Menu
 > レビュワー
 > かっぱ堰 さんの口コミ一覧。22ページ目
かっぱ堰さんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1246
性別 男性
自己紹介 【名前】「くるきまき」(Kurkimäki)を10年近く使いましたが変な名前だったので捨てました。
【文章】感想文を書いています。できる限り作り手の意図をくみ取ろうとしています。また、わざわざ見るからにはなるべく面白がろうとしています。
【点数】基本的に個人的な好き嫌いで付けています。
5点が標準点で、悪くないが特にいいとも思わない、または可も不可もあって相殺しているもの、素人目にも出来がよくないがいいところのある映画の最高点、嫌悪する映画の最高点と、感情問題としては0だが外見的に角が立たないよう標準点にしたものです。6点以上は好意的、4点以下は否定的です。
また0点は、特に事情があって採点放棄したもの、あるいは憎しみや怒りなどで効用が0以下になっているものです。

表示切替メニュー
レビュー関連 レビュー表示
レビュー表示(投票数)
その他レビュー表示
その他投稿関連 名セリフ・名シーン・小ネタ表示
キャスト・スタッフ名言表示
あらすじ・プロフィール表示
統計関連 製作国別レビュー統計
年代別レビュー統計
好みチェック 好みが近いレビュワー一覧
好みが近いレビュワーより抜粋したお勧め作品一覧
要望関連 作品新規登録 / 変更 要望表示
人物新規登録 / 変更 要望表示
(登録済)作品新規登録表示
(登録済)人物新規登録表示
予約データ 表示
【製作年 : 2010年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
評価順1234567891011121314151617181920
2122232425262728293031323334
投稿日付順1234567891011121314151617181920
2122232425262728293031323334
変更日付順1234567891011121314151617181920
2122232425262728293031323334
>> カレンダー表示
>> 通常表示
421.  心が叫びたがってるんだ。(2017) 《ネタバレ》 
アニメ版は見たことがない。チケットカウンターで「ここさけ20:45からです」と言われてそういう略称だったのかと思った。 ここさけ初心者として率直に書くと、意外にも普通に感動的なお話だった。若年者の心情に密着し過ぎて部外者には共感しづらいのではと思っていたが、実際は対象年齢以上にも広く受け入れられそうな普遍性が感じられる。また殊更に人の暗黒面を見せつけるタイプのものでもなく、人間の善性を信頼した物語のようで安心させられる。 なんで突然ミュージカル?とは一応思うわけだが実際やれば当然感動的で、特に2つの旋律にそれぞれの言葉を乗せて重ねる趣向は非常によかった。恋愛感情も絡んで来るがあまり生々しくもなく、物語を進める原動力になった後は一定の整理をつけて未来につなぐ形になっていたのは清々しい。最後に観客みんなが笑顔になるようなものにしたい、というような感じのことを劇中人物が言っていたのは正解である。 全体的には都合良すぎのようでもあり、また細かく見れば説明不足だとか意味不明に思われるところもなくはなかったが、あまり気にならない範囲でうまくまとめてあるようには見えた。アニメ版と雰囲気などの違いがあるかは後で確認したい。  ほかキャストもなかなかいい感じで、芳根京子という人は高校生というには少し年齢が上に見えたが、いかにもアニメ少女っぽい挙動とか“つぶらな瞳”感のある目などはよかった。また石井杏奈という人も親しみやすい顔を見せており、ダンスのような場面も一応入れてある。端役ながら見覚えのある金澤美穂・萩原みのりといった人々が出ていたのも個人的に嬉しい。また成瀬順の幼少時の子役(平尾菜々花)が上手すぎて、父親が呪いの言葉を吐きたくなる気分が大変よくわかった。父親にまで共感してしまった。
[映画館(邦画)] 7点(2017-08-12 18:59:18)(良:2票)
422.  シンデレラゲーム 《ネタバレ》 
山谷花純さんの初主演映画ということで見た。大きな目が特徴的で怖い顔を見せることもある人だが、個人的には困惑したような表情が好きだったりする。またこの映画では京都出身の人(演・吉田明加/Chu-Zオレンジ担当ミク)もなかなかいいキャラクターになっている。 スタッフとしては、監督は違うが企画・製作その他に「人狼ゲーム」シリーズの関係者が関わっているようで、中身も要はそういう感じの映画だが、登場人物がアイドルばかりのため人間一般というより芸能人の人間模様になっている。残虐場面を面白がるタイプの映画ではないが、劇中の売れないアイドルを貶めて笑って観客が相対的な優越感に浸る効果はあるのかも知れない。  テーマ的には結局何が言いたいのかわからなかったが、メイキングで主演女優が、自分の本当に大切なものは何かを考えるきっかけにしてもらいたい、と言ったのを聞いて、えっそういう映画だったんですかと言いたくなった。主人公役の本物の芸能人がそのように言うからには、肉親を死に追いやってでも任期1年再任なしのトップアイドルの座に生命を賭けるのが本当に大切だ、というかのようで、これはもう一般人にはとてもついて行けない世界になっている。 それではさすがに変なのでやむなく原作を読むと(結構厚い本だ)、原作通りであれば確かに主演女優の発言も理解できなくはない。要は基本路線が原作と同じで内容は表現し切れなかったということだろうが、特に個人的には、映画の主人公が否応なしに変節を強いられて終わったように見えたのが不快だった。最後に主人公の真の主体性が求められる形であればよかったがと思う。  そういうことで不満足感のある映画だったが、点数としては前記の両人と、見覚えのある佐々木萌詠さん(リーダー/涼夏さん)を含めた3人に大盛り気味にポイントを入れておく。役に立たないだろうがファンからの応援のようなものということで。 ちなみに劇中の桃園りん【りりぱっと★学園】の演者もメイキングに出ていたが、自身のイメージ低下を恐れもせずにこういう役をやっておいて悪びれることもないというのでは、本当にこの業界ではこれが当たり前のようで空恐ろしい(他人事だが)。
[DVD(邦画)] 4点(2017-08-04 18:57:55)
423.  陽炎の辻 完結編 ~居眠り磐音 江戸双紙~ <TVM> 《ネタバレ》 
時代小説シリーズ「居眠り磐音 江戸双紙」を原作として、2007~2009年にNHKが放送した連続TVドラマの特別編である。前回の特別編はTVシリーズの締めくくりとして放送されたものだったが、原作小説はその後も2016年まで続いて完結したことから、その最終状態を反映した「完結編」をTVでも製作したという形らしい。なお自分としては原作・TVとも未見である。 前回の特別編から7年になるがシリーズ開始からだと10年になり、その間に役者もみな10歳年を取ったことになる。劇中人物としても落ち着きが増しているように見えたが、特に前回は新婚半年だった主人公に子ができたことで、この主人公とその他の登場人物を含めた親子の情愛が大きく扱われ、これが今回のテーマにつながっていたようである。今回初出のキャストとしてはその息子が存在感を見せているほか、レギュラーの娘役で優希美青さんという人が出ており、ルーズな父親に厳しいしっかり者を演じていた。  今回は完結編とのことで、これまで因縁のあった田沼意次のほか、松平定信が顔出しで登場するため話のスケールが大きくなっている。大まかにいえば田沼が悪玉、定信が善玉だが、両者それぞれに善悪もあり理想もあり、欠けた部分や未熟な部分もあって単純な勧善懲悪にはなっていない。 田沼と主人公が対面する場面は2回あったがいずれも結構な緊張感があり、特に田沼の心情が顔に出るのが見どころである。主人公は前にも増して抑制の効いた人物に見えたが、定信の側近を𠮟りつけた場面だけはどうやらボロが出たということらしい。この場面で主人公の真意をどこまで勘繰ればいいのかよくわからなかったが、ここだけ言葉が乱暴なのは内心の弱みを突かれた形だったからかも知れない。 ちなみに個人的感覚としては、刃傷沙汰の張本人が事後にニヤリと笑ったのは痛快だった。その後の庶民の無責任な噂話も可笑しい。  そのほか見せ場としての剣劇も当然あるが、それより人の心をじっくり見せようとするドラマになっており、特に今回はいわば“青年期の終わり”を感じさせるものだったように思われる。本編ファンがどう思うかはわからないが、個人的には「完結編」にふさわしい内容になっていた気がした。
[DVD(邦画)] 7点(2017-07-19 00:02:17)
424.  陽炎の辻 ~居眠り磐音 江戸双紙~スペシャル 海の母 <TVM> 《ネタバレ》 
時代小説シリーズ「居眠り磐音 江戸双紙」を原作として、2007~2009年にNHKが放送した連続TVドラマの特別編である。それまで3年3期にわたったTVシリーズの最後をこの特別編で締めくくるということだったらしく、原作小説はこの後もまだ続いていたが、TVの方は主人公が所帯を持って地位も安定したように見えたところで一旦終了にしたようである。 自分としては原作・TVとも未見だが、今回見ると主人公はなかなかの好人物で、少々ご立派すぎるのがかえってマイナスかという感じである。長屋の衆など番組レギュラーの近況を一応紹介する場面もあったが、ちなみに本編ではもう少し存在感のある人物だったはずのお有(演・海老瀬はな)という人が、この特別編では顔出しだけで終わっていたのは個人的に残念だった。  今回のメインになるのは13歳の少年が御家存続のために仇討ちをするエピソードである。真の悪人はいないにもかかわらず結果的に人は死ぬという展開だが、武家の論理を理不尽なものとして否定するということでもなく、この時代なりの社会の厳しさに年若い少年を直面させて成長を促す話だったように取れる。登場人物の思いの絡み方が結構複雑なのは原作由来だろうが、母とか祖父とか幼馴染とかの様々な心情を見せることで視聴者が共感できるポイントを各種用意していたように見える。 なお今回は話のかなりの部分が江戸を離れて房総半島で展開しており、上総上湯江(千葉県君津市上湯江)、安房北条(千葉県館山市北条)といった実在の地名が出る。ただし北条湊の場面は岩手県大船渡市で撮影したとのことで、リアス式海岸のため房総半島にしては風景が狭苦しかったりする。港湾施設で突然仇討ちが始まったのは周囲の迷惑だろうが、野次馬で見ていた町民は本気の真剣勝負を間近に見て度肝を抜かれたのではと思ったりした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-07-19 00:00:42)
425.  メリーさんの電話 《ネタバレ》 
「ムラサキカガミ」(2010)に続く紗綾(さあや)の主演ホラー2作目で、今回はAKB48の菊地あやかとのダブル主演という名目だが、実質的には紗綾の行動が主軸である。登場人物が女子だけなのは1作目と同じで、今回は微妙に男子向けサービスと思われる場面もあったのは前回の反省かも知れないが苦笑した。 題名の都市伝説に関しては、本物は冒頭(と最後?)に出るだけで、ほとんどは映画独自の話に変えられている。ホラー要素にオリジナリティが感じられず、設定やストーリーも緩い感じなのは前回同様だが、肩透かしながらも微妙に怖い画面づくりがされており、意図的ミスリード?ともいえる箇所があったりするのは低予算なりの工夫とも思われる。登場人物が暗くて怖いところへ入る際、普通のホラーであれば怖がらせのために暗くしたままにするところ、あえて電気を点けていたのは一般常識に合わせた感じで好印象だった。それからクライマックスで、前回に続いてまた便所に逃げ込むのかと思わせておいてからの展開は意表をついていた(笑)。  ところで劇中では、誰でも知っている有名な交霊術の名前をわざわざ変えて使っていたが、これは撮影中に本当に交霊術をやってしまうのを避けるためだとすれば良心的な対応と考えられる。また凶兆におびえた友人が思わず不吉なことを口にするのを主人公が諌める場面があったが、こういう不用意な連中が人心を不安に陥れ、あるいは自ら墓穴を掘るようなことをやらかすのに対して警告を発しているようなのも理性的に見える。特に今回は、主人公が前回同様に怖がりな性格ながらもしっかりした人物だったことで、“正しく怖がるのを恥じることはない”という若年者への教育的配慮が感じられる映画になっていた。 ただその割に、登場人物が芝居がかった調子で延々と昔語りをする場面があったりするので、そういうことを現場で口に出すのは自ら災難を呼び寄せるようなものだからやめろと言いたくなるが、まあこの語り自体は前回に続いての定例行事と理解した方がいいのかも知れない。何にせよ前回同様の実直な印象で個人的には結構好きだ。前回と共通のエンディングテーマも悪くない。  ちなみに冒頭のタイトルが無粋な感じの明朝体になっているのは、自分としては1968年のTV番組「怪奇大作戦」の第4話「恐怖の電話」を連想させるものがあったが、意識してやっていたのかはわからない。
[DVD(邦画)] 5点(2017-07-10 21:03:18)
426.  ムラサキカガミ 《ネタバレ》 
主演の紗綾(さあや)という人は結構いろんな映画で目にするので(主にホラーだが)、この映画が初主演というのは少し意外だった。本業はグラビアアイドルだったはずだが、終盤でおののく表情など見てもちゃんと役者の顔で熱演しているように見える。 女子しか出ないホラーとのことだが実際かなり地味な感じで、高校のテニス部であるのに季節柄ということなのか露出も少なく、屋内の場面も含めて男子向けサービスがほとんど皆無である。興行的にこういう作りでよかったのか疑問だが、自分としてはかえって真面目な映画に見えて好印象だった。 劇中の出来事は題名の都市伝説の通りでは全くないが、もとのままでは映画にならないので鏡が出る他の都市伝説の要素を取り入れて勝手に作ったものと思われる。既存のホラー要素の組み合わせが基本のようで独自性はほとんど感じられず、また特に前半は単なるこけおどしが多いが、それは低予算なりに全体的な緊張感を持続させるためとも思われる。終盤に出た生ゴミ集積所などは結構生々しい感じだった。  ストーリーとしては、何が起こったのかはよくわからないが一応真面目に考えると、まず鏡の中の人物はそもそも主人公のように感受性(共感力)が強く、従って怖がりな女子だけをターゲットにしていたと思われる。面白半分で来る連中は、そういう人物を強制的に連れて来る役割を果たすだけで、ほかは役に立たないので殺されるということではないか。 ここにあえて教訓的なものを求めるとすれば、①そもそも余計なことはするな ②やるなら他人を巻き込むな、ということだろう。やるならあくまで自己責任でと言いたいところだが、それができないのが女子高生ということか。そのほか序盤で、わざわざこの場で口にする話かというようなことを喜々としてしゃべっていた怪談マニアの教員が、最後に巻き添えを食っていたのも自業自得であり、これはなかなか道徳的な映画のようである。 派手なところは全くないが、低予算ながらも極めて実直な印象のあるホラーだった。
[DVD(邦画)] 5点(2017-07-10 20:59:51)
427.  バイロケーション 《ネタバレ》 
原作も一応読んだが、映画化に当たってはかなり手際よくまとめたようで、映画だけでも全体像はわかる。前宣伝ではラストが衝撃的とされていたようだが、実際は最後だけがひっくり返るような構造ではなく、徐々に観客の思い込みが覆されて自然にラストにつながる展開に見えた。結末が「表」「裏」の2種類あるのも基本的には肯定できる。ただ背景事情の省略のために最後までわからないこともあり、また御手洗という男は映画ではほとんど不要な人物になっている。 題名の現象に関しては、この映画で二重人格の実体化のような意味づけをされているのは原作を超えた趣向である。しかしそれだと本来は本体に統合するよう努めるのが筋ということになり、劇中で共存が理想というようなことを言っていたのは明らかに変である。物語中の状況ではやむを得ない発想だとしても、「裏」の最後の独白など聞くともう外部の常識が通用しない閉鎖世界ができてしまったようで、かなり独りよがりな印象になっていた。こういう変なところに踏み込まないで止めていた原作の方はまともである。 映像的な面では全般的に好印象だが、人や物が霧消する表現は少々安っぽい(演出上の意味のある場面はあったが)。キャストに関しては、まずは滝藤賢一氏が原作でも描写された凄みのある表情を見せている。また主演女優はこれまで可愛気がない人だと思っていたが、今回は女性的なところが前面に出ていたようで、特に結婚後の様子は可愛らしくも見えたのが意外だった。この映画で最もいいと思ったのは実はこの点である。また酒井若菜という人も嫌いでない(けっこう好きだ)。  なお冒頭の外国の場面は、19世紀のリヴォニア(現在のラトヴィア共和国)で起きたとされる事件の再現映像のようなものかも知れないが、仮にこの手の現象が実在するとすればこれ以前のはるか昔からあったはずで、現象自体が19世紀から発生し始めたかのように台詞で説明していたのは変である…オカルトの世界で話題になったのが19世紀のヨーロッパから、というならわかる。 ちなみにここでしゃべっていたのは何語なのか。リヴォニアの寄宿学校の事件とすればフランス語かドイツ語を使っていた可能性があるのでは。
[DVD(邦画)] 5点(2017-06-30 19:48:23)
428.  ゴメンナサイ 《ネタバレ》 
携帯サイト「魔法のiらんど」で公開されたケータイ小説を原作とした映画である。原作の全3章のうち前の2章分を映画化している。 この映画と同時期に、同じく携帯小説を原作として、同じ監督と同じ主演(鈴木愛理)で製作された「携帯彼女」(2011)とはなぜか出来が段違いで、実際それほど革新的でもなく超怖いわけでもないが、映像や音響面で結構いい感じを出している。主要キャストはアイドルながら結構シビアな役柄で、劇中人物の発言によれば「貞子versus鬼」だそうだが、特に黒羽さん役などはこれで本当にアイドルなのか(本当にこういう人なのではないか)と思わせるものがある。主演の人も前記の映画より少し大人っぽい美少女に見えて結構だ(ナレーションは下手)。ちなみに個人的にはアイドルに関心がないが、相楽樹さんが目立っていたのは嬉しい。 全体構成としては、本来のお話の外側にアイドル映画の枠組みをもう一つ被せておいて、その枠組みも最後にはぶち壊して虚構性を最大限に否定してみせる趣向は面白い(「ファンの人とか見るんだよ」という台詞が生々しい)。冒頭の作品紹介の際に主演の人の態度が変だったのも、後になればそういうことだったかと思わせる。  ところで参考までに書いておくと、自分が本来好む実話系怪談の世界でいえば、実話という触れ込みで読者に実害が及びそうな話を予告なしに読ませるのは、少なくとも商業作品では禁じ手と思われる(最近はそうでもないかも知れないが)。 この映画は実話ではなく「フェイクドキュメンタリー」だそうだが(厳密にはラストのみ?)、原作が携帯小説であり、著者の実体験を匂わせる作りになっていることから再現ドラマの趣がある。現実問題としては台詞にあったように呪いなど真に受ける警察もないわけだが、しかし同じく台詞にあったように、呪われていると本人に自覚させることで、いわば高感受性者には精神面で実害が及ぶ恐れもなくはない。そういう合理的観点からしても、何の警告もなしにこういう映画を多数の観客に見せることはしないのが無難なはずである。 そういう配慮もなかった結果、ネット上あるいは日常会話で若年者が垂れ流す無責任な話を大人が平気で映画化(その前段で書籍化)してしまった印象があり、映倫は通っても倫理面で問題があると思わざるを得ない。劇中でも若年者の思慮のなさを嘲るような台詞があり、そこまでわかってやっているのであればイノセントともいえない。原作もかなり毒気のある小説だが(ふりがなが必要な読者にこういうのを読ませるか?)、さらに映画では最後の章を除去してオープンな構造にしたこともあって、作り手の悪意さえ感じられる状態になってしまっている。 そういうことで点数としては抑えておく。本当は少しいい点を付けたかったが残念だ。  追記:主要キャストのうち嗣永桃子(ももち)という人は本日2017/6/30をもって芸能界引退とのことで、惜しまれつつも祝福されながらの引退らしいのは他人事ながら喜ばしい。15年間お疲れさまでした、これから頑張ってください。
[DVD(邦画)] 1点(2017-06-30 19:48:20)
429.  お兄チャンは戦場に行った!? 《ネタバレ》 
同じ監督の「沈まない三つの家」(2013)と同時に撮影されたもので、これだけが別の小編として編集されたとのことである。当然ながら同じ川が重要な舞台になっている。 導入部に刺激的な要素を持ってきているが(人体損壊・流血)、全体としては心温まる家族(兄妹)の物語である。当初は劇中の兄に同情もできずにこいつはバカかと突き放した気分だったが、そのうち事情があることもわかり、また何より妹が兄と観客の間を取り持ってくれているように感じられて、最終的にはこの兄に対する制作側の温かい視線にも共感できるようになる。結果的には最初の凶行も前向きな決断だったのだと納得した。妹の方は最後に何か変化があったのかどうかよくわからなかったが、次は妹の側が兄に背中を押されるような場面もありうるのかも知れない。 なお自作中に下世話なものを出すのがこの監督の特徴だが、今回は少し毛色の違ったものを出してきている。
[DVD(邦画)] 7点(2017-06-24 09:39:42)
430.  沈まない三つの家 《ネタバレ》 
「チチを撮りに」(2012)、「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016)と同じ監督の映画で、やはり家族がテーマだが雰囲気は同じでもない。いかにも人工的な世界を作り込むのかと思ったらそれほどでもなく、また一つひとつの場面に細かい意味を込めているようだがわざとらしさは感じない。意外に普通の感覚で見られる映画になっており、どちらかというと「琥珀色のキラキラ」(2008)に近い印象である。  この映画で川が意味するものはよくわからないが、文字通り水に流すということのほか、自然かつ否応なしに前に進めていくという意味か、また題名との関係からすれば浮かすということもあるかも知れない。三つの家族それぞれに物語ができているが、ある程度の共通項として“必要とされること”が台詞に出ているほか、感覚的には“赦し”も大きな意味を持っていたように思われる。登場人物の中ではコンビニ店長が意外に重要人物で、キーパーソンというほどでもないが結節点にはなっており、顔の印象からしても“赦し”を体現していた感じである。また相模家の叔父がかなりいい男で、自分がこの映画の中にいるならこの人物の役でありたいと思った(痛いのは嫌だが)。自分がどうあれ誰かに必要とされるのは嬉しいことだ。  この監督の特徴と思われる露悪趣味に関しては、今回それほど気に障るところはない。見るからに下世話なものは出ていない(終盤で流下した液体は排泄物ではないと思われる)が、性的な危うさということでは、近親間の性愛感情(娘から父?)が背景に隠れていたようである。また不道徳という面では、神田家の妹役の松原菜野花さんが今回も万引きをさせられていた。ちなみに神田家の姉は非常に賢明で先読みする人物だったようで、おかげでDVの脅威は回避されたのだろうと思っておく。 ほか、やはり極端な誇張表現が若干あってどうも馴染めないが、それも監督の個性ということで納得するしかない。今回は川にマグロはいなかった。
[DVD(邦画)] 7点(2017-06-24 09:39:38)
431.  いしゃ先生 《ネタバレ》 
戦前から戦後にかけて山村の医療に尽力した実在の医師の物語で、現在の山形県西村山郡西川町大井沢という場所が舞台である。景観面では一般的な山間風景が地味な色調で多少美的に見える程度のようだが、季節や天候によって はっとするような風景に出会うこともあり、劇中ではそのような現地感覚が映像化されていたようで好印象だった。別の場所での撮影も多いとのことだが、月山・姥ヶ岳・湯殿山が並んだ映像は現地付近からの眺望と思われる。また現地で見られるという「春もみじ」も映っていたようである。  医師の物語であるから人の生死も当然関わって来るわけで、撮影地の近辺でいえば「おくりびと」(2008)など、人を死なせて観客を泣かすタイプの映画は多いだろうが、この映画では劇中の様々な出来事が少しずつ見る者の心に染みて、次第にその効果が累積していく感覚があった。少なくとも初見時に大泣きする場面はなかったが、終わってしばらくの間、何となく涙腺が緩んだような状態が後を引く映画になっていた。また撮影時に、実際に診療を受けたことがある地元の老婦人が主演女優を見て、本物の先生のようだと落涙していたというエピソードは感動的だった。 劇中では住民の言動が理不尽に見えるところもあったが、昔は出生率も死亡率も高く、病気になれば仕方ないといういわば社会通念と、それでも家族を失いたくない思いの対立が医師への反発に形を変えていたと解される。医師の存在によって“金がないから見殺し”という構図がかえって明瞭になってしまうということもあっただろう。そういう時代にこの映画の医師は、近代的な倫理そのままに“失われても仕方ない命など一つもない”との理念をまともに実践しようと奮闘していたように見えた。劇中では住民に知識が必要という言葉も出ていたが、それだけでなく人の命に関する意識の変化を、時代に先駆けてこの山村に持ち込んだこともこの人物の功績だったのではと想像する。  ところで脱線になるが、幸子役で出ていた上野優華という人は歌手兼女優とのことで、ほんわかして和む顔で他の映画でも見て知っている。自分がこの映画を見たのも、単にこの人が出ているから、という軽い動機だが、劇中では本当の田舎娘にしか見えずに少し呆れた(方言が下手すぎ)。舞台挨拶に来てくれなかったのは残念だが、この人が歌う主題歌のCDも入手したほか原作本も買って読んだので、動機が不純とはいえけっこう上客のはずである。また舞台挨拶では監督の人柄も見えた気がして大変よかった。 自分にとって郷土の映画というものでは全くないが、そういう狭い郷土意識に頼らずとも地味に応援したくなる映画になっていた。   [2017-06-10再視聴による追記(BD購入済)] 主演の平山あやという人はよく知らなかったが、この映画に関していえば目が強い印象を残す。20代半ばの場面ではまだ可愛らしさを残していたが、30代後半になると充足感が顔に出ていたようで、自分としては川原の場面の表情が好きだ。最後の授賞式での晴れやかな姿は見違えるようで、ここはさすが女優さんといったところである。
[映画館(邦画)] 8点(2017-06-10 09:52:25)
432.  花戦さ 《ネタバレ》 
華道家元池坊に伝わるエピソードを題材にした原作の映画化である。自分は無粋なので花を愛でる習慣はないが、美というものが確かにそこにある、ということは映像から納得させられる。また千利休との関係を強調した物語のため、いわゆる三千家も製作に協力している。主人公が初めて利休を訪ねたときに突然泣き言を言い出したのは、映像では見えない作用を利休の茶が及ぼしたという表現のようで興味深かった。  原作はわりと淡白な感じの小説で、最後の勝負など本当にこれだけでよかったのか、という思いが残るものだったが、映画では序盤の岐阜城と終盤の前田邸の対応関係が明瞭で、庶民にできる最高度に強烈な反撃という印象も強まっていておおむね納得させられる。この場面では観客としても息を詰めるようにして見入ってしまい、その余韻は鑑賞後もしばらく後を引いた。また全体としてのメッセージも明快で、美と芸術家を賞揚するにとどまらず、秀吉含め全ての人それぞれの個を咲かそうとする物語になっている。素直にそう思えるだけの愛おしさが劇中人物には感じられた。 ほか秀吉との対比ということだろうが、美的なものへの関心の高さや批評精神など、京の町衆の文化水準の高さが表現されている。それは原作も同じだが、映画を見るとジョークのレベルも高かったようで感心した(少し古風で漫才風?)。  登場人物に関しては、序盤では主人公が変人すぎて呆れたが、終盤はそれらしい人物像に収まっていたようで悪くない。人を覚えられなくて苦労するのは個人的に共感できるので、茶室の場面では見ている方も泣き笑いになった。この主人公に寄り添う弟の人物像もいい。 また「れん」というのは原作にない人物だが、映画の飾りとしてのヒロインというだけでなく、掛け軸のサルなど見ても、父親を含めた形での存在意義がちゃんと付与されていたようで安心した。外見的には可愛らしいが(森川さん本当に可愛い)それだけでなく、最後には芸術家としての側面を含めた人物像も見えて来る。主人公がこの人の名を呼んで手に取った蓮の花が、本当にこの人らしく見えたのは感動的だった。 そのほか人懐こく笑う町娘はどこかで見たと思ったら、「湯を沸かすほどの熱い愛」の妹役(鮎子ここにあり)の伊東蒼(あおい)という人だった。子役も含めて役者揃いのように思われる。  結果としては小説を何となく映画化しただけのものでなく、単なる華道家元のPR映画でもなく、花がきれいだった、で終わりの映画でもなく、それ自体の存在意義をちゃんと主張する映画になっている。人に勧めるかは別として自分にとってはいい映画だった。
[映画館(邦画)] 8点(2017-06-10 09:52:22)(良:1票)
433.  オルド 黄金の国の魔術師 《ネタバレ》 
わりと新しいロシア映画である。冒頭表示される文字は縦書きだがロシア語だろうから字幕が出ないのは変だ。 題名の「オルド」は「帳幕」と訳していいかどうかよくわからないが、とりあえず劇中に出る「黄金のオルド」という言葉は、チンギス・ハーンの長子ジョチを祖とするキプチャク・ハン国(金帳汗国、ジョチ・ウルス)を指している。映画はこのキプチャク・ハン国とモスクワの府主教アレクシイとの関係を描いており、年代的には序盤の暗殺が1343年、終盤の暗殺が1357年で、日本では南北朝時代に当たる。 考証的なことはよくわからないが見た目でいえば、ハンの都(恐らく「サライ」)はみすぼらしいようで結構な壮大感がある。皇太后が宮殿ではなく郊外に住んでいたのは遊牧民の伝統を固守する人物像の表現だろう。劇中のモンゴル人がやたらに野卑で粗暴なのはロシア側の蔑視感情の表れかも知れないが、その性質を受け継いだといわれるロシア人自身も、他国の文明人から同じように見られていたのは言うまでもないことである。 一方、モンゴル人がキリスト教会のある粗末な村に来て、知り合いだったらしい住民と立ち話を始めたのは何かと思っていたら、これがモスクワ大公イヴァン2世に対し、キプチャク・ハン国が要求を突き付けた場面だったというのはかなり度肝を抜かれた。そのあと鶏のいる裏庭で大公が見せた必死さがまるきりその辺の一般人のようなのも笑った。ちなみに字幕の「王子」は明らかに誤訳で(英語からの重訳?)、これは「公」と訳すのが適切である(歴史的には「大公」とされている)。  物語の面では、説明を排して専ら状況を見せる形になっている。 最初の1/3くらいはヨーロッパ人がほとんど出ず、文化的素地の全く違う意味不明な風習を見せられるのが面白い(泣き女のようなのがいい)。ロシア人が出て来てからもすれ違ってばかりのようだったが、人命尊重の観念がないだけで実は気のいい連中だというところも見えていた。皇太后は最初から親和的、臣下の男も同情的で、ハンも言葉は乱暴ながら“少し待ってやろう”という意思を最初から示していたと解される。 ストーリー上のメインになるのは「奇跡」だろうが、本当に奇跡が起きたのかは不明瞭である。府主教の受難によって神の慈悲が下されたと思うのもいいだろうが、あるいは本人が何もしていないと語ったように本当にたまたまだったとも取れる。以前にウラジーミル(モスクワ近隣の都市)の疫病を終息させたというのも同じとすれば偶然の連続だが、毎度の身を捨てた行動があったからこそ後に聖人に列せられたということかも知れない。なお劇中アビニョンからの使者が登場して助け助けられしていたのは、正教会もローマ教会もない唯一の神の意思が働いたことの表現か。 またこの映画の立場として、信仰心のない「黄金のオルド」はやがて衰退し、ロシアは生き残ったと言いたいのかも知れないが、これもそれほどはっきり示されているわけではない。この映画を見たロシア人は、モスクワ・ロシアと正教会の正統性を主張する立場から都合よく解釈することが認められているが、それ以外の人間なら、たまたま起こった出来事を並べて描写しただけと取るのも勝手だろうと思われる。これは、単なる事象の連なりにどう意味付けをするかという、いわば歴史解釈に関する一種の問題提起になっているようでもあるが、ただし単なる羅列と捉えてしまうと、映画としてのストーリーがないも同然になってしまうのが問題である。やはり歴史には物語が必要だということか。  結果として様々な面で興味深い映画であり、また映像が美的なのも印象深かったが、しかし娯楽映画としては難があるので他人には勧められない。ちなみにこれを見てから、昔のドイツの音楽グループ「ジンギスカン」の曲を聞くと気分が出る(「めざせモスクワ」Moskauなど)。
[DVD(字幕)] 8点(2017-06-10 09:37:24)
434.  好きっていいなよ。 《ネタバレ》 
原作がどうなっているのか知らないが、とりあえずこの映画に関してはエピソードを5個つないだ総集編のように見える。もともと孤立的だった主人公が、最初のエピソードで男と出会ったのをきっかけにして人間関係を広げていき、最後に最大の危機を乗り越えて題名の言葉に至る、という構成自体はまとまって見える。 しかし各エピソードが掘り下げ不足のように見え、形式論だけ述べて簡単に終わってしまう印象がある。また延々と自分語りをするとか登場人物同士で説教し合っているようなのがかなり変な感じで、恐らくは原作からの縛りがあったであろう不自然な台詞をそれなりにこなさなければならない役者の皆さんはご苦労様だった。  登場人物に関しては、主人公(ヒロイン)は特に好きになれなかったが、最後まで地味な顔に見えたのは方針として徹底している。主要人物で一番感じがよかったのがおっとりした友人で、胸がスイカかどうか関係なしに和むキャラクターだった。ほか男は基本的にどうでもいいわけだが、金髪の男はなかなかいい奴なのに最後まで独りだったのは不運を背負わされた感じで残念だ。 この映画で若年女子の皆さんがキュンキュンしたとすれば成功なのだろうが、ちなみに自分が少しキュンとしたのは「…考えどこなの」と言っていた役名なしの女子(ちゃんと高校生に見える)で、自分がこの高校にいたらこの人が好きになるだろうと思ったが、恐らく実際は高望みである(どうせおれなんか相手にしてもらえない)。ほかバイト先のお姉さんは感じのいい人で好きだ。なんでこんな映画を見ようとしたか自分でもわからなくなったが、見てしまったからには自分なりに見どころを探すということが重要だ。
[DVD(邦画)] 3点(2017-05-30 20:02:25)
435.  男子高校生の日常 《ネタバレ》 
題名からすると男しか出ていないようで見る気が薄れるが、実際見れば男女比が均衡しているので悪い印象はない。男は要はバカばっかりだが、くどくならないのでわりと気分よく見ていられる。女子の不敵な態度とか酷薄な感じも悪くなく、主人公の妹の強硬姿勢も見ていて心地いい。個別の台詞としては「温暖化そんな甘くないっつーの」という突き放した一言が個人的に好きだ。 男女それぞれ日常会話で騒ぐ場面が多く、話の内容自体に大した意味はないわけだが男女別の特徴は出ている。同じ監督の「私たちのハァハァ」(2015)も見たことがあるが、若い連中のわちゃわちゃ感のようなものを好む監督なのかも知れない。また原作由来かも知れないがギャグネタが可笑しいところもあり、登場人物の行動(演出)で失笑させられる場面も多い。物語の面では特に何だというほどのものはないが、年に一度の非日常のハレの日を何となく迎え、実はそれぞれ期待するところのあった男3人の思いが実を結ばず終わった侘しさと、明日からまた日常が戻って来るという諦念を残したラストに見えたのは悪くない。 登場人物に関しては、今回は目当ての女優が三浦透子さんと山谷花純さんの2人いたので個人的には豪華キャストだったが、ほかにコンビニのお姉さんにも目を引かれてしまったりする。また「チームしゃちほこ」の当時のメンバーが全員出ていたようで、劇中ではマイナー扱いだったが自分でさえグループ名だけは知っている。名乗り部分にものすごい脱力感を覚えるグループだった(ただし4年前)。 以上、人生への啓示を得られるようなものでは全くないが、自分としては単純に面白かった。これはけっこう好きだ。全国的に評判がよくないようだが悪い点はつけられない。  ちなみに中身と関係ないが、撮影に使った海の見える学校は静岡県沼津市の廃校ではないかと思うが、今回を含めて自分としてはここで撮った映画を3つ(または4つ)見たことがあり、その全部に前記の三浦透子さんが出ていたりする。近年かなり便利に使われているらしい。
[DVD(邦画)] 6点(2017-05-30 19:59:47)
436.  シージャック(2012) 《ネタバレ》 
ドキュメンタリー調だが作為的なところが目に付く。“魚にキス”のあたりはいかにもな感じで、これで劇中人物や観客の気を緩ませようとするのがわざとらしい。また終盤では料理人の行動に不自然な点があり、こういう観客が違和感を覚える出来事を発端として最後の大事件を起こすというのは物語の作りとして甘いのではないか。これで落胆してしまったため、残念ながらあまりいい点は付けられない。  そのほか基本的なところはよくできているように見える。 社長はそれなりの規模の会社経営を担う身であり、役員会の監督を受ける一方で社員への責任も負う立場にある。大事を取るならプロに任せる手もあっただろうが、あえて自分でやることにしたのは多少の自信があったのと、やはり本人が言っていた通り最高責任者たる使命感からということか。当初は交渉案件の一つという認識だったかも知れないが、少なくとも銃声を聞いて以降は社長というより人としての責務がかなりの重圧になっていたように見える。結果的にはぎりぎりのところでうまくやれたわけだが、恐らく最後の悲劇のせいで、経営者としてはともかく一人の人間として、自分の経歴に真黒な汚点を残した思いだったのではないか。立派な人物のようでも一皮むけばその辺のオヤジと同じ人間なわけで、社会的責任の重い人はご苦労様というしかない。 一方で料理人は一般人なのでそれほど厳しい姿勢は求められないが、しかし会社のアドバイザーも言っていたように、契約を履行する感覚で身代金を払えば終わりになるわけでは全くなく、また些細なことで簡単に人命を奪う(自分以外の人命を尊重する観念が初めからない)人間がこの世界に存在することがわかっていなかったのは認識不足だったかも知れない。そのために、この料理人も元の幸せな家庭人に戻れなくなってしまったようだが、まあそれは殺された船長も同じだったわけである。結論的にいえば、現代の文明人(デンマーク人、日本人などの大部分)は生物種としての人類全ての生命を尊重しなければならないと思っているが、相手も同じとは限らない、という教訓を含んだ映画に見えた。この世界では“人の性は悪なり”と思っておくのが無難ということである。
[DVD(字幕)] 7点(2017-05-21 16:45:01)
437.  ある戦争 《ネタバレ》 
アカデミー賞外国語映画賞の2015年(88回)ノミネート作品とのことで、日本でいえば「たそがれ清兵衛」(2002)と同格だが、個人的感覚ではこれの方が上である。出演者インタビューによれば、この映画の監督は「演技ではなく状況に反応する」ことを求めるのだそうで、「シージャック」(2012)に続いてドキュメンタリー調に見えるのもそれと関係あるかと思われる。また問題提起はするが答えを与えない監督(脚本家)とのことで、この映画も文字通りの“考えさせる”映画になっている。  内容としてはアフガニスタンで治安維持活動に従事するデンマーク軍部隊の隊長が、民間人の殺害容疑で裁判にかけられる話である。監督によれば、デンマークでは実際にそういうことが現地指揮官の心配事になっているらしい。 まず劇中では誰も明言していなかったが、爆撃の結果として攻撃が止んだのならその場に過激派がいたこと自体は明らかであり、誤って民間人だけを死なせたというわけではない。恐らく爆発物のエピソードのように民間人を盾にしていたと想像されるが、そういう状況で、いざというときに自国民(軍人)と外国人のどちらを優先するかの問題だったと思われる。劇中の検事(法務官)は、人類社会の正義を代表しているようでいて実は単なる手続論の話しかしておらず、存在確認さえすれば殺人ではないと言っていたのも同然である。また弁護人の立場は台詞に出ていた通りであって、どちらの主張にも絶対的な正当性は感じられない。判決がどうなるかは出演者にも知らされていなかったとのことで、自分としてはけっこう驚く結末だったが、判事が諸事情を勘案の上で妥当な結論を出したということなら尊重する必要がある。 ちなみに日本では、最後は国家が悪い軍隊が悪い戦争は嫌だと言えば済むことになっているが、デンマークほどの民主国家なら軍の派遣を決定したのは疑いなく国民自身の判断ということになるだろうから、そういう逃げ場はないことになる。国全体として劇中の妻/母のような立場を取るなら派遣などやめるという選択もありうるが、基本的には国際貢献としてあえて汚れ仕事を引き受けているという考え方だろうし、これに関してもデンマーク国民の判断を尊重するしかない。ただ、自分の国に関してそういう判断をするのは一国民としても確かに難しい。とりあえず南スーダンからはみな無事に帰って来られそうで幸いである。  なお、主人公に対する副隊長の批判的発言は自分としても非常に耳が痛いことで、これで主人公が自分に似たタイプの人間であることが知れてしまった。副隊長はそつなく賢い男だろうが主人公も悪い奴ではなく、一度は事実を認めようとしたことからも個人的には共感度の高い人物像だった。そもそも女性通訳にこの男の弱点を衝かせるような筋立ては卑怯だ。
[DVD(字幕)] 8点(2017-05-21 16:39:45)
438.  育子からの手紙 《ネタバレ》 
劇中に実名で登場する人物の手記を原作として映画化したものである。いわゆる難病ものであり、具体的には小児がんである。 この映画で失敗ではないかと思うのは、チラシなどに使われている主人公(:題名の少女、以下同じ)の写真がどうも“お涙頂戴”感というか、愛は地球を救う的な雰囲気を醸し出しているため見る気が減衰することである。ただ実際見れば意外にそういう印象はなく、わざとらしい演出はほとんどない感じで自然に見ていられる。 特に自分としては、主人公の周囲がみな心優しい人物ばかりなのがありがたかった。主人公の境遇自体が厳しいため、その上に同級生や道行く人々の心ない仕打ちに傷つけられる通俗ドラマのような場面など見たくないという思いが生じる。また実話ベースということもあるだろうが、主人公のいわれなき苦しみを見せられた観客の憤懣をどこかの方向へ誘導して無理やり社会問題化する、といった類のものでもない。あくまで主人公の生きようとする姿を見せて、見た人のこれからの人生に働きかけようとする映画になっている。清々しい、というと語弊があるかも知れないが、人間のもつ真心の部分だけを素直に映像化しているように思われた。 この映画で特に心に残るのが主人公の表情で、普通に笑顔や泣き顔も見せていたが、身体や心の痛みに耐えて目を見開き唇をきつく結んだ顔が見る者の心に刺さるところがある。ナレーションで語られる手紙の内容はほのぼのしているのに、映像では主人公がひたむきにたたかう姿を見せていたのも印象深い。 病気のためとはいえ、凡人であれば長い年月をかけてやっと得られる(あるいは死ぬまで得られない)認識や覚悟をわずか13~15歳の間に得たのは痛々しくもあるが、あるいは短くても誰よりしっかりと生きた人生だったと解すべきなのか。この年になるまで厳しさもなく、何をやってきたのかわからない人生を過ごしてきた者には眩しくも見える人間像だった。  なおどうでもいいことだが余談として、劇中で石段と郵便ポスト(と家庭ゴミ集積所と町内会掲示板と案内図)があった場所は仙台市太白区向山にある。文字通り、仙台の中心部から広瀬川を挟んで向かいにある山手の地区で、現地から逆方向に見れば中心街が見える。
[DVD(邦画)] 7点(2017-05-08 21:44:50)
439.  湯を沸かすほどの熱い愛 《ネタバレ》 
栃木県足利市というところには個人営業の銭湯がまだあるようだが、うちの地元ではもうなくなった(最後の1軒が映画撮影に使われた)。 自分としては同じ監督の「チチを撮りに」を見たことがあるが、あまりに私的で濃密な家族像が描写されていて辟易するものがあった。今回も実は全く期待していなかったが、さすがに商業映画ということで万人向けの娯楽を意識した感じで、全体としてこのくらい一般人に寄せて作ってあると、多少のことは監督の個性とか“映画とはこういうもの”的に納得しやすくなる。ちなみに互いに尻を蹴り合っていたのは「チチ…」にもあった姉妹のじゃれ合いの表現である。  劇中では母の愛に欠けた事例がこれでもかこれでもかと提示され、かなり極端な設定のようだがまあ一応の許容範囲である。最後はいわば母の愛を熱エネルギーに変換して家族に分与したということのようで、現実問題としては非常識でも物語上の表現としては受け取れる(多少グロテスクな印象はあった)。 時間がない中、主人公が各種課題を次々解決していくのは都合が良すぎるともいえるが痛快ともいえる。主人公の娘の捨て身の勝負は思い切ったところが個人的に好きだ(あのデザインの下着でよかったのかは別)。また「鮎子ここにあり」というのも気が利いている。 そのほか手話とかピラミッド関連とか個別のエピソードはいいのだが、問題は総まとめとして、主人公がどういう人物だったか台詞で説明していたのは口で言うほど説得力がない。これはその後の展開の言い訳にしか聞こえないところもあり、むしろ言わずに済ませられなかったかという気がした。  ところで世評によれば物語中には観客の気に障る場面が結構あったようだが、自分としては(今回は)それほど気にならなかった。ただし子ども(小学生)相手に平気で性的な話をする人物が否定的に扱われていないのは映画の品位に関わることであり、こういうものまで観客に受け入れさせようとするのは無理がある。 また最後の件については登場人物も違法性は認識していたようで、これは映画と現実世界との最低限の擦り合わせを意図したもののようでもあり、“映画のためなら何でも許される”といったような独りよがりは少なくとも感じなかった。煙突からの煙は非現実的でわざとらしかったが、映画のラストを強く印象づけるものにはなっていた。
[映画館(邦画)] 7点(2017-05-07 17:21:40)
440.  金メダル男 《ネタバレ》 
原作・脚本・監督・主演の人物がこだわりで作った映画のようで、本人の人脈で一定の豪華キャストが実現したということらしい。基本的にはコメディで、爆笑するほどのものはないが終始ニヤニヤしながら見ている感じだった。泣かせる箇所も複数あり、そのような悲喜こもごもの断片が連なって流れていくのが人生ということかも知れない。 ただしそれによって描かれた主人公の半生に感動を覚えるかというとそうでもない。これまでやってきたことはいつか必ず生きる、というのはいいとして(かなりわざとらしいが)、また人生の折り返し点を過ぎてなお挑戦を続けるのもいいとして(というか、これ以外の生き方ができないとわかった?)、そもそも主人公の性格が個性的すぎて共感しようがない。多才な芸能人ならこういう生き方があるかも知れないが、無芸な一般人にとって人生物語としての効用はかなり限定的というしかない。  ところで自分がわざわざ映画館まで行くのは映画自体より主に特定の女優を見るためであり、この映画に関しては森川葵さんが目的である。何でキャスト配列順がこんなに下なのかと思ったが、登場順とのことで仕方ない。少なくとも自分としては、この人の出番は強烈に可笑しかった。 また土屋太鳳という人がものすごく清純で可愛らしい顔で出ていたのがかなり意外だった。エピソードとしてもトリダンスは圧巻で、ほか坂本龍馬も含めて「表現部」全体が面白い趣向である。ほかの出演者としては、宮崎美子さんの最初の場面は20代相当とのことで、自分としてはカメラのCMの頃を思い出した(とまでいうと嘘だが)。平泉成氏も最初はまるきり年齢不詳の役柄で笑ったが、最終的には見事な老夫婦になっていて感動を誘う。 以上、本筋のところで共感しづらいところはあるが、楽しい要素も多いので否定できない映画だった。ちなみに背景音楽も個人的には時代背景を感じさせて悪くない。点数はかなり甘くしておく。
[映画館(邦画)] 6点(2017-05-07 17:21:37)(良:2票)
全部

■ ヘルプ
© 1997 JTNEWS