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tottokoさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 2001
性別 女性
自己紹介 周りに映画好きな人があまりいない環境で、先日はメリル・ストリープって誰?と聞かれてしまったりなのでこのサイトはとても楽しいです。
映画の中身を深く読み解いている方のレビューには感嘆しています。ワタシのは単なる感想です。稚拙な文にはどうかご容赦を。  

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【製作年 : 2010年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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41.  MUD -マッド- 《ネタバレ》 
14歳。100%純な子どもではないけど、大人な割り切りや算段もできない時期。ジュヴナイルドラマにぴったりの年齢なのでした。今作はそんな多感な彼らを取り巻く環境、特に地域背景の描き方がとても秀逸に感じました。アーカンソーの片田舎ってだけで‶古き”南部の街がイメージされるうえ、主人公エリス少年の家はミシシッピ川のほとりのボートハウス。アメリカにこんな住環境があるんだ、と驚きます。もっとも行政からは撤去を求められているとのことだけど。 エリスは両親が離婚寸前だし友人のネックボーンも親がいなくて叔父と暮らしており、決して裕福でない彼らの青春もまた米国のリアルなのですね。 14歳の夏にエリスとネックボーンが遭遇する大人たちの人生ドラマ。いつか彼らも齢を重ねてこの頃を振り返ったら、その眩しさと若さに改めて思い至るのでしょうか。ああ年上の彼女にあっけなく振られたな、バカだったな俺。とかマッドって珍しいほどの純情一徹なやつだったな、でもそんな男にも打算てものがあったんだよね今なら分かる、とか30過ぎたエリスならこんな風に思い出すかな。 若いって、幼いって、「分かってない」けどでも理屈抜きに正しい。 ラストに愛も家も永遠不滅ではないのだと知る14歳の夏。ビターな通過点だけど大人へ向かうエリスたちに強さとしなやかさも感じる素敵な作品でした。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2022-07-02 18:55:19)
42.  ANNA/アナ(2019) 《ネタバレ》 
美しくて超強い無双のヒロインのアクションもの。ベッソンの十八番だけあって、ベテランならではのこなれた脚本とカメラが流石です。 なにしろ勢いがあるので、3年で無双スパイに仕上がる逸材がヤク中バカ男のところでDVにさらされてたのは不自然に感じるとか、KGBにスカウト(!)されるきっかけが海軍応募フォームだという雑な処理等、細部はほとんど気になりません。まあいいか、という感じです。 時間軸を戻してネタバレしながら展開する話はその都度驚かされて楽しかった。マッチョなKGBとインテリCIAを手玉に取る女殺し屋という構図も小気味よいですが、三者のさらに上を行く御大ヘレン・ミレンがラストをびしっと締めたのにはシビれました。角縁メガネで旧ソ連な髪形。しょっちゅう風邪気味のKGB女上官。この造形がすごく巧い。ルーク・Eが書類を指す手を一々払いのけるんですよね。鼻をすすりながら。酷薄に見えて実は、というのが話の肝です。ああしびれる。 新星サッシャ・ルスはアクションを吹き替えなしで、との志も高く頑張り屋さんのようです。現役モデルだけあって作中の衣装の着こなしやポージングは完全にプロです。この人の顔は角度や動きや服装で別人のように変わるのですね。演技はまだ固いですけどこの顔変化の特性を女優としてどう活かすかが楽しみです。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2022-06-09 16:33:52)
43.  15年後のラブソング 《ネタバレ》 
中年同士の恋愛もの、とくくるには「惚れた腫れた」感があっさりしていてべたつかず、そこがとても心地よかったです。 アラフォーともなると男でも女でも背負ってきた人生の事情がてんこ盛りで、その分互いに新しい出会いには臆病になるもんですわな。今作では病室でのタッカーの親族大集合の場面がソレで、なんかもう笑っちゃうやら気の毒やら。 主演二人が良いんですよ。イーサン・ホークもローズ・バーンも若々しくて、大人だけど迷走しているところなど共感のツボがたくさん。E・ホークは本作で初めて凄く良い役者に感じました。ハマリ役っていうんですねきっと。 あと、脇を務める熱狂的なタッカーファンのダンカン。この人の、熱に浮かされ気味の空回りっぷりがお話のアクセントになってて巧い作りです。どこの国でも熱心すぎるファンって、対象のアイドルからは(近い気分でいて)遠いモンなんですね。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2022-03-13 23:18:38)
44.  ハッピー・デス・デイ 2U 《ネタバレ》 
続編はパワーダウン、という定説を覆す実に立派な2作目。B級だからとは決して侮れません。むしろ2作目3作目とコケていくA級大作よりずっと上等と言えるでしょう。 前作に盛り切れなかったディテールをより練り上げてきているのが感心です。というか前作がまるごと伏線です。1作目のエンドロールを見ながら「ところでなぜにタイムループするの?まあいいけど」とちらっと思ったのですが、まさか冒頭から物語の基盤である謎が氷解するとは。ちゃんと用意していたんだ。丁寧な仕事だなあ。 パラレルワールドの解釈も分かりやすいです。今度は時間軸プラス空間もズレる、その中でヒロインが成長する図は前作同様ですが描き方がより洗練されました。母親とのエピソードには不覚にも涙腺が緩みました。ハッピー・デス・デイでまさか泣くとは。 死の描写がキツイと思う向きもたくさんいるでしょうけど、‶爽やかさ”まで獲得した稀有なホラー続編の本作。自信をもっておすすめです。あ、1作目から観てね。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-12-04 23:23:48)(良:1票)
45.  ホテル・ムンバイ 《ネタバレ》 
ホテル・ムンバイの中に連れて行かれたような凄まじい臨場感でした。回廊の中を逃げ惑い、非常階段を駆け下り、背後からあるいは頭上から雨あられと銃弾を浴びせられるような。実話だということで恐ろしさは五割増し、ダイ・ハードを観ていた時の‶ハラハラを楽しむ”心の余裕はゼロです。 そう、マクレーンのような絶対的ヒーローが実話にはいないのです。アーミー・ハマーが手縄をこっそりほどくことに成功しても活躍には至らない。「元」プロ軍人のロシア人ですら丸腰では戦えない。地元警官二人も犯人狙撃に成功しない。この ‶上手くいかなさ”が痛いほどに現実的なのです。 それなりの存在感を与えられていた人物が容赦なく死んでゆく。誰が生き残るか全く読めない。テロのリアルな恐ろしさがここにあります。 犯人らの余りに非道な行いには震えるほどの怒りを感じるけど、こんな凶行に及んだ彼らの目線も織り込んであって考えさせられます。絶望的な格差社会の底辺で貧困にあえぐ彼らの家族。希望したレストランが満席なくらいで機嫌を損ねる金持ちがいる一方で、水洗トイレすら知らずに育つ若者がいる。そしてそんな貧者の心に宗教をもって入り込んで人殺しの駒に使う指導者。悪いのは誰なのか。単純に答の出せない今世紀の大問題をも提起した作品でした。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-10-16 23:17:26)(良:2票)
46.  ミッドサマー 《ネタバレ》 
これまでのホラーの文法がことごとくハマらない演出が目を引きます。暗さは必須。なので夜に何かが起きることが定番でしたが、本作はほとんど昼間に事が起き、というか白夜の北欧が舞台なのでそもそも「夜の暗さ」をハナから排除しています。 廃墟とか不潔感が一切なくて、明るく清潔。色とりどりの花も木々の緑も人の笑顔も(一見)美しい。この白さ、光源の多さが暗がりよりもいっそう鮮血を禍々しく見せてしまうアンビバレンツ。 ヒロインも絶叫しません。恐怖で声が出るのは、‶それが怖いものだ”と「瞬時に」悟るからなのですね。今作ではF・ピュー演じるダニーは冒頭からじわじわと精神を追い詰められてゆきます。彼氏が信頼に足る人間ではないのではないか、参加者が減っている、変だな変だなと思いながら叫ぶ機会を逸しているのです。 そう、叫ぶというより慟哭する場面が終盤にあります。彼女の嘆きに共鳴する女たち。この芝居がかった正常とは思えない共感反応。親切そうな彼女らが実はガチでヤバイ、と気づいたときはすでに我々もダニーも時遅し。ラスト、完全に精神がぷっつりと逝ってしまったダニーの表情をなすすべなく見つめるしかありません。 監督はかの「ヘレディタリー」で趣味の悪さを明らかにしていますが、今作ではさらに見せ方が洗練されました。美術も一級です。 F・ピューは素朴な顔立ちで下半身がしっかり体型の、ぱっと見骨太健康女子です。それが北欧の白く華奢な腺病質ぽい連中に取り巻かれて、さしもの健康な肉体がじわじわと殺されるように見えました。フローレンスの起用は残酷さを際立たせるのに上手く機能したように思います。 アリ・アスターはもちろん「観なきゃ良かった」系の映画監督ではあるけど、テーマは抽象的ではなく分かり易いホラーです。観る者にやな思いをさせたあげく、自己満足のみの哲学系作品よりはよほど親切と言えるでしょう。現代ホラーの最高点に置くことのできる監督と思います。嫌だけど。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-09-10 23:58:50)(良:1票)
47.  少年は残酷な弓を射る 《ネタバレ》 
色んな記事を見るに、衝撃的なこの作品を‶誰の立場で”観るかで感想がずいぶん違うものですね。わたしは子どもを育てた母親であるので、エヴァの身になって観ました。ケヴィンのように難易度の極めて高い子を育てるのは生半可なことじゃあありません。彼女は良くやったと思います。自分のキャリアを続けたい、こんな手のかかる子はしんどい。誰でも抱く辛さです。育児あるあるです。彼女なりに精一杯子に向き合ってるのに、キャパ以上の愛を要求されたってどうすりゃいいのでしょう。 なにせケヴィンはおっそろしく知的レベルが高い。そのうえマザーコンプレックスが強い。彼の母に対する想いは思慕というより執着で、立派なサイコパスといえると思います。あの「時計じかけのオレンジ」アレックス以来の大型物件です。(そういや年齢も同じだ) ケヴィンの狡猾さは幼少時から現れています。母親の失点(骨折事件)は他に漏らさず、秘密を共有しようとする。また、相手によって態度を変える。そんな子は集団の中にはしばしばいますが、たいていの場合大人には見透かされることがほとんど。でもケヴィンは天才的というか悪魔的というか最後まで父親をだまし通すことに成功しています。彼が生来の残酷な性質を見せるのは母親にだけ。捨てずにとってある幼い頃の絵本。求めていたのは母の愛、関心、承認。 ケヴィンの破壊願望がついに臨界点を超えたのは両親が離婚、親権は父親にと聞いたとき。とうとう母に見捨てられるのだと感じたのでは、と推測します。父親のことなどちょろい奴、と軽蔑していたでしょうし妹も憎らしいだけ。世界の全てを破壊してパトカーの中から母を見据える視線は「これでも俺を愛せるかい?」 子育てする全ての親を震撼させる展開でしたけど、エヴァが息子の悪魔性を凌駕するほどの強固な母性を見せるのがこの陰惨な話の唯一の光です。生き地獄に落とされようと、彼女の母性は枯渇することは無かった。かつての若き冒険家は、粛々と息子との運命を受け入れるやつれた母となりました。「分からなくなった」と憑き物が落ちたようなラストのケヴィンの表情が印象的です。 エズラ・ミラーの美貌がケヴィンのキャラクターにぴったりで、同じくどことなく俗人離れした顔つきのティルダ・スウィントンを母親にしたキャスティングの妙が光ります。よく似ているので、ああ親子なんだ、とすっと納得できます。全く別人種顔のJ・C・ライリーが父親というのもまた上手い。彼は最後まで「理解せず」の人でしたからね。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2021-01-23 16:54:21)
48.  イコライザー 《ネタバレ》 
ヒーローが悪者をやっつけるB級モノってあまりタイプじゃなくて、これもさほど期待していなかったのだけどいやいやとても良かった。高得点につられて良かったです。レビュワーの皆さんありがとう。 まず人物造形が丁寧で良いです。D・ワシントン演じるロバートがどういう人間か。出勤前にしてすでに整えられた寝室、きちんと作られる朝食。スニーカーにブラシをかけて時計をチェック。冒頭2分で彼の人となりを説明し尽くす、これら無言のシーンがスマートです。 何かにつけ、行動に要した時間を計る習慣のロバート。彼が世直し的に悪い連中を成敗していくときのカタルシスったらハンパなく、今作の大きな見どころです。 もうすっかりオジサンのD・ワシントン。もっさりした立ち姿で決してK・リーヴスやT・クルーズのようなカッコ良さはないのですが、とにかく頭が切れて攻撃の要点を押さえた無駄の無い仕事をします。説教も殺しもなんという手際の良さ。いぶし銀という言葉がよぎります。時々笑顔を見せるのですが、これがいかにも善人そうで温かい表情なんですよ。傷ついた娼婦も心惹かれるってもんです。 その娼婦役のクロエ・G・モレッツ、人生いっぱいいっぱいの痛々しい演技が見事です。 敵となるロシアンマフィアの刺客の徹底した残酷ぶりも相手として不足なしでした。 思えば、一度も銃を使わなかったロバート。なるほど、彼自身が‶イコライザー(=致命的な武器)”ですもんね。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-11-28 00:09:20)
49.  女は二度決断する 《ネタバレ》 
震えながら観ました。D・クルーガーの放つ凄まじい絶望感に。あまりに理不尽な展開に。ラストを見届けた後も震えが止まりません。 あのエンディングをどう思うか、色々なサイトでは是の人もいれば非の人も見受けられます。 痛いほどに思うのは、暴力は人の心を粉砕してしまうのだということ。D・クルーガーが演じるカティヤの真っ暗な瞳。以前は仲良かった友人のめでたい出産も、我が子をあやす友の幸福が逆にナイフとなってカティヤに刺さる場面は、二人の対比があまりに残酷でありました。まるで死者のように感情を失った顔のクルーガーの演技は辛くて見ていられないほどです。 復讐だけをよすがに日々息をしている彼女。犯人逮捕の一報で復讐の糸筋が見えたことで、彼女は戻ってきたのに。 連中だけを死なすこともできたのです。一度はそうしようとしたのです。だけどカティヤの心は修復不可能なほどに、希望を持てない死に体になっていたのでしょう。戦友である弁護士の上訴の勧めにも背を向け、再びやってきた生理にも新しい家族の可能性という希望などもはや抱けずあの決断をしたのだと思うと、私は「時が癒すからがんばろう」とは軽々に彼女に言えないのです。 傷だらけのカティヤをさらに鞭打った被告側の弁護人のことは一生許しません。許しませんとも。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-11-22 23:57:34)
50.  バッド・ジーニアス 危険な天才たち 《ネタバレ》 
タイ映画と聞いて抱いた先入観を吹っ飛ばすほど垢ぬけていて、大変面白いので失礼ながらびっくりしました。 実話ベースとはいっても、そこから広げたカンニングのアイデアが秀逸で、目が真ん丸になるばかり。企みがバレそうになる、ギリギリの際のドキドキ感を煽る演出も巧い。STIC本番で独り荷を背負うことになったリンの汗だく&手の震え場面は観てるこっちも冷や汗をかきますし、本国で待機する鉛筆待ちのバイク集団の時間との闘いなんかは大仰なのだけど、観てる間は「そんな馬鹿な」という気持ちを忘れます。 単純に「カンニング大作戦!」的なコメディにするのではなく、格差社会の青春を生きる若者らのドラマに仕立てたのも味わいを深くしました。清廉だったクリーニング屋の息子が金銭欲に呑まれてしまうラストは苦く、リンの抱いたほのかな恋情の終わりでもあるので切なくもありました。 スピーディな展開、暴走する子へのストッパーとなるリンの父の存在といったキャラクター配置の巧みなこと等、一流の脚本であります。近年のアジア映画は凄い。日本はうすぼんやりしたアイドル主演の青春映画を作っている場合ではありません。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-10-09 23:13:37)(良:2票)
51.  ビューティフル・デイ 《ネタバレ》 
作品紹介でスリラーとあったのですが、本作は違いますね。人の死に方がオソロシくて血も飛びますけど、テーマはPTSDと闘う男の凄絶な心の軌跡。画も音楽もビターで内省的。とりわけ音楽は劇中のラジオが音源だったりすることが多く、これが作品世界にすっと入っていける効果をもたらしているように感じました。 ホアキン・フェニックスが只事じゃない重たさです。幼少期の父親の虐待に始まって、軍の任務で経験した数々の不条理な暴力でジョーはすっかり心をやられてしまいました。何度も死のうとして、でもギリギリ踏みとどまってきたのは母親の世話があるから。二人でフォークを磨いたり、子どもの頃に口ずさんだ歌を思い出したりする姿は、説明の少ない本作の中で彼らの結び付きがうかがい知れる心安らぐ場面でした。 母親は死んでしまったけれど、ニーナがいてくれる。観る者が希望を抱くのは、彼女が若くて心の芯が強そうだから。彼女もさんざん傷ついているのに「今日はいいお天気よ(It's a beautiful day) 」とジョーが立ち上がるきっかけを与えることができるのだから。 窒息しそうなジョーが息をつくことのできる人生を取り戻してほしい。ショッキングなラストの自死のシーンが現実でなかったと分かった時、わたしは本当に、心からほっとしました。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-08-11 23:41:15)
52.  タクシー運転手 約束は海を越えて 《ネタバレ》 
韓国映画の印象と言えば(個人的に)サスペンスものなんかはグロがきつくて辟易することも多いです。でも本作のような社会派作品も多々ある裾野の広さとか、しっかり娯楽作品として仕上げる力量の大きさには感嘆します。 光州事件を扱った本作は民衆弾圧への怒りが太い柱となって作品を貫いており、その描写のリアルなことはあまりの凄惨さに言葉を失うほどでした。建物も人々の暮らしぶりもちょっと前の懐かしい日本の風景とそっくりなのに、決定的に我々に経験が無いことは軍が市民に実弾を発砲してくるという恐怖。衝撃でした。 なんたってソン・ガンホが良いですよ。彼の出ない韓国映画を観ることの方が少ないくらいですが、この人の顔は味があるというかホントに良くて、「市井の一市民」を演らせると天下一品。彼の演じるタクシー運転手はソウルのいわゆるノンポリな一般市民。当初は学生デモを見て「高い授業料払ってるんだから勉強しとけや」と苦々しく思っていたのが、事件の只中に巻き込まれることになって自国で起きている事実を知る。中盤で面倒ごとから逃げるか、自分の中の正義に従うかハンドルを握りながら葛藤する数秒間のソン・ガンホの表情に注目です。このシーンがこの作品の訴えたいテーマ全てです。名優というのはそんなわずかな時間でも人の心に訴える仕事ができるものなのですね。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-06-13 23:49:31)(良:1票)
53.  フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 《ネタバレ》 
フロリダのディズニーワールドの近隣に暮らすムーニーは6才の女の子。パープル色の大きなアパートの一室にママと二人暮らし。いろんな棟に友だちがいる。引っ越していってしまう子も多いけど、また新しい友だちが越してくる。管理人のおじさんはいつも小言が多いけど良い人で好き。毎日友だちと遊びに行くんだ。近所にはイタズラし放題の空き家があったり、本物の牛が放牧されてたり冒険がいっぱい。近くの大人に頼めば、アイスも手に入る。友だちみんなで一個を分けっこだけど。友だちのママが食べ物をくれるし週に一度は赤い車がパンを持ってきてくれる。ママのことは大好き。若くて髪の色がキレイなママ。 。。ムーニーは幸せだ。だってまだ6才だから。6才の目から見るフロリダは陽の降り注ぐ中にパステルカラーの建物の並ぶファンタジックな街。でも私たちは知っている。ムーニーの無邪気な日々、それはぎりぎりの綱渡りの生活の上にあることを。ムーニーたちの家はアパートじゃなくモーテルで、住んではいけないのだけどボビーが黙認してくれているのだということを。住処も、食料も他者の温情で繋いでいるということを。そしてヘイリーもムーニーも教育が足りていないということも。 ムーニーは勘の鋭い子。ついに6才の幸せな時が終わることを大人のうそ笑顔の裏に見抜いて、友と逃げ出す。逃げる先はシンデレラ城。夢の世界の本丸だもの、ここを目指せば幸福の中に居続けることができそうだものね・・。 映画はここでエンディング。しかし我々はまた容易に想像がつく。ムーニー、無理なんだよ。そこはお金のある人にしか夢を見せてくれない。なんてことだろう。欺瞞の夢世界は6才の子の望みを打ち砕く。 そもそも、ヘイリーたちのような生活困窮者らを生んだのが、ディズニーワールドのフロリダ建設計画「フロリダプロジェクト」。土地や賃料が高騰し、まともな住居の保証料を払えなくなった人々が発生したのだとか。 貧困のすぐそばで永遠の夢の国を謳うディズニーランド。このグロテスクなこと。 真正面から問題提起するという形でなく、最弱者である子どもの目線が交じることでこの社会問題の残酷さがよりはっきりあぶり出されています。 ブルックリン・キンバリー・プリンスの天才的な演技、W・デフォーの情感溢れる存在が心に残ります。強烈な一撃のような作品ですが、これがアメリカの「現在」なのですね。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-06-09 21:04:07)(良:1票)
54.  Mommy/マミー 《ネタバレ》 
ダイアンは行動障害の息子を持つシングル・マザー。子を持つ母としてなら、私はダイアンであり、カイラでもある。息子を想う気持ちも、一人で生計を立てねばならないシビアさも、共感どころか我が事のように感じて途方に暮れる。ダイアンが息子の幸せな将来を夢想する場面は切なすぎた。 つらいこと ・ダイアンの空元気。若作りな恰好や年甲斐の無い反社会的な振る舞いは弱気を見せないための防御壁。ラストの一人号泣には胸を突かれた。 ・共に頑張ってくれたカイラと、決断後は心の距離ができてしまったこと。あの数か月、うまく行っていたときの輝きが眩しいだけに辛かった。 ・「愛だけではどうにもならないことがある」ということ。冒頭、施設の職員に言われた言葉。ダイアンは反発していたけれど、やはりこの言の軍門に下るよりなかった。 ラストシーンは「自由」を求めて走り出すスティーブ。「希望」を捨てない、とダイアンもドラン監督さえも語っていた。彼らがそう言うのなら私もスティーブやダイアンの目の強さにそれを信じるしかないのだろう。正直大変だけれど。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-05-24 23:51:50)
55.  ゲット・アウト 《ネタバレ》 
ネタばれありです。未見の人は読まないで。。 今まで観た中では新しい感性のホラーだと思いました。普通に見える人たちが怖いです。 「得体の知れない雰囲気」の不気味さが、後半ネタ割れと同時に伏線が次々明らかになる衝撃へと変わります。どこか不自然な黒人らの挙動、それビンゴゲームじゃなくない?、そして「我を失った」ように見えたスーツ黒人の叫んだ「get out」の本当の意味。 年寄り白人らの集いにおいて、主人公は商品として値踏みされていたのですね。にこにこと頷きながらクリスを見ていた車いすのじいさんの意図に気付いた時はぞーっとしましたよほんと。 人種差別が根底にあることは各メディアで指摘されているところ。ちょっと一ひねりあるように感じた点は、KKKのような大方の差別主義者や黒人を毛嫌いする人たちって、自らの肌が黒くなることなど断固拒否すると思うんですよ。ところがこの映画の白人らはちょっと違って、黒人の肉体の遺伝子レベルの高いことを認めている。そしてそのうえで、自分たちがその容れ物を強奪しても構わんのだと考えている。これはかつての植民地思想みたいなもんですね。彼らの土地を略奪し資源を横取りした白人優越思想の応用版。良いものは白人のもの。ジャイアンか。 表立って敵意をむき出しにする差別意識より、外面を覆い隠している分、タチが悪くヤバさは上です。 タチが悪い代表がローズですわね。あの、パッと本性を現した場面には嘔吐しそうになりました。なんたる性悪。いやああー怖い。 演者である黒人俳優の面々も巧い。なんというか「白人のしそうな振る舞いや表情」ってきっとあるんですね。皆みごとに「妙な黒人」でした。特に使用人役の彼女!黒人である自我が涙を流しながら、白人スマイルをなんとかキープしようとする長いカットがひたすら不気味で、あの演技力は凄いです。 ラストはバッドエンドの試写版から改変したのだとか。ほんとこのエンディングで良かった。救い無く終わっていたらメンタル立ち直れないところです。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-05-02 18:25:32)(良:1票)
56.  マンチェスター・バイ・ザ・シー 《ネタバレ》 
人生に起きた悲劇とその中をやっと息をするように生きる男。C・アフレックのごつい風貌と裏腹の繊細な表情は痛々しく、話も重いけれどきっちりラストまで見せ切る作品でした。 なにしろリーに起きた事はかなりつらい。自らの過失で我が子三人を失い離婚に至り、その後数年のうちに実兄が余命を宣告され実父は逝き、一緒に支えてくれるべき兄嫁は出奔である。彼にかける言葉が見つからないよ。リーも同情を拒絶してますね。彼が特に激しく拒否反応を示すのがテンプレ的なお悔やみの言葉。冒頭から兄の臨終に立ち会った医者に四文字ワードをぶつけてしまうほど、リーは傷ついている。生半可な他者の介入を寄せ付けない彼が、しかし事故以前は180度違って人好きのする陽気な奴だったという事実がつらい。 もう一人のキー・パーソンはリーの甥。十代ならではの若い精神性で父親の死も強く乗り越えられそうに見えるけれど、本当のところはやはり支えが必要なわけで、だったらこの二人が支えあう状況が望ましいと観てる側は思うのですが。しかしそうは展開させなかった脚本は現実的でした。 だってねえ、リーにとってこの街に住むのは無理だもの。元妻にまでばったり会ってしまうのだもの。涙ながらに「あなたを許す」と他の男の赤ん坊を抱いた彼女に言われたところで、リーにとって何の救済になろう。リーを許せないのは彼自身なのだから。それに、あの台詞は彼女、自分の心が楽になるように口をついて出たように感じた。 きっと、もっと時間がかかるのだ。リーも甥も平穏を取り戻すのには。その時が来たら、サバイバルに成功した彼らにまた会いたい。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-02-27 00:28:16)(良:2票)
57.  パディントン2 《ネタバレ》 
1作目よりも大幅に評価が高いのですね。続編でこの現象は珍しいと思って鑑賞しました。ああ、確かに。“2”の方が「小さいクマさんを巡って起こるハートフルな世界」観をよりしっかりと確立しようという制作の心意気を感じますね。 だってまあご覧なさいよ。美術画の如き画の美しさを。琥珀色に輝くアンティークショップ、金色に縁どられたカーニバルの輝き。悪巧み役者の自宅インテリアですらグリーンを基調とした品の良い調度品で設えられています。お子様向けのクマの物語に、こんなにも情熱を注ぐ。クラフトマンシップの粋と呼べるCGスタッフの仕事ぶりに感動すら覚えます。 お話も、新登場のキャラクターに頼りすぎず、パディントンの人の好さとブラウン家の親切さもそのままに、ストーリーの流れに沿って交友関係を広げています。審美眼にやや難のある警備スタッフの彼まで再登場するとは。笑わせどころも心得た脚本です。 「善良」というエッセンスのみで作られたかのような本作、ぜひお子さんと一緒にご覧あれ。かなりささくれた大人になった私でも、ラストの叔母さんとの再会には泣けました。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2020-02-09 23:50:17)
58.  スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け 《ネタバレ》 
SWファンの個々の想いが熱くて、レビューの熱量が半端ないですね。ワタシは、シリーズ最終章として「これしかない」という着地を見事にキメてくれたと思いますけども。だってスターウォーズってこういうことでしょ。選ばれしフォースの使い手の成長と絶対的な悪、圧制に立ち向かうレジスタンス。圧倒される映像とメカのかっこ良さ。本家本元ep4から6で育った監督の、SW世界観の解釈は極めて正しいと思います。 旧作と比べてちょっとキャラが弱いな、というのが7からの難点だったのだけどカイロ・レンがやってくれました。冒頭に流れる前置きで「怒りにまかせて」のカイロ・レンとあって、相変わらず怒りん坊なんやなーと笑ってしまった。怒れる自分探しのカイロ・レンが、自己承認欲求も吹っ飛ぶほどに女に惚れる最終話となるとは。師であるルークに対しては「ありったけの火炎を放射しろ」と狂犬ぶりを見せていたのに、今回可愛い子ちゃんが相手だとてんで弱い。まあ仕方ないよな。キミのじいさんも恋女房への想いが強すぎてこじらせたわけだから。遺伝やな。心の迷走を立て直すために父親の幻影にまで頼っちゃうとは、まんま中二。 こんなにハートのもろい人物はシリーズ中どこを探しても見当たらない。SW始まって以来のキャラでありますね。ジェダイにも、名を遺すほどの悪党にもなれなかった彼ですが、弱っちいカイロ・レンを今作で大好きになりました。ダメな子ほど可愛いってやつですかね。 今回レイとカイロ・レンの絡みに時間を取られて割を食ったのはレジスタンス側。森の中でモニターを広げながらも何をやってんだかよく分からず。ポーとフィンはストーリーのどたばたサイド担当のよう。レイは必死に顔をゆがめて戦っていても美しいです。 旧作の御三方を出してくれたJ・Jありがとう。ハン・ソロのセリフといえばあの一言。それを息子に伝えに現れたハン。弟子に有用な助言を与えられるようになったルーク。そしてもう本当にラストの、奇跡のレイア姫の姿。 エンドロール、キャスト名の最初に据えられたキャリー・フィッシャー。彼女こそが我らがレイア姫。ファイナルを一緒に迎えたかったと、心から思いました。
[映画館(吹替)] 8点(2020-01-22 18:03:50)(良:1票)
59.  女神の見えざる手 《ネタバレ》 
終盤に、激震を起こして逆転してみせるヒロインが実に鮮やか。もうびっくりでした。とにかくモーレツなキャリアウーマン・リズにJ・チャステインがばっつりハマっています。見るからに「才女」な冷たい美貌と口を挿ませぬ早口弁論。真っ赤なルージュは彼女の戦闘メイクのようにも見えます。劇中のフェミニストが指摘したように、彼女は男みたい。エスコートを買って性欲を処理するなんざ、まんま男性脳のヒトです。実際、リズのキャラは従来男性のキャスティングが多かった。彼女も本当に男だったらこんなに嫌われることもなかったでしょう。デキる女はおじさん達にとって脅威かつ超ウザいんでしょうね。 銃規制法案をめぐるロビー活動と世論の動き、擁護派vs反対派の暗闘といったメインの流れも息つかせぬ展開ですが、横糸として張られるリズの人格描写も上手いです。右腕だった若いアシスタントが造反したとみるや冷酷に切って捨て、同じチームのスタッフを人身御供としてマスコミにさらす女。(というイメージが制作&リズの戦略のうち、というのが分かるラストもまたスゴイ) 役者の表情も一つ一つに説得力がありました。スタートから仕掛けられていたリズの計略が明らかになった時のマーク・ストロングの呆然とした顔。「なんて女だ」といったところでしょうか。畏れすら抱いているような。観てるワタシも同じ顔してましたわ。 喚問されたエスコート氏が不都合な事実を証言しなかった、そのときのリズの表情も劇中一度だけのもので、印象的です。おそらく勝負師の世界でのみ人生を送ってきた彼女にとって、己の不利益を顧みず庇ってくれる人間に出会うのは初めてだったのではないかな。 全く想定外だったエスコート氏の男気には痺れました。池に落ちた犬に石をぶつける行為はしたくなかったのか、客の秘密は守るという仕事上の矜持を守り抜きたかったのか、そこは判然としないのですが。 偽証罪という法律上のペナルティを被っても己の道徳心に従った彼の天晴れな姿勢も、ラストに引き金を引くリズの背を押したのでしょう。 間違いなくJ・チャステインの代表作になるであろう、見ごたえ充分の一本です。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2019-12-15 23:42:06)(良:1票)
60.  ジョーカー 《ネタバレ》 
アメコミの悪役キャラとして完璧だったJ・ニコルソンのジョーカー。ヒース・レジャー版で彼は顔のペイントも粗い三次元のリアル狂気として現実に現われ、ついにホアキン版では「すぐそこにいる」ジョーカーとなった。 「お前、キモいんだよ」との言葉を投げつけられるアーサー。ブリーフ一枚の痩せた身体を晒し、表情は自信無さげでどたばたした不格好な走り方、的外れな空笑い。鬼気迫るようなホアキンの役作りに、ヒースのように自己を削り過ぎないかと心配になる。 アーサーがジョーカーへと変質し、群集を巻き込んで破壊行動へ向かう、そこにある種爽快に近い快感があるのを否定できない。炎上するゴッサムシティを背景にゆっくりと身体を起こすジョーカーは社会が生んだ悪意の果ての姿。オレンジ色に染まったその画を、禍々しくも美しいと思ってしまった。 ヒース・レジャーのジョーカーはもはや悩んでなどいなかった。絶対狂気の一個体だった。 痛くて無様な己の内面に呑まれて狂気を発症してゆくホアキンジョーカーもまた、伝説となるだろう。
[映画館(字幕)] 8点(2019-10-16 16:13:14)
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