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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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1.  マン・オブ・スティール 《ネタバレ》 
IMAX3Dにて鑑賞。 「スーパーマンは難しい」。その圧倒的な強さ故に強敵を作ることが困難だし、設定が非現実的過ぎて実写でやるとお笑いになってしまう。前作『リターンズ』の製作に10年以上かかってしまったことからも、これは魅力的でありながらも実現困難なコンテンツであることが充分に伺えます。そこに来て、バットマンを理詰めで実写化したクリストファー・ノーランがスーパーマンをどう料理するのかに関心があったのですが、ノーランはこの歴史あるコンテンツを驚くほど自分色に染めていて、その大胆さには心底恐れ入りました。。。 ヒーロー映画としての面白さを徹底的に追求した『リターンズ』と比較すると、本作には驚くほどカタルシスがありません。ノーランはアクション映画を多く手がけながらも、基本的に暴力は忌むべきものと考えているようであり、本作においてもスーパーマンの力を否定的に描いているのです。クリプトン人としての能力は特権ではなく呪縛として機能しており、それは幼少期よりクラークを苦しめます。また、暴力の帰結としての人の死からも逃げておらず、ゾッド将軍を殺した後のスーパーマンは苦悶の叫びをあげます。さらに、スーパーマンが戦った街では大勢の一般市民が巻き添えとなって死んでいることが容易に想像できる描写が続き、全体を通してかなり後味が悪いのです。はっきり言うと、スーパーマンの企画でやってはいけないことを並べ立てた内容としています。そのポストモダンな作風ゆえに原作ファンは納得しないだろうと思うのですが、ドラマ性が高まったことで映画としては抜群に面白くなっています。自分にとって邪魔でしかない個性とどう向き合うのかという、非常に普遍的なドラマとなったのですから。また、ケビン・コスナーから意外な熱演を引き出したという点でも、本作の脚本は評価できます。。。 以上、ひたすら暗く地味な脚本なのですが、ビジュアルの鬼・ザック・スナイダーが監督に就任したことで見せ場のテコ入れが図られ、ドラマの暗さをアクションの面白さで打ち消すという絶妙なバランスが実現しています。見せ場の迫力や面白さは群を抜いており、本作と比較すると『アベンジャーズ』すら二流のヒーロー映画に見えてしまいます。スーパーマンの強さや速さの描写は非常に的確だし、スピーディながらも見辛くなる一歩手前のところで踏みとどまっている監督のサジ加減にも驚かされます。
[映画館(字幕)] 9点(2013-09-02 01:43:40)(良:3票)
2.  マンダレイ 《ネタバレ》 
素晴らしい作品でした。セットらしいセットがなく、役者も必要最低限の人数に絞り込まれ、物語と人間以外の要素をすべて削ぎ落とした体裁を取りつつも、アメリカという国家や人間社会の普遍的な真理という大きな題材を面白く、かつわかりやすく表現しています。本作の(表面上の)テーマは人種問題なのですが、「黒人はかわいそうでした」と結論付けるだけの短絡的な物語ではありません。支配のシステムを受け入れることで支配される側も救われていたのではないか?そして、虐げられてかわいそうに見える人間が、必ずしも善人とは限らないという真理を突いています。この題材において、マンダレイがアメリカの人種問題を象徴する集落であると同時に、主人公グレースもまた、薄っぺらな善意と強大な力を持つ国アメリカを象徴しています。黒人奴隷達を見たグレースは、自身が差別の当事者ではないにも関わらず「申し訳ないことをしました」と奴隷達に謝罪しますが、この謝罪の薄っぺらなこと。自身を「反省できる人間」という高みに置いてマンダレイを眺め、自分は差別を忌み嫌う善人であるとアピールしているだけにしか見えません。そんな彼女は、薄っぺらな正義感と無知から、マンダレイという社会を成り立たせていた秩序を勝手に破壊し始めますが、これは現在アメリカ合衆国がイラクやアフガンで行っていることです。フセインは軍事独裁政権であるという理由で、タリバンはテロ支援国家にして女性差別の権化として断罪され、排除されましたが、イラク社会やアフガン社会は、彼らの存在によって成り立っていました。これらの国々は、最終的には自由と民主主義を勝ち取らねばならないにしても、現時点では「早すぎた」のです。グレースが「授業」と称して黒人奴隷達に民主主義を押し付けるも根付かず苛立つ様は、まさに私達が見ているアメリカそのものでした。。。そしてこの映画の凄いのはラストで、底意地の悪いオチをビシっと決めてきます。グレースはアフリカの王族出身という黒人ティモシーに恋心を抱きますが、実は王族どころか賤しい身分の出身であったことを知るや、「裏切られた」という怒りから彼に制裁を加えます。結局、彼女も黒人を差別していた人間と大差ないことが証明されてしまうのです。また、時計の時間までを民主的に多数決で決めてしまったことから、彼女は元の生活に戻る術を失ってしまいます。この構成の巧さには驚きました。
[DVD(吹替)] 9点(2010-06-01 11:24:11)(良:1票)
3.  マグノリア
一言で表現するには難しい(=観る者の咀嚼が必要となる)映画で、しかも3時間という長丁場。監督の演出スタイルが生理的に馴染むかどうかが大きいと思います。結局のところはポール・ハギスの「クラッシュ」と同じ話で、さまざなしがらみに苦しむ者たちの懺悔と救済。ある者にとっては許されざる罪を行った人物も、巡り巡って十字架を背負っているのだという「罪を憎んで人を憎まず」がテーマだと言えます。そうした因果を描くにはやはり群像劇がふさわしく、またそれぞれのエピソードを濃密に描く必要性を考えれば3時間という長丁場にも納得がいきます。どのエピソードも甲乙つけがたいほどよく出来ていたし、それぞれに身につまされるような人生の教訓が詰まっていました。撮影当時29歳だった監督が、ここまで成熟したドラマを作ってみせたことは驚異です。しかもただ説教をたれるだけでなく、遊びまで入れてくるというのがまた見事。登場人物はみな滑稽なのですが、それにより悲哀や人間臭さがよく出てくるという演出の絶妙さ。また編集の遊びも斬新で、あるエピソードが盛り上がってきたところでカットがぶつっと切れ、まったく違うエピソードに飛んでいってしまいます。話がおもしろくなってきた、その絶好調のところでいきなり切ってしまうだなんて!この監督、ぶっきらぼうに作っているようで、実は観客の心理を徹底的に計算しているのだと思います。せっかくおもしろくなってきたところで切るなんて怖いことができるのも、その計算に絶対の自信があるからなのでしょう。実際、このじらしによって特に前半は怒涛のおもしろさとなっており、また膨大な情報量を見る側に詰めこむことにも成功しているのです。一転してペースが落ち着く後半部分とのコントラストの役割も果たしており、まさに完璧な計算だったと言えます。そしてあのとんでもないクライマックス。バカバカしくもありますが、登場人物達のわだかまりを吹き飛ばす起爆剤という役割は立派に果たしており、突飛ではあっても作品の流れの中では非常に理にかなったオチだったと言えます。あの衝撃で皆吹っ切れ、清々しい朝を迎えていたではありませんか。前述した「クラッシュ」は終始シリアスで比較的テーマが伝わりやすいアプローチだったのに対し、本作はより高度な遊びをした結果一部の観客を切り捨てるという結果にはなっていますが、映画としての完成度は非常に高いと思います。
[DVD(吹替)] 9点(2007-03-27 23:27:08)(良:2票)
4.  マッドマックス
B級アクションのお手本のような映画です。クールな主人公、悪すぎる敵、暴虐な展開と、メジャーでは出せない味が凝縮されています。それにしても暴走族が怖すぎです。はじめて見たのは小学生の時でしたが、コアラとカンガルーが作り上げたおおらかなオーストラリア像を完全に壊されました。あんなにもバイオレントな国には一生近寄るまいと心に決めましたね。そして、これ、「リーサル・ウェポン」「ブレイブハート」「パトリオット」「サイン」と、メルギブはよく奥さんを亡くしますね。
9点(2004-07-08 16:07:34)(笑:1票)
5.  マイティ・ソー/バトルロイヤル 《ネタバレ》 
IMAX 3Dにて鑑賞。飛翔シーンや広大な世界観など3D効果を実感しやすい要素が多く、かつ、マーベルは3D技術の使い方も小慣れてきており、3Dで見て良かっと思える仕上がりでした。 ソーはMCU内でも出来がイマイチの部類に入るシリーズであり、特に前作『ダークワールド』はMCUワーストクラスの作品だと思っているので、本作についてもあまり期待をしていなかったのですが、小難しい主張やドラマ性というものをほぼ捨て去り、開き直って純粋に娯楽性のみを追求したことから、これがとんでもなく楽しい作品に仕上がっていました。 アンソニー・ホプキンスやケイト・ブランシェットといったトップクラスの俳優を惜しげもなく投入している上に、今や大作の主演を張るまでに成長したトム・ヒドルストンも本作では変わらず卑怯者のロキを嬉しそうに演じているし、お久し振りのジェフ・ゴールドブラムが最初から最後まで笑わせてくれて、マット・デイモンのカメオ出演まである。これだけ豪華なメンツでもてなしてくれるのだから、2時間はあっという間でした。 また、本編中2度ある『移民の歌』が流れるタイミングの絶妙さや、コーグの救援場面やスカージがヘラに反旗を翻す場面などもバチっと決まっており、完璧なタイミングで燃える要素をぶっこんでくれるのでアクション映画としても燃えました。 ムジョルニアの破壊に始まり、片目を潰されたりアスガルドを破壊されたり、そもそも敵が実の姉だったりと、よくよく考えてみれば本作はかなりの鬱展開なのですが、悩むよりも行動で突破し、どんな苦境の中でも望みを探すという楽天的な姿勢は、非常にソーらしかったと言えます。
[映画館(字幕)] 8点(2017-11-10 18:41:14)
6.  マッドマックス 怒りのデス・ロード
IMAX-3Dにて鑑賞。昨年末に解禁された予告編のイカれっぷりに狂喜乱舞したものの、全世界ほぼ同時公開から日本公開まで1ヶ月もお預けを喰らうという拷問を経て、ようやく鑑賞まで漕ぎ着けたマッドマックス最新作。ファーストカットから殺伐とした空気が画面を支配し、ポストアポカリプス映画の総本家としての堂々たる風格を漂わせています。『MAD MAX』というタイトルが出るタイミングまでがかっこよすぎで、この感じで突っ走ってくれるなら、これからの2時間は最高に違いないという確信を得ることができました。 その確信の通り、本編に入るとイカれた世界をひたすら爆走。カーアクションの壮絶さは映画史上最高クラスであり、映画館の座席から立ち上がりそうになるくらい興奮しました。「お話なんてどうでもいいんだ」と開き直り、ひたすらに視覚的刺激の追求に走った監督の割り切り加減も気持ち良く、頭から尻尾まで男の映画となっています。 『マッドマックス2』の影響から『北斗の拳』ができたことは有名な話ですが、本最新作においては、その『北斗の拳』にマッドマックスが似てくるという逆転現象が見られた点が興味深かったです。敵集団の途方もないスケール感や、過剰なまでのハッタリ、子供を労働力としてこき使うという点など、聖帝サウザーを思わせる描写の連続には、これまた興奮させられました。また、ハート様を思わせるデブが登場するのですが、こいつの名前が「人喰い男爵」笑。スーツを着ているものの乳首の部分だけ穴が空いていて、そこから出た乳首をしょっちゅう自分でいじっているという、いろいろと気の毒なキャラクターなのでした。他に武器将軍なる大幹部も登場し、そのチャイルディッシュなキャラ造形にはひたすら感動でした。 問題点を挙げるとすれば、マックスが大してマッドではなかったことでしょうか。「善vs悪」という構図ではなく、毒を盛って毒を制すという物語にした方が、マッドマックスらしかったのではないかと思います。
[映画館(字幕)] 8点(2015-06-21 02:57:46)(良:1票)
7.  マーリー/世界一おバカな犬が教えてくれたこと
普段はヴァンダムとかスタローンばかり観ている私ですが、「たまには家族で見られる映画も借りてきてよ」と嫁に言われたので、ゲオで何気なくレンタル。子犬の可愛さを全面に押し出したジャケットと女性受けを狙った邦題から、事前には『ベートーベン』や『101』のような「犬さえ出しとけばOKなんだろ映画」だと思っていたのですが、意外や意外、これが犬のいる生活を丁寧に描いた良作でした。ラスト15分では涙腺から涙を搾り取られます。家族の前なので泣くまいと思ってたんですけど、どうしても堪えることができずに号泣。さらには、寝る前に映画の内容を思い出してまた号泣。本作の感動は、もはや暴力的とも言える領域に達しています。。。 原作はコラムニストが自身の経験をまとめたエッセイであり、基本的に実話ベースなので話のリアリティが違います。犬を飼った経験のある方であれば、身に覚えのあるエピソードの連続なのです。特に、わが家は作者と非常に酷似した歴史を歩んでいるので、他人事とは思えないほどでした。子供と犬の両方が騒ぎ出して手が付けられなくなった時に、「犬なんて飼うべきじゃなかったのよ!」と絶叫する嫁。うちでもまったく同じ光景が繰り広げられています。。。 映画化に際しての脚色では、犬に擦り寄りすぎない姿勢が好印象でした。映画の中心にあるのはあくまで主人公の人生であり、その人生において仕事の重要度が高い時期には仕事の描写を、子供の重要度が高い時期には子供の描写をと、必ずしも犬ばかりが描かれているわけではありません。さらには、子供と犬との触れ合いというビジュアル的に美味しい部分は、本作にはほとんど登場しません。なぜなら、子供と犬が遊んでいる時間には主人公は会社にいるので、その光景を見ていないから。そんな当たり前のことを貫き通し、安易なウケを狙わなかったことが、本作に動物映画を越える深みを与えています。。。 ただし、映画の視点が固定されすぎていることが凶と出ている面もあります。ヒステリックに怒ってばかりの奥さんが悪役に近いポジションになっているし(女性には女性の言い分があるでしょう)、長男が犬に対して寄せる思いも伝わってきません。そもそもの問題として、どストライクな私以外の観客・視聴者が、どれだけ感情移入できるのかは不明だし。本作には、あとわずかな客観性が必要だったと思います。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2013-07-08 22:37:36)(良:1票)
8.  マーターズ(2007) 《ネタバレ》 
最近観たジェシカ・ビール主演の『トールマン』が、映画としての出来はイマイチだったもののその構成には目を見張るものがあったため、パスカル・ロジェ監督の作品を後追いして本作に辿り付きました。『トールマン』があの出来だったので大した期待も気負いもなく本作を見始めたのですが、そんな腑抜けた鑑賞姿勢に冷水をぶっかけられるかのような凄まじい鬼畜ぶりには参りました。あまりに気分が悪くなったので、点数としては1点でもくれてやろうかと思ったほどです。しかし、よくよく考えてみれば「人を不快にさせる」という点において本作は極めて優れたホラー映画であると言えます。撮影や特殊メイク等技術面でのレベルも高く、二転三転する構成も考え抜かれており、映画としてはメチャクチャによく出来ているのです。個人的な意見としては二度と観たくない作品ではあるものの、客観的には傑作だと言えます。。。 冒頭、子供達を写し出す8mmフィルムの何とも言えない気持ちの悪さが本作の特徴をよく象徴しているのですが、全体に漂う湿っぽい空気感、一片の救いもない絶望感が作品全体の不快度数を大幅に引き上げています。後半の展開なんて、ハリウッドであれば主人公の脱出計画やら外部からの救援やらを織り込むことで娯楽性を含ませるであろうパートなのですが、本作ではそうした装飾が一切排除されており、主人公は黙って拷問を受け入れるのみという何ともあんまりな内容とされています。その他にも、地下室で発見された女性がどうやっても救われない状態であったり、監視員達は一切の感情を挟まずに淡々と拷問をこなしていたりと、設定のあらゆる点において鬼畜ぶりが徹底されています。死後の世界を知りたいが、自分達が痛い思いをするのはイヤだからと若い人間をさらって拷問している年寄り連中なんて、まさにゲスの極み。フィクションだと分かっていても、思い出すだけで怒りがわきます。観る者の神経を逆撫でするという点において、本作は芸術的ですらあります。。。 なお、多くのレビュワー様が、この監督はホンモノのキ○ガイではないかと危惧されているようですが、この点については、監督の前作『Mother/マザー』があまりに地味でほとんど注目を浴びなかったことへの反省から、本作では意識してスプラッタを過剰にしたとのことであり、これは意図した鬼畜であることは申し上げておきます。
[DVD(字幕)] 8点(2013-04-07 04:08:48)
9.  マトリックス 《ネタバレ》 
公開当時、一方には本作の斬新さに対する称賛があって、もう一方には既存の要素をシャッフルしただけじゃないかという批判がありました。現在になってあらためて鑑賞すると確かに本作のテーマは目新しいものではないのですが、哲学的なテーマを娯楽アクションでやろうとした試みは非常に斬新であり、かつこの試みを成功させてしまったウォシャウスキー兄弟の監督及び脚本家としての能力の高さは並外れています。それまでの映画界では、一方に「スターウォーズ」のような娯楽大作があって、もう一方に「2001年宇宙の旅」のような難解な作品があって、これらは水と油だったわけですが、「マトリックス」は難解さと面白さの融合を成功させてしまったわけです。また、きちんと作り込めば難解なテーマであっても観客は付いてくることを本作が証明し、ハリウッドのマーケット観や意思決定のあり方も大きく変えてしまいました。もし本作がなければ、ノーラン版バットマンなどは登場していなかったでしょう。とにかく脚本の完成度が高く、「信仰と哲学」という難解なテーマを一般の観客にも分かる形で提示し、かつそれを刺激的なビジュアルと燃えるアクションに絡めて物語を構築しています。隠喩に満ちたセリフは禅問答のようで一見すると不親切なのですが、一般の観客が付いて来られるギリギリのところで難解さを留めておいたサジ加減は絶妙であり、理解可能な節度を保ちつつ観客に考える喜びを与えたという意味では最高のサービス精神が感じられます。また、アクション映画としても本作の脚本は際立っています。象徴的なのがエージェントの扱いで、「エージェントは圧倒的に強く、もし彼らと鉢合わせると殺される」というセリフがしつこい程に繰り返されるおかげで、エージェントが登場するだけで画面に緊張感が漂います。ネオを逃がすためエージェントに挑んだモーフィアスの自己犠牲も、エージェント・スミスとの戦いを決意したネオの確信も、クライマックスのチェイスの緊張感も、「エージェントに追いつかれる=死」という擦り込みが徹底されていたからこそ、それぞれの意味が際立つ形となっています。一方で、公開当時絶賛されたビジュアルについては、現在見返すと多少のアラが気になります。ネブカデネザル号や人体発電所のCGは本編から浮いてしまっているし、カンフーやワイヤーアクションは役者が慣れていないためかヘタクソです。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2010-08-07 02:20:57)(良:1票)
10.  マイアミ・バイス
テレビシリーズは未見なのですが、この映画版は刑事アクションのひとつの究極形とも言える仕上がりとなっています。フェラーリを乗り回し、「ちょっと飲みに行く」と言って自前の高速艇でキューバのバーまで行き、プロのパイロット以上の腕前で飛行機を操縦するというありえない刑事達が、海外にまで出張して大活躍という無茶苦茶な話なのですが、これを徹底的にカッコよく、バカっぽくなく作ってみせています。「バッド・ボーイズ」や「リーサル・ウェポン」の下地を持ちながら、これを「ヒート」や「コラテラル」のような印象の作品に変えてしまっており、荒唐無稽な刑事アクションを極限まで煮詰めた結果が本作だと言えます。プロの男達を描かせればいつもながらのマイケル・マン節全開で、少ない言葉で状況を理解し、グダグダ悩まず即座に物事を決断するカッコいい男達で溢れています。主演のコリン・ファレル、ジェイミー・フォックスはもちろんのこと(コリンはやたら太っている場面がいくつかあったのが気になりましたが)、敵キャラも状況判断に優れていて、生きるか死ぬかの世界で勝ち抜いてきた男達にきちんと見えています。さらには、コリンとジェイミーの上司にあたる小林亜星みたいな太ったおっさんまでがカッコいいのですから、相変わらずマイケル・マンはプロの男を描かせると最高の仕事をします。銃火器へのこだわり、銃撃シーンでのリアリティの追求も相変わらずで、麻薬取引の現場では後方にスナイパーを待機させておき、いざ撃ち合いになった場合には圧倒的優位をとるという犯罪組織側の戦略はなかなか合理的。さらに、スナイパーがバカでかい口径の銃を撃ち込むと、弾が当たった人間はバラバラに砕け散るという現実的な描写もあり、過去の作品以上に銃の描写にはこだわりが見られます。おまけに俳優達は全員銃の構え方が様になっていて、わかってる監督が撮るとアクションはここまで引き締まるものかと感心します。脚本の練り込み方も良く、テレビシリーズと同様の構成にするためかアクションをラストの銃撃戦のみに絞っていて映画としては見せ場に欠けるのですが、見せ場を分散させなかったおかげで物語がラストの銃撃戦に向けて一直線に進んでおり、チームメンバーが誘拐されたところから一気に話のテンションが上がっていく辺りの高揚感はなかなかのものでした。ラストに至る物語もよく作り込んであって退屈させません。
[DVD(吹替)] 8点(2010-03-12 20:37:12)
11.  マイ・ボディガード(2004)
主人公が動き出す時には誘拐事件は終わっており、復讐のために闘うという変わった着眼点の作品ですが、圧倒的な殺人スキルでやりすぎなくらい暴れ回る主人公の姿には爽快感すら感じました。敵は子供の命を飯の種にし、権力を傘に法の追及を逃れるという汚い連中。こんな奴らは殺して当然、苦しみを味わわせて当然。「この事件に関わったやつ、甘い汁を吸ったやつは全員殺す」というデンゼルの処刑人宣言には燃えましたとも。この手の映画にありがちな「殺しはダメだ」などという薄甘い良識は一切なく、法で裁けない極悪人は殺すしかないという実に正直なバイオレンスとなっています。普段は人畜無害なアクション大作を撮りつつ、たまに「リベンジ」や「トゥルーロマンス」のようなウルトラバイオレンスを作ってしまうトニー・スコットの、ブラックな面がドバっと出ています。ただ血生臭いだけでなく、悪者の体内に仕込んだ爆弾のカウントダウンが画面に表示されるなど、「北斗の拳」かというような悪趣味な映像テクニック満載で飽きさせません。デンゼルの怒りに合わせてテロップの文字が変わるなど、映像でイメージを伝えることに長けたMTV出身ならではの強みも発揮。「ナチュラル・ボーン・キラーズ」でオリバー・ストーンがやろうとしていたバイオレンスと映像ギミックの融合を、スコットはより器用にやってのけています。またスコットのようなベテランが監督したことにより、直情的な話ながら丁寧に作るべき部分はきちんと作り込まれています。「心に傷を負ったボディガードと、それを癒す少女の触れ合い」というベタベタな前半部分を、安易な仕上がりにしていないのは見事なものです。俳優の動かし方もうまく、ダコタ・ファニングは出演作中最高の演技を見せており、またクリストファー・ウォーケン、ミッキー・ロークの使い方も完璧です。上映時間から予想していた長さもさほど感じず、バイオレンス映画としてはかなり上質な部類の作品だと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2009-07-18 14:06:57)
12.  マッドマックス2
女だろうがホモだろうがイヌだろうが容赦なくブチ殺す、暴走トレーラーのボンネットに落っことした弾を無理やりガキに拾いに行かせる、どう見ても人が乗ってる車が大破するなどなど、倫理観などおととい来やがれな激烈描写がメジャーには出せない隠し味。ここまで純粋なバイオレンス映画は、マッドマックス1&2以外には存在しないような気がします。これくらいやりきってしまえる一途さがあってこそ、数多くのフォロワーを生んだのでしょう。あとは、なんにもない砂漠にヘンな格好の人を登場させるだけで「ここは未来だ」と言い切ってしまうという、コロンブスの卵的なB級SF描写の発明もパクりやすさの原因のひとつ。「ブレードランナー」はムリでも「マッドマックス2」ならできそうな気がしますよ。未来が舞台なのに大袈裟なSF設定を用意しなかったのも大正解。この世界では人は暴走族かそれ以外かしかいないんですよ。「1」でマックスが所属していた警察ももはや存在せず、一方で暴走族は一大勢力となっている。このあたりに、この映画がいまだに全世界の若者のバイブルであり続ける理由の一端が垣間見えるような気がします。ちなみに私は「1」の方が好きです。女房、子供をブチ殺されるという激烈な展開と、マックスの死力を尽くした復讐劇がウルトラバイオレンスの真髄だと思いますね。「2」ではバイオレンス色よりもアクション色が強まっています。
8点(2004-09-18 00:38:51)(良:1票)
13.  マレーナ
思春期男子の心理をここまで克明に描いた映画って他にはないでしょ。女性のみなさま笑ってやってください。12歳くらいの男子ってのはあんなもんなんです。異性に死ぬほど興味があるのに、な~んにもできずにひたすら妄想に浸ると。なので、主人公の少年が徹底的に傍観者に徹したのは大正解。普通の映画なら、少年はマレーナに近付こうとするもんです。必死で思いを打ち明けようとするんだけど、子供だからと言って相手にされずに落ち込んだり、何かの事件をきっかけにマレーナと親しくなったり。普通の映画だったらそういう流れにするはずです。しかしこの映画においては、少年はマレーナに知られてすらいないわけです。そんな状況において、少しでも相手のことを知るだけで嫉妬や妄想にかられたり、道ですれ違うだけでドキドキしたりと、これぞ現実のリアリティー!中1の頃、中3の先輩に憧れてしょうがなかったみたいな感覚、「あの先輩には彼氏がいるってウワサなのに、それにひきかえ俺は授業中に情けなくウンコをガマンしてる単なるバカだ」的な少年の無力感が完璧に再現されています。こんな気持ちを味わえる映画なんて、他にはどこにもありませんよ。ジュゼッペおじさん、あんたうますぎ!そして、この少年の行動力がまた笑わせてくれるわけです。パンツかぶって寝るくだりなんて、腹抱えて笑いましたね。それでいて、後半ではキッチリと現実の重みを突きつけてきます。この辺りのバランスもいいと思いました。少年の成長物語としては、これ以上ないくらいの傑作だと思います。それからそれから、性に目覚めた息子に女を与えてくれるだなんて、イタリアのお父さんはわかっておいでだ。
8点(2004-08-31 04:10:03)(笑:1票) (良:3票)
14.  マリアンヌ
映画とは期待と満足度のバランスで決まると言われていますが、本作はまさにその典型。 ブラピにゼメキスという10年以上前に旬を過ぎた看板に、大作要素を微塵も感じさせない地味な宣伝と、積極的に映画館で見たいと思わせるような作品ではないものの、何となく見始めると2時間がアッという間に終わり、鑑賞後には良い印象が残ります。上手な監督、上手な脚本家、見栄えのする俳優が集まって作った映画は、やっぱりよく出来ていると思いました。 ただし突出した点もないので、数日経つと良かった点も思い出せないという、そんな映画。
[インターネット(吹替)] 7点(2017-10-14 01:38:24)
15.  マグニフィセント・セブン 《ネタバレ》 
アントワン・フークアは面白い映画も撮るが、それ以上に駄作も撮る監督であり、企画そのものの良否に相当左右される監督さんなんだろうと思っているのですが、それでもデンゼル・ワシントンと組んだ時のフークアは強い。しかもイーサン・ホークも合流で『トレーニング・デイ』のトリオが15年ぶりに結集したのだから、これは鉄板。きっちり面白かったです。キャラ立ちした7人の豪快さだったり、ぶっ殺してやりたいと心から願うほどの敵方の悪徳ぶりだったりと、西部劇に必要な要素がちゃんとぶち込まれているのです。本当に楽しめました。 ガトリング銃の異常な万能ぶりとか、スナイパー2名はファラデーの援護ではなくガトリング銃の射手を狙えばよかったんじゃないかとか、ナイフ・弓・斧の名手をメンバーに入れたにも関わらず、結局全員が銃で戦うんかいとか、戦闘にはいくつかツッコミどころもありましたが、そうした細かい問題を気にさせないほどの勢いがあって、少なくとも2時間は熱くさせてくれました。  ■ここからは、本作にとってのおじいさん的存在である『七人の侍』と比較した評価です。フークアは2004年の『キング・アーサー』でも『七人の侍』の真似事をしようとして失敗していましたが、本作でも集団アクションの面白さを追及することには失敗しています。具体的な文句は以下の通り。  この手の集団アクションには、組織論的な要素が不可欠です。強い個性を持つ人間を束ね、ひとつの方向に仕向けていくという過程こそが大きな見どころなのですが、本作ではそうした要素がほぼ皆無となっている点が残念でした。チザム以外の6人が命がけの仕事を引き受けた背景がよく分からないし、メンバー間の衝突というこの手の作品での恒例イベントも起こらないため、ちょっと味気ないなと思いました。 さらには、鉱山労働者や一般住民を3日で戦力に仕立て上げなければならないという課題についても、問題提起のみでそのプロセスが大幅に切り捨てられており、結局、射撃のうまい奴がいない問題はどうやって解決したんだよって感じでした。 組織面に関するツッコミの甘さは敵方も同じくで、ボーグ軍団は金で雇われた人間で構成されており、基本、雇い主のために捨て身になることはない組織であるはず。だとすれば、楽勝できると思われた相手から予想外の反撃を受け、命がけの戦いを挑まねばならないと分かった時点で組織内に動揺が走り、「金はいらねぇ」とか言って離脱する者が現れてもよかったし、その本気度の違いこそが住民側の勝機となるべきだったのですが、そうした「この立場の人だったら、きっとこう考えるだろう」というあるべき当然の反応が描かれていないために、モブはモブに徹するという残念なことになっています。 さらに、戦いの佳境では敵味方の区別なくガトリング銃での無差別攻撃がなされますが、味方に背後からガトリング銃で撃たれてもなおボーグのために戦い続ける手下達って一体どんな神経してるんだろうかと、この点の詰めの甘さにもガッカリでした。ガトリング掃射で一時的にボーグが優位に立ったが、強引な作戦によって手勢の大半が彼の元を離れたために、ガトリングを潰されると一気に劣勢に立たされるなどの展開であれば、より自然だったのですが。 チザムとボーグの組織作りの違いから入って、何が勝敗を分けたのかという視点で全体を構築すれば面白くなったはずなのに、結局「正義は勝つ」という伝統芸能に終わってしまってるんですよね。西部劇の伝統なんだからそれはそれで結構なんですが、わざわざ21世紀にリメイクした意義として、そこに現代的なアプローチを加えてもよかったのではないかと思います。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2017-08-14 13:54:42)(良:1票)
16.  マネーモンスター 《ネタバレ》 
ジョディ・フォスター、ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツというハリウッドの意識高い系が揃って参加しているだけに重厚な社会派サスペンスを予想していたのですが、実際にはフットワークの軽いコンパクトな犯罪ドラマでした。 本作で驚いたのはジョディ・フォスターの演出力や構成力の高さであり、実にうまくドラマが流れています。主要登場人物の紹介や人となりの説明を冒頭10分で簡潔に終わらせるとすぐに事件発生という手際の良さ。また、被害者と加害者から協力者へという主人公二人の関係性の変化も極めて自然であり、そこに違和感はありませんでした。リーが自身とカイルの幸福度をスコアー化し、金を持っていることが必ずしも幸福には繋がっていないという事実を突いたり、カイルが奥さんにこっぴどく叱られたりといった象徴的なイベントがうまく挿入されているため、語り口に説得力があるのです。 またサスペンスの構図もうまく作られています。小市民に過ぎないカイルではリーを撃てないことは誰の目にも明らかであるため、代わってリーの救出よりも爆弾解除を優先したい警察のスナイパーがリーの懐にある起爆装置を狙っているという設定を置いています。「リーは重傷を負うけど心臓には当たらない位置に撃つから、すぐに蘇生すれば大丈夫だと思う」などと怖い計画を立てているわけです。これにより、いつ発砲されるか分からないというサスペンスを作り出しており、うまく考えられた設定だと感心しました。 問題点は、鑑賞後に何も残らないということ。前述した幸福度のスコアー化や、大企業の資金運用の杜撰さなど、何か深いことを言おうとはしているものの、そのどれもが観客の思考や人生観に影響を与えるレベルにまでは昇華されていないのです。この辺りがもっと鋭く尖っていれば社会派サスペンスの秀作になった可能性もあっただけに、やや中途半端に終わった点は残念でした。 他方、衝動的で子供っぽいリーの後ろにはしっかり者のパティがいたり、愚かなカイルが奥さんに叱られたり、運用で大赤字を出したうえに隠蔽したアイビス社CEOの不正を女性幹部が暴いたりと、劣った男と賢い女という図式が全編に渡って繰り返し示される点は、ややしつこいかなと思いました。この点については、監督の個人的な志向が表に出すぎているように感じます。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2017-01-12 20:07:48)(良:2票)
17.  マニアック(2012) 《ネタバレ》 
母親の影響によりセクシュアリティを歪められたシリアルキラーという、当ジャンルの開祖である『サイコ』以来のド定番ネタ。さらには、高嶺の花に惚れたが、そもそも脈のない相手であるということが理解できずに夢ばかりが膨らんだ結果として失恋の衝撃も大きくなり、そもそも壊れ気味だった人格が余計に崩壊するという、コミュ障ものの金字塔『タクシードライバー』以来のド定番展開。2つの定番がきっちり詰め込まれた安定した作風であり、さらには短い上映時間で余計な要素も少なく、私はきっちり楽しめました。 子役上がり特有の童顔で、歳を重ねるほどに合う役柄がなくなってきている。しかもハゲてきちゃってて、見た目のバランスがおかしなことになっている。このままでは俳優としての将来はないねという状況にあって、イライジャ・ウッドは本作でかなり思い切った振り切り方をしています。青白い顔に生気のない目、イっちゃってる人役を完全にモノにしており、彼の演技だけで90分はもっています。また、吹替え版では浪川大輔さんが主人公役をやっているのですが、終始主人公視点という本作のルックスにおいては声も重要な要素であり、その点、フロド役と同じ声でぶっ壊れた主人公をやられるもんだから、衝撃はさらに倍増。そもそもの浪川さんの上手さもあって、吹替え版はかなり最高な出来となっています。
[DVD(吹替)] 7点(2016-12-26 19:05:53)
18.  マシニスト 《ネタバレ》 
脳内オチ系の話であることは冒頭から察しが付くのですが、監督もそこを隠すつもりはなく、観客にあらゆる点を疑ってかかられることを想定して全体が組み立てられています。オチを隠そう隠そうとして失敗する作品が多い中で、本作はある程度の割り切りのもとで作られているため、作り手と観客との間での温度感の差ができていません。これは見事な判断だったと思います。 虚構と現実の混ぜ方がよく、観客の先読みをうまく利用して仕掛けを作っています。例えば、主人公を取り巻く女性たちの扱い。本作には2人の女性が登場しますが、この手の作品を見慣れている観客ほど、主人公と二人っきりでの登場場面しかないスティービーを妄想の産物であると疑うのではないでしょうか。ネタが割れてしまうと、スティービーは物語の真相とは無関係なデコイであることが分かるのですが、そこにジェニファー・ジェイソン・リーをキャスティングし、ヌードまで披露させて何かしら重要なキャラクターであると錯覚させた辺りの騙し方はうまいものだと思いました。 細かい点では、何気ない日用品に現実と妄想との間の橋渡しの役割をさせている点も興味深く感じました。例えば冷蔵庫。あれだけガリガリに痩せたトレバーはこの1年まともな食事をとっていないことが推測され、ならばあの冷蔵庫は1年間ほとんど開かれていないはず。トレバーの生活において冷蔵庫はタイムカプセルのような役割を果たしており、その中には彼の妄想の源流となる何かが詰まっていると見せかけているのです。観客の深層心理においても、しばらく開けていない冷蔵庫には底知れない気味の悪さがあります。外食が続いた後で久しぶりに冷蔵庫を開くとカビの生えたごはんですよが出てくるような経験は誰もが身に覚えがあるだけに、開けてみたいけど、中にはとんでもなく怖い過去の遺物が眠っていそうで開けたくない、できればフタをしたままにしておきたいというトレバーの心境とうまくシンクロさせています。 そんなミスディレクションの一方で、妄想に入る前には主人公がうたた寝をしかける描写を毎回きちんと入れており、演出面でインチキをしていない点が好印象でした。物語は一定の法則性の中で描かれており、すべてのピースがきちんと嵌るように作られています。監督は自分自身に制約をかけて「なんでもアリ」を許していないため、見終わった後にも納得感の高い作品となっているのです。
[DVD(吹替)] 7点(2016-01-26 16:22:12)(良:1票)
19.  MUD -マッド- 《ネタバレ》 
本作の紹介にあたっては『スタンド・バイ・ミー』がしばしば引き合いに出されますが、その含蓄の深さは名作『スタンド~』をも凌駕しています。まず、少年のひと夏の冒険物語があって、その周りに男女関係の難しさへの考察があって、さらにその外側には普遍的な人生哲学がある。噛めば噛むほど味の出る、多層構造の素晴らしいドラマです。。。 主人公・エリスの両親は離婚寸前の状態にあり、もし離婚すれば、住み慣れた家は取り壊されてしまう。傍から見ればボロ家であっても、エリスにとっては思い出の詰まった大事な我が家です。また、マッドの求めに応じてエリスは他人の敷地に放置されていたボートのエンジンを盗み出します。エリスにとっては盗んでも問題のないガラクタにしか見えなかったそのエンジンも、所有者にとっては大切な生活の糧であったことが後に判明します。人は、それぞれ大事なものを抱えて生きており、それは他人の価値観では測りきれない場合もあるのです。。。 しかし、大事なものに執着し続けると、その人は壊れてしまう。過去を捨てられなかったトムおじさんは変人となり、マッドは人殺しになりました。また、マッドへの復讐に固執しすぎた被害者の父親は、もう一人の息子までを失ってしまいました。人生を進めるためには、何かを捨てねばならないのです。ラスト、エリスは住み慣れた家の取り壊しを見届け、親友と父に別れを告げて、母の待つ知らない土地へと旅立ちます。エリスにとってはまったく不本意な展開ですが、到着した新居では近所の美少女に挨拶されて、ちょいとテンションが上がります。愛着ある古いものを捨てることは辛くて苦しいが、その先に待つ変化には良いことだって含まれているのです。。。 以上の趣旨は素晴らしいのですが、前作『テイク・シェルター』と同じく、この監督さんの演出はひとつひとつのシーンが微妙に長いため、全体としては間延びして感じられるのが難点でした。あと、絶対何かやらかすだろうと思ってた悪人顔のマイケル・シャノンが、最後まで何もしなかったという点にも、妙にガッカリさせられました笑。「人生とは何かを捨てることだ」というテーマの本作において、川底のゴミを拾うことで生計を立てる彼の役どころには何らかの意味があると思ったんですけどね。そして最後に、TSUTAYA傘下のアーススターエンターテイメントによるDVDの画質・音質は何とかならんもんですかね。 
[DVD(吹替)] 7点(2014-08-06 19:58:06)(良:1票)
20.  マネーボール
オスカー大量ノミネートも納得の仕上がりで、欠点らしい欠点がないほどよくできた映画でした。この映画がうまかったのは野球映画として作られていないところで、変革者の苦悩や人生における決断の重要性といった普遍的なテーマを中心に扱っているおかげで、間口の広い映画となっています。野球をまったく観ない方でも楽しめるのではないでしょうか。。。 本作が興味深いのは、スターの存在を否定するマネーボール理論とは正反対の方法論で製作されていること。なんせ、主演は世界一のスターであるブラッド・ピットですからね。脚本は、これまたハリウッド一の脚本家であるスティーブン・ザイリアン。金満ディノ・デ・ラウレンティスをして「ザイリアンは良い仕事をしてくれるが、その分ギャラが高い。本当に高い」と言わしめたスター脚本家が本作を手掛けているわけです。監督は『カポーティ』のベネット・ミラーが担当していますが、当初は、これまたスター監督であるスティーブン・ソダーバーグが予定されていました。マネーボール理論を扱った本作が、マネーボール理論の根本的な発想を否定しているという構図は非常に興味深いと思いました。
[DVD(吹替)] 7点(2012-06-28 00:27:14)(良:1票)
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