Menu
 > レビュワー
 > かたゆき さんの口コミ一覧
かたゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1885
性別 男性
年齢 48歳
自己紹介 自分なりの評価の基準は、
10・超大好きな作品。完璧。映画として傑作であるばかりでなく、自分の好みと見事に合致している。
9・大好きな作品。完璧に近い完成度。手放しに歴史に残る傑作といっていい。
8・好きな作品。本当に面白い。欠点があるかもしれないが、それも含めて好き。
7・少し好きな作品。普通に面白い。欠点もあるかもしれないが、そんなに気にならない。
6・普通の作品。可も無く不可も無く。最後までストレスなく観られる。面白いけど、心に残るものはあまりない。
5・少しつまらない作品。最後まで観るのにちょっとストレスを感じた。面白い部分も多少はあった。
4・つまらない作品。最後まで観るのが苦痛だった。ほとんど面白いところが感じられなかった。
3・かなりつまらない作品。最後まで観た自分を褒めてあげたい。観終えた後に、怒りのあまりDVDを割りそうになった。
2・超つまらない作品。時間と金を返せ。観終えた後に、怒りのあまり製作者全員を殴りに行きたくなった。
1・絶望的につまらない作品。最低。観終えた後に、怒りを通り越して死にたくなった。
0・死霊の盆踊り。

表示切替メニュー
レビュー関連 レビュー表示
レビュー表示(投票数)
その他レビュー表示
その他投稿関連 名セリフ・名シーン・小ネタ表示
キャスト・スタッフ名言表示
あらすじ・プロフィール表示
統計関連 製作国別レビュー統計
年代別レビュー統計
好みチェック 好みが近いレビュワー一覧
好みが近いレビュワーより抜粋したお勧め作品一覧
要望関連 作品新規登録 / 変更 要望表示
人物新規登録 / 変更 要望表示
(登録済)作品新規登録表示
(登録済)人物新規登録表示
予約データ 表示
【製作年 : 2010年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
評価順1234
投稿日付順1234
変更日付順1234
>> カレンダー表示
>> 通常表示
1.  ハウス・ジャック・ビルト 《ネタバレ》 
この12年の間に起きた、5つの出来事で俺の人生を語ろう――。生まれついてのサイコパスにしてシリアルキラーでもあるジャック。分かっているだけで、幼い子供から年老いた老婆にいたるまで少なくとも60人以上を殺し、その死体を自身が所有する冷凍庫にコレクションしていた男。自らが無作為に選んだという5つの出来事が彼の狂気に満ちたモノローグとともに語られる。聞き手となるのは、ヴァージと名乗る謎の男性。道端で拾った高慢ちきな見知らぬ女、夫を亡くしささやかな年金で一人暮らしていた初老の未亡人、二人の息子とともに充実した日々を過ごしていた若い母親、ただ愛されることを望んでいた売春婦、そして何人ものどうでもいい男たち……。創造と破壊、欲望と理性、倫理と芸術、ジャックは自らの思想とともにヴァージに語り続けるのだった。何故彼は人を殺し続けたのか?そして二人はいったい何処へと向かうのか?デンマークの鬼才、ラース・フォン・トリアーの約5年ぶりとなる最新作は、そんないかにも彼らしい挑戦的で自虐に満ちた野心作でした。率直な感想を述べさせてもらうと、いやー、本当に変な映画でしたね、これ。カンヌでも途中退席者が続出したというだけあってかなり人を選ぶグロ描写が続出するのですが、なんだか全体的に変なユーモアがあるのが彼の鬼才たるゆえん。いかにも殺してくれと言わんばかりの高慢高飛車女をジャッキで殴り殺す冒頭のエピソード(ユマ・サーマンの無駄遣い!笑)から摑みはばっちりで、続く強迫性障害のせいで何度も殺害現場へと舞い戻ってしまうエピソードなんて思わず笑っちゃいました。母親の目の前で幼い子供を射殺するシーンなどはあまりにも倫理観を逸脱していて逆に清々しいくらい。おっぱいをえぐられちゃうジャックの彼女?の話あたりまで来るとなんだか神経が麻痺しちゃいますね。合間に挟まれるジャックのフリップ芸なんて、あまりにもシュール過ぎてR‐1でも通用するかも?!そして辿り着く驚愕のエピローグ。もはやぶっ飛びすぎてて終始唖然(笑)。何ですか、あのルネッサンスの油絵みたいな変な世界観は。文字通り地獄に堕ちた彼へと、エンドロールで「もう帰って来るな!ジャック!」とノリノリの曲調で歌われた日にゃもはや笑うしかなかったです。鬱病を患っていたころの陰鬱で重苦しい作風から抜け出し、前作辺りからトリアーはこんなヘンテコな世界へと辿り着いたのですね。うん、何処までも付いていきます!9点!!
[DVD(字幕)] 9点(2020-02-02 23:44:03)(良:1票)
2.  花とアリス殺人事件 《ネタバレ》 
傑作『花とアリス』のあの二人にまた会える!!しかも二人が出会うまでの前日譚、それを美麗なアニメーションで表現してみせた監督にもう感謝感謝。内容的には相変わらずなんてことないお話なのだけど、そうそう、これがいいんですよね~。このゆるーいふわふわ感、最高でした。大傑作だった前作と比べるとちょっぴり小粒感は否めないですけど、こちらもなかなか面白かったです。誰も居ない夜の駐車場、星空の下で二人がバレエを踊るシーンが特にお気に入り。花、最後の最後に愛の告白(独自の解釈と妄想が過多ですけど笑)をされて良かったね!!
[DVD(字幕)] 9点(2017-05-22 11:59:32)
3.  パラサイト 半地下の家族 《ネタバレ》 
半地下と呼ばれる、低所得者向けの賃貸住宅に住むとある四人家族。長びく不況のあおりを受け、揃いも揃って失業中の彼らは先の見えない困窮生活を続けていた。便所コウロギや酔っ払いの吐くゲロに囲まれ、スマホも近隣住民の飛ばすWi-Fi頼み、唯一の収入源であるピザ屋の内職も何かと理由をつけて買いたたかれるような屈辱的な毎日。そんな彼らが這い上がるために見つけたとっておきの方法。それは、小高い丘の上の豪邸に住む金持ち家族に〝寄生〟することだった――。浪人中の長男は、娘の英語の家庭教師として。同じく浪人中の美大志望の長女は、幼い息子の美術教師兼カウンセラーとして。失業中の父親は、主に金持ち主人の運転手として。そして母親は、住み込みで働く家政婦として。世間知らずの夫人に取り入り、もともと居た人間を追い出すようにして徐々に家族の中へと入り込む〝寄生虫〟たち。だが、異常を察知したもともとの家政婦が舞い戻ってきたことから、事態は思わぬ方向へと転がり込んでゆく……。韓国映画界を牽引するポン・ジュノ監督の最新作にして、外国語映画として初めてアカデミー作品賞を受賞した本作を今回鑑賞してみました。冒頭から流れるように続く、徹底的に考え抜かれたであろうストーリー構成は本当に素晴らしかったです。貧困に喘ぐ四人家族が、徐々にこの金持ち家族の中へと入り込んでゆく一連の流れはもはや神がかってました。細部にまで拘ったカメラワークに計算されつくした脚本、変幻自在な音楽の使い方など全てに監督の才気が漲っております。そして元々の家政婦が舞い戻って来てからのあっと驚くどんでん返しも見事にやられました。まさか寄生虫に先客がいたなんて!そこからのドタバタも皮肉が効いていて、ベタながらなかなか楽しい。そして最後はポン・ジュノらしく、貧富の格差という普遍的な社会問題へと落とし込む手腕もお見事。貧困家族がどんなに頑張っても消せなかった「臭い」の扱いなど、監督の視線は何処までも鋭く、そして切ない。エンタメ映画として観客を徹底的に楽しませておいて、最後はちゃんと社会問題についても考えさせられるという、アカデミー賞受賞も納得の良品でありました。
[DVD(字幕)] 8点(2020-10-24 00:06:10)
4.  ハッピー・デス・デイ 《ネタバレ》 
彼女の名は、ツリー。自他ともに認める下半身ゆるゆるの女子大生、いわゆる“ビッチ”だ。その日の朝も昨日の酒が残った状態で目覚めたツリーは、自分が見知らぬ同級生の部屋のベッドに寝ているのを発見する。「あっちゃー、またやっちゃった」。酷い二日酔いの頭でそう後悔しつつも彼女は、今夜のパーティーのためにすぐさま自分の学生寮へと急ぐ。何故なら今日は誕生日だから。今日こそ最高にハッピーな一日を過ごすため、ツリーは嫌みなルームメイトや不倫の関係にある大学教授たちをやり過ごし、約束のパーティー会場へと暗い夜道を歩いていた。すると、彼女の背後に忍び寄る不穏な影。不気味なマスクを被った謎の男に、ツリーは呆気なく殺されてしまうのだった――。だが、次の瞬間、ツリーはまた見知らぬ同級生の部屋のベッドに寝ている自分を発見する。見覚えのある人と見覚えのある会話。戸惑いつつもパーティー会場へと向かった彼女は、またしても謎の男に殺されることに。でも、次の瞬間、ツリーはまた見知らぬ同級生の……。原因不明のそんな悪夢の無限ループへと迷い込んだビッチは、果たして無事に誕生日を乗り越えることが出来るのか?最近流行りのループ物に青春ホラーをミックスしたというそんな本作、いやー、これがなかなか面白いじゃないですか!最初目覚めてから謎の男に殺されるまでの一回目が若干長くてループ物としてどうかと思ったんですが、二回目三回目とループが繰り返されるたびにどんどんとスピード感が増してゆくのが観ていて爽快。ツリーの殺され方も、ナイフで刺殺から割れたガラスで顔面串刺し、バッドで殴打、噴水で水死、バスで轢死、ガソリンで爆殺とバラエティに富んでるのも大変グッド!あまりに殺され過ぎて、もはや開き直ったツリーが裸で学内を歩いたりするシーンなんていかにもビッチでナイスでした(笑)。きっと原因は自分の自堕落な生活のせいだと思い込んだ彼女が、真人間になろうと努力する中盤の展開なんてすんごく薄っぺらいんですけど思わず応援しちゃってる自分が居ました。うん、頑張れ、ビッチ(笑)。そして真犯人が明らかにされるクライマックスもけっこう脚本が練られていて普通に面白い。ラストシーンなんてなかなか技ありで思わず拍手しそうになっちゃったし。いやー、この監督、けっこうセンスあるんじゃないですかね。このタイムループの原因をもう少し納得できる形で説明して欲しかった気がしなくもないですが、エンタメ映画として僕は充分楽しませていただきました。うん、8点!
[DVD(字幕)] 8点(2020-02-08 23:03:38)
5.  運び屋 《ネタバレ》 
90歳にしてアメリカ最大の麻薬密売組織の運び屋となった男を実話を基にして描くクライム・サスペンス。監督・主演を務めるのは、もはやハリウッドの生ける伝説と言っても過言ではない御大、クリント・イーストウッド。名作『グラン・トリノ』で名実ともに俳優業からは引退と思っていましたが、まさかこんな役でカムバックするとは嬉しい驚きですね。沢山の家族に囲まれ枯れた余生を謳歌するような幸せな老人ではなく、ひりひりするような綱渡り生活を続ける麻薬の運び屋役というのがまた彼らしい。ストーリー自体は極めてシンプル。でも、無駄を削ぎ落したその物語はとてもサスペンスフルで最後まで引き込まれて観ることが出来ました。ここらへんは長年の経験がなせるベテランの技なのでしょう。いつ、この爺さんが事故っちゃわないか、いつ警察にバレて窮地に陥ってしまわないか、あるいはいつヘマをして麻薬組織から酷い目に遭わされはしまいかと終始ハラハラしっぱなしでした。その中で、最初は反発し合っていた監視役のチンピラと、何気なく一緒にポークサンドを喰ったことでほのかな友情が芽生えるというエピソードはなかなか微笑ましい。そして終盤、長年連れ添った元妻の危篤を知った主人公が葛藤の末に取った行動には、本当に胸が締め付けられる思いでした。ここには90年がむしゃらに生きてきた老人の生き様がしっかりと詰まっている。ブラットリー・クーパーやアンディ・ガルシアといった、油の乗った俳優たちも彼の前では単なる引き立て役になっていたのも凄いことだと思います。人生の深い哀歓を感じさせる、渋みに満ちた人間ドラマの佳品でありました。
[DVD(字幕)] 8点(2019-09-25 21:52:15)
6.  パターソン 《ネタバレ》 
ニュージャージー州、パターソン市。その街で長年バスの運転手として働く、寡黙な青年パターソン。毎日同じ時間に家を出て、毎日同じルートを辿るバスを運転し、毎日同じ時間に帰宅すると一緒に暮らしている彼女のあまり美味しいとは言えない手料理を食べ、そして一日の締めくくりとして愛犬のブルドックの散歩がてら行きつけのバーでビールを一杯だけ飲む。そんな何処にでもいるような平凡な青年の唯一の趣味は、大事な秘密のノートに書き綴っている詩だった――。何気ない日常を生きる平凡な青年のさして何事も起こらない一週間をしっとりと切り取ったポートレート。インディペンデント映画界の巨匠ジム・ジャームッシュ監督の約4年ぶりとなる待望の新作は、そんな地味ながらも光り輝くような詩情が随所に散りばめられた佳品でありました。事件らしい事件など何も起こらない淡々とした作品なのに、最後までずっと観ていられるのはこの監督の人に対する暖かな視線の賜物なのでしょう。急にギターを弾きたいと言ってみたりカップケーキを売りたいとオーブンでひたすらまずそうなケーキを焼き始めたりする彼女、いつも家族に対する愚痴ばかり言う会社の上司、一人でチェスをするのが趣味のバーのマスター、そして彼女に振られて狂言自殺をするダメ男まで誰しもがそれぞれに憎めない魅力を持っています。主人公がささやかな日常をヒントに豊かな想像力を働かせて書く数々の詩も、そんな平凡な人たちの生活を魅力あふれるものに変えてゆくのに一役買っています。愛犬である悪戯好きのブルドック(最後の最後にこいつがやらかしてしまいます!)なんてまさにキュート!最後に唐突に現れる、永瀬正敏演じる日本の詩人もこの何気ない物語の締めくくりとしてこれ以上ないくらい良い雰囲気を醸し出していました。それ以外にも一瞬だけ登場するキャラクターたち――コインランドリーでラップを歌う黒人やパターソンと同じく秘密のノートに詩を書く少女、バスで猥談する下世話な乗客たちまでもそれぞれに他にない魅力を発していました。まさにジム・ジャームッシュの円熟の技が光る、大人の魅力に満ちた良品と言っていいでしょう。
[DVD(字幕)] 8点(2019-03-10 00:36:47)
7.  ハクソー・リッジ 《ネタバレ》 
良心的兵役拒否者としての信念から銃を手にすることを一切拒否、しかしながら衛生兵として多くの負傷兵の命を救った一人の男の姿を実話を基にして描いた戦争ドラマ。舞台となるのは第二次大戦中、日本国内では唯一大規模な地上戦が行われた激戦地・沖縄。監督は、私生活でいろいろと問題行動の多いメル・ギブソン。この人の思想信条や考え方、そして宗教観は個人的には嫌いなのですが、それでも映画監督としての才能はやっぱりピカイチなんですよねー。完成度は抜群に高いです、これ。前半、誰に何と言われようと銃を手にすることを一切拒否し、周りに迷惑をかけまくる主人公には同僚でもなんでもない観客の僕たちまでイライラさせるとこなんてホント巧い。「じゃあ兵隊に志願なんてするなよ!」と誰もが思うことでしょう。アンドリュー・ガーフィールドの頑固で変わり者キャラがばっちり嵌まっててなかなかナイスなキャスティングじゃないでしょうか。後半、壮絶な沖縄戦に突入してそんな頑固者の主人公が一転して英雄となり周りからの信頼を勝ち取ってゆくとこもカタルシスがヤバいです。なかなかよく出来た脚本と言えるでしょう。凄惨を極めた戦場描写も容赦がなく、地面にごろごろと転がっている無残な死体の中を自らの命を顧みずに走り抜けてゆく兵士たちからは一秒たりとも目が離せません。皮膚の焼けただれる臭いが今にも漂ってきそうな火炎放射器の炎、そこらへんに容赦なく散らかった剥き出しの内臓や千切れた手足、我先にと餌にありつく巨大なネズミたち…、リアリティに満ち溢れたそれらの描写には日本人としてとても胸に迫るものがあります。まあこの監督らしい一面的な描き方――例えば、襲ってくる日本兵が全員野蛮な狂信者として描かれているとことか、これを観たアメリカ人にまた原爆投下肯定論者が増えそう――は、相変わらずですけれども。それでも悔しいかな、日本人としてそんな微妙な部分も作品としての質が大幅にカバーしちゃってます。全編に貫かれるキリスト教礼賛描写も鼻につきますが、総合的な完成度はすこぶる高い戦争ドラマの秀作と言わざるを得ません。
[DVD(字幕)] 8点(2018-04-05 03:25:32)
8.  裸足の季節 《ネタバレ》 
トルコの閉鎖的な田舎町で厳格な叔父に育てられる5人姉妹の抑圧された青春の日々を、息を呑むほどの美しい映像で描いた抒情的な作品。なんとなくソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』みたいな感じなのかなと思いながら今回鑑賞してみました。確かに彼女の作品の影響を色濃く受けているのですが、これはこれでなかなか面白かったですね。コッポラ作品にはない本作ならではの美質は、美しい映像の裏に適度に配された明確な政治的メッセージでしょう。すべての女性を男の都合のいい価値観の元に縛り付ける前時代的な考え方――結婚するまで処女を守り通すことが最上の貞節とされ、初夜の夜にわざわざ夫の家族がシーツが血に染まっているかを確かめに来るような――に対する怒りが、作品の通奏低音となって詩的で美しい映像にいいアクセントをくわえている。また美しい5人姉妹を演じた少女たちの自然な演技も素晴らしく、特に末っ子を演じた女の子が時おり垣間見せるきらきらと輝くような笑顔なんてとても良かったです。うん、なかなかの良品でありました。8点!
[DVD(字幕)] 8点(2017-10-08 23:54:18)
9.  バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 《ネタバレ》 
『バードマン』――。それはかつて、スーパーヒーローものの走りとして世界的に大ヒットしたエンタメ・アクション映画だ。主役を演じたリーガン・トムソンは、世界的なハリウッドスターとなり人気を博したものの、それ以降はヒット作に恵まれず、いまや落ちぶれてくすぶり続ける日々を送っている。そんな彼が再起を賭け、主演・脚本・演出を担当した舞台劇をブロードウェイで公演しようと奔走するのだが、次から次へとトラブルが巻き起こり、現場は大混乱に。降板した共演者の代役に抜擢された若手俳優はその自由奔放な言動で現場を掻き回し、薬物中毒でリハビリ中の娘からは常に目が放せず、プロデューサーはいつも金のことで文句を言い、恋人からは妊娠を告げられる……。彼の神経はどんどんと追い詰められ、やがて彼が演じた〝バードマン〟が彼の頭の中で罵詈雑言を囁き始めるのだった……。そんな妄想と幻聴に苛まれる元人気俳優の狂乱の日々をシニカルかつパワフルに描いたブラック・コメディ。『ブラックスワン』の中年男性版とも呼ぶべき作品だが、いやはや、これが実に面白い。冒頭からまるでワンショットで撮ったかのようなカットの途切れない演出、主人公の躁状態を表すように絶え間なく鳴り響くドラム音、実生活を否応なく髣髴とさせるマイケル・キートンの鬼気迫るような熱演、そんな全ての物事が加速度的に盛り上がり、臨界点に達したところで急速に崩壊する彼の精神…。妄想と現実を巧みに使い分け、最後まで一切テンションを衰えさせずに突っ走っていくところなど、イニャリトウ監督の才が冴え渡っている。私生活を犠牲にしてでも優れた芸術を生み出したいという、矜持ある表現者なら誰しもが願う(?)思いと、そんな覚悟を嘲笑うかのように量産されるハリウッド的エンタメ映画との相克。芸術畑の批評家ですら、保守的な思想から公平な論評をしようとしない。いったい芸術とはなんなのか?最後、病室から飛び降りたと思しき主人公を大空に見つめる娘の笑顔は、たとえそれが表現者の生活を破壊し誰かの心を深く傷つけてまで生み出されたものであったとしても、それでも人は優れた芸術を求め続けるということを肯定的に表している。映画や舞台のみならず、全ての創作というものを深く考えさせられる、充実した2時間弱であった。
[DVD(字幕)] 8点(2016-07-03 22:46:23)
10.  ハウンター 《ネタバレ》 
パパもママもきっと信じてくれない。私だけが気付いているの、毎日同じことが繰り返されるって!私、ずっと16歳になる前日のままなのよ――。16回目の誕生日を明日に控えた平凡な少女、リサ。ちょっぴり反抗期を迎えているものの、それなりに充実した日々を過ごしている。だがある日、彼女は気付くのだった。「私たち、ずっと同じ日をループしてる!!」。いつも洗濯機からなくなる衣服、空想上の友達と遊ぶ弟、どこからともなく聞こえてくる自分を呼ぶ声……。永遠に繰り返されるそんな出口のない迷路のような生活から、なんとか逃げ出そうともがき始めるリサ。果たしてここは何処なのか?なぜ自分はこんな悪夢のような事態に陥ってしまったのか?そして彼女は無事にこの無限ループから抜け出し、ちゃんと16歳の朝を迎えることが出来るのか?低予算ながら、誰も見たことがない斬新なアイデアと練られた脚本の力さえあればいくらでも面白い映画が創れると世界に知らしめた名作『キューブ』で鮮烈なデビューを飾ったヴィンチェンゾ・ナタリ監督。今回も相変わらず低予算(だってセットはほぼこの一軒家のみだし、ループモノだから映像さえも使い廻しが…笑)なのだけど、そこはやっぱりナタリ監督、この映像への半端じゃない拘りはさすがでしたね。特にこの一軒家に濃密に漂う不気味な雰囲気は一見の価値あり。ただ、残念ながら誰も見たことのない斬新なアイデアは今回ありませんでしたけど。てか、これってP・ジャクソン監督の愛すべき失敗作と僕が認めてやまない『ラブリー・ボーン』と設定がまるかぶりのような気が…。他にも色んな有名映画で見たようなシーンがチラホラ…。とはいえ、こういう思春期少女の精神世界をミステリアスに描き出すゴシック・ホラーってもろ僕の好みなんですよね~。それに後半の様々な少女たちの精神世界が重層的に絡み合うパラレルワールドをちゃんと破綻させずに描ききったところなど、なかなか見応えありました。主役を演じたぽっちゃり女子もけっこう可愛かったしね。ホラー映画としても普通に怖かったんじゃないかってビビリの僕なんかは思ったりもします。そんな訳で、僕の好みを良い感じにビシバシ突いてくるこの作品、ちょっぴり甘めの8点!
[DVD(字幕)] 8点(2015-03-13 18:37:48)
11.  パシフィック・リム 《ネタバレ》 
そう遠くない近未来、太平洋の海底に突如として現れた巨大な裂目から、次々とやって来る冷酷無比な〝カイジュウ〟たちの容赦ない攻撃によって、人類の運命は風前の灯火と化していた。それまで些細なことでいがみ合っていた人類はそんな存亡の危機に一致団結、その叡智を結集して最終兵器を造り出す。それは、超小型核ミサイルでもDNA解析に基づいた生物化学兵器でも最新鋭の戦闘機でも巨大空母でも宇宙兵器でもなく、何故か〝イェーガー〟という名のパイロットのメンタル面がやたらと重視される超面倒臭い操縦法(トラウマを抱えた女性が乗り込もうものなら、簡単に暴走しちゃう笑)で駆動する人型巨大ロボットだった!「スターシップ・トゥルーパーズ」が公開されてからはや十数年、ヴァーホーベンが馬鹿馬鹿しくも圧倒的な情熱でもって切り拓いた中2病映画界という新たな地平に、今度はギレルモ・デル・トロがまたまた新しい伝説を打ち立てちゃいましたね~。まあ、馬鹿馬鹿しいっちゃあ馬鹿馬鹿しいですけどここまでやたらとお金を掛けて真面目に真剣に真摯に取り組まれたら、やっぱ凄いっすわ!個人的に、昔からロボットものって一切興味なくて「ガンダム」も「エヴァ」もほとんど観て来なかったのだけど、これには完全にやられちゃいました。夜の海から悠然と現れるカイジュウと洗練されたメタリックな美しさをまとったイェーガーとの迫真のバトルには素直にハラハラドキドキ。それに、倒されたカイジュウの死体を違法に採取する非合法集団の胡散臭~い描写も何気にツボでした。いやー、ギレルモ・デル・トロって、ほんと心に無垢な魂を宿した映画作家なんだろうね。昔からの彼のファンとしては、「ヘルボーイ」とか「パンズ・ラビリンス」のエッセンスを随所に感じる拘り抜いた映像美とねちっこいストーリー展開に感慨もひとしおっす!何より「ミミック」という、地下世界を蠢き回る気持ち悪~い巨大ゴキブリと人類の戦いを描いたB級ホラーでデビューした彼が、ここまでビックバジェットの映画をあのころの信念を失わずに撮ったという事実に感動すら覚えてしまいました。でも、次はもっと「パンズ・ラビリンス」のように真面目な映画も撮ってね、デル・トロくん(笑)。
[DVD(字幕)] 8点(2014-02-16 00:03:57)
12.  ハミングバード・プロジェクト/0.001秒の男たち 《ネタバレ》 
0.001秒――。それは生き馬の目を抜くようなNYの厳しい金融取引の世界で、ライバルを蹴落とすために必要な時間。光ファイバーやAIを駆使し、ライバル企業よりもコンマ1秒の差で優良株を買いそれを高値で売り抜けることで巨額の利益を上げるエリート・サラリーマンたち。そんな特殊な世界に身を置き、日々神経を擦り減らしていた落ちこぼれ金融マンであるヴィンセントは、ある日とっておきの方法を思いつく。それは、データセンターのあるカンザス州からNY証券取引所のサーバーまで、直線で1600キロにも及ぶ地下にトンネルを掘り、光ファイバーケーブルを通そうというものだった。そこに山があろうが川があろうが、まして人が住む民家があろうが買収し、ひたすらまっすぐ掘り進む。完成すれば、ライバル企業よりも0.001秒早く商取引を成立させることが出来るのだ。もはや無謀とも言えるそんな彼の計画だったが、幸運にもそのプロジェクトに出資したいという投資会社が現れる。自分の人生に一発逆転を図るため、彼は従弟である天才肌のコンピューター専門家を誘い、意を決して辞表を提出するのだった。もはや後戻りはできない。ハミングバードが一回羽ばたくような一瞬の時間に人生をかけた彼の計画は、果たして成功するのか?実話を基に、そんな無謀とも言えるプロジェクトに心血を注ぐ男たちの奮闘を描いた社会派ドラマ。野心に燃える主人公を演じるのは、まさに嵌まり役と言ってもいいジェシー・アイゼンバーグ(そう言えば、彼は過去にもフェイスブックの創始者マーク・ザッカーバーグの役をやってましたね)。監督は、独自の目線で社会問題を見つめるカナダの俊英、キム・グエン。最初こそ、「ここまでするか」と驚くほどの執念でもって長大なトンネルを掘ろうとする主人公たちの情熱に圧倒されながら観ていたのですが、彼らが相次ぐトラブルによりどんどんと追い詰められてゆくのを見ていると、なんだか呆れて笑えてきちゃいますね。だって、彼らが人生を懸けてやってることって他人より0.001秒早く株を売り抜けるってだけの話。それだけで巨額の利益を上げられるってのがそもそもおかしな話で、そんなことに人生を懸けて挑む彼らって一周廻ってこの人たちって実はバカなんじゃないかと思っちゃいますね。でも、それに世界の経済が振り回されているのかと思うともはや笑えない。相変わらずこの監督の目線は鋭い。途中に出てくるレモン農場の例えなんて見事に本質を突いている。物語の最後の顛末はまさに自業自得としか言いようがなく、そんな無駄なことに時間を使う彼らに比べたら、地道に働いてるレモン農場の農家の方が圧倒的に偉いって一庶民の自分なんかは思っちゃいますわ。行き過ぎた資本主義の矛盾をシニカルに見つめた、社会派ドラマの秀作と言っていいんじゃないでしょうか。お薦めです。
[DVD(字幕)] 7点(2021-05-31 23:30:29)
13.  ハスラーズ 《ネタバレ》 
彼女の名は、デスティニー。何処にでも居るような平凡な女の子だ。大して特技があるわけでもなく、容姿も学歴もそれなり、人に自慢できるような経歴もない。そんな彼女が生活のために見出した職業。それは文字通り裸一貫で出来る、ストリッパーだった。夜の街で繰り広げられる男たちの喧騒を乗りこなし、徐々に頭角を露わにしてゆくデスティニー。そんな彼女はある夜、お店のトップに君臨するベテラン・ダンサー、ラモーナと出会う。彼女とコンビを組み、お店の主な顧客であるウォール街の金融マンたちを相手に荒稼ぎしてゆく二人。高級住宅や車、豪華な食事に飲み切れないほどの高級ワイン、そして煌びやかな宝飾品の数々……。こんな生活が永遠に続くと信じていた。そう、あの日を迎えるまでは――。2008年、突如として巻き起こった世界的な金融危機によって、彼女たちは一夜にして全ての顧客を失ってしまうのだった。折悪く子供も生まれ、すぐさま生活に困窮するデスティニー。そんな彼女たちが、生活を立て直すために取った方法とは?実話を基に、追い詰められ犯罪に手を染めるストリッパーたちを描いたクライム・ドラマ。主人公とタッグを組む先輩ストリッパーを演じるのはベテラン女優ジェニファー・ロペスなのですが、とにかく今年で50歳になるとは到底思えない、彼女の圧倒的な存在感に尽きると思います。年齢を全く感じさせないパーフェクトなボディに、ステージを縦横無尽に駆け回る驚異の身体能力、そして何よりむちゃくちゃエロい(笑)。彼女が超セクシーなコスチュームを着て、客が投げる札束の海で踊りまくる冒頭のシーンには思わず痺れちゃいましたわ。僕はかねてより、ある種の水着は裸よりもエロいと思っていたのですが、それを改めて実感させられるようなほぼ線でしかないコスチューム姿の彼女、ナイスですね~。ただ、肝心のお話の方は正直ありきたり。追い詰められたストリッパーが、かつての顧客である金融マンを相手に金を騙し取る内容だと聞いて、もっと緻密に計画された知的犯行だと思ったら、まさかの単なる昏睡強盗。色仕掛けで客を泥酔させて近くのお店に引っ張り込んではカードの暗証番号を聞き出すという、なんだかミナミの帝王あたりに出てきそうなみみっちいお話でした。でもまぁ追い詰められた女たちの開き直りっぷりはなんとも潔く、そんな彼女たちがスケベな男どもを次々とターゲットにしてゆくとこはけっこう爽快だったかな。まさにゴージャス&セクシー。パワフルでエネルギッシュで猥雑で、目の保養にもなったし、まあぼちぼち面白かったですかね。教訓。夜の酒場で近寄ってくるエロい女には充分注意しましょう。
[インターネット(字幕)] 7点(2021-01-12 01:33:12)
14.  バイス 《ネタバレ》 
彼の名は、ディック・チェイニー。共和党ブッシュ政権下で副大統領を務めあげ、911同時多発テロを皮切りに始まったアメリカの対テロ戦争では主導的役割を果たし、いまだ賛否両論渦巻くイラク戦争開戦へと踏み切った男。彼はテロリストを撲滅した偉大な指導者なのか、それとも世界を大混乱へと陥れた稀代の悪徳政治家か。本作は、そんな毀誉褒貶の激しい政治家の半生を実話を基に描いた政治劇だ。特殊メイクや肉体改造を駆使し、実在の政治家をそっくりに演じた俳優陣には、クリスチャン・ベールやスティーブ・カレル、サム・ロックウェルと言った実力派の面々。監督は、難解な政治経済問題を分かりやすく描くことにかけては定評のあるアダム・マッケイ。個人的にこの監督の前作『マネー・ショート』が全く嵌まらなかったのであまり期待せずに今回鑑賞してみたのですが、意外にも今回はばっちり嵌まっちゃいました。僕がこの時代のアメリカの新保守主義、いわゆるネオ・コンと呼ばれる人たちに個人的にとても興味があったというのもあるんでしょうけど、この監督のシニカルな笑いを散りばめた演出が今回は非常に心地よかったです。例えば映画の中盤、政権交代が起こり、中枢から追われた彼らの「その後」をテロップで流した後、エンドロールが始まるという実話を基にした映画にありがちな演出を差し挟むとこ。なかなか皮肉が利いてて思わずニヤついちゃいました。うん、これで本当にドラマが終わったら何の問題もなかったんですけどね(笑)。その後、ブッシュ政権が始まり、911を経てからのイラク戦争へと雪崩れ込む展開は、余りにも無茶苦茶すぎてもはや笑うしかありません。でも、その陰には大量の戦死者やテロの犠牲者が居ると思うと背筋が寒くなりますね。監督はそんな彼をステレオタイプの悪徳政治家へと落とし込むことなく、あくまで家族思いの良きパパであり、どん底から這い上がった立身出世の鑑としても描いてゆく。結果はどうあれ、彼は非常に優秀な政治家であったことは揺らぎのない事実。民主主義の盲点を冷徹に見つめた、非常にフェアなスタンスだと思います。ここらへん、マイケル・ムーアとは全く違いますね。結論。なかなか見応えのある政治ドラマの良品でありました。7点!
[DVD(字幕)] 7点(2020-07-17 20:41:15)
15.  ハッピー・デス・デイ 2U 《ネタバレ》 
謎の殺人鬼に何度も何度も殺されるという悪夢の無限ループへと陥ったビッチな女子大生、ツリー。彼女がその無限ループから抜け出すために、何度も殺されながら真相を探る姿を疾走感あふれる展開で描いた青春ホラー第二弾。前作の低予算ながらポップでキレのいい演出がけっこう面白かったので、続編となる本作も期待して今回鑑賞してみました。前作では謎のままだったタイムループ発生の原因が、本作で明らかにされたのは嬉しい展開。前作ではちょい役だったあの「メス犬とやったのか」でお馴染み(笑)の金髪アジア系男がまさかの張本人だったとは!冒頭、こいつが新たな無限ループに巻き込まれる展開に、「え、もしかして今回はこいつが主人公なん?!」とちょっと不安にもなりましたが、途中でちゃんとツリーの無限ループに戻ったのでホッとしました(彼女にとっては迷惑この上ないでしょうけど笑)。ただ、肝心のことの真相が実は幾つもの現実が併存する多元宇宙(パラレル・ワールド)だったというのは賛否が分かれるところ。僕はどちらかと言うと否の立場かなぁ。話が無駄にややこしくなって前作ほどのカタルシスを得られませんでしたわ。それに前作よりスラッシャー・ホラー要素が薄まったのもちょっと残念。まぁこればっかりは好みの問題なのでしょうけれど。それでも、相変わらず様々な死にざまを身体を張って魅せてくれたツリーの潔い死にっぷりには今回も楽しませてもらいました。ドライヤーで感電死したら次の瞬間髪の毛爆発してたりだとか、スカイダイビングに裸で挑んだりだとか、ゴミ収集車に頭からスライディング・ダイブだとか、前作以上の悪ノリっぷりに終始ニヤニヤが止まんなかったです。最後のオチもけっこう決まってましたしね。というわけで、前作ほどではないですが、今回もなかなか楽しませていただきました。でも、さすがにこれ、もう続編はないよね(笑)。
[DVD(字幕)] 7点(2020-02-09 23:50:59)
16.  ハンターキラー 潜航せよ 《ネタバレ》 
ロシア国内で突如としてクーデターが勃発!異変を察知したアメリカ政府は第三次世界大戦の危機を阻止するため、陸軍特殊部隊及び偶然近くに停泊していた原子力潜水艦アーカンソーに秘密指令を下す。それは、反乱軍によって監禁されたロシア大統領を生きたまま救出することだった――。おおよそ不可能とも思われるそんな困難な任務に赴くことになった攻撃型原潜、その名もハンターキラー。彼らのロシア近海への決死の侵入をスリル満点の展開で魅せるポリティカル・アクション。前評判通り、なかなか面白いじゃないですか、これ。まあ、ベタっちゃあベタですけど緻密に考えられたであろう脚本はけっこうな完成度。ロシア近海に潜む原子力潜水艦と、かの国の基地に潜り込んだ特殊部隊員、そしてアメリカ本国で指揮を執る制服組との息詰まるようなやり取りはリアリティがあって見応え充分でした。潜水艦でのお約束の展開もちゃんとツボを押さえられていて(あの音を出せない状況で危うくスパナを落としそうになるとこなんて心臓に悪すぎ!!)、終始ハラハラドキドキ。ジェラルド・バトラー演じるアメリカ人艦長と、本来は敵同士であるはずのロシア人艦長とのただお互い船乗りとしてのプライドから結ばれる友情なんて熱い熱い。陸上で孤立無援の戦いを強いられる特殊部隊たちのドラマもそれに負けず劣らずよく出来ており、ともすれば一本調子になりそうなストーリーにいい緩急を与えています。クライマックス、ロシアの猛攻撃を受けながら決死の脱出を図るハンターキラー内での緊迫感に満ちた攻防もかなりの迫力。損傷した艦内にどんどんと海水が入り込んでくるシーンは、こういう映画で何度も見ているとはいえやはり息が詰まりそうになりますね。いやー、何度生まれ変わっても潜水艦乗りにだけは絶対なりたくない(笑)。最後の展開が若干ご都合主義に流れすぎな感もありますが、エンタメ映画として僕は充分楽しませていただきました。うん、7点!
[DVD(字幕)] 7点(2019-11-14 23:08:04)
17.  パラドクス 《ネタバレ》 
到底説明できない理不尽な状況に追い込まれた二組の人々。9階から下っていったはずなのにいつの間にかまた元の9階へと戻ってしまう階段に閉じ込められた男たち。車で海への一本道を走っていたはずなのに気付いたらまた元の場所へと戻ってしまう家族。踊り場に置いてある一台の自動販売機や、道の途中に建っていた一軒の無人のコンビニから無限に食料が供給されるのだが、どこをどう探しても出口だけは見つからない。一見全く繋がりのなさそうなそんな二つの物語。驚くべきことに、彼らはそんな理不尽な空間で35年もの長い月日を過ごすことになるのだった。いったいここは何処なのか?彼らは何故、そんな不条理な事態へと陥ってしまったのか?そして、最後に明かされる驚愕の真実とは?そんなアイデア勝負のシュチュエーション・スリラーなのですが、これがなかなかよく出来ていてけっこう面白かったです!これまで似たような設定のB級スリラーは幾つも観てきたのですが、まさかこんな状況で35年も登場人物を閉じ込めてしまうとは。汚物やゴミでひたすら汚れてしまった階段で35年も過ごすなんて絶対いや(笑)。もう一つの物語で、頭のおかしくなった夫婦がただ惰性でカー・セックスするシーンだとか、全体的に変なユーモアが漂ってるのもいいですね。そして最後のオチも力技ながら、なかなかしてやられちゃいました。あの花嫁の物語もじっくり観たかったです。うん、けっこう面白かった!7点!!
[DVD(字幕)] 7点(2018-02-07 23:15:58)
18.  博士と彼女のセオリー 《ネタバレ》 
ホーキングさん、あなたの病名は運動ニューロン疾患です。脳からの命令が徐々に筋肉に伝わらなくなり、運動が困難になります。たとえば、話すこと、歩くこと、そして食事や呼吸までも…。最後には、随意運動を制御する能力が完全に失われます。自分の意志で身体を動かすことが出来なくなるのです。残念ですが、余命は2年といったところでしょう。もちろん、脳は影響を受けません。思考力も変わらない。ただ、それを誰にも伝えることが出来なくなるのです。実に、残念です――。1963年、英国。ケンブリッジ大学の宇宙物理学科に進学してきた青年、ホーキングはその卓越した思考能力で将来を有望視されていた。大学のパーティで知り合ったジェーンという素敵な恋人も手に入れ、輝かしい未来に向けて順風満帆に過ごしていた彼だったが、突如として悲劇に見舞われる。ALS。徐々に筋肉が衰え、いずれは寝たきりとなってしまうそんな難病を発症してしまったのだ。当然、自暴自棄に陥りそうになるホーキング。だが、名実共に妻となり献身的に支えてくれるジェーンの助けによって彼は博士号を手に入れ、さらには愛する子供たちまで授かることに。そんな2人に更なる試練が訪れる……。車椅子の天才として名高い物理学者、スティーブン・ホーキング博士。本作は、そんな彼と妻との長年にわたる愛の日々に焦点をあてて描いたヒューマン・ドラマだ。昔、『ホーキング、宇宙を語る』という彼の著書を読んで、その虚時間という考え方――時間というものは自分たち3次元の人間からしたら流れているように見えるけれども、5次元6次元という高度な視点から見ればそれはあらかじめ描かれた地図のようなもので、全ては決まっている(なにぶん大昔に読んだもので間違ってたらごめんなさい!)に感銘を受けた者としては、彼のその人間としての私生活を描いた本作を興味深く鑑賞してみました。確かに、まだ描かれた人々がご存命ということもあってか、幾分か綺麗事に纏めすぎられたきらいはあるものの、美しい映像や音楽、何より役者陣のナチュラルな演技が素晴らしく、最後まで惹き込まれて観ることが出来ました。これは男と女のままならない愛の物語であり、人が家族となることの素晴らしさをとことんまで肯定的に描いた心温まるドラマでもあり、決して数式では割り切れない人間の力強さを描いた賛歌でもある。最後は別れてしまったけれど、彼らの愛の軌跡になんだか柄にもなく切なくなってしまいました。欲を言えば、もう少しホーキング博士の科学者としての側面にも光をあててほしかったけれど、それでも充分見応えのあるヒューマン・ドラマの佳品と言っていい。
[DVD(字幕)] 7点(2016-05-11 01:25:11)
19.  ハンナ・アーレント 《ネタバレ》 
「聞いたでしょう、アイヒマンは法律に従っただけ。彼は自分で手を下していない。ただ、ユダヤ民族抹消という上からの命令に従っただけ。その証拠にアイヒマンは、自分にユダヤ人への憎悪はないと主張している。そう、彼は単なる役人なの。ホロコーストという、想像を絶する残虐行為と彼の平凡さを同列に裁くことは間違っている」――。1960年、多くのユダヤ人をガス室へと送ったナチス戦犯アイヒマンが、イスラエル諜報機関によって南米で逮捕される。すぐにイスラエルへと移送された彼は、人道に対する罪で裁判にかけられるのだった。ドイツ系ユダヤ人であり、自らも迫害された過去を持つ高名な哲学者ハンナ・アーレントは、彼の罪を冷静に見つめようと、すぐにイスラエルへと飛ぶ。「こんな残忍な怪物はすぐに処刑すべきだ!」という空気に満ち満ちたそんな裁判を傍聴していく中で、ハンナは彼が裁くに値しない凡庸な人間であるという考え方を強めていく。やがて、「ホロコーストという未曾有の悲劇を起こしたのは、彼のような人間だけではなく、ユダヤ人にもその責任の一端がある」という主張を表明すると、彼女に嵐のような批判が巻き起こるのだった……。実話を基に、ナチス戦犯であるアイヒマン裁判をあくまで冷徹に見つめた一人の女性哲学者の凛とした生き様を淡々と描いたヒューマン・ドラマ。恥ずかしながらハンナ・アーレントというこの哲学者もアイヒマン裁判もほとんど知らずに本作を鑑賞してみたのですが、これがなかなか見応えのある人間ドラマの佳品へと仕上がっておりました。とにかく、本作の主人公であるハンナ・アーレントが人間としてすこぶる魅力的!!ヘビースモーカーだった彼女が煙草をくゆらせながら(ほんと、ず~~~っとプカプカ煙草喫ってます笑)延々とディベートする姿がとにかく格好良い!!どれだけ批判に晒されようと絶対に自分の信念を曲げない鉄の女であった彼女。でも、家庭では一人の女性として夫を気遣う姿がとても印象的でした。そして、ユダヤ人でありながら、自らの感情よりも冷静な知性でもって真実を見つめようとしたハンナの姿勢は大変興味深いものでした。誰もが自分で考えることを放棄し、ただ上からの命令や時代の空気に流されてホロコーストという未曾有の悲劇を巻き起こしてしまった人類……、今回も感情に流されてアイヒマンを死刑にしてしまったら私たちは何も時代から学ばなかったことになるというハンナの思想は、徐々に右傾化する現代日本に警鐘を鳴らしているようでもあります。時代の風潮に安易に流されることなく、自分で考え判断することの重要さをあらためて教えてくれる佳品でありました。
[DVD(字幕)] 7点(2015-06-25 12:45:19)
20.  8月の家族たち 《ネタバレ》 
ええ、そうよ。私が薬を止められないのはこの口の中に出来た癌のせいよ。痛いのよ!口の中が、もう焼けるように――。うだるような熱気が立ち込める8月のオクラホマ。退屈な毎日が繰り返されるそんな田舎町で、年老いた夫と共に過ごすウェストン家の初老の女性ヴァイオレットは口腔癌を患い、常に鎮静剤が手放せないかなりの偏屈者。ある日、そんな常に誰かのことを口汚く罵ることだけが生き甲斐の妻に嫌気が差したのか、長年連れ添ってきた夫が失踪してしまうのだった。連絡を受けた彼女の3人の娘たちは、それぞれの夫や恋人を引き連れて久し振りに実家へと帰ってくる。各々に深刻な問題を抱えた娘たちだったが、長年の鎮静剤服用のせいで性格が歪みに歪みまくった母親の問題行動からさらに大きく振り廻されてしまう。やがて、失踪した父親が湖で自殺死体となって発見されたことで、家族の絆はますます壊れ始めるのだった……。アカデミー賞に輝く豪華俳優陣を起用し、有名な舞台劇を基にそんなかなり問題を抱えた一家族の醜い諍いを終始シニカルに描いたホーム・ドラマ。いやー、なんですのん、この超面倒臭~~~い家族の面々は(笑)。最後の最後までひたすら続く、このうんざりするぐらい醜い口喧嘩の応酬に僕のテンションは上がりっぱなしでした。メリル・ストリープの「お前は中世の魔女か!!」ってくらいのイヤらしい偏屈ババアっ振りはやっぱりさすがの貫禄ですなぁ。対するジュリア・ロバーツの更年期真っ只中って感じのヒステリーおばさん演技も見事に嵌まってました。それにしても、この作品の全編に横溢する家族というものへの徹底的な不信感は凄いですね。家族の絆が最後まで壊れたまま終わっていくのもなかなか良かったです。と、観れば観るほど気が滅入るような作品なのですが、僕のように「家族とは、子供を育てるという目的の下に作られた社会システムであって、必ずしも全ての人を幸せにするようには出来ていない」というひねくれた考え方を持っている偏屈人間にとってはいたく共感出来ました(笑)。さすがにあの従兄弟同士のカップルに明かされる真実はやり過ぎ感があったけど、うん、面白かった!7点!
[DVD(字幕)] 7点(2015-06-06 01:23:24)
全部

■ ヘルプ
© 1997 JTNEWS