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ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 615
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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81.  炎上 《ネタバレ》 
 小説では味わえない映画の魅力の一つとして「音」があります。   本作においても、作中の関西弁が早口であり、それによって主人公の吃音の「周りと歩調が合わない、取り残された感じ」が際立っていたのが印象深いですね。  序盤にて主人公が金閣寺(=驟閣寺)に見惚れているシーンで、唐突に音楽が流れだす演出などは「ちょっと分かり易過ぎるかな」とも思いましたが、総じて音楽は秀逸であり、それでいて多用する事は無く、静かな場面の方が多かった事も好印象。   また、何と言ってもラストにおける、燃える寺の囂々とした焼け音が素晴らしかったですね。  モノクロ映像ゆえか、それまでは驟閣寺の美しさを感じ取る事が出来なかった中で、炎上するその姿からは、圧倒するような美を感じられました。    原作小説には愛着がある為、柏木(=戸刈)よりも重要な人物であろう鶴川の出番が殆ど無い点。  そして、主人公が列車から身投げするという結末も、原作の「生きようと私は思った」という前向きな姿勢とは全く正反対である点などは、正直抵抗もあったりするのですが、そういった先入観を排し、一本の映画として観賞すれば、充分に楽しめる代物だと思います。   主演の市川雷蔵は、相変わらず惚れ惚れするような演技巧者っぷりだし、彼の悪友を演じる事となる仲代達矢の存在感も素晴らしい。 「あんた、その片端の脚が自慢なんやろ?」 「片端やなかったら、誰一人振り向いてくれる人あらへんもんな」  なんて痛烈な台詞を吐く新珠三千代の姿も、忘れ難いものがありました。   原作において、何よりも美しいと感じられたのが、あれほどのドン底に落ち込みながらも、なお生きようとした主人公の最後の姿だった事に対し、本作においては「驟閣寺と心中しようというかのように、刑事を振り払って身投げする主人公」の姿が、非常に醜く描かれているように思える辺りも、何だか興味深い。  様々な意味で原作小説とは異なる、意図的に対とした結末であるように感じられました。
[DVD(邦画)] 7点(2018-02-06 21:53:22)
82.  IAM A HERO アイアムアヒーロー 《ネタバレ》 
 とうとう日本にもゾンビ映画の傑作が誕生したんだなぁ……と、感無量。   邦画にも面白い作品は沢山あるけれど、その中で「ゾンビ映画」というジャンルは非常に頼りなく、胸を張って「面白い」と言える作品は、これまで無かったように思えますからね。 「火葬の風習がある日本では、死者蘇生がイメージし難い」 「銃器が身近に存在しない」  等々、ゾンビ映画を作る上では不利なお国柄なのに、そんなハンデを乗り越え、これほど面白く仕上げてみせたのだから、もう天晴です。   二時間という尺の都合上、どうしても原作漫画の要素は色々と切り捨てられてしまう訳だけど、その取捨選択も見事でしたね。  原作においては、丸々一巻分かけて「売れない漫画家の鬱屈とした日常を描いた漫画」と思わせておいて「実はゾンビ漫画だった」と一巻ラストにて種明かしするという、非常に面白い構成となっているのですが、これを再現するのは潔く諦め、十五分程で「ゾンビ物ですよ」と種明かし。  謎の存在「来栖」や妄想の産物「矢島」も登場させず「主人公の英雄」「ヒロインである比呂美と小田」の三人を中心とした作りにして、分かり易く纏めてある。  英雄の恋人である徹子の描写が大幅に削られており、彼女を殺してしまった事への葛藤すらも失われているのは気になりましたが……まぁ仕方ないかなと、納得出来る範囲内でした。   そもそも原作においては作者自身が「作中に散りばめられた謎を解く事」を放棄したフシがあり「適当にそれっぽい言葉を並べておけば、信者が勝手に深読みしてくれる」と、作中人物に嘯かせているくらいですからね。  よって、原作における「来栖とは何なのか?」「ZQNとは何なのか?」という謎解き部分を徹底的に排除したのは、もう大正解だったかと。   日常がゾンビの発生によって崩壊する様も、真に迫って描かれていましたし「日本」という身近な世界が舞台になっている分だけ、その臨場感も倍増。  ここの辺りのスピーディーさ、動きを伴うからこその迫力は、漫画には出せない、映画ならではの魅力だったと思います。   ロレックスの伏線が三重、四重になっている脚本にも、非常に感心。  「原作では準主役格だったりする中田コロリ先生が、ロレックスを付けている」→「それを気にしていた英雄が、文明崩壊後の世界では簡単にロレックスを拾える事に拍子抜けする」と、ここで伏線の回収が済まされたと油断していたところで「英雄がロレックスを大量に装備し、それが腕のガードになっていたお蔭で、噛まれても助かる事になる」「最終的には、我が身を守る虚栄心の象徴のようなロレックスを外して、射撃に専念する」ってオチに繋げてみせたのには、もう脱帽です。   ボス格の敵キャラとして「高跳びゾンビ」をチョイスするセンスも良いし、そして何といっても……終盤のショットガン描写が、素晴らしい!  それまで発砲する事が出来ず、躊躇い、怯えていた英雄が、ヒロイン達を守る為、ラスト二十分程で、とうとう引き金をひいてみせるんだから、本当に痺れちゃいましたね。  溜めて、溜めて、解き放つというカタルシスがある。  連射系の武器ではない、一撃の威力が大きいショットガンと、非常に相性の良い演出だったと思います。  襲い来る大量のゾンビに対し、素早くリロードしながら迎え撃つ英雄の姿も恰好良かったし、最後は「弾切れの銃で、敵の頭部にフルスイング」という倒し方なのも、実に痛快で良い。   原作においては「富士山に行けば助かるというのは、ガセネタだった」「実は英雄も感染していた」などの情報が明かされ、この後どんどん絶望の匂いが濃くなっていく訳ですが、本作においては「富士山に行けば、何とかなるかも知れない」「比呂美の存在によって、ワクチンが作れるかも知れない」という希望を残した段階で完結しており、その点でも好みでしたね。  最後の台詞通り「ただのヒーロー」になった英雄なら、きっと彼女達を守り抜けるだろうなと思える。  良い終わり方の、良い映画でした。
[DVD(邦画)] 8点(2018-02-02 19:52:26)(良:2票)
83.  リンダ リンダ リンダ 《ネタバレ》 
 途中までは退屈で仕方なくて (リアルな高校生活を描きたいのかも知れないけど、そのせいで山場の無い映画になっているよなぁ……)  などと意地悪に考えていたのですが、いざ本番での演奏シーンには圧倒されましたね。  それまでがテンションだだ下がりであっただけに、揺れ幅の大きさを感じられました。  演奏開始前に、主人公の女の子達が「どうだった?」「言えなかった……」と笑顔で会話を交わす辺りも良かったです。   上述のように、ラスト十分ほどは楽しめた作品なのですが、気になる点も幾つか。  まず、主人公達が遅刻したせいで色んな人に迷惑が掛かっているはずなのに、謝罪する姿が殆ど描かれていない事。  そして観客である自分としては、映画冒頭にて、ぎこちなく「リンダリンダ」を歌っていた留学生の少女が、きちんと歌えるようになったというギャップに感動させられたけれど、映画の中の人々まであんなに熱狂しているのは不自然に思えた事。  ユニコーンの「すばらしい日々」などが、あまりにもブツギリな編集となっており(ちゃんと区切りの良いところまで聴かせて欲しいな)と思わされた事。  一番キツかったのが、エンドロールにて本物のThe Blue Heartsによる「終わらない歌」を流した事で、これはもう何と言うか、残酷です。   せっかく(女の子達が頑張って演奏する姿、良いなぁ……)と思っていたところだったのに(やっぱり本物は違う!)と唸らされ、先程までの演奏が、完全に霞んでしまったのですよね。  せめて劇中で彼女達が「終わらない歌」を唄っていなければ何とかなったかも知れませんが、ご丁寧に連続して聴かされたものだから、たまらない。   全体的には嫌いな作風ではありませんし、監督さんの「溜めて溜めて、クライマックスで解き放つ」上手さは凄いと思うのですが、最後の最後で(何も本物を流さなくても……)と、嘆息させられた形。  一度は感動したはずなのに、それを上書きされてしまったという、貴重な体験を味わえた映画でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-12-30 05:10:00)(良:2票)
84.  夢の中へ 《ネタバレ》 
 観賞中「酔っている」感覚を味わったのは、手持ちカメラの画面ブレだけが原因ではなく、この映画そのものに酩酊感が漂っているからなのでしょうね。   性病に掛かった主人公が「おしっこ痛ぇ~っ!」と絶叫する絵面なんて、何だか全く現実感が無かったりして、作中世界のどれか一つが現実なのではなく、全ての世界が夢であるように思えてきます。   こういった映画であれば、同じ酔うにしても心地良い酔いを提供してくれたら楽しめるのですが、本作には「悪酔い」に近いものを感じてしまったりして、残念。  主張が独り善がりであるとか、ストーリーが難解だとか、それ以前の問題として、自分はどうも手ブレ映像が苦手だったりするので、それで参ってしまったみたいです。   とはいえ、園子温監督作品で何度か扱われている「現実と虚構の境目が曖昧になる感覚」「走るという行為の快感」などの要素が、本作でも見受けられる辺りは、不思議な安心感があり、嬉しかったですね。  オリジナリティが無いと主人公が責められる件も併せ「排尿に伴う苦しみ」=「監督自身の創作の苦しみ」と受け取る事も出来そうですが、それよりはもっとシンプルで、普遍的な 「生きていれば綺麗事だけじゃ済まない」 「他者との触れ合いが、厄介な痛みに繋がる事もある」 「それでも、走って、叫んで、唄って、生きなければいけない」  というメッセージが込められた映画なのではないか、と解釈したいところです。   正直に告白すると「楽しめた」「面白かった」とは、とても言えない内容な本作。  けれど、力強く前向きなメッセージは、確かに感じ取る事が出来た為、不思議と嫌いになれない一本でした。
[DVD(邦画)] 4点(2017-12-30 04:53:02)(良:1票)
85.  高校大パニック(1978) 《ネタバレ》 
 1974年のニューヨークにて、生徒が銃を携えて高校を襲撃する事件が発生し、それに着想を得たと思しき作品が幾つか作られましたが(リチャード・バックマン著「ハイスクール・パニック」など)日本でも作られていた事に驚きです。  ただ、どちらかといえば作中でも語られている通り、瀬戸内シージャック事件の影響が色濃いようにも感じられますね。  いずれにしても、当時の日本は今よりも身近に銃があったからこそ成立したお話なのだろうな、と思います。   印象深いのは、数学教師に向けて発砲した銃弾が、女子生徒に命中してしまった場面。  その瞬間、主人公である犯人の中にあったであろう「自殺した生徒の仇討ち」という大義名分が消え失せて、もう決して後戻り出来なくなってしまった事が伝わってきました。   他にも、事件によって授業を中断される事となった生徒達が、大喜びして騒いでみせる姿。  図書室に立て籠もる犯人に対し、説得に訪れた母親が泣きながら息子を気遣うの対し、父親は激昂して「早う出て来て、男らしゅう死刑になって、世間様にお詫びせんか!」と言い出すシーンなども、強く心に残っています。   抵抗を続けるも、とうとう逮捕されてしまった主人公。  途中、微かに心を通わせていたヒロインが警官隊に誤射されて、殺されてしまったという展開もあり、その事に対して怒りをぶちまけるのかと思いきや 「放せよ! 来年、受験があんだよ!」  と言い出すのだから、恐ろしくなりましたね。   完全に心が壊れてしまった主人公の叫びによって終わるという、文句無しのバッドエンドなのですが、その衝撃度の高さは折り紙付き。  観て良かった、と思える映画でした。
[DVD(吹替)] 7点(2017-12-13 15:16:45)
86.  アフロ田中 《ネタバレ》 
 原作漫画は未読なのですが、何十巻も刊行済みの御話を 「高校を中退してしまった」 「友人の結婚式に出席しなければいけない」  という二つの事柄を主軸に据えて、上手くまとめているように思えました。   一見するとメインテーマのように描かれている「彼女を作る」という行為は「結婚式に彼女を同伴すると約束したから」という理由での、オマケに過ぎない形ですよね。  それゆえに、ラストにて主人公が振られる事となっても、全くバッドエンドの香りがしない。  むしろ、その「本当は彼女なんて必要ない」という図式を活かして、明るいハッピーエンドに繋げてみせているのだから、脚本の巧みさが窺えます。   でも、振られる件に関しては、少し引っ張り過ぎたようにも思えましたね。  友人達との関係性を考えれば「他の皆は振られたのに、主人公だけが彼女と結ばれて終わり」なんて事は有り得ないはずなので、勿体ぶった告白シーンの演出には「いや、もう結果は分かっているよ」と、醒めた目線になってしまいました。   ただでさえ、その直前の結婚式にて、同じようなブラフの演出を、たっぷり時間を掛けて行われたばかりでしたからね。  二連続でやられてしまうと、流石に食傷気味。  こういうのは一度くらいに留めておいた方が「結果は分かっていても、やっぱり嬉しい予定調和」として、楽しめるんじゃないかなと思いました。  特に、この映画の場合はスピーチの場面が「ダメかと思ったら結果オーライだった」であり、告白シーンが「イケるかと思ったらダメだった」という順番なので、余計に辛い。   上述の不満点を考慮した上で判断するに、この映画のクライマックスは「主人公と男友達との絆が回復した瞬間」にあるのではないかな、と思う次第です。  それまで高校を中退した事に対し、後悔の念らしきものを窺わせなかった主人公が、初めて「高校卒業していれば良かった」という想いを口にする。  その理由が、学歴がどうこうといった話ではなく「そうすれば、卒業まで皆と一緒にいられたから」という辺りは、本当に良かったですね。  それまでの劇中にて、常に主人公の心情をモノローグで語る演出を取っていただけに、この「告白」には(そんな風に考えていたのか!)という意外性もあったりして、不意を突かれた形。  スピーチの場面では感動的な演出にするのだろうなと察して、ちゃんと身構えていたはずなのに、その予測を上回る感動を与えてもらいました。   劇中でアフロを貫く理由が今一つ分からないとか、友達と険悪になる流れが不自然だとか、気になる箇所は色々あったりもするのですが、楽しめる場面の方が多かったですね。  特に「女の子に送るメールの文面で悩む件」には、とても共感させられましたし「無断欠勤を社長に謝る件」なんかも、観ていて緊張感を抱かされ、社長が鷹揚な対応をしてくれた時には、心底からホッとさせられました。   基本的に作中人物が善人ばかりで、優しい世界を形成しているから、観ていて心地良い。  「失恋の傷なんて、友達同士で集まって騒げば、笑い話に過ぎなくなる」というメッセージが感じられるエンディングも、とても好みでした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-12-13 11:57:06)(良:2票)
87.  冷たい熱帯魚 《ネタバレ》 
 てっきり主人公が「連続殺人の主犯」だと思っていたのですが、さにあらず「傍観者」「共犯者」という立場の人であった事に驚かされました。   で、そんな彼も次々に人を殺していくようになる終盤の展開は圧巻だったのですが……何故でしょう? 同監督作の「愛のむきだし」や「地獄でなぜ悪い」程の衝撃は無かったように思えましたね。  単純に、自分がこの手の衝撃に慣れてしまったというのが大きいのかも知れませんが (実録犯罪物路線かと思ったけど、結局は何時もの園子温映画になるのか……)  と、達観するような思いで画面を眺めていた気がします。   勿論、そんな「何時もの園子温映画」は好きなんですけど、本作に関しては最後まで実録風に纏めて欲しかったという気持ちが強いですね。  監督さんも「主人公が疑似的な父親である村田を刺す場面」で終わらせても良かったかも知れないとインタビューで語っておられるみたいで、自分としてもそちらの方が自然な仕上がりになったんじゃないかと思えました。   序盤「冷凍食品をレンジで温めるだけの妻」「食事中でも平気で携帯電話を使い、途中で抜け出す娘」「妻の喫煙を見て見ぬ振りをする主人公」などの印象的なシーンによって、家庭が崩壊している事を端的に示してみせる手腕は、お見事。  でんでん演じる村田も存在感があって良かったし、吹越満演じる社本の善良さと臆病さが入り交じった感じも秀逸でしたね。  先程の発言に反するような形となりますが、終盤の主人公の変貌っぷりというか、眼鏡を捨ててからの吹っ切れっぷりは痛快なものがあり、こういう姿を恰好良く演じられる辺りには、役者さんの凄みを感じます。  監督さんも何だかんだで終盤の展開をカットせず採用したのは、主演俳優の熱演に「これを切り捨てるのは惜しい」と思われたから、なのかも知れませんね。   ラストシーンに関しては、父親の死体を蹴り続ける娘の感情が「本心から父親の死を喜んでいる」「実は内心では死を悲しんでおり、起き上がって欲しいと願っている」「その両方」と、大まかに三通りに分けて解釈出来るようになっており、これに関しては(上手いなぁ)という思いと(ズルいなぁ)という思いとが混在。  元々この手の「観客に判断を委ねる」ような結末って好みではない事が多いのですが、本作に関しては主人公の自殺で幕を下ろす形でもある為、どうしても「逃げた」という印象が強かったりしたんですよね。  「人生ってのは痛い」と主人公が説教するのは結構だけど、その後に自殺されたんじゃあ「人生は痛い。だから死にます」という敗北にしか思えない訳で、そんな後ろ向きな終わり方されても困るよ……というのが正直な感想。  最後に「丸く、青い地球」を映し出して終わるというのも「地球は単なる岩だ」という劇中の台詞に照らし合わせると、現実逃避の象徴であるように思えてしまいます。   とかく園子温監督の作品はパワーがある為、それが自分好みの方向に進んでくれた時は凄まじい傑作に思えるのですが、好みから外れてしまうと、何ともコメントに困る品が出来上がる……そんな事を再確認させてくれた一品でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-10-31 21:10:12)(良:1票)
88.  ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣 《ネタバレ》 
 南海の孤島が舞台の怪獣映画という、実に好みな一品。   ちょっとしたリゾート気分も味わえるし、何よりキングコング(1933年版)同様に「怪獣が大き過ぎず、強過ぎず」なバランスが心地良いのですよね。  このくらいの「民家の倍程度の大きさの怪獣」って、妙に親近感が湧くというか、子供の頃に「怪獣と友達になるなら、ゴジラみたいな大き過ぎるサイズじゃなくて、キングコングくらいのサイズが良いな」と考えていたのを思い出したりしちゃって、とにかく大好きなんです。   ストーリーに関するツッコミ所は、余りにも多過ぎるので逐一指摘するのは止めておきますが、そんな中「メインは人間VS怪獣の物語である」という点に関しては、大いに評価したいところ。  しかも軍隊ではなく、あくまで一般人の主人公達が銃を手にして戦い、ガソリンを使ってゲゾラを火あぶりにしたり、ガニメの眼球を狙撃して盲目にした後に崖から落としたりするのだから、手に汗握るものがあります。  「こういうのを見たかったんだ!」と、喝采を浴びせたい気分になりましたね。   ただ、終盤にはお約束の「怪獣VS怪獣」そして「火山が全てを解決エンド」という形になっており、非常に残念。  単純に怪獣特撮という観点からしても、ゲゾラが現地の村を襲っているシーンがピークであり、以降はそれを上回る衝撃を味わえない形となっているので、何だか尻すぼみに思えてしまうのですよね。  憎まれ役だったはずの小畑さんが、最後の最後に人間の意地を見せて、自らの体内に巣食う宇宙生物もろとも自決する展開に関しても (火口に飛び込む姿を、もっと上手く撮ってくれていたら感動出来たのに……)  と、勿体無く感じてしまいました。  怪獣映画といえば、人間のエゴに対して反省を促す終わり方が多い印象がある為、こういった形の「人間賛歌」とも言うべき結末は珍しく、好ましいものがあるだけに、手放しで作品を絶賛出来ない事が、何とも焦れったい。   そんな具合に、贔屓目で観ても、色々とディティールの甘さが気になってしまうような、隙の多い本作品。  それでも好きか嫌いかと問われれば、迷い無く「好きだ」と答えられる、愛嬌に満ちた映画でありました。
[DVD(邦画)] 7点(2017-10-28 05:05:44)(良:3票)
89.  愛と誠(2012) 《ネタバレ》 
 実際にコミックスを手にした事は無いという自分ですら「タイトル」「あらすじ」「主要人物」「名台詞」「ラストシーン」くらいなら聞きかじりで知っているという、有名漫画の実写化。   まさかまさかのミュージカル構成には驚いて、主人公の誠が唄いながら喧嘩を始めた時には「これは傑作か!?」と、大いに興奮させられましたね。  けれど、もう一人の主人公である愛が唄う「あの素晴しい愛をもう一度」の時点で(もういいよ……)と、食傷気味になってしまい、後はひたすら満腹状態。   我ながら飽きるのが早過ぎるよなぁ……とは思うのですが、そのくらい「濃い」味付け、演出だったのですよね。  「君の為なら死ねる」などの名言が飛び出した時には「おっ」と身を乗り出しましたし、格闘シーンが同じ三池監督の「クローズZERO」を彷彿とさせる辺りは嬉しかったのですが、それも一過性の感覚。  「ガムコは可愛いけど、大筋に絡んでこないなぁ」 「由紀の生い立ちの件だけが陰鬱過ぎて、バランス悪い」  等々、見方を変えれば長所と言えそうな部分まで短所に思えてしまったりして、どうにも相性が悪かったみたいです。   それでも、終盤の台詞「気が変わっちまったよ、おふくろ」からの、一気にシリアスな結末へと向かう流れには、流石と思わせるものがありましたね。  やっぱり、決めるべきところは決めてくれるんだなと、監督の力量を改めて感じさせてもらいました。
[DVD(邦画)] 5点(2017-10-28 04:38:07)
90.  自虐の詩 《ネタバレ》 
 良い話だし、感動もしたはずなのですが、どうも引っ掛かる部分がある一品でした。   まず、主人公の内縁の夫であるイサオに感情移入出来ないというか、同性の目からすると引いちゃうものがあるんですよね。  実質的な妻であるはずの幸江を働かせて、自分は働かない、家事もしない。  喧嘩して警察のお世話になったり、パチンコに使う金を幸江に集ったりで、あまりにも情けない男なんです。  こういった「暴力的で不器用な男」に惹かれる女性がいるのは分かるし「ああ見えて、良いところあるんだから……」という幸江の一言によって、彼女がイサオに依存している事も、分かり易く描かれてはいるんですが、ちょっと自分としては距離を感じちゃいました。  唯一「幸江を殴ったりはしない」という線引きを守っている事には感心しましたが、流石にそれだけじゃ物足りなかったです。   そんな二人の馴れ初めが、後半の回想シーンによって明かされる形になっている本作品。  「不幸な生い立ちゆえに薬物中毒の売春婦となっていた幸江を、イサオが救い出してくれた」 「だからイサオが駄目男になっても幸江は見捨てたりしない」   との事なので(良い話だなぁ……)と感じる一方(で、そんな理想の王子様みたいだったイサオが、何で駄目男になったの?)という疑問も湧いてきたりして、どうもスッキリしないんですよね。  「根っからのヤクザ気質なので、ヤクザを辞めたらまともな仕事も出来なくて恋人のヒモになってしまった」「そんな自分がやるせなくて、かつては女神のように崇拝していた幸江にも冷たくなってしまった」のだと解釈すれば、やっぱり(情けない奴だ)って感想しか出て来ないです。  イサオの代名詞であろう卓袱台返しに対しても、作中でお約束として何度も繰り返される度に「食べ物を粗末にするなよ」ってツッコんじゃったくらいなので、自分とは相性の悪いキャラクターだったのだと思います。   そんな具合に、根底の部分で肌に合わないものがあったのですが、全体的には楽しめたし、面白かったですね。  牛乳と饅頭をくれたりした新聞配達の雇い主が「悪いけど、明日から配達来なくて良いよ」と言う場面は衝撃的だったし、そういった不幸な場面が丁寧に描かれているから、観客としても、主人公には幸せになって欲しいと思わされる。  お守りの五円玉や、刻み海苔など、小道具の使い方も上手い。  熊本さんと殴り合って育まれる友情、駅での別れ、空港での再会も、ベタだけど良かったです。   「前略お母ちゃん、貴女は何故私を産んだのですか?」という冒頭の問いかけが、妊娠によって主人公の身に返って来る構成にも、ハッとさせられました。  その問いに対する答えは、やはり「幸せになりたいから」だろう。主人公も子を産む事によってハッピーエンドを迎えるはず……と思っていたら、それがちょっと違う方向に着地する辺りも、意外性があって良い。  「主人公カップルは生まれてきた子供と一緒に、幸せそうに海を眺めて終わり」 「その一方で、ラーメン屋の店主や隣人の小春さんは、不幸になる未来が示唆されている」 「結局、主人公達は結婚もしないし、イサオは真面目に働き出したとも思えないしで、子供が生まれた事以外は何も変わっていない」   という形であり、完全なハッピーエンドとは言い難いけど、主人公二人の状況は改善されたし(まぁ、これで良いのかな?)と思える、不思議なバランスだったのですよね。  恐らく「幸や不幸は、もういい」「どちらにも等しく価値がある」「人生には間違いなく意味がある」というメッセージで完結させた以上、何もかも幸福にして終わる訳にはいかない為、こんな形になったのだと思われます。  自分としては主人公カップルよりも、彼女達を支える隣人側に肩入れする気持ちがあっただけに、そこは少し残念。   主人公達が不幸を乗り越え「人生の意味」を見出せたのと同じように、店主や小春さん達も、何とか乗り越えて欲しいものです。
[DVD(邦画)] 6点(2017-10-28 04:34:54)(良:2票)
91.  黒蜥蜴(1968) 《ネタバレ》 
 美輪明宏こと丸山明宏の妖艶さに酔いしれる映画ですね。   とはいえ、あくまでも「女装した男性の美しさ」といった感じであり、劇中では純粋に女性として描かれている事に、多少の違和感もあるのですが、それでも文章にすれば「主演女優」「彼女」という表現が自然と飛び出してくるのだから、我ながら驚かされます。   そんな彼女と「人形」とのキスシーンにも「三島先生、何やってるの!?」と吃驚。  著作を読む限りでは、結構お堅い芸術家肌の人というイメージがあったのですが、こんな剽軽な一面もあったんだなと、妙に感心させられました。   脇役である松岡きっこも、主演女優とは正反対の、まだ初々しい純情な美しさがあり、画面に彩を添えている形。  その一方で、探偵の明智役には、もっと美男子を配しても良かったのでは? と思ったりもしたのですが……この物語において黒蜥蜴が惹かれたのは「明智小五郎の容貌」ではないのだから、知的さを漂わせる木村功で正解だったのでしょうね。  落ち付いた声音の魅力を、長椅子越しに黒蜥蜴と対話するシーンなどで、じっくり堪能する事が出来ました。   ラストシーンの耽美さも勿論素晴らしかったのですが、個人的に最も心惹かれたのは、黒蜥蜴が男装した姿を鏡に映し出し、その「もう一人の自分」に語り掛ける場面。  「返事をしないのね。それなら良いわ」  「また明日、別の鏡に映る、別の私に訊くとしましょう」  という台詞回しには、本当に痺れちゃいましたね。  本作における黒蜥蜴は、普段の姿は「女装した男」にしか思えず、そしてこの場面においては「男装した女」にしか思えないという、実に倒錯性を秘めたキャラクターなのです。  それゆえに「本当の私なんてない」という台詞も切なく聞こえ「男に生まれてしまった女の悲劇」あるいは「女に生まれてしまった男の悲劇」を感じさせてくれます。   存在自体が罪深く、哀しくも美しい人物として、観賞後も、何時までも心の中に残ってくれる。  そんな素敵なヒロイン、素敵な女優と出会えた、魅惑の八十六分でありました。
[ビデオ(邦画)] 7点(2017-10-26 23:22:19)
92.  戦後猟奇犯罪史 《ネタバレ》 
 若き日の泉ピン子の喋りが、とにかく過激で気風が良くて、圧倒される思い。  バラバラ事件の加害者を指して「学校の先生だったみたいだけど、工作の先生だったんじゃないか」暴行を受けて殺された七歳の女の子を指して「被害者は私と同い年だったから、犯人が私のところに来てくれれば玉蹴りをしてやったのに」などと言い出すのだから、恐れ入ります。   当時人気だったバラエティ番組が元ネタの映画であるそうですが、その悪趣味さに辟易すると同時に、どことなく(これを毎週観たくなる気持ちも分かる)と思えたりもしましたね。  文句を言いつつもTVを点けちゃう、嫌な話でも聞きたくなってしまうという、人間の好奇心を巧みに突いた番組だったのではないか、と推測する次第です。   肝心の映画本編なのですが、三つの事件を扱わっているにも拘わらず、その全てにおいて濡れ場が用意されているのだから、サービス豊かというか何というか、ちょっぴり呆れる思い。  最初の「西本明事件」では、犯人逮捕のキッカケが十歳の女の子の通報であった件など、オチもコメディタッチとなっており、この映画らしい題材であったのですが、残りの二つは、少々異質。   「風見のぼる事件」に関しては、当時まだモデルとなった犯人が有罪確定していなかった為か、尺も短く、中途半端な作りなのですよね。  不倫相手に刃物で襲われた末の正当防衛のようになっていたり、作中で犯人がファンに土下座するシーンを交えたりと、妙に同情的に描いているものだから、何だか観ていて醒めるものがありました。   そして「久保清一事件」は、作中の半分以上を占める長尺となっており、明らかにバランスが悪い。  ただ、それゆえに力が込められているのも事実で、これ一本だけでも映画として成立しそうなクオリティがありましたね。  とにかく犯人を演じた川谷拓三の存在感が凄くて、本当に(うへぇ、気持ち悪い……)と思わされるのだから、お見事です。   女性を絞殺した時の事を思い出して自慰に耽る姿なんて、良く引き受けたなと感心しちゃいましたし、逮捕後、面会に訪れた社会評論家に入れ知恵されて、自分の行いは横暴な国家権力との闘いだと言い出す件なんて、本当に憎たらしい。 「権力と闘うんだったら、どうして総理大臣を殺さなかった!」 「罪の無い娘さんを、何故殺した!」 「お前は単なる助平な強姦殺人犯じゃねぇか!」  と激昂する刑事の言葉も、至極もっともでしたね。  その後に犯人は、暴力を交えた尋問を受けたり、民衆に石を投げられて血まみれになったりもするのだけど、全く同情出来ませんでした。   かくして、すっかりシリアスな実録犯罪映画と化したところで、唐突に画面は「泉ピン子ショウ」へと切り替わり「強姦した奴はチン斬りの刑にしよう」と客席の笑いを取って終幕となる訳ですが、このギャップの激しさに関しては、評価の分かれそうなところ。  自分としては、なんだかんだで最後まで楽しめたりもしたのですが(眉をひそめる人も多そうだなぁ……)と、完全に他人事感覚で思えた映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2017-10-20 03:54:26)
93.  武士の一分 《ネタバレ》 
 姉妹作とも言うべき「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」については、何年も前に観賞済み。  何となく観そびれていた本作にも、ようやく手を出してみたのですが、上記二作と変わらず楽しむ事が出来ましたね。   とにもかくにも主演に「現代のアイドル俳優」というイメージが強過ぎる為、最初の内は「武士という割には軽過ぎる」という違和感もあったのですが、それが中盤以降の悲劇的な展開との落差を生む事に繋がっており、結果的には良かったと思います。  妻の加世、中間の徳平に軽口を叩く姿も、ちょっぴり嫌味なのに愛嬌がある辺りなんかは、正に木村拓哉という存在だからこそ、という感じ。   また、真っ当な殺陣の魅力に関しては一作目の「たそがれ清兵衛」で存分に描いている為、二作目と三作目においては「隠し剣」「盲目の武士の戦い」という変化球で攻めた辺りも正解だったのではないでしょうか。  歴代の中でも、間違いなく本作が一番不利な状況下での戦いであった為、前二作と同じ流れで最後は主人公が勝つだろうと安心しつつも「本当に勝てるの?」という緊張感を、適度に抱く事が出来たと思います。  あえて言うなら「決闘の場所の下調べくらいはしておくべきじゃないか」とも思えましたが、それをやるのは卑怯という価値観なのかなと、何とか納得出来る範疇でした。   それよりも個人的に残念であったのは、タイトルにもなっている「武士の一分」の使い方について。  復讐の動機は、妻が辱められた事にあると言い出せず「武士の一分としか申し上げられません」と絞り出すような声で訴える場面は凄く良かったと思うのですが、その後も「武士の一分」という言葉を繰り返し用いるものだから、ちょっと重みが薄れたように感じられてしまったのですよね。  全ては「あの御仁にも、武士の一分というものはあったのか」という台詞に繋げる為だったのかも知れませんが、それならせめて使用は二回までに留めて欲しかったなぁ、と。   脇役に関しては魅力的な顔触れが揃っており、本人に悪気は無くとも傍迷惑な叔母さんは妙に憎めなかったし、意外な名君であった殿様の存在感も良かったですね。  特に後者に関しては、主人公の失明後も「大儀」と一声掛けるだけであり、所詮は家臣の事など軽く考えている天上人なのだと示す場面があっただけに、その後に真相が明かされる場面には、完全に参ってしまいました。  家老の結論を覆し、藩主自ら主人公を庇ってみせたのだと判明する、あそこの件が、この映画のクライマックスだったのではないでしょうか。   結局、決闘については周りに知られぬまま、主人公の仇討ちが咎められる事も無く、離縁した妻とも再び結ばれるハッピーエンドを迎えた本作。  ですが、あの殿様であれば、たとえ事情を知ったとしても、きっと公明正大な処置を下されたのではないかな、と思えました。
[DVD(邦画)] 6点(2017-05-30 14:50:12)(良:2票)
94.  プロゴルファー織部金次郎 《ネタバレ》 
 正直、武田鉄矢という人は苦手だったりもするのですが、これはスッキリした娯楽作品として、素直に楽しむ事が出来ました。   極道やら賭け事やらの要素が詰め込まれ、あと一歩で陰鬱な路線に傾きそうなところを、きちんと踏み止まり、明るく仕上げている。  基本的には人情噺なのですが、主人公がトーナメントを勝ち抜いていく爽快感も描かれている為、スポーツ物としての魅力も備わっていましたね。   ゴルフの知識が無くても分かるよう、ヒロインの桜子さんを通じて専門用語について解説したり、修造親分を通じて「ゴルフが上手くなる方法」を教えてみせたりと、初心者にも経験者にも配慮した作りとなっている事にも感心。  バックスピンの描写が大袈裟なのも、映画的なハッタリとしては有りだと思うし「行け、行け! 池?」などの駄洒落が散りばめられているのも、微笑ましくて良かったです。   不満点としては、主人公の娘達が最後に登場せず、ちょっと扱いが中途半端に思えた事でしょうか。  終盤は修造親分の死にスポットを当てていた為、そちらに専念した形なのでしょうけど「父さんはお酒ばかり飲んで、ゴルフの練習しないから、一生試合に勝てない」という言葉を覆す活躍をしてみせた訳だから、それに対する娘達の反応も知りたかったところです。  それと、狸の食べ物を主人公が横取りしたシーンは、ちゃんと謝る描写も欲しかったですね。  些細な事ですが、そういう描写が有るか無しかによって、主人公に対する好感度が大きく変わってくるように思えます。    ラストホールにて、修造親分の幻影が現れる件は感動的であり、涙腺が緩みかけたのですが、一度で終わらせずにその後何度も出てくるもんだから、ちょっとやり過ぎに感じられたのも残念。  基本的には好きな描写ですし、良かったと思うのですが、一度きりの登場でビシッと締めてくれた方が、より好みだったかも。    特筆すべきは、何といってもエンディング曲の素晴らしさですね。  「いつか観た映画みたいに」って、ゴルフとは全然関係無い歌詞だったりもする訳ですが、そんなの吹き飛ばしちゃうような力がある。  良い映画と、凄く良い曲、両方を満喫させてもらいました。
[DVD(邦画)] 6点(2017-05-29 20:35:00)
95.  借りぐらしのアリエッティ 《ネタバレ》 
 こういった設定の映画である以上「小人から見た世界」が面白く描かれていれば問題無いと考えながら視聴した為、まず満足。   部屋に飾られている大きな時計が人間の腕時計だったり、お茶を淹れる際にも水滴が大きかったり、猫や狸が巨大な獣だったりと、色々楽しかったですね。  逆さに伏せられた硝子のコップを、物珍しい美術品のように眺めるアリエッティというシーンも印象深い。  ……ただ、虫が巨大なサイズで気持ち悪かったのは難点かも。  ダンゴムシをボール代わりにして弄んだりする描写なんかは、ちょっと引いちゃうものがありました。   タイトルになっている「借りぐらし」に関しては、いくら作中で「人間から借りているだけ」と主張されても、明らかに泥棒だよなぁ……と思えてしまい、ノリ切れず。  もうちょっと小人なりに人間の生活に貢献しているとか、借りた分を些細なお手伝いなどで返してみせる描写があれば納得出来たのでしょうが、小人はひたすら人間を恐れて隠れつつ盗みを働いているだけですからね。  ただ単に「借り」と「狩り」のダブルミーニングにしたかっただけでは? と感じられました。   ドールハウスと小人の寸法がピッタリ同じというのは、ご都合主義だとばかり思っていたのに「実は小人の為に作らせた代物」だったと判明する辺りなんかは、上手い脚本だなと感心。  アリエッティの母親救出の件で、さながらスパイ物めいた音楽と演出になったり、窓を開ける際に「人間には出来ない事でも小人なら出来る」と示す流れになったりするのも良かったですね。  原作の元ネタと思しき「秘密の花園」を読んでいるシーンなんかも、思わずニヤリ。  「秘密の花園」→「床下の小人たち」→「借りぐらしのアリエッティ」の三作品には、それぞれ四十年以上の間隔が空いている事を思うと、魅力的なストーリーラインは時を越えて受け継がれるのだと、しみじみ実感させられます。   そして、事前に調べなくても「ヒロインの描き方が全然ロリコンっぽくない」という時点で宮崎監督作じゃないと気付いた本作なのですが、これも結果的には良い作用を齎したんじゃないかと思えます。  小人の美少女なんて、如何にもフェチ心をくすぐる題材だし、やりようによっては幾らでもエロティックに出来たのでしょうけど、そちらは極めて薄味な作り。  それが物足りない人もいるのでしょうが、自分としては好みなバランスでした。   むしろ脚本と監督の溝というか、作中の台詞と全体の流れが噛み合っていないのでは? という点が気になりましたね。  脚本を書いた人がビッグネームな時に起こりやすい現象なのですが、監督さんが脚本に気を使って、書かれていた台詞をそのまま採用してしまったがゆえに生じる違和感のようなものがありました。  その最たるものが「君は僕の心臓の一部だ」というクライマックスの台詞であり、確かに感動的なのですが、それまでの流れを考えると、どうしても(そこまで言う程の深い交流があったかな?)なんて思っちゃうのですよね。  死にゆく病人と滅びゆく種族とで、シンパシーを感じたのだろうけど、長年連れ添った恋人同士じゃあるまいし……なんて、ついつい意地悪く考えてしまいました。  別れのシーンは、台詞だけでなく、音楽や演出も悪くなくて、グッと来るものがあっただけに、そこが凄く残念。   それと、中盤に母娘で針仕事をしながら「この大きな袋は何なの?」と娘が尋ねるも、母親は答えないというシーンがあるんですよね。  ここ、てっきり気球かヨットの帆を作っていて、それが引っ越しの際に役立つのではと予想していたのですが、見事に外れました。  こちらは、ちょびっとだけ残念。   でも、本作には「薬缶に乗って河を移動する、静かなエンディング」の方が似合っていたようにも思えますね。  希望の象徴と言うべき海のポスターを効果的に活用し、単なる悲劇では終わらせず、より良い明日に向けての「旅立ち」を感じさせる終わり方であった点も含め、中々に心地良い映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2017-05-17 07:53:05)(良:1票)
96.  猫の恩返し 《ネタバレ》 
「猫舌のお前さんには向くまい」「お前こそ鳥目だろ」  という鳥と猫とのやり取りが印象深い。   作品全体の印象としては、丸く綺麗な小石、といった感じですね。  尖って良い部分も無く、悪い部分も無いという。   児童向け作品らしく、伏線とその回収も分かり易くて ・幼少時に出会っていた猫との再会。 ・「何処かで見たような……」という台詞。 ・遅刻していた主人公が成長したのを表す為に、早起きするようになる。  等々、微笑ましい気持ちで各シーンを見守る事が出来ました。   猫好きな観客の欲求に応えてくれるように、作中の猫達は魅力的に描かれていたと思いますし、その時点で、ある程度は満足。  じゃあ不満点は何だろうと考えてみると、終盤の盛り上がりに欠ける事が挙げられそうですね。  もう少しこう……画面を見ているだけで楽しくなっちゃうような、動きのある活劇要素が欲しかった気がします。  折角バロンと王様との一騎打ちがあったのに、あっさりと前者が勝って終わりというのでは、如何にも寂しい。   それと「恰好良いから」という子供っぽい理由で好きだった男性に興味を無くす事を、前向きに描いているはずなのに「主人公がバロンを好きになった理由」が「恰好良いから」としか思えない辺りも気になります。  見た目に囚われず、内面の恰好良さが分かるようになったという意味なのかも知れませんが、バロンというキャラは見た目の時点で恰好良く描かれている訳だし、何だか中途半端な印象が残りました。   エンディング曲については、凄く良かったですね。  「猫の国から現実世界に戻ってきた主人公が、いつでも傍にバロンがいてくれると思いながら日々を生きていく」という感じで、歌詞も作品に合っていたかと。  正直、退屈に感じた時間も長かった映画なのですが、この曲が流れ出すラストシーンだけでも「観て良かったな……」と思えました。
[DVD(邦画)] 5点(2017-05-15 11:04:43)(良:1票)
97.  北斎漫画 《ネタバレ》 
 夕立の中、皆が雨宿りする中で、一人だけ雨を意に介さず歩き続ける主人公の姿が、非常に印象的。  冒頭のシーンだけでなく、ラストカットでも同様の姿が描かれており、新藤監督としても、この「雨の中を歩く葛飾北斎」という強烈なイメージこそが、この映画を象徴するものであると考えていた事が窺えます。   十返舎一九や歌麿など、北斎の他にも当時の著名人が次々に登場する為、それだけでもワクワクするものがありましたね。  特に曲亭馬琴の登場のさせ方は上手く、北斎を居候させてやっている気の良い親父さんが「滝沢馬琴だとか、曲亭馬琴だとか、ご大層な名前付けて粋がって……」と妻に詰られる形で、自然と「この人が馬琴だったのか!」と観客を驚かせてくれるのだから、心憎い。  ちゃんと事前に「読み本書きを目指している」という伏線があった為、違和感も無かったですし、予め正体を察していた人でも、ここの件はニヤリとさせられたんじゃないかなぁ、と思います。   泥臭い創作者達の物語という事で、基本的なストーリーは非常に好ましいものがあったのですが、難点としては「いくらなんでもエロスに偏り過ぎ」「老人になってからの件はコントにしか見えない」という辺りが挙げられそう。  本映画の「売り」の一つであろう「蛸と女体の絡み」にしたって、そちらの性癖に疎いせいか、自分としては全くピンと来なくて、むしろ白けてしまったのですよね。   終盤にて「枕絵は、もうこれでおしめぇだ」「いつまでも若ぇ娘と茶番している暇は無ぇわな」と吐き捨て、いよいよ北斎が「俺自身が納得出来る絵」に取り掛かろうとした矢先に死んでしまう……という展開なのも、実に寂しい。  結局、この映画では「若ぇ娘との茶番」がメインになっており「富嶽三十六景」の件なんかも、サラッと短時間で流されてしまっていますからね。  劇中で描かれる北斎の人物像はとても魅力的だったと思うのですが「えっ、そこにスポット当てちゃうの?」という感じで、戸惑いの方が大きかったです。   情熱を秘めた主人公の北斎、良き友人であった馬琴、複雑な魅力を備えた娘のお栄の存在、この三者だけでも十分面白いだろうに、何で余計なエロスを交えちゃうかなぁ……と思ってしまったくらい。  自分の場合、そういうのはサービスシーン的にチラッと挟むくらいが好ましく、この映画みたいにメインに据えられてしまうと、どうも「そんなに沢山はいらないよ」と辟易してしまうみたいです。   そんなこんなで、中盤以降は観ていてテンションが下がってしまったのですが、それでもラストシーンの「雨の中の北斎」を目にすると、良い映画だなぁ……と思ってしまうのだから、全く以て困り物。  「終わり良ければ総て良し」という言葉を連想させられる、そんな一品でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2017-04-18 16:31:10)
98.  兵隊やくざ 《ネタバレ》 
 冒頭にて「荒野に孤立した巨大な刑務所」という言葉が出てきますが、実際に刑務所映画に近いテイストを感じられましたね。  主人公の一人である大宮は極道だし、囚人同士の争いの代わりに日本兵同士で争うし、最後は脱走劇で終わるしで、非常に似通っていたと思います。   「兵隊の話は、もう御免」「カーキ色を見る度に胸糞が悪くなる」なんて独白から始まる以上、軍隊批判というテーマも込められていたのでしょうが、自分としては上述の通り「刑務所映画の軍隊版」という印象のまま観賞した為、重苦しい気分にはならず、娯楽作品として楽しむ事が出来ました。   とにかく上官が部下を殴る蹴るを繰り返し、胸糞が悪くなったところで、主人公の大宮と有田とが力と知恵を駆使してやり返してくれる訳だから、非常に痛快。  軍隊は階級が全てだとばかり思っていたら、さにあらず、実は勤務年数も力関係に大きく作用しているという辺りも、非常に興味深いものがありましたね。  喧嘩する相手が二年兵だと分かった途端に態度を豹変させ、上官であるはずの伍長に遠慮なく殴り返し、対等の条件での決闘に持ち込む件なんてもう、痺れちゃいました。   頭の良い兄貴分と、腕っぷしが強い弟分。  そんな凸凹コンビの二人が、様々な苦難を乗り越え、絆を深める姿を見せてくれる為、観ているこちらとしても微笑ましく、心地良い気分に浸れるのですよね。  それでも最後の最後「国家の命令」という強大な力には逆らえないのか……と思わされたところで、見事に逃げ出してみせるという流れも良かったです。   ただ、取り残された他の兵達は一年後に全員戦死したと語られている為、ちょっと影を落とす形となっており、爽快さに欠けるものがあったのは残念。  状況を考えれば仕方ないのだけど、主人公達だけが逃げて、残された皆は死んでしまったという形だから、罪悪感が伴うんですね。  戦争だから人が死ぬのは当たり前だし、軍隊に所属した以上は殺されたって不思議じゃないのでしょうが、それでもその重苦しい語り口と、直後の脱走劇の明るい描き方は、ミスマッチであるように感じられました。  ここの部分を、もうちょっと受け入れやすく描かれていたら、戦争映画ならぬ兵隊映画の傑作として、大絶賛出来た気がします。   それと、大宮を演じる勝新太郎が刃物を用いてチャンバラを披露するシーンがある訳だけど、それが原作小説にもある要素なのか、映画特有の「勝新ならチャンバラも見せなきゃ」というサービスなのかも、気になるところですね。  もし後者であったとすれば嬉しいのですが、真相や如何に。
[DVD(邦画)] 6点(2017-04-13 22:21:04)
99.  エヴェレスト 神々の山嶺 《ネタバレ》 
 原作小説が大好きなので、期待を込めて観賞。   絶対に二時間で纏めるのは無理だろうと思っていただけに、ちゃんと物語を完結させている事に感心半分(やっぱりダイジェスト感は否めないなぁ……)と落胆半分、といった感じでしたね。   結構な尺が必要となるであろう「マロリーのカメラ争奪戦」の件を思い切って省略したのは正解だと思うし「鬼スラへの挑戦」「岸との別離」「グランドジョラスからの生還」と、羽生丈二というキャラクターを語る上では外せない場面を映像化してくれた事は、素直に嬉しかったです。  それでも、どうしても「あれも見たかった」「これも見たかった」というモヤモヤが残ってしまうのだから、全く以て困り物。  折角モノローグを多用して小説の文章そのまま再現する演出をやっているのだから「きしよう」や「地球を踏んだ」などの言葉も、心の声として聞かせて欲しかったなと、ついつい思ってしまいました。   主演の岡田准一と阿部寛は熱演されており、特に後者の存在感はお見事でしたね。  凍死した羽生の「死体」をここまで迫力込めて演じられる人は、ちょっと他にはいないかもと感じるくらい。  ライバルである長谷の扱いが軽い事も含め、どうしても原作に比べると羽生に関する描写は薄くなってしまっていたのですが、それでも「これは間違いなく羽生丈二だ」と思えたのは、役者さんの力が大きかった気がします。   中でも、遭難しかけた深町を羽生が助けるシーンは凄く良くて、ここが本作の白眉であるように感じました。  ちょっと原作に比べるとエキセントリック過ぎるというか「羽生の魂を継ぐ者」として、野性味溢れて描写されていた深町であっただけに「もういい、もうやめてくれ……」と弱々しく呟き、自分を見捨てるよう訴えかける姿が、一際胸に迫るものがあったのですよね。  その後に「最初から羽生は最も困難なルートを登るつもりだった」と明かされる展開についても、良かったと思います。  正直、原作と異なる部分に関しては不満も多かったりしたのですが、ここの流れは原作よりも好み。   最後も深町の生還というハッピーエンドで〆てくれる為、後味も悪くなかったですね。  久々に本棚から「神々の山嶺」を取り出して、蜂蜜を溶かした紅茶片手に、ゆっくりと読み耽りたくなりました。
[DVD(邦画)] 5点(2017-04-12 09:32:43)(良:1票)
100.  僕達急行 A列車で行こう 《ネタバレ》 
 優しい映画ですね。  登場人物は善人ばかりだし、失恋というテーマを扱っていながらも暗くなり過ぎる事は無く、仕事での成功や友情など、明るく幸福な要素の方が色濃く描かれているように感じました。   森田監督の遺作という事で、最後に「ありがとう」という文字が浮かび上がる演出も、じんわりと胸に沁みるものがあります。  それだけに、全面的に作品を褒めたくなるような気持ちも強いのですが……正直に言うと、退屈に思えたシーンも多かったです。  「融資してくれーっ!」や「いちごミルク」の件なんかも、あと一歩で感動出来そうだったのに、ちょっとわざとらしく思えてしまい、ノリ切れない。   ゲームの話で盛り上がり、効果音付きで戯れてみせる件も、どうにもオタクっぽ過ぎるというか、観ていて痛々しく感じちゃいましたね。  監督さんに悪意は無いんだろうけど「鉄道の話で盛り上がるシーン」は非常に夢がある感じに描かれているのに「ゲームの話で盛り上がるシーン」はギャグで済まされており、そこに違和感が生じてしまった気がします。   その一方で、やはり主題となる「鉄道」に関する描写は力が入っているというか「模型」や「駅弁」など、押さえるべき点はキチッと押さえている感じがして、非常に好ましかったです。  自動車ではなく、電車を用いての移動ならば、恋人同士で話したり触れ合ったりする事に集中出来るし、お酒だって飲めるんだと示す辺りも上手い。   主人公が二人いる事を活かし「音楽を聴きながら窓に流れる風景を眺める」「電車が立てる駆動音や車輪の音に耳を傾ける」というタイプの異なる楽しみ方について、お互いに語らせる辺りも良かったですね。  それがラストの鉄道旅行における伏線となっており、音楽否定派だった方が笑顔で音楽を聴いている姿に繋がっていたりするんだから、実に微笑ましい話。   趣味を持つというのは如何に楽しい事か、友達がいる事は如何に素晴らしいかと教えてくれる、そんな一品でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2017-04-10 19:44:44)
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