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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1275
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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161.  アバウト・シュミット 《ネタバレ》 
会社を定年退職し、さらには妻にも先立たれ、自分を管理していたものをすべて失った老人のお話なのですが、これが恐ろしく日本的な内容だったので驚きました。アメリカのホワイトカラーは個人主義でバリバリやっているイメージだったのですが、実際には日本のサラリーマンと同じく、組織への滅私奉公に人生の時間の大半を費やしているようです。。。 仕事をしている間にはそれなりにやることもあったし、家族と向き合わないことを正当化する言い訳もあった。プライベートで気に入らないことがあれば、妻のせいにしてればいいし。しかし、仕事を離れてそれらの制約条件がとっぱらわれた時に、それまでの人生への評価が冷酷な形で下される。以上、本作のテーマは普遍的なのですが、一方でその語り口は非常に型破りです。主人公は妻を失ってもさほど悲しまないし、疎遠になっていた娘との劇的な和解もない。娘の旦那は相変わらず好きになれないし、長旅に出ても感動的な出会いなどない。そして、主人公の偏屈な性格も一向に治らない。この手のドラマにありがちな展開は全て外してきているのです。。。 ハリウッド的な感動ストーリーに代わって描かれるのは、ひたすらに非力な老人の姿。その生き方のツケから家族にも友人にも恵まれず、その状況を変えるだけの力も度胸もない。ただ目の前にある孤独な余生を受け入れるしかない主人公の姿が、情け容赦なく描かれます。コメディとして作られているので直感的な衝撃度は低いものの、よくよく考えれば相当に欝な話です。。。 そして、オチの付け方も底意地の悪いものでした。アフリカの子供が描いた絵を受け取って涙する主人公。これを、主人公が人間性を回復した瞬間だと解釈する向きもあるようですが、私はそうは思いません。添付の手紙には、この子は英語が分からないという説明がありました。つまり、子供は主人公からの手紙の内容を分かっておらず、当然主人公の人となりも理解しておらず、恐らくは保護者から促される形でとりあえず描いた絵があれだったのです。主人公の涙は、こんなものにすがり付くしかない自分のみっともなさを嘆いたものでしょう。たまに小銭を寄付し、そのお礼に絵や手紙が送られてくるだけの関係。しかし、主人公が誰かから求められていると実感できる瞬間は、これしかないのです。本作では、家族を大事にしないと大変なことになるという重要な教訓が提示されています。 
[DVD(吹替)] 8点(2013-07-06 00:14:47)
162.  クィーン 《ネタバレ》 
革新派やフェミニストからの強力な支持もあって存命中は持ち上げられもしていましたが、死後15年経った現在から振り返ると、やはりダイアナ妃は魔女だったと思います。英国王室のあり方について国民レベルで賛否が割れることはあっても、少なくとも王室に嫁いだ人間には、その家族が大切にしてきた価値観を共有し、守っていくことが求められます。しかし、彼女はそうしなかった。自分に好意的なマスコミへ王室のスキャンダルを流したり、自ら王室批判を繰り返したり、挙句の果てには二人の息子がいるにも関わらず自由恋愛に明け暮れたりと、名誉と格式を重んじる英国王室が反論できないことにつけ込んで、彼女は好き放題をやっていたのです。。。 「我が家の籍を離れた人間なのだから、葬儀はご実家でやっていただきます」、常識的な感覚から言えば、ダイアナの死に対してエリザベス女王のとった対応は妥当なものでした。しかし、死亡事故にパパラッチが関与していたことへの負い目もあってかマスコミは一斉にダイアナを持ち上げはじめ、国葬をしろと騒ぎ出します。伝統を否定した人間に対して英国王室が最大級の敬意を表するなど前代未聞のことですが、異様な熱狂の中で正論はどんどん掻き消されていきます。まずは、自身の人気取りを優先したいチャールズ皇太子が落ち、次に、マスコミの異常なバッシングに怯えた王室ご意見番が落ちます。ブレアは善人ではあるものの、長く革新政党にいたため伝統というものへの理解は不足しています。「英国王室は400年の歴史を背負っており、現在の国民がどう思うかということとは別次元で生きている」という当たり前のことが理解されない。そんな状況の中でエリザベス女王は孤立無援へと追い込まれ、最終的にはマスコミとダイアナの力に負けてしまうのです。。。 以上、題材はかなりハードなのですが、あくまでこれをある家庭のドラマとして描いた脚本が秀逸。世間知らずの夫とバカ息子に挟まれ、対応を一手に引き受けねばならなくなったエリザベスの苦悩が非常に分かりやすく描かれています。ただし注意せねばならないのは、本作で描かれるドラマはあくまで脚本家の憶測に過ぎないということです。史実をベースに、その当事者達がどう考えていたのかを推測してドラマを組み立てるこの手法は、倫理的にはギリギリの技術だとも言えます。
[DVD(吹替)] 8点(2013-06-26 01:11:39)
163.  オブリビオン(2013)
IMAXにて鑑賞。 映像技術の進歩により、地球レベルの災厄を描いたSF映画は珍しくなくなっていますが、半壊した月や廃墟と化した人類文明、宙に浮かぶ巨大建造物など、本作のビジュアルイメージはかなりのインパクトを持っています。具体的な設定はやや強引で、後半になって明かされる謎の正体についても首を傾げざるをえない部分が多々あるのですが、それでもビジュアルのインパクトによってSFとしての大きな説得力が与えられているので、観ていて不快にはなりません。SFは画なんだなぁとあらためて実感させられました。さらには、『トロン:レガシー』ではビジュアル偏重でストーリーテリングが追いついていなかったジョセフ・コシンスキーの演出も本作では垢抜けしてきており、アクション映画としてもなかなかメリハリのある内容となっています。。。 本作はコシンスキー自身が手掛けたグラフィックノーブルを『ディパーテッド』のウィリアム・モナハンが脚色し、それを『トイ・ストーリー3』のマイケル・アーントが手直しするという、鉄壁の布陣で話が練り上げられています。観客をどうやって騙すか、また、どのタイミングでネタばらしをするのかという映画全体の組立がよく出来ており、非常に求心力のある物語となっています。前述の通り、謎の核心部分には不合理な点が多々あるのですが、脚本家達もこのアキレス腱については重々承知している様子で、真相部分に深入りしすぎることなくサラっと流しているので、少なくとも観ている間は難しいことを考えることなく、純粋に楽しむことができました。。。 トム・クルーズは相変わらずスタントを頑張っているし、彼の個性によって、主人公は観客にとって感情移入可能なキャラクターに仕上がっています。なんだかんだ言われていますが、この人は華があるし、演技も巧いので観ていて安定感があります。また、最近はB級映画への出演が多かったオルガ・キュリレンコも久しぶりのメジャー大作でなかなかの存在感を披露しており、本作のキャスティングは概ね成功しています。ただし、モーガン・フリーマンがいかにもな役柄で出てきた時には、さすがに笑ってしまいましたが。主演のトム・クルーズが50歳を過ぎていることとのバランスを考えると、あの役柄にはモーガン・フリーマンほどの超ベテランを据えるしかなかったのでしょうが。
[映画館(字幕)] 8点(2013-05-31 18:15:45)(良:2票)
164.  パーフェクト・センス 《ネタバレ》 
世界中が奇病にかかるという物語ですが、『アウトブレイク』や『コンテイジョン』のようなパンデミックものとはまったく別の内容であり、感覚が失われるという大惨事を通して人間の本質を描いた哲学的なドラマとなっています。そういう意味では、『ブラインドネス』がもっとも近いのかも。。。 この映画の特色としては、絶望と希望の対比が非常に巧いという点が挙げられます。露悪的な描写ばかりを重ねた『ブラインドネス』とは対照的に、「人間には良い面も多いのではないか」というポジティブな描写が随所になされているのです。感覚を失っても人々はその制約条件を受け入れる道を見つけ出し、なんとか秩序を取り戻そうとします。略奪や暴行に走る人間もいるにはいるものの、大多数の人々は家庭や職場へと戻っていくのです。こうした人々の力強い姿には感動させられたし、この壮大なドラマをひと組のカップルの物語にまで収斂させた脚本家の構成力には舌を巻きました。。。 これに対する絶望の描写も見事なものです。人々は強く健気に生きようとするものの、そんなことはお構いなしに人類の感覚がどんどん失われていく様には恐怖を覚えました。希望を持とうとする人々の姿が一方に置かれている分、この容赦のない展開には胸が苦しくなるのです。「もうこれ以上、悪いことは起こらないでくれ」と観客に思わせたところで、次の試練がやってくる。なかなか底意地の悪い脚本です。。。 人類が聴覚と視覚を失ったところで映画というメディアの限界を迎え、本作はプッツリと終わります。70年代の映画のような呆気ないエンディングですが、この去り際の良さも私は評価します。この後に起こることは観客が推測可能であり、野暮な締めなど必要ないからです。全人類が『ジョニーは戦場へ行った』状態となった今や、人々は死ぬしかありません。直前に愛する人と再開させたことが神の最後の慈悲だったようで、人類は愛する人の胸の中で死ぬのです。言葉を交わせない、顔も見ることは出来ないが、ぬくもりだけは感じられる。人類滅亡を扱った映画は数多くありますが、ここまで叙情的で、しかも絶望的なものは他にありません。これは傑作だと思います。
[DVD(吹替)] 8点(2013-05-01 01:10:55)
165.  アイアンマン3
IMAX3Dにて鑑賞。『アベンジャーズ』という特盛大サービスで観客の目が肥えてしまった後に、平常営業の単品作品をどんな形で出してくるのかという点に大きな感心があったのですが、その点、本作は映画としての完成度を高めるという地道な方法でシリーズを再開しており、大変好感が持てました。シリーズの功労者であるジョン・ファブローに代わり、質の高い娯楽作を多く手がけてきたシェーン・ブラックを新監督に抜擢した辺りに、製作陣の思惑が現れています。。。 本作の前半パートは驚くほど静かです。『アイアンマン』の新作とは思えないほど雰囲気が暗く、トニーからは前作までの破天荒さが消え失せています。『アベンジャーズ』で死にかけた経験から心を患い、ブルース・ウェイン並みにウジウジと悩む描写が続きます。おまけに、アーマーで敵を倒すという爽快な見せ場がまったくなく、アイアンマンの活躍を期待してきた観客にとっては拷問に近い時間が続きます。もちろんこれは監督の計算のうちであり、『アベンジャーズ』でパワーのインフレを目の当たりにした観客の意識を落ち着けるために、意図的にダイナミックな描写を避けているのです。。。 以上の通り、前半部分ではテンション下がりまくるのですが、その分は後半で一気に取り戻します。トニーが再びアイアンマンとして戦う場面の爽快感はシリーズ最高レベル。前半部分でチマチマと設定やドラマを作り込んできたことの成果が、ここで一気に披露されます。また、見せ場の素晴らしさにも目を見張りました。パワーのインフレを抑制するために生身の人間による格闘とアーマーによる戦闘が組み合わされているのですが、このバランス感覚が絶妙なのです。さらには、35体のアーマーが救援に駆けつけるタイミングも完璧なものだったし、壮絶な戦闘の合間に挿入されるユーモアも作品の質を向上させています。ここにきて、シェーン・ブラックの力量が炸裂しまくりなのです。。。 ヴィランに実力派俳優をキャスティングすることが本シリーズの特色ですが、本作ではガイ・ピアースとベン・キングスレイという最強のタッグが作品を大いに盛り上げています。特に、原作コミックでは最強の敵として名を馳せているマンダリン役を演じるベン・キングスレイの怪演には、目を見張るものがありました。ある意味、ヒース・レジャーのジョーカーをも超えてますよ。
[映画館(字幕)] 8点(2013-04-29 00:29:02)(良:3票)
166.  ユニバーサル・ソルジャー 殺戮の黙示録
20年以上に渡って細々と続いている本シリーズですが、今回でまさかの4作目に突入(他にTVMとして制作された『Ⅱ』『Ⅲ』がありますが、これらはシリーズにカウントされていない模様)。第1作の生みの親であるローランド・エメリッヒもマリオ・カサールも遠の昔にシリーズを去り、ヴァンダムが半ば私物化していた本シリーズですが、ここに来てまさかの主役交代。スタントマン出身で今もっとも動ける男・スコット・アドキンスが新たな主人公・ジョンを演じ、「俺が俺が」のヴァンダムは脇役に徹しています。この世代交代が吉と出るのか凶と出るのかが鑑賞前の最大の関心事だったのですが、嬉しいことにこの交代によってシリーズは見事な若返りを果たし、B級アクションとしてはかなりのレベルに達しています。ジャンルに関心のない方までを振り向かせるほどの傑作というわけではありませんが、こういう映画がお好きな方であれば、概ね満足できる仕上がりではないでしょうか。。。 舞台となるのはユニソルが普及し、闇の世界で多用されている世界。設定上、第一作以外はなかったことにされるという平成ゴジラ的な強引さには呆れ返ってしまいますが、シリーズに係る予備知識がなくても話に入り込める親切設計だと考えれば、これはこれで有り難くもあります。本作でユニソルを使用しているのはFBIであり、軍事アクションだった過去作品と比較すると全体の雰囲気がかなり変わっています。見せ場は銃による派手なドンパチから刃物を使った凄惨な殺し合いにシフトし、スプラッタホラー並の血糊が飛び散る修羅場と化しているのです。予算に見合う小さな舞台に設定し直したことで個々の見せ場のクォリティは驚くほど向上し、肉体と肉体のぶつかり合いを基礎としたことでアドキンスによる勢いのあるアクションが活かされまくっています。ラストの長回し大殺戮などはメジャー映画にも引けを取らない完成度であり、本作の監督を務めたジョン・ハイアムズ(ピーター・ハイアムズの息子)は、今後要注目の監督になるのではないかとの期待を抱きました。。。 登場場面は少ないながら、ヴァンダムも光っています。何かとバカにされがちな御大ですが、この人は決して演技が下手ではないので悪のカリスマ役が意外と様になっているし、アドキンスとのタイマンではいまだ現役レベルの動きを披露しています。50歳過ぎてこの動きができるのかと驚いてしまいました。
[ブルーレイ(字幕)] 8点(2013-04-15 22:14:34)
167.  タイタンの逆襲(2012) 《ネタバレ》 
『タイタンの戦い』が眠たくなるような駄作だったので続編の本作には期待していなかったのですが、そんな予想とは裏腹にこれが意外なほど面白くてビックリしました。まず、前作と比較して脚本が大幅に引き締まっています。前作は主人公・ペルセウスの心理描写が不足していたり、さらには各キャラクターの思いや目的をまとめきれていなかったりと、アクションを盛り上げるための背景の描写に失敗していたのですが、それが本作では大幅に改善されています。キャラクターの人数は前作よりも増えているものの、それぞれの目的や行動原理がかなりわかりやすくまとめられているので、ドラマの通りが良いのです。大事な息子を守りたいという純粋な感情から敷衍して世界を守るために立ち上がるというペルセウスの背景は簡潔ながら力強いものだったし、冒頭で世界滅亡のイメージをドンと提示し、危機感を煽ったところで本編に入るという構成も気が利いていました。さらには、親殺し・兄弟殺しというギリシャ神話ならではのドロドロもきちんと物語に活かされており、本作の脚本は非常に充実しています。。。 また、前作のルイ・レテリエから監督を引き継いだジョナサン・リーベスマンによる演出も絶好調。個人的に贔屓にしている監督さんなのですが、やはりこの人は巧いということを実感しました。ライブアクションとVFXを組み合わせた見せ場の迫力やスピード感は前作を軽く上回るレベルだし、神・半神・人間の戦力差の描き分けも出来ています。さらには、アクションのみならず決戦前の煽りなども非常に巧いものだし、男らしさとユーモアのバランス感覚もお見事。ラストでは、リーアム・ニーソンとレイフ・ファインズという『シンドラーのリスト』の名優二人が仲良くカメハメ波を放つというなんとも間抜けな見せ場が待っているものの、このシーンをお笑いにしなかったという点でもリーベスマンの手腕は評価できます。この企画について要求される仕事は、ほぼ完璧にこなしていると言えます。
[ブルーレイ(字幕)] 8点(2013-04-10 01:20:48)(良:1票)
168.  マーターズ(2007) 《ネタバレ》 
最近観たジェシカ・ビール主演の『トールマン』が、映画としての出来はイマイチだったもののその構成には目を見張るものがあったため、パスカル・ロジェ監督の作品を後追いして本作に辿り付きました。『トールマン』があの出来だったので大した期待も気負いもなく本作を見始めたのですが、そんな腑抜けた鑑賞姿勢に冷水をぶっかけられるかのような凄まじい鬼畜ぶりには参りました。あまりに気分が悪くなったので、点数としては1点でもくれてやろうかと思ったほどです。しかし、よくよく考えてみれば「人を不快にさせる」という点において本作は極めて優れたホラー映画であると言えます。撮影や特殊メイク等技術面でのレベルも高く、二転三転する構成も考え抜かれており、映画としてはメチャクチャによく出来ているのです。個人的な意見としては二度と観たくない作品ではあるものの、客観的には傑作だと言えます。。。 冒頭、子供達を写し出す8mmフィルムの何とも言えない気持ちの悪さが本作の特徴をよく象徴しているのですが、全体に漂う湿っぽい空気感、一片の救いもない絶望感が作品全体の不快度数を大幅に引き上げています。後半の展開なんて、ハリウッドであれば主人公の脱出計画やら外部からの救援やらを織り込むことで娯楽性を含ませるであろうパートなのですが、本作ではそうした装飾が一切排除されており、主人公は黙って拷問を受け入れるのみという何ともあんまりな内容とされています。その他にも、地下室で発見された女性がどうやっても救われない状態であったり、監視員達は一切の感情を挟まずに淡々と拷問をこなしていたりと、設定のあらゆる点において鬼畜ぶりが徹底されています。死後の世界を知りたいが、自分達が痛い思いをするのはイヤだからと若い人間をさらって拷問している年寄り連中なんて、まさにゲスの極み。フィクションだと分かっていても、思い出すだけで怒りがわきます。観る者の神経を逆撫でするという点において、本作は芸術的ですらあります。。。 なお、多くのレビュワー様が、この監督はホンモノのキ○ガイではないかと危惧されているようですが、この点については、監督の前作『Mother/マザー』があまりに地味でほとんど注目を浴びなかったことへの反省から、本作では意識してスプラッタを過剰にしたとのことであり、これは意図した鬼畜であることは申し上げておきます。
[DVD(字幕)] 8点(2013-04-07 04:08:48)
169.  ウェイバック -脱出6500km- 《ネタバレ》 
共産主義国家を地獄として描いている上に、独立国家だった時代のチベットが登場することがネックになったのか、世界的な巨匠の最新作であるにも関わらず完成から日本上陸まで2年も寝かされた挙句に、ロクな宣伝もなく捨てるように公開されてしまった不運な映画ですが、肝心の内容はメチャクチャによくできています。『マスター&コマンダー』でも歴史考証にこだわりまくったピーター・ウィアーが、ナショナルジオグラフィックの協力の下に製作した映画ですから、とにかく映像の迫力や説得力が段違い。さらには暑さ寒さや飢餓感・疲労感の表現も素晴らしいレベルに達しており、観客も過酷な旅を追体験することができます。。。 ドラマの構成も非常に自制的かつ良心的であると感じました。露悪的な描写は控えめだし、追っ手とのアクション等の娯楽的な要素もほぼ排除されており、グループ内での駆け引きや裏切り等も一切なし。意志の力で過酷な大自然に挑む人々の姿のみがフィーチャーされており、一秒たりとも企画の趣旨から脱線することがありません。さらに、ドラマの着地点も良いと感じました。主人公たちはゴール手前でチベットの優しい人々に出会い、「これからは厳しい季節になるから、しばらくここで休んでいきなさい」との好意を受けます。ボロボロになっていた仲間達はこの親切に甘えようとするものの、主人公だけは「ここで足を止めれば、ゴールを目指そうとする自分の意志が負けてしまって、二度と動けなくなる。だから僕は休まずに旅を続ける」と主張するのです。決して激しい口調ではないし、ドラマティックな演出も施されていないのですが、それでも内面に燃えるような意志を感じさせるこの場面には、思わず胸が熱くなりました。。。 以上、全体としては非常に優秀なのですが、細かな点では問題もあります。まず、上映時間を短くするためか序盤を詰めすぎているためにキャラクターの紹介場面が不足しており、旅の前半では誰が誰だかわからないという混乱が生じています。また、製作費の関係か、最大の難所であるはずのヒマラヤ越えがかなりアッサリとした描写に留められているため、尻切れトンボの印象を受けました。。。 ちなみに、本作は実話であるとのテロップが冒頭に出てきますが、原作の内容については疑義が指摘されており、これはフィクションとして観るのが正解のようです。
[DVD(吹替)] 8点(2013-04-04 00:19:38)
170.  アルゴ 《ネタバレ》 
コメディにしかなりようのない題材をシリアスなサスペンスとしてまとめてみせたベン・アフレックの演出は素晴らしかったと思います。前2作でも感じたのですが、この人は空気作りが抜群に巧い。件のサスペンスフルな演出といい、一滴の血も見せずして殺伐とした舞台を作り上げた手腕といい、ベテラン監督以上に小慣れた技を披露しています。さらには、クライマックスにおける滑走路上のカーチェイスではスペクタクルもモノにしており、その内容はかなり充実しています。かつて『パールハーバー』に主演したのと同一人物とは思えないほどの活躍ぶりです。。。 また、脚本もよく練られています。イランでの作戦行動自体はかなり地味なのですが、本国での下準備や決裁ルートでの混乱を丁寧に描くことで、映画全体のボリュームをうまく調整しているのです。その一方で、主人公・トニーの家庭環境や上司との関係など、本筋とは直接関係のない要素には深入りしすぎなかったバランス感覚も見事なものだし、あえてヒーローを作らなかったという地に足のついたキャラ造型も素晴らしいと感じました。感動的なセリフや熱い演説を排除したことにより、必死で職務をこなす役人達の誠実さがより際立っているのです。。。 地味ではあるのですが、欠点らしい欠点のない素晴らしい映画でした。こういう堅実な映画をきちんと評価して最高賞を与えるオスカーは、やはり侮れない賞だと感じました。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2013-03-27 22:52:15)(良:2票)
171.  ニュースの天才 《ネタバレ》 
面白かったです。この題材であれば「ジャーナリズムとは何ぞや」を説く小難しい社会派映画になるのだろうと思っていたのですが、そんな予想に反し、本編は部下との信頼関係を作り損ねた上司の物語という普遍的な切り口で作られていたため、非常に感情移入して観ることができました。。。 コミュニケーション不足が原因で一方的に嫌っていた上司が、実は自分を守るために陰で戦ってくれていたということは、社会人をやっていると一度は経験するものです。本作でピーター・サースガードが演じる編集長は、就任のタイミングのマズさや淡々とした仕事ぶりから「人情派の前編集長を蹴落とした冷徹な新編集長」と勘違いされ、現場からの総スカンを喰らいます。しかし、記事の捏造をした部下が他社の追跡取材によって丸裸にされそうになった時、その部下の将来をもっとも案じ、最善の着地点を探そうと奔走したのは彼でした。もし、上司と部下との間に信頼関係が築けていれば、困った時に泣きついていける間柄であれば、外圧よりも先に対応策を打って傷を最小限に出来たかもしれなかったのですが、悲しいかなこの部下は最後まで上司を信用せず、嘘を嘘で隠そうとするうちに時間切れを迎えます。自分に係る誤解を早期に解き、良好な職場環境を作る努力を怠った編集長にも問題があるのですが、そうとは切って捨てられない難しさがあるのも確か。これは多くの組織に存在する問題であり、それを突いたという点で、この企画は非常に鋭いと感じました。。。 ヘイデン・クリステンセンは『スター・ウォーズ』に続き、何でも上司のせいにする青二才を熱演しています。人当たりは良いのだが、点数稼ぎとも受け取れる小手先の親切ばかりでホンネが見えてこないヤツ、こういう人っていますよね。人を騙して利益を得てやろうという意思があるわけでもないのに、まったく必要のないウソをつくヤツ、こういう人もいますよね。主人公を特殊な人格ではなく、誰にでも心当たりのある人物像に設定した点でも、この脚本は巧いと感じました。この主人公にあったのは虚栄心でも功名心でもなく、コミュニケーションの手段として自然についてきたウソが、いつの間にか巨大化して収拾がつかなくなってしまったという程度のものなのです。社会派映画を期待して本作を鑑賞された方にとってはガックリきた結論かもしれませんが、私は事実の一側面を的確に切り取っていると感じました。
[DVD(吹替)] 8点(2013-03-05 01:10:29)(良:2票)
172.  崖っぷちの男 《ネタバレ》 
興行面では世界的に不発だった本作ですが、なぜこれが話題にならなかったのかと不思議になるほど面白い映画でした。傑作とは言いませんが、これよりも面白くない大ヒット作なんていっぱいありますよ。。。 多くの方が挙げられている『フォーン・ブース』を筆頭に、『交渉人』『ミッション:インポッシブル』『マッドシティ』等々、本作の内容は過去作品のパッチワークのような状況となっています。ビルから飛び降りようとする謎の男と、それを止めようとする交渉人という構図は、2011年に製作された『ザ・レッジ-12時の処刑台』と同じだし、本作はオリジナリティに欠ける映画だと言わざるをえません。ただし、イベントの詰め込み方が尋常ではないため、ハイスピードで展開されるサスペンスアクションとしては過去作品達を上回る面白さとなっています。監督を務めたアスガー・レスはドキュメンタリー出身で本格的な劇場映画は本作が初となるのですが、その手腕には目を見張るものがありました。トニー・スコットやデヴィッド・R・エリスら、このジャンルの重鎮の急逝が相次ぐ昨今、意外とすぐにメジャー大作を任されることになるかもしれません。。。 以上が作品レビューであり、これからは鑑賞後に気になった点をいくつか挙げていきます。まず、この手の映画は視点を絞れば絞るほど面白くなるので、崖っぷちに立つ主人公と、敵の総本山に潜入する弟たちの様子を交互に映し出すという構成はいただけませんでした。盗みについては素人同然の弟がイーサン・ハントのような技を見せる点も不自然だったし、作品を通じて視点は主人公に固定して弟達の活動は明確に描写せず、終盤でサプライズ的に登場させるという構成にした方がよかったと思います。次に、交渉に失敗した過去を持つマーサーの設定が本筋とうまく絡んでおらず、ほとんど不要な背景となっています。『ダイ・ハード』のパウエル巡査的なポジションを彼女に託したのだと思うのですが、ならば彼女にも見せ場を与えてやるべきでした。悪役側については頭の悪すぎる行動が多く、「そこで主人公を殺したら、さすがに隠蔽しきれないだろ」という局面もありました。もっと賢く振舞ってくれれば、強力な敵となったはずなんですけどね。。。 まぁこの手の映画は2時間の上映時間を楽しむことができれば勝ちですので、以上の指摘も鑑賞後の小言であって、作品の面白さを損なうものではありませんが。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2013-01-27 02:21:54)
173.  ブロークバック・マウンテン
本作は男同士の『ロミオとジュリエット』。悲恋ものとしてはかなり王道をいく内容なのですが、登場人物をゲイにするというコロンブスの卵的な発想によって陳腐化した物語を見事に蘇らせており、企画自体の目の付け所はかなり良かったと思います。何百年にも渡って全人類に愛されてきた物語を映画の骨子としているのですから、ある意味では負けるわけのない企画なのです。アン・リーもそのことをよく理解しているようで、奇をてらった演出は一切せず、素材の魅力だけで勝負しています。演出しすぎてバッシングを受けた『ハルク』の経験からきた判断なのでしょうが、この方向性は正しかったと思います。。。 ただし問題は、ゲイの性をどう描くのかという点にありました。男同士が抱き合ったりキスをしたりする場面なんて、実写でやると笑っちゃうしかないわけですから。かのイーストウッド御大ですら、『J・エドガー』では直接的な性描写を避けています。そこにきてアン・リーはこれを正々堂々と描いてみせるというチャレンジを行い、かつ、それに成功しました。裸の男が抱き合って会話する場面なんて見れたもんじゃないのに、この映画ではきちんとしたドラマのパーツとして生きているのです。これには驚きました。性描写に説得力があったのでドラマにも深みが増し、最後の密会で喧嘩別れする場面なんて、悲しくて涙が出そうになったほどです。。。 主演4人の演技もすべて最高です。本作の後、この4人は全員売れっ子となったのですから、後付けではありますが非常に的確なキャスティングだったと言えます。ゲイの末路を知っているために感情を押し殺そうとするヒース・レジャーと、気持ちを隠しきれないジェイク・ギレンホールの対比は面白かったし、20年という時間経過を伝える演技が出来ている点でも感心しました。ロマコメのイメージが強くて女優として伸び悩んでいたアン・ハサウェイは本作で思い切った役柄を演じ、見事イメージチェンジに成功しました。女優さんがキャリアに弾みを付けるためにヌードとなることは日本でもよくありますが、ここまで成功した例はかつてないのではないでしょうか。
[DVD(吹替)] 8点(2013-01-26 22:06:07)
174.  コナン・ザ・バーバリアン
全米での苦戦が影響して日本公開が1年近くも遅れ、おまけに3D作品であるにも関わらず国内での3D上映はなしというあんまりな扱いを受けた本作。私は出来が悪いことを想定して鑑賞したのですが、そんな予想に反してこれが滅法面白くて驚きました。チープなジャケットに騙されてはいけません。本作は7,000万ドルもの製作費が投入された紛れもないハリウッド大作であり、その製作費をきっちりと画面に反映させることにも成功した、堂々たる娯楽作です。。。 『コナン』リメイクの企画は90年代から存在しており、2000年頃には『マトリックス』のヒットで飛ぶ鳥を落とす勢いだったウォシャウスキー兄弟も参加したものの、結局は話がまとまりませんでした。1982年版は成功した映画ではありませんでしたが、それでもあの映画が持っていた訳の分からん重厚さに勝るものはなかなか生み出せなかったようです。なんせ、ジョン・ミリアスとオリバー・ストーンというハリウッドトップの脚本家が二人掛かりで仕上げた作品ですからね。そんなこんなで何度も潰れてきたこの企画ですが、ハリウッドの何でも屋さんブレット・ラトナー監督が加わった2008年辺りから、話はサクサクと進み始めました。再映画化企画として1982年版からは完全に切り離し、純粋な娯楽映画として練り直したことが勝因でしょうか。。。 その後、スケジュールが合わずにラトナーも降板し、その跡を継いだのが『テキサス・チェーンソー』のマーカス・ニスペル。ラトナーは器用であるものの、その反面薄味で無難な映画しか撮らない監督。もしラトナーが完成させていれば出来損ないの『グラディエーター』になった可能性もあった本作ですが、残酷大将ニスペルの参加によって、映画はかなり引き締まりました。一方、ニスペルにも弱点はありました。演出に瞬発力はあるもののパワーが持続せず、連続活劇を不得意としていたのです。本作においてはそんな両者の個性が調度良い具合に混ざり合い、ノンストップアクションとして上々の仕上がりとなっています。
[DVD(字幕)] 8点(2013-01-18 01:14:45)
175.  メン・イン・ブラック3 《ネタバレ》 
惨憺たる仕上がりだった『Ⅱ』から10年、誰も待っていないのに復活したシリーズ最新作ですが、これが驚異の完成度でぶったまげました。気鋭の脚本家イータン・コーエンに原案を書かせ、それを娯楽作の経験豊かなジェフ・ネイサンソンとデビッド・コープに手直しさせるという鉄壁の布陣で練り上げられた脚本がとにかく絶品。本作では宇宙人モノにタイムパラドックスの要素まで加えられ、おまけにアポロ11号発射という歴史的イベントと登場人物のプライベートな物語をリンクさせるという欲張りな内容となっているのですが、これらの要素を簡潔にまとめあげ、クライマックスに向けてひとつに収斂していく脚本力には脱帽させられました。。。 そんな脚本力に刺激されてか、演出の方も乗りに乗っています。90年代には確かにヒットメーカーであったものの、2000年代に入ってロクな映画を撮っていなかったバリー・ソネンフェルドが、本作では人生最高の演出を披露しているのです。冒頭の脱獄劇(舞台が月面であったことが判明する場面のインパクト!)からロケット発射台でのクライマックスに至るまで、見せ場の仕上がりはシリーズ最高レベルです。シリーズで唯一、観客に恐怖心を抱かせる悪役を登場させたことでアクション映画として全体が引き締まったし、笑いとアクションのバランスも絶妙な加減に調整されています。。。 惜しむべきは、MIBというコンテンツの賞味期限が完全に切れてしまっていたということ。これだけの完成度であるにも関わらず並レベルの興行成績に終わったことが、まさにそのことを示しています。10年前の『Ⅱ』の時点でこの完成度を披露していれば映画史に残るシリーズになったかもしれないだけに、遅れてきた傑作を残念に思います。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2013-01-06 19:44:26)
176.  ホビット/思いがけない冒険
IMAX3Dにて鑑賞。本日のシネコンは『ONE PIECE』に席巻されており、公開第一週の週末であるにも関わらず本作のスクリーンは悲しい程にガラガラ。10年前の『ロード・オブ・ザ・リング』初公開時には確かにあった熱気も今や昔、大変寂しい環境下での鑑賞となりました。。。 内容や雰囲気は、良くも悪くも旧シリーズを引き継いでいます。世界観を統一するためか、本作に登場するものは10年前に見たようなものばかりで目新しい要素や新機軸なるものは皆無。おまけに、ストーリー展開はご丁寧にも『旅の仲間』をなぞったものとなっており、旧シリーズが肌に合わなかった方は、恐らく本作もつまらないと感じるはずです。一方、旧シリーズのファンにとって、これは最高の新シリーズとなっています。テンションの高いイントロにはじまり、美しい撮影に、熱いドラマに、ド派手な見せ場にと、旧シリーズの良い部分がすべて受け継がれているのです。ピーター・ジャクソンの演出は10年でより進化を遂げており、見せ場における間の取り方などは神がかっています。ファンタジー映画を撮らせると、この人は世界一の監督であるということを再認識させられました。。。 『ロード・オブ・ザ・リング』というコンテンツと3D技術との相性は抜群に良く、画面に奥行を得たことで中つ国がより魅力を増しています。ジェームズ・キャメロンが『アバター』で実践した演出法が用いられているのですが、それによって観客は世界の広さを実感することとなります。同時に、本作では飛び出すアトラクションとしての面白さも追求されており、最大の見せ場であるゴブリンの洞窟での戦闘は、現状において存在するすべての3D映画で最高の仕上がりとなっています。。。 3D映画と言えば、字幕を読むことが苦痛になるため吹替での鑑賞が考慮されますが、その点、本作は吹替版の仕上がりも完璧です。普段は吹替を避けておられる字幕派の方も、本作では吹替にチャレンジしてみても良いかもしれません。
[映画館(吹替)] 8点(2012-12-15 23:10:59)
177.  トロピック・サンダー/史上最低の作戦
役者が本物の戦闘に巻き込まれるというありがちな物語ではあるのですが、ベン・スティラーの人脈を駆使して揃えられた豪華キャストによって他作品との差別化が図られています。『オーシャンズ11』や『エクスペンダブルズ』を見ればわかる通り、この手のオールスター映画はキャストの動かし方が難しいのですが、本作は遊んでいるキャストがいないという点で感心します。コメディを本業としている俳優達は専らサポートに回り、コメディとは無縁の大物に思い切った役柄を割り振るという配置は、なかなか斬新でもありました。。。 とにかく凄いのが、トム・クルーズとロバート・ダウニー・Jrの大暴れです。トムが演じるのは、ジョエル・シルヴァーをモデルにしたと思われる映画プロデューサー。このキャラの狂い方が非常に素晴らしくて感動してしまいます。とにかく勢いで捲し立て、相手に反論の隙を与えず強引に話を結論に持っていく。本格的なコメディは初となるトムのハジケっぷりは楽しいし、「笑わせようとしてはいけない。不真面目な設定を真面目に演じることが笑いにつながる」という鉄則を守った演技には感心させられました。『マグノリア』でも感じたのですが、この人は脇に回るととんでもない演技と存在感を披露します。。。 一方ダウニー・Jrが演じるのは、サミュエル・L・ジャクソンになりきろうとするラッセル・クロウ(笑)。得意げな表情でブラザー言葉を使い、語尾で「メ~ン」と言う様には笑ってしまいました。かつてはメソッド演技を極めた実力派として名を馳せていたダウニー・Jrが、メソッド演技のやりすぎで自分を見失ってしまった俳優を演じるというセルフパロディとなっている点にも注目なのです。。。 最後に、本作の字幕の酷さについて触れます。笑いを理解していない人が字幕を担当したようで、せっかくの笑いどころがことごとく潰されています。例えば、「retard(知恵遅れ)」という言葉が「愚か者」と訳されているため、あえて差別用語を使った作り手の意図が伝わっていません。英語のジョークを原語で理解できる方以外は、本作を吹き替えで鑑賞されることをオススメします。笑いの量が3倍に増えますから。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2012-12-12 00:51:30)
178.  バンク・ジョブ
“Based on true story”とはいうものの、真相が闇の中にある事件を好き勝手に解釈して作り上げた物語であり、内容はほぼフィクションです。我が国における3億円事件ものと同様の立ち位置にある作品なのですが、本作が掲げる仮説には大胆さと遊びがあって非常に楽しめました。この脚本を引き受けたロジャー・ドナルドソンによる演出も絶好調であり、終始勢いのある犯罪ドラマとして見事に成立しています。この監督さんは物語の交通整理が抜群に巧い人で、『追いつめられて』や『13デイズ』でも雑多なキャラクターの入り乱れる複雑な物語を簡潔な切り口でまとめてみせていましたが、本作においては過去作品以上に洗練された演出を披露しています。これだけ複雑な物語を、ここまでシンプルに見せられる監督は他にいないのではないでしょうか。さらには、30年超のキャリアを誇るベテランでありながら、ガイ・リッチーやマシュー・ヴォーンの演出をうまく吸収してみせるという柔軟性も披露。文句なしの仕事ぶりだと思います。。。 主人公を演じるジェイソン・ステイサムはさすがの安定感で、男にも女にも惚れられるかっこいいあんちゃんという役どころを完璧にモノにしています。サフラン・バロウズは過去最高の美しさを披露。彼女があまりに美人すぎて、時にステイサムがちんちくりんに見えてしまっていたほどです。デビッド・スーシェはベテランならではの威圧感で映画全体を引き締めているし、キャストの動かし方は総じて素晴らしいと感じました。。。 以上の通り、本作は文句つけ所がないほどによくできた犯罪サスペンスだと評価できます。このジャンルで本作以上のものを作ることは、ちょっと無理ではないかと思います。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2012-12-10 01:35:29)(良:1票)
179.  007/スカイフォール
IMAXにて鑑賞。映画の日であるにも関わらずIMAX料金込みで2,000円も取られましたが、大作らしいボリューム感は入場料の元を充分にとっていました。ドッカンガッシャンと通常のアクション映画以上に強烈な音響も映画館向きであり、設備の整った環境でこそ観るべき映画だと思います。。。 内容の方は、シリーズ中でもかなりの異色。なんせ、今回のボンドガールはMですからね。これまでのボンドガール最年長記録だったモード・アダムス(『オクトパシー』)の38歳を大きく更新した77歳、枯れまくっております。そんなMに合わせ、今回はボンドもセックスアピール控えめ。世代交代や老いが作品全体のテーマとなっているのですが、新米スパイだった『カジノロワイヤル』からたった1作を挟んだだけの本作でこのテーマは早すぎるような気がします。映画全体を振り返っても、ボンドが老いている必要性はあまり感じなかったし。。。 以上の通り、テーマや内容には少なからずの疑問符が付いたのですが、それでも映画としてはシリーズ中随一の面白さだと思いました。やはり監督力の差がモノを言っているようで、これまでシリーズを演出してきた11人の監督の中では最大のビッグネームであるサム・メンデスの手腕が光りまくっています。淡々とした中に激しさを秘めた大人のドラマには大変な見応えがあり、シリアスボンドとしては『カジノロワイヤル』をも超える完成度だと感じました。ジョン・ローガンによる脚本は娯楽性とドラマ性の間で絶妙なバランスを保っており、前任のポール・ハギス以上の仕事を披露しています。しばらく薄味が続いてきた悪役についても、今回は『ノーカントリー』で最強の悪役を演じたハビエル・バルデムの投入によってテコ入れが図られています。バルデム演じるラウル・シルヴァについては、設定上多くの穴が存在しているのですが、それでもバルデムの圧倒的な存在感によって何とか誤魔化せているので感心します。次回作を期待させるラストも面白く、総じて満足度の高い作品でした。
[映画館(吹替)] 8点(2012-12-01 20:04:09)(良:1票)
180.  孤島の王 《ネタバレ》 
映画としてはありがちなテーマだし、内容に捻りがあるわけでもないのですが、それでも十分に面白い映画だと感じました。非ハリウッドならではの荒削りな演出が作品全体の空気感に貢献しているし、少年たちのギラついた眼光が物語に説得力を与えています。本作のプロダクションについて詳しくは調べていないのですが、それでも、映画を見れば相当厳しい環境下での撮影を強いられたことが十分に伝わってきます。俳優達は皆、本物の顔になっているのです。。。 本作の舞台は刑務所ではなく矯正学校、登場する少年達は囚人ではなく生徒という設定がミソで、映画の大半を占めるのは『カッコーの巣の上で』をも超える不条理劇です。刑務所ならばお勤めを果たせばお役御免なのですが、学校が舞台となると、卒業の要件を充たすまでは島を出ることができません。少年たちには教師や寮長に対する絶対の服従が要求されるわけですが、その不快指数といったらハンパなものではありません。少年たちに行き過ぎた倫理観を押し付けながら、自分たちの身の汚さには無自覚な大人たちの下品なこと!言いっ放しが許される環境に置かれた権力は必ず腐敗すると言いますが、まさにそれを地で行く内容となっています。前半部分で描かれる抑圧があまりに酷かった分、ついに少年たちがブチ切れる後半パートには、大変なカタルシスが待っています。本作は、観る者の感情を大きく揺さぶる、非常にアクティブなドラマであると言えます。
[DVD(字幕)] 8点(2012-11-24 23:08:34)
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