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プロフィール
コメント数 614
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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281.  スペイン一家監禁事件 《ネタバレ》 
 「助かると思った? やっぱり殺すよ」というオチありきというか、それがやりたかっただけとしか思えない映画。   原題の「Secuestrados」は「誘拐された」という意味らしく、邦題ともども「殺人」という要素は含まれていないのもポイントですね。  だから観客としても「監禁」されるだけと思い込んでしまうし、まさかの被害者全滅エンドとは予測出来ない。  こういう陰鬱な終わり方は好きじゃないので、あまり褒める気持ちにはなれませんが、やり方としては上手かったと思います。   それは冒頭、顔に袋を被せられてた男が電話する場面も然りであり、この件って本筋とは直接関係無いんですが「人質に袋を被せる」「父親と妻や娘を引き離す」という手法からすると、冒頭の事件と本筋の事件って同一犯な可能性が高いんですよね。  つまり、その冒頭場面によって「ママが撃たれた」「でも父親と娘は助かってる」という情報を提示している為「人質は撃たれて殺される事もある」という緊張感を与える事に成功しているし、その一方で「全員殺される事は無い」というミスリードを誘う効果もあったんだから、これまた上手い。  冒頭、被害者家族が喧嘩している描写も「悲劇を乗り越え、家族の絆が強まるオチ」を連想させるし、この手の犯罪映画を色々と研究した上で、それを逆手に取った作りにしてるのが伝わってきました。   犯人の正体が引っ越し業者とか、序盤に出てきた卵の置物が武器になるとか、諸々の伏線も丁寧でしたし……  後は何と言っても、分割画面(スプリットスクリーン)の使い方が見事。  離れ離れになってる人質二組を同時に映し、それぞれが犯人に反撃して、窮地を脱した二組が合流すると同時に、二つの画面が一つになる。  「再会の喜び」を示す上で、とても効果的な手法ですし、本作のクライマックスは間違い無く、この「二つが一つに戻る場面」だったと思います。   「三人組の犯人グループの内、凶悪だった二人は反撃を受けて殺され、唯一良心が残ってた男は金を持ち逃げする事に成功する」っていうのも、良い決着の付け方だったんですが……  そこで終わっておけば良いのに、余計な付け足しというか「実は生きていた犯人の一人に、家族皆殺しにされる」ってオチに雪崩れ込んでしまうのが、本当に残念。  所謂「最後で台無し」系の映画って事になるんですけど、それでも「最後の手前までは凄く良かった」って事も確かな訳で、こういうのって、評価が難しいですね。   自分の心の中にある、映画の本棚。  その端っこにある「どうしても好きになれないけど、これは凄いと認めざるをえない映画」って枠の中に、本作も加わる事になりそうです。
[DVD(吹替)] 6点(2023-07-11 10:27:04)(良:1票)
282.  きみがくれた未来 《ネタバレ》 
 こんなに可愛くって、しかもレッドソックスのファンな弟がいるだなんて、全くもって主人公が羨ましい。   一応、本作には女性のヒロインも登場しているのですが、明らかに「男女のロマンス」よりも「兄弟の絆」を重視した作りになっていますよね。  大人な自分としては、自然に兄の側に感情移入し (こんな可愛い弟がいたら、そりゃあ楽しいだろうな)  と思えた訳ですが、多分コレ、幼い子供が弟の側に感情移入して観たとしても (こんな恰好良いお兄ちゃんがいたら、きっと楽しいだろな)  って思えたんじゃないでしょうか。  そのくらい「理想の兄弟像」が描けていると思うし、兄を演じたザック・エフロンも、弟を演じたチャーリー・ターハンも、素晴らしく魅力的だったと思います。   「主人公は幽霊と会話出来るし、触れ合う事も出来る」という設定の使い方も上手かったですね。  特に序盤の、サリバン中尉殿とのやり取りなんて、凄く好き。  出征して戦死した友人に対し「俺も一緒に行けば良かった」と悲し気に訴える主人公と「来なくて良かったんだ」と笑顔で応え、静かに立ち去る友人。  ベタなやり取りなんだけど、じんわり心に沁みるものがあって、とても良かったです。  「実はヒロインも幽霊だった(正確には、仮死状態による生霊?)」というドンデン返しについても、彼女が墓場で眠っていたという伏線なども含めて、鮮やかに決まっていたんじゃないかと。   それと、この映画って「何時までも死者に囚われていないで、前を向いて生きるべき」という、ありがちなテーマを扱っている訳だけど、それがちっとも陳腐に思えなかったんですよね。  何せ本作においては「主人公は幽霊と会話出来るし、触れ合う事も出来る。たとえ幽霊でも弟と一緒にいれば、弟が生きていた時と何も変わらない、楽しい日々を過ごせる」という設定な訳なのだから、主人公が世捨て人のような暮らしをしていても納得出来るし、自然と感情移入出来ちゃうんです。  この手の映画の場合、いつまでもウジウジ悩んでいる主人公に共感出来ず、むしろ主人公を励ます側の目線で観てしまう事が多い自分ですら、本作に限っては完全に主人公側の目線で観る事が出来た訳だし、これって何気に凄い事なんじゃないでしょうか。  「良くあるタイプの映画でも、設定や描き方に一工夫加える事によって、独特な味わいになる」例の一つとして、大いに評価したいところです。   弟とのキャッチボールに、恋の悩み相談、雨の森ではしゃいで遊ぶ姿なんかも非常に楽し気に描かれており  (このままずっと、兄弟一緒の世界で生きていくのも、それはそれで素敵な事じゃないか……)  と思わせる作りになっているのも、凄いですよね。  「死者に囚われて生きる事」を決定的に否定するような真似はせず、むしろその生き方の魅力を存分に描いておいたからこそ、終盤における主人公の決断「弟と共に過ごす日々よりも、愛する女性の命を救う事を選ぶ」行為にも重みが出てくる訳で、この前後の繋げ方は、本当に良かったと思います。   約束の森で、一人ぼっちになった弟が「兄は自分よりも大切な存在を見つけたんだ」と悟ったかのように、寂しげに立ち去るも、恨み言などは一切口にせず「お兄ちゃん」「好きだよ」と呟いてから消えゆく様も、本当に健気で……観返す度に瞳が潤んじゃうくらい。  ラストシーンにて、以前のように会話する事も、触れ合う事も出来なくなってしまった兄弟が「それでも、何時かまた会える」「会えない間も、いつまでも俺達は兄弟だ」と約束を交わす終わり方も、凄く好きですね。   冷静になって考えてみると、肝心のヒロインには魅力を感じなかったとか、弟がお兄ちゃんにしか執着してないので両親の置いてけぼり感が凄いとか、色々と難点もある映画なんですが……  眩しいくらいの長所の数々が、それらを優しく包み込んで、忘れさせてくれた気がします。   「面白い映画」という以上に「好きな映画」として、誰かにオススメしたくなる一品でした。
[DVD(吹替)] 8点(2019-11-07 06:36:42)(良:1票)
283.  素敵な人生の終り方 《ネタバレ》 
 設定からすると、如何にも感動物といった趣きの映画なのに、その内容はコメディという意外性が面白かったですね。  涙を誘うようなシーンもあるにはあるのですが、それよりも笑いの比重が大きかったように思えます。   自分としては、冒頭の悪戯電話を楽しんでいる主人公達に対して今一つ感情移入が出来ず、どこか冷めた目で画面を眺める事になってしまったのが残念。  そして、そんな悪戯電話の件以上に呆気に取られたのが、終盤におけるヒロインの台詞。 「(彼と不倫したのは)病気を使って同情させるからよ」  って、おいおいそこまで言うか、と衝撃的でしたね。  主人公が一途な愛情を抱いている存在なのだから、きっと優しい女性なのだろうな……という思い込みを、木っ端微塵に粉砕された形。   とはいえ、元々家庭がありながら不貞を働いていたカップルなのだし、そのくらいの落としどころが丁度良かったのかも知れませんね。  主人公も彼女も聖人君子ではなく、むしろ駄目な人間なのだというのが、何となく可笑しかったです。  道徳的には正しくなかったとしても、憎めない愛嬌のようなものを感じさせてくれました。   この映画は全編に亘ってそういった肩透かし感が強く「病気で余命僅かな主人公」「元妻との恋の再燃」というテーマを扱っておきながら「主人公の病気はアッサリ治るので、感動的な死など迎えない」「元妻とヨリを戻す事もなく、再び別れる事になる」という、王道の展開を踏まえた上での真逆な結末を迎えているんですよね。  結局、主人公は病気の告知を受けて自分の一生を見つめ直す前の段階と、何も変わっていないように見える。  ただ一つの大きな違いは、心を通わせられる友達が一人出来ただけ……という、静かな変化を描いた結末は、とても好みでした。   アダム・サンドラーと対になる、もう一人の主人公を演じたセス・ローゲンの存在も良かったですね。  彼の目線からすれば「一度は歩みかけたコメディアンとしての成功の道を閉ざされた後に、再び立ち上がって歩み始める」という、大いに青春を感じさせるエンディングにもなっています。   色々と意外な展開で驚きましたが、偶にはこんな風に「王道」「お約束」を逆手に取った作品も悪くない……と、そんな風に感じさせる一品でありました。
[DVD(吹替)] 5点(2016-04-23 16:54:56)(良:1票)
284.  ゾンビーワールドへようこそ 《ネタバレ》 
 ボーイスカウトとゾンビの組み合わせといえば「バンクス/ゾンビキャンプ」(2013年)という前例がありましたが、あちらが子供向けに仕上げていたのに比べると、こちらは背伸びしたい若者向けって感じの内容でしたね。  グロい場面や、エロい場面なんかも適度に配してあるし、何よりティーンエージャーの成長物語として作ってある。   である以上、何時まで経っても大人になりきれない自分としても、大好物な品のはずなのですが……  要所要所で引っ掛かる部分があって、手放しで絶賛出来ないのが残念でしたね。   いやもうホント、出来は良いんですよ。  ゾンビ映画ってジャンルは、百本観たら八十本以上は「外れ」と感じてしまうくらい「当たり」率の低いもんなのだけど、本作は間違い無く「当たり」の部類。  映像や音楽もしっかりしていますし、途中で間延びする場面も無かったし、娯楽作品として高い水準に達していると思います。   テントを張ったり焚火したりする「ゾンビに襲われる前の楽しい一時」が、きちんと描かれてるのもポイント高いし、お約束の武器としてショットガンが登場し、豪快にゾンビの頭を吹き飛ばしてくれるのも良い。  普段は車が壊れても全然手伝ってくれなかった悪友が、ゾンビに襲われている最中には積極的に手伝ってくれる対比なんかも、上手いなぁと感心しちゃいましたね。  主人公達がボーイスカウトという設定を活かした「ホームセンターで材料を集め、自前の武器を作成する場面」も、凄く良かったです。  物語上、特に必要は無いのに爆発シーンを挟み、分かり易く「はい、ここがクライマックスですよ」と教えてくれてる感じなのも、憎めない愛嬌がありました。    じゃあ、何が気に入らなかったのかというと……  本当に些細な事なんだけど、主人公のベンの言動が問題だったんです。  勿論、彼は良い奴だし、真面目だし、自分も彼が嫌いって訳じゃないんですが、何故か肝心な部分で(えっ? 何それ?)って思うような選択したり、行動を取ったりするんですよね。  なまじ彼が「良い奴」で、自分も序盤から彼に感情移入して観ていたもんだから、途中から徐々に(この主人公は、何か違う……)って違和感を抱き始めたのが、失望に繋がっちゃったんだと思います。   そんな違和感が決定的になったのが、パトリック・シュワルツェネッガー演じるジェフの首を切断して「この、カスが」と毒付く場面。  そりゃあジェフは「嫌味なイケメン男子」という、オタク映画における最大の憎まれ役キャラだったけど(ゾンビ化した知り合いを殺しておいて、そんな態度取る?)って引いちゃったんですよね。  なんか首の斬り方も妙に恰好良く、スタイリッシュに描いて「どう? 観客の皆もスカっとしたでしょ?」と言わんばかりの演出していたのにも(悪趣味だなぁ……)と、ゲンナリするばかりでした。  ここは、お調子者の相棒であるカーターが「ざまぁみろ」と罵って死体を蹴るのを「やり過ぎだ」とベンが咎めるくらいのバランスでも良かった気がします。    あとラストシーンにて、共に苦難を乗り越え、絆を育んできたデニースではなく、ケンドルの方と結ばれるというのも、スッキリしない感じ。  作中の人物の立場になれば「映画で描かれたのは、長い人生のほんのワンシーンに過ぎない。ずっと前から好きだったケンドルを選ぶのは当たり前」って話なんでしょうけど、映画を観ている観客からすれば、出番なんて僅かしかないケンドルより、ヒロイン格であったデニースの肩を持っちゃう訳で、どうも納得出来ないんですよね。  それならせめてデニースの目線で(あぁ、ベンに振られちゃった……)的な切なさを出してくれたら、彼女に同情して、切ない余韻が残ったと思うんですけど、それも無し。   良い映画だし、面白い映画だったんですが、肝心の部分が肌に合わないっていう、非常に勿体無いパターンでした。
[DVD(吹替)] 6点(2020-04-07 08:59:31)(良:1票)
285.  いつも2人で 《ネタバレ》 
 時間軸をバラバラにした構成での恋愛物という、今観ても目新しさを感じさせる一品。  ・同じ旅先での「食事」や「海水浴」の風景でも、若い恋人時代と倦怠期の夫婦時代とでは、こんなに違っている。 ・かつて目撃した「二人でいるのに、ずっと押し黙っている夫婦」に、自分達がなってしまっている。   等々、この構成ならではの巧みな対比、スムーズな場面転換の手法には、本当に感心させられましたね。  これは公開当時には、今以上に斬新で、御洒落なセンス漂う映画だったんじゃないかな、と思えました。   それと同時に、先駆的な作品ゆえの「未成熟さ」「手本が乏しいゆえの手探りな感じ」も伝わってきてしまい、そこは残念。  現代の観点からすると、こういった構成であれば「幸せだった恋人時代」「不幸な倦怠期」は、もっと極端に対比させても良かったと思うんですよね。  本作は「この夫婦は、若い頃から何も変わっていない」という結論ありきな為か、全編に亘って「夫婦喧嘩」「皮肉屋な男と、それに気分を害す女」を観賞させられる形となっており、少々ゲンナリしてしまうんです。   一応、若い恋人時代の方が「あの頃は貧しい旅行でも幸せだった」「トラブルがあっても笑い飛ばす事が出来た」と感じさせるような作りになってはいるですが、それが徹底していない。  例えば、プロポーズすら喧嘩中の勢いに任せて行っている訳であり、それは如何にもこの夫婦らしいエピソードなんだけど「結局、若い頃から喧嘩してばっかりじゃん。そんなの見せられても楽しくない」という印象を強める結果にもなっています。  早回しのギャグ演出には(流石に古臭いなぁ)とテンションが下がったし、両者とも浮気しているのに、男側はサラッと流されて、女側だけやたらと非難がましく描かれているのも、実に居心地が悪い。  最後のオチが「若い頃と同じようにパスポートを無くしてしまった夫と、それを見付けてあげる妻」というのも、ちょっと弱いんじゃないかなと思えました。   そんな年代差を感じさせる諸々に対し、普遍的な魅力を感じさせるのは、作中の台詞の数々。  「女は夢が叶うと傲慢になる」という一言には、思わず頷きたくなるものがあったし「愛してる?」と問われ「拷問中の自白は無効」と答えるやり取りなんかも、ユーモアがあって良かったですね。   交通整理の機械(?)の真似をしてみせるヒロインも、とびきり愛らしくて素敵。  ここが一番「オードリー・ヘプバーン主演だからこその魅力」を味わえた場面だったかと。  ホテルのルームサービスは高値で手が出ないからと、果物や缶詰をこっそり買い込んで来て、部屋で食べるシーンなんかも好きですね。  この映画を知っている女性と出会い、恋に落ちる事があったなら、是非とも一緒に真似してみたくなる。  そんな名場面を備えた、良い恋愛映画だったと思います。
[DVD(字幕)] 6点(2018-02-14 12:27:51)(良:1票)
286.  ホリデイ 《ネタバレ》 
 休日にノンビリ過ごしながら観賞するには、最適の映画なんじゃないかと思います。   それというのも、これって「面白過ぎて目が離せない」とか「続きが気になって仕方無い」とか、そういうタイプの作品じゃないんですよね。  話の展開は王道に則っており、主役の男女四人も予定調和で結ばれて、ハッピーエンドを迎える事になる。  いきなり大きな音がして吃驚させられる事も無いし、劇中の音楽も穏やかで、心地良いものばかり。  だから観賞中、ウトウトして眠くなったら、そのまま寝ちゃったとしても問題無いような、独特の包容力があるんです。  つまりは「退屈な映画」って事じゃないか……とも言えそうなんですが、自分としては好きなんですよね、こういう映画って。   まず、ホーム・エクスチェンジを題材にする事によって「夢のような豪邸」「お伽噺のようなコテージ」の魅力を、両方味わえる形になっているのが上手い。  しかも、劇中のヒロイン達にとっても、その豪邸とコテージは「初めて訪れる場所」である為、新鮮な反応を示す彼女達と観客とが、同じ気分になって楽しむ事が出来るんです。  旅行映画のお約束「新鮮な場所での、新鮮な恋」も描かれているし、素敵な異性以外にも「偏屈だけど、チャーミングな老人」「とっても無邪気で、可愛い子供達」と出会えたりするんだから、もう言う事無し。  「今いる場所から抜け出して、生まれ変わってみたい」という願望を満たしてくれる、実に良質な作品だと思います。   主演の四人も全員好きな俳優さんだし「予告編」や「劇中曲」の使い方も上手い。  リンジー・ローハンとジェームズ・フランコが出演しているという「危険な罠」についても(予告編だけでなく、本編も観てみたいなぁ……)と思っちゃったくらいですね。  老脚本家のアーサーが自力で歩き、階段を登ってみせる場面にて「マイルズがアーサーの為に作った曲」が流れ出す演出も、凄く好み。  正直、アーサーという人物については考え方が懐古主義過ぎて、あまり共感出来ずにいたのですが、この場面の感動によって一気に好きになれた気がします。  「映画は私にとって、永遠の恋人なのです」というスピーチも、心に響くものがありました。   タクシーが「Uターン出来ない道」と言っていたのに、その後に家から車で出掛けたりする場面があるのは戸惑ったし(多分、反対側の道なら普通に車で移動出来るって事なんだと思われます)折角の可愛い子犬が途中から空気になっているという不満点もあるんですが、気になるのはそれくらい。   アイリスが元カレへのメールで「Dear」と書きかけてから消す場面。  グレアムが「ナプキンヘッド」に変身して、幼い娘達を笑顔にする場面。  マイルズがビデオ店にて、色んな映画音楽を紹介する場面。  そしてアマンダが子供時代のトラウマを克服し、涙を流す場面と、主役四人にそれぞれ印象的な場面がある点も良いですね。   劇中の台詞に倣い「ホリデイ」は自分にとって「恋人のような映画」だと、そう紹介したくなるような、素敵な一品でありました。
[ブルーレイ(吹替)] 9点(2018-06-22 05:35:41)(良:1票)
287.  ブルー・ストリーク 《ネタバレ》 
 「ビバリーヒルズ・コップ」(1984年)に影響を受けた映画なんて、星の数ほどある訳ですが……  その中でもオリジナルに比肩するほどの傑作は何かと考えたら、真っ先に本作が思い浮かびますね。   単純に「面白い」「出来が良い」っていうのもありますが「元々は犯罪者という経歴を活かし、型破りな捜査を行う主人公刑事」っていう面白さを「ビバリーヒルズ・コップ」以上に描いてる点が素晴らしい。  次々に事件を解決し、周りから「アイツは凄い刑事だ」と誤解されていく様も愉快だし、この一点においては間違い無く元ネタを越えてると思えます。    それと、本作には二面性の魅力があり「マローン刑事による事件捜査パート」だけでなく「泥棒のマイルズによる侵入窃盗パート」も、しっかり面白く描けてるんですよね。  冒頭、ダイヤを盗みに入る場面だけでもワクワクさせられるし、なるべく人を傷付けないよう行動してるから、観客に不快感も抱かせない。  この辺りのバランスが絶妙で、ホントに理想的な「悪党主人公」であったように思えます。   ……先程「悪党主人公」と断ずる事によって気付かされましたが、本作って主人公のマイルズが「刑事を演じている内に正義感に目覚め、罪を悔いて改心する」なんて展開には全くならず、一貫して「悪党」のままであるっていうのも、凄いポイントですよね。  カールソン刑事達とは友情が芽生えているけど、彼らの為にと自首したりはせず、最後もダイヤを持ち逃げしちゃう。  それでも(こいつ、酷ぇ奴だな)とは思わなかったし、鮮やかに逃げ切った姿が痛快ですらあったんだから、もう御見事です。  脚本と演出、どちらも高いレベルにあったからこそ成し得た偉業と、そう呼んでも差し支えないくらい、凄い事だと思います。   一応、欠点も述べておくなら「女っ気も出しておこう」というサービス精神ゆえか「恋人のジャニース」「グリーン弁護士」などを登場させているのは、ちょっと無理矢理な感じで、浮いているように思えた事。  あと、ラストに仇敵のディークを殺す場面は、如何にも恰好付け過ぎで、違和感あった事が挙げられそうですね。  それまでのマイルズのキャラとも合ってないと思うし、事前に「ディークを殺すのを躊躇い、銃を持つ手が震える場面」があったのとも矛盾してる。  監督としては「最後を恰好良く〆て、ギャップに震えさせたい」って意図があったのかも知れませんが、正直ハズしてた気がします。   それと、マイルズとの別れの際にカールソン刑事が「その内、会えるかも」と言ってるのも、ちょっと残念。  続編を意識させるというか、期待を煽るような台詞だったのに、2022年現在「ブルー・ストリーク」の続編は作られていない訳ですからね。  これって、実に残酷な描写だと思います。   本当、今からでも続編を作って欲しいな、再びこの映画の世界に浸ってみたいなと思わせてくれる……  そんな一品でありました。
[DVD(吹替)] 8点(2022-05-05 04:39:24)(良:1票)
288.  サタンクロース 《ネタバレ》 
 クリスマスにサンタが人を殺しまくる映画といえば「悪魔のサンタクロース 惨殺の斧」などの前例があります。  けれど、あちらが「サンタの扮装をした殺人鬼」という扱いだったのに対し、こちらは本物のサンタという設定なのだから、よりインモラルですね。   煙突から家屋に侵入し、室内にいた人々を殺しまくる冒頭のシーンから、もう「掴みはOK」といった感じ。  こうして文字に起こしてみると、如何にも残酷な映画であるように思えますが、実際はといえば、軽快なBGMに乗せてスピーディーに、しかも様々な小道具を用いて楽しそうにサンタが殺していくものだから、どう見てもギャグにしかなっていないというバランスでしたね。  サンタクロースの恰好をスタイリッシュにアレンジして、さながらダークヒーローめいた趣きさえ漂わせている辺りも、実に効果的だったと思います。   ただ、それだけに終盤では上着を脱ぎ捨てて「サンタクロースの恰好」から外れてしまっているのが残念。  結末も「主人公達はサンタを倒す事が出来ず、北極に追い払うのが精一杯だった」という形であり、ちょっとスッキリしないものがあります。  まだまだ精神的に未熟な若者である主人公が、可愛らしいヒロインと共に「また現れるだろうけど、次も追い払ってみせる」と決意してみせた空気だったのは、成長を感じさせてくれるけれど、一応サンタを倒して決着をつけて「もし甦ってきたとしても、再び倒してみせる」という形にしても良かったじゃないか、と思えましたね。  続編を意識したのか、あるいはラストの空港でのやり取りを描きたかったのか、作り手の真意は不明ですが、もっと綺麗に完結させて欲しかったところです。   空飛ぶトナカイからプレゼント爆弾を投下するサンタの姿は、それだけでも「観て良かった」と思えるものがあるし「図書館では静かに」などのギャグも面白い。  ミニオーブン、胡桃割り人形などのアイテムの使い方も上手かったですね。  主人公とヒロインのコンビも「良い奴ら」であり、ともすればサンタ側に感情移入しそうになるのを引き止めて、素直に彼らを応援させてくれるのに成功していたかと思います。  ラストにて二人が結ばれる事も併せ、デートムービーとしての魅力を備えている辺りも素敵。   何もかも理想通りとはいかないけれど、全体的には楽しめた時間の方が、ずっと長かったという、それこそ現実のクリスマスのような映画でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2016-12-13 20:00:18)(良:1票)
289.  ブルークラッシュ 《ネタバレ》 
 この監督さんは、海を美しく撮るのが上手いなぁ……と、改めて実感。   海と、水着美女、爽快感のあるサーフィンの映像。  それらが画面に映っているだけでも満足しそうになるのですが、内容については、正直疑問符が付く代物でしたね。  同監督作の「イントゥ ザ ブルー」は結構楽しめたのに、本作を微妙に感じたのは何故だろうと、自分でも不思議。   理由を分析してみるに、主人公が女性である事が大きかったように思えますね。  ある日突然、理想の王子様が現れてくれる。  でも、それに溺れる事は無く、スポーツの分野でも成功してみせて、仲の良い女友達が沢山いて、陰口を叩くセレブ女には強気に対応してみせてと、如何にも女性が憧れそうな人物像。  それだけに、ちょっと距離を感じてしまったというか(あぁ、女性が観たらこのシーンは痛快かも知れないな)なんて思いながら、他人事気分で観賞する形になった気がします。   主人公がNFLの選手達にサーフィン指導を行うという形で「初めてサーフィンに挑戦した時の喜び」を劇中で描いている辺りは、凄く良かったのですけどね。  こういう初心者に配慮した作りって、とてもありがたい。  ……ただ、それなら劇中の大会ルールについても「彼氏に質問させて、主人公に簡潔に答えさせる」という形で、観客に教えてくれても良かったんじゃないかと思えるのですが、これは我儘というものでしょうか。   後は、主人公が大して努力しているようには見えなかった辺りも難点。  冒頭にてトレーニングしているし「これまでアンタがどれほど努力してきたか」という台詞もあるんだけど、映画を観る限りでは「男とイチャついてばかりで、殆ど練習していなかった」としか思えないし、あんまり彼女を応援する気になれなかったです。  「優勝を逃す」というオチについても、普通なら(あれだけ頑張ったのに……)と涙腺を刺激されそうなものなのに、本作に限っては(まぁ、練習してなかったんだから当たり前か)と納得してしまい、感情を揺さ振られず仕舞い。   一応、優勝したのと変わらないくらい皆に祝福されて「雑誌の表紙を飾る」という夢も叶えて終わる形の為、ハッピーエンドではあるんですが(それなら、もうちょっと贅沢に、あれもこれも手に入れる終わり方でも良かったんじゃない?)なんて、つい思っちゃいましたね。  「王子様のマットは一時の休暇で訪れただけなので、その内に別れる時が来る」「妹のペニーがマリファナをやっているので、止めさせなければいけない」「家出したママも帰って来ていない」と、まだまだ問題が山積みなので、今一つスッキリしないんです。  「何もかも上手くいく訳ではない」「それでも、サーフィンの楽しさを思い出した主人公なら、きっと大丈夫」という、ほろ苦さの中に希望を見出すような終わり方なら、それでも納得なんですが、本作の終わり方は、そうじゃない。  底抜けに明るくて、何もかも上手くいったと言わんばかりの空気の為(えっ、今までに描かれていたマイナス要素の数々は何だったの? 無かった事になったの?)と、戸惑っちゃうんですよね。  ここの部分を、もうちょっと上手く着地させてくれていたら、好きな映画になっていた気がします。   音楽や演出は決して嫌いじゃないし、大人も子供もサーフィンに興じるエンドロールの映像は素晴らしいと思うだけに、何だか勿体無いですね。  自分としては、好きになれそうというか……好きになりたかったタイプの作風なだけに、ノリ切れなかった事が残念な映画でありました。
[DVD(吹替)] 4点(2017-07-20 16:02:36)(良:1票)
290.  冷たい熱帯魚 《ネタバレ》 
 てっきり主人公が「連続殺人の主犯」だと思っていたのですが、さにあらず「傍観者」「共犯者」という立場の人であった事に驚かされました。   で、そんな彼も次々に人を殺していくようになる終盤の展開は圧巻だったのですが……何故でしょう? 同監督作の「愛のむきだし」や「地獄でなぜ悪い」程の衝撃は無かったように思えましたね。  単純に、自分がこの手の衝撃に慣れてしまったというのが大きいのかも知れませんが (実録犯罪物路線かと思ったけど、結局は何時もの園子温映画になるのか……)  と、達観するような思いで画面を眺めていた気がします。   勿論、そんな「何時もの園子温映画」は好きなんですけど、本作に関しては最後まで実録風に纏めて欲しかったという気持ちが強いですね。  監督さんも「主人公が疑似的な父親である村田を刺す場面」で終わらせても良かったかも知れないとインタビューで語っておられるみたいで、自分としてもそちらの方が自然な仕上がりになったんじゃないかと思えました。   序盤「冷凍食品をレンジで温めるだけの妻」「食事中でも平気で携帯電話を使い、途中で抜け出す娘」「妻の喫煙を見て見ぬ振りをする主人公」などの印象的なシーンによって、家庭が崩壊している事を端的に示してみせる手腕は、お見事。  でんでん演じる村田も存在感があって良かったし、吹越満演じる社本の善良さと臆病さが入り交じった感じも秀逸でしたね。  先程の発言に反するような形となりますが、終盤の主人公の変貌っぷりというか、眼鏡を捨ててからの吹っ切れっぷりは痛快なものがあり、こういう姿を恰好良く演じられる辺りには、役者さんの凄みを感じます。  監督さんも何だかんだで終盤の展開をカットせず採用したのは、主演俳優の熱演に「これを切り捨てるのは惜しい」と思われたから、なのかも知れませんね。   ラストシーンに関しては、父親の死体を蹴り続ける娘の感情が「本心から父親の死を喜んでいる」「実は内心では死を悲しんでおり、起き上がって欲しいと願っている」「その両方」と、大まかに三通りに分けて解釈出来るようになっており、これに関しては(上手いなぁ)という思いと(ズルいなぁ)という思いとが混在。  元々この手の「観客に判断を委ねる」ような結末って好みではない事が多いのですが、本作に関しては主人公の自殺で幕を下ろす形でもある為、どうしても「逃げた」という印象が強かったりしたんですよね。  「人生ってのは痛い」と主人公が説教するのは結構だけど、その後に自殺されたんじゃあ「人生は痛い。だから死にます」という敗北にしか思えない訳で、そんな後ろ向きな終わり方されても困るよ……というのが正直な感想。  最後に「丸く、青い地球」を映し出して終わるというのも「地球は単なる岩だ」という劇中の台詞に照らし合わせると、現実逃避の象徴であるように思えてしまいます。   とかく園子温監督の作品はパワーがある為、それが自分好みの方向に進んでくれた時は凄まじい傑作に思えるのですが、好みから外れてしまうと、何ともコメントに困る品が出来上がる……そんな事を再確認させてくれた一品でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-04-06 17:10:31)(良:1票)
291.  JAWS/ジョーズ2 《ネタバレ》 
 ブロディ署長の次男であるショーンくん、随分可愛らしく成長したんだなぁ……と、そんな事に感心。  見た目だけでなく、中身も良い子なもんだから、彼が「主人公の救出を待つ、囚われのヒロイン」的な立ち位置に収まるのも納得でしたね。  この子なら(何としても無事に助け出したい)という気持ちになれるし、主人公を応援し、感情移入する事が出来ます。   前作の一件によって、すっかりサメがトラウマとなり、ビーチで誤解から銃を発砲してしまったブロディ署長。  そんな彼に、周りの皆が呆れて立ち去る中で、ショーンくんだけが寄り添い、一緒に薬莢を拾ってくれる場面なんかも良かったです。  子役だから、長台詞を言わせたりすると、どうしても不自然になってしまうでしょうし、こういう「無言の動き」で優しさを伝えてくれる演出というのは、非常に効果的だったと思います。   サメの倒し方も「感電死」という形で、中々迫力があって良かったですし「無事に息子を助け出してハッピーエンド」という予定調和な結末を迎えるのも、実に気持ち良い。  ブロディ署長が解雇される際に、前作からの知り合いである市長だけは残念そうにしていたというのも、ファンとしては嬉しくなる描写でありました。   そんな具合に、色々と長所がある映画なのですが、短所も同じくらい目に付いてしまいましたね。  まず、サメの造形が初代以上に拙いです。  ヘリに食らい付いて破壊するシーンなど、演出自体は悪くないと思うんですけど、サメの目に全然迫力が無くて、怖くなるどころか「このサメ可愛いなぁ」なんて和んでしまう始末。  サメと心を通い合わせる映画という訳でもなく、作中では純粋な悪役に過ぎないんだから、もうちょっと怖いデザインに仕上げて欲しかったところです。   あと、水上スキーに興じる女性を襲う場面や、ボート上のカップルを襲う場面なんかが、今観ると妙に古臭い。  初代の「JAWS/ジョーズ」だって古さを感じさせる作りではありますが、続編であるはずの本作の方が、更に十年くらい昔の映画に思えちゃったんですよね。  変な話、初代の方が後に作られたと言われても納得しそうになるくらいです。   ティーンエイジャーに成長した長男のマイクにスポットが当たっている為、若者達の青春映画としてのテイストが強いんだけど、主人公はあくまでもブロディ署長というのも、ちょっと歪なバランス。  結局、マイクは最終決戦の直前でアッサリ救助されている為「囚われのお姫様」ポジションとしては、次男のショーンだけで充分だった……という形になっているんですよね。  それならば一緒に弟を助ける為、父親に協力させるなど、もうちょっとマイクに見せ場を与えてやっても良かったんじゃないでしょうか。  スポットの当て方が中途半端で、大した活躍もせず退場という形になっていたのが残念です。   それでも、本作には初代「JAWS/ジョーズ」の雰囲気が色濃く残っている為、正統派な続編として、まず満足出来るクオリティでしたね。  流石にシリーズ四作品もあるとなると、全部まとめて観る事は難しいのですが、本作は初代を観賞した際に、つい一緒に観てしまう事が多いです。
[DVD(吹替)] 6点(2017-08-02 04:29:27)(良:1票)
292.  トランスポーター 《ネタバレ》 
 これは度胆を抜かれた映画ですね。   「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」や「スナッチ」でお馴染みの顔だったジェイソン・ステイサム。  彼が主演の映画という事で、軽い気持ちで観賞してみたら、予想を遥かに上回るアクション濃度。  特に終盤の上半身裸になっての格闘シーンは圧巻で 「えっ? この人こんなに強かったの!?」  と、画面の中で躍動する彼の姿に、呆気に取られ、次いで笑みが込み上げてきたのを覚えています。   序盤に繰り広げられるストーリーや、主人公とヒロインの設定に関しては 「あぁ、リュック・ベッソンだなぁ……」  としか思えず、完全に油断していただけに、今作で明かされた「強さ」というステイサムの強烈な個性に、痺れてしまいました。   今は日本でも気軽に購入出来るようになったジュースのオレンジーナを、作中でヒロインに飲ませてあげるシーンなんかも印象深いですね。  ラストも囚われの人々を開放するのと同時に、スパっと切れ味良く終わるのも好印象。  エンディング曲も好みでしたし、気持ちの良い時間を過ごせた一品でした。
[DVD(吹替)] 7点(2016-04-12 08:04:04)(良:1票)
293.  世界侵略:ロサンゼルス決戦 《ネタバレ》 
 異星人による地球侵略というプロットを、シリアスな戦争映画として撮る。  その発想は面白いと思います。   ただ、あまりにも真面目な「戦争映画」過ぎるというか……この内容だと、相手が異星人である必然性が感じられないのですよね。  「生き残ったのは美人だからじゃありません。戦えます」 「ジョン・ウェインって誰です?」 「一つくらいは避けて走れ」   などの台詞はユーモアがあって好きなんですけど、この三つの台詞のシーン全部、戦う相手が異星人じゃなくとも成立しちゃう代物なんです。   本作において「敵が異星人である事」のメリットといえば「主人公側を正義として描き、敵側を単純な悪として片付ける事が出来る」「未知の生物の弱点を探るシーンを描ける」の二つが該当するんでしょうけど、これらを鑑みても「異星人」という設定が必要だったとは思えません。  特に前者に関しては深刻で、米国の戦争映画において「他国の人間をゾンビやエイリアンのように描き、米国人だけが正当な人間であるかのように描く」事って、実は珍しくもなかったりするんですよね。  自分はそういう描き方の戦争映画は苦手なもので、本作みたいに異星人という設定の方が抵抗は少ないですけど、そんな緩和作用程度のものを「メリット」として数えなければいけないのは、如何にも寂しい。  後者に関しても「捕虜にした異星人の全身をナイフで刺しまくり、消去法によって弱点の位置を特定する」というだけなので、知的興奮を誘う訳でもなく(別に無くても良かったよな……)って思えちゃうんです。    ベタではありますが「醜い怪物かと思われたが、実は自分達と同じような存在だと分かってショックを受ける主人公達」とか「地球人なら平気な物が異星人にとっては弱点になる」とか、そういう展開があるからこそ「異星人との戦争」という題材を選ぶ事に、意味があるんじゃないでしょうか。  主人公の二等軍曹が「戦死させた部下達の事を悔いている」という設定な訳だから「異星人には死者を甦らせる力があり、それを駆使して主人公に交渉してくる」なんて展開にする事だって、可能だったと思います。  とにかくもう、この「相手が異星人である必要が無い」という一点が気になってしまい、シンプルに楽しむ事が出来ず、残念でしたね。   死なせてしまった部下の名前と階級、認識票の番号を暗唱するシーンは中々良かったと思いますし、ラストシーンにて休息も取らず、次の戦いに向かう兵士達の姿は、素直に恰好良かったです。  そんな「普通の戦争映画」としての魅力は感じ取れただけに、歯痒くなってしまう一品でした。
[DVD(吹替)] 5点(2017-11-20 14:58:53)(良:1票)
294.  ディアボロス/悪魔の扉 《ネタバレ》 
 「都会に引っ越すと、周りの人が悪魔のように見える」という寓意的な御話なのかと思いきや、さにあらず。  本当に悪魔が出てきて、しかもそれが主人公の父親だったというオチには驚きました。   「何時かは負ける日が来る。人間ならね」「父の事は知りません」などの台詞によって、序盤から伏線が張られていたとはいえ、非現実的過ぎる展開なのですが、それでもさほど戸惑わず観賞出来たのは、やはりアル・パチーノの存在感ゆえなのでしょうね。  ジョン・ミルトンという名前、天国で仕えるより地獄を制した方がマシという行動理念からするに、その正体は恐らくルシフェルなのだと思われますが、それだけの大物を演じていても、まるで違和感が無いのだから凄い。  息子相手に熱弁を振るうシーンなんて、凄く楽しそうに演じているのが伝わってきました。   「彼女を看病してやれって言っただろう?」などの台詞により、あくまでも選択したのは自分、悪いのは自分と相手に思い込ませるやり口なんかは、正に悪魔的。  近親相姦で子を作るようにと薦める辺りも「悪魔とは、人を堕落させる存在である」と実感させられるものがあり、印象深かったです。  それでいて、息子の事は彼なりに愛しているのではと思わされる一面もあり、そんな人間的(?)な部分も含めて、魅力あるキャラクターに仕上がっていたと思います。   冒頭で無罪を勝ち取ってみせた数学教師が、殺人犯として逮捕されたと知らされる件。  そして妻が実の父親にレイプされた後、自殺する展開など、主人公にとっては悲惨な展開が続く訳ですが、最終的には「夢オチ」「もう一度最初の場面からやり直し」という着地をする為か、後味も悪くなかったですね。   夢オチっていうと、何だかそれだけで拍子抜けというか、評価が下がりそうになってしまうものですが、本作は最後にもう一捻り加える事で、夢オチならぬ現実オチとして成立させている。  「悪魔が存在するのも、そいつが父親であった事も、全て事実だった」という形で終わらせているのですよね。  今度こそ善良な道を選び、上手くやってみせるという主人公の決意を嘲笑うような悪魔の笑みが、非常に印象的でした。   もしかしたら、本作で描かれたのは「初めての父子の出会い」ではなく、こんな風に何度か出会いと別れを繰り返しているのかも知れないな……と思わされる辺りも、面白かったですね。   父と子、どちらかが完全な勝利を収めるまで、無限に続く輪となっているのかも知れません。
[DVD(吹替)] 6点(2017-06-16 11:05:56)(良:1票)
295.  地上最大の脱出作戦 《ネタバレ》 
 「平和な戦争映画」という、何ともユーモラスな一品。   冒頭のシーンでは生真面目に殺し合いしている姿が描かれているだけに、どんどん「普通の戦争」から離れていってしまう姿が、愉快痛快。  「お祭りの方が戦争なんかよりも大事」という主張が窺えて、それを不真面目だと怒る人もいるかも知れませんが、自分としては大いに賛成したいところです。  上層部の目を誤魔化す為に、互いに死傷者ゼロの「戦争ごっこ」を演じてみせる馬鹿々々しさも、実に滑稽で面白い。  戦争というテーマを扱う事により、作中でどんなに不謹慎な行いがあったとしても「実際に殺し合いするよりはマシじゃないか」という痛烈な皮肉に繋げてみせる辺りが上手かったですね。   純粋にコメディ映画として観た場合、現代の目線からは演出が冗長に感じられたりもするのですが「戦時に若く、美人で、色っぽいとは何事だ」などの台詞回しのセンスは、充分に面白い。  軍人達が懸命に「殺し合いの振り」をする横で、洗濯物を干してみせるオバちゃんの姿なんかも、思わず頬が緩むものがありました。   最後には、生真面目であったキャッシュ大尉までもが「お祭り」を戦争行為よりも優先してみせるようになったというオチも、予定調和な安心感があって、実に良かったです。  物語としての主人公は、ジェームズ・コバーン演じるクリスチャン少尉よりも、むしろ彼の方であったように思えました。
[DVD(字幕)] 6点(2016-07-22 17:57:53)(良:1票)
296.  忠臣蔵(1958) 《ネタバレ》 
 自分は「忠臣蔵」(1990年)の項にて「一番面白い忠臣蔵だと思うけど、捻った作りなので初心者には薦め難い」と書きましたが「じゃあ、初心者に薦め易い忠臣蔵は何?」と問われた場合、本作の名前を挙げる事になりそうですね。   とにかく分かり易いというか「忠臣蔵の映画をやるなら、これは外して欲しくない」という部分が、きっちり盛り込まれている辺りが見事。  自分が特に好きな三つのエピソード「畳替え」「大石東下り」「徳利の別れ」を全部やってくれてる映画って、意外と珍しいですからね。  特に「畳替え」の件はダイナミックに描かれており、序盤の山場と言えそうなくらい力が入ってるのが嬉しい。  「朝までに仕上げねばならん、頼んだぞ!」と職人達を激励する浅野家臣の姿も、実に良かったです。  それによって、浅野家に「庶民と力を合わせて頑張る武士集団」というイメージが生まれますし、彼等を善玉として描く上で、非常に効果的な場面だったと思います。   対する吉良方が「庶民の敵」である事を、徹底的に描いている点も良いですね。  どうしても「斬り付けた浅野が悪い。吉良は被害者」ってイメージが拭えないのが忠臣蔵の弱点なんですが……  本作は、その点でもかなり頑張っていたんじゃないかと。  とにかく吉良方が庶民を虐めてる場面が繰り返し挿入されるもんだから、観客としても自然と浅野方を応援しちゃうんですよね。  討ち入りの際にも「女子供は逃げろ」と言ったりして、徹底して「正義の赤穂浪士」として描いている。  「浅野殿、田舎侍を御家来に持たれては色々と気苦労が多う御座ろうな」と吉良が嫌味を言ったりして、内匠頭が怒った理由に「自分だけでなく、家臣も馬鹿にされたのが許せなかった」という面を付け加えている辺りも上手かったです。   また「斬られたのは吉良の方なのに、吉良に仇討ちするのは筋違い」という事が劇中で何度か言及されている点も、バランスが良かったと思います。  観客に(そういえば、その通りだ……本当に、浅野側が正しいのか?)と考えさせる余地を与えており「視点を変えれば、赤穂浪士は正義にも悪にも成り得る」という事を教えてくれるんですよね。  そういう意味でも、初心者にも安心というか「はじめての忠臣蔵」に丁度良い品であるように思われます。   そんな本作の欠点としては……  「忠臣蔵お馴染みのエピソード」を描いた場面は凄く良いんだけど「この映画でしか拝めない、オリジナルのエピソード」はイマイチだったという点が挙げられそう。  京マチ子演じる「女間者 おるい」の存在が特に顕著であり、どう考えても浮いてるというか「大スターの為に無理やり女性のメインキャラを追加しました」って印象が拭えなかったんですよね。  一応、女間者が絡んでくる忠臣蔵としては「大忠臣蔵」(1971年)などの例もありますが、連ドラではなく映画でコレだけ尺を取られてやられると、ちょっと辛い。  しかも彼女ときたら「恐ろしいほど美しい姿でした」なんて感じに、主人公を賛美する台詞を延々吐く役どころなもんだから、贔屓の引き倒しに思えちゃって、観ていて居心地が悪かったです。   元々本作における大石内蔵助って、登場時から「有能な家臣」であり、敵からも散々「大した奴」と褒められる役どころで、自分としてはどうも胡散臭いというか……  正直、あんまり魅力を感じない主人公なんですよね。  頭脳も人格も最高の超人であり、夜道で襲ってきた刺客を撃退したり、斬り掛かろうとした相手の体勢を扇子で崩したりして、剣士としても一流の腕前ってのは、流石に盛り過ぎだった気がします。  かつては細身の女形だったとは思えないほどに丸々と太り、貫禄たっぷりな長谷川一夫の演技力ゆえに、嫌悪感を抱いたりはしなかったし「恋の絵図面取り」に対して「引き出物」を渡す場面や「残りは四十七名か」と呟く場面なんかは、とても良かったんですけどね。  個人的好みとしては、もうちょっと隙が多い内蔵助像の方が嬉しかったかも。   後は、大映制作らしい怪獣映画のような音楽。  切腹までは描かれていない為(もしかしたら、この映画の中では赤穂浪士達は助かったのかも?)と思えて、ハッピーエンド色が強い結末だった辺りも、忘れちゃならない魅力ですね。   自分としては「初心者にオススメ」「色んな忠臣蔵を観賞した上で観返すと、ちょっと物足りない」という、良くも悪くも優等生的な作品という印象なのですが……  「色んな忠臣蔵を観たけど、やっぱり王道なコレが一番!」という人の気持ちも分かるような、そんな一品でした。
[DVD(邦画)] 7点(2019-10-18 13:02:48)(良:1票)
297.  アタック・ザ・ブロック 《ネタバレ》 
 この手のエイリアン物であれば、モブとして殺されるだけで終わるであろう「不良少年」にスポットを当てたのは新鮮で、面白い発想。  刀を背負った「ニンジャ」スタイルの主人公というのも、如何にも海外の映画オタクの心を掴みそうな感じです。   ただ、冒頭にて「女性を刃物で脅して金品を奪う」という姿が描かれており、そこで(えぇ、こいつらが主役なの?)とドン引きしてしまって、結局最後まで感情移入する事が出来ず、残念でしたね。  そもそも作中の情報から判断する限り、黒いエイリアン達が人々を襲う理由は「白い小さなエイリアンを主人公に殺された復讐」としか思えない訳で、どうにも観ていて居心地が悪い。  そのキッカケとなる「エイリアンの殺害」にしたって「正当防衛」「事故」ではなく、わざわざ逃げたのを追いかけて丁寧に殺しているんだから、情状酌量の余地は無し。  作中でも「こうなったのは俺のせい」と言っているのだから、作り手としても確信犯的にそういった流れにしたのでしょうが、それにしてはラストにて主人公が英雄視されちゃっているし、どうにも不可解なのですよね。  「この主人公も、実は親に愛されない可哀想な子だったんですよ」とばかりに子育てを放棄されていた事が示唆されても、それで悪事が正当化されるとも思えず、何だか中途半端な印象を受けました。   墜落死するかと思われた主人公が、国旗に捕まって助かるというオチからしても「可哀想な不良少年を国が救ってあげるべき」というメッセージが込められているのかも知れませんが、本人が非行を反省する描写も殆どありませんし、押し付けがましいものを感じちゃいましたね。   シンプルな黒いエイリアンの造形は好みでしたし、強力過ぎない武器を用いて、狭い団地内で戦うという内容自体は、とても良かったと思います。  「ロケット花火を用いてのガス爆発」という敵の倒し方も痛快で、観ていて気持ち良い。  それだけに、主人公にとって都合が良過ぎる世界観に付いていけなかった事が、勿体無く思える一品でした。
[DVD(吹替)] 4点(2016-10-24 15:55:22)(良:1票)
298.  ジャックとジル 《ネタバレ》 
 映画に関するジンクスの一つとして「ゴールデンラズベリー賞を取った映画は、意外と面白い」というものがあるのですが、これもそんな一本。   とはいえ「傑作」と断言出来る程ではなく「意外と面白い」の範疇に止まってしまうのが寂しいですね。  下品なギャグが多いし「おたのしみ箱」やアル・パチーノ(本人役)といったキャラの言動が不自然に感じられるしで、もうちょっと脚本を煮詰めてから映画化した方が良かったんじゃないかなーと思ってしまうのも事実です。   でも、ちゃんと面白かった部分もあって、自分としては結構満足。  マッチョな男性陣が苦労して上げていたバーベルを、ジルが簡単に持ち上げちゃう件なんかは、ベタだけど微笑ましいギャグだったし、本物のジルを女装したジャックと勘違いして胸を触った男が、豪快に殴られちゃう場面なんかも良い。  養子の少年も良い味出していたし、ドン・キホーテに扮したパチーノが風車ならぬ天井のファンを怪物と勘違いして、戦いを挑むシーンも好きですね。  最後は家族愛に着地して、ハッピーエンドで終わってくれるし、後味も爽やか。  「そりゃあ好きだけど、離れている時はもっと好き」 「君を愛しているのは間違いないが、死の間際に気付く愛だ」   等々、心に残る台詞が散りばめられている辺りも良かったです。  それと、自分はクルーズ旅行の描写がお気に入りだったので、あそこをもっと尺を取ってやって欲しかったという想いもあるんですが……まぁ、コレは我が侭というものでしょうか。   欠点を論ったらいくらでもあるんだけど、なんとなく本作に関しては「好きな部分」をメインに語りたくなる。  憎みきれない、愛嬌のある映画でした。
[DVD(吹替)] 6点(2018-09-23 20:48:55)(良:1票)
299.  犯人に告ぐ 《ネタバレ》 
 とても真面目に作られた、硬派な一品だと思います。   ただ、こういった品は「堅苦しくて退屈」という印象に繋がってしまう危険性も孕んでいる訳で……  残念ながら、本作はそれに該当してしまった気がしますね。  メディアを使って犯人を挑発、対話というテーマは非常にエンタメ性が高く、コメディタッチな作風と相性が良さそうなのに、あえてシリアスに徹したのが本作の特徴であり、魅力にもなっているのでしょうが、自分には合わなかったみたいです。   楽しめなかった理由としては、主人公に感情移入出来なかった点も挙げられそう。  彼は同僚との手柄の奪い合いの為に捜査に最善を尽くさず、結果的に幼い子供の死を招いてしまう。  そこの件で、観ているこちらとしては決定的に幻滅してしまい、最後まで挽回する事が出来なかったんですよね。   序盤で妻と息子の死が連想される展開だったのに「結局二人とも生きていました」というオチが付くのは、恐らく「誘拐によって子供が死んだのに、自分の息子は生きている」という主人公の罪悪感を描く為、そして終盤に息子が誘拐されてしまう展開に繋げる為なのでしょうが、その辺りがどうもスムーズに感じられない作りなのも残念。  これに関しては、いくら終盤に盛り上げる為の伏線とはいえ、序盤で(えっ、結局生きていたの?)と拍子抜けしてしまうデメリットの方が大きかったように思えました。  犯人の捕まるキッカケが「偶然手紙を落としてしまった」「服の色に関する勘違い」というのも、ちょっとネタとしては弱いかなと。   ラストに主人公が目を見開いて終わる演出に関しても  1:真犯人が別に存在する事に気付いた。まだ事件は終わっていない。 2:結局、罪滅ぼしする事は叶わなかった為、未だに昔の誘拐事件のトラウマに囚われている。 3:全てが終わった事に安堵したがゆえの死。   といった具合に、色々解釈の余地があるのですが、どれだったとしてもバッドエンド色が強く、好みとは言い難いですね。   翻って、良かった点はと言えば……やはり、主演の豊川悦司の魅力に尽きるのではないでしょうか。  その話し振り、立ち居振る舞いには流石の存在感があったし、カリスマ的な犯人役なんかも似合いそうな、ミステリアスな魅力を備え持っている。  それだけに、そんな彼があえて刑事役を演じるというのが、絶妙な配役であったように思えます。   過去の罪を清算する為とはいえ、自分を刺した誘拐犯を庇って逃がそうとする辺りなんかは(警官として、それはマズいんじゃない?)と感じ、賛同するのは難しかったのですが、彼が演じる事により、その選択にもそれなりの説得力が生まれていた気がするんですよね。  本作のクライマックスである「震えて眠れ」のシーンの迫力と恰好良さも、豊川悦司だからこそ醸し出せたんじゃないかな、と感じました。
[DVD(邦画)] 5点(2017-04-06 12:33:05)(良:1票)
300.  カランジル 《ネタバレ》 
 実際に囚人虐殺事件が起こったカランジル刑務所を舞台にして撮影されており、ラストはその刑務所が爆破される場面を映し出して終わるという、凄まじい映画。   そんな「本当に事件が起こった刑務所で撮影している」という強みゆえか、劇映画とは思えないほどのリアリティを感じ取る事が出来ましたね。  特にラスト30分の虐殺風景は圧巻の一言であり、観ている間、単純な嫌悪感だけでなく「ここまで凄い映像が撮れるものなのか」という、恐怖なのか感動なのか良く分からない感情まで芽生えてきたくらいです。  ・収容可能な人数は四千人の刑務所に、七千五百人もの囚人が押し込まれている。 ・選挙が近いから、警察側は暴動を徹底的に鎮圧して政治的アピールを行いたかった。 ・囚人にはエイズ患者が多数存在しており、鎮圧部隊には彼らに対する差別意識と偏見があった。   などなど「虐殺が起こった理由」について、丁寧に描いている点も上手い。  その為、観ている間も「どうしてこんな事が起こってしまったんだ……」という戸惑いに包まれる事も無く「これは、起こるべくして起こった悲劇なんだ」と納得した上で、より深く諦観と絶望を味わう事が出来たように思えます。  囚人のカップル(両方とも性別は♂)の結婚式を描き、幸せなムードに浸らせた後、囚人同士の殺人事件→暴動→虐殺と、段階を踏んで観客を負の世界に誘っていく構成になっているのも、お見事でした。   聖書とイエスの肖像画を手にして無抵抗だった男が躊躇なく射殺される場面も印象的でしたが、その一方で「息子に似ているから」という理由で警官に見逃してもらえた囚人や、咄嗟に死体の振りをして助かった囚人など、虐殺の中にも微かな「救い」があるというか「何とか助かった人もいるという安堵感」を与えてくれる作りになっているのも、嬉しかったですね。  特に、上述の「結婚式を挙げたカップル」が助かった事には心底ホッとさせられましたし「生存者となる人物を予め重点的に描いておき、観客に少しでも救いを与えるようにする」という作り手の配慮が窺えるかのようで、凄くありがたい。  「実際に起こった虐殺事件だから」と開き直り、ひたすら陰鬱で救いの無い話に仕上げる事だって出来たでしょうに、そこを踏み止まって「奇跡的に生き延びた喜び」も感じられる作りにしてくれた事には、大いに拍手を贈りたいです。   人間の死体まみれな刑務所の中で、犬と猫とが静かに見つめ合い「犬と猫は種族が違えど争ったりしないのに、同じ人間同士で虐殺を行っている」という皮肉さを醸し出している場面なんかも、実に味わい深くて良いですね。  「鎮圧部隊、万歳!」と連呼させながら囚人達を中庭に連れ出し、全員を裸にして整列させる場面なども圧倒されるものがあり、ここまで来ると一種の「悲惨美」すら感じちゃうくらいです。  比較するのは適当では無いかも知れませんが「虐殺を芸術的なまでに凄惨に描いた」という意味合いにおいては、かの高名な「オデッサの階段」に近しいものがあるんじゃないか、とすら思えました。   ただ……そんな「オデッサの階段」を描いた「戦艦ポチョムキン」と同じように、本作にも「虐殺の場面は衝撃的だが、映画全体としては退屈な場面も多い」という欠点があるように思えて、そこは残念でしたね。  虐殺が起こるまでの「刑務所の日常」が長過ぎて、二時間近くも「前振り」を見せられては流石に飽きて来ちゃうし、主人公である医師が不在の間に虐殺が起こる形になっているのも、ちょっと拍子抜け。  後者に関しては「実話ネタだから仕方無い」「その医師の著書が原作なんだから仕方無い」って事は分かるんですが、やはり映画として考えるとマイナスポイントになっちゃうと思います。    「囚人達の多くは、少しも罪悪感を抱いていない」と分かった上で、それでも医者として彼らを救うべきかと悩む姿などは良かったですし、診察の合間に囚人から身の上話を聞く件なども面白かったので、医師を主人公に据えたのが間違いって訳じゃないんでしょうけどね。  (出来れば医師の他にもう一人、虐殺の現場に立ち会う主人公格のキャラクターを配置しておくべきだったのでは?)と、そんな風に考えてしまいました。   そういった諸々を含め、総合的に判断すると「面白い映画」「好きな映画」とは言い難いものがあるのですが……  本作が「一見の価値あり」な映画である事は、間違い無いと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2019-06-11 00:56:22)(良:1票)

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