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no oneさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 487
性別 男性
ブログのURL https://www.jtnews.jp/blog/23806/
年齢 41歳
自己紹介 多少の恥は承知の上で素直に書きます。

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1.  ターミネーター2 《ネタバレ》 
その昔、何度も観たのにテレビで放送されるたびについつい観てしまったこの映画。先がわかっていながら楽しめるというのは、娯楽作としての骨格がよほど安定していることの証拠。   とくに功を奏しているのがターミネーターの絶妙な設定だ。   シュワルツネッガー演じるT-800の、サイボーグという設定を逆手に取ったキャラクターがすごい。本当なら人間味の無い恐ろしい存在になるはずが、頼りがいがあるのはもちろん、無骨で純粋な愛すべきキャラクターとなっている。   第一、けっして人を殺さない。この決まりごとは少年マンガではよくあるけれど、ハリウッドのアクション映画ではまずありえない、あっては物語が成立しないものだった。それが嫌味なく、偽善臭漂わせることなく実現されている。   しかも戦闘マシンとしては優秀なのに、ある意味ではすごく無知で純粋ですらある。だから庇護する対象であるジョンを子供扱いすることなく、あくまでも対等に接する。これが普通の大人の男であれば、ジョンとの間にあそこまでフェアで隔ての無い信頼関係を築くことはできなかったはず。あれだけ強いのに、怖いどころかとても親しみやすいヒーローだ。   そして敵役のT-1000は逆の意味で設定を上手く生かしているだけでなく、液体金属という素晴らしいアイディアのおかげで、単なるサイボーグを超えたとんでもない怪物と化している。冷酷かつ邪悪、無敵の殺人機械。シュワルツネッガー演じるT-800のキャラクターと見事にコントラストを為しているので、銃で撃たれようが何をされようが後味の悪さはゼロ。   メリハリをつけながらもラストに向けてだんだんテンションを上げていく脚本も素晴らしい。ハッピーエンドに切なさをトッピングするというのは、観客の心を動かす最高のテクニックなのかもしれない。CGを使いながらもB級映画的な創意工夫を凝らした特殊効果もまた作品に魂がこもった理由の一つだろうと思う。最初から最後まで独創的なアイディアがこれでもかと盛り込まれている。  文句のつけようがない、傑作中の傑作だと思う。娯楽作品としては、ひとつの頂点ではないでしょうか。
[地上波(吹替)] 10点(2006-02-09 05:33:02)(良:5票)
2.  シベールの日曜日 《ネタバレ》 
これよりももっと感情移入のしやすい、わかりやすい感動作はたくさんある。もっと夢中になれる面白い作品はいくらでもある。しかし不思議なことに、これ以上に鮮烈に記憶に焼きついた映画はひとつもなかった。   精神が壊れてしまった男と、感受性の豊かな少女の束の間の絆。あどけない彼らの姿はなんだか足取りも覚束ない小さな生き物を見ているようで、可愛らしさになごむ反面、いつ怪我をするかとひやひやしてしまう。あやういまでの繊細さが、最後には破滅が待っていることを予感させる。   また映像の清らかさも本作を忘れ難いものにしている。湖に広がる波紋、空に入ったひび割れのように広がる木の枝、ガラスや水晶に砕かれた風景。自然物の上手な使い方にはタルコフスキーの『僕の村は戦場だった』を思い出した。   しかしなんといっても衝撃的なのは、悲劇を悲劇のままに投げ出す結末だろう。おそらくこの映画に強く共振してしまう人は、ある種の痛みを知っている人だと思う。大切なものが砕けてしまう痛み、きれいなものが汚されてしまう痛み、誰かを守れなかったという痛み――決して取り返しのつかない、圧倒的な喪失の感覚。苦い絶望のなかに、ただ優しい記憶だけが残る。   他にも同じような方がいらっしゃるので告白してしまうと、生涯で一番好きな映画を問われれば自分もこの作品を挙げる。もっと面白い、バランスの取れた映画は他にもあるとわかっているのだが、なぜかこの映画を選んでしまう。きっとこの映画が描くような痛みは、心のもっとも深い場所に眠っているもので、そこを突かれると自分が根本から揺るがされてしまうのだろうと思う。   失うことの痛み。それは辛く哀しく、しかしけっして忘れたくない大切な痛みだ。
[ビデオ(字幕)] 10点(2006-02-09 01:46:32)(良:2票)
3.  ロスト・チルドレン 《ネタバレ》 
すごい。大勢のサンタクロースが現れる悪夢のプロローグから一気に惹き込まれた。ちょっとやそっとの秀逸な発想がある作品は珍しくないが、本作は最初から最後まで、散りばめられた小さなアイディアのひとつひとつが光っている。  おそらく作り手は、長い年月をかけてコレクションしてきた心のなかのおもちゃ箱をひっくり返して、「ほらほら面白いでしょ」と自慢してみせたかったんじゃないだろうか。それは独りよがりなマニアの自慢に近いものだが、そのコレクションがほんとうにユニークで素晴らしいものだったなら、自慢された側としても文句のつけようがない。  最大のピンチを幸運で乗り切るくだりには笑わされた。普通の作品なら怒るところだけど、ここまで確信犯だともはや突っ込みようがない。イメージを優先して内容を充実させることははなから放棄した、おとぎ話のようなでたらめさ。こんな片寄った方法論で充分以上に楽しませてくれるのだから、逆にすごい。これほど個性的な才能は稀有だろう(なので、趣味が会わない人はとことん合わないはず)。それでいてストーリーはテンポがよく、アート志向が強すぎて退屈ということもない。役者は最大限に個性を発揮しているし、ラストシーンは洒落が効いていて鮮やかだ。  とりわけ個人的に感銘を受けたのは、ミエットが夢の世界で敵の親玉と対決し、急速に老いていく容赦の無い映像。ミエットをあれだけ魅力的に描写しておいてのあれだ。居心地がいいだけのファンタジーに終わらず、美しさと隣り合わせの残酷さ、絶望を垣間見せる。けっして後味の悪い話ではないが、物語の舞台となる世界には犯罪が横行し、映像は常に暗みを帯びている。ディズニーのような真っ当な明るさとはまた違う、陰鬱な美しさのある作品といえるだろう。
[DVD(字幕)] 9点(2009-08-08 16:59:56)(良:1票)
4.  ブリキの太鼓 《ネタバレ》 
アゴタ・クリストフの『悪童日記』を思い出した。残酷でユーモラスで、重厚で軽妙、邪悪なエネルギーにあふれた摩訶不思議な寓話。西欧史には詳しくないが、主人公オスカルの運命ががそのままポーランドの歴史の暗喩となっていることはなんとなく察しがつく。簡単に身体を許す祖母と母親、ポーランド人として闘う弱い男とナチズムに迎合する強い男という二人の父親はいかにも象徴的だ。後者の父親を死に追いやった後、主人公は墓穴に落ちたのを契機に再び成長を始める。かりそめの「死」を迎えることでようやくまともに成長を始めるオスカル。それは物理的にも心理的にも侵略されたポーランドが、徹底的な壊滅によってリセットされ、再びまっとうな国家として歩みだす姿でもあるのだろう。もっとも、そんな難しい解釈をしなくても普通に面白い作品ではある。主人公の少年役はほんっっっとうに可愛くなくて、よくこんな適役を見つけてきたものだとある意味感心した(子供なのか小人なのかわからないと思っていたら、小人症の子供だったらしい)。
[ビデオ(字幕)] 9点(2006-03-17 23:46:26)
5.  バリー・リンドン
ロココ絵画の名作を思わせる、夢のように美しくて荘厳な映像。絵画を観るのが好きな人なら、これだけでも観る価値があると思う。脚本も恐ろしく完成されており、映像がそうであるように全体の構成が完璧なシンメトリーを描いている(前半は決闘に勝利したバリーが故郷を追われた後に富と名誉を得るまで、後半は財産を浪費したあげく名誉を失ったバリーが決闘に敗れ、故郷へ舞い戻るまで)。登場人物への感情移入を拒否するような作りも面白い。バリー・リンドンは間違っても善人とはいえないが、かといってとんでもない悪党と言い切ることもできない、ある意味ではすごく人間くさいキャラクターだ。エピローグの言葉を人間に対する否定ととる向きが多いようだけど、逆に救いを読み取ることもできないわけではない。ブロンテの『嵐ヶ丘』の結末にも似たような言葉があって、そちらは激しい生を全うした人物たちがようやく安らぎを得た、という慈愛の意味で使われている。栄光を求めて這い上がり、最後には己の欲望に足をとられて転落したバリー・リンドン。ひとりの人間の生涯を、綺麗な部分も醜い部分もひっくるめてまるまる映画にする。ただ「彼が生きた」ということをありのままに提示する。人間を描く方法として、もっとも実直で嘘のないやり方だ。いつものキューブリック作品には人間に対する皮肉や批判が見られるが、今回は趣きが違う。人間の愚かさを受容する、キューブリック流の人生賛歌を唄っているのではないかとも思えた。
[DVD(字幕)] 9点(2006-01-04 01:59:32)(良:2票)
6.  パリ、テキサス
ラストのトラヴィスの行動を見て、「バカなやつ…」と思ってしまう。でも心からの軽蔑をこめてそう思ったわけではなく、軽蔑と賞賛、同情と共感の入り混じった複雑な感情を込めての「バカ」なのです。  トラヴィスの行動はけっして褒められたものじゃない。弟夫婦の気持ちを無視しているし、息子を母親が一緒に生活しても幸福が保証されるとは限らない。しかし自分が一緒にいればまた二人を不幸にしてしまうかもしれないと知っているからこそ、あえてひとりで夜明けのハイウェイを行く彼の横顔を見ると思わず…。トラヴィスをかっこいいとは思わないけど、嫌いになることもできなかった。あの男はあの男なりに家族を愛していて、懸命に二人を幸福にしようと頑張ったのだから。人間の弱さや愛情というものの難しさについて、考え込まずにはいられない。  映像、音楽の美しさには驚いた。とりわけ映像については、個人的にはいままで観た映画のなかでももっとも美しいとさえ思った。全編にわたって圧倒的なクオリティ。「映像詩」という言葉はまさにこのような作品のためにあるんじゃないだろうか。
[ビデオ(字幕)] 9点(2005-07-05 14:01:26)(良:1票)
7.  秘密と嘘
とても地味なお話だと思うのだが、なぜか画面から目が話せなかった。このサイトで特異な演出方法を知って初めて、なぜこの映画があんなにもスリリングに感じたのかがわかったような気がする。この映画は脚本にまったく作り物臭さがなく、「現実ならこうなるかもしれない」というタイミングの悪さ、計算の上ではありえない台詞と演技がある。地味な作品と評価される方も多いが、個人的にはほとんどサスペンス並みに目が離せなかった。  家族を大切に思うのは当然だが、当然シンシアのようにみっともなく、自分勝手な人物もいるわけで、平和な家庭を保つことはまったく簡単ではない。ましてや家族の綻びを秘密や嘘で誤魔化そうなんて甘い話で、一時しのぎはできても、結局は悲惨な断裂を招いてしまう。いくら真実が醜くても、なりふりかまわず立ち向かわなければ、とりかえしのつかないことになる。 それを伝えるために、リー監督はその特異な手法で、現実の一部をそのままえぐりだしたかのような映画を観客の前に突きつける。相手の弱さ、醜さまでも許さなければ、家族は世界で一番大切な人々から、世界で一番憎い人々に転じてしまう。家族を愛することの素晴らしさ、そして難しさを考えさせられた。
[ビデオ(字幕)] 9点(2005-05-11 23:02:15)
8.  太陽がいっぱい
これまでこんなに魅力的な犯罪者がいただろうか? アラン・ドロンはただ顔立ちが整っているだけじゃなくて、その眼に野生動物のような凶暴な光がある。その光に惹きつけられて、観ているうちにいつのまにかトムを応援している自分に気づく。あれだけ巧妙な計画が実は最初から破綻していて、すべて無駄だったなんて……。眩しいくらいに明るい日差しと、青年の暗い心。光と闇のコントラストが鮮烈でした。
[映画館(字幕)] 9点(2005-03-13 00:25:31)
9.  まぼろし
まだ若いのもあって私には大切な人を失った経験がなく、その痛みは想像もつきません。夫の失踪を受け入れられず、幻想で何とかバランスを保つ妻。それでも否応なくつきつけられる現実が幻想を少しずつ打ち壊していきます。そして終盤の彼女が泣いているシーンで、夫の死を受容して終わるのだなと思いきや…あのラスト。いったいどう解釈すればいいのか…幻想に逃げた哀しい結末だったんでしょうか? それにしては圧倒的に美しい光景で、けっして陰鬱なシーンではありませんでした。  ところで、私は『ポネット』のような作品が嫌いです。「お母さんはあたしの心の中で生きている」と言って立ち直るのですが、ずいぶん妙な理屈だし、そもそも喪失の痛みってそんなに生易しいものでしょうか。もしかしたら、一生その痛みが癒えることはないかもしれない。思うに、愛する人を失って生きていけるか?と問われてはっきり答えられる人は少ないでしょう。だからこそ、曖昧なラストでよかったと思います。答えは一人一人の胸の中にしかないからです。それに、彼女が現実を選んだにしろ幻想を選んだにしろ、あそこまで人を愛することができたということ自体、奇跡には変わりありません。どんな解釈をしたとしても、あの海の美しさは誰にも否定できないでしょうから。
9点(2005-01-23 05:20:52)(良:1票)
10.  戦場のピアニスト
財産も家族も、誇りをも奪われ、(こういう言い方はすごく失礼だけど)ほとんどいやしいまでに生に執着する人間が奏でる音楽が、あんなにも澄んだ音で響く。ドイツ人将校の前で弾いたあの曲を聴いたときの気持ちは、とても言葉にはできないです。
9点(2004-05-02 12:50:33)
11.  アレックス
おすすめできません。
[DVD(字幕)] 9点(2004-02-25 03:36:34)
12.  ピアニスト
主人公は、ものすごーくイタくて、滑稽で、コミニュケーションのど下手くそな人。悪い意味でオタクっぽくて、おそらくは人間関係の基本というものがわかっていなくて、ろくな友達も恋人もおらず、ポルノに耽溺して変態的な妄想をすることで生きている。日本人にも多そうなタイプ。    美男子に言い寄られて大チャンスなのに、最初は戸惑いのあまり拒絶して、相手が離れていくと一気に怖くなってすがりつく。人との距離の取り方が、全然なってない。イタいイタい。ほんとに痛い。    でもすっごく可哀そうでもある。現実の悲劇というものは大抵の小説や映画よりもかっこ悪くて、醜悪で、どうしようもなくまぬけだったりするものだ。同情する以前に引いてしまうような、心の歪み。ある種の人間は本当に辛いことがあると、幸福な人間には想像もつかないような変てこな方向に行ってしまう。まともに愛されたことのないゆえに心が崩れ、他人に嫌われ、そしてかえって愛されたいという願いばかりが膨らんでいき、さらにバランスを崩していく。    これが『電車男』なら、オタクが更生(?)してめでたしめでたし、というハッピーエンドだったけど、ミヒャエル・ハネケはそんな甘い結末を用意しない。もっとも幸福なオタクの人生が『電車男』にあるとしたら、もっとも不幸なオタクの人生がこの映画だ。  そして残念なことに、不幸な物語の方が現実には多いだろう。だって正直な話、こういう人が周りにいたら、自分でも敬遠するんじゃないかと思う(恋愛対象としても友達としても)。彼女のような人間を愛してくれる誰かが、この世に存在するんだろうか?    そしてまったく救われないラスト。変に聞こえるかもしれないが、自分はこの結末に監督の優しさを観たような気がした。だって、これが現実なんだもの。どこにでも孤独に苦しんでいる変人はいる。彼らが苦しんでいても普通の人々は見て見ぬふりをするか、バカにするだけで、手を差し伸べたりはしない。彼らはけっして救われない。監督はそんな彼らの苦しみを本当に理解している。    そして見て見ぬふりを決め込んでいるわれわれに、これでもかとばかりに見せ付ける――「お前ら、目を背けてんじゃねえぞ」、と。彼女のような人間と、彼女を侮蔑するか拒絶するかしかしない普通の人々。本当に醜いのはどちらなのか?
[映画館(字幕)] 9点(2004-02-24 02:30:13)(良:2票)
13.  シェルブールの雨傘 《ネタバレ》 
ずっと観損ねていたのを、劇場でデジタル・リマスター版を鑑賞した。すごくラッキーだったと思う。色あいも音楽もとてもきれいで、愛らしくおしゃれな小品に仕上がっている。悲しいラストシーンが白と黒を基調とした雪の吹きすさぶ夜であるのに対し、二人が愛し合っていた日々はカラフルで鮮やか、陽気な音楽とともに描かれる。二人が簡単に永遠の愛を誓うようすはいかにも若気の至りではあるけれど、この映画はそれを否定しているわけではなく、あくまでも美しい思い出として、彼らが成長してからも人生の宝物になりえるような記憶としてとらえているように思える。  それにしても、エッソのガソリンスタンドまでおしゃれなアイテムにしてしまうのだから、フランス人というのは空恐ろしい人種だ。
[映画館(字幕)] 8点(2009-06-01 12:06:50)
14.  麦の穂をゆらす風
まるでその場にいる人間の視界をそのまま切り取ったかのようなカメラワークが絶妙。たとえばあの焼き討ちされている家をなすすべもなく傍観している場面の臨場感は凄まじいし、条約案が持ち上がったあとに大勢で議論する場面もすごい。どこをとっても過剰な演出が一切なく、当時のアイルランドの人々の記憶そのものを編集して観せられたかのような生々しさがある。それでいて美しい映像なのだから驚く。  ただ、脚本に登場人物の人間味を感じさせるような「余分」がないので、感情移入するのがやや難しい。鑑賞中はどうかと思っていたけど、最後まで観るとこれはこれでありかなと思わされた。仮にデミアンのちょっとした癖や、テディの好きな食べ物でも教えてくれたなら、もっと彼らに身を重ねて観ることができたかもしれない。でもケン・ローチが目指したのはメロドラマからかけ離れた世界なのだろうから、これできっと正解なのだろう。  誰もが正しいことをしようとして、何もかもが間違っていく。人の営みの中で必ずついてまわるそうした悲劇(何も戦争に限ったことではなく)の成り立ちを、この映画は巧みにとらえているように思えた。
[DVD(字幕)] 8点(2007-11-05 02:07:19)
15.  王と鳥 《ネタバレ》 
寓話系ってあまり好きじゃないけれど、これは別だった。  まず、作画が素晴らしい。けっして昨今のCGのような迫力を持っているわけではないけれど、一枚一枚の絵が単純なようで工夫が凝らされていて、何度も目を見張らされた。城の造型はもちろん、巨大な機械兵の手の形など、諸処に独創的なセンスが表れている。キャラクターのちょこまかした動作はとてもナチュラルで、しかも愛嬌いっぱい。とくに王様の愛犬! あの可愛さはやばい。  宮崎駿作品との類似点の多さはちょっとびっくりするほどで、無条件に宮崎駿の才能を信じていたものとしてはショックだった。魔法と科学を融合したような不思議な世界観はジブリだけのものだと信じていたのに……。もっとも、似ているのは表層的な部分に留まっているし、ジブリはジブリで独自の境地に達しているから構わないと思うけれども。  この映画でいちばんコミカルなのが臣下たちが盲目的に王様を崇める下りで、次々とまぬけな銅像が製造されるシーンでは笑ってしまった。でもそこが同時にいちばん嫌なエピソードでもあって、笑う一方で薄ら寒い思いがした。実際、独裁者ってのは傍からみると明らかにバカでしかなかったりする。こんなにも滑稽な世界がある意味では「現実的」であるということに気づかされて、心底嫌な気分になった。  そしてこの結末は……尾を引く。普通なら煙突掃除と羊飼い娘が結びついて予定調和のハッピーエンドを迎えるところを、瓦礫の山を築いて放り出してしまう。機械兵が何かを考え込むかのようにたたずむ寂しげなラストシーンと、あの素朴だけどとても美しいピアノの音楽。愚かな独裁者を倒す正義もまた浅はかなものでしかなく、跡に残るのは廃墟に過ぎない。なんともまあシビアで、辛すぎる結末だ。  よくできた寓話だと思う。遠い時代の遠い世界の物語でありながら、まぎれもなく現代の、現実の物語でもある。
[DVD(字幕)] 8点(2007-08-05 00:48:54)(良:1票)
16.  ぼくを葬る(おくる) 《ネタバレ》 
あらすじを読んだだけだとべたなヒューマン・ドラマといった感じだが、そういうのを期待していると確実に肩透かしを食らうはず。決裂した家族と和解するエピソードなどは誰もが予想する展開だけど、そうした部分ですら徹底して冷静に描いている。感動ものというにはあまりにも切実で、生々しく、痛い。ちょっと引いてしまうような場面もある。  主人公は特定の宗教を信仰しているわけではないが、この作品には宗教的なイメージも強く漂っているようにと思う。幼い日の自分との邂逅は、死に近づくことで自分が生まれた場所へ再び戻っていくような、生と死が環を結んでいるような、不思議な感覚があった。日没と共に死んでいくラストシーンは、甦る可能性はないにもかかわらず再生を予感させる。主人公は既存の宗教の力を借りずに、もっと原初的で直感的なイメージを通すことで、自らの死を受容したのだと思う。  タイトルの通り、これは主人公が自身のために行なった葬送の儀式なのだろう。
[映画館(字幕)] 8点(2006-08-03 13:34:37)
17.  レオン/完全版 《ネタバレ》 
荒んだ生活によって無理やり大人になることを強いられた少女と、悲劇ゆえに心の奥に無垢な部分を隠し持ったまま大人になった男。少女は男の強さに憧れ、男は少女の温かさに憧れる。マチルダがレオンに読み書きを教える場面で思ったんですが、レオンとマチルダの関係は『ターミネーター2』のシュワルツネッガーとエドワード・ファーロングの関係に似ていますよね。お互いに欠けたものを補完しあう以上に強い絆はない。親友であり、親子であり、恋人である。殺し屋が少女を守っているようでいて、少女もまた殺し屋を救っている。  冷静に観るとむちゃくちゃだけど、よくできた物語だと思う。序盤でレオンはドアを開いてマチルダを明るい場所に救い出す。しかし最期、自分自身は光の差し込むドアにたどり着けないまま、暗闇の中に倒れてしまう。マチルダとの平和な生活に戻るには、レオンはあまりにも人を殺めすぎてしまっていたのでしょう。結局は暴力を持ってしか愛する人を救うことはできない、というレオンの宿命が切なかった。   ただ、マチルダがあからさまにセックスに誘う場面にはさすがに嫌悪感を覚えた。まあ小さい女の子が「将来はお父さんと結婚する」と言うようなもんかな、と好意的に解釈したいけど。あと他の方も言及なさっていたけど、あの観葉植物、枯れるよね。不用意に植え替えたらいかんと思う。通常版のほうが好きです。
[DVD(字幕)] 8点(2006-03-31 16:54:55)
18.  汚れた血
洒落てはいるが婉曲に過ぎる台詞は理解も共感も及ばないところにあって、最後まで一ミリも心を動かされることはなかった。主人公アレックスの恋する気持ちもまったく伝わってこない。これが現実なら、単に思い込みの強いやつなんじゃないかと疑うくらいだ。でも「愛のないセックスで感染する死病」という魅惑的な設定を用意しておきながら直接物語に関わってくることがなかったのを見る限り、アレックスは純粋そのものだったのだろう。ラストシーンでヒロインが頬についた血を拭わないのは、それが決して汚れた血であるはずがないとわかっていたから。にしても、映像がかっこよすぎる。ゴダールの再来といわれたそうだけど、そんな呼称はカラックスに失礼だろう。おかげで物語はどうでもいいのにこれっぽっちも退屈しなかった。アートという言葉を退屈の言い訳に使う作品は嫌いだ。本来これくらいの吸引力を持っていてこそのアートだろうと思う。
[ビデオ(字幕)] 8点(2006-01-17 13:20:02)(良:1票)
19.  キリクと魔女 《ネタバレ》 
魔女の呪いが解けた瞬間に咲き零れる花々があまりにきれいで、なんだか涙が出そうになった。ストーリーよりも映像に感動して泣きかけたのは初めてのことだった。  実際この映画を元に画集を出せるんじゃないかってほど画の質は高い。緻密な描き込みや、原色に近く、それでいて透明感のある色彩には息を呑んだ。たとえ地中であっても、よく見ると背景に不思議な模様がある。最初の村の場面にはノルシュテインを連想したけど、この強烈な色彩感覚は誰にも似ていない。アニメーションよりもむしろ絵画に近く、アンリ・ルソーや(他の方も言及していらしたが)ゴーギャンを思わせた。  物語はおとぎ話調で、終盤はとくに一寸法師に似ている。ほんとはこういう寓話的な話は好みではないのだけれど、キリクがお祖父ちゃんにすがりつく場面でちょっぴりぐっときた。魔女を口説く場面など、寓話のようでいて妙に生々しいところもあるのが面白い。 キリク「小娘なんかに興味ないよ!」って、おいおいお前が言うのかキリクよ。 魔女「どうせ召使いが欲しいだけなんだ」 キリク「召使い扱いなんかするもんか!」 魔女「男はみんな最初はそういうのさ」 なぜか急に夢のない話に……。
[DVD(字幕)] 8点(2005-09-29 14:01:40)(良:3票)
20.  スイミング・プール 《ネタバレ》 
ランプリングの存在感。神経質で底意地の悪い感じ、単なる狂人ではなく、どこかが壊れた普通の人、といった人物造形が絶妙だ。こういうオチはありがちだが、それを多重人格のようなセンセーショナルなネタを使わずに作家の創造性で説明しているのがいい。日の光にゆらめくプールの水面、裸で泳ぐ若い女、唐突に行われる殺人……これはいわばプールにぷかぷか浮んでまどろんでいるうちに見た白昼夢のようなものだったのだろう。心地よく、美しく、幸福感に満ちた、しかし背筋が冷たくなるような狂気もかいま見える夢。楽しいけれど、油断すると何かに足首を掴まれて水中に引き込まれそうな、得体の知れない不安がある。プールからあがった後、楽しく泳いでいたはずのプールが、実はある女の心の中だった、というぞっとする真実に気付かされる。
[映画館(字幕)] 8点(2005-01-16 02:54:14)(良:1票)
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