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S&Sさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 2401
性別 男性
自己紹介 〈死ぬまでに観ておきたいカルト・ムービーたち〉

『What's Up, Tiger Lily?』(1966)
誰にも触れて欲しくない恥ずかしい過去があるものですが、ウディ・アレンにとっては記念すべき初監督作がどうもそうみたいです。実はこの映画、60年代に東宝で撮られた『国際秘密警察』シリーズの『火薬の樽』と『鍵の鍵』2作をつなぎ合わせて勝手に英語で吹き替えたという珍作中の珍作だそうです。予告編だけ観ると実にシュールで面白そうですが、どうも東宝には無断でいじったみたいで、おそらく日本でソフト化されるのは絶対ムリでまさにカルト中のカルトです。アレンの自伝でも、本作については無視はされてないけど人ごとみたいな書き方でほんの1・2行しか触れてないところは意味深です。

『華麗なる悪』(1969)
ジョン・ヒューストン監督作でも駄作のひとつなのですがパメラ・フランクリンに萌えていた中学生のときにTVで観てハマりました。ああ、もう一度観たいなあ・・・。スコットランド民謡調のテーマ・ソングは私のエバー・グリーンです。


   
 

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【製作年 : 1960年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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41.  切腹 《ネタバレ》 
井伊家上屋敷に突然現れた浪人・津雲半四郎、「当家の玄関先で切腹させてください」と申し出る。食い詰めた浪人者が大名屋敷に押しかけて腹を斬らせろとごねて金品を恵んでもらうというゆすり・たかりまがいの手口が多発していた昨今、「どうせ腹をさばく覚悟もないたかりだろ」とタカをくくった家老・斎藤勘解由は津雲を追い返すべく面談する。それは日本時代劇史上まれにみる陰惨かつグロテスクなストーリーの幕開けであった。 いやぁもう、凄い映画としか言いようがありません。数ある橋本忍の脚本の中でもトップクラス、ひょっとしたらベスト・ワンなのかもしれません。津雲半四郎=仲代達也と斎藤勘解由=三國連太郎の緊迫したやり取りから始まる序盤から、謎の浪人・津雲は何の意図があってやって来たのかが判らないまるでミステリー現代劇のような展開、もうぐいぐいと引き込まれてしまいます。幕藩体制が固まってきた寛永年間、各藩は多くの従業員を抱える法人組織みたいな存在になっています。井伊家は言ってみれば名門大企業、芸州福島家はちょっと大きめの中小企業みたいな位置付けでしょう。幕府の引き締め政策が猛威をふるって地方企業がバタバタ潰れても、財閥企業である井伊家はびくともしないわけです。そして大企業らしい官僚制のうえ建前でガチガチに固まった組織、これは現代のメガ企業のオマージュじゃないかと思うほど60年代とは思えない鋭い視点です。斎藤勘解由や沢潟彦九郎=丹波哲郎が振り回す“武士の面目”はたしかに武家社会のど正論なんですが、裏を返せば体面を保つための手段に過ぎなかったという事が劇中で見事に喝破されます。騒動が終息して記される覚書にも、まるで「西部戦線異状なし」という感じで隠蔽される幕の閉じ方、もう無常観が半端ないです。 まるで舞台劇のような展開でしたが、ラストニ十分の斬り合いがまたリアルです。さすがに眠狂四郎でも勝てるかどうかというぐらいの井伊家の手勢の人数、満身創痍になりながら息が上がってくる仲代達也の立ち回りが壮絶です。そして沢潟彦九郎=丹波哲郎との決闘、なんとこのシーンは両者とも真剣を使っていたんだと。私は剣道には知識はないですけど仲代達也の構えは戦国時代の実戦的なものなんだそうです。それにしてもこの映画での丹波哲郎は、立ち振る舞いからして迫力があってほんと強そうです、この人は剣豪役をやらせたらピカイチですね。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2022-05-30 22:08:51)(良:2票)
42.  妖怪百物語 《ネタバレ》 
“大映京都の妖怪三部作”の第一作目。当時は水木しげるがブレイクして鬼太郎ブームの真最中、水木漫画に登場する妖怪たちを勧善懲悪の時代劇にぶっこんだいわば『大魔神』のモチーフをそのまま流用したような感じ。この1968年から69年にかけての大映京都撮影所はどうかしちゃったんじゃないかと思うほどのペースで『大魔神』シリーズ三作とこの妖怪三部作を立て続けにリリース、思えば時代劇が青息吐息の中での大映京都が放った最後の煌めきだったのかもしれません。『大魔神』が暗い基調のお話しだったのに、怪談噺ながらも唐笠お化けの件などユーモアを交えての語り口が対照的です。『大魔神』のような大掛かりな舞台設定ではないので特撮自体は地味です、それでも毛利郁子のろくろ首なんかは今観てもインパクトは大で、子供にはトラウマものでしょう。若き日の藤巻潤は痺れるほどカッコよいし高田美和は相変わらず可憐で五味龍太郎はふてぶてしいほど悪辣で、子供向けとは思わせないアダルトな撮り方も大映京都らしいところです。そして怪談映画の音楽ならこの人しかいない、第一人者である渡辺宙明もイイ仕事をしています。ラストのお約束の百鬼夜行もなんか雰囲気があってシュールでした。 この映画は『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』と二本立てで公開されています。ガメラ・シリーズは大映東京撮影所の製作ですけど、手間のかかる特撮映画を二本立てで興行できたというのは大したもので、やはり今は亡き大映は凄い映画会社だったんですね。
[CS・衛星(邦画)] 6点(2022-04-29 22:13:49)(良:1票)
43.  釈迦 《ネタバレ》 
日本初の70ミリ映画として有名だけど、最近はあまり語られることのない寂しい超大作でもあります。熱心な日蓮宗(あの宗教団体ではない)信者であった大映社長・永田雄一としては、やはり“自分がやらなきゃ誰がやる”という感じのテーマであったのは確かです。イエス・キリストの生涯を描いた映画は古今で数多製作されていますけど、マホメットを画像・映像化することがご法度であるイスラム教は別にしても、お釈迦様を正面から映画化したのは浅学ながら本作しか知りません。 製作費が七億円というのは確かに破格の超大作で、現代の貨幣価値でいうと何十億ということになりますかね。でも七億円というのは永田雄一お得意の大ぼらで、実際には一億七千万程度というのが真相みたいです。70ミリ撮影と銘打っていますが『スパルタカス』で使われた35ミリビスタビジョン・カメラをパラマウントから払い下げてもらい、それに圧縮レンズを装着して撮影して現像時に70ミリに焼き付ける“なんちゃって70ミリ”方式だったみたいです。でもそのカメラは重量860キロもある代物で、おかげで見せられるのは演劇公演の舞台映像みたいに動きが極端に少ない映像になってしまっています。 美術やセットには確かにカネをかけているのは判りますが、問題なのは脚本です。この映画では本郷功次郎演じるシッダ太子よりもダイバダッタの勝新太郎の方が目立ちすぎちゃってるんですよ。なんせ本郷は開始二十分あまりのところで悟りを開いて仏陀になってからは、影や遠景で存在を示しているだけでまったく画面に登場しないんですから!まるでマホメットの映画を見せられているみたいです(笑)。対する勝新は座頭市になる直前のキャリアで、『マグマ大使』のゴアみたいな風貌の悪役王子を熱演しています。ストーリー自体も史実を改変しているのは良しとしても、釈迦入滅後のエピソードまで同時代の出来事としたりして、要は詰め込み過ぎなんです。出演者はまさに大映オールキャストで豪華絢爛、雷蔵の義父である市川壽海まで登場するのは珍しい。 まあ言ってみると特撮スペクタクルは期待するほどでもなかったし、文字通りの“説法映画”というわけでした。これを70ミリスクリーンで観ればまた印象も違ってくるのかもしれませんが、現在70ミリスクリーンで上映できる映画館なんて日本にあるんかね?
[CS・衛星(邦画)] 5点(2022-04-20 23:27:02)
44.  妖婆・死棺の呪い 《ネタバレ》 
ゴーゴリの中編小説『ヴィー』の映像化。社会主義リアリズム・唯物史観のソ連で製作された珍しいホラー映画、まあ文豪ゴーゴリの作品の映画化だからお目こぼしをいただいたって感じなんでしょう。ゴーゴリにはこういうフォークロア的な怪奇譚を題材にした作品が散見され、言ってみれば小泉八雲の『怪談』の一エピソードを映像化したようなもんです。当初若手の監督が映像化を手掛けたが上手くいかず、ソ連発のカラー映画『石の花』を撮った大御所アレクサンドル・プトゥシェンコが引き継いで完成させました。 神学生が夏休みの帰郷途上で道に迷って気持ち悪い老婆の家に泊めてもらいます。老婆は夜中に神学生に迫ってきてあわや貞操の危機かと思いきや、実は彼女は魔女で神学生に馬乗りして空中浮遊を愉しみます。ここは原始的な合成特撮ですが、幻想的な雰囲気は良く出ていました。またここまでのストーリーテリングはコメディ調で、民話的な軽快さがあります。地上に降り立った魔女に神学生は反撃しこん棒で滅多打ち、瀕死になった魔女は若い美女に変身、彼はビビって逃げます。この魔女転じての美少女が確かに目を瞠るような美形で、これは眼福です。学校に逃げ帰った神学生は、校長から死にかけている地主の娘が彼を指名しているので、最期の祈祷をして来いと命令されます。行ってみると娘はすでに死んでおり、そして彼がボコボコにしたあの美少女でした。そして父親から三晩連続の祈祷を依頼されますが、それは恐怖に満ちた三晩になるのでした…ここからは死棺から夜な夜な蘇る娘と学生の対決になりますが、結界を造って籠ったので娘には中に入り込むことはもちろん彼を視認することすらできません。しかし三晩目には彼女は霊界から悪鬼と妖怪ヴィーを呼び込んで攻めまくってきます。やはりこの映画がカルトとして映画史に残ったのは、この悪鬼とヴィーのビジュアルのおどろしさでしょう。短いシークエンスでしたが子供が観たら悪夢に悩まされるのは必定でしたが、ヴィーの造形が水木しげるの描く妖怪みたいだったのには苦笑でした。  ランタイムも70分余りと中編でしたが、フォークロア調の語り口が印象的な秀作です。原作の舞台もロケ地もウクライナで、登場人物たちもウクライナ・コサックです。現在この地がとでもないことになっていると思うと、心が痛みます。
[DVD(字幕)] 7点(2022-03-13 23:32:40)
45.  太平洋奇跡の作戦 キスカ 《ネタバレ》 
日露戦争の『日本海大海戦』やWW1の『青島要塞爆撃命令』なんかは確かにあるけど、戦後の太平洋戦争をテーマにした東宝特撮戦記映画で“勝ち戦(?)”を描いた唯一の作品です。真珠湾攻撃が含まれる『太平洋の鷲』や『太平洋の嵐』もありますが、どっちもボロ負けするまで描いていますからねえ。 有名なキスカ島撤退作戦の実話映像化ですけど、登場人物は全員仮名で生存している関係者がまだ多かった時期ですから、致し方ない面もあるでしょう。三船敏郎が演じる大村少将は“ヒゲのショーフクさん”で知られた木村昌福提督のわけで、容貌は似ても似つかないんですがその物に動じない豪傑ぶりは三船にはぴったりのキャラでした。前半で一水戦の長官として阿武隈に着任するシーンで、捧げ銃をして迎える水兵長のカイゼルひげこそが木村昌福が生やしていた髭で、三船と水兵長のやり取りを含めていわば楽屋落ちみたいになっています。その阿武隈や一水戦の駆逐艦群は東宝特撮で使われた艦船プロップでは最大縮尺で作られており(五十分の一ぐらいか)、モノクロ撮影も相まって迫力満点でした。だいたいは史実に沿ったストーリー展開ですが、けっこうフィクションも織り込まれておりそれが映画的にはスリルを盛り上げる効果を上げています。たとえば濃霧の中で補給船と阿武隈が衝突しますが、実際には衝突したのは駆逐艦でした。でも阿武隈が応急修理に一時間かかって「果たしてキスカ島突入に間に合うか?」というサスペンスを生むわけで、史実を上手く改変した脚本だと思います。エキストラを含めて女性がまったく登場しない、漢くさいお話しでもあります。 チャーチル曰く「撤退戦だけじゃ戦争に勝てない」のも真理ですけど、もぬけの殻になったキスカ島に上陸した米軍が同士討ちで三百人余りの死者・行方不明を出して、「史上最大の最も実戦的な上陸演習」と公式戦記にまで皮肉られているの知るとやはり痛快でしょう。しかしですね、アッツ島では全員玉砕、キスカ島では全員撤退、この差はなんなんでしょうかね。それは、アッツには海軍兵がほとんどいなかったけどキスカの守備隊のうち半分は海軍だった(この映画では全員海軍みたいな描き方ですけど)、という事情を言っちゃうと身も蓋もなくなっちゃうんですけどね。
[CS・衛星(邦画)] 7点(2022-03-07 21:38:37)
46.  ウエスト・サイド物語(1961) 《ネタバレ》 
ビリー・ワイルダーとならんで幅広いジャンルの映画を撮ってきたロバート・ワイズ、彼に二度のオスカーをもたらしたのが本作と『サウンド・オブ・ミュージック』というどっちもミュージカルだったというのは、ちょっと不思議。だって彼が本当にこだわっていたのはSFだったのにね。それまで音楽映画にすら縁がなかった彼がチョイスしたのがブロードウェイでヒットした『ウェスト・サイド・ストーリー』、オリジナルの演出家のジェローム・ロビンスを引っ張ってきて共同監督したけど、ロビンスは途中で解雇という後味悪い結末。この二人、言ってみれば東宝特撮における本多猪四郎と円谷英二みたいな位置づけなんでしょうね。 本作と『サウンド・オブ・ミュージック』および『マイ・フェア・レディ』が60年代三大ミュージカル映画という評価には誰も異存がないでしょうが、個人的には昔から本作がいちばん苦手なんですね。シェークスピアの悲劇を現代NYのチンピラ・チームの抗争に置き換えるという発想はたしかに斬新だったんでしょうけど、古いのかもしれないけど“明るく楽しい”という要素がないのは生理的に合わないんですよ。60年代に入ってMGMミュージカルのような作風が死滅してゆくのを象徴するような作品でもあるわけです、まあこれが行き着いた先が『ダンサー・イン・ザ・ダーク』なんでしょうね。また当時はまだ世間に知られていなかったけど、主要キャストの歌唱がほとんど吹き替えだというところも引っかかるんですよ。ナタリー・ウッドなんて自分の歌がマーニ・ニクソンに吹き替えられていたのを完成するまで知らなくて激怒したってのは有名な話ですが、こりゃあ日本の口パクアイドル・グループよりひどいですよね、だっていちおう本人たちの歌唱が流されるんですから。たしかに『トゥナイト』や『アメリカ』は歴史に残る名曲ですけど、この映画の見どころはダイナミックなダンス・シークエンスの数々じゃないかと思います。ボブ・フォッシーやはたまたマイケル・ジャクソンまでその影響を受けたアーティストは数知れず、本作の最大の功績なんだと思います。 スピルバーグが本作をリメイクしたそうですが、彼がミュージカルを撮るなんて想像すらしなかったですよ。彼もSFがホーム・グラウンドのような人ですから、手掛けてきたジャンルを考えるとある意味で21世紀のロバート・ワイズなのかもしれません。でもなんか観るのが怖い様な(笑)。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2022-01-19 22:31:51)(良:1票)
47.  昨日・今日・明日 《ネタバレ》 
ヴィットリオ・デ・シーカ、ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストヤンニ、この60年代イタリア映画を代表する黄金トリオ、その中でも自分はこれがいちばん好きかも。 ナポリ・ミラノ・ローマをそれぞれ舞台とする三話オムニバス、役柄は違えどもローレンとマストロヤンニがカップルで主演というところが共通点。なんと言っても第一話『ナポリのアデリーナ』が、その“刑務所に収監されないために妊娠・出産を繰り返す女”という突拍子もないプロットであまりに有名。ふつう考えたら出産は女体に負担が大きいものですけど、逆に亭主マストロヤンニの方がどんどんやつれてゆき女房ローレンが産むたびに若々しくなってゆくのが可笑しい。これは当時子宝に恵まれなくて悩んでいたローレンを、なんか励ましているような意図が脚本にあった様な感じがします。けっきょくマストロヤンニは力尽きローレンは収監、でもここからの展開はいかにもイタリア人情喜劇という感じで、出所してパレードのような歓迎を受けて下町に凱旋するオチは、なんかほっこりさせられますねえ。『ミラノのアンナ』はちょっとフェリーニ味を感じさせる上流階級の女。でも停車するたびに前車にゴツンするところはなんかヘンな女です。マストロヤンニに運転させたら愛車が自損事故で大破、途端にそれまでのクールなブルジョワ風味から豹変して下町女みたいに喚き散らすところは傑作。さすがのマストロヤンニも愛想が尽きますよね(笑)。『ローマのマーラ』で演じるのは、いよいよ満を持して高級娼婦、そのメガトン級のナイスバディを堪能させてくれます。でもこのエピソードでもっと愉しませてくれるのは、ボローニャのボンボン息子・マストロヤンニの捧腹絶倒なコメディ演技です。彼は70年代以降の渋い二枚目ぶりがパブリック・イメージですけど、実は若い頃の軽妙なコメディ演技がこれまた絶妙なんです。ほんとにこの人は素晴らしい役者です。 まさにイタリア映画界お家芸の艶笑小話集なんですが、デ・シーカが手掛けるとこんなにシャレた作品に仕上がるわけです。これフェリーニが監督だったら、まただいぶ違った風味の映画になったんだろうな、何となく想像つくけど。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2021-11-19 22:17:45)(良:1票)
48.  キングコングの逆襲 《ネタバレ》 
東宝創立35周年記念大作!五年前の30周年は『キングコング対ゴジラ』、東宝特撮どんだけキングコングが好きなんでしょうか。 どうも本作は同年に放送されたアニメ版『キングコング』シリーズとコラボレーションなのか共通点が多く、アニメ版も実は日米合作で東映動画が製作しています。設定はもちろん違うけど、悪役はドクター・フーでヒロインはスーザンが名前というのも被ってます。そして今までのキングコングのイメージを一新するような人間の味方的なキャラ付けになっているのも両者の特徴。 コングの造形は、『キンゴジ』に比べれば体型がオリジナル・コングに近くなっているけど、よく見れば顔は相変わらず不細工です。特に眼つきがヘンで、視線がどこに向いているのか判りにくいのがなんかおかしい。でも敵役のメカニコングは東宝特撮に登場するロボット怪獣ではピカイチの造形美、コングの特徴を巧みにメタル化させた秀逸なデザインじゃないでしょうか。メカニコングは『地球防衛軍』のモゲラと同様の土木作業用ロボットという設定、本格的な敵役ロボット怪獣はメカゴジラまでいなかったんですね。モンド島のやられ役は、大ウミヘビは別にして、ゴロザウルスはCG登場以前の恐竜造形としては出色の出来栄え、ハリウッドのストップモーション恐竜も負けてるんじゃないかな。「怪獣の流血を見せたくない」という円谷英二の拘りで泡を吹くゴロザウルスの断末魔になったのは割と有名なエピソードですが、同時期のガメラ・シリーズが“怪獣スプラッター映画”化しているのと比べてみると東宝と大映の製作カラーの違いを感じさせられます。体長20メートルのコングに合わせた縮尺のミニチュアセットは東宝特撮の絶頂期だけあって完成度は高いですけど、一部に過去作の特撮カットが挿入されていたのはちょっと残念でした。 本編はこれまたユニークな脚本で、“南海の王者”のはずのコングを北極に連れてくるという発想には驚き。そしてドクター・フーの組織が巨額の資金を投じてメカニコングまで製作してシャカリキになっているのが鉱物採掘と言うのが、なんかぶっ飛んでますね。メカニが役立たないから本家コングを拉致してくるという発想ですが、これじゃブラック企業でこき使われる社員じゃないですか。だいいち、なんで北極に大地があるの?(アラスカかシベリアの北極圏というなら判らんでもないが) 本編での見せ場はやはり浜美枝のマダム・ピラニアということでしょうね。彼女は『キンゴジ』でもヒロインだったし、東宝には“浜美枝=キングコング”という方程式でもあるんでしょうかね(笑)。登場シーンの衣装はすべて違うし、北極アジトの中にラウンジ風自室を作らせてカクテルドレスを纏って色仕掛け、『二度死ぬ』なんかよりずっとボンド・ガールぽかったです。それにしても彼女、どこの国の工作員だったのでしょうか。「中国・タイ・ヴェトナム・ビルマ、そのどこの国でもないね」というドクター・フーのセリフがありましたが、まさか北朝鮮?
[CS・衛星(邦画)] 5点(2021-11-07 21:58:28)
49.  H.G.ウェルズのS.F.月世界探険 《ネタバレ》 
いくら原作がH・G・ウェルズといっても書かれたのは1901年、そりゃツッコミどころは事欠かないわけです。でもこの映画のストーリーテリングの巧みなところは、プロローグとエピローグに現代の月面探査シークエンスをおいて1899年と1964年を上手くつなげた脚本だと思います。ハードSF的な現代といかにも19世紀的発想のウェルズ小説のプロットが同じ時空間で繋がっているというのは、考えれば摩訶不思議な世界ですけどね(笑)。でも、同時代のメリエスが砲弾で月に到達するという『月世界旅行』を撮っていた時代に、「重力を遮断する物質」を推進力にして月まで到達するカプセルというプロットを考えつくのは、さすがウェルズですね。カプセルの中ではハンモック(?)に捕まって操縦、宇宙服が単なる潜水服で手の部分だけは手袋もなくむき出しなど、大喜びでツッコんじゃいます。ここら辺は原作通りなのかもしれませんが、映画自体がコメディ調なので文字通り笑って済ませることがお勧めです。月面の地下に広がる月面人の世界と遭遇してからは、ハリーハウゼン御大の手堅い仕事も確認できます。マントみたいなものを被った月面人は『スター・ウォーズ』に出てくるジャワを思い出させてくれますが、巨大な芋虫(原作では「月牛」と呼ぶらしい)はやっぱ強烈な印象を残してくれますね。芋虫のくせに脊椎骨格を持つ奇妙な奴、月面では生物が独自の進化を遂げたという言い訳はあるでしょうけどね。ここは原作通りなのか単に製作陣が生物学に無知だったのかは、追及しないようにいたします(笑)。終盤でカボールがやけに咳き込むなと思ったら、ラストは『宇宙戦争』と同じオチ。「ウェルズ、ネタの使い回しかよ」と思ったらこれはこの映画のオリジナル、まあ悪くないアイデアだったと思います。
[CS・衛星(字幕)] 5点(2021-10-11 22:11:26)
50.  十三人の刺客(1963) 《ネタバレ》 
三池版リメイクを先に観ていますけど、やはりオリジナルは正統派時代劇という感じです。悪役殿様は明らかに三池版よりもまともというか迫力不足(リメイクの稲垣吾郎がぶっ飛びすぎとも言えるけど)、最期も単なるボンボン育ちらしい小物感が濃厚だったのが残念。こんなのが老中になっても大した影響なさそうな感もあるけど、逆に体面のためには妾腹といっても将軍の弟までも抹殺する幕府というか武家社会の非情さを強調する意図のストーリーテリングなのかもしれません、まあ考え過ぎでしょうけどね(笑)。十三人の刺客たちの半数は正直言って誰と特定できないような無個性なのがこの映画の欠点だけど、片岡千恵蔵・嵐寛寿郎・西村晃をキャラ立ちさせれば良いという脚本の割り切り方みたいですね。リメイクと違って里見浩太郎・山城新伍という若手キャラが目立たなかったのも残念、きっとまだ時代劇全盛時代のことですから、千恵蔵・アラカンといった大御所がメインで若手が活躍するような映画造りは難しい時代だったんじゃないでしょうか。出番はわずかでしたが月形龍之介=牧野靱負もさすがの存在感。リメイクでも松本幸四郎がキャスティングされていますが、「このチョイ役になんで幸四郎が起用されるんだろう?」という疑問がありましたが、オリジナル版へのリスペクトだったと納得しました。内田良平=鬼頭半兵衛も鬼気迫る演技、東宝製作だったら仲代達也が演じたんだろうなという感じもして、この二人の侍姿は雰囲気が似てますね。 クライマックスの大活劇はまさに“集団抗争”と呼ぶに相応しいごちゃごちゃぶり、これはこれでリアルなんでしょうけど好き嫌いは分かれるでしょうね。あんだけカッコよかった西村晃の無様な最期と逃げ延びてなぜか哄笑する明石藩士がラスト・カットというカタルシスのない幕の閉じ方、この辺りこそが工藤栄一らしいところなんでしょう。
[CS・衛星(邦画)] 6点(2021-10-05 22:21:25)
51.  ウエスタン 《ネタバレ》 
“スパゲッティ・ウエスタン(アメリカではマカロニウエスタンがこう呼ばれていた)”の巨匠として名が知られるようになったセルジオ・レオーネが、ハリウッドに招かれ潤沢な予算とスター俳優を得て腕を振るった大作。でも本当にやりたかった企画は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』で、その資金稼ぎのために渋々引き受けた西部劇だそうです。元祖“三すくみ映画”監督だけあって、冗舌と言えるほどのストーリーテリングで三人の男の生きざまと死にざまを暑苦しく見せてくれます。 まず何と言ってもヘンリー・フォンダ、彼のフィルモグラフィ中唯一(たぶん)の悪役を堂々とした演技で見せてくれて、さすが名優です。その悪役演技に感動したジェーン・フォンダが、一ファンとして父親にファンレターを捧げたそうで、複雑だった親子関係だけに感慨深いエピソードです。70年代以降のフォンダは遺作の『黄昏』まで駄作での手抜き演技で晩節を汚してますから、実質的に本作で名優のキャリアを終えたと言えるんじゃないでしょうか。でも私が最も注目すべきだと思うのはチャールズ・ブロンソンです。レオーネ映画はクローズ・アップの多用が特徴ですけど、全盛期ブロンソンの魅力に改めて気づかされました。ブロンソンの顔(とくに鼻下から眉毛のあたりまで)どアップをこれだけ見せられるフィルムは他にないでしょう、最低限の表情変化でこれだけ哀愁を表現できるとは見直しました。この演技でオスカー受賞できなかったのはなんたることか!おっと、そういやノミネートすらされてませんでした(笑)。ジェイソン・ロバーズも良かったんだけど、あまりに髭面がむさ苦しかったところと、演じるシャイアンという無法者キャラが判りにくい存在だったのは難点です。ここに全盛期のクラウディナ・カルディナーレが絡むんですから、まさに“ヴィスコンティが撮った西部劇”みたいだという批評にも納得できます。願わくは、CCには脱ぎを見せて欲しかったな(おいおい)。 脚本には若きダリオ・アルジェントとベルナルド・ベルトルッチが参加しているというのも豪華です。冒頭の三人組殺し屋が駅でブロンソンを待つシークエンス、ジャック・イーラムの顔にたかる蠅を延々と追いかけるシーンは、ぜったい昆虫フリークのアルジェントが出したアイデアだと思うな。このオープニングでブロンソンに返り討ちされる殺し屋たち、実はイーストウッド、リー・バン・クリーフ、イーライ・ウォーラックの『続・夕陽のガンマン』トリオをカメオ出演させる構想があったそうです。もし実現していたら、『グラン・トリノ』の40年前にイーストウッドはスクリーン上で死を迎えていたわけです。 昨今では尺が長い映画は評価が低くなるという風潮があるのは、自分としては納得がいきません。やっぱ中身が大事なんですよ、いちばん。本作はその映像表現が冗長だという批評が目立ちますが、これだけエモいウエスタンを撮れた映画作家はレオーネしかいなかったんじゃないでしょうか。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-09-03 22:48:45)(良:1票)
52.  アパートの鍵貸します 《ネタバレ》 
その昔、明石家さんまがトレンディドラマに出ていたころ、有名な“テニスラケットを使ったパスタ水切り”をそっくり再現というかパクっていました。名優ジャック・レモンの伝説的なパフォーマンスをパロっちゃうとは、さんまというか演出家はいい度胸してるなと感心した思い出があります。 初めて観たとき、「NYってラブホが無いのかよ?」というのが強烈な違和感だった記憶があります。いくら一等地にある部屋だといっても、知り合いが住んでいる部屋に女の子を連れ込みますかね、それも急にムラムラしてきたってわけじゃなく一週間以上前から予約しておくなんてねえ。まあそれを言っちゃあ話が進まないので深くは掘りませんけど、貸しているジャック・レモンも出世のための苦行だと割り切っている俗物キャラなのがイイですね。シャーリー・マクレーンの演じるフラン(ファミリーネームがキューブリックというのが凄い)に関しては、“純情そうに見えるけどヤルことはヤッテいる女”という感じがするし、ほとんど極悪非道といっていい人格の部長に離婚させて後釜に収まろうとするちょっと嫌な女。でも最後の最後で突然目覚めてレモンのもとに飛び込んでゆくラストは、それまでほとんど彼女に感情移入できなかっただけに鮮やかな脚本だと感心します。 言ってみればこのお話しは典型的なシチュエーションコメディなわけですが、そこに微妙なさじ加減でペーソスが味付けされている、まさにジーン・ワイルダーじゃなきゃ撮れないラブコメだと思います。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-08-27 22:14:14)(良:1票)
53.  城取り 《ネタバレ》 
時は戦国、関ヶ原合戦に向けて徳川家康が策動を始めたころ。上杉征伐の軍勢が会津に迫ってきたのに呼応して北隣の伊達政宗は上杉家領内に多聞山城という出城を構築して会津征服を狙ってきた。憂慮を深める直江山城守兼続にたまたま侍大将・俵左内を訪ねてきていた名うての兵法者・車藤三は左内と五百両の軍資金があれば自分が城を落としてみせると豪語した。しかし多聞山城の城代は切れ者で知られた赤座刑部、果たして藤三の作戦は首尾よく事が運ぶのだろうか? 司馬遼太郎の『城をとる話』の映画化ですが、この日経新聞で連載された小説自体が主演である石原裕次郎に依頼されたもので、完結を待って石原プロが製作した映画です。裕次郎の相棒・左内には千秋実、これまた百戦錬磨の戦上手だけど銭を貯めることが生きがいというキャラが面白い。堺の白粉行商人役で芦屋雁之助と伊賀の抜け忍として若き日の石立鉄男が城取りチームに加わりますが、口八丁の雁之助が傑作なキャラでした。作戦としては城の建造現場に潜り込んで銭を使って使役されている村人たちを決起させるという割とオーソドックスなものですが、ストーリー展開はどこか『七人の侍』を意識している感が強かったですね。『七人の侍』とは大きく相違するところは悪役で、赤座刑部=近衛十四郎がこれでもかという存在感とキャラ立ちで、完全に裕次郎を喰っていました。裕次郎と十四郎のチャンバラ対決は当然のごとくラストで用意されていますが、互いに長太刀を使って太刀がぶつかり合う瞬間に激しく火花が散る夜間を活かした演出が印象的でした。ちょっと気になったのは裕次郎のセリフ回しで、彼だけはほとんどのセリフが現代調なんです。藤三が村人を集めて作戦説明するシークエンスでは、「こんばんは、皆さん」って裕次郎が挨拶するのにはズッコケました(笑)。 城取りチームの四人は誰も死ななかったけど、ヒロインの中村玉緒など死者が村人衆だけというところが『七人の侍』と大きく違ったところですかね。テンポも良く個々の役者もいい芝居してるんだけど、なんか物足りない、要は裕次郎のチャンバラを見せるための映画だったということかもしれません。
[CS・衛星(邦画)] 6点(2021-07-30 23:12:26)
54.  残酷・異常・虐待物語 元禄女系図 《ネタバレ》 
石井輝男・東映時代ポルノシリーズの一作ですけど、前作が悪名高き『徳川女刑罰史』なのでなんか大人しく感じてしまうのはヘンな感覚です。オムニバス三話構成で狂言回し的な役割で吉田輝雄が各話に登場しますが、まあぶっちゃけてしまえばあまり必要性がないキャラでした。 第一話の『おいとの巻』はありふれた感じの吉原を舞台にした廓悲劇といった感じで、『残酷・異常・虐待』の中で『虐待』パートという位置づけですかね。第二話の豪商の変態娘がヒロインの『おちせの巻』は『異常』パートになるんでしょうが、ストーリー自体は江戸川乱歩チックな趣きがあり、ラストの長吉がおちせを背負ってすすきの原っぱを彷徨うカットは、アンリ・ジョルジョ・クルーゾーの『情婦マノン』パクリというかオマージュでしたね。でもやはり強烈だったのは第三話『残酷』パートの『おみつの巻』でしょうね。まず小池朝雄の狂った殿様は怪演としか言いようがないです。側室の賀川雪絵はなんの脈絡も必然性もなく金粉塗り・ゴールドフィンガー状態にされちゃうところは、もうわけ判らん(笑)。そして『屋敷女』を四十年先駆ける妊婦腹裂き・胎児取り出しシーン、60年代の日本映画とは信じ難い映像です。とは言ってもよく観ればチャチな撮影ですけど、特殊メイクの妊婦の腹を刀で斬り開くところを正面から撮ってるのはちょっと酷い(血は全然出ません)。まあ取り出した胎児が大きめのキューピー人形みたいだったのは失笑ものでしたけどね。 当時の東映のラインナップを振り返ると任侠・実録ものとこういうポルノ路線でほとんどが占められていて、これじゃあ佐久間良子とかの大物女優が逃げ出したのは無理ないかなと思います。
[CS・衛星(邦画)] 3点(2021-07-21 23:21:33)
55.  徳川女系図 《ネタバレ》 
記念すべき(?)“東映ポルノ”シリーズ第一作にして、大手映画会社が製作した初の成人指定映画なんだそうです。実は日本で“ポルノ”と銘打った映画を初めて撮ったのは東映で、日活ロマンポルノより早かったんですよ。こんなことになったのは当時の東映社長がボウリング場経営などのレジャー分野進出に熱心で映画製作に興味を無くしてしまい、映画部門を制作本部長の岡田茂に丸投げしたからなんです。当時のピンク映画の隆盛を目の当たりにして「これからはポルノでゆくぞ!」の鶴の一声、ヒットが続いてとりあえず路線変更は軌道に乗りましたが、ふつう東大出の重役がこんなことしませんって。それまで散々時代劇を製作してきた東映ですから衣装やセットはストックがあり、ピンク映画じゃ真似できない豪華なエロ映画が誕生したわけです。 五代将軍綱吉時代の大奥が舞台ですから、とうぜん出演者はほとんど女優。エロの方は試写を観た岡田茂に「期待したよりもおとなしい」と言われちゃうぐらいですから、大したことない。でも凄いのはエキストラ的な役柄の大奥のその他大勢の女たちで、当時のピンク映画界隈の女優を大挙出演させています。その女優たちがオッパイ丸出しで繰り広げる乱痴気騒ぎが見もので、これほど大量のオッパイがスクリーンに映ったのは日本映画史上で初の快挙(?)だったそうです。でもそこそこ名が通った女優は肌や太ももを見せるぐらいでほとんど脱ぎがないというのは、女優格差があからさまで笑っちゃいます。 ドラマ自体は石井輝男が監督だけあって、綱吉の下々からすれば贅沢な苦悩をテーマにして割とカッチリ撮られています。荒唐無稽なストーリーながらも将軍綱吉の伝わっている故事がさりげなく散りばめられた脚本かと思います。ラストは御台所信子が綱吉を刺殺するトンデモ展開ですが、実は俗説のなかに“綱吉・信子、無理心中説”があるそうなので、良く調べてるなと感服いたしました。 「(二つの)丘を下れば林もございます、お疲れになったら川の水も飲ませて差し上げます」、この意味深なセリフは綱吉に愛撫される女中が発するものです、こういうセンス好きです(笑)。
[CS・衛星(邦画)] 6点(2021-05-10 22:21:50)
56.  動く標的
フィリップ・マーロウ、サム・スペードと並んでロス・マクドナルドが産み出したリュー・アーチャーはアメリカ・ハードボイルドにおける三大私立探偵の一人といって過言はないでしょう。実はスペードは、ハンフリー・ボガードが『三つ数えろ』で演じた以外はスクリーンに登場していないのですが、何故かハーパーと改名されちゃってるけどアーチャーもポール・ニューマンが演じただけなんです。でもこのニューマン演じるリュー・ハーパー(アーチャー)は、彼の全盛期の出演だけあって渋さとカッコよさではオールタイム・探偵映画の中でもベスト1なんじゃないでしょう。 名手ウィリアム・ゴールドマンの最初期の脚本であるわけですが、ロスマク特有の複雑なプロットと心理描写を上手く脚色できなかったのは痛いですね。どこかストーリーを追うだけで必死という脚本で、いくらニューマンのハーパーが魅力的といっても映画としては高い評価はできないですね。せっかく“ハードボイルド女優といえばこの人”となるローレン・バコールも出演してるんだから、もうちょっと彼女の見せ場を作って欲しかったところです。シェリー・ウィンタースも勿体なさを感じる使い方でした。 ハーパーが目覚ましに起こされて出がらしでコーヒーを淹れるまでのタイトルバックを観てなんかデジャヴ感がありました。そう、あの有名な『傷だらけの天使』のオープニングが、ショーケンの飲んだのが牛乳という違いはあるけど進行が同じなんです。きっとこの映画が元ネタだったんですね。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2021-05-04 22:24:41)
57.  恋愛ズバリ講座 《ネタバレ》 
この映画は大手の映画会社としては日本映画史上でも前代未聞の作品です、60年前の製作ですけどその後も同種の映画は撮られていません。というのも、実はこの映画のスタッフ・キャストは全員ノーギャラ、つまりボランティアで撮られたってわけです。 時は昭和36年、新東宝の名物ワンマン社長である大倉貢は大騒動の挙句に社長の座を投げ出して経営から身を引きました。さて新体制となりましたが、資金繰りも行き詰まっていたので配給できる映画が無い!そこでスタッフや所属俳優の有志が集まってとりあえず封切館にかけられる映画を一本急いで撮ろうとなったわけです。会社の金庫は空っぽなので全員ノーギャラとなりましたが、当時の新東宝の主演クラスからわき役までほとんどが参加しています。それでも丹波哲郎や三ツ矢歌子など見えない顔触れもいます、まあ彼らの中でも温度差があったみたいですね。エログロで売っていた新東宝ですから「生まれ変わった新東宝映画を観てください!」というスローガン的な意味合いもあったかもしれませんが、出来上がったのが大蔵体制とは大差ない艶笑コメディだとは苦笑いするしかないです。 そんな経緯で完成したわけですけど、わずか七日で撮影終了したとは思えない出来なのはさすが新東宝と呼ばせていただきます。三話構成のオムニバスになっていますが、どのエピソードも『恋愛ズバリ』とは縁がないお話しなのもミソです。中でも第一話『吝嗇(けちんぼ)』がもっともぶっ飛んでいて、新東宝でもこんなシュールでシャレたコメディが撮れるんだと唸ってしまいました。だいたい、天知茂がコメディするなんて想像を超えています。彼が演じるドケチ社長が大倉貢のカリカチュアであることは明白、ここまでコケにするとはスタッフの恨みというかルサンチマン恐るべし、です。星輝美以外の出演者は全員無表情で超早口でセリフは棒読み。しかもバストショットは全部正面向いてカメラ目線、こき使われる周囲の人間たちの「ケチンボ、ケチンボ、ケチンボ…」という心の叫びを聞かせるところなんか笑っちゃいます。まるで市川崑が撮った様なアヴァンギャルドなコメディですが、天知茂の俳優人生唯一(多分)のコメディ演技をご堪能あれ。 第二話『弱気』は観ればすぐ判りますが、ゴーゴリの『検察官』の翻案というかパロディなんです。三話中では本話だけがブラック風味が希薄で、田舎が舞台というだけでほんわか風味なんですが、捻りもオチもない幕の閉め方はちょっとどうかな?って感じです、もっと薬味が必要ですよ。菅原文太の髪を七三分けにした黒縁メガネのサラリーマン姿というのは新鮮でしたが、相変わらず大根演技でした。 第三話『好色』は三話の中でいちばんブラックです。お相手を殺して次の獲物を探す結婚詐欺師の夫婦、今度の獲物は東北弁丸出しの幼稚園の保母である三原葉子だったが・・・というお話し。やはり見どころは、酔っぱらった三原が酒場でストリップ、下着姿になって腋毛丸出しで踊り狂うところでしょう。石井輝男らしくサービス精神あふれていますが、彼の盟友である吉田輝雄が本人として顔を出しているのもなんか可笑しい。ラストには意外なオチが用意されていますが、ちょっと『笑うセールスマン』に通じるブラックさがありました。三原のズーズー弁も可愛かったな(彼女は岩手県出身)、コメディエンヌとしての才能も垣間見れました。 とまあ珍品であることは否定できませんが、これだけの作品を七日で製作しちゃう新東宝の底力は認めねば可哀そうでしょう。もっともその後半年足らずで倒産しちゃいましたけどね。
[CS・衛星(邦画)] 7点(2021-03-30 00:00:43)
58.  徳川いれずみ師 責め地獄 《ネタバレ》 
東映“異常性愛路線”といえば言わずと知れた石井輝男、この路線で彼が監督した作品中では本作がもっとも有名なのかもしれません。もっとも本作のプロットはオムニバスだった『徳川女刑罰史』の一エピソードを拡大再利用したものなので、この頃にはさすがにネタ切れ状態だったみたいですね。それにしてもこの“異常性愛路線”は末期とはいえ60年代の製作、日活がロマンポルノ専門になる前ですから東映というか制作本部長だった岡田茂のえげつなさは相当なもんです。 ストーリーもぶっ飛んでます。将軍が綱吉だった時代の二人の刺青師(吉田輝雄と小池朝雄)が腕を競い合うという設定なのに、話が進むうちに長崎・出島が舞台に変わってしまいます。二人は遊郭に所属して遊女に刺青を彫っているので、そりゃハダカは飽きるほど観れます。タイトルバックの処刑シーンも唐突感が拭えませんでしたが、この遊郭はSMクラブでもあってやたら遊女を吊って痛めつけるシーンが多いんです。刺青はそりゃ絵でごまかせますけど、当初の主演女優がきつすぎて失踪したぐらいですから、この吊り責めシーンはマジで撮影してたみたいです。助監督たちが抗議行動を起こして天下の朝日新聞がキャンペーンを張ったぐらいですから、まさに大炎上です。悪役の旗本がなぜかおしろいを塗ったキャラだったり女囚の中に女装した大泉滉と由利徹が交っていて声だけは女優が吹き替えしているなど、「?」がいくつも並ぶところが多々あります。出島のシークエンスもかなりぶっ飛んでいて、まるで香港か上海租界みたいなところでそこには怪しげなカスバみたいなマーケット(?)があるんです。『黄線地帯』で神戸にカスバを出現させた石井輝男ですが、本作の出島カスバの方が造りこみや不気味さは上を行っています。笑っちゃったのはラストの商館でのシーンで、なんと江戸時代なのにこの館は壁のスイッチで照明が点灯できるんです! ラストカットの娼館女将の又裂きの刑も強烈でしたが、ハチャメチャなお話しをサービステンコ盛りでとりあえず観れるものにしちゃうのは石井輝男の力量の成せる技としか言いようがないですね。封切時はコケたけど、近年では海外やサブカル界隈で評価が上がってきたそうですが、そんな熱を込めて褒めるような映画じゃないのは確かです。
[CS・衛星(邦画)] 5点(2021-03-24 22:48:43)
59.  狙撃 《ネタバレ》 
冒頭の新幹線狙撃のシーン、冷静にあんなこと絶対にできるはずないじゃんと突っ込んじゃいますけど、煙草の煙で風向を測ったりする手順を丁寧に見せられると「こいつなら出来るかも」と納得させられちゃうから不思議です。若大将をプロのスナイパーに転職させるとは東宝も当時としては思い切ったものですが、もともと演技力には難がある加山雄三ですからこういう寡黙で劇中ほとんど表情を変えないキャラは彼の素質を活かす新境地だったかもしれません。新境地と言えばなんと浅丘ルリ子とのベッド・シーンまであるというまさかの展開、今の眼では全然大したことないですけど若大将には胸毛が生えていたというのは新発見でした。たしかに銃に対する拘りは印象的で、森雅之がモーゼル・ミリタリーを撃つシーンではちゃんと薬莢が排出されるところが映っているのはさすがだなと思いました。日本映画では、コルトガバメントみたいな自動拳銃でも撃っても銃身がスライドせず、銃口から火花が出るだけというのが当たり前ですからねえ。これまた極端にセリフがない殺し屋森雅之もある意味加山を超えたカッコよさで、金髪女を侍らせて殺し屋家業に励み一人でカートを引っ張ってゴルフコースをラウンドするというちょっと訳が判らない渋さです。浅丘ルリ子も割と早めに加山の稼業を知ったのに大して驚きもせずその後も離れない、悪女チックなキャラは好演です。でもあのニューギニアの原住民(?)に扮装して民族の踊りを披露するところは、シュールというよりもほとんどギャグですよ。とくに黒塗りした加山の顔は、私にはラビッド関根(関根勤の若かりし頃)にしか見えず困りました。ほんとこの映画の脚本はクセが強くて、当時全盛だった全学連のアジ演説みたいなモノローグが入ったりして、今の眼で見ればクサ過ぎます。浅丘ルリ子の幻想的なというかサイケデリックな心象シーンなんかも、シュールというよりも『あの胸にもういちど』の単なるパクりのような気がします。説明過多とは無縁なストーリーテリングは良かったですけどね。
[CS・衛星(邦画)] 6点(2021-03-15 22:17:54)
60.  しとやかな獣 《ネタバレ》 
ほぼ団地の一室だけに限定された空間で繰り広げられる密室劇。登場する四人の家族のキャラの異様さは数ある日本映画の中でもほぼ頂点に近いんじゃないでしょうか。「うちの娘は不思議と妊娠しないんですよ」という伊藤雄之助のセリフがありますが彼は私が今まで観た映画でもっとも異様な父親です。要はこの夫婦は息子が横領してきた金と娘が愛人からせびってきたカネで優雅な暮らしを維持する寄生虫みたいな存在ですけど、妙に丁寧な言葉遣いで捲し立てられる二人のそれを正当化するロジックは、聞いているとふと納得してしまいそうになるから恐ろしい。基本的に横移動に徹する撮影には、歌舞伎の音を挟んだ進行もあって歌舞伎か能の舞台を見せられている印象すらあります。またこの映画の特徴は、劇伴としての音楽の使用を最低限にして、開け張られた窓から聞こえる音がその代わりを果たしているように感じるところです。ジェット機の轟音、蒸気機関車の音、夕立の雷、そして最後は救急車(パトカー?)のサイレン、などが印象的な使われ方をされています。そして時おり挿入されるドイツ表現主義を思わせるような誇張された階段を使った人物の心象表現がまた深みをつけてくれていますね。ここまで来ると、もうコメディというよりも心理ホラーと分類した方が正解かもしれません。全編でほとんど感情を交えることなく押し通す若尾文子の悪女も秀逸で、彼女が演じた中で最高のヴァンプなのかとすら思えます。 やはり本作は新藤兼人の脚本の最高傑作じゃないでしょうか。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2021-03-09 22:41:09)(良:1票)
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