201. ザ・ワイルド
《ネタバレ》 サメ映画ならぬクマ映画の中では、本作が一番好きですね。 といっても「王道のクマ映画」「クマ映画といえばコレ」なんていうテンプレな品では決してなく、むしろ「個性的なクマ映画」と言えそうな内容。 億万長者な老人が主人公ってだけでも大分珍しいと思うし、主演がアンソニー・ホプキンスで、その相棒がアレック・ボールドウィンというのも、強烈な組み合わせですよね。 モンスターパニック映画というより、人間ドラマという趣が強い内容になってるのは、それだけ俳優陣に「濃い」のが揃ってるからだと思います。 メインの二人だけでなく、ドラマ「OZ/オズ」で馴染み深いハロルド・ペリノーが出演してるのも嬉しかったし、大好きな映画「レジェンド・オブ・フォール」(1994年)で主人公と相対したクマが、本作でも出演してるって事にも吃驚。 そのクマはバートという名前であり、他にも色々な作品に出演してるとの事で(人間の世界だけでなく、クマの世界にも名優は存在するんだな……)なんて、しみじみと感じ入りました。 それと、この手の映画では「平時は有能な金持ち」って「緊急事態では役に立たず足を引っ張る」のがお約束なのに、本作では持ち前の知識を活かして大活躍しちゃうっていうのも、意外性があって良かったです。 この辺りに関しては、モンスターパニック映画が好きで、色々観ていて「お約束」を知ってる人ほど、意表を突かれて楽しめるんじゃないかと。 親切に接してくれる人が、実は金目当てだと覚って拍子抜けしちゃう場面とか、主人公の孤独を描く上で「お金持ち設定」を、ちゃんと活かしてるのも良いですね。 遭難事故においては、金持ちである事なんて何の役にも立たず、主人公は持ち前の知恵と精神力とで生き抜いてみせたのに、平和な日常の世界では、誰も彼の内面を見てくれず、持ってる金を目当てに近寄る連中ばかり……という空しさが、丁寧に描かれていたと思います。 「腕時計が壊れてる」「熊を捕獲する為の落とし穴」などの伏線が、きちんと提示されていた辺りも良かったし、熊から逃げるのは不可能なので殺すって結論に至る場面も恰好良くって、お気に入り。 終幕の場面にて、主人公は相棒のボブが死んでしまった事を「友を失った」という形で悲しむ訳だけど、その感情の中には「これで、自分の生涯で最も輝いた姿を知る者がいなくなってしまった」という哀切もあったのではないか……と思えるくらい、野生の世界で生き抜く彼の姿は凛々しくて、美しかったです。 難点としては……終わり方が少々物足りないって事が挙げられそうかな? 結局、ボブと浮気してた妻を許すのかどうかって辺りも明確な結論を出してないし、何だかスッキリしないんです。 「潜在的な同性愛嗜好」なんて台詞もありましたし「実は主人公が愛してたのは妻ではなく、友人のボブの方」あるいは「亡き友の名誉を守る為、彼の醜聞を秘密のままにしておく為、仕方無く妻の不倫に気付かぬ振りをした」って事なのかとも思えるんですが、真相や如何に。 いずれにせよ「王道なクマ映画とは言えない」「これを観てクマ映画に興味持っても、他にこんな内容のクマ映画は滅多に無い」って点を加味した上でも、誰かにクマ映画を薦めるとしたら、迷いなく本作を選んじゃいますね。 サメ映画界よりも不遇なクマ映画界に颯爽と現れた、奇跡のような一本だと思います。 [DVD(吹替)] 8点(2023-05-19 09:52:51)(良:1票) |
202. 十階のモスキート
《ネタバレ》 タイトルは「本来いるべきではないはずの場所に迷い込んでしまった存在」という意味でしょうか。 お気に入りの品である「刑務所の中」を監督した人のデビュー作と知った上で観賞したのですが、崔洋一監督の力量を再確認すると同時に、主演の内田裕也の存在感にも圧倒される事となりましたね。 どうやら脚本も兼任されているようで、この作品に掛ける意気込みが伝わってきました。 モデルとなった事件の犯人は、本作の公開後に更なる連続殺人を巻き起こしているそうですが、この映画の主人公からも「更なる悲劇」が起きるのを予感させる結末となっている辺り、空恐ろしいものがあります。 離婚、養育費、娘の非行、昇進試験、酒、賭博。 様々な要因が重なり、どんどん借金苦に陥っていく様は、観ていて気分が落ち込んじゃいましたね。 「せめて、ギャンブルは止めようよ」「お酒も控えようよ」と痛烈に思わされるのだから、もしかしたら非常に道徳的な映画なのかも知れません。 作中で描かれるパソコンの存在は「主人公にとっての唯一の健全な娯楽」「現実逃避」「最後の理性の砦」「他者を物扱いする歪んだ性格の象徴」などと、様々に解釈する事が出来て、面白かったです。 その一方で、不思議でならないのが、異様な濡れ場の多さ。 観ている最中は「これが原因で破滅が加速していくのだろう」と思っていたのですが、全然そんな事は無かったのですよね。 万引きした女性を半ば脅迫するように犯したり、同僚の婦警を襲ったりしているのに、それで訴えられるでもなく、破滅の直接の原因になったりする訳でもないので、宙ぶらりんな印象を受けてしまいました。 あるいは、元妻にも襲い掛かったのに、他の女性とは違って明確に拒否された事が、犯行に至る最後の引鉄となってしまったのでしょうか。 どうもハッキリとした答えを見出せないし、単なる観客へのサービスに過ぎないのかな、とも思えてきますね。 基本的には重苦しい作風の品なのですが、随所にユーモアも配されたバランスとなっているのは、嬉しい限り。 横山やすしを競艇場の場面で登場させたり、ビートたけしの予想屋を客と喧嘩させたりする辺りなんかは、緊張が緩んでホッとさせられるものがありました。 他にも、主人公の部屋がお酒の空き瓶で埋まっていた場面なんかも、ゾッとすると同時に、不思議とクスッとさせられるものがあったりして、狂気と笑いが紙一重である事を感じさせてくれますね。 カメラのレンズの端に、小さな虫が止まっているように見える場面が幾つか存在しているのですが、それが意図的な演出なのかどうかも気になりました。 [DVD(邦画)] 6点(2016-05-23 16:49:53)(良:1票) |
203. Gガール/破壊的な彼女
《ネタバレ》 これは……「設定は好みだけど、結末が好みじゃなかった」ってパターンの品ですね、残念ながら。 メインヒロインかと思われたジェニーではなく、女友達のハンナと主人公が結ばれる形となっており、どうもスッキリしない。 この手の「女友達と結ばれるラブコメ」って好きな映画が多いはずなのに、本作に限っては違和感が大きくて楽しめなかったんだから、自分でも不思議です。 理由を考えてみるに、根本的にハンナの魅力が不足していて「メインヒロインではなく、この子と結ばれて欲しい」と思えなかったのが痛いんですよね。 ジェニーは性格に難ありの美女ってタイプなんだから、対比としてハンナの方は性格が良くて優しい子にすべきだったと思うんだけど、何かそれが中途半端というか……作り手の考える「優しい子」の定義が自分とズレてる気がして、魅力を感じなかったんです。 例えば「主人公のマットにだけ優しくて、男友達のヴォーンには素っ気無い」っていう態度があからさまな辺りとか、それで嬉しくなっちゃう人もいるんだろうけど、個人的には興醒めしちゃいます。 これって根本的には「優しい女性」というより「主人公にとって都合の良い女性」ってだけですからね。 (見た目は美人だけど、性格美人って訳じゃないんだな)って、つい思っちゃいました。 そもそも主人公のマットにも魅力を感じなくて、主人公カップルの片方ではなく、両方を好きになれないってなると、流石に褒めるのは難しいです。 ジェニーの陰口を言うマットの姿とか「身勝手で性格が悪い、嫌な奴」としか思えないんですよね。 にも拘わらず「貴方みたいに優しい人は初めて」だの何だのと、作中で女性陣に絶賛されてるんだから、観ているこっちが恥ずかしくなっちゃう。 マットの代わりにジェニーと結ばれる事になるバリーも「家の中にジェニーの写真や服を飾った神殿がある」っていうストーカーとしか思えない男なのに、ジェニーはそれを聞いて拒否感を示すどころか、感激しちゃう始末だし…… 男にとって都合の良い映画は嫌いじゃないけど、本作に関しては「性格が悪い男」でも「ストーカー」でも美女と結ばれるんだって形になっており、流石に感情移入出来ませんでした。 何だか、こうやって分析してみると「結末」以外にも好みじゃない部分の方が多いなって気付いちゃう訳ですが…… 一応、監督はアイヴァン・ライトマンだし、演出や音楽の使い方も良かったので、観ていて退屈はしなかったんですよね。 アメコミのスーパーガールやパワーガール好きにとっては、夢のような映画ってのは間違いないと思うし、コスチューム姿でエッチする場面がある辺りなんかは(分かってるなぁ)と嬉しくなっちゃいます。 2006年制作である事を考えれば、もっと自然な飛ばせ方も出来るだろうに、あえて冒頭の場面にて「スーパーマン」(1978年)っぽい飛ばせ方をしているのにも、拘りを感じました。 そして何より、主人公と結ばれたハンナも超人的なヒロインとなるオチであり「スーパーヒロインを恋人にする」という男の夢を裏切らないまま終わった事には、素直に感心しちゃいましたね。 物語の面白さや整合性よりも「夢」を優先させた映画……と考えれば、素敵な一品だと思います。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2022-03-30 18:41:21)(良:1票) |
204. オブザーブ・アンド・レポート
《ネタバレ》 モールを舞台にした映画という事で楽しみにしていたのですが、ちょっと予想していたものとは違いましたね。 まず、コメディ成分が希薄です。 主人公は精神的な病を抱えた人物であり、笑いを誘う場面よりも、重苦しい雰囲気の漂う場面の方が中心。 警官となる為の体力テストを受ける件では、クスッとさせられる一幕もありましたが、印象的だったのは、そこくらい。 露出狂の犯人がシュールで面白いという面も、あるにはあったのですが、最後は主人公に撃たれて血まみれになって終わりという形なので、どうも爽快感に欠けていたような印象を受けました。 途中から「これはタクシードライバーに近しい映画だったのだな」と気が付き、何とか頭を切り変えようとしたのですが、上手くいかず仕舞い。 病人だから仕方ないとも思うのですが、どうしても主人公に感情移入が出来なかったのですよね。 社会から疎外された可哀想な人、という訳でも無く、実際は母親に同僚にヒロインの女の子にと、周りに良い人が沢山いて支えてもらっているのに、当人だけが自分勝手に悩んで暴走しているように思えて仕方なかったのです。 何といっても衝撃的だったのが、ラストにて犯人を撃ってモール内で殺人未遂を犯しているはずなのに、彼が作中でヒーローとして称賛されるエンディングを迎える事。 そりゃあ正当防衛が成り立つのかも知れないけれど、いくら何でもやり過ぎに思えたし、途中から彼の目的が「愛する女性を守ってあげたい」から「自分を振った女性を見返してやりたい」に摩り替っていたようにも感じられて、応援する気持ちにも、祝福する気持ちにもなれませんでした。 「警官」「化粧品売り場の美女」という主人公を悩ませていた二つの要素に対し、精神的な勝利を収めてみせた終わり方となっており、観客にカタルシスを与えようとしている事は感じられましたし、決して嫌いな映画では無いんですけどね。 音楽の使い方も良かったし、主演のセス・ローゲンも難しい役どころを丁寧に演じてくれていたと思います。 個人的好みとしては、仲良くなった友人が強盗犯だと気が付き、説得を試みるも結局は裏切られてしまう件が一番面白かったので、そこをもっと重点的に描いて欲しかったところです。 [DVD(字幕)] 4点(2016-06-15 03:51:18)(良:1票) |
205. ゲット スマート
《ネタバレ》 お気に入りのラブコメ映画「50回目のファースト・キス」と同じ監督さんという事で、大いに期待していた本作。 ところが、ジャンルの違いもあるからなのか、今一つ楽しむ事が出来ませんでした。 好きな女優さんであるアン・ハサウェイがヒロイン役ですし、アクションシーンなども結構しっかり描かれていたと思うのですが、熱中する場面も無く、気が付けばエンドロールになっていたという印象ですね。 自分にとっては善玉の印象が強いドウェイン・ジョンソンが実は悪役であったという展開なども、意外性があって良かったはずなのに、何故か興奮を誘われない。 その理由として、一つ印象に残っているのは、飛行機内にて手枷を掛けられた主人公が悪戦苦闘する場面。 スパイらしく、小型のクロスボウで狙いを定め、手枷を破壊しようとするも、見事に失敗。 自らの足に矢が突き刺さってしまい、悶える事になる……というギャグがあるのですが、これ、一回目はクスっと笑えたのです。 ところが二回も三回も失敗して矢が刺さるのを繰り返されてしまうものだから(もういいよ……)と、少々飽きてしまったのですよね。 で、ようやく最後に成功するのかと思ったら、間違えてボタンを押してしまって床が開き、そのまま主人公が地上に向かって真っ逆さま、という顛末だったのです。 この「肩透かし」っぷりがシュールで面白い、という人もいるのでしょうが、自分としては(どうも、この映画とは相性が悪いな)と思えてしまい、以降は少し距離を置いて観賞していたような気がします。 書類仕事は優秀であっても、実務においてはドジな主人公。 そんな彼が、有能な相棒の助けと幸運とで事態を乗り切っていくだけなく、終盤にて「やれば出来る男」と実力を証明してみせるストーリーラインなどは、とても好み。 最後も安心のハッピーエンドで、何故この映画を楽しむ事が出来なかったのか、自分でも納得出来ないくらいですね。 面白いはずなのに面白くないという、不思議な感覚。 映画と自分との「ズレっぷり」が残念に感じられる一品でした。 [DVD(吹替)] 5点(2016-05-20 06:54:56)(良:1票) |
206. 人類SOS!
《ネタバレ》 「病院で目覚めたら、世界が破滅していた」 「自分以外の人々が盲目になっている世界」 という要素を抜き出すだけでも、後世に与えた影響の大きさが窺い知れる一本。 勿論、原作小説ありきの発想なのですが「人がいなくなり、乗り捨てられた車だけが残る街を彷徨う主人公」という視覚的なイメージなどは、映画という媒体だからこそ生み出せた代物だと思います。 こういった「元ネタ映画」というものは、それだけでも功績があるというか、高得点を付けたくなるものなのですが……正直、映画として面白かったかといえば微妙でしたね。 1960年代の映画という事もあってか、現代の目線だと「飛行機が墜落する場面」「トリフィドの毒を受けて顔が緑色になる場面」の特撮も稚拙だし、演出も全体的に緩慢なんです。 例えば、最初にトリフィドが動き出し、人を襲う場面なんかも、時間を掛け過ぎるせいで(もう植物が動くのは分かったよ……)(どうせこの人が襲われるんだろう? 早くしてくれ)って感じに、焦れてしまう。 主人公達が車に乗って、迫りくるトリフィドから逃げようとする場面もキツかったですね。 車輪が窪みに嵌って空回りし、ピンチのはずなのに、登場人物が妙に落ち着いているせいで、全然緊迫感が無い。 当時の観客なら、そんな演出の数々も自然と受け入れられたのかも知れませんが、自分としては戸惑いが大きかったです。 その一方で 「目の見えなくなった男が(恐らくは利用する為に)目が見える女の子を誘拐しようとする」 「元から目が見えなかった女性が、新たに盲目となった人に歩き方を教えてみせる」 といった感じに「もしも、世界中の人々が盲目になったら……」という思考実験の答えを示すようなシーンも数々盛り込まれており、こちらは中々興味深く、面白かったです。 (植物が相手なら燃やして倒すんだろうな……)という観客の期待に応えるように、クライマックスでは主人公が火炎放射器を持ち出し、トリフィドの大群を燃やしてみせる辺りも嬉しい。 トリフィドの弱点が「(地球に幾らでもある)海水」という意外性も、良かったと思います。 ……ただ、最後のナレーションにて「トリフィドの弱点が分かったお蔭で、人類は救われた」というオチが付くのは、ちょっと無理がある気がしましたね。 作中で文明が崩壊したのは「トリフィド」ではなく「失明」が原因なのだから、トリフィドの撃退法が判明したとしても、そこまで大きな意味は無いはずなんです。 どうしても「人類が救われるハッピーエンド」に仕上げたかったなら「トリフィドの撃退法」なんかより「失明を治す方法」を明らかにすべきだったんじゃないでしょうか。 そもそも本作は「病院で目覚め、女の子と一緒に文明崩壊後の世界を彷徨う主人公」以外にも「灯台で暮らしている夫婦」という別個の軸が用意されており、しかもそれら二つが交わる事無く映画が完結を迎えるという、トンデモない構成になっているのですよね。 これは明らかにマズいと思うし、自分のように(何時この二組が合流するんだろう?)と考えていた観客には、物凄い肩透かし感を与える形になっています。 聞くところによると「灯台関連のシーンは、試写会での不評を受けて無理矢理ハッピーエンドにする為に付け足したもの」らしいのですが、真相や如何に。 自分としては、追加された灯台絡みの話は全部カットして「主人公達が火炎放射器でトリフィドの猛攻を凌ぎ、何とか逃げ出すのに成功して、明日に希望を見出そうとする話」で纏めてくれた方が、好みだったように思えますね。 そうしていたら、胸を張って「古き良き映画」「これぞ隠れた傑作」と褒める事が出来た気がします。 [DVD(字幕)] 5点(2017-10-02 13:33:20)(良:1票) |
207. コンプライアンス 服従の心理
《ネタバレ》 これ、とんでもない話ですね。 実話ネタという予備知識が無い状態で観ていたら、流石に呆れて「リアリティに欠ける」とツッコミを入れちゃっていた気がします。 この手の「異常な状況下における人間心理」を描いた映画は過去にもありましたが、舞台となるのが大学やら疑似刑務所やらではなく、身近な場所であるファーストフード店であるという点も面白い。 それゆえに、被害者である店員達が等身大に感じられるし、日常の中で起こった事件の異常性も、より際立ったように思えます。 恐らくは映画オリジナルの要素として、冒頭部分に ・「従業員を、ちゃんと教育していない事」を責められる女性店長 ・「今クビにされると凄く困る」と同僚に話す被害者女性 ・両者には「婚期を逃した年増女」と「恋人が複数いる若い女」という溝がある という伏線を張ってあるのも上手い。 ただでさえ現実味の無い事件なのだから、そういった細かい部分で少しでも物語に説得力を持たせようという、作り手の心配りが感じられました。 被害者だけでなく、悪戯電話を行う犯人側の描写も、これまた丁寧で、いやらしいんですよね。 「全ての責任を負う」「出来れば穏便に済ませたい」という台詞を、如何にも頼もし気に口にしたり、かと思えば「君なら警察官になれるよ」「店長の鑑だな」と煽てたりして、被害者達を巧みに操ってみせている。 特に呆れたのが「誰がこんな事、好きでやるか。そんな奴どこにもいない」と、好きでやっている犯人自身が言い放つシーン。 とびきり皮肉が効いている演出であり(本当に酷い奴だなぁ……)と思わされました。 観客としては、そんな犯人が早く捕まってくれるのを望む訳ですが、中々そうは行かず、ついに「性行為の強要」という決定的な犯罪が行われ、気分がドン底に落ち込んだところで、颯爽と「冷静な第三者」であるハロルドが現れ、場の空気を一変させてくれる流れも良いですね。 揺れ幅の大きさが快感になるというか、本当に安堵させられるものがあり「おい、あの男の命令はおかしいぞ」とハロルドが言い出した時には、もう拍手喝采したい気分になりました。 その後「犯人には幼い娘がいて、家庭では良き父親である」「今回だけでなく、同様の事件が他の州でも起きていた」「犯人はセキュリティ関係の仕事をしている人間だった」と、衝撃の事実を次々に明かしていく訳ですが、ここであまり時間を掛け過ぎず「ようやく犯人から解放された」という安堵感の余韻を残したまま、最短時間で終わらせる構成も見事。 欲を言えば「果たして店長は加害者だったのか? それとも被害者だったのか?」という問題提起だけでなく、犯人に決定的な厳罰が下される場面も欲しかったところですが、そこは実話ネタの悲しさ。 逮捕を匂わせるシーンだけで終わっており、勧善懲悪のカタルシスを得られなかったのが、唯一残念でしたね。 同事件を元ネタにした作品としては「LAW&ORDER:性犯罪特捜班」というドラマの第二百話「権力と羊」が存在し、そちらでも犯人が曖昧な最期を迎えたりするので、実にもどかしい。 せめてフィクションの世界では、スッキリと事件解決させて欲しかったものです。 [DVD(吹替)] 7点(2018-03-01 08:33:59)(良:1票) |
208. ジョーズ3
《ネタバレ》 サメの造形については、前二作よりも明らかにレベルアップしています。 それに伴い、ストーリーの方も進化している……と言いたいところなのですが、ちょっと厳しかったですね。 主人公はブロディ署長の長男マイクであり、可愛い恋人もいたりして、前二作を観賞済みの身としては「立派な大人になったねぇ」と、ほのぼのさせられるのですが、正直マイクである必然性は薄かったように思えます。 父親からサメ退治のコツを教わっているとか、前作で負ったトラウマを今回乗り越える事になるとか、そういう要素が無いんですよね。 弟のショーンも登場するのですが、兄弟らしく絡んだのなんて最初の二十分程であり、以降は全く出番無しというのだから「何の為に出てきたの?」と呆れちゃいます。 水中にある遊園地がサメに襲撃され、客達が園内に閉じ込められてしまうというプロットは、決して悪くなかったと思うんですけどね。 いざ観てみると、どうもバランスが悪いというか、展開がチグハグに思えて「う~む」と首を傾げてしまう感じ。 例えば、中盤にてシー・ワールドに客が訪れるシーンでの、楽し気な雰囲気なんかは良かったと思うんです。 でも、事前にサメとの対決(=生け捕り)が描かれた後なので、その落差で今一つ楽しめないし、どうせ再びサメに襲われるのは分かっているんだから、どうしても「中弛み」に感じられてしまう。 ベタな考えかも知れませんが、こういった「楽しい遊園地」という日常的なシーンは、やはり序盤で描いておくべきだったのではないでしょうか。 そして、中盤にサメの襲来によって日常が崩壊し、後はクライマックスまで一直線……という作りにした方が、良かったのではないかと。 それと、これは恐らくサメの模型を素早く動かす事が出来なかったという技術上の問題なのでしょうが、とにかく襲撃シーンのテンポが悪いんです。 水中のガラス越しにサメが体当たりを行い、中の人々が悲鳴を上げるという、本作最大の見せ場においても「サメの動きが遅いので、仕方なくスローモーション演出にしました」という感じがして、観ていて興醒め。 その後、五分程でサメを爆殺して終わりを迎えるというのも、こちらは逆に早過ぎるというか、アッサリ倒し過ぎに思えちゃいましたね。 緩急のある演出と褒める事も出来そうですが、自分としては戸惑いが大きかったです。 そんな本作で癒しとなるのは、イルカのサンディとシンディの存在。 ただ単に可愛らしいというだけでなく、サメに体当たりして主人公達を助けたりと、しっかり活躍してくれるのが良かったですね。 主人公とヒロインは生き残るも、イルカ達は死んでしまったかと思われたところで、水中から飛び跳ね、元気な姿を見せてくれて、ハッピーエンドに華を添える形になっているのも嬉しい。 本作のMVPには、このイルカ達を選びたいところです。 [DVD(字幕)] 4点(2017-08-03 20:28:02)(良:1票) |
209. プロジェクトA2/史上最大の標的
《ネタバレ》 世の中には「単品として考えれば悪くないけど、あの○○の続編と考えると物足りない」って映画が沢山あるんですが、本作もその一つと言えそうですね。 何せ本作ってば、冒頭にて前作「プロジェクトA」の名場面を流しており、そっちの方が本編より面白かったりするんです。 これはもう、実に残酷。 冒頭にはサモ・ハンも、ユン・ピョウもいて画面が華やかなのに、いざ本編がスタートしたら彼らは出てこないんだから、落胆するなという方が無理な話です。 そんな「続編ならではの欠点」が、劇中で散見される形になってるのも辛いですね。 例えば「敵のアジトに乗り込み、多勢に無勢で負けちゃったドラゴンを沿岸警備隊が助けに来てくれる場面」なんかも、それ単体で考えれば悪くないんだけど…… 前作では敵のアジトで大暴れし、ドラゴンが一人で犯人を捕まえた流れがあっただけに(あれ? 今度は負けちゃったの?)って、拍子抜けしちゃうんです。 前作で良い味を出してた「大口」が続けて登場しているんだけど、サッパリ目立たなくて活躍しないというのも、寂しい限り。 自分は前作の感想にて「終盤で、唐突に大口が準主役級の扱いになるのは不自然」と指摘しているのだから、徹底して脇役な本作の方が、自然といえば自然なんだけど…… やはり、責任を取って欲しいというか、一度は活躍させて観客に愛着を持たせた以上、最後まで愛されるように、大事に扱って欲しかったです。 それと、前作でハロルド・ロイドの「要心無用」(1923年)をパロってみせたように、本作ではバスター・キートンの「蒸気船」(1928年)をパロっている訳だけど、それも成功してるとは言い難いんですよね。 前作では「時計の針にしがみつくだけでなく、そこから落下してみせる」という形で、元ネタを越えるほどの迫力を出していたのに、本作では元ネタと殆ど同じで「看板が倒れてくるけど、丁度枠の部分にジャッキーが収まる形になって助かった」というだけなんです。 しかも元ネタの「蒸気船」では、キートンは立ったまま位置を動いておらず、それゆえに「たまたま窓枠の中に収まって助かった」という可笑しみが生まれているんだけど、本作のジャッキーは看板が倒れてくる際に、咄嗟に位置をズラして大丈夫なよう調整しちゃっている訳で、これは如何にも拙い。 どうせ動くなら、バレないように微かに動く形ではなく、もっとダイナミックに動いて「動かないキートンと、動くジャッキー」という形で、元ネタとは違った面白さを打ち出すべきだったと思います。 あるいは、劇中で「神様、感謝」と言っている「神様」とは、喜劇の神様であるバスター・キートンの事を指しており「ドラゴンは『蒸気船』を観ていたお陰で、咄嗟に位置調整してキートンのように助かる事が出来た」って展開なのかとも思えるんですが…… 劇中の時代設定は「蒸気船」が公開される前のはずなので、この解釈は無理があるんですね。残念。 何だか不満点ばかり長々と述べちゃいましたが、良かった点も挙げておくなら…… ・前作より「刑事物」としての純度は高まっており、署長に就任した主人公が腐敗した警察署を改革していく流れは、中々痛快。 ・「レバーペースト」の機械に囚われた主人公が脱出する件は、記憶に残るだけのインパクトが有る。 ・サン親分の仇を取ろうとしてた海賊達が、主人公に助けられ和解するオチは、人情譚としての魅力があって良い。 ・刑事物と歴史物とキートンが大好きなジャッキーが、それらの要素を盛りに盛った「オタク映画」と考えれば、何だか微笑ましい。 と、そのくらいになるでしょうか。 あと、これは良かった部分なのか、それとも悪かった部分なのかと判断に迷う要素もあって、それが「悪役であるチンの存在」と「時代劇らしく辛亥革命を絡めている事」ですね。 前者に関しては、ドラゴンと手錠で繋がれ一緒に逃げる場面などから(あれ? もしかして二人が和解するオチ?)と思われたのに、結局は単なる悪役のまま終わったのがスッキリしないし、後者に関しても、映画の中で活かしきれていなかった気がします。 この辺り「手錠での逃走シーンがあるからこそ、悪役にも愛嬌が生まれた」「主人公が安易に革命に加担せず、警察官として人々を守る道を選ぶ場面は良かった」って具合に、褒める事も出来そうなので、判断が難しい。 本作は試写会で流れたバージョンと、今観る事が出来る完成版とでは中盤の展開が異なっており、試写会バージョンでは「チンの悪辣さ」「革命軍の出番」が増す形になっているようなので…… そちらを観る事が叶ったなら、また印象も変わってくるかも知れません。 [DVD(吹替)] 6点(2023-10-11 09:44:43)(良:1票) |
210. セットアップ
《ネタバレ》 ラブコメってジャンルは、とかく「お約束」な魅力を求められるものです。 本作に関してもそれは例外じゃないとばかりに、全編に亘って「お約束」な展開が続いていく訳ですが…… 最後に「主人公とヒロインが結ばれる」って「お約束」を達成し、そこでスパっと終わっちゃうという潔さが、物足りなく思えちゃいましたね。 この流れなら「ついでに喧嘩してた上司カップルも復縁する」っていう「お約束」な後日談も付け足すべきだと思うんだけど、それが無い。 これにはもう、本当ガッカリです。 ラブコメ映画に求めていた「お約束」が与えられず終わった場合、こんなにも物足りない気持ちになるのかって、吃驚しちゃったくらい。 そんな訳で、自分にとっては「ラストが微妙」という、明確な欠点がある映画なんだけど…… 途中までは本当に良く出来てるんですよね、これ。 特に序盤の、主人公二人の出会い方が秀逸。 夜中の「ピクルスの奪い合い」だけで(この二人はお似合いだ)(結ばれて欲しいな)って思わせるような魅力があったんだから、お見事です。 「球場でのキスカムでキスさせる作戦」「避難梯子で運んだピザ」のエピソードも良かったし、上司カップルだけでなく、主人公カップルの魅力も、しっかり描けてたと思いますね。 あえて言うなら、男側のチャーリーは「自分より立場が弱いインターンには横暴に接する」などの場面があり、あんまり良い奴とは思えなかったんですが…… それに関しては終盤にて「キミに釣り合う為に俺は変わろうとしてる」「頑張るよ」と伝える場面に自然に繋がってるし、全体の流れを考えれば、良い奴にし過ぎないバランスが正解だったんでしょうね。 ヒロインとなるハーパーの眼鏡姿もキュートであり「店でチップスをタダ食い」などの迷惑行為をしていても、どうにも憎めない。 これまで色んなラブコメ映画を観てきましたが、可愛さって意味においては、本作のハーパーは相当上位に食い込むと思います。 こうして振り返ってみると、本当に「好きな場面」の多い映画だなって、しみじみ感じちゃいますね。 これでラストさえ綺麗に終わってくれてたら「好きな映画」と、全体を指して言えたはずなのに、本当に惜しい。 キスする主人公達を見守る上司カップルが、お互い気まずそうに視線を交わし、復縁を予感させる…… そんな数秒間がラストに追加されていたらなと、恨めしく思えてしまう一本でした。 [インターネット(吹替)] 6点(2022-07-06 19:49:17)(良:1票) |
211. パーマネント・レコード
《ネタバレ》 主人公かと思われた登場人物が、映画が始まって三十分程で、自ら命を絶ってしまう。 それでも、そこに驚きは無く(あぁ、やっぱり……)という思いに繋がるのだから、如何に丁寧に「死に至る心境」を描いていたのかが分かりますね。 学園の優等生で、人気者であり、恋人も、親友もいるはずなのに、何故か孤独を漂わせているデビット。 幼い弟に対し、自分と入れ替わらないかと提案するシーンなんて、特に印象深い。 「楽しいぜ、みんなのアイドルさ」「僕の方は一日中、眠れる」 という台詞からは、彼が感じている重圧と、そこから解放される事を願う気持ちが、痛い程に伝わってきました。 そんな彼の親友であり、映画後半の主人公となるのは、若き日のキアヌ・リーヴス演じるクリス。 親友のデビットが残した遺書代わりの手紙を目にし、衝撃を受ける姿が、何とも痛ましい。 「すべてを完璧にしたかった」「だめだった」 という短い文面を読み上げ、その深い絶望を感じ取って、思わず嘔吐する。 そんな場面を目にすると、映画前半での「デビットに同情する気持ち」も、瞬く間に吹き飛んでしまいますね。 自殺という行いが、如何に残された者達を傷付けるかについて、改めて考えさせられました。 そんな具合に、色々と心に響いてくる内容だったのですが、映画としては、クライマックスの演奏シーンで盛り上がれず、淡々とした流れで終わってしまったように思えて、少々残念。 デビットの遺作である曲を、クリス達がバンド演奏する事を期待していたのに、ヒロインの独唱という形になったのが、どうにも肩透かしだったのですよね。 そこはやっぱり、手紙と楽譜を受け取ったクリス自身に演奏して欲しかったなぁ……と思ってしまいました。 一夜明けての、ラストシーン。 デビットの転落死を経て、崖に設置された金網は、さながら彼の墓標のようでしたね。 そんな金網に手を添えて、寂し気な姿を見せていたクリスが、呼び掛ける声に振り向き、名残惜し気に金網を見つめながらも、仲間の許へ歩いていくエンディングは、とても好み。 悲しみを抱えながらも、それに囚われる事は良しとせず、生きる事を選んでみせるという、前向きなメッセージが伝わってきました。 自殺というデリケートな問題を扱いながらも、決してそれを肯定せず、勇気を持って否定してみせた一作だと思います。 [ビデオ(字幕)] 6点(2016-08-24 09:26:05)(良:1票) |
212. 幸せがおカネで買えるワケ
《ネタバレ》 「ユニークで愉快な宣伝家族」を描いた品かと思いきや、死者まで発生する陰鬱な展開に吃驚。 とはいえ、急転直下に作品の空気が変わる訳ではなく、少しずつ悲劇を予兆させるのが上手かったもので、違和感は無かったですね。 序盤にて (この家族、なんか変だぞ?) と観客に思わせる描写も丁寧であり、すっかり映画の中に惹き込まれちゃいました。 「偽りの家族の中で、主人公のスティーヴだけは本当の家族になりたがっている」という設定も絶妙であり、自分としては大いに感情移入。 チームが崩壊しかけた時「家族に問題は付き物さ」と場を繕おうとするも「家族じゃないわよ」と、妻役のケイトに素っ気なくされる場面なんか、凄く切なかったですね。 単純に「ケイトを愛しているから、本当の夫婦になりたい」というだけでなく「皆で本当の家族になりたい」と願っているのが、絶妙なバランスだったと思います。 それだけに、好成績を認められて他のチームと組むよう上司に命じられても、それを拒否して「今の家族と一緒に頑張る事」を選ぶ場面が、凄く痛快。 スティーヴとケイトが、失恋した娘を慰め「家に帰ろう」と促す場面も (偽物なんかじゃなくて、立派な家族じゃないか……) と思えて好きです。 終盤にて、隣人のラリーが自殺する場面もショッキングだったし、そこからスティーヴが「ご近所さん」に真相を告げる流れも、不思議なカタルシスがあって良かったんですが…… そこが最高潮で、その後に失速しちゃったというか、ラストの纏め方が強引だったのが残念ですね。 「スティーヴとケイトが結ばれ、前々から話してたアリゾナ行きを実現させる」って形なので、この二人にとってはハッピーエンドなんだけど (……で、息子と娘は置いてくの?) って事が気になっちゃうんです。 息子と「父子のような抱擁を交わして」別れる場面は良かったんですが、その分だけ (娘とはロクに会話もしてないけど、寂しくないのか) って疑問も湧いてくる。 他にも「同性愛者な息子の恋人ナオミ」についても放ったらかしで終わってるし、どうも風呂敷の畳み方が拙かった気がします。 エンドロールにて「まだまだ他にも宣伝家族は沢山いる」って示すのも、後味が悪くなっただけなんじゃないかと。 個人的には「夫婦」ではなく、四人揃って「家族」としてハッピーエンドを迎えて欲しかったですね。 総評としては「隠れた良作」って感じで、充分楽しめたんですが…… 一抹の寂しさが残ってしまう映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2021-03-25 08:17:04)(良:1票) |
213. コンゴ
《ネタバレ》 こういった冒険物は好きなジャンルなので、楽しく観賞する事が出来ました。 なんといってもマスコット……いやさヒロインとさえ呼べそうなエイミーの存在が魅力的でしたね。 手話をするゴリラというだけでなく、特殊な機械の音声によって、人間の言葉を話せるようになっているという設定が、可愛さに拍車を掛けています。 飼い主の男性に甘えて、抱っこされたり、くすぐったりされるのが好きな性格。 そして、彼に人間の女性が近付いたら、すぐにヤキモチを妬いちゃうような辺りも、何とも愛らしい。 人間の言葉を憶えてしまったがゆえに、同じゴリラからは忌避されてしまった際に浮かべる表情なども、切なさを感じられて良かったです。 欠点としては、そんなエイミーとの別れのシーンが、やや唐突に思えてしまった事。 そして、敵となる「番人」達が小柄なゆえか、恐怖感や緊迫感が伝わってこなかった事が挙げられそう。 また、本作は「エイミーを故郷のコンゴに帰してあげる」のを目的とした男性の他にも「現地で遭難した元恋人の男性を救出する事」を目的とした女性主人公も存在しているのですが、そちらには感情移入出来なかった点も残念。 何せ彼女の上司が、絵に描いたように嫌な奴であり、実の息子の安否よりも「レーザー兵器の材料となる特殊なダイヤモンド」の入手を優先する性格だったりするもんだから、作中で彼女のモチベーションが上がらないのと同じように、観ているこちらとしても、応援する気持ちが薄れちゃうんですよね。 本来の目的である「元恋人の救出」に関しても、冒頭の映像で死んだ事が示唆されており、案の定、終盤にて死体を発見する展開なので「あぁ、やっぱり……」としか思えない。 それらの要素は「最後の最後で、上司の命令を無視する爽快感を与える為」「実は死んでいたという落胆を与えない為」なのでしょうけど、やはりスッキリしないものが残りました。 飛行機からパラシュートを付けてダイブしたり、急流の河をボートで下ったり、キャンプしてテントで眠ったり、登山したりと「冒険旅行」のツボを押さえた作りであった事は、素直に嬉しかったですね。 月夜にボートを漕ぐシーンなんかも、幻想的な美しさを味わえて、お気に入り。 命の危機が感じられない作りである事に関しても、裏を返せば「安心して、驚いたり緊張したりせずに楽しめる」という長所に成り得るんじゃないか、とも思えてくる。 そんな憎めない一品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2016-07-31 07:57:44)(良:1票) |
214. 名探偵登場
こういったコメディ映画は、元ネタに対する愛情があってこそだと思っていた自分にとって、むしろ元ネタのミステリー小説群を否定するような内容であった事は、非常に驚きでした。 ラストの主張に全く説得力が無かった、とは言いません。 けれど、そこにはユーモアという以上に悪意を感じてしまって、とても賛同する気持ちにはなれませんでした。 ピーター・フォークが出演している事もあり、観賞前は期待していただけに、それを裏切られたという思いもあります。 豪華な出演者陣は、ただ画面を見ているだけでも楽しい気分にさせられるし、作中のギャグシーンで笑いを誘うものがあったのも確か。 そういった「好き」な部分も簡単に見つけられるだけに、残念な気持ちになる映画でした。 [DVD(字幕)] 3点(2016-04-08 11:45:52)(良:1票) |
215. 空飛ぶペンギン
《ネタバレ》 家族の絆が再生する様を描いた映画なんだけど、そのキッカケとなるのが「ペンギン」っていうのが珍しいですね。 主人公は離婚した身であり、今は別居中な子供達の気を引く為にペットのペンギンを飼う流れとなるのですが、そんな「子供達と上手くやる為の道具」に過ぎなかったはずのペンギンに対し、愛着を抱くようになる流れも、ちゃんと描かれている。 高級な家具に囲まれていた部屋を、ペンギン達の為に雪まみれにする流れは微笑ましいものがあったし、公園でペンギンや息子達と一緒にサッカーして盛り上がる場面なんかも良かったです。 邦題の通り「空飛ぶペンギン」という、ビジュアル的に派手な見せ場も用意されているし「餌の魚ではなく、主人公を選ぶペンギン達」という場面によって、息子達だけでなく、ペンギン達も主人公の家族になったんだと示して終わる辺りも、上手かったと思います。 そういった「ファミリー映画」「動物映画」としての魅力を感じさせる場面がしっかり用意されてあった点は、文句無しで素晴らしかったです。 ただ、この映画は色々と気になる点も多かったりして…… 一概に傑作とは言えない出来であったのが、非常に残念ですね。 基本的には好きな作風の品なので、それらの点も「愛嬌の内」と捉えたいところなんですが、ちょっと気になる点が多過ぎて、許容量をオーバーしてしまった気がします。 まず、根本的な話になってしまうんですが、ペンギン達を可愛いとは思えなかったりしたんですよね。 アップになると顔も怖いし、鳴き声だって、耳に心地良い響きとは言えない。 おまけに糞をするシーンをギャグとして何度も描いたりするもんだから、これには正直ゲンナリです。 ペンギンが主軸となる映画において、その可愛さを殆ど感じられなかったっていうのは、致命的なマイナスポイントでした。 主人公の部屋から聞こえる鳴き声や足音に迷惑している隣人に、元嫁の現恋人である男性など、主人公にとって都合の悪い存在の影がやたら薄いし、悪人っぽく描かれている点なども、何だか偏っている気がして、観ていて居心地が悪くなりましたね。 白頭鷲はアメリカの象徴であり、主人公の父親のニックネームも白頭鷲であるとか「アメリカは勝負に勝った者を逮捕するような国じゃない」って台詞だとか、やたらアメリカって国を意識した作りなのも、どうもノリ切れない。 こういうファミリー映画兼動物映画にまで、そういう愛国心みたいものを持ち込んで欲しくないなって、つい思っちゃいました。 で、最後に、これは短所ではなく長所に分類される事だと思いますが…… 実は本作において一番キュートに感じられたのが、子供達でもペンギン達でもなく、脇役である「パ行が好きな秘書」のピッピだったりもしたんですよね。 単純に女優さんのルックスも愛らしいし、パ行の言葉ばかり好んで用いるというギャグキャラなのに、秘書としては意外と有能っていうアンバランスさも、非常に魅力的だったと思います。 彼女にスポットを当てた続編なり外伝なりが存在するのであれば、是非観てみたいものです。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2019-03-22 21:54:44)(良:1票) |
216. ブリジット・ジョーンズの日記
《ネタバレ》 この映画に関しては、元ネタである「高慢と偏見」を知っているかどうかで評価が分かれそうな感じですね。 それというのも、文学少女の憧れである「ダーシー様」を1995年のドラマ版で演じたコリン・ファースが「マーク・ダーシー」役を演じている訳だから、本作のブリジットは彼と結ばれるって事がバレバレなんです。 一応、ストーリーラインとしては「マークとダニエル、どちらと結ばれるのか分からない三角関係」って形になっているので、これはかなり致命的なネタバレ。 作り手側としては、もう配役の時点で開き直り、最初から「三角関係」要素を薄めて「ブリジットとマークが紆余曲折を経て結ばれるラブコメ」として仕上げているんでしょうけど……それでも消しきれない「三角関係」要素が、重荷になってる気がしましたね。 ダニエル役にヒュー・グランドが起用されているのも「豪華」というよりは「準主役でもないのに、勿体無い」と思えちゃいました。 そんな訳で、自分としては「悪い意味で結末が分かり切ってる映画」という、大きなハンデを背負った上での鑑賞だったのですが…… それでもしっかり楽しめた辺りは、流石という感じ。 本作が2000年代を代表するラブコメというだけでなく「ブリジット・ジョーンズは2000年代と寝た女」と思えちゃうくらい、彼女が魅力的に描かれていたんですよね。 ちゃんと仕事は頑張ってるから「彼氏がいないのを嘆いて、自堕落な休日を過ごしてる姿」も微笑ましく思えたし「ぽっちゃりとした女性の色気」が、視覚的に描かれていた辺りも良い。 特にカメラに向かってブリジットの巨尻が落ちてくる場面なんて、ギャグタッチにも拘らず昂奮しちゃったくらい。 メールでは強気な態度を取れるけど、いざ相手と目が合ったら愛想笑いしちゃうとか、そんなところも憎めない。 そんな彼女を愛でる「萌え映画」として考えれば、本作は満点に近い出来栄えだったと思います。 「人生やり直せるなら、今度は子供を作ったりしない」と母に言われる場面では鼻白んだとか、ブリジットの友人達の存在意義が薄いとか、不満点も色々あるんだけど、まぁ御愛嬌。 どちらかというと、終わり方がアッサリし過ぎていたのが気になりましたね。 これは欠点というよりは「マークと上手くいきそうになって、これから面白くなりそうだってところで終わるのが残念」っていう類の不満点です。 結果的に三部作になったので、この不満も続編で解消される訳だけど、本作単体で考える分には、どうしても「物足りない終わり方」って評価になっちゃうと思います。 後は……上司にカッコいい啖呵を切って辞職する場面が痛快だったとか、頑張って新しい自分に変わろうとするブリジットに「ありのままのキミが好き」とマークが言ってくれる場面にはグッと来たとか、そのくらいかな? こういったシリーズ物の場合、初代が一番面白くて続編は蛇足ってパターンも多い訳ですが…… 本作に関しては、続編の方が面白いんじゃないかと思えましたね。 興味がおありの方は、是非チェックして欲しいです。 [DVD(吹替)] 6点(2020-11-11 10:02:42)(良:1票) |
217. ファニーゲーム
《ネタバレ》 これは観客を不愉快にさせる為の映画なのでしょうか。 不愉快になる理由としては、劇中で行われた暴力や理不尽さに対する怒りが必要になってくると思います。 でも正直、不愉快というよりは退屈に感じましたし、怒るというよりは呆れるという感情に近い。 それが決定的になるのは「仲間を殺されてしまった犯人が、リモコンの巻き戻しボタンで時間を逆行させて、仲間の死を回避してしまう」という場面。 これはもう、完全に興醒めです。 不幸を回避する為に時間を逆行させる展開は珍しくもないけど、これほど唐突なパターンは記憶にありません。 (現実に行われている暴力の理不尽さを描こうとしているのかな?) (暴力を娯楽として描く映画に対するアンチテーゼなのかな?) などと、色々考えながら観賞していたのですが、この映画に匹敵するほどの理不尽さは現実世界や他の映画では見受けられないと思います。 よって、現実世界に対する警鐘とも他の映画に対するパロディとも感じられません。 恐らくは「ある戦慄」(1967年)が元ネタなのだろうな、と思えますが、あちらに存在したラストシーンのカタルシスや、背筋が寒くなるほどの恐怖や嫌悪感すらも無し。 致命的なのは、やはり「巻き戻し」によって、一度映画で描かれたものを自ら否定する形になってしまった事ではないでしょうか。 この映画はラストにて、新たな獲物を見つけた悪党二人組が再びゲームを始めようとする場面で終わるのですが、それに対しても恐怖とか、次なる展開への興味とかいったものを抱けないのです。 極端な話、ゲームに飽きた二人が巻き戻しボタンを押してしまえば、犠牲者も全て元の状態に戻る事になる。 犯した罪も全て「無かった」事に出来るじゃないか、と考えれば、彼らが何をやっても、映画の中で何が起ころうと、興味を持てなくなってしまいます。 この映画に対する不快感だって、劇中で巻き戻しボタンを押されたら否定されてしまう、意味の無い物としか思えません。 監督さんは才能のある人なのだろうし、波長が合えば楽しめる映画なのだろうな、とも感じました。 けれど「劇中で描かれた全てを無価値にしてしまった映画」という意味において、これほど「0点」が相応しい品は他に無いように思えます。 [DVD(字幕)] 0点(2016-04-08 08:04:29)(良:1票) |
218. オープン・ウォーター2
《ネタバレ》 しっかりと作られた娯楽映画ですね。 前作に比べると、死の恐怖や絶望感などは薄れているかも知れませんが、その代わり展開に起伏があるし、無事に船に上がる事が出来たシーンではカタルシスを味わえるしで、自分としては、本作の方が好み。 最後ちょっとボカす感じになっているのが気になりますが、一応ヒロインも元彼氏のダンも生還し、ハッピーエンドに近い形なのも良かったと思います。 難点を挙げるとすれば、登場人物の言動にツッコミ所が多く(おいおい、何でそんな事を……)と戸惑う場面が存在する事ですね。 特に、携帯電話を投げ捨てる件なんかは衝撃的で(いやいや、流石に無理あるだろ)と思っちゃいました。 極限状況で頭が回らなかったんでしょうけど、あそこは、もう少し何とかして欲しかったかも。 逆に、良い意味で印象深いのは、梯子を下ろさぬまま海に飛び込む場面。 思わせぶりにスローモーションになっていて「あぁ、やっちゃった……」感が、ひしひしと伝わって来るんです。 あそこで飛び込みさえしなければ、何事も無く楽しい船旅で終わっていたはずだし、何ともやり切れない。 イルカの浮袋や、風に靡く旗、水着を結んで作ったロープなど、様々なアイテムを駆使して、色んな脱出法を次から次に試してくれるのも面白かったですね。 中には(おぉ、その手があったか……)と驚くものもあり、そのアイディアの豊富さには、素直に感心。 自分としては(船体に隙間があるんだから、そこにナイフを突き刺し、誰かが支えて足場にすれば良いのでは?)と思っていたもので、解決策がそれに近い形だったのも嬉しかったです。 もう一つ、本作の巧い点は「赤ん坊が船内に取り残されている」という状況設定にしている事。 「馬鹿な事をしてしまった若者達が、何とか助かろうと足掻く話」で終わらせず「我が子を救おうとする母親の話」という側面も備えている為、自然とヒロインを応援出来るんですよね。 過去の水難事故や、トラウマの克服などもドラマ性を高める効果があるし、何よりもそれによって「ヒロインだけが救命胴衣を装備している」という状況を作り出し、グループの中でもヒロインの判別を容易にして、感情移入させやすくしている辺りも、お見事でした。 仲間割れにより死傷者も出してしまったけど、最終的には、やはり「大切な友達同士」であったと感じさせる終盤の展開も、良かったですね。 「このまま死ぬのを待つなんて嫌。岸を目指して泳いでみる」と言い出し、ヒロインとハグをして別れたローレンの件なんかは、中々感動的。 欲を言えば、ラストで現れた漁船の中に、彼女の姿もあって欲しかったものです。 [DVD(吹替)] 6点(2017-08-16 07:08:46)(良:1票) |
219. テイキング・ライブス
《ネタバレ》 これは困った一品。 イーサン・ホーク演じるコスタの存在意義が「好青年と見せかけて実は犯人」という以外には思い付かないようなキャラクターの為、観ていて早々に犯人に気付いてしまうのですよね。 キーファー・サザーランドという大物を起用し、彼が犯人かと勘違いさせるべくミスリードを行っているのは分かるのですが「それで騙そうとするのは、ちょっと無理があるよ」という感じ。 最後の「実は妊娠していなかった」オチに関しても、事前に医者に告知されるシーンなどがなく、いきなり主人公のお腹が膨らんでいる展開なので、その瞬間からもう「本当に妊娠しているの?」と疑ってしまうんです。 だから、その後に真相が明かされても「あぁ、やっぱり」と嘆息するしかない訳で……本当に困っちゃいます。 そんな具合に、どうにも脚本が肌に合わなかったのですが、それでも何だかんだ退屈せず観られたのは、役者さんの力が大きいのでしょうね。 アンジェリーナ・ジョリーは前半の「出来る女」っぷりと、中盤以降の騙された「弱い女」っぷりの演じ分けが見事でしたし、彼女とイーサン・ホークの演技合戦を眺めているだけでも、何だか得した気分。 演出に関しても「相手を突き飛ばして車に跳ねさせる場面」や「エレベーターの中で犯人が母親の首を捥ぎ取る場面」などは中々ショッキングであり、良かったと思います。 低予算な映画が脚本によって救われて、傑作に仕上がる事がありますが、本作の場合は逆に、脚本の不備を役者さんの力によって補ってみせたというパターンではないかな……と感じられました。 [DVD(吹替)] 5点(2017-04-19 02:05:42)(良:1票) |
220. メイズ・ランナー
《ネタバレ》 三部作を完走した上で、再鑑賞。 2以降の展開に「迷路、関係無いじゃん」とツッコまされた訳ですが、実は1の途中から既に関係無くなってるんですよね、これ。 そもそも主人公のトーマスが「ランナー」になった時には、既に迷路は全体図を把握されており、閉じ込められた皆に希望を持たせる為に、リーダー達が「まだ踏破していない」と他の面々を騙してただけと判明するんだから、もう吃驚です。 若者達が迷路に閉じ込められた理由も、結局は「実験の為」という在来な代物だったし、新薬開発の為に本当にこんな大仕掛けが必要だったのかと、甚だ疑問が残るし…… 正直、あまり褒められた出来栄えの映画ではないと思います。 ただ、原作小説は人気シリーズとの事で、言われてみれば本作って「人気のある原作を映画化した結果、微妙な出来栄えになってしまった」っていう典型のような品なんですよね。 登場人物も、それぞれにファンが生まれていそうな魅力は感じられたのですが、いかんせん映画の尺の中では描写が足りず、中途半端に終わってしまったという印象。 例えば、金髪のニュートなんかは如何にも良い奴っぽくて、これは主人公の相棒になって活躍するんだろうなと思わせる存在感があったのに、目立った活躍なんか全くしないで「仲間その1」っていうポジションのまま終わってしまうんです。 ヒロインのテレサも、典型的な「紅一点が必要だから用意してみました」というだけの存在であり、見せ場なんて皆無。 ニュートにせよテレサにせよ、2以降では役目が与えられているキャラだけに、この1での扱いの悪さは勿体無かったです。 ラストにて、憎まれ役のギャリーが涙ながらに「迷路はオレの家だ、皆の家だ」と訴えても、そんな愛着を抱くに至る経緯が描かれてないから、心に響かないし…… 最年少のチャックの死をクライマックスに据えるなら、事前に主人公とチャックの交流を濃い目に描いておくべきだったと思うしで、やはり全体的に拙いというか、未熟な印象が強いです。 一応、良かった点も挙げておくなら「狭い迷路の中で、化け物に襲われる恐ろしさ」というホラー映画な魅力は、しっかり描けている事。 「迷路の道が閉じるって特性を活かして、化け物を倒す」「手近な位置から順番に仕舞っていく扉に追いつくように走り、窮地を脱する」などの、迷路という舞台設定を活かしたアクションが描かれていた事は、評価に値すると思います。 後は、病に犯され正気を失った仲間を迷路に押し込む件なんかは「蠅の王」的な狂気を感じさせて、中々良かったんじゃないかと。 個人的には、ヒロインのテレサをもっと活かし「男だけの園に女の子が送られてきた事により、奪い合いになる」っていう「アナタハンの女王」的な展開にしても良かったんじゃないかって、初見の際には、そう思えたんですが…… そんな道は選ばず、健全な雰囲気で纏めた辺りも、今となっては長所に感じられますね。 適度な怖さ、適度なエグさを楽しめるという意味では、ティーンズ向け映画として成功してるのかも知れません。 [DVD(吹替)] 5点(2023-11-28 18:42:40)(良:1票) |