、元カレが最低な奴だとハッキリ伝わってくるのも良かったですね。  主人公が現実に失望して、何時までも幻想の世界に閉じ籠っていたくなる事に、説得力が増す感じ。   映画の途中から「貴族であるノーブリー様との幻想の恋」「使用人であるマーティンとの現実の恋」が逆転していく流れも、鮮やかでしたね。  劇中のジェーン同様「マーティンも役者であり、最初から彼と結ばれるよう計画されていた」「実はノーブリーとの交流こそが、演技ではない本当の恋だった」という二段仕掛けの真実には、見事に驚かされました。   まず、最初に映画に登場するのはマーティンの方であり、観客としても自然と彼の方がメインかと思うよう誘導しているのが上手い。  そして、園内の役者達が休憩中に交わす会話に違和感があって、その違和感が伏線となっている辺りなんて、本当に感心しちゃいました。   マーティンは役者ではなく、本当にジェーンを好きになった純真な男であるはずなのに、彼女の名字を憶えていなかったりする。  その一方で、彼女に興味無いかと思われたノーブリーは、しっかり憶えている。  そういった伏線が効果的に盛り込まれているからこそ「裏切られた」という不快感ではなく「そう来たかぁ!」という快感に繋がってくれる形です。   素顔のマーティンは女に困らない陽気なプレイボーイ、素顔のノーブリーは親友と婚約者に裏切られて傷心中の真面目な男、という設定なのも、これまた絶妙。  あんまりノーブリーを「王子様キャラ」として描かれちゃうと、同性の自分としては鼻白むものがあるし、何より「現実と向き合って幸せを手に入れた」という映画の結論も、嘘臭くなっちゃいますからね。   そもそも、反発し合っていたはずの男女が惹かれ合うのも「高慢と偏見」のダーシーとリジーそのままだし「貴方は、このお屋敷のダーシー様」という台詞もあるしで、本作品って「オースティン作品の幻想から抜け出したと思ったら、ダーシー様のような素敵な男性と結ばれた」という、都合が良過ぎる結末なんです。  だからこそ、その現実世界における「素敵な男性」を、なるべく嘘っぽくせず、リアルに感じさせる必要がある。  彼は美男子だけど、不器用で、不幸な女性経験があって、歴史の教授だから金持ちでもない、という辺りが、程好い「身近な存在」っぷりで、良い落としどころだなと思えました。   あえて気になった点を挙げるとしたら「妊娠中の友達が、あんまりストーリーに絡んでこない事」「エリザベスとアンドリュー大佐の仲がどうなったのか、曖昧なまま終わる事」などが該当しそうですが、欠点とも言えないレベルでしたね。  それよりも、気に入った部分の方が、ずっと多い。   主人公カップルを祝福したくなるような、良い映画でした。
[DVD(吹替)] 8点(2017-11-08 08:40:11)(良:1票)
3.  RV 《ネタバレ》 
 「ロビン・ウィリアムスの映画で一番好きなのは?」と問われたら、本作の名前を挙げます。   感動して泣いちゃうとか、ギャグに大笑いしちゃうとか、そういう訳じゃないんだけど、とにかく「面白い」というより「好き」な作品なんですよね。  良質な家族映画であり、旅行映画であり、何度も観返したくなるような魅力がある。   何故こんなに好きなんだろうと理由を分析してみると「RVの魅力を、きちんと描いている事」が大きい気がしますね。  飛び出すリビング機能とか、キッチンもシャワーもトイレも付いているとか、小さなTVで映画も観られるし、後部にあるベッドで休む事も出来るとか、そういった性能面について、自然な流れで紹介してみせている。  凄ぉ~くベタな感想だけど「こんなRVで旅行してみたいなぁ」って思わせる力があるんです。   勿論、コメディのお約束で劇中の旅はトラブル続きであり、ともすれば悲惨で笑えない空気にもなりそうなんですが、そこをギリギリで踏み止まっているのは、主演俳優の力が大きいのでしょうね。  ロビン・ウィリアムスの、あの笑顔と、飄々とした演技のお蔭で「何があっても、最後はハッピーエンドを迎えてくれる」と、安心して観賞する事が出来る。  この「安心させる」って、観客を泣かせたり、笑わせたりするよりも、ずっと難しい事でしょうし、そう考えると、やっぱり凄い俳優さんなのだなと、改めて実感します。  「反抗期を迎えていた娘が、幼い頃と同じように心を開いてくれる」 「キャッチボールを通して、息子とも仲良くなる」  といった具合に「家族の再生」が優しい空気の中で描かれているのも、凄く心地良い。  序盤は下品なネタが多かったり、中盤以降はカーアクションもあったりと「笑い」の部分は派手で尖っていただけに、そういった真面目な部分は奇を衒ったりせず、落ち付いて、穏やかに描いているのが、良いバランスだったように思えますね。  序盤の車中では、各々違う歌を好き勝手に唄っていた家族が、終盤には同じ歌を合唱してみせる演出も、非常に分かり易くて良かったです。   準主役級のゴーリキー家族も魅力的だったし、ネルソン・ビーダーマン四世ことウィル・アーネットが悪役を楽し気に演じてくれているのも嬉しい。  「やぁ、ローラ。妻はいないよ」とか「バーベキューセットを買ったからね」とか、台詞による小ネタの数々も好み。  家族に隠れつつ企画書を書き上げた時の達成感に、悪魔の峠を越えて間一髪で間に合った瞬間の安堵感なども、忘れ難いものがありました。   仕事人間だった主人公が、土壇場で良心を優先させて退職を選び、その後にちゃっかり新しい勤め先を見つけたりと、あまりにも予定調和過ぎて、都合が良過ぎるオチが付くのも、この映画らしいですね。  天丼の「勝手に動くRV」ネタを挟みつつ、最後は家族皆で笑って、楽しく唄って終わり。  ハッピーエンドが似合う、良い映画です。
[DVD(吹替)] 8点(2017-10-25 01:31:52)(良:1票)
4.  イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 《ネタバレ》 
 映画を観始めた直後に「あっ、シャーロックが主演だ!」と驚き、中盤にて「戦争映画じゃなかったのか……」と再び驚かされましたね。  確かに戦争を描いた映画でもあるのですが、それ以上に『同性愛』という業を背負った天才にスポットの当てられた映画だったと思います。   自分は数学音痴なもので、そんな観客にもストーリーを分かりやすく構成してくれた事は、本当に嬉しい限り。  「真っ当な方法でエニグマを解析しようとしたら、二千万年も掛かってしまう」など、その任務の困難さが明確に伝わってくる辺りは、凄く良かったですね。  途中、ヒロインが唐突なプロポーズを受け入れてくれたり、犬猿の仲であったはずの同僚が庇ってくれたりする流れには(ちょっと主人公に都合が良過ぎない? もっと仲が親密になるまでの描写が必要だったのでは?)なんて思ったりもしたのですが、後にキチンとそれらに対する答え合わせも用意されているのだから、お見事です。  ヒロインは自分も「普通じゃない」という引け目を感じているがゆえに、同じく「特別」な存在である主人公に惹かれていたと明かされるし、同僚はソ連のスパイだったというオチ。  後者に関しては察知する事も出来ましたが、前者に関しては、良い意味での驚きを味わえましたね。  自分は同性愛者である、という秘密を告げられて「それが何?」と返す姿には、惚れ惚れとさせられました。   それにしてもまぁ、主演のカンバーバッチさんは「SHERLOCK」でワトソンとの同性愛疑惑を掛けられたと思いきや、今度は本当の同性愛者を演じる事になるとはなぁ……なんて、微笑ましく思っていたのも束の間。  まさか、こんな悲劇的な結末を迎えるとは予見出来ず、終盤には何とも重苦しい気分を味わう事となりました。   夭逝した初恋の少年と同じ名前を機械に付け、それを偏愛する主人公の姿は、どこか滑稽でありながら、とても哀しいものを感じさせます。  観客としては(あんなに素敵な女性が愛してくれているのだから、その愛に応えてやれば良いじゃないか)と、もどかしい気持ちになったりもするのですが「クリストファ」を再び失う事を恐れる彼の姿を目にすれば、何も言えなくなってしまいますね。  慰めるヒロインの手を取った瞬間、その指に既婚者の証のリングがはまっている事に気が付き「おめでとう」と告げて、微かに笑うシーンの演技なども、素晴らしい。   作中、ヒロインが「貴方の行いによって命を救われた人が沢山いる」と慰める場面では(でも、それによって殺された人々も沢山いるのでは?)と思えてしまい、全面的に彼を「正義の人」と感じる事は出来ませんでした。  けれど、そんな事は彼女も承知の上で、彼を全肯定してあげる言葉が必要だからこそ口にしたのだろうなと、自然と納得させられる作りになっていたのも、上手かったですね。  「誰を助けて、誰を殺すのか」を決める立場に置かれた過去を持つ彼の苦悩を、ほんの一時でも癒してあげる、優しい言葉だったと思います。   それと、ストーリーの序盤にてチラッと語られた「主人公は林檎が好物である」という情報が、現実の彼の死と直接リンクしていると知った時には、大いに衝撃を受けました。  (この映画でも、もっと林檎にスポットを当てても良かったのでは?)とも思えるのですが、それをやると寓意性が高まり過ぎると考えて、故意にオミットしたのでしょうか。  判断の難しいところです。   ラストシーンの「チューリング・マシーン。今それは、コンピュータと呼ばれている」のナレーションには、本当に鳥肌が立つのを、はっきりと実感。  今、自分はノートパソコンを使って、この映画の感想を書かせてもらっている訳で、それを考えるだけでも、非常に感慨深いものがあります。   この映画を「後味が悪い」と感じなかった理由は色々とあるのですが、一番の理由は「彼を愛してくれた女性がいた」と、丁寧に描いてくれた事。  そして、少なくとも今現在の我々の世界においては、主人公の業績は正当に評価され、偉人として称えられているのだと、ハッキリ伝えてくれた事にあるのでしょうね。  本人がそれを喜ぶかどうかは、もう決して分からない事ですが、映画の観客としては救われるような思いがしました。
[DVD(吹替)] 8点(2016-05-17 07:35:22)
5.  リトル・ダンサー 《ネタバレ》 
 観賞後「良い家族だなぁ……」と、しみじみ呟いてしまいました。  家族だけでなく、主人公の周りにいる男の子、女の子、おじさん、おばさん、誰もが魅力的で、良い人ばかり。   それだけに、終盤にて彼らに別れを告げて旅立つシーンが、とても切なかったですね。  お婆ちゃんが、力強く主人公を抱きしめてから、あえて突き放すようにして離してみせる場面。  ずっと同じ部屋で暮らしてきた主人公の兄が「寂しくなるよ」と、弟には聞こえないように呟いてみせる場面。  どちらも素晴らしかったです。   似たような内容としては「遠い空の向こうに」という映画が存在しているのですが、あちらが夢を叶えてみせた主人公達を主題に据えた品だったのに比べると、こちらは主人公の夢を叶える為に手助けする周囲の人達を主題としているように感じられましたね。  印象深いのは、主人公にボクシングを教えていた中年のオジさん。  てっきり「バレエなんて男のやるもんじゃない」と、親父さんと一緒になって反対するポジションなのかと思いきや、物凄く親身に応援してくれるんです。  ロイヤル・バレエ学校を受験する事になった主人公の為に、小銭をかき集めて資金援助までしてくれたし、結果を不安視する主人公に対し「大丈夫、絶対に受かってる!」と励ましてくれる姿には、心温まる思いがしました。  こういった心地良い意外性って、本当に好きですね。   そして何といっても、この映画のクライマックスは、息子の夢を叶える為に父親がスト破りを決行するシーンでしょう。  あそこで興奮と感動を最大限に高めてくれたからこそ、その後の面接シーンでのドキドキ感、旅立ちのシーンでの寂寥感に、非常に巧く繋がっていたと思います。  何と言うか、観客の心の波を操る技に長けているのだなぁ、という印象ですね。   数少ない気になる点としては、面接の際、八つ当たりのような形で殴られてしまった金髪の少年に対し、主人公が謝罪してみせたり、きちんと和解してみせたりするシーンが無かった事。  それと、てっきりヒロインだと思っていた女の子が、途中から完全にフェードアウトしてしまった事でしょうか。  ただ、後者に関しては恐らく意図的に出番を減らしたのであり(序盤にて彼女の姿が、車の陰に隠れると同時に消えてしまう演出は、その暗示?)主人公の親友である少年こそがヒロインであったと判明する意外性の為の前振りでしょうから、一概に欠点とは言い切れないかも知れませんね。  それでも観賞中「あれ? あの女の子どこいったの?」と思ってしまったのは確かです。   対するに、真のヒロインと、そう呼んでも差し支えないであろう親友の少年に関しては、別れのシーンでの「失恋」を示すキスに、何とも言えない物悲しさを感じました。  片方は友情を抱き、片方は愛情を抱いている二人の映画として考えても、上質なものであったと思います。   それらの喜怒哀楽、全てが積み重なった末に、主人公が夢を叶えてみせた「未来」へと繋がるハッピーエンドの、素敵な味わい。  良い映画でした。
[DVD(吹替)] 8点(2016-05-08 09:46:24)(良:1票)
6.  ウォーター・ホース 《ネタバレ》 
 ネッシー映画って、何故かネッシーを「人を襲い、食い殺す化け物」として描いた品が多いんですよね。  「怒りの湖底怪獣/ネッシーの大逆襲」(1982年)然り「ジュラシック・レイク」(2007年)も、また然り。  にも拘わらず、本作ではネッシーを「人間の友達」として描いているんだから、それだけでもう、嬉しくなっちゃいます。  数少ないネッシー映画の中で、最も有名なのが本作だと思うし、自分としても一番好きなネッシー映画となりそう。   そんな訳で「これぞネッシー映画の決定版」と大いに褒めたいところなんですけど、ここで思わぬ落とし穴。  実は本作における「ネッシー」には「クルーソー」という独自の名前が付けられており、それがちょっとこう……微妙にピントずれちゃってる感じなんですよね。  観ている側としては「ネッシー」と思ってるのに、劇中人物達は「クルーソー」あるいは「モンスター」と呼んでいる。  これに関しては、多少不自然になってもアンガス少年が「ネッシー」と名付けて、それが何時の間にか世間にも流布してしまったとか、そういう流れにした方が良かったのでは? なんて、つい思っちゃいました。   元々あったウォーター・ホース伝説と組み合わせ「実はネッシーの正体とは、ウォーター・ホースなのである」って展開にしたのは悪くないんですけど、どうにも取っ散らかり過ぎなんですよね。  作中で色んな呼び名、色んな属性が当てはめられてるせいで、愛着が湧き難くなってしまった気がします。   あと、クルーソーと別れる場面にて、アンガス少年に「お前は一番の友達だよ」と言わせるなら、もっと事前に両者の交流を描いて欲しかったです。  クルーソーとの絆に関しては、贔屓目に見ても「可愛がってたペット」くらいにしか思えなかったし「場面単体で考えたら悪くないんだけど、伏線が足りないから感動出来ない」って形になってるのが、本当に残念。  戦死した父の存在をドラマに絡め「もう二度と会えない存在である父とクルーソーを、それでも愛し続ける主人公」「クルーソーとの別れによって、ようやく主人公は父とも本当のお別れが出来た」という描き方にしたのも、個人的には微妙というか……  ちゃんとクルーソー(ネッシー)との絆一本で映画にして欲しかったというのが、正直な気持ちです。   とはいえ、総合的に考えると好きな映画だし、良かったと思える部分の方が、ずっと多かったですね。  冒頭にて、色んなネッシー写真で目にした「湖畔の古城」が姿を見せる場面だけでもグッと来ちゃったし、クルーソーの頭には角があるしで、ネッシー好きとしては、それだけでも満足。  写真を偽造している連中の、すぐ傍で本物が泳いでる場面なんかも、皮肉なユーモアがあって良い。    「ネス湖に怪物なんていない」と主張する、世間の代表とも言うべき母親の前に、クルーソーが姿を現す場面をクライマックスに据えてるのも、もう大正解。  ネッシー好きにとっての悲願とは「ネッシーを否定する人物に、本物を見せてやる事」だと思うし、それを映画の中で叶えてくれるんだから、本当に嬉しかったです。   ネッシーに乗ってネス湖を泳ぐという、幻想的な場面も素晴らしいですね。  これまで自分が観てきた映画の中でも、最も活き活きとして美しいネッシーが、ネス湖を縦横無尽に泳ぎ回るという、その姿を拝ませてもらえただけでも(良いもん見たなぁ……)って、しみじみ感じられました。   2023年現在、自分の口から「ネッシーは実在する」と言えば、それは嘘になってしまうと思います。  それと同様に「この映画は面白い」って言ってしまうと、それも嘘になっちゃいそうなんですが……  夢の有る映画である事は、間違い無いと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2023-08-29 12:13:13)(良:1票)
7.  ラブ・アクチュアリー 《ネタバレ》 
 「ラブ・アクチュアリーを観た日」という曲を聴いた勢いで、元ネタである本作も鑑賞。   所謂「グランド・ホテル」形式の群像劇であり、エピソードの殆どを「恋愛」で纏めている点と「クリスマス」という特別な日にスポットを当てた点が、当時としては斬新だったのでしょうね。  この映画から数年後に「バレンタイン」や「大晦日」にスポットを当てたラブコメ群像劇が作られていますし、影響力の強さが窺えます。   登場人物が多く、同時進行するエピソードも多くて、難易度の高い作品なのですが、それをギリギリで混乱させず、破綻させずに仕上げてる手腕も見事。  特に「場面転換の際に音楽を用いて、各話の繋ぎを自然にしてる事」には感心させられましたね。  主人公の一人が歌手である点も含め、全体的に音楽の使い方が上手かったと思います。   個人的に一番好きなのは、義理の親子であるダニエルとサムが、少しずつ距離を縮めていくエピソード。  そして、ラブストーリーとして一番好きなのは「小説家と家政婦の恋」になりそうですね。  後者に関しては「言葉が通じない彼女とも、キスによって互いの想いを確認する」「片言のポルトガル語で告白したら、相手も片言の英語で答えてくれて、互いに相手の為に言葉を習ってたと分かる」って場面が凄く良かったし、映画全体の構成を考えても、この二組の話が主軸になってた気がします。   それと、オールスターキャストも魅力的でしたが、やはり一番印象深いのは、ローワン・アトキンソン。  カメオ出演のような形で「店員役」として登場し、それで出番終了とばかり思っていたのに、終盤まさかの再登場でしたからね。  しかも、デパートでは傍迷惑だった「緩慢な動作」が、空港では恋する少年を助ける形になってたりするんだから、これには脱帽。  つまり「誰かにとっては迷惑な人物が、他の誰かにとっては有益な人物と成り得る」って事を描いている訳で、群像劇ならではの魅力があるんです。  正直、各キャラの繋がりが「たまたま知り合いだった」「血縁だった」程度な事にはガッカリしちゃったけど……  彼の存在だけでも、本作を群像劇にしたのは正解だったと言えるんじゃないでしょうか。   その他、欠点としては  ・歌手からマネージャーへの想いが、友情なのか同性愛なのか分かり難い。 ・サムがダニエルの事を初めて「パパ」と呼んだ場面が、アッサリし過ぎていて戸惑う。 ・クラウディア・シファー演じるキャロルが出てくる場面は意味深なのに「本当に偶々、ダニエル憧れのクラウディア・シファーに似てるだけ」ってオチなのが残念。   等々が挙げられそうですが……  これらに関しては「脚本が説明不足」というより「演出が拙くて、場面の意味が伝わり難い」って印象を受けましたね。  やはり、リチャード・カーティスは「監督」というよりも「脚本家」気質の人なんだと思います。   後は「アメリカに行けば俺はモテまくるはず!」って一念で渡米した若者が、本当にモテモテになっちゃうオチだったのは吃驚したとか、精神を病んだ弟がいるサラだけは意中のカールと結ばれず可哀想とか……気になったのは、そのくらいかな?  サラという例外もありましたけど、彼女は彼女で「恋愛」よりも「姉弟愛」を選んだと言えそうな感じですし、色んな形の「愛」を肯定し、優しく包み込んでるような雰囲気が心地良かったです。   「ハッピーエンドな恋愛映画」の代表として、曲のタイトルに選ばれるのも納得なくらいの、良い映画でした。    ……ちなみに、2017年の続編ドラマ(米国版)では、サラがカール以外の男性と結婚する展開になってたりもするんですよね。  本作を鑑賞後にモヤモヤが残ってしまった人は、そちらも是非チェックして欲しいです。
[DVD(吹替)] 7点(2021-12-25 21:12:45)(良:3票)
8.  ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12ヶ月 《ネタバレ》 
 前作が「これから面白くなりそうって所で終わる映画」だったもので、自分としては嬉しい続編映画。   元々、ラブコメ映画の続編って代物自体が珍しい訳で、そういう意味でも新鮮でしたね。  映画一本分をかけて結ばれた背景があるもんだから、前半部分にてブリジットとマークがイチャついている様も、とても微笑ましく感じられて良かったです。   ジェーン・オースティンの「説得」が下敷きだったり、マークが濡れたシャツ姿を披露したりと、基本的には「元ネタありきの映画」なのですが……  個人的には、元ネタを知らずとも充分楽しめるんじゃないかと思えましたね。  例えば、タイの刑務所にて女囚達と一緒にマドンナの曲を歌う場面なんかも、原曲を知らずとも十分に楽し気な雰囲気が伝わってくると思いますし。  前作は「高慢と偏見」ありきの映画だな、って印象でしたが、本作に関しては「元ネタよりも面白い映画」とすら思えちゃいました。   妊娠検査の最中に、二人が喧嘩しちゃう件なんて、特に面白い。  ここ、ほんの数分間なのに「二人の価値観や、育った環境の違い」が如実に伝わる作りになってるんですよね。  ラブラブな二人だったのに、徐々に擦れ違いが生じて喧嘩別れしちゃう流れに、自然に繋がっていたと思います。   他にも「そろそろ不幸じゃない事が起こるはず」と言った途端に、ブリジットが空港で逮捕されちゃうとか「引きずり出せるならどうぞ」と挑発したダニエルを、マークが本当に引きずり出して外で喧嘩しちゃうとか、台詞の使い方が上手いんですよね。  前作以上に「ブリジットがダニエルを選ぶ訳無い」「マークと結ばれるに決まってる」と分かり切ってる内容なのに、それでも楽しめたのは、こういう細かい部分が面白いお陰だと思います。   新キャラとなるレベッカも、非常にキュートで良かったですね。  「ブリジット→マーク←レベッカ」という関係と思わせておいて、実は「マーク→ブリジット←レベッカ」という関係だと判明する件は驚きましたし、ストーリーの面白さにも凄く貢献してる。  色んな映画に出てくるレズビアン女性の中でも、五指に入るくらい好きなキャラになりました。  妙な仮定になりますけど、もし自分がブリジットだとしたらレベッカを選んだかも知れないな……って、そう思えたくらいに可愛かったです。  煙草を吸う理由は「もっと悪い事が起きる前に死ねると思うと、心が安らぐから」と語るブリジット父も良い味出してましたし、前作以上に脇役の魅力が光ってた気がします。   そんな本作の難点としては……  タイの女囚達に見栄を張る形で「マークには酷い事された。暴力を振るわれたり、薬漬けにされたり」と嘘を吐く辺りは、流石に引いちゃった事。  あとは、中盤にてマークに部屋の鍵を渡すのが伏線かと思いきや、全然違ってて拍子抜けしちゃった事とか、そのくらいかな?   ブリジットを主役にした映画は現在三本ありますが、自分としては本作が一番好きですね。  作中の台詞にある通り「ハッピーエンドの、その先」を描いた映画として、しっかり楽しむ事が出来ました。
[DVD(吹替)] 7点(2020-11-11 10:22:20)
9.  アフリカの女王 《ネタバレ》 
 呑気な川下り映画というイメージだったのですが、久々に再見してみて、序盤は意外と陰鬱な事に吃驚。   ヒロインの兄が精神を病んで死ぬ場面とか(あれ、こんな映画だったかな……)と戸惑っちゃうくらいでしたね。  この辺りは、やはり戦争を扱った映画なんだなと、しみじみ感じさせるものがありました。   とはいえ、川下りが始まってからはイメージ通りの「呑気さ」に溢れており、ホッと一安心。  一応、道中では色んな災難に見舞われて苦労するんだけど、それもお約束の範疇というか、安心して観ていられる感じなんですよね。  裏を返せば「緊迫感に欠ける」って事でもあるんですが、自分としては長所に思えました。   現地人の描写とか、蚊の大群が合成丸出し(ヒロインが「こんなに刺されて」と主人公を気遣うけど、刺された痕なんて全然分からない)とか、現在の観点からは気になる点も多いんだけど、まぁ御愛嬌。  舟を止めて水浴びしたり、雨が降ったら狭い屋根の下で男女同衾したりと「ラブコメ映画」としての魅力を備えている点も、良かったですね。  最初は兄にさえ「器量が悪い」なんて言われていたヒロインのローズが、どんどん綺麗に見えてくるし、ボガート演じる主人公も髭を剃ったら二枚目だしで、観ているこっちとしても、主人公カップルの好感度が徐々に上昇していく様が気持ち良い。  アフリカが舞台って点を活かし、色んな動物を拝ませてくれるし、急流の場面は迫力あるしで「旅映画」「アドベンチャー映画」としての魅力も、文句無しでした。   ただ、これは勿体無いなと思えたのは……  ちらちらワニの存在を匂わせておきながら、結局ワニとの戦いになる場面が無かった事ですね。  流石のジョン・ヒューストン監督も、後の「ワニ映画」需要までは予見出来なかったのでしょうか。  もしワニと戦う場面があったら「川下り映画の元祖」というだけなく「ワニ映画の元祖」としても語られたかも知れないし、つくづく惜しいです。   最後は目的通り「ルイザ号」の爆破に成功し、アッサリ終わるんだけど……  なまじ爆破後も長々と尺を取っていたら(ご都合主義過ぎる)って印象が強まっていたでしょうし、スパっと終わらせて正解だったんでしょうね。  死刑執行直前に主人公カップルの結婚を認めたりと、ルイザ号の船長も良い人だったので、船が爆破されても生きてる描写を挟んであるとか、そういった細かい配慮にも感心させられました。   昔の名作映画って、格調が高い代わりに「一度観たら充分」って気持ちになる事も多いんですが……  これは例外的に、また忘れた頃にでも観返したくなる。  そんな味わい深い一本です。
[DVD(字幕)] 7点(2020-10-14 19:09:22)(良:1票)
10.  ゾンビハーレム 《ネタバレ》 
 冒頭「The Evil Dead」(邦題:死霊のはらわた)のコミック片手に熱弁を振るうオタク男が出てきた時点で、掴みはOKといった感じ。  他にも、恋人と別れたばかりの男、ゲイの男、プレイボーイに、離婚の危機を迎えている男という、バラエティ豊かな面子が、彼女や彼氏や妻の罵倒を背に旅に出る導入部は「Wild Hogs」(邦題:団塊ボーイズ)っぽいしで、どちらの映画も好きな自分としては、嬉しくなっちゃいました。   そんな中年男達のドライブ旅行にて、バスの運転手を務め、唯一の女性メンバーとなったキャンディが、あっさりゾンビ化しちゃうのだから、意外性も抜群。  何せ彼女、メンバーの誰かと恋人になりそうな気配があったし、鹿の死体を片付ける件では、一番男らしく(?)て頼もしい姿を見せていましたからね。  彼女だけは紅一点としてゾンビ化せずに、一緒に戦ってくれるんだろうなと予想していただけに、それを気持ち良く裏切られました。  舞台となる町に子供の姿が見えない事を含め、徹底的に「男VS女」という構図に拘ったからこそ、思い切り良く彼女を序盤で退場させたのでしょうね。  結果的に、それは大成功だったかと。   斧を持った花嫁ゾンビに、両手に鋏を装備した美容師ゾンビと、登場する女ゾンビ達が個性豊かなのも嬉しい。  中盤にて、今まで遭遇した女ゾンビの中で、誰が可愛かったかと男達が品定めするシーンなんて、如何にも「旅の夜」ならではの会話って感じがして、楽しかったです。   上述の場面に限った話ではなく、全体的に男性目線で作られた品であり、女性ゾンビを指して「あいつらは頭が悪い」なんて言い放つシーンもあるから、女性が観ると、ちょっと抵抗があるかも知れませんね。  物を投げたら女ゾンビの巨乳に命中して跳ね返る場面とか、思わず笑っちゃったけど、上品とは言い難いです。   玩具屋で即席の火炎放射器を作る件はワクワクさせられたし、ゾンビ映画ではお約束となりつつある「ゾンビの振りをして、襲われないように移動する」が「女装して襲われないように移動する」になっている辺りも、クスッとさせられました。   ラストも物凄く爽やかで、仲間の絆を確認し合い、皆で笑顔になって、走って終わりというハッピーエンドっぷり。  彼らの背後には大量の女ゾンビが迫っており、根本的な解決にはなっていないのですが、それでも友情の強さの前には、些細な問題と思えてくるのだから凄いです。  ショッピングカートに男を乗せて、それを押しながら爽やかに終わるのは「What to Do in Case of Fire」(邦題:レボリューション6)の影響もあるのかも知れませんね。   気になった点としては、そんな終わり方で「友情は素晴らしい」と感じさせる内容であるにも拘らず、作中で友達の中から死者が出てしまっている事が挙げられそう。  皆して楽しそうに笑っているけど、友達が死んだばかりなんだよなぁ……って事が、どうしても引っ掛かっちゃうんですよね。  ちょっと残酷な物言いとなりますが、所謂「殺され要員」ならキャンディや、途中で出会った軍人さんもいる訳だし、こんなに明るいハッピーエンドで纏めるなら、男友達グループの死者はゼロにしても良かったんじゃないかなと。  その方が、ラストの爽快感も強まったように思えます。   とはいえ、総合的には満足感の方が大きかったですね。  こういう「当たり」と出会えるから、ゾンビ映画の棚を漁るのを止められないんだよなぁ……と、しみじみ感じました。
[DVD(字幕)] 7点(2017-06-20 06:40:49)(良:1票)
11.  ショコラ(2000) 《ネタバレ》 
 こういった内容の映画である以上、観賞後に「チョコレートを食べてみたい」と観客に思わせる事が出来れば成功なのだと思います。   自分はといえば、事前に買い込んでおいたチョコレート菓子の包装を解いて、美味しく頂かせてもらったので、まず満足。  基本的に優しい映画であり、作中の人物殆どが幸せな結末を迎えてくれるので、後味も良かったですね。   特に感心させられたのが主人公の扱いで、こういった御話では 『主人公は癒しを与える天使のような存在なので、心の弱さを見せて取り乱したりしない』 『村の人々が幸せになるのを見届けた後、主人公は次の村に幸せを運ぶ為に風のように去っていく』  という不文律が存在しているにも関わらず、本作は意図的にそれを覆しているのです。  終盤に北風が誘い掛けるシーンでは(あぁ、やはり立ち去ってしまうのか……)と寂しく思っていただけに、それを否定して窓を閉め、街に留まる事を選択する姿に驚き、安堵もさせられましたね。  遺灰を撒いて、それが北風に運ばれる描写もあったとなると、次の「幸せを運ぶ旅人」の役目は、あのお婆ちゃんにバトンタッチされたのかな? とも推理出来て楽しかったです。   ちょっと気になったのは、作中で唯一「救われない」人物として、セルジュが存在している事。  彼の扱いが完全なハッピーエンドとなる事を妨げているので、そこをもう少し上手くやってくれていたら、より満足出来たんじゃないかと思えましたね。  女性目線の映画なのだから「家庭内暴力」を振るった以上は許されるべきではないという判断なのかも知れませんが、一応彼なりに妻を愛していて、反省し、許しを乞うていたのだから、復縁するのは無理としても、もうちょっと救いを感じさせる顛末にしても良かったんじゃないかなぁ、と。  火事の件など、物語の進行上に必要な悪事は全て彼に押し付けて、村から追放したという形だったのが、どうにも居心地が悪かったです。  意地悪な見方かも知れませんが、村長の妻だって浮気という罪を犯しているのに、そちらは全く罰せられる描写が無しというのも、何だか女性に都合の良い世界観に思えてしまいました。  いっそ次の「幸せを運ぶ旅人」の役目を、セルジュに担わせても良かったんじゃないかと思えるのですが、どうなんでしょう。   そんな本作の中で自分の一番のお気に入りは、倦怠期に陥っていた夫婦が「情熱を呼び戻すカカオ豆」を通じて、仲睦まじい夫婦に変わっていくシークエンス。  ちょっと下世話な描写でしたが、お風呂掃除中の妻のお尻に欲情してしまう件なんかが、非常に共感を持てたのですよね。  その後に、妻の荷物を「持つよ」と優しく提案する姿など、些細な描写の中にも「不器用ながらも、妻想いな旦那様」に変わった事が窺えて、微笑ましかったです。   断食の果てにチョコレートに貪り付く村長の姿からは、一種のカタルシスが感じられたし 「人間の価値は何を禁じるか、何を否定するか、誰を排除するかではなく、何を受け入れ、何を創造し、誰を歓迎するかで決まる」  というアンリ神父のお説教も、心に沁みるものがあって良かったですね。  娘の友達であるカンガルーの存在も、物語の寓話性を高める程好いアクセントになっていたと思います。   ゆったりと身を委ねたくなるような甘みと、微かな苦み、両方を味わえた映画でありました。
[DVD(吹替)] 7点(2017-02-03 05:58:00)(良:3票)
12.  ぼくのプレミアライフ 《ネタバレ》 
 姉妹編「2番目のキス」に比べると、何処か真面目で、御洒落なセンスすら漂わせている本作。   「趣味」か、それとも「愛する女性」かと、世の男性に対し二択を迫るような内容となっており、観賞後は色々と考えさせられるものがありましたね。  結論から先に言えば「一番大切なのは愛する女性、趣味は二番目」という、ごく真っ当な答えを出したエンディングとなっているのですが、主人公はアーセナルの優勝決定の瞬間には「趣味」であるサッカー観戦の方を優先させている為、ちょっと中途半端な印象も受けてしまいました。   あるいは、長年の宿願であるアーセナルの優勝を目に出来たからこそ、スッキリとした気持ちになって、一歩進んで、大人になれたという事なのでしょうか。  この辺りの心理に関しては、劇中で必要以上に説明しない演出となっている為、解釈が分かれそうなところです。    スタジアムに連れて行った父親も引いてしまうくらい、サポーター活動に熱中していく主人公の姿は、何処か微笑ましくて、好印象。  「大人が何かに夢中になって、何故悪い?」という主張にも、大いに共感を抱きましたね。  このくらい強烈に没頭出来る趣味があるというのは、羨ましい事だな、と思えます。   優勝出来なかった時の失望が怖くて「どうせ無理」「絶対に負ける」なんて悲観的な事を呟き、自らの心に予防線を張っておく主人公の気持ちなんかも、同じスポーツファンとしては、実に良く分かりますね。  それだけに、優勝決定のゴールが決まる瞬間には、完全に気持ちがシンクロして、大いに興奮する事が出来ました。   その一方で、彼とは正反対な現実的思考のヒロインに関しても、きっちりと描かれていたんじゃないかと。  一定の理解は示しつつも「父親になるのだから、もっと落ち着いて、大人になって欲しい」と訴える姿は、説得力満点。  これだけしっかり者の奥さんがいてくれるなら、多少子供っぽい旦那さんでも、家庭は安泰だな……なんて、男目線で無責任に考えてしまったくらいです。   ラストシーンにて、二人は明確に「結婚」というワードを口にした訳ではありませんが、寄り添いながら歩く姿を見ていると、無事に夫婦になれたのじゃないかな、と思えますね。  生まれてくる子供は、父親に似てアーセナルファンになってくれるのかどうかも、気になるところです。
[DVD(字幕)] 7点(2016-09-05 12:30:00)(良:1票)
13.  シーズンチケット 《ネタバレ》 
 この映画はハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、それを読ませないバランス感覚が、非常に優れていたと思います。  正直に告白するならば、銀行強盗を企てる直前までの流れにて、少年二人の破滅的な最後も覚悟していただけに、あの心温まる結末には意表を突かれましたし、安堵もさせられましたね。  本来望んでいた通りの形では無かったけれど、彼らなりの「シーズンチケット」を手に入れる事が出来た……というのは、凄く良い終わり方だと思います。  奉仕活動が十二ヶ月という期限付きなのも、上手いなぁと感心。   その一方で、少し気になったのは、作中で一番悲惨な境遇だと思われる主人公の姉、ブリジットの顛末が語られず仕舞いだった事でしょうか。  彼女の行方が不明のままだったので、ラストの爽快感も薄れてしまった印象があるのですよね。  意地悪な言い方をするならば、意外なハッピーエンドに繋げる為に不幸な要素を数多く盛り込み過ぎて、それを回収しそびれたという印象も受けてしまいました。  主人公達が悪事を働いているのを誤魔化すかのように、父親や教師などの「もっと酷い悪役」を登場させてバランスを取ってみせたかのような部分も、あまり好みとは言えません。  チケットを買う為の貯金を、最悪な父親に奪われてしまうのは確かに可哀想なのですが、あんまり同情的に描かれてしまうと(それって、元々は悪い事して貯めた金でもあるんだよね?)と、疑問符も湧いてきました。   でも、やっぱり全体的には「良かった」と思える部分の方が多かったですね。  特に印象的なのは、主人公が父親と一緒にサッカー観戦した思い出を語る場面。  (へぇ、あの親父さんも昔は良い人だったのかな……)などと感じていたところで、実はそれが主人公本人の思い出ではなく、親友から聞かされた思い出話を、さも我が事であるかのように語っていただけなのだと明かされる件なんかは、とても切ない気持ちに襲われました。   チケットを「二人分」手に入れるのではなく「一人分」だけ手に入れて、それを交互に使ってはどうかと親友が提案するも、主人公が首を振って否定するシーンなんかも良い。  二人で観戦しなければ意味が無いんだよ、という友情が伝わってきて、犯罪者であるはずの彼らを、ついつい応援したくなってしまいましたね。   焚火を前にして、一度はチケットを手にするのを諦めた親友が「結構、楽しかったよ」「最低の暮らしの中で見た、一つの夢さ」と語る場面なんかも、忘れ難い味わいがあります。  その後、銀行強盗で捕まり、夢破れた後も奇妙に満足そうにしていた彼の姿が、何だか象徴的。  結局、この映画ではラストにて夢が叶った形なのだけど、夢を叶えたという結果以上に「夢を叶えようと頑張る」過程にこそ、本当に大切なものがあるのかも知れないな、と思わされました。
[DVD(吹替)] 7点(2016-06-15 07:05:12)
14.  スティーブン・キング/ドランのキャデラック 《ネタバレ》 
 クリスチャン・スレーター主演という情報を元に観賞してみたら、まさかの悪役。  元々善玉だけでなく悪党も器用に演じきる俳優さんという印象がありましたが、今回もハマっていましたね。  彼が演じた役柄で一番好きなのは「フラッド」の主人公なのですが、この映画のドラン役も、それに次ぐインパクトを与えてくれました。  特に終盤、自慢のキャデラックの中に閉じ込められてしまうシーンでの焦燥感や、息苦しさを伝えてくれる演技なんかは、必見です。   そして、そのキャデラック。  映画のタイトルになっているだけの事はあり、魅力たっぷりなアイテムとして描かれています。  完全防弾、背後を追跡してくる車を観察出来るカメラ、車内用パソコンに、緊急時の酸素吸入器(?)まで付いているという至れり尽くせりっぷり。  劇中では悪役が乗り回している代物であり、主人公にとっての復讐の対象となる車なのですが、妙に男の子心を刺激され、憧れてしまう存在でした。   原作がキングという事もあってか、主人公に妻の亡霊が見える設定もあるのですが、こちらに関しては必然性があったのか、少々疑問。  妻が妊娠していた事を悟らせる効果があったのでしょうが「それって幽霊経由でなくとも良かったのでは?」という疑念を抱いてしまいましたね。  映画後半では主人公とドランとの一騎打ちとなって、妻の幽霊は全く姿を見せませんし、決着が付いた後に、何か一言残して天国へと旅立ってくれる訳でも無し。  よって、幽霊の存在が途中から立ち消えする形となり、何だか宙ぶらりんに感じてしまうのです。  超常現象などを絡めずとも、純粋に復讐譚として楽しめるクオリティがあるじゃないかと思えただけに、そこが気になってしまいました。   映画終盤「主人公が行動を起こさずとも、いずれドランは逮捕される運命だった」と判明する件に関しては、実に皮肉が利いていて良かったと思います。  逮捕のキッカケとなった児童売買についても、ドランは決して乗り気ではなく、むしろ苦悩すら垣間見せていた辺りなんかも、好みのバランス。  主人公側だけでなく、ドラン側にも感情移入させてくれて、両者の対決の行方がどうなるのかに注目させてくれました。   全てが終わった後に、空を見上げて、乾いた高笑いを響かせる主人公。  そこには達成感が多分に含まれていたのでしょうが、それと同時に、復讐の空しさも感じていたのではないかな、と思えます。  独特の後味を与えてくれる映画でした。
[DVD(吹替)] 7点(2016-04-13 16:56:31)
15.  ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期 《ネタバレ》 
 冒頭にて、初代同様に「All By Myself」が流れたりと、ちゃんとファンの事を意識して作ったのが窺える三作目。   とはいえ、2で最高のエンディングを迎えておきながら「やっぱりマークと別れました」と言われても納得出来ない訳で……  「無理矢理作った続編」感は否めなかったですね。  三作目まで「マークと他の男、どちらと結ばれるか?」で引っ張るのにも、無理があった気がします。   と、そんな具合にストーリー面には不満もありますが「痩せて熟女になったブリジット」を拝めるという意味では、充分に楽しめる映画。  ラブコメのヒロインが老けちゃうのって、基本的にはマイナスでしかないはずなんだけど、彼女に関しては作中の台詞通り「エロ年増」的な魅力もあって、良かったですね。  とうとう禁煙に成功したっていうのも感慨深かったし、誕生日ケーキに立てられた四十三本の蝋燭を見つめ、何とも言えない笑みを浮かべる姿も良い。  母としての愛に目覚め、無事に出産して赤ちゃんを抱く姿にも、本当に(おめでとう)と祝福する気持ちになれました。   ギャグの面でも可笑しい箇所が色々ありましたし、特に「スタバの店員」ネタはお気に入り。  ここ、過去作にも共通する「元ネタを知らずとも充分面白い」バランスに仕上げてあるのが、本当に良いと思いますね。  エド・シーランを知らなくても、ちゃんと話の流れで「彼は凄い歌手だったんだ」と理解出来るよう作ってある。  クライマックスにおける「愛と青春の旅だち」をパロった演出も、また然り。  本シリーズって、根底には「ダーシー様に恋する文学オタクの為の映画」ってのがある訳だけど、マニアックな笑いに走り過ぎず、色んな人が楽しめるよう配慮されているのが見事でした。   「夢は共有出来るのに、現実はズレてばかり」という台詞も切ないし、旦那候補のジャックも、女医さんも良いキャラでしたね。  前作におけるレベッカもそうでしたが、続編で出てくる新キャラにもきっちり魅力があるというのは、大いに評価したいところです。   その一方で、そんなレベッカが本作で再登場してくれないというのは寂しいんだけど……  まぁ、これは登場人物を絞る為に、仕方無かったのかな?  初代からの恋敵であるダニエルが出てこないのも「流石に三作連続で、同じ顔触れの三角関係やる訳にはいかないから」って事で、納得出来る範疇でした。   改めて考えてみると「マークの元妻であるカミラの存在感が薄過ぎる」とか「女上司のアリスがそこまで悪い人じゃないので、啖呵を切って辞職する場面に一作目ほどの爽快感が無い」とか、欠点も色々思い付いちゃうんだけど……  決定的にファンを裏切るような真似はしていないし、一定のクオリティはあったしで「不平不満」より「映画三本分かけて付き合ったブリジットへの愛着」が優っちゃいますね、どうしても。   マークと結婚して幸せになりましたって終わり方なのも「王道」というより「予定調和」なんですが、それが心地良い。  エンドロールの最後を飾る、家族三人の写真にも和みましたね。  良い映画であり、良い三部作だったと思います。
[DVD(吹替)] 6点(2020-11-11 10:33:36)
16.  ブリジット・ジョーンズの日記 《ネタバレ》 
 この映画に関しては、元ネタである「高慢と偏見」を知っているかどうかで評価が分かれそうな感じですね。   それというのも、文学少女の憧れである「ダーシー様」を1995年のドラマ版で演じたコリン・ファースが「マーク・ダーシー」役を演じている訳だから、本作のブリジットは彼と結ばれるって事がバレバレなんです。  一応、ストーリーラインとしては「マークとダニエル、どちらと結ばれるのか分からない三角関係」って形になっているので、これはかなり致命的なネタバレ。  作り手側としては、もう配役の時点で開き直り、最初から「三角関係」要素を薄めて「ブリジットとマークが紆余曲折を経て結ばれるラブコメ」として仕上げているんでしょうけど……それでも消しきれない「三角関係」要素が、重荷になってる気がしましたね。  ダニエル役にヒュー・グランドが起用されているのも「豪華」というよりは「準主役でもないのに、勿体無い」と思えちゃいました。   そんな訳で、自分としては「悪い意味で結末が分かり切ってる映画」という、大きなハンデを背負った上での鑑賞だったのですが……  それでもしっかり楽しめた辺りは、流石という感じ。   本作が2000年代を代表するラブコメというだけでなく「ブリジット・ジョーンズは2000年代と寝た女」と思えちゃうくらい、彼女が魅力的に描かれていたんですよね。  ちゃんと仕事は頑張ってるから「彼氏がいないのを嘆いて、自堕落な休日を過ごしてる姿」も微笑ましく思えたし「ぽっちゃりとした女性の色気」が、視覚的に描かれていた辺りも良い。  特にカメラに向かってブリジットの巨尻が落ちてくる場面なんて、ギャグタッチにも拘らず昂奮しちゃったくらい。  メールでは強気な態度を取れるけど、いざ相手と目が合ったら愛想笑いしちゃうとか、そんなところも憎めない。  そんな彼女を愛でる「萌え映画」として考えれば、本作は満点に近い出来栄えだったと思います。    「人生やり直せるなら、今度は子供を作ったりしない」と母に言われる場面では鼻白んだとか、ブリジットの友人達の存在意義が薄いとか、不満点も色々あるんだけど、まぁ御愛嬌。   どちらかというと、終わり方がアッサリし過ぎていたのが気になりましたね。  これは欠点というよりは「マークと上手くいきそうになって、これから面白くなりそうだってところで終わるのが残念」っていう類の不満点です。  結果的に三部作になったので、この不満も続編で解消される訳だけど、本作単体で考える分には、どうしても「物足りない終わり方」って評価になっちゃうと思います。   後は……上司にカッコいい啖呵を切って辞職する場面が痛快だったとか、頑張って新しい自分に変わろうとするブリジットに「ありのままのキミが好き」とマークが言ってくれる場面にはグッと来たとか、そのくらいかな?   こういったシリーズ物の場合、初代が一番面白くて続編は蛇足ってパターンも多い訳ですが……  本作に関しては、続編の方が面白いんじゃないかと思えましたね。  興味がおありの方は、是非チェックして欲しいです。
[DVD(吹替)] 6点(2020-11-11 10:02:42)(良:1票)
17.  フラッド 《ネタバレ》 
  これは……  「途中までは面白かったのに」ってタイプの映画ですね、残念ながら。    クレジットではモーガン・フリーマンが一番上になっているけど、物語の主人公は間違い無くクリスチャン・スレーター演じるトムの方って時点で、既に歪というか、どこかバランスが狂ってる感じ。  両者を好きな自分にとっては「夢の共演」と言える映画のはずなのに、この二人が手を組む流れも雑に思えちゃって、全然興奮しなかったです。  トムに関しては凄く好きなタイプの主人公で、スレーターが演じた役柄の中でも一番じゃなかろうかと思えるくらい気に入っていただけに、途中から(何でそうなるの?)って展開になってしまったことが、本当に惜しい。   繰り返しになりますが、途中までは面白かったんです。  町が水浸しになっている光景だけで、如何にも「非日常の世界」って感じがしてワクワクしちゃったし、狭い室内でのジェットスキーを駆使したアクションなんかも、目新しくて興奮。  牢の中にまで水が押し寄せ、溺死しそうになったところを間一髪で助かる場面なんて、本当にドキドキさせられましたね。  口喧嘩ばかりしているけど、実は強い絆で結ばれていた老夫婦の存在など、脇役の魅力も光っていたと思います。  「他人様の金を命懸けで守るなんて、下らん仕事さ」と自嘲していた相棒のチャーリーが、実は裏切り者だったと明かされる流れも、程好い意外性があって好み。   じゃあ、何で「残念映画」と感じてしまったかというと……  やっぱり、主人公のトムと、モーガン・フリーマン演じるジムが手を組む流れが、無理矢理過ぎるんですよね。  せめて、もうちょっと「トムVSジムVS保安官達」という三つ巴展開を描き、終盤にてようやく緊急避難的にトムとジムが手を組むとか、そういう形にした方が良かったんじゃないでしょうか。  本作の場合「金に目が眩んだ保安官達が、敵になる」というだけでも充分にサプライズ展開だったのに、そこにプラスして「トムとジムが手を組む」っていう展開までセットで押し通しちゃったもんだから、驚きを通り越して困惑に繋がってしまった気がします。   あと「引鉄をひいても弾が出ない」って展開を繰り返しやってるのも興醒めだし、スローモーションの使い方も雑だし、終盤になると脚本だけでなく演出まで一気にレベルが下がっていたように思えるんですが……  (制作現場で、何かトラブルでもあったの?)って心配になっちゃいますね。   途中までは本当(意外な傑作に巡り会えた)(しかもクリスチャン・スレーター主演じゃん! 最高!)ってテンション上がっていただけに、終盤のグダグダっぷりが、返す返すも残念。  スレーター好きな自分としては、彼が主演というだけでも満足度は高めだったのですが……  もうちょっとだけ頑張って「文句無しの傑作」「スレーターの代表作といえばコレ」と言わせて欲しかったという、そんな口惜しさの残る一品でした。
[DVD(吹替)] 6点(2020-02-26 05:37:51)
18.  カオス(2005) 《ネタバレ》 
 ジェイソン・ステイサムとウェズリー・スナイプスといえば、ヒーローも悪役も貫禄たっぷりに演じられるのが強み。   そんな二人の悪役っぷりを同時に堪能出来るという、非常に貴重な一本なのですが……  改めて観返してみると、二人が同じ画面に映っているシーンが殆ど無かったりしたもんだから、ちょっと寂しかったですね。  この後「エクスペンダブルズ3」にて本格的な共演が果たされた訳だけど、あちらでは二人ともヒーロー側だった訳だし、出来れば本作にて「悪役同士」ないしは「刑事と犯人の対決」という形での共演を、じっくり披露して欲しかったものです。   とはいえ、映画単品としては手堅く纏まっており、変に期待値を上げたりしないで観賞すれば、充分楽しめる出来栄えじゃないかと思えましたね。  粗野な中年刑事と、大学出のスマートな青年刑事によるバディムービーかと思いきや、片方が途中退場して真の黒幕だったと明かされる展開なんかは、この手の刑事物を沢山観ている人ほど騙され易く、新鮮に感じられるんじゃないでしょうか。  とにかくステイサム演じるコナーズが周りから悪口ばかり言われるもんだから、普通なら彼が強盗事件を解決し、周りを見返してやる結末になるはずなのに、本作に限っては全く逆で「彼を非難していた連中の見解が正しかった」と言わんばかりの結末を迎えるんだから、実に皮肉が効いています。  1:犯人が人質を殺した事を、コナーズが責める。 2:コナーズの出した紙幣をシェーンが財布に仕舞う。 3:押収品の紙幣には、特殊な香りが付けられている。   といった場面が印象的に描かれており、それらが伏線だったと明かされる流れも気持ち良い。  本作は「主人公が犯人だった」という叙述トリックを用いているのですが、バディムービーという体裁を取って、自然な形で主人公格を二人用意し、観客が感情移入させる対象をコナーズから青年刑事のシェーンへと自然に移行させた辺りも、上手かったですね。  バイクでトラックを追いかけるカーチェイス場面なんかも良かったし「観客を楽しませよう」という意思が伝わってくる、丁寧に作られた一品だったと思います。   不満点としては、コナーズが逮捕されずに逃げ延びて終わってしまうので、後味が悪い事。  事前に見せておいた爆破シーンと、その後の種明かしシーンとで、それぞれの時間経過に差があるのは(ズルいなぁ……)と感じちゃう事。  人質を誤射してしまった元刑事のローレンツが、今度は自らが人質を取るような悪党となってしまったのを自嘲し「お前ならどうする?」とシェーンに問い掛ける場面が劇的で良かっただけに、それに対する答えを示す場面が無いのは片手落ちに思える事とか、その辺りが該当するでしょうか。   バッドエンドである事も含めて、観賞後はモヤモヤも残ってしまうんだけど……  とりあえず観ていて退屈はしなかったし、途中経過は楽しめたので、自分としては一応満足です。
[DVD(吹替)] 6点(2019-01-18 20:34:09)(良:2票)
19.  いつも2人で 《ネタバレ》 
 時間軸をバラバラにした構成での恋愛物という、今観ても目新しさを感じさせる一品。  ・同じ旅先での「食事」や「海水浴」の風景でも、若い恋人時代と倦怠期の夫婦時代とでは、こんなに違っている。 ・かつて目撃した「二人でいるのに、ずっと押し黙っている夫婦」に、自分達がなってしまっている。   等々、この構成ならではの巧みな対比、スムーズな場面転換の手法には、本当に感心させられましたね。  これは公開当時には、今以上に斬新で、御洒落なセンス漂う映画だったんじゃないかな、と思えました。   それと同時に、先駆的な作品ゆえの「未成熟さ」「手本が乏しいゆえの手探りな感じ」も伝わってきてしまい、そこは残念。  現代の観点からすると、こういった構成であれば「幸せだった恋人時代」「不幸な倦怠期」は、もっと極端に対比させても良かったと思うんですよね。  本作は「この夫婦は、若い頃から何も変わっていない」という結論ありきな為か、全編に亘って「夫婦喧嘩」「皮肉屋な男と、それに気分を害す女」を観賞させられる形となっており、少々ゲンナリしてしまうんです。   一応、若い恋人時代の方が「あの頃は貧しい旅行でも幸せだった」「トラブルがあっても笑い飛ばす事が出来た」と感じさせるような作りになってはいるですが、それが徹底していない。  例えば、プロポーズすら喧嘩中の勢いに任せて行っている訳であり、それは如何にもこの夫婦らしいエピソードなんだけど「結局、若い頃から喧嘩してばっかりじゃん。そんなの見せられても楽しくない」という印象を強める結果にもなっています。  早回しのギャグ演出には(流石に古臭いなぁ)とテンションが下がったし、両者とも浮気しているのに、男側はサラッと流されて、女側だけやたらと非難がましく描かれているのも、実に居心地が悪い。  最後のオチが「若い頃と同じようにパスポートを無くしてしまった夫と、それを見付けてあげる妻」というのも、ちょっと弱いんじゃないかなと思えました。   そんな年代差を感じさせる諸々に対し、普遍的な魅力を感じさせるのは、作中の台詞の数々。  「女は夢が叶うと傲慢になる」という一言には、思わず頷きたくなるものがあったし「愛してる?」と問われ「拷問中の自白は無効」と答えるやり取りなんかも、ユーモアがあって良かったですね。   交通整理の機械(?)の真似をしてみせるヒロインも、とびきり愛らしくて素敵。  ここが一番「オードリー・ヘプバーン主演だからこその魅力」を味わえた場面だったかと。  ホテルのルームサービスは高値で手が出ないからと、果物や缶詰をこっそり買い込んで来て、部屋で食べるシーンなんかも好きですね。  この映画を知っている女性と出会い、恋に落ちる事があったなら、是非とも一緒に真似してみたくなる。  そんな名場面を備えた、良い恋愛映画だったと思います。
[DVD(字幕)] 6点(2018-02-14 12:27:51)(良:1票)
20.  SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁<TVM> 《ネタバレ》 
 数あるホームズ物の中でも、一番好きな本シリーズ。   舞台を現代に置き換えたアレンジが絶妙だった本編に対し、あえて原作と同じヴィクトリア時代を舞台にした番外編的な作りに、大いに期待が膨らんだのですが……結局は劇中の飛行機よろしく「現代の物語に着地した」感じなのが残念でしたね。  これは、あくまでも全十三話あるドラマの中の一話に過ぎず、さほど特別な話でもないし、これ単品で楽しめるような代物でも無かった、という形。   二十一世紀で活躍する主人公シャーロックが、薬物の作用によって垣間見た「一種の妄想オチ」となっており、それゆえに何でも有り過ぎて、観ていて興醒めしちゃうんですよね。  劇中で女装したモリアーティが「真面目にやれよ」「馬鹿々々しい」とツッコんでいるから、スタッフは確信犯的にやっているんでしょうけど、ちょっとノリ切れなかったです。   せめて「忌まわしき花嫁」事件だけは、キチっと十九世紀の世界で決着を付けて欲しかったですね。  トリックやら犯人やらは明かされているんだから、そのまま素直に事件解決として、その後に現代に視点を移した方が良かった気がします。   ……それでも、流石は「SHERLOCK/シャーロック」とでも言うべきか、魅力的な部分も一杯あって、どうにも憎めなかったりするものだから、困りもの。  「現実に存在するホームズは困った奴なのに、小説では紳士的なヒーローとして書いている」とか「私も挿絵に合わせて髭を生やした」とか、ワトソンがボヤく姿だけでも、面白くって仕方ないんですよね。  (へぇ、こっちの世界のモリーは男性なのか……)と思ったら、実は女性で男装しているオチだった辺りも、良かったです。  「本編に対する番外編なので、性別が違っている事も有り得る」という思い込みを、上手く利用された感じ。  小間使いの少年やメイドなど、十九世紀ならではの人物が登場する辺りも、本作だけの特別な魅力と言えそうですね。   それと、オールバック姿のホームズを演じてみせたカンバーバッチについては、当初こそ(ジェレミー・ブレットに匹敵するくらい素晴らしい!)と思えたのですが……途中で現代のシャーロックに視点が切り替わると(あっ、やっぱり普段の髪型の方が良いな)と思えたりもして、評価が難しかったです。  原作のホームズのルックスに近いのは十九世紀版の方なんでしょうけど、やはり自分としては、二十一世紀のシャーロックの方が好きみたい。   最後の台詞にて「僕は時代を越える男だから」と語られていた通り「現代に甦ったシャーロック・ホームズ」という本シリーズの主人公が、如何に魅力的であるかを、十九世紀の世界を通して再認識させられる。  そんな「第十話」でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2017-10-24 22:50:44)
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