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ユーカラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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561.  ベスト・キッド(2010)
北米の意識はもはや日本ではなく中国にあり、という感じでパワーバランスの時代推移を厳然と反映している点、リメイクだけに興味深い。  寄り気味のカメラは、多用されるフォロー移動とともに、観客が見るべき対象をひたすら限定して先導してくれる。ここだけ見なさい、というサービス過剰な介護式。加えて、饒舌なBGMがここぞという場面を盛大に誘導・援護してくれる。だからとにかくわかりやすい。 そして、アクションシーンの編集は少々リズム偏重気味で「ワンショット性」に欠け、剛柔の表現としては不満を残すのだが、序盤中盤で何度も反復された円や弧のモチーフは武術の基本として止めの回転技として活きてくる点は見事。  また、光を意識した印象的な画面も豊富でいい。ガールフレンドと戯れる公園の噴水に反射する光、影絵劇場の幻燈、J・チェンがJ・スミスを諭す中庭の場面での眩しい入射光、そしてヘッドライトの光の中に浮かび上がる二人の教育と伝授のシルエットが感動的だ。(それを影から見守るT・ヘンソンの姿も)  そして、キャラクター達も主演二人を始めとしていずれも魅力がある。いずれの登場人物も何らかの弱さを持ち、それを克服させ成長させるという作劇の丁寧さゆえでもある。 特に、作り手の少年少女に対する目線の温かさは心地よい。  トーナメントの前、贈られた道着に対してJ・スミスが漏らす『ブルース・リー』の一言に初めて顔をほころばせるJ・チェン。その笑顔が泣かせる。 
[映画館(字幕)] 8点(2010-09-04 20:57:59)
562.  ハナミズキ
『涙そうそう』に続いて有名楽曲をモチーフにしたアイドル映画だが、 安易な死を用いた泣かせ志向の脚本も相変わらずである。  ヒロインの生活感や身体感覚の欠如ぶりも初作『いま、会いにいきます』から全く進歩がない。新垣結衣はプラトニックな世界で単に物語に沿った喜怒哀楽の表情演技を見せるのみである。   たとえば「稲荷寿司を既に食べてしまった」というやり取りが象徴するように、この映画で彼女がまともに食事するシーンはほとんど無い。この映画に限ったことではなく、現在の「アイドル」映画の一般的傾向で、寝・食という非物語的かつ非アイドル的行為は説話的経済性と女優イメージ保護からか真っ先に映画のシーンから排除される。 結果的にヒロインは人間味を欠き、浮世離れする。  実際は物語的には無意味にみえる日常的な食事こそふとした人間味を露呈させる生活行為であり、優れた演出家は人間描写として食事シーンを決して疎かにしない。 ヒロインの実在感の希薄さ、人間性の欠如の一因は心理の説明不足などではなく、演出家の身体行為に対する感覚の欠如に由来するというべきだろう。  その点、生田斗真の朴訥とした所作と方言と労働ぶりはまだ共感性が高い。  原曲のモチーフとはいえ、甘い恋愛ドラマのお飾り程度に9.11やら戦場カメラマンを利用する安直ぶりも気になる。
[映画館(邦画)] 4点(2010-08-29 22:01:41)
563.  インセプション 《ネタバレ》 
水飛沫を効果的に使った高速度撮影の用法と複数のクロスカッティングが、時間感覚の設定と巧く絡み、クライマックスのカウントダウンにはそれなりに切迫感がある。 チームメンバーの分散と各階層の分散によって、5つのシチュエーションのクロスカットを何とか強引に纏め上げたのは流石というべきか。それも、ハンス・ジマーの劇伴にかなり負っているが。  反復はクドく、主体が分散しすぎで、親子のドラマ、夫婦のドラマ、メンバー間のドラマと欲張ったもののいずれも冗長かつ中途半端で盛り上がらない。設定には凝る一方、アクションパートは付け足し感覚で、展開にはまるで緻密性を欠く。(夢だからね。)  夢には欠かせない水のイメージは豊富で良い。(波打ち際、土砂降りの雨、水槽、川)
[映画館(字幕)] 5点(2010-08-16 23:09:41)
564.  ソルト 《ネタバレ》 
一般的に「演技派俳優」は心の内面を表情・身振りの付加によって過剰なまでに主張しがちだが、余計な演技がない場合こそ、人物の心理・感情が生々しく伝わるのが映画の面白さ。 危険なアクションが全編にわたって連続するこの映画で、アンジェリーナ・ジョリーは走る・飛ぶ・格闘する身体運動に集中するとき、演技どころではなくなる。 一方で、心理のガードを高度に教育されたスパイの役柄を演じる彼女は、その表情を大きく変えることもない。  その演技・非演技ない交ぜの相貌が、画面に緊張とエモーションを呼び込む。特に復讐物語となる後半、その抑制的な表情と殺戮アクション自体の過激さと強度が、彼女の怒りと悲しみを強く画面に漲らせる。とりわけ中盤のアジトのシーンで、唐突にある場面に遭遇する彼女の無表情が示唆する内面の葛藤と、それに続く無表情の虐殺シーンのケレン味が感動的だ。  終盤の暗いヘリコプター内、交感する二者を結ぶ夜明けの薄明かりの水平ラインも美しい。  劇の二段構成、金髪と黒髪、高所感覚等〃の要素は『めまい』にも通ずる。
[映画館(字幕)] 8点(2010-08-14 22:59:49)
565.  私の優しくない先輩
序盤から延々と続くモノローグに、役者の漫画的身振りと表情演技とテンションに、過剰な画面加工と効果音に、この先どうなることやらと白け気味になりかけるのだが、中盤の恋の駆引き劇あたりから不穏感と気まずさを湛え始め、徐々に引きこまれる。  雨の中、山の手にある友人宅から坂を下り夜の川原へと、劇は浮遊感から下落のイメージに包まれ、後半の生々しい撮影スタイルと川島海荷のオルターエゴであるモノローグは凄味を増し、画面との齟齬は対位的に増幅されていく。  シンクロか否かよくわからないが、後半の体育館内および火まつりシーンでの二人の生々しい台詞の応酬ともつれ合うアクションが、炎と闇のスペクタル性と共に素晴らしい。  そして出演者全員によるエンディングも、スタイルは全く違うが大林版『時をかける少女』のラストを思わせる至福の時間。  キャストの振り付けの統率とロケーションに合わせた配置。時々刻々の入射光の加減を配慮し、手持ちからクレーンへの自然な繋ぎまでこなしたキャメラワーク。このロングテイクにはスタッフ・キャスト共々、相当な準備が費やされた筈。熱情の賜物といえる。
[映画館(邦画)] 8点(2010-07-25 23:56:54)
566.  アウトレイジ(2010)
横長を活かし居並ぶ組員の顔を次々映し出す水平移動のファーストショットは、真正面からの唐突なバストショットで開始された従来作品のような不可解性がなく、状況説明としても格段に解り易い。並んだ彼らのお辞儀のロングショットのみで組織内の序列も簡潔明瞭に示される。  主眼のヴァイオレンス描写の一方で、何気ない所作やありふれた小道具一つを以って人物の性質を語ってしまう演出力は依然として冴える。旧作において、組長を前に畏まる幹部の中で北野一人が平然と煙草をふかしていることでアウトローぶりを際立たせた人物描写(『ソナチネ』)や、喫茶店のウエイトレスがいつしか煙草を吸うようになっていることで示された経年描写(『キッズ・リターン』)等、さりげない煙草の演出は本作品でも巧妙に変奏される。警察署前での吸殻をめぐるエピソードの反復によって、椎名桔平の人物像とパワーバランスを明瞭に浮かび上がらせてしまうのがそれだ。あるいは、國村準の台詞「コレ(高級洋酒)、飲んじゃおう。」なども彼の人間性を雄弁に語らせており、小道具活用は自家薬籠中のものといった感がある。  黒の車体、革靴の表面を彩る黒光りの艶かしい様や、鈍いブルーの印象的な配置も堂に入っている。  新味としては、殺戮後のサウナ内や路上の惨殺死体の横を車が通過する緩い水平移動の不気味な感覚など、死体と車両のショットにおいて最もシネスコが意識されているように感じられる。あえて静の間を延ばすような、中盤でのフェードアウトの繰り返しも新しい趣向だがあまり効果を感じない。  
[映画館(邦画)] 8点(2010-06-27 20:20:42)
567.  ヒーローショー 《ネタバレ》 
ラジオから流れ出した軽快なエンディング曲『SOS』がドラマの哀切と一種の対位となり、効果を挙げる。その70年代の曲調が映画に陽性の余韻をもたらすかと思いきや、最後に再びラジオ音源へと戻ることでシビアな現実への回帰をダメ押しする。空疎感と厳しさと温かみが綯い交ぜとなった絶妙なバランス加減。または夜のアパート、後藤淳平とちすんが語り合う静かなシーンで、突然後藤の腹が鳴って二人は笑う。その悲喜の組み合わせが何とも言えぬ切ない情感と人間味をさらに引き立てる。『のど自慢』の秀逸なバリカンのシーンを思い起こさせるような、泣き笑いの結合の演出はいまだ健在だ。それは、各々の役者が独特な個性を体現し、ぶっきらぼうであったり所在なさげであったりという佇まい自体がこの作品によく嵌っている事にもよる。特に夜のシーンが多いが、その暗がりの中に浮かび上がる眼の光、顔の艶光、硬く強張る表情だけで以って画面に強度を与えている。
[映画館(邦画)] 7点(2010-06-25 21:31:53)
568.  書道ガールズ!! -わたしたちの甲子園-
前半に登場する、昔ながらの半紙作りをしている小さな製紙工場は実際の現場だろうか。その地味ながら年季の入った風情と生活感が非常に渋い。売れ残った半紙を燃やすドラム缶の炎なども印象的な画だ。 ローカル駅や、寂れた商店街、丘の一本道や煙突を望む海辺の風景など、地方色の出し方は『シムソンズ』のように定番的で地元FC任せの感もあるのだが、そのロケーション自体の魅力にかなり助けられている。  121分という冗長なドラマもオーソドクスというより、ただただ官僚的。秘されていた楽曲が判明する夜のシーンと、翌日の部室のシーン、話の流れとはいえ同じ曲を2回も立て続けに流すというのは、あまりに芸が無さすぎのような気がするが。岩代太郎の音楽も主張しすぎ。書道を映画表現するにあたって、半紙を走る筆の音をBGMで邪魔してどうするのか。せっかくの紙ズレの音がよく聞こえず、書道の感触が伝わらない。ヒロインの力感ある大筆さばきはとても素晴らしいのに。(体育館での書道の練習中、飛んできたバレーボールをレシーブで防いだ男子生徒の咄嗟のアクションもナイス。)  それにしても、クライマックスでヒロインを見舞うアクシデントまで先行の劇場予告編で小ネタばらししてしまうテレビ的無神経は腹立たしいばかりだ。
[映画館(邦画)] 4点(2010-06-22 21:47:18)
569.  座頭市 THE LAST
緊迫した長回しの中、縦構図で捉えられた長屋のオープンセットの奥側右手から、あるいは賭場の衝立の裏から、不意に出現する市の瞬発性。そのまま持続するショットの中で雪崩れ込む殺陣の速度感が見事。雪山の急峻な崖から、屋敷内の小さな段差まで、殺陣には緩急だけでなく高低差のサスペンスも活かされ、多人数掛けから一騎打ちまで、アクションに関しては全く申し分なし。  序盤の山林から、廃村、水田、浜の小屋など、庄内映画村のセットを活かした個々の美術も多彩で、時代劇映画の地勢的制約や窮屈さを感じさせない。(ただ些細ながら、砂浜と農村のロケーションがちぐはぐで位置関係的に無用な混乱を招く。)  また、再会した香取慎吾と工藤夕貴が海を背に語り合うショットや、香取と倍賞千恵子が夜の雪原を背に語り合うミドルショットの対話の間にはいかにも阪本監督独特の味わいがあり、『王手』の日本海のシーンなどを思わせる何ともいえない情感を湛えている。  概して主演アイドルは顔面に心理を大仰に貼り付けすぎるだけに、こうしたシルエットのシーンや、包帯等で顔を隠したショット、引いたショットでのアクション等のほうが逆に強度を以って迫ってくるのだ。
[映画館(邦画)] 8点(2010-06-19 16:35:29)
570.  トロッコ
台湾の潤い豊かな緑の中をトロッコが走り出すと共に高鳴る叙情的なヴァイオリン音楽。川井郁子のノスタルジックな音色と、李屏賓の移動撮影の高揚感と、その融合の具合がとても絶妙で陶然となる。 トロッコの軌道上から縦移動で捉えられた、緩やかに流れいく情景ショットなどには侯孝賢礼賛が直截に現れている。  超微速のカメラの動きが醸す緩やかな時間の感覚。屋内に入り込んだ自然光が、床からの照り返しで人物の顔を浮かび上がらせるナチュラルな光の感覚。 昼の屋内でも、暗闇の空間が確りと活きている旧家屋建築の魅力。夜の食卓を照らし出す電球の灯の温かみと、ブルーがかった夜の庭の色調バランス。いずれも素晴らしい。  下手に父親の回想シーン等を持ち込まない慎ましさも好感度高いが、それらにしても、律儀に侯孝賢をなぞっている感があって、やはり既視感は否めない。  母親役の尾野真千子が役者的演技をしすぎの感があって、惜しい。  
[映画館(邦画)] 7点(2010-06-13 17:39:42)
571.  ボックス!(2010)
寄り・引き、スローを巧みに織り混ぜたケレン味に溢れるファイトシーンの編集リズムからは、作り手の気合が充分に伝わる。  とりわけ決勝戦2ラウンド目の攻防を延々と捉える、クレーンを使った迫真の長廻しは圧巻だ。  市原隼人と諏訪雅志の優れた運動神経とアクションはもちろん、両者の動きのスピード感と重量感を余さず伝える撮影と、荒い呼吸音と呻きを交えた録音も効果抜群である。  高良・市原のトレーニングのモンタージュや上達過程の描写も、基本的なコンビネーションやディフェンスまで丁寧すぎるほど丁寧に描写を重ねており、説得力がある。 それを体現する二人の頑張りも良い。  また、街の情景を取り入れたロードワーク風景では道行くエキストラや犬とも何らかの形で主人公と絡ませるなど細かな拘りがみられ、『どついたるねん』のようにローカルの匂いをしっかり感じさせ素晴らしい。  なるほど、監督は大阪府出身だった。  ただ部内関係の半端なエピソードや子供時代の回想もくどく、この内容で2時間6分は少々長いが、ラストは爽快だ。
[映画館(邦画)] 8点(2010-06-06 14:17:30)
572.  グリーン・ゾーン
トレードマークというべき相変わらずのタッチ。寛容に受け取れば、『ボーン』シリーズなら主人公の俊敏さ・機敏さを強調し、『ユナイテッド93』なら乗客の動揺と切迫感を表象する手段でもあり、本作でいうなら現場の混迷と混乱の状況を示すといったところか。主人公は政治状況・組織関係の混迷(大状況)と、迷路のような異郷の夜の路地(局地状況)をひたすら奔走する。それは良いが、バス停留所の件りになるともはや視点が拡散しすぎで、位置関係の把握どころではない。こうなると、サスペンスとしては辛い。撮影途中のフォーカス修正や、高速ズーミングなどの誘導的細工で擬似即興感づくりに勤しむ一方で、映画の「嘘」を敢えて露呈させるようなリバース・ショットは盛んに入り混じり、各キャラクター造型は単純明快で非リアルであり、結末は能天気なほどファンタジックでありと、見事に社会派臭を払拭している。政治性を牽制する戦略も抜かりなし。陸橋の崩れた街道を俯瞰するロングショットや、夜の路地を徘徊する野良犬、義足を外され片足飛びするイラク人など、個々には眼を引くショットも多い。
[映画館(字幕)] 4点(2010-05-18 20:55:13)
573.  武士道シックスティーン 《ネタバレ》 
クライマックスのインターハイをあれだけ潔く省略したのに、一方で北乃きいの父親に関するエピソード等では台詞説明過多な印象があって、本来ならもっと脚本を削れたはずと不満は残る。とはいえ、この種の青春ものではないがしろにされがちな家族との関係描写を丁寧に描いている点は好印象だ。面付けの所作などのさりげないシーンも光る。そして、風。休部中の成海璃子が剣道場を覗く場面や、ベンチに横並びになる成海・北乃のツー・ショット、あるいは小高い丘の場面など、幾度と無く彼女らの背景で木々が風でさわさわと揺れる。それら要所要所で吹き抜ける涼やかな風が非常に印象的で、映画を心地よい感覚で満たしてくれる。小木茂光と成海の父娘が陽光の差し込む開け放たれた道場に並び座る和解の場面でも、木々の影が二人を癒すように繊細に揺れていて良い感じだ。階段の段差を用いたエピソードもまた、二人の関係と距離をうまく視覚化している。北乃の見上げた主観ショットともとれる、青空を背景としたラストショットの笑顔も気持ちいい。
[映画館(邦画)] 7点(2010-05-16 19:28:43)
574.  タイタンの戦い(2010)
序盤で、船上のペルセウスらがゼウス像を見上げ感嘆する場面がある。本来ならここに像の表情と威容を人間側からの仰角で捉えたショットが続くのが一般的だろうが、この映画は、なぜか天上から像の肩越しに船を俯瞰するショットを入れる。映画を最後まで見ていくと、どうやらこれは3Dの視覚効果だけに専心した結果の画面構成らしいことがわかる。つまり海面を背景に、画面手前にある像の頭部の立体感を強調するだけが目的の画面ということ。神々のドラマでもあるわけだから、こうしたいわゆる神の視点があっても良いわけだが、もちろんこれは視点の演出などではなくその場限りの立体感覚狙いでしかない。その立体感は、縦構図に様々に被写体を詰め込み配置することが必要なため、画面は逆に狭まり、スケール感を失っていく(一例:神々の集う広間の場面)。3Dありきの画面は縦移動を多用するが、これらは主人公の主観と一致するわけでもなく、心理の同化作用に至らない(例:硬貨の水切り、メドゥーサの落下)。『アバター』の高所感覚との大きな違いはここだろう。結果、ドラマと画面は同調せず随所で違和感すら生むこととなる。映画の低調なエモーションはこうした場当たり的3Dショット主義のみならず、もちろん作劇の怠慢にも起因する。オリジナルでは、荒れるペガサスを手懐けるまでの丁寧なストップモーションがあってこそクライマックスの疾駆と移動のシンクロが素晴らしい詩情を生むのだが、この映画はその辺りまるで理解がないらしい。猟師家族や、共闘する同志たちの人間関係描写もそうだが、これらは省略ではなく、単に欠落しているだけだ。
[映画館(字幕)] 3点(2010-05-02 16:46:58)
575.  人間失格
原作や荒戸監督の前作『赤目四十八瀧心中未遂』の印象から勝手にイメージする陰鬱なムードとは裏腹に、冒頭の岩木山を望む津軽の場面を始めとする明るい屋外シーンの多さや、主人公を取り巻く錚々たる女優陣の豊かなバラエティもあって、どこか陽性の印象が強い。  『ファザーファッカー』ほど派手ではないにしても、CGによるイメージシーンの多さもさらに映画に華やかさを添えている。  販売戦略としてのアイドル映画という側面もあるのだろうが、良い意味で無色な新人・生田斗真のキャスティングによって映画版のほうは達者な脇役陣の中でより一層主人公の空疎な存在が体現されることともなった。  太宰の時代として昭和初期を再現するロケーション・美術も『ヴィヨンの妻』以上に充実し見事な出来だ。 葉蔵(生田)と良子(石原さとみ)が暮らす木造二階建ての部屋から、夕景の推移を丁寧に見せる画面の風情などは非常に印象に残る。 灯の揺れや細やかな音使いも前作同様にデリケートで端正だ。  五輪中継などの時代描写は少々説明過剰か。
[映画館(邦画)] 6点(2010-03-17 21:06:50)
576.  時をかける少女(2010)
2010年の母親が意識不明でありながら主人公の行動が暢気で悠長であったり、その使命自体に何の切迫感もないなど根本的な設定の欠陥も多い上、寄り画面の多さにも辟易するけれど、その役者たちの魅力的な表情は救いだ。 8mmキャメラを一心に覗く中尾明慶の眼差し。ラストの安田成美の美しいクロースアップと、シルエットとしての存在の石丸幹二との切り返し。そして喜怒哀楽の表情豊かな仲里依紗がなんとか映画を支える。何度か登場する、小さな炬燵を挟んでの主演二人のシーンも良い。菓子やラーメンの食事を交えながら二人の対話と沈黙を捉える長廻しが、あるいはお互い逆向きに足を伸ばし合う俯瞰ショットが、二人の微妙な距離感を醸し次第に湧き上がる情感を巧く掬い取っている。そして相合傘、おでん屋台、実験室の机での二人の横並びのショットが、彼女の最後の決断にそれなりの納得性を持たせていく。  70年代のアイテムやファッションやオマージュシーンを目一杯画面に散りばめながら、それをあくまで細部に留めさせるさりげなさも好ましい。別れの廊下のノスタルジックな光、父親と会う公園の風と木漏れ日、時を越える装置としてのフィルムに感応するヒロインの大粒の涙など忘れ難い。
[映画館(邦画)] 7点(2010-03-14 20:24:40)
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