21. 影の車
自身の幼い頃の殺意がブーメランとなり、子供から殺されるという妄想を抱いて疑心暗鬼になる青年。その内面を描く心理サスペンスが秀逸。 善人然とした加藤剛が、じわじわ迫りくる恐怖に追い詰められる主人公を好演。自らの過去に苦しめられ破滅に至る男の姿は強く印象に残る。主人公を心理的に追い詰める子役の表情も怖さを増す。 [映画館(邦画)] 7点(2021-12-31 21:18:00) |
22. 壬生義士伝
幕末を背景に、新選組に集った人々を描いた群像劇。中井貴一の独白シーンが見せ場だが、長すぎて間延びした印象だ。回想形式も食傷気味。 新選組の中で庶民としての一生を貫いた人物に焦点を当て、時代に翻弄された人々の生きざまを描いた点は評価できる。吉村貫一郎の、素朴な田舎者と剣豪ぶりとの二面性が味わい深い。 三宅裕司の芝居はせっかくのシリアスな雰囲気が台無し。方言云々には関わりなく、南部藩の重臣としては浮いた存在で緊張感に欠ける。かつて過去のテレビドラマを振り返る番組で、さんざん先人の演技や演出を笑いものにしていたが、まさにブーメラン。 [CS・衛星(邦画)] 3点(2021-12-04 12:39:41) |
23. 空の大怪獣ラドン
《ネタバレ》 東宝怪獣映画初のカラー作品として製作された意欲作。怪獣映画ではあるが、ひなの誕生やメガヌロンをついばむシーン等、ラドンの生命力を捉えた描写が異色で、生物としてのラドンを強調している。特にラスト、親子が重なっての死は物悲しさを覚える。 九州上空を自由に飛び回るラドンの姿は、大空に夢を抱いた円谷英二の思いを具現化したものと思う。氏の言葉を借りれば「火と水の特撮は難しい」とのこと。観ている側としても同様に感じるが、本作における北九州での自衛隊とラドンの攻防は火の勢いと水の量感がうまく表現されている。他にも博多に舞い降りたラドンの重量感や街並みの精巧さ、衝撃波による壊れ方が出色。西海橋下の海中から舞い上がるシーンも名場面だ。これらを総合すると、特撮の完成度は高いと言える。 [映画館(邦画)] 8点(2020-10-11 15:55:27)(良:1票) |
24. 日本沈没(1973)
「危機におけるリーダーのあり方」という観点から改めて観直した。俳優陣は島田正吾はじめ大時代的な芝居が目立つが、テーマがテーマだけに、まあいいか。 特撮は臨場感が十分に感じられ、今にも怪獣が現れそうな錯覚に陥る。黒焦げになった死体が、関東大震災や先の大戦における空襲を想起させリアルさがある。小野寺と玲子の恋愛はご都合主義的展開の尻切れトンボとなった。 日本からの大々的な移民構想は危機管理として妥当だろう。受入れをめぐる国連の議論も、近年は地球温暖化による海面上昇で多くの島国が危機に陥っており、そのような事態を想定すれば現実味がある。 遅刻常習と言われる俳優と、それを窘めた俳優が日本の命運を語るシーンに興趣がわく。窘められた俳優が首相を手堅く演じた。指導力があるのかないのか判然としないが、危機にあたっての苦悩と苦渋の決断は適切に表現されている。リーダーをめぐる現実とフィクション、彼我の差に思いが至る。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2020-08-30 14:04:53)(良:1票) |
25. 東京オリンピック
日本にとって「破壊から再生へ」を象徴する五輪の映像化。各種競技を通じて筋肉の躍動に近づき、選手の表情や内面・心理に迫る。勝者だけでなく敗者にも視点を当て、裏方の仕事や観客なども捉えた人間讃歌。 東京五輪と言えば何といっても“黒い弾丸”ボブ・ヘイズ。彼の記録10秒フラットは覚えやすいこともあり、幼い子供の記憶にもしっかり残った。スピードを競う最たる競技の100m走を、逆説的にスローモーションで選手の内面まで迫る映像が秀逸。また、マラソンのアベベを捉えた映像はまさに“走る哲人”。余力を残して勝った姿が印象的。円谷とヒートリーのデッドヒートも忘れられない。 富士山山麓を聖火ランナーが走るシーンは日本での五輪を象徴する場面だが、再現映像と聴いて心に引っかかるものを感じた。かつて出演した広報番組の朝もや(実はスモーク)を連想したからだろう。ドキュメンタリーに大なり小なり演出はつきもので、再現によって真実を描く意図は理解するが“もやもや”気分は晴れない。 「芸術か記録か」論争に関心はないが、記録映画として必要最小限の演出、その加減が難しいのかな。 [映画館(邦画)] 6点(2020-08-08 22:30:25) |
26. 宇宙大怪獣ドゴラ
初公開時、幻想的なドゴラのデザインを見てどんなにワクワクしたことか。期待値が高かった分、実際の映像はイマイチで少々不満だった。そのうえドゴラの登場シーンが少なすぎ。東宝特撮は「妖星ゴラス」のマグマや「海底軍艦」のマンダ等、時々チョイ役で出てくる怪獣がいるけど、ドゴラはタイトルロールですよ。加トちゃんじゃないんだから「ちょっとだけよ」じゃ物足りない。 刑事ものとして観ればそこそこ楽しめ、D・ユマの存在感が光る。 地球温暖化の影響が危惧される現代ならCGを駆使して再映画化すれば面白いかも。石炭火力発電に対する風刺にもなるかな。でもまあ無理だろうから、せめて加茂水族館で見たクラゲを、脳内でこの映画と合成して楽しむとするか・・・。 [映画館(邦画)] 4点(2020-05-31 14:57:20)(良:2票) |
27. シコふんじゃった。
《ネタバレ》 大学相撲部を舞台にした青春コメディ。パロディ精神あふれる展開で笑わせ、考えさせてくれる。 正子が土俵上を横切った辺りから「女性が見えないガラスの天井を破る物語」が隠れているなと実感。背景には女性官房長官が総理大臣杯贈呈で土俵に上がれなかったという、女人禁制に対する風刺があり、最後の「私もシコふんじゃった」のセリフへ繋がる。清水美砂がいい味出してる。スマイリーをめぐる異文化衝突も面白い。勝ち進めば彼が土俵に上がるだろうと予感させる。 まわしと褌の話は面白いがくどい。竹中直人のオーバーアクションが興ざめで、彼と田口浩正は芝居をし過ぎの印象。本木は熱演。蹲踞の格好はサマになっているし、仕切りの時に足でサッと砂を払うしぐさなども絶妙。 猫だまし、ずぶねり、内無双等の技が相撲ファンの心理をくすぐる。さらに①相手の懐に潜り込む「岩風戦法」がうれしい②頭突きで腰砕けさせ勝つとは意外③リーグ入れ替え戦の最後の居反りはスープレックスを彷彿させる。これらのシーンを観て、久々に「映画と相撲とプロレスは共通のファンが多い」という説を思い出した。 主審のきびきびした動作が画面を引き締める。数多くの青春ドラマに出演した片岡五郎の起用に拍手!👏🏻 [CS・衛星(邦画)] 6点(2020-05-06 21:59:10) |
28. 野火(2014)
太平洋戦争末期のレイテ島を舞台に、日本兵の悲惨な実態・戦闘の激しさを通じて戦場の狂気を浮き彫りにした作品。ドキュメンタリー映像では迫り切れない戦争の実相に、文字通り肉迫。戦争映画で肉体の損壊をモロに見せる演出には懐疑的な考えで、奇しくもこの映画公開年に他作品のレビューで否定的な意見を記述した。だが、題材によってはそれもありかなと思うようになった。本作の場合、全体の流れからみるとグロテスクな映像という印象があまりなく、肯定的に受け止めた。 時折映る山々や雲の流れ・海流等、自然の息遣いが一層悲惨な状況を引き立たせる。暗闇の中で一転、サーチライトから始まる戦闘シーンは凄惨極まりない。戦争とはこういうものだと思う。ケイトウの花と人肉の対比は残酷な現実を映す。 惜しいかなリリー・フランキー以外の俳優陣は素人っぽさが目立つ。小声での会話は、極限状態における飢えや栄養不足、士気低下を背景にした表現だと思うが、リアルさにこだわり過ぎの印象で、あまり効果的な演出とは思わない。 何年か前に親類の年寄りから聞いた逸話を思い出す。戦争当時、関東地方のある都市でアメリカ軍の空襲に遭い、そばにいた人の上半身が吹っ飛んだという話だった。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2020-03-14 19:08:38) |
29. 踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!
お台場の宣伝映画だね。サラリーマン社会における人間関係の可笑し味を描く緩さ、役所の縦割りに対する皮肉は前作同様。洋梨や亀田など小ネタが多いのも相変わらず。おまけに今作は、いい話にもっていこうとする思惑に加え、大上段に組織論まで盛り込んで踊ってます。 監視カメラを活用した捜査は現代社会の実態を反映するが、捜査側からの視点で見せられると某国の絶対監視社会をも想起させ、複雑な気分になる。 俳優陣ではいかりや長さんの枯れた味・乾いた芝居が気になった。誰彼なしに、馴れ馴れしく先輩風を吹かせる姿に不快感。すみれの手術中、取ってつけたような泣き芝居は全然感動せず。 かつてある新聞で、若き日のいかりや長介と芦田伸介を比較して、長さんの”動”に対する芦田伸介の”静”の熱演について論じた文章を読んだことがある。長さん演じる和久には年輪を重ねて醸し出される人間味が乏しく、「和久さん語録」は心に響かない。語録を聴いているうち、無性にL・V・クリーフ「ガンマン10か条」が恋しくなったよ。 ドリフの長さんは好きだけど和久さんには不満が残る。芦田伸介にはなれなかったなあ…………………なんてな。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2020-02-25 11:32:40) |
30. 踊る大捜査線 THE MOVIE
警察署を舞台にした群像劇で、「太陽にほえろ!」のアンチテーゼとして登場したテレビドラマの映画化。変な緩さは現実離れが目立ち素直に笑えないが、管理社会への風刺も交えたサラリーマン喜劇としてみればそこそこ楽しめる。 例の2本の映画へのオマージュ(?)はいただけない。流行のプロファイリングに便乗し、小泉今日子は不自然なパクリ演技の印象。そして、わざわざセリフで「天国と地獄」とはご親切。アジトが見つかるのも安易で、スモークボールの伏線ありきで作った印象。 終盤の、室井による青島の搬送から敬礼シーンまで、感動押し売りが鼻につく。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2020-01-12 19:40:27) |
31. カメラを止めるな!
《ネタバレ》 「桐島、部活やめるってよ」映画部員の後日談を観るような思いで楽しんだ。が、肝心の「ワンカット・オブ・ザ・デッド」40分間の映像は退屈(それも計算済み?)。その後の展開は青春ドラマありホームドラマの要素もありで、現実と虚構が入り混じって独特の面白さがある。また、映画制作の舞台裏を見せる楽屋落ちとしても楽しめる。 [地上波(邦画)] 6点(2019-05-26 06:53:45) |
32. テルマエ・ロマエ
“古代ローマ人ミーツ現代人”が織りなすカルチャーショック・コメディ。主人公の大マジメなモノローグは随所でクスッと笑える。“平たい顔族“に対するローマ人役の濃い面々(阿部、市村、宍戸、北村)がいいね。 ユーモラスな序盤~中盤に比べ、終盤はシリアス調でちょっと戸惑う。ラストの現代シーンは蛇足という印象。 終盤は失速感が否めないものの、全編通してお風呂愛溢れる展開は好感が持てる。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2019-04-18 15:21:52) |
33. 家族(1970)
《ネタバレ》 石炭から石油へのエネルギー革命を背景に、長崎から北海道へ新たな仕事に向かう家族の葛藤、挫折と再生を描くロードムービー。 ドキュメント風の演出で、生き生きとした方言が印象深い。反面、中標津の歓迎会はプロの俳優陣と素人さんの会話が少し浮いている感じ。 万博の開催で日本中が浮き足立つ中、公害や都会の冷徹さなど高度成長のひずみも見逃さない。東北本線の列車内で交わされる減反の会話は、さりげなく農政の転換まで描き、開拓に向かう家族ともども時代に翻弄される庶民の思いに共感を寄せる。 長旅の末、中標津で最後の生の輝きを見せる祖父に人生讃歌を見た。祖父の死後、再起を期す民子の瞳の輝きが印象的で、2つの新しい命が一家の再生を象徴している。 欲を言えば、ラストは「北の大地の春は花々が一斉に咲く」場面を観たかった。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2019-04-04 12:44:24) |
34. 犬神家の一族(1976)
戦争が影を落とす中、因習にとらわれた村社会を舞台に複雑な血縁関係をめぐる愛憎劇が繰り広げられる。血の呪いと言おうか、おどろおどろしい事件の数々が、犬神佐兵衛の映像を巧みに挿入することで衝撃を増幅させる。 湖から突き出た2本の足は視覚に訴える力が強く、ヴィジュアル面での貢献度は大きい。メディアミックスの成功と相まって、この映画を象徴する名場面となった。哀愁を帯びた音楽も秀逸。 金田一耕助のキャラクターにあまり魅力を感じないが、物語のおぞましさを中和する役回りとしては妥当だ。多彩な登場人物を手堅く捌いており、ほのかな旅情を感じさせるラストもなかなか良い。 [映画館(邦画)] 6点(2019-03-04 21:58:32) |
35. 東京流れ者
くさいセリフ、くさい演出、リアリズム無視の様式美、それがいい。コミカルな味付けや絵画風の表現、独特の構図も魅力的。松原智恵子の歌の吹き替えでさえアンバランスさが様式美に合っており、下手な歌(失礼っ!)を聴かせるよりよっぽどいい。 色彩の鮮やかさも特徴的で、ポップな感覚の美術が凝っている。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2018-12-12 21:10:24) |
36. 幕末太陽傳
初めて観たときは時代劇の傑作!と思ったが、二度三度と観るうち、お調子者の主人公に対する反感とともに、映画で落語を観てもしゃあないという気分が強まった。 生き生きとした人物描写で、俳優陣も演出に応え好演。江戸時代の風俗に命を吹き込ませ、小物ひとつにもディテールが行き届き、細部にわたる演出の緻密さが際立つ。遊郭を俯瞰する構図も見事。 異人館の焼き打ち等、幕末の世相を反映しつつ、攘夷を語る長州侍に対する皮肉も込められる。惜しむらくは、落語調の演出が過ぎること。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2018-07-22 11:21:59) |
37. グッドナイト&グッドラック
1950年代に全米を揺るがしたマッカーシズムと闘うジャーナリストたちの物語。表層的な再現ドラマの域を出ない印象。タバコ燻らせ上目遣いのマロー役は、ハリウッドお得意の“そっくりさん芝居”。 古い時代の空気を醸成する技法として、モノクロ映像による表現が効果的だと長らく思っていた。しかし、この手法はあくまで特定のテーマに限ると最近思うようになった。カラー化以前、映像は白黒でも現実は色彩豊かな風景なのだから、と。本作を観て特に感じるのは、記録映像の活用にこだわるあまり、マッカーシーの動きが見えないこと。カラー撮影で彼の行動をもっと掘り下げれば、歴史を学ぶだけでなく現代を学ぶことにも繋がるのではないか。硬派な題材はジャーナリズムに対する昨今の風潮にも警句を発する価値があるだけに、突っ込み不足が惜しい。 テレビの理想を語る場面は示唆に富むが、M・バール、E・サリヴァン、S・アレン等の番組、良かれ悪しかれそれらもひっくるめてテレビなのだ。まあ、テレビの現状(特に地上波)を見るにつけ「娯楽と逃避のためだけの道具」になりつつあるとは思うが……。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2018-05-28 14:37:51) |
38. 大魔神
民話が底流にあり、日本的な、実に日本的な特撮時代劇で見事な出来。東宝の円谷特撮に対する大映京都人の意気込みを感じる。 大魔神の重量感の表現や、左馬之助を成敗し見得を切るシーンにおける目力の迫力は特筆モノ。スーツアクター・橋本力の眼力をそのまま活かしたことが成功の大きな要因といえる。 穏やかな埴輪顔から荒ぶる武神へと変貌するコントラストの妙。音楽は、わかっちゃいるけど「ゴジラ」だねえ。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2018-03-25 14:07:23)(良:1票) |
39. Kids Return キッズ・リターン
物言えぬ多くの人を泣かせて“キッズがリターン”は虫のいい話。オイラだったら泣かされた側に心を寄せる。二人の主人公に共感はない。 青春期の苛立ちや迷いを軸に、無軌道→居場所探し→成長・成り上がり→挫折→再生のお定まりパターン。ボクシングと不良の組み合わせもステレオタイプで新味なし。つまらないネタを繰り返す漫才コンビの青春は逆に引き立つ(引き立たせたい?)。 最後の「まだ始まっちゃいねえよ」・・・強引な成り上がりで兄貴分のシマを分捕り、半殺しにされた奴が振出しに戻れるとでも?のうのうと自転車に乗るラストの展開は大甘。序盤の校庭シーンのリフレインで映画の主題に沿った場面だが、半殺しから立ち直りまでに脈絡が感じられない。 by く○屋の店員 [CS・衛星(邦画)] 2点(2018-02-12 11:40:02) |
40. 無宿
いい映画だが、その印象の多くは「冒険者たち」に負っている。良くも悪くも勝新は勝新らしく、健さんは健さんらしく、いずれも無難なキャラ設定。3人の中では梶芽衣子が一番心に残る。「『女囚さそり』の梶芽衣子」というより、「日活・太田雅子のその後」として受け止めた。 宝探しはしょぼい感じだが海辺の映像美と情感あふれる音楽はお見事。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2017-12-20 14:35:25) |