61. ブルーバレンタイン
《ネタバレ》 珍しい「恋愛の崩壊」を描いたラブストーリー。幸せな過去と破局寸前の現在の対比が心に響く。 ■どちらかが決定的に悪いという感じではなく、「不幸な誤解」でもなく、互いの考え方、価値観が微妙にずれていて、それが徐々にひび割れを大きくしていく感じで愛情が冷めていく。何か事件があったりしたわけでもないこと、それがリアリティと恐怖の源泉でもあろう。 ■カットバックの入れ方が一部意図的に時間軸を混乱させるかのような入れ方があったが、あれは不要だと思った。そういうところで勝負してる作品ではないし。 [DVD(字幕)] 9点(2011-12-14 01:04:08) |
62. 127時間
《ネタバレ》 「生きるための究極の決断」って言ってるわりに、「生きる」と「決断」の間の結びつきがあまりしっかり描かれていない、というのが致命傷だなと思った。 ■軽いノリの主人公が腕を挟まれて動けなくなり、要するに切り落とすしかなくなる、という話。最初の方を見て「SAWと同じじゃない?」と思ってしまうともうどうしようもなくなる。あっちはスプラッターの要素が最初から予想されてるからいいが、この映画でそのノリでやられるとさすがに困る。 ■「これまでの人生の振り返りと後悔」の部分はカットがごちゃごちゃしていてあまり全体的なつながりや重みをもって響いてこない。何に後悔したのか、そこまで生き抜きたいのは何なのか、そういう部分が早落としの映像のつなぎでは見えてこない。 ■そして「決断」。最初からこの方法しかないのは明白なのだから「切らなきゃいけないが、でも出来ない」から「でもやるしかない」への心理の転換がポイントのはず。けど、そこの部分の描き出しは明らかに成功していないと思う。延々居続けて、ふと思ったかのように腕を切って逃げ出す、正直そう要約されても仕方ないような展開。残念 [映画館(字幕)] 5点(2011-11-27 01:46:07)(良:1票) |
63. ブラック・スワン
《ネタバレ》 批判的なコメントも多いが、個人的には非常に面白く見れた。人間の際どい心理のバランスと、それが浸食されていく過程がよく描けていると思う。 ■最初の方で「もしや・・・」と思って、ラストで同じ展開を見せたので恐らくこの理解でいいと思うのだが、この映画の構図は「ファイト・クラブ」と基本的に同じだと思う。ただしこの映画の場合、リリー(という人間)そのものは実在するが、そこに対する嫉妬と「自分の持っていないもの(黒鳥の要素)への憧れ」も相まって「反転した自分」の投影されたリリーもまた立ち現われていると考えていいだろう。 ■これはバーで「薬」を飲む前からそうだと考えられるのは、ニナはもとから自傷癖がある(幻影を最初から見うる)という設定が示唆している。この作品は徹底してニナの視点からしか描かれないが、映画内の描写は事実を表すというより「彼女の心においてみる世界」であることを意識してみると、この作品の見え方はだいぶ変わると思う。 ■ニナは結局、自らの肉体の破壊と引き換えに自身の精神の合一を果たし、完璧な芸術の境地へと至る。これは芥川龍之介の『地獄門』などとも比較しうる、完璧な芸術の保有する「ある種の狂気性」の体現ともいえるであろう。 ■それを考えると、ニナは監督の厳しさや母親の過剰な期待、プレッシャーに負けたというより、自らの精神を芸術の世界における完璧さに高めるために狂気の世界へ立ち入った、と見る方がいいのかもしれない。少なくともその側面も確実に混じっていると思う。 [DVD(字幕)] 9点(2011-11-27 01:30:09) |
64. 23年の沈黙
《ネタバレ》 23年前、少女の暴行殺人事件が起きる。それを行ったもの、見ていたもの、捜査したもの、それぞれの人生を大きく変えた。そして23年後の同じ日、再び同じ場所で少女の暴行殺人事件が起きる。一体・・・ ■設定はとてつもなく引き付けられるのだが、全体としてどこにフォーカスしているのか散っていたので残念な感じであった。犯人は冒頭から明らかにされており、ミステリにする意図ではないよう。しかしその割には心情を掘り下げるという面は弱い印象であった。 ■最終的には、23年間の「孤独」がカギなんだろうけど、そこを描き出してくれる展開ではなかったので、題材は非常に面白いのだが、もっとよくできたよなぁという印象であった。 [DVD(字幕)] 7点(2011-07-02 23:24:34) |
65. キック・アス
《ネタバレ》 レビューを見ていくと、前半を評価する人と後半を評価する人とに分かれていて興味深い。 ■前半というのは、通常のヒーローものへのアンチ的意味も込めて、凡庸ななにもすごくない主人公がヒーローになろうとする(そしてなれない)物語を描いている。ギャングに返り討ちにされたり、一生懸命練習したりと、妄想で「自分もヒーローになれたら」というような甘い夢を見事に打ち砕く現実的な展開だ。 ■他方の後半は、基本的にバイオレンス(アクション、とはあえて言わない)満載で幼女がスカッと大活躍するPVがベースになる。もちろん父との死別等、物語として見ても重要な部分もあるが、基本的には派手でスピーディーなアクションを見せている。 ■前半の流れで行くと、後半はご都合主義的にすぎるし、結局「超人的ヒーロー(ヒロイン)が敵をなぎ倒す」というのでは前半の流れが意味がなくなってしまうというのはその通りだと思う。ミンディも様々なものを捨て、死ぬほど過酷な訓練を積み重ねて超人的になっているのだろうから、そこをもっと描き出してもよかった気がする。 ■とはいえ、通常のヒーローものをひっくり返すような展開と、べたつかないバイオレンス×幼女というすごい展開が見れるので、十分当たりだと思うが。 [DVD(字幕)] 8点(2011-05-19 00:41:10)(良:1票) |
66. 悪魔を見た
《ネタバレ》 うーん、期待しすぎたのかもしれないけど、バイオレンスを含む他の韓国作品(「復讐者に憐れみを」「オールド・ボーイ」「殺人の追憶」「母なる証明」「チェイサー」等)と比べても、単なるバイオレンス押しの作品になってしまっている気がした。 ■描写はとにかくグロい。「復讐者に憐れみを」で十分明示的だと思ったアキレス健切りがさらに露骨な形であるし、頬にナイフ刺したり、ギロチンシーンが数回あったり、基本的に拷問の連続だと考えていい作品。他のバイオレンス作品が可愛く見えるレベル。 ■ただ、他の韓国作品が、バイオレンスへの必然性というか、そこを通じてみる「人間の心の闇・深み」みたいなものがあったのに対し、本作からは残念ながらそういったものは感じられなかった。基本的にバイオレンスシーンが「やりたい放題・支離滅裂」という感じで構成されているからであろう。「暴力性の裏に見る・・・」ではなく単に「暴力」になってしまっていた。 ■ストーリーとして見ても、チェ・ミンスクは悪魔というよりただの変態レイプ犯であり、「凶悪な行動の裏にある冷徹な理性」みたいなものは微塵も感じられなかった。他方のイ・ビョンホンはまだ理性を感じられるし、ゆえに「復讐の鬼=悪魔」でもありうるだろうが、それにしては行動が場当たり的。基本的に彼の行動は「イ・ビョンホンの(なぜか)圧倒的なまでの肉弾戦の強さ」に全面的に依存しているわけで、こちらもまた行き当たりばったりと言われても仕方がない。 ■悪魔性があるとしたら、最後の「俺は苦しさを感じないんだ」だが、それにしては途中のシーンでは散々痛がってるし、結局本心は「どんだけ痛めつけられても生きていたい。生きていれば必ずチャンスは来る」という「カイジ」っぽい精神なのだろうと思った。 ■やるとしたら、乱闘シーンを全部削って、基本的に「イ・ビョンホンの不意打ち→体をどこか傷つけられる」にして冷徹に痛めつけていった方が、「悪魔」の感じは出たように思う。同じ復讐ものといっても「オールド・ボーイ」の冷徹な計画性と悪魔性(凶悪性)には全く及ばず。残念 [映画館(字幕)] 6点(2011-03-22 00:08:28)(良:2票) |
67. ヒックとドラゴン
《ネタバレ》 なるほど。評判の高さも納得の出来。これは3Dで見てもよかったと思わされた。近年のアニメーションの中でも相当に質は高い部類に属するだろう。 ■ストーリーの大枠はベタな作りと言えばそれまでだが、きちんと作りこまれていていい感じ。しかし単なる子供向けアニメと一線を画するのはやはりラストだろう。主人公が片足を失うという、恐らく「主人公の死」よりもタブーであろう領域にあえて突っ込んでいく展開にしたのは高く評価したい。片尾を失ったドラゴンとの助け合いを見せるラストの構図は見事。 ■ただ、逆にだからこそ、ボスドラゴンをただ倒す展開はいただけなかった。あの構図は「ボスドラゴンは極悪、諸悪の根源であり、他のドラゴンはそれに支配されていただけの善良な者」というものになるが、これは第二次大戦後のドイツの用いた構図「極悪なのはヒトラーであり、ドイツ国民もまた被害者」と酷似している。この構図を用いる限り、殲滅戦は回避できるものの、「敵」の中に「究極の悪玉」を探す作業を肯定してしまうことになり、あまり嬉しい解決ではない。 ■ストイックがヒックに認めた誤りも、彼が「ボスドラゴンの猛威」を見て気づいたものであるように、純粋に戦術的なそれであることにも注意しなければならない。 ■とはいえアニメの中ではかなりきちんと問いを投げかけている作品であり、評価には値すると思っている [DVD(字幕)] 9点(2011-03-13 01:20:08) |
68. レポゼッション・メン
《ネタバレ》 この主人公、考えてみるとそうとう好き勝手しているというか、まあジュード・ロウは勝手に埋め込まれたといってもいい展開(業務上の事故だから普通は会社が補償するものだろあれは)だからいいけど、女の方は完全なる踏み倒しなわけで。 ■後半がいかにも都合のいい流れなのは、ラストのブラジル的な展開によってまあ許容はされるのだが、そうするとラストで昇華させた「自らの体を傷つけてでも臓器をレポする」という行動の意味が薄れてしまう気はした。 ■まあラストまでは普通のB級アクション映画でした。はい。 [DVD(字幕)] 8点(2010-12-12 23:28:05) |
69. 孤高のメス
《ネタバレ》 こういう、名声とか地位とかに囚われず、ただひたすら目の前の患者を救うことだけを考える医師というのは美しい。たとえ自分がつかまろうとも、いかなる非難が飛んでこようとも、自分がどうなるかなんてどうでもいい、ただこの人を救う、と考えられる人は果たしてどれくらいいるだろうか。 主人公の超人的能力があまりにすごくて、社会はとして投げかけている問題が若干かすんでしまっている気はしたが、見ている間は非常に楽しめた。 あと、前のレビュワーさんも書いているが、本来ならば血みどろで汚い(であろう)手術を、現実とは多分異なるのだろうがあれほどきれいなものに仕上げた美術班は素晴らしいと思った [映画館(邦画)] 8点(2010-10-24 23:07:05)(良:1票) |
70. インセプション
《ネタバレ》 面白かった。「メメント」テイスト全開で作られていて、ミステリ系映画が好きな身としてはたまらない。間の無重力戦闘とかもなかなかきれいで見ていて面白かったし。 ■単純なエンタメ(アクション・サスペンス)として見た場合、「夢の中の夢」「夢の階層構造において時間の経ち方を大幅にずらす」「夢の中だからご都合主義や派手すぎるアクションも大目に見れる」といった要素が大きく、アイデア勝ちだと思う。 ■話の構造としては同監督「メメント」に近い。「メメント」と「インセプション」の違いは、まず前者が純粋にミステリーとして構成されていたのに対し、後者はアクション・サスペンスとして一般受けしやすい構成になっている点。あと、前者が大枠の謎解きをラストにしてくれたのに、後者は謎解きしなかった点かな。特に後者は本作を解読する上で大きい。それと、メメントはストーリー追うだけでも頭が死んだのに対し、本作は一応おおよそ話は全部追えるように作られているのは観客にとっては良心的。 ■【以下激しくネタバレ】ラストのあまりにご都合主義的にすぎる展開と「監督はこの作品の脚本に10年かけた」という記事を読んで、ラストはフェイクで「すべてを描かなかった」という理解に変えた。 ラストの解釈で、希望的なハッピーエンドととる人が多いようだが、必ずしもそうではないと思う。とりあえず冒頭で、トーテムについてサイトーは「見ている」し「見たことがある、と発言している」し、「倒れたら現実、と自身が解説しているシーンがある」のだからトーテムについては相当怪しいというか、これ自体偽の記憶の可能性が十分ある。 あと、ラスト近くの電話してから1時間そこいらで罪が全部もみ消せる(し、それがパスポート・コントロールまで情報が行きつく)のかよという問題や、なぜ父親が迎えに来ているのかという問題もある。 他にも、モルの自殺がコブのいるビルではなくその向かいのビルから飛んでいる点、コブとサイトーがどうやって戻ってきたのかという点など、不審な点は多い。 そう考えると、ラストは希望的な「現実」という答えより、「夢」の方が正しそうな気がする。 [映画館(字幕)] 10点(2010-09-15 01:27:10)(良:1票) |