141. 魚と寝る女
お国柄とはいえ池に釣客専用の小屋舟が点在しているという、なんとも不思議な光景にまず目を奪われてしまう。映画は、ひとことも話さない謎めいたこの釣り場の女管理人と、恋人を殺して自ら死に場所を求めてやって来た男とを中心に描かれていく。共にワケありの孤独な男女は互いに惹かれあうものの、その関係はなかなか一筋縄ではいかない。性愛描写はそれほど際どいものではなく、むしろ釣り針の生理的な痛みというもうひとつの意味を嫌というほど感じさせられる。無駄なセリフや描写がほとんど無く、先の展開が読めないそのドキドキする面白さには興味が尽きないし、ラストの象徴的なシーンはさらに強烈だ。 9点(2001-11-25 15:28:57) |
142. こころの湯
親子愛、兄弟愛、そして夫婦愛。失われていく思い出へのレクイエム。下町の銭湯での人情溢れる人々たちとの交流を通して、老人や障害者といった様々な問題を孕みながらも、しかし決して深刻にはならず、むしろさり気なくユーモラスに描いてみせる。風呂場では周囲の迷惑も気にせず大声で“♪オー・ソレ・ミオ”を熱唱する青年も、のど自慢のステージでは何故かさっぱり歌えない。が、あるきっかけ(習慣)で堂々と歌えるようになるというエピソードは、本来爆笑ものなのだが、何故か涙が止まらなかった。本年屈指の秀作だと思う。 9点(2001-11-18 00:04:24)(良:1票) |
143. 初恋のきた道
憧れの先生をあとを追いかけて、走りに走る。しかし勢い余って転んでしまい、餃子の入った丼も割れてしまう。泣きべそをかいた彼女に胡弓の旋律が絶妙に被る。なんといじらしく切ないシーンであろうか。晩秋と初冬の田園風景の見事な美しさとあいまって、黄色い麦畑の中に咲いた一輪の紅い花といった可憐で初々しいチャン・ツィイーは、やはりこの作品の白眉であると共に、役者としてのプロ根性をも見た思いがした。そして、その彼女の魅力を引き出したチャン・イーモウ監督の手腕もさすがだ。 「初恋のきた道」という邦題のつけ方も近年の傑作だと思う。 9点(2001-11-17 23:26:00) |
144. 忘れられぬ人々
愛する人を守るために人は何ができるのか。作品は戦後を生き抜いてきてなお、晩年になって新たな人生の転機に直面した三人の男たちを、同じくこの難しい時代を生きていくことに悩み・苦しむ若いカップルを対比させて描いていく。その描き方はひたすら暖かく穏やかで詩情溢れるものだが、作者の目は鋭く“今”を突いている。国の為に必死の思いで戦ってきたかつての戦友同士が、丘の上から街並みを見下ろしながら「俺たちがあんな思いをしてまで戦ったのは、こんな日本にする為だったのか・・・」と嘆く。その言葉が深く心に響く。終盤、悪徳霊感商法に業を煮やし、義憤で殴り込みをかけるという展開には驚かされるものの、ひたすら家族や友情を大切にし誇り高く生きてきた彼らと、実際の出演者たち(いずれ劣らぬ名優たちは円熟した深みのある演技で、その存在感を余すことなく見事に表現している!)とがオーバーラップして何とも魅力的な作品となっている。彼らは僕にとっても、まさに“忘れられぬ人々”である。今年も素敵な作品にめぐり合えて良かったという感想に尽きる。 9点(2001-10-26 00:56:36) |
145. マイ・フレンド・メモリー
S・ストーンとG・ローランズという新旧の“グロリア”がこの作品で共演していたということを、ずっと後になってから気がつきました。共演者としては他にもH・D・スタントン、G・アンダーソン、J・ガンドルフィーニ等々。何と魅力的な出演者たちだろうか。その彼らを向こうに廻して、頭抜けた演技力と的確な表現力で、この作品の主人公である二人の少年を、共に見事に演じきるE・ヘンソンとK・カルキンは、この感動的なストーリーにまさに相応しい。キャスティングの勝利とはこういう事を言うのだろう。 9点(2001-10-19 23:00:52) |
146. 飛べ!フェニックス
飛行機で砂漠に不時着した男たちが、如何にして脱出に成功するか。この絶望的な状況から藁をも掴む思いで脱出を試みる、強さと弱さを併せ持つ男たちの人間ドラマを、R・アルドリッチ監督が骨太でダイナミックな作品として、見事な職人芸を見せてくれる。様々な個性的なキャストの中で、プライドの高いドイツ人の技術者を毅然とした態度で演じきった、H・クリューガーの強烈な個性がとりわけ印象的だ。(その彼の本当の正体がさり気なく発覚したときには、唖然としてしまう。)不時着した飛行機が双胴機であるところがミソで、またプロペラが廻るという事を、これほど感動的に描いた作品も珍しい。痛快作とは、まさにこの作品のことを指す。 9点(2001-10-13 11:00:28) |
147. 千と千尋の神隠し
R・ゼメキス監督作品「コンタクト」のワンシーン。J・フォスターが乗ったポッドの落下する一瞬に見る夢幻空間。成長過程にあって人間誰しもが経験していくであろう大人への憧れと不安というものを、千尋が体感したのはまさしくこのまばたきするほんの一瞬の夢の出来事だったのだろうか。両親を助ける為に働くことを余儀なくされ、様々な人々と関わり合いながらやがて生きていく為の知恵をつけていく。冒頭、車の後部席に横たわったペスミスティックな表情の彼女と、トンネルの向こうを振り返るラストのその横顔との決定的な違いを、少女の成長と見るのは早計かもしれないが、しかし多様な見方が出来るのはそれだけ懐が深い作品だということだろう。とは言うものの、宮崎ワールドのまさしく豊穣なイマジネーションと極彩色の世界を思う存分堪能することが、この作品の正しい楽しみ方であることは言うまでもない。 9点(2001-09-25 00:20:00)(良:1票) |
148. キス・オブ・ザ・ドラゴン
この夏、最高最大の興奮が味わえる、まさに「ニキータ」と「レオン」をカンフーで味付けした、全編シビレまくりの今年一番のアクション超大作。このテの映画には見慣れている筈だが、やはり生身の格闘技の凄さとスピード感には圧倒されてしまう。クライマックスの前門の虎、後門の狼を倒したあとの救出劇は案外呆気ない気もするが、この最後になって“キス・オブ・ザ・ドラゴン”の意味が解かるという仕掛には、思わずニヤリとしてしまう。 9点(2001-09-09 00:16:43) |
149. 太陽を盗んだ男
「青春の殺人者」のあとに撮った、寡作映像作家=長谷川和彦の最後(?)の劇場公開作品で、公開当時圧倒的な支持を受けた一種カルト的な人気を獲得した作品でもある。ストーリーは奇想天外である反面、まったく日常に起こりえないとも言えない部分もあり、そのテーマ性は重要だ。きめの細かい描写の積み重ねと、ダイナミックなアクションとが渾然一体となった面白さがあり、これは観た者でないと分からない痛快さだ。 9点(2001-09-02 15:43:09) |
150. バートン・フィンク
壁紙が徐々にドロドロと捲れてくるというだけで何故か恐怖感を煽られるという、実に不思議な感覚を持った、全く新しいタイプのスリラーだ。全体の雰囲気はいかにもコーエン兄弟らしくひたすら陰鬱でスタイリッシュだし、その何とも不条理でアブノーマルな作品世界は斬新で独創性に満ちている。過去のどの作品とも違うオリジナリティを感じるし、ストーリーよりも映像で語る種類の作品だと思う。 9点(2001-08-25 23:43:39) |
151. ガメラ 大怪獣空中決戦
円谷特撮作品の古き良き伝統とその香りを継承しつつ、従来の怪獣映画の殻をものの見事にブチ破った作品として高く評価しておきたい。 ミニチュア特撮の精密さやその見せ方の旨みばかりでなく、本編の人間ドラマと特撮部分との違和感もなく、実に完成度の高い作品と言える。 9点(2001-08-25 23:14:49) |
152. クンドゥン
チベットを扱った作品は案外評価が低い傾向にあるが、本作ももっと評価していいのではないだろうか。そのスケール感溢れる撮影の素晴らしさ、重厚で神々しい音楽、全編を覆う荘厳さとその華麗なる一大スペクタクル性、そして従来の作品世界とはがらっと趣を変え、一種ドキュメンタリー的手法をとったM・スコセッシ監督の入魂の演出等々、まさにこの年を代表する作品といえる秀作。 9点(2001-08-19 01:52:12) |
153. 椿三十郎(1962)
黒澤作品としては「天国と地獄」と並んで最も強烈に印象が残っている「用心棒」の姉妹篇。時代劇であるにも拘わらず、登場人物のセリフは現代劇調で喋らせるという、ユニークな手法が話題ともなった。コミカルでほんわかした雰囲気と凄まじい殺陣の見事さといった、緩急自在の黒澤演出は素晴らしく、ラストの決闘シーンは今尚語り草ともなっている。 9点(2001-08-19 00:19:36)(良:1票) |
154. レクイエム・フォー・ドリーム
主人公たちの"堕ちていく様”を、かつてこれほど徹底的かつ冷徹に描いた作品などなかったのではないだろうか。劇中、薬が注入され瞳孔が開くといったドラッグのイメージ映像が繰り返し挿入されるが、だんだんその間隔が物語の進行につれて短くなってくる。彼らの中毒状態を我々観客が否応なしに体感させられる気分になる実に効果的な映像だ。エレン・バースティンの演技と言うにはあまりにも物凄い形相の、その迫力には圧倒されてしまう。何か見てはいけないものを見てしまったという感想だが、でもやっぱり見ておいて良かった、今年一番の衝撃作だ! 9点(2001-07-22 17:20:30) |
155. フェイス/オフ
いつもながらのスタイリッシュなハード・アクションと華麗なるガンファイト。そして荒唐無稽で強引なストーリーを二人の主役が、その善と悪とを見事に演じ分けることで説得力を持たせている。そして幼子を凶弾で亡くした男の無念さと悲しみが痛いほどよく分かるだけに、エンディングの見事さには救われる思いがした。 9点(2001-07-22 16:54:17) |
156. 脱出(1972)
都会から逃れてカヌーで急流下りを楽しむ為、人里離れた所へやってきた4人の男たちに次々と予期せぬ事態が襲いかかる。まさに闇の奥へどんどん追い詰められる彼らは、あたかも彷徨える子羊であるかのようだ。罪の意識に苛まれ、いつまでたっても醒めない悪夢に怯えつづける男たち。荒廃しきった日常生活の深淵を、ふと覗き見せられた思いさえする、実に怖い作品だ。 9点(2001-07-15 00:37:56) |
157. ハムナプトラ2/黄金のピラミッド
まさにエンターティンメントの極致。“見世物映画”としては、ここ数年の中でも最高ランクの作品だと思う。この圧倒的なパワーの前では、見当違いの映画評論などブッ飛んでしまう。最初から最後までまさに全編クライマックスのオンパレードで、この徹底的したサービス精神には、もう感動して平伏すしかない。S・ソマーズ監督の“どうだ参ったか!”と、一人ほくそえんでいる顔が見えてくるようだ。 9点(2001-06-16 23:49:50) |
158. ターミネーター2
“PART1と2とどっちが好き?”と聞かれたら、“どっちも好き♪”としか言いようがない。PART1はややマイナーな良く出来たアクション映画と言った印象だったが、今回はSF色がより鮮明になりそのテクノロジーはまさに驚異と言う以外になく、見世物映画としてはひとつの頂点とも言える見事さだ。ただSFXに頼り過ぎたきらいも否定できない点で、PART1のようなペシミスティックな味わいは薄まったように感じる。 9点(2001-06-03 17:38:08) |
159. ターミネーター
SF映画なんだろうけれども、その味わいは往年のギャング映画そのものだ。とりわけ警察署にショット・ガンをぶっ放して殴り込みをかけるようなシュワちゃんは、まさにド迫力そのもの。そのスピード感とバイタリティーは並外れている。B級映画はいわば予算だけの問題で、アイデアとテクニックそして情熱があれば、いつでもA級に成りうるということだろう。 9点(2001-06-03 17:16:28) |
160. 追想(1975)
戦時下で妻子を殺害され(それも火炎放射器で焼き殺されるという凄惨さ!)、残された夫がたった一人で戦いに挑み個人的な復讐をするという、先日亡くなったロベール・アンリコ監督の傑作サスペンス。敵をじわじわと追い詰めていくF・ノワレの飄々とした演技は素晴らしいが、なんと言ってもR・シュナイダーの美しさは筆舌に尽くしがたいほどだ。それだけにその殺戮シーンの残酷さがなおさら強調される。夫は妻子がされたのと同じ方法で仇討ちを果たし、映画は我々にカタルシスをもたらすのだが、そのあとにくるのは虚しさ以外の何ものでもない。オープニングとラストに挿入される、妻と子と三人並んで幸せそうにサイクリングするシーンが印象的だ。 9点(2001-06-03 16:41:27)(良:1票) |