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かたゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1884
性別 男性
年齢 48歳
自己紹介 自分なりの評価の基準は、
10・超大好きな作品。完璧。映画として傑作であるばかりでなく、自分の好みと見事に合致している。
9・大好きな作品。完璧に近い完成度。手放しに歴史に残る傑作といっていい。
8・好きな作品。本当に面白い。欠点があるかもしれないが、それも含めて好き。
7・少し好きな作品。普通に面白い。欠点もあるかもしれないが、そんなに気にならない。
6・普通の作品。可も無く不可も無く。最後までストレスなく観られる。面白いけど、心に残るものはあまりない。
5・少しつまらない作品。最後まで観るのにちょっとストレスを感じた。面白い部分も多少はあった。
4・つまらない作品。最後まで観るのが苦痛だった。ほとんど面白いところが感じられなかった。
3・かなりつまらない作品。最後まで観た自分を褒めてあげたい。観終えた後に、怒りのあまりDVDを割りそうになった。
2・超つまらない作品。時間と金を返せ。観終えた後に、怒りのあまり製作者全員を殴りに行きたくなった。
1・絶望的につまらない作品。最低。観終えた後に、怒りを通り越して死にたくなった。
0・死霊の盆踊り。

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1.  花とアリス〈劇場版〉 《ネタバレ》 
素晴らしい!!何も期待せずに観たのだけど、これが無駄なシーンが一切なく、そればかりか瑞々しいセンスが全編にわたって溢れかえってました!!まあ、おっさんフィルターを通した少女趣味映画と言ってしまえばそれまでなんだけど、ここまで「少女とはこうであってほしい」というおっさんの妄想をこんなにも美しく精緻に造り込まれたらもはや感嘆するしかないですわ。気品があってキュートでかわいくてそれでいて静謐で繊細で、なおかつ少々エロティック…。もう最後までハート鷲摑みでした。主人公花とアリスが好きになる男の子も、いかにも恋に恋する少女が夢見そうなミステリアスな美少年像(性欲の臭い皆無!笑)なのもグッド!ハートのエースやおにぎりサンド(牛乳と味噌汁が両方欲しくなる!笑)、深刻なシーンに挟まれる鉄腕アトムの呑気な表情やオチ研の先輩の落語、妙に飄々としたお父さん、ナメクジの夢、もう好きなシーンを数え上げたらキリがないほどいっぱいあり過ぎてヤバいっす。そして最後にばっちりと決まるバレエシーンの息を吞むほどの美しさ…。文句なしの傑作と呼んでいい作品と久々に出会うことが出来ました。もう一度言います!少女って素晴らしい!!
[DVD(字幕)] 10点(2017-04-30 23:57:36)
2.  嫌われ松子の一生 《ネタバレ》 
原作も、小説の神様が降臨してしまったかのような傑作だったけど、この映画もそれにまったく見劣りすることない傑作だった。そもそも山田宗樹の原作って、「夫も子供たちも送り出して掃除も洗濯も済ませた昼下がり、安心安全な私の家のリビングで美味しいお紅茶でも飲みながら、ロクでもない男に騙されてひたすら堕ちていく女の人生を追体験してみたいわぁ」という、多くの日本の主婦たちの願望を叶えるために書き始めたのだろうお話。けど、狙ったのか筆がどんどん滑ってしまったのか、あまりにもその堕ち方が凄まじくて、そんな主婦たちの健全な願望を返り討ちにした挙句、多くの人の心をとらえて離さない傑作に仕上がっていた。中島哲也監督はそんな原作の持ち味をものの見事に捉えて、ファンキーでトリッキーで猥雑でしかもとてつもなくエネルギッシュな映像で原作に負けず劣らず凄い作品に仕上げてしまった。素晴らしい。こんな狂った世界で、ちっぽけで愚かかもしれないけれど、松子は必死に足掻きながら幸せになろうとした。そんな彼女の強さも弱さもすべてひっくるめた圧倒的な情熱が深く胸を打つ。
[DVD(字幕)] 10点(2012-05-17 02:14:11)
3.  勝手にふるえてろ 《ネタバレ》 
彼女の名は、江藤ヨシカ。地味で大人しい何処にでもいるような平凡なOLだ。毎日同じ時間に出社してはひたすら数字と向き合う事務の仕事をこなし、営業の空気読めない同僚やウザい上司の説教攻撃にひたすら耐えるようなしんどい毎日。家に帰ってからも絶滅した古代の動物をネットで検索したり、タモリ倶楽部の空耳アワーを見てにやにや笑うのが自分へのご褒美。一番の心のオアシスは、高校の頃に一方的に好きだったクラスメートの男の子、「イチ」との思い出を脳内再生して妄想にふけることという、いわゆる典型的な〝拗らせ女子〟だ。そんな彼女に最近、大事件が発生!なんと、彼女のことが大好きだという彼が出現したのだ。だが、ヨシカの中で「ニ」と名付けられた彼はやることなすこと空回りばかりで正直、引いてしまうことだらけ。思い出の中にしか居ない理想の彼か、イケてないけれど安定感は抜群の現実の彼か――。思い悩む彼女は、人生最大の賭けに挑むのだったが……。芥川賞作家・綿矢りさの同名小説を原作に、オタク系拗らせ女子の生態をコミカルに描いたキュート&ポップなラブ・ストーリー。ちなみに僕は原作者である綿矢りさの昔からの大ファンで、本作は芥川賞受賞以降、長らく低迷していた彼女が見事な復活を遂げた名作。結論を言うと原作に負けず劣らずの素晴らしい出来でしたね、これ。綿矢りさって若い女子のリアルな生態を描きながら、文章がしっかりしているのでおっさんでもキュンキュンしながら読むことが出来る――というか、彼女の主な読者はほとんどおっさんなんじゃないかってくらい(笑)――幅広い読者から共感を得るその普遍性がウリなんですけど、それが見事に再現されてました。「イチ」に名前も覚えられていないと知った主人公が急にミュージカルになって、「私なんて絶滅すべきでしょうか」と切なく歌い上げられた日にゃ、もはや薄汚れたおじさんである僕も思わず泣きそうになっちゃいましたわ!!あの不自然極まりない街の人たちとの会話も全てこのシーンへの伏線になっていたなんて最高すぎる!!そう、世界のほとんど全ての人間は自分の名前なんて知らないんです。なのに自分が生きている意味とはなんなのか。若い女子の恋愛を描きながら、そんな実存主義的な深いテーマまで視野に入れている。見事というしかない。また、ヨシカを演じた松岡茉優も見事なまでに嵌まっていて素晴らしい仕事ぶり。空耳アワーの名作、レイジ・アゲインスト・マシーンの『ナゲット割って父ちゃん』を見て大笑いしている彼女なんてめちゃキュートで思わず抱きしめたくなりました(もちろん妄想で)。最後が唐突に終わっちゃったのがちょっと残念だったけど、それを上回るような魅力が随所に溢れた傑作でありました。以下余談。原作が雑誌『文學界』に最初に掲載されたとき、ヨシカがアカウントを乗っ取るSNSが思いっ切りミ〇シィって明記されてました。単行本発売時に変更されてましたけど、さすがにヤバいって編集部の間でなったんでしょうかね。
[インターネット(邦画)] 9点(2021-11-01 04:01:07)
4.  ラストレター(2020) 《ネタバレ》 
君にまだずっと恋してると言ったら君は信じますか――。精神疾患を患い長年闘病生活を続けてきた姉を自殺で失った、裕里。娘とともに実家での葬儀に参列した彼女は、姉の荷物の中から同窓会の招待状を見つけるのだった。かつてのクラスメートに事実を知らせるため、同窓会の会場へと向かった裕里だったが、暖かく迎え入れてくれた姉の同級生たちにとても言い出すことが出来ず、彼女はそのまま姉の未咲としてスピーチまでしてしまう。そして裕里はそこで、姉の初恋の相手である売れない小説家、乙坂と出会うのだった――。互いの近況を知らせるために、何気なく始まった乙坂との文通。裕里は姉の未咲として彼へと手紙を書き、ちょっとした手違いから、乙坂は未咲の一人娘である鮎美へと返事を書くことに。そうして始まった三人の一方通行のやり取りはやがて、彼女たちの隠された青春の日々を蘇らせるのだった……。日本が世界に誇る天才映像作家・岩井俊二監督の最新作は、そんな詩情豊かな映像と繊細な心理描写が光る恋愛ドラマの傑作でありました。いやー、この人の才能っていつまで経っても色褪せないばかりか、歳を経てますます芳醇になってゆきますね。抒情性溢れる映像と音楽、最初から最後まできちんと分かりやすく構築された脚本、そして役者陣のキラキラと輝くような繊細な演技…、どれを取っても素晴らしいとしか言いようがありません。制服姿の女子高生を美しく撮ることにかけては、この人、もはや世界一なんじゃないですかね。小雨がそぼ降るなか、森の中で広瀬すずと森七菜が傘を差して二人で佇む映像は涙が出るほど美しかったです。そして、自殺した姉と偽って手紙を書く妹、初恋の相手と思って過去を振り返る男、自殺した母親の過去を知るために手紙を受け取る娘、この三人の思惑が複雑に絡み合う文通も、お互いの気持ちが痛いほど分かりなんとも切ない。あと、豊川悦治と中山美穂をこんな形で使うなんて、なんという心憎い演出!名作『ラブレター』のファンとしては思わずニンマリしちゃいますね。最後、未咲が娘に遺した〝ラストレター〟の内容なんて、あまりにも切なすぎて涙無くしては見れませんでした。多少ストーリー展開に強引なところもありますが、期待に違わぬ素晴らしい出来。岩井俊二監督、これからもたくさんの傑作を世に送り出してくださいね。
[DVD(邦画)] 9点(2021-03-06 00:00:37)
5.  Love Letter(1995) 《ネタバレ》 
「拝啓藤井樹様。お元気ですか?私は元気です」――。かつて恋人を山で失くし、失意の中に生きてきた神戸在住の女性、渡辺博子。彼の三回忌の法要に参列した彼女は、偶然目にした卒業アルバムで彼の当時の住所を知る。懐かしさから、博子は何げなくペンを手に取ると、彼に届くはずのない手紙を書くのだった。ポストに投函されたそれは、誰にも読まれることなく送り返されるはずだった。だが、手紙は何故か、北海道の小樽に住む彼と同姓同名の女性、藤井樹の元へと届けられる。「拝啓渡辺博子様。私は元気です。でもちょっと風邪気味です」――。ちょっとした悪戯心から樹はそう彼女に返信を書く。そうして何気なく始まった、見知らぬ者同士の文通。何度もやり取りされる中で、次第にそれは今はなき天国の彼の思い出を鮮やかに蘇らせるのだった。時を超えた二人の思い出はやがて、都会の片隅に小さな奇跡をもたらすことに……。映像作家、岩井俊二監督の長編映画デビュー作となる本作、今更ながら今回鑑賞してみました。結論を言います。素晴らしい作品でした。今まで観ていなかったことを激しく後悔。もう全編に渡って横溢する、このキラキラと光り輝くような豊かな詩情性に完全にやられました。白を基調とした美しい映像に一部の隙も無い完璧な構図、そして気品あふれるクラシカルな音楽ともはや魔法のような美しさにいつまでもずっと浸っていたいと思わずにはいられません。最初はあり得ないストーリー展開に戸惑わせつつも、真相が明らかになれば誰しも納得できるというこの考え抜かれた脚本も見事としか言いようがない。神戸と小樽で暮らすそっくりな風貌を持つ二人の女性、同姓同名のクラスメイト、肺炎で亡くなった父、本当は嫌いだった松田聖子の歌、暗い夜の駐輪場で自転車の淡い光に照らされた二人、誰も借りたことのないマイナーな本の貸出票に書かれた幾つもの彼女の名前、そして最後に彼が借りた『失われた時を求めて』に隠されていた秘密……。散りばめられた細かなエピソードの一つ一つに至るまで監督の才気が漲っていて、その完成度の高さには言葉を失ってしまいます。ただ一つ惜しいのは、豊川悦司の関西弁がいまいち嵌まっていなかったことぐらい。それ以外は、この洗練された美しさに今さらながら脱帽。若き岩井俊二の豊かな才能が完全に開花した、聞きしに勝る傑作でありました。
[DVD(字幕)] 9点(2020-02-19 20:41:23)(良:1票)
6.  リップヴァンウィンクルの花嫁 《ネタバレ》 
自らの主体性というものを強く持ち合わせておらず、周りの人間によって何処かへと流されるままに生きているような若い女性、七海。社会が提示する「こうすれば君も幸せになれるよ」という空気感に抗うことなく、彼女は出会い系サイトで知り合った男性と恋に落ち、あっさりと結婚してしまう。だが、そんな七海へと忍び寄る怪しげな男、安室。彼の策略により、七海の幸せだと思われていた結婚生活は次第に綻びをみせるようになり、やがて彼女のちょっとした愚かな行動により全てを失ってしまうのだった。残酷な社会へとたった独りで放り出されてしまった七海を救ったのは、再び安室という謎の男だった。彼に言われるまま、七海は大きな屋敷の住み込みのメイドとして働き始める。同僚として一緒に働くことなった自由奔放な女性、真白と次第に仲良くなってゆく七海。だが、真白には誰にも言えない深い秘密を抱えていた――。現実なのか、空想世界なのか、都会の片隅にひっそりと開いた秘密の扉を開けてしまった可憐な女性、七海。彼女が辿ることになる摩訶不思議な運命をリリカルに綴る大人のための残酷なファンタジー。日本が世界に誇る天才映像作家、岩井俊二監督の新たな代表作とも言えるそんな本作、3時間にも及ぶ長丁場ということで今回気合を入れて鑑賞してみました。なのですが、そんな僕の先入観など軽く吹き飛ばすほどの傑作でした。もう全編に渡り、監督の映像センスが炸裂しています。ストーリーの見せ方もそれぞれのキャラクターの描き方も一切無駄がなく、何よりこの唯一無二のカメラワークが最後までとても心地よく、3時間を一切長く感じさせません。本当にセンスの塊ですね、この人。また、聖なる愚者とも呼ぶべき純粋可憐なこの主人公を演じた黒木華がまさに嵌まり役で、とても素晴らしかったです。夫により新居から追い出された彼女が、大きなキャリーバックだけを手に何処でもない場所を彷徨うシーンはあまりにも切なく思わず涙。そして後半、彼女が辿ることになる現実感のない展開も最後にきちんと説明がなされ、観終わった後、僕は更なる感動に包まれていました。素晴らしい!正直、観終わった直後はちょっと長すぎかなとも思ったのですが、思い返せば思い返すほどじわじわと心に効いてきて、この長さはやはり必然だったのだと改めて納得。真白も安室も考えてみれば酷いキャラクターなのですが、結果的に七海にこんな幸せな記憶を与えてくれた。こんな残酷で酷い社会でも、生きていればこんな素晴らしい出来事があるかもしれないと思わせる希望と再生の物語。僕にとって特別な作品がまた一つ増えてしまいました。
[DVD(字幕)] 9点(2019-08-01 23:14:37)(良:1票)
7.  この世界の片隅に(2016) 《ネタバレ》 
素晴らしいの一言に尽きる。あの時、あの時代を生きた市井の人々のささやかな幸せが圧倒的な暴力の前に無残に崩れ去る。平凡な人々が胸に抱いたであろう静かな怒りに胸が震えました。すずを演じたのんの嵌まり方も良かった。またいつか観てみようと思います。
[DVD(邦画)] 9点(2018-08-11 03:35:57)
8.  花とアリス殺人事件 《ネタバレ》 
傑作『花とアリス』のあの二人にまた会える!!しかも二人が出会うまでの前日譚、それを美麗なアニメーションで表現してみせた監督にもう感謝感謝。内容的には相変わらずなんてことないお話なのだけど、そうそう、これがいいんですよね~。このゆるーいふわふわ感、最高でした。大傑作だった前作と比べるとちょっぴり小粒感は否めないですけど、こちらもなかなか面白かったです。誰も居ない夜の駐車場、星空の下で二人がバレエを踊るシーンが特にお気に入り。花、最後の最後に愛の告白(独自の解釈と妄想が過多ですけど笑)をされて良かったね!!
[DVD(字幕)] 9点(2017-05-22 11:59:32)
9.  かぐや姫の物語 《ネタバレ》 
素晴らしい。この竹取物語という日本人なら誰もが知っている日本最古の物語を現代に甦らせた本作は、アニメのみならずここ10年の間に製作された全ての映画の中でも歴史に残る傑作と言ってもいいくらいの素晴らしい出来栄えだった。高畑勲という日本を代表する映画作家は、この平安期の日本に古色蒼然と埋もれていたかぐや姫という女の子をその見事なまでの芸術的才能によって、千年の時を経た現代の日本に活き活きと生き返らせたのだ。水彩画を思わせる淡いタッチの絵の中で瑞々しく躍動する、このかぐや姫ほど魅力に満ちた主人公を僕は他に知らない。光り輝く竹の中から生まれた小さな女の子であった彼女が心優しき老夫婦の元ですくすくと成長していくさまを自然に見せていく冒頭部分から僕は心を鷲掴みにされた。最初は心優しき翁だった父が都に出てくると、次第にその出世欲と見栄を増大させ、単なる俗物へと変化していくのは、このかぐや姫という物語の本質を象徴している。生きることは、その純粋さを少しずつ穢していくこと――。常日頃からそう思っている僕にはとても共感できるテーマだった。光り輝く魅力に満ちたそんなかぐや姫も都に出たことによって、社会の序列化の波に組み込まれていく。やがて、彼女は男どもの横柄な支配欲――その裏には必ず醜い性欲が潜んでいる――によって、その美しさと純粋さを完全に奪われそうになるのだ。ただ綺麗なだけの着物を脱ぎ捨て、楽しかった生まれ故郷の里山に帰ろうとするかぐや姫(絵のタッチを意図的に荒くして描かれるこのシーンは息を呑むほどに美しかった)だが、男社会の論理はそれを許さない。何とかしてそんな男どもの支配欲に抗おうとするかぐや姫だったが、とうとう帝に見初められることによって追い詰められてしまう。そして、彼女を後ろから抱き締めようとする帝の醜い支配欲…。かぐや姫はその純潔を守るために自らの意志で迎えを呼び、そして“穢れなき”月の世界へと帰ってゆく。だが、そんな俗世にまみれたこの世界でも初恋の思い出や鳥や虫たちの健気に生きる姿、そして父母の情愛という彩りに満ちた素晴らしいものがあると悟り、かぐや姫は涙を流す。不覚にも、僕はこのラストシーンを見ながら涙が止まらなかった。映画でこんなにも泣かされたのは久し振りのことだった。理不尽で醜い現実に満ち充ちたこの世界で、少しずつ穢れていきながら日々の生活を送る僕たち人間の悲哀を象徴的に描いたこのラストシーンは白眉としか言いようがない。そうなのだ。だからこそ、僕たちは物語というものに純粋さ・美しさ・あるいはユートピアを求めていくのだ。それは竹取物語が誕生した千年前も現代を生きる我々でもなんら変わることはない。そんな普遍的なテーマを追求した本作は、近年稀にみる傑作と言っていい。
[DVD(邦画)] 9点(2015-08-02 16:41:20)(良:2票)
10.  天空の城ラピュタ 《ネタバレ》 
これはやっぱりアニメとして描かれた冒険活劇映画としては世界最高峰クラスでしょう。天空から落ちてきた謎めいた少女シータを救ったことから、主人公の少年パズーが巻き込まれる、まさに誰もが胸躍らせる波乱に満ちた冒険物語。大空を縦横無尽に駆け巡る個性豊かな海賊たちと、謎の組織に奪われたシータを取り戻すために村を飛び出すパズー、そして次第に明らかになる天空の城ラピュタの伝説……。もう、これ以上ないくらいに思春期男子の心を高ぶらせてくれます(もちろん、それ以外の人たちも、ですが)。あまりにも優等生過ぎて、逆に物足りないところも無きにしも非ずかもですが、でもここまでオーソドックスな作りに徹した宮崎駿の手腕はやっぱり素晴らしいです。中1のころに観て、次の日、空を見上げながら「あの白い雲の向こうにおれも飛んでいけたらなぁ」と切なくなってしまったことを、今でも憶えています。
[DVD(字幕)] 9点(2013-05-02 21:17:17)
11.  火垂るの墓(1988) 《ネタバレ》 
毎年、夏になると全国の小中学生を恐怖のどん底に叩きつける反戦洗脳映画。と、世間では思われている作品だけど、僕はちょっと違う気がします。この作品は単純な反戦映画ではなく、戦争が本当に壊してしまうものを冷徹に見つめた作品だと思います。戦争が本当に壊してしまうもの、それは人間の社会性です。この主人公の少年は、今でいう不良少年なのです。盗んだバイクで走り出す現代の若者となんら変わりない。そんな少年でも、社会性がしっかりしていれば、相応の大人たち(例えば教師や警察や少年院)がちゃんと矯正させて、少なくとも餓死させるということなど絶対にさせない。この世界から戦争がなくなることなど絶対にあり得ないなら、せめてそれが壊してしまうものから目を逸らさず、多くの人たちから残酷で悪趣味だと非難されようとも徹底的に冷徹に描こうというこの監督(および原作者)の勇気には敬服せざるを得ません。そして、今でもアメリカはイラクやアフガンで社会性を壊し続けている。この映画が偽善にまみれた単なる反戦映画と一線を画した普遍性を持っているのは、ますます混迷する現代に通じるテーマを持った作品だからだと思います。
[DVD(字幕)] 9点(2013-04-20 19:16:45)(良:4票)
12.  告白(2010) 《ネタバレ》 
昨今の邦画業界の商業主義に走るあまり、観客に迎合したような、昔のアニメとかドラマとかをCG満載にリメイクしてお父さんもお母さんも子供たちも楽しめて、そしてそれでは飽き足らずジャニーズのアイドルを多用したので若い女の子たちも楽しんでくださいね的な、観客に媚びまくったような軟弱な体たらくぶりに正面から挑戦するような、中島哲也監督の猛毒エンターテイメント。もう、その一本、筋が通ったような彼の信念は大好きです。人間の悪意や偽善、そして集団心理のとてつもない残虐性といった、深くて重たいテーマを扱いながら、ちゃんとエンタメ映画として一級品の作品に仕上がっているところは、本当に素晴らしい。思春期の少年少女たちの誰もが孕む、少しでも触れたら壊れてしまいそうな狂気の世界を陰鬱に、そして美しく描きながら、最後はそんな身勝手な子供たちに、松たか子演じる教師が全ての大人の代表として鉄槌を下す。「なーんてね」なんていう中2病的な逃げが、どれだけ卑怯かを分からせるために……。冒頭の、牛乳パックが転がって中身が零れるシーンから、そんな素晴らしいラストまでぞくぞくするような緊張感が一切途切れない、中島哲也監督の傑作。
[DVD(字幕)] 9点(2012-05-17 01:50:30)
13.  ひらいて 《ネタバレ》 
彼女の名は、木村愛。何処にでもいるような普通の女子高生だ。いや、普通より少し上のクラスにいると言った方が正しい。成績優秀で推薦で早々に進路も決めてしまった彼女は、誰もが忙しく過ごす高校3年生となった今も文化祭の準備に精を出している。見た目も可愛く、ファッションセンスも悪くない。明るく実行力もある愛は、自他ともに認めるクラスの人気者。ところが彼女には誰も知らない秘密が一つだけ。それはクラスメイトの地味で目立たない男の子、たとえくんに密かに想いを寄せていることだった。2年前の高校1年生だったころから、愛は彼のことが気になって仕方ない。でも、何処か他人を避け自分だけの世界に生きているような彼に愛は近づくことが出来ない。そんなある日、愛はふとしたきっかけでたとえくんと密かに交際している彼女がいるのを知ってしまうのだった。美雪。同じく3年生で糖尿病を患う地味で目立たない女の子。そんなの、絶対ありえない――。好きな人にまっすぐで全てが自分の思い通りにならなければ許せない女子高生、愛の暴走がいま始まる……。原作は、自分が長年愛読する芥川賞作家、綿矢りさ。本作は彼女の小説の中でも一、二を争うくらい好きな作品なので今回期待して鑑賞してみました。綿矢りさ原作と言えば大九明子によるポップでキュートなミュージカル風映画が見事な出来栄えだったので、こういう淡々とした青春ドラマぽい感じに最初は若干違和感。それでもちゃんと見応えのある作品に仕上がっていたのは、やはり原作の素晴らしさの賜物。大九監督だと、恐らくもっとぶっ飛んだ内容になるはずだろうけど、こういう淡々とした雰囲気も良いですね。そんな静かな世界で繰り広げられる、この愛ちゃんの暴走っぷりが最高でした。好きな彼と相思相愛になりたいが余り、その彼女を寝取っちゃうってどんな発想やねん(笑)。でもこの愛ちゃんならそーゆ―こともしかねないと思わせるところが巧い。対するたとえくんの彼女、美雪ちゃんのいかにも大人しいキャラ造形も見事で、彼のことが好きなのに自分に触れてこないことへの不満から愛ちゃんに押し切られちゃう心理も非常に丁寧に描かれていて大変グッド。2人が身体を重ね合わせるシーンは、お互いの複雑な想いがエロティックに交錯する出色の名場面でした。終わったあと、美雪の身体に触れた手を石鹸で念入りに洗う愛ちゃんが何気に好き。青春の美しさと危うさ、そして残酷さをリアルかつリリカルに綴ったなかなかの良作と言っていいんじゃないでしょうか。ただ後半、愛ちゃんがたとえくんの家に乗り込んじゃうシーンからは何となく蛇足感がありました。特に折り鶴の木の下で愛ちゃんがたとえくんに告白するシーンは、撮り方とかピンクの色の感じ、そして風の使い方などかなり岩井俊二色が出過ぎていて、せっかくここまでオリジナリティあったのにと勿体ないです。とは言え、将来が楽しみな才能にまた一つ出会うことが出来ました。8点!
[DVD(字幕)] 8点(2023-04-13 09:35:01)(良:1票)
14.  三島由紀夫VS東大全共闘 50年の真実 《ネタバレ》 
1969年5月、その日、東京大学駒場キャンパスのある教室は異様な熱気に包まれていた。何故なら、反体制を掲げ時に過激な行動で世間を騒がせた東大全共闘と世界的ベストセラー作家として名声を欲しいままにする三島由紀夫との討論会が行われたからだ。観衆も含め1000人を超える学生グループとたった一人敵地ともいえる教室へとやって来た大作家。片や共産革命を掲げる左翼思想グループ、片や天皇崇拝を主張し国家主義を是とする右翼的作家。真っ向から主義主張の異なる両者の対決は、文字通り命を掛けた激しい激論となった――。本作は、長い間テレビ局の倉庫に眠っていたそんな貴重な映像を再編集して50年目の今日、新たに世間に公表しようと試みた挑戦的ドキュメンタリーだ。中学生だった頃に三島由紀夫の傑作『仮面の告白』を読んで衝撃を受けた自分としては、感慨深いものを感じながらの鑑賞となった。当時の異様な熱気を生々しく写し取った映像は最後まで緊張感が途切れず、両者の激しい舌戦はまるで激しい格闘技を見ているかのような感覚にさせられる。特に、三島由紀夫の生涯のテーマとも言える「世界を変えるのは認識か行動か」という重要な思想が時折垣間見えるのが興味深い。高度な知性によって世界を変革しようという三島氏と文字通り暴力も辞さない行動によって世界を変えようという学生たちとの討論が最後まで噛み合わないのは当然だが、三島がそんな学生たちに理解を持って接していたのが印象的だった。もしかすると氏は、学生たちに深い羨望のようなものを感じていたのではないか。あくまで文筆活動で戦後のぬるま湯に浸かり切ったような日本を変えようとした三島氏が最期、あのような暴挙に出たのはもしかするとこの討論会で学生たちが見せた清々しいまでの若さに影響されたのかもしれない。もちろんかなり穿った見方であることは承知の上だが。ただ、討論会の途中から急に登場する、この時代のひろゆきみたいな芥氏という人物。この人の存在が自分は最後まで不快で仕方なかった。ずっとへらへらしながら自分以外の人間を小馬鹿にしているようなその態度が終始鬱陶しい。幼い娘を抱えながらこの討論会に参加しているのだが、それも「娘の子育てに忙しい自分が、ここで面白そうなことをしているみたいなのでなんとなく参加しただけだし」という言い訳を最初から用意している感じがしてなんとも不愉快。現在の年老いた芥氏にインタビューしているシーンもあるのだが、ここでも変わらず人を小馬鹿にしたような態度で「人ってどれだけ年取っても変わらないものだ」と思わず笑ってしまった。こんな男に最後まで真摯に対応した三島氏の度量の深さには改めて尊敬の念を抱かずにはいられない。反対に、悔恨を感じながらもあの頃の自分たちを肯定せざるを得ない心境で滔々と告白する全共闘の当事者たち。行動を起こしながらも結局世界を変えられなかった彼らには、三島の最後の長編『豊饒の海』にも通じる無常感すら感じる。この貴重な映像を50年後の今日、公開してくれた制作陣に改めて敬意を表したい。
[DVD(邦画)] 8点(2023-02-13 09:13:15)
15.  私をくいとめて 《ネタバレ》 
彼女の名は、黒田みつ子。今年で31歳になる、どこにでもいるような平凡なOLだ。何年も恋人と呼べるような人はおらず、都内のワンルームマンションでずっと独り暮らし、唯一の楽しみは週末ごとに一人で焼き肉やスイーツを満喫すること。そんなおひとりさま生活を送る彼女だったが、それでも全然寂しくはなかった。何故なら、みつ子の脳内には人生の指南役でもあり親友とも呼べる「A」が居るから――。一人でいるときは、ずっとその「A」との会話を楽しむみつ子。時には辛辣な言葉を言われたりもするけど、それでも彼女はそんな「A」との生活に満足していた。だが、ある日、彼女は重大な事実に気づいてしまう。それは会社の取引先の営業マンで近くに住む多田という青年が、もしかしたら好きかもしれないということ。これまでの平穏な生活が徐々に乱されてゆくのを感じたみつ子は「A」へと相談するもののどうにも埒が明かない。平和だけどどこか物足りないこれまでの生活か、傷つくかもしれないけれどそれでも新たな世界へ飛び込んでみるか。誰かこんな私をくいとめてと願いながらも、みつ子は徐々に暴走してゆく……。拗らせ女子の生態をポップ&キュートに描いた傑作『勝手にふるえてろ』の監督・原作コンビが再びタッグを組んで挑んだという本作、いやー、これが期待にたがわぬ素晴らしい出来でした。この監督のファンシーでポップでありながら、ちゃんと細部のリアルさにも手を抜かない拘りは相変わらずグッド!全編通じてあり得ない非日常な世界なのに、どこかリアルな日常を感じさせ、この主人公がとても身近な存在に思えてくるから不思議です。とはいえ、冷静に考えたらこの主人公はいわゆる統合失調症で専門医の診断を受けた方がいいんじゃないかとも思わせる絶妙な毒の効かせ方も、原作・綿矢りさならではの世界観。やはりこの二人のタッグは最強ですね!!それまでずっと声だけの存在だった「A」がみつ子の前に姿を現したときの、「ちょうどいい…」という彼女のセリフが個人的にめっちゃツボでした。階下の遊牧民のホーミーが最後、あんな形で活かされるとは思いもしなかったし(笑)。ただ『勝手にふるえてろ』と比べるとやはり長すぎて、中盤ちょっとだれてしまう部分もなきにしもあらずでしたが、僕は充分楽しめました。以下余談。段ボールで作った彼氏と妄想でいちゃいちゃする吉住のネタは、自分も最初見たときは衝撃的なくらい面白くて、さすがこの監督いいセンスしてると嬉しくなっちゃいました。ただ、あんな温泉の余興で老若男女にウケるようなネタじゃないと思うぞ(笑)。
[DVD(邦画)] 8点(2022-01-20 05:47:35)
16.  ゆれる 《ネタバレ》 
新進気鋭の若手カメラマンとして東京で充実した日々を送る早川猛。彼の兄で、田舎で父が経営するガソリンスタンドを継いだ早川稔。才能に溢れ都会で洗練された生活を過ごし女にもモテる弟と、田舎で地味な生活を送り真面目で大人しく女にも縁がない兄。そんな対照的な早川兄弟は、ある日、実家で行われた法事で久しぶりの再会を果たす。子供のころからずっと仲の良かった二人は、長い月日など感じさせないほど自然に話せるようになるのだった。だが、そんな二人の関係は、ガソリンスタンドで働く幼馴染の女性川端智恵子を巡り、揺れ始める。易々と彼女の好意を手に入れる弟と、彼女に恋心を抱きながらもただ見つめることしか出来ない兄。危うい関係で繋がった三人は、かつての思い出の地である山の中の渓流へと出かけることに。そして、そこで事件が起きてしまう――。古いつり橋の上から智恵子が転落し呆気なく亡くなってしまったのだ。しかも、その場には兄の稔がいた。当初はバランスを崩した彼女が一人で転落した事故として扱われていたが、その後驚きの展開を見せるのだった。なんと兄の稔が自ら突き落としたと自白し、そのまま殺人容疑で逮捕されたのだ。果たしてそのつり橋の上で何があったのか?やがて始まった裁判で、仲の良かったはずの兄弟が抱えていた闇が明らかとなる……。一人の女性を巡り、徐々に崩れてゆくそんな兄と弟を終始淡々と見つめた法廷劇。この監督の映画は今回初めて観ましたが、これがなかなか見応えのあるヒューマン・ドラマの良品でありました。とにかく、この監督の心理描写のきめ細やかさには舌を巻く。価値観の全く違う対照的な兄弟のそれぞれの思いが次第にすれ違ってゆく過程などなんとも繊細で、この二人の揺れ動く微妙な関係性に最後まで目が離せませんでした。特に殺人容疑で捕まる兄の人物造形は非常にリアル。監督は女性ということですが、こんなにもモテない男の心理が分かるなんて凄いですね。ほんのちょい役の登場人物までちゃんと血の通った人間として感じさせるところなどもホント巧い。そして「ゆれる」というシンプルで印象的なタイトルが示す通り、彼らは皆、最後までずっと揺れ動く。あの時ああしていれば、この時こうしとけば…。きっと何処にも正解などないのだろうけれど、人間は誰しもその時々の決断によって人生が決まってしまう。その現実の切なさに翻弄される二人の兄弟には、観ていて心揺さぶられずにはいられない。二人を熱演したオダギリジョーも香川照之も非常に嵌まり役で素晴らしかった。三島由紀夫賞の候補にもなった、監督自身による原作本も今回購入済みなのでまた楽しみに読もうと思います。
[DVD(邦画)] 8点(2021-07-31 03:00:24)
17.  風立ちぬ(2013) 《ネタバレ》 
国民的〇〇という言葉がある。現代の日本において、たとえば国民的作家といえば村上春樹が挙げられるだろう。あるいは国民的バンドといえばサザンオールスターズ、あるいは国民的アイドルといえばAKB48、国民的プロ野球選手といえばイチロー…、もっとも村上春樹に限ればもちろん愛読者は多いのだけどそれと同じくらいアンチも多いので必ずしも“国民的”とは呼べないかもしれないが。そんななか、国民的アニメ監督といえば、まず間違いなく彼――そう、宮崎駿の名前を誰もがまず真っ先に挙げることだろう。日本という狭い国の枠を飛び越え、いまや世界の巨匠となってしまったそんな宮崎駿監督の事実上の引退作を、子供のころからずっとジブリ作品に慣れ親しんできた僕としては深い感慨と共にたったいま観終えました。うーん、しみじみと胸に来るものがありますね。バブル経済の熱狂とその崩壊、その後に訪れる長い景気低迷と社会の不安定化、911とイラク戦争、景気回復に伴う行き過ぎた拝金主義、そして今回の震災と原発事故…、そんな日本という国の激動の半世紀を共に生きてきた宮崎駿監督がアニメ映画という表現活動を通して最後に辿り着いたであろう「生きねば」というシンプルでありながら力強いメッセージは、彼の遺言として僕の心に深く響きました。ゼロ戦を設計した人も、爆弾を作った人も、体の毒でしかない煙草の原料をずっと育て続けた人も、そしていまや日本という国を内部から壊しかねない危険な原発を造った人たちも、その善し悪しは歴史の審判に委ねるしかないとしても、誰もが真剣に生き自分の仕事に打ち込みこの日本という国の歴史を築きあげてきたという事実を宮崎監督は最後まで優しく肯定的に描き出してゆきます。なのに、いまや日本を含む世界は理不尽で残酷な現実に満ち溢れていて、もしかしたら未来には希望なんてないのかも知れない(最後に二郎が見る夢の中で大量のゼロ戦が瓦礫と化しているのがそれを象徴しています)。巨大な歴史のうねりの中では、ともすれば悪人としてその名を刻まれることにもなるちっぽけな人間たち。それでも誰かを愛し愛されながら必死に生きる人々の姿は無条件に美しい。“国民的アニメ監督”の最後を飾るにふさわしい、慈愛に満ちた良作だと僕は思う。
[DVD(字幕)] 8点(2014-09-14 20:05:02)
18.  魔女の宅急便(1989) 《ネタバレ》 
思春期になれば誰もが通る、あの今までの世界が実は自分が思っているよりもっと限りなく広いことを知ったときの清々しさや、大人になることのドアをほんの少し覗いて思わずたじろいでしまう焦燥感、そして否応なく訪れる身体の変化からくる孤独感。そんな今にして思えば甘酸っぱい世界を、魔女というメタファーを通して描かれたファンタジー。もう主人公のキキの切実さがひしひしと伝わってきて、何度観ても切ない気持ちになってしまいます。いつの間にか、喋ることが出来なくなってしまう黒猫のジジ。つい昨日まで居られた本当の競争や嫉妬や憎悪もない子供の世界から、キキは少しずつ大人の世界に足を踏み入れていく。瑞々しい青春ファンタジー映画の傑作だと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2013-05-02 20:48:56)
19.  耳をすませば(1995) 《ネタバレ》 
何でも信念を持って拘り抜いて作品を作りあげれば、傑作になりえるという見本のような作品。はっきり言って宮崎駿をはじめとした髭面のおっさんたちが心血を注いでこの赤面必死な少女マンガの世界を徹底的に映像化したなんて、考えるだけでも恥ずかしい。もし、これがどこかに照れ隠しのように大人な意見を差し挟んでいれば、もう目も当てられないくらい違う意味で恥ずかしい作品に仕上がっていたことだろう。そんなジブリのおっさんたちの勇気に拍手喝采!おっさんになったいまでも好きです、この赤面初恋映画(人に言うにはかなりの勇気を要するけどね笑)。
[DVD(字幕)] 8点(2013-05-02 19:30:58)(良:2票)
20.   《ネタバレ》 
黒澤明監督が最後に撮った時代劇だけに、その終幕を飾るにふさわしい傑作。ある戦国武将一族の栄光と没落を重厚に描き出す。その丹念に描かれた絵画のように美しい映像(特に主人公が見る悪夢のシーンが素晴らしい)と、哲学的な深いストーリーはとても魅力的なパワーに溢れている。そして、最後に盲目の青年が崖の淵を頼りなげに歩く姿は日本的もののあはれを見事に表現している。何度も観るには体力がいるが、何年かに一度観返したい映画。
[DVD(字幕)] 8点(2012-08-16 17:45:18)
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