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 > かたゆき さんの口コミ一覧
かたゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1884
性別 男性
年齢 48歳
自己紹介 自分なりの評価の基準は、
10・超大好きな作品。完璧。映画として傑作であるばかりでなく、自分の好みと見事に合致している。
9・大好きな作品。完璧に近い完成度。手放しに歴史に残る傑作といっていい。
8・好きな作品。本当に面白い。欠点があるかもしれないが、それも含めて好き。
7・少し好きな作品。普通に面白い。欠点もあるかもしれないが、そんなに気にならない。
6・普通の作品。可も無く不可も無く。最後までストレスなく観られる。面白いけど、心に残るものはあまりない。
5・少しつまらない作品。最後まで観るのにちょっとストレスを感じた。面白い部分も多少はあった。
4・つまらない作品。最後まで観るのが苦痛だった。ほとんど面白いところが感じられなかった。
3・かなりつまらない作品。最後まで観た自分を褒めてあげたい。観終えた後に、怒りのあまりDVDを割りそうになった。
2・超つまらない作品。時間と金を返せ。観終えた後に、怒りのあまり製作者全員を殴りに行きたくなった。
1・絶望的につまらない作品。最低。観終えた後に、怒りを通り越して死にたくなった。
0・死霊の盆踊り。

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【製作年 : 2010年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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1.  ブラック・スワン 《ネタバレ》 
これは凄い作品です。こんなにまで、自分の好みと見事に合致した作品は初めて。クラシックバレエの世界で頂点を目指すある一人の内向的な少女を主人公に、そのとてつもない重圧とストレスのせいで次第に狂気に捉われながら、なにもかもを失ってでもそれでも完璧な演技を追及する彼女の姿は圧巻です(ナタリー・ポートマンの熱演が凄い!)。現実と妄想が渾然一体となった、まるでガラス細工のような彼女の精神世界が加速度的に崩壊していく映像の美しさは見事としか言いようがない。嫉妬と重圧とエロスによって自分の正気の壁を致命的なまでに決壊させ、そして溢れ出した狂気の濁流にとうとう命までをも呑み込まれながら、最期に掴んだ儚くも精巧で完璧な美の世界……。僕がいままで観てきた数ある映画のなかでも、最高に美しいラストだ。哀切な余韻がいつまでも残る傑作と言っていい。
[DVD(字幕)] 10点(2012-05-14 01:48:24)
2.  ブレッドウィナー 《ネタバレ》 
ここは、まだイスラム原理主義政権タリバンが支配するアフガニスタン。女性は常に全身を覆うブルカを着用することが義務付けられ、教育や仕事も禁止、しかも親族の男性が付き添わなければ外出もできないような不自由な生活を強いられていた。そんな中、戦争で片足を失った父と露天商を営む少女パヴァーナは、貧しいながらも慎ましく暮らしていた。だが、ある日突然、父親が些細な理由によりタリバンに逮捕され、そのまま遠く離れた強制収容所へと連行されてしまうのだった。幼い弟や病弱な母のためになんとか生活を立て直そうとするパヴァーナだったが、自分一人では買い物に行くことすらままならない。仕方なく彼女がとった方法。それは、過去に突然居なくなってしまった兄の服を着て、〝男の子〟として外出することだった――。当初は恐る恐る出歩いていたパヴァーナだったが、変装は予想以上にうまくいき、彼女と同じく男装して出歩いていた幼馴染の少女とも出会い、次第に大胆な行動を取ってゆく。だが、そうして手に入れたパヴァーナの自由な日々も戦乱の予感に搔き消されていく……。2000年代、アメリカ侵攻直前の政情不安に揺れるアフガニスタンを舞台に、過酷な運命に翻弄される少女をファンタスティックな映像とともに描くアニメーション。アカデミー賞ノミネートということで何の予備知識もないままに今回鑑賞してみました。まるでディズニーの『アラジン』のようなタッチで描かれるのは、非常に重い過酷な現実。長年続いた内戦により荒廃してしまったこの地で、理不尽な現実に押しつぶされそうになっているのは常に社会の中で弱い立場にいる人々。それでも必死に自分らしく生きる主人公がすこぶる魅力的で、そんな彼女が男の子となって手に入れた自由に胸躍らせる姿には思わず切なくなってしまいます。僕たちはこの国で普通に外出して普通にコンビニで食べ物を買い、普通に暖かい布団で眠ることが出来ているのに、どうして何の罪もない彼女がこんな過酷な日々を過ごさねばならないのか。理不尽な現実に悲しくなるばかりなのですが、彼女の語る空想の世界の物語と世界観が非常に魅力的でそれに救われます。これこそアニメという表現を最大限に活かした素晴らしい演出でしょう。主人公以外にも、同じく男装していた少女や字の読めないおじさんなど脇を固めるキャラもみな魅力的で素晴らしい。最後が幾分か腰砕けちゃったのが残念だったけど、男たちの暴力に立ち向かうにはいつの世も優れた物語が必要なのだということを改めて思い起こさせてくれる良作でありました。と、これを観ている現在、アフガニスタンではまたタリバンが実権を握ってしまいました。この先、また彼女たちのようなかわいそうな少女が沢山うまれるのかと思うと胸が締め付けられます。この現実を変えるためには、やはり本作のような優れた物語が必要なのだと僕は信じたい。彼女たちのためにも。
[インターネット(字幕)] 9点(2021-11-23 04:09:57)
3.  ブラックバード 家族が家族であるうちに 《ネタバレ》 
アメリカ郊外ののどかな田舎町に建てられた一軒の豪華な邸宅。そこで暮らすのは、医者である夫と二人で暮らす初老の女性リリーだ。ある日、そこに彼女の二人の娘、ジェニファーとアンナがそれぞれ夫とパートナーを伴って帰ってくる。目的は、週末のディナーをともに過ごすため。孫にあたるジェニファーの息子やリリー夫妻とずっと親友関係にあるリズという女性も加わり、楽しい夜になるはずだった。だが、彼らの表情は何処か不安げで隠し切れない哀しみに満ちている。何故なら、夜が明けるとリリーはもうこの世に居なくなってしまうから――。彼女は徐々に全身の身体機能が失われ、半年後には完全なる植物状態になることが分かっており、身体の自由が利くうちに自ら人生を終わらせることにしたのだ。そう、これはリリーが最後に過ごす家族水入らずのディナー。夫も二人の娘たちも母親の決断を容認し、最後は穏やかに逝かせてあげようと決意したはずだった。だが、夜も更けてゆくとそれぞれに抱え込んだ思惑が抑えきれなくなり、とうとう爆発してしまう……。尊厳死を決断した女性とその家族の最後の夜を淡々と見つめたヒューマン・ドラマ。アカデミー賞の栄誉に輝くベテラン女優スーザン・サランドンとケイト・ウィンスレットがそんな確執を抱えた母子を熱演しております。難病に侵された女性の尊厳死という大変重いテーマを扱っていながら、全体に漂う空気はほのぼのとしていてこのギャップが何とも言えない気持ちにさせられますね。死を決意した祖母を演じるスーザン・サランドンの、悲愴感を漂わせながらも微塵も同情を求めていないその凛とした佇まいがとても魅力的。彼女とケイト・ウィンスレットとのそれぞれの思いがぶつかりあう濃密な演技合戦はとても見応えありました。そして今回意外だったのは、次女役のミア・ワシコウスカ。精神的に不安定で自殺未遂を繰り返す問題児をリアルに演じていて、この二人に負けず劣らずの熱演を見せてくれます。この人、いつの間にここまでの実力をつけたんでしょうね。内容の方は、もちろん非常にデリケートな問題を扱っているので当然賛否が分かれるところ。でも僕は、善悪の彼岸を越えた、「永遠に分かり合えない家族の切なさ」を感じてとても心に染みました。最後、それでもそんな分かり合えない家族の元へと帰ってゆく登場人物たちの後ろ姿が何とも切ない。シリアス版『8月の家族たち』とも呼ぶべき、深い慈愛に満ちた良品と言っていいでしょう。
[DVD(字幕)] 8点(2022-01-07 02:00:50)
4.  FREAKS フリークス 能力者たち 《ネタバレ》 
彼女の名は、クロエ・リード。今年で7歳になるちょっと変わった女の子だ。なんと彼女は、唯一の肉親である父親から家に閉じ込められ、生まれてから一度も外の世界に出たことがないのだ。父が言う、「外の世界には恐ろしい者どもがたくさんいて、見つかろうものならすぐに食べられてしまうぞ」という言葉を素直に信じ、完全に外界から遮断された一軒家の中でずっと生きてきたクロエ。友達もおらず、ただ目張りされた窓から路上でアイスクリームを売るワゴン車を覗き見ることだけを楽しみに生きる毎日。「でも、やっぱり外の世界をこの目で見てみたい」――。いつしかそんな欲求を抑えられなくなった彼女は、ある日我慢できずに家のドアを開け、外の世界へと飛び出すのだった。果たしてそこには何があったのか?世界は本当に恐ろしいものへと変貌してしまったのか?そして、彼女に秘められた恐るべき〝能力〟とは?父親によって生まれた時から家に閉じ込められてきた少女の驚愕の真実を独自の手法で描いたSFドラマ。何の予備知識もなく、ただスピルバーグに見いだされた新たな才能といううたい文句に惹かれ、今回鑑賞してみました。最初こそ低予算感が漂っているし、奇を衒ったような演出が散見されるしで、ちょっとこれはどうなんだろうって思わせるものの、後半からの怒涛の展開には完全にやられちゃいましたね。いや、なかなかの掘り出し物ですよ、これ。とにかくこの考え抜かれた脚本の構成力!前半に散りばめられた数々の謎が全て、後半への伏線になっていたとは!いやー、これは是非ともネタバレせずに観て欲しい一本。それに映像的にもけっこうセンスを感じました。人の感情を操ったり時間を止めたりといった特殊能力を使うシーンやクライマックスでの軍人を遠隔操作するシーン(屈強なおっさんがママって言うとこなんて思わず笑っちゃいました)など、どれもすんごくカッコよかったです。特に、姿を消したお爺ちゃんが銃で撃たれ、その血が空中に滲み始めるシーンなんて、センス抜群で最高でした!スピルバーグに見いだされた才能というのも納得。この監督、すぐにマーブルあたりの大作映画に大抜擢されるんじゃないですかね。前半、状況説明をほとんどしてくれないところや父親があまりに横柄なところにちょっぴりイライラしちゃいましたが、僕は充分満足。将来が楽しみな新たな才能との出会いを素直に喜びたいと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2021-05-08 00:32:59)
5.  フルートベール駅で 《ネタバレ》 
彼の名は、オスカー・グラント。まだ22歳のどこにでも居るような平凡な若者だ。カリフォルニアの小さなアパートにまだ籍は入れていないが優しい恋人と一緒に暮らしている。そして、二人にはかわいい盛りの幼い娘タチアナもいる。愛する家族のためにも、オスカーはこれからますます頑張らなければいけない。でも、現実は厳しく、彼自身の遅刻によりスーパーの仕事は2週間前に首になったばかり。過去にちんけなヤクの取引でムショに入った経験もあり、先行きは厳しいがそれでもオスカーは愛する娘のために真人間になろうと誓ったのだ。恋人も母親もそんな彼を精いっぱい支えてくれている。周りに誘惑も多いが、それでも一歩ずつ人生を立て直そうと必死に頑張っていた。そう、あの日あの時に、〝フルートベール駅〟で降りるまでは――。大晦日の夜、オスカーはたまたま乗った電車で過去に因縁のあった知り合いと乱闘騒ぎを起こしてしまう。通報を受けてやってきた白人警官に彼は無理やり電車から降ろされ、ホームで拘束されることに。何も悪いことはしていない。俺が黒人だからか。当然のように抗議するオスカー。騒然としていく駅のホーム。やがて、興奮した警察官によって……。実際にあった、無抵抗の黒人青年を警察が駅のホームで射殺したという事件を基に、彼の人生最後の1日を丹念に追ったヒューマン・ドラマ。のちに幾つものハリウッド大作を手掛けることになるライアン・クーグラー監督らしく、ことさら人種差別の問題を強調しなかったところにまず好印象。お互いに相手のことをそこまで敵視していたわけではないのに、ちょっとした思い込みから起こった悲劇として事件を捉えている。きっとこの監督のスタンスは、人種差別に「怒っている」のではなく、「哀しんでいる」のでしょうね。人種間の対立を必要以上に煽る作品が巷に溢れる昨今、この冷静な視線は素晴らしい。そして、この完璧なまでのストーリーテリングの巧みさ。オスカー・グラントと言う平凡な若者の人となり、そしてこれまで歩んできたであろう人生を過不足なく観客に伝えることに成功している。確かに若さゆえの過ちは幾つも犯してきただろう。仕事をクビになったのも彼の自業自得。でも、だからと言って駅のホームでたくさんの乗客が見守る中、射殺されるほどの罪は犯していない。ある日突然、理不尽にもその人生を絶たれることになった若者の哀しみが静かに伝わってきて、胸が締めつけられそうでした。よくテレビのニュースで流れるようなありふれた事件の一つ一つにも彼のような人生があり、哀しむ人たちがいる。そんな普遍的な事実に改めて思いを馳せられる、良質の人間ドラマでありました。
[DVD(字幕)] 8点(2020-04-07 00:01:06)
6.  フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 《ネタバレ》 
フロリダにある夢と魔法の国、子供たちの誰もが憧れるディズニー・ワールド……が本作の舞台ではなく、その近くにあるわけありの客が多く寝泊まりするやっすいモーテル、マジック・キャッスルが本作の舞台。そこに暮らすシングル・マザーとその一人娘、そして彼女の友達たちが巻き起こす様々な出来事をカラフルな映像で紡いだひと夏の奇跡の物語。まさにマジカル&ポップ!!この監督のセンスが見事なまでに炸裂している珠玉の逸品でありました。とにかく子供たちもその親たちも終始テンションが高い高い!なんか生きてることを、良いことも悪いことも含め、全力で楽しんじゃってるような彼らのエネルギーにとことん圧倒されました。ここで描かれている世界は決して楽しいことばかりではなく、むしろ貧困やら暴力やらドラッグやら売春やらが身近に存在するある意味悲惨な世界。でも、彼らは決して諦めることなく常に前向き。そこがいいですね~。このおかーちゃん、こう見えて子供への愛情は人一倍強いんですよ、ただちょっと人生の計画性というものが複雑骨折しているだけで(笑)。そんな彼女をつかずはなれずの絶妙な距離感で見守る管理人役を好演したウィレム・デフォーがまさに嵌まり役!いやー、出てくるどの人物も魅力的でなんかこのモーテルに住みたくなりましたわ。もう一度言うけど、まさにマジカル&ポップ!この唯一無二の独創的な世界観を充分堪能させていただきました。ただ、個人的に僕はうるさい子供が苦手なので、この子たちのわーきゃーに途中若干しんどくなったのでそこが唯一のマイナスかな。とはいえ、今から次作が楽しみな才能あふれる若手監督の登場を諸手を挙げて歓迎したいと思います。ショーン・ベイカー、これから要注目!!!
[DVD(字幕)] 8点(2019-05-28 22:36:56)(良:1票)
7.  ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ 《ネタバレ》 
いまや世界的な大企業となったマクドナルド社の創業から成功への道のりを、創業者であるマクドナルド兄弟と彼らに取り入った一人の男の姿を通して描いたヒューマン・ドラマ。単なるミキサーのセールスマンに過ぎなかったしがない男レイ・クロックはある日、田舎町で画期的なシステムを持った飲食店と出会う。「これこそ俺が求めていたものだ!」。その徹底的に無駄を省いた合理的なシステムに魅せられたレイは、経営者であるマクドナルド兄弟と半ば強引にフランチャイズ契約を結ぶと瞬く間に全国へと進出していくことに。だが、あくまで安定した品質管理と地域社会に密着したサービスに固執する兄弟と利益至上主義、徹底的な成長戦略を重視するレイとの対立は次第に激しくなってゆく。そして、彼らの意識の違いはとうとう限界を迎え…。マイケル・キートン演じるこの主人公はとても共感できるような人物ではないのですが、それでも彼の野心がなければマクドナルドは一地方の地域密着型の小さな飲食店で終わったことは明らか。資本主義経済の何たるかがとてもよく分かる考えられた脚本であると思います。特に創業者であるはずのマクドナルド兄弟が最終的には経営から追い出されるという結末は、人間性を多少なりとも犠牲にしなければ成功は保証できないという経済原則の不条理を見事に突いている。「ライバルが隣で溺れていたら、その口にホースを突っ込み水を流し込む。君たちにそれが出来るか?」というレイの言葉は重い。マクドナルド社が本作を非公認にしているのも頷けます。惜しむらくは、彼が後に結婚することになる第二の妻とのなれそめが非常に簡潔に描かれてしまっているところ。彼女と初めてバーで出会い、二人でピアノ演奏するシーンがとても印象深かっただけに、そこらへんが少し物足りなくも感じた。とはいえ全体的には良くまとまった、なかなか見応えのある経済ドラマの秀作と言っていいでしょう。
[DVD(字幕)] 8点(2018-11-29 01:00:06)
8.  プリズナーズ 《ネタバレ》 
これから厳しい冬を迎えようとしているアメリカ北部の田舎町。平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた2つの家族、ドーヴァー家とバーチ家に突如として悲劇が訪れる。それは、お互いの幼い娘たちの不可解な失踪事件だった。すぐに容疑者としてアレックスという男が逮捕されるのだが、彼は10歳児並の知能しか持ち合わせていない、いわゆる知的障碍者だった。しかも物証となるような証拠は何も発見されない。嫌疑不十分で釈放されることになったアレックスに、被害者家族であるドーヴァー家の父親ケラーは当然のように納得できるわけがなかった。彼こそが真犯人だと確信するケラーは、次第にその行動をエスカレートさせ、さらにはアレックスを拉致監禁し、あろうことか酷い拷問にもかけてしまう――。娘を愛するがあまり、正義と狂気の狭間をどんどんと暴走してゆく父親ケラー。互いの家族や事件を担当する刑事らも巻き込んで、物語は更なる悲劇へと繋がってゆくのだった……。2時間30分というなかなかの長尺で、しかもその間どこにも一片の晴れ間すら感じさせないかなり陰鬱な作品なのに、最後まで一切緊張感を途切れさせずに見せきるこの監督の手腕には素直に圧倒させられました。登場人物誰もが愛する者を救いたいと行動しているのに、それがどんどんと不幸の連鎖を生み、周りの人間を次々と悲劇のどん底へと引き摺り込んでしまう…。正直、見れば見るほど鬱になる、徹底的にいや~なお話なのですが(笑)、それでも最後まで惹き込まれ観終わった後はいろいろと深く考えさせられる作品でした。最後に姿を現す、「神に戦いを挑む人間」にして、全ての悲劇の“迷路”の中心に居る「絶対悪」の存在――。なんだか現代日本文学の最前線をひた走る作家・中村文則の小説をも髣髴とさせるその迫力に思わず驚嘆。正義とは何か?悪とは?正義のための悪行は許されるのか?サスペンス・スリラーとして充分なエンタメ性を有しながら、そんな哲学的で深甚なるテーマをも鋭く追求したなかなかの良品であったと思います。この監督の他の作品も観てみたくなりました。
[DVD(字幕)] 8点(2015-04-28 01:06:17)
9.  ブルーバレンタイン 《ネタバレ》 
ディーンとシンディは、幼い娘を抱えたどこにでも居るような若い夫婦。だが、夫ディーンは朝から缶ビールをかっ喰らって仕事に出かけるという典型的な駄目男だった。対する妻シンディも看護師としての仕事を最優先に考え、いつでも家庭は二の次というキャリア志向の強い女だった。当然のようにそんな二人の結婚生活は、もう破綻寸前までに冷え切ってしまっている。家族の紐帯はもはや、可愛い盛りの娘フランキーのみ。そんな夫婦生活をなんとか再生させようと、ディーンは子供を義父に預け夫婦水入らずでラブホテルに泊まろうという計画を立てるのだったが…。絶望的な袋小路へと陥ってしまったそんな現在の夫婦と、彼らがまだ知り合ったばかりの若き日のキラキラと輝やくような日々を対比させるように交互に描き出してゆく濃厚なラブストーリー。最近観た、「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」というクライムサスペンスが思いのほか良かったので、同監督のデビュー作となった今作をあらためて鑑賞してみたのですが、いやー、なんちゅう鬱映画やねん(笑)。どんなに深い愛情によって結ばれた幸せな夫婦でも一歩間違えばこうしてどん底まで堕ちてしまうという過程がかなりリアルに、そして極めて分かりやすく描かれておりました。「プレイス~」でも感じたことですが、監督のこの緻密に考え抜かれた編集力は素晴らしいですね。センス溢れる音楽や役者陣の熱演(ゴズリングの見事なまでの駄目男っぷりはさすが!)も良かったです。それにしても、この監督の人を見る目はかなりシニカル。人間は誰もがみんなロクでもなく自分勝手で、そしてどんな幸せな日々もいつかは崩壊へと向かうという暗鬱な思想に貫かれた本作ですが、最後、打ち上がる花火の下で背中を向けて立ち去るディーンを追いかける娘の健気な姿に、それでも人はこの大地で必死に生きてゆくのだという微かな希望を感じ取ることが出来たように思います。これから結婚しようと考えている幸せ絶頂の全ての若いカップルたちに是非とも観てもらいたい(笑)、良質のリアル恋愛ドラマでありました。
[DVD(字幕)] 8点(2014-06-18 14:08:46)
10.  プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命 《ネタバレ》 
移動遊園地の曲芸バイク乗りとして全米を転々としていたルークは、久々に訪れた田舎町で昔付き合っていた彼女と再会を果たすのだが、彼女の口から驚愕の事実を知らされる。知らぬ間に彼女は自分の子供を妊娠出産して、彼はいつの間にか父親となっていたのだった。息子の側で過ごすためサーカスの仕事も辞めてしまった彼だったが、現実はどこまでも厳しく、ルークはろくな仕事にもあり付けずしかも彼女にはちゃんとした新しい彼氏が出来てしまう。仕方なく、手っ取り早く大金を稼ぐために、リスクを承知のうえでルークは銀行強盗へと手を染めることに――。物語は、中盤でそんなルークの犯罪ドラマから、偶然彼を追うことになった正義感のとても強い警察官エイヴリーの警察内部の腐敗と戦う彼の物語へと紡がれてゆく。そして15年後、さらには彼らの子供たちへと物語の種子は受け継がれてゆくのだった。まるでそれが親の代から続く宿命だとでもいうように…。理不尽で残酷な現実社会でもがく親と子の苦悩と救済を丹念に描き出すクライムサスペンス。久々に、こんなにも骨太の映画を観たような気がします。2時間20分という決して短くはないこの作品の中に、15年に渡る多種多様な人々のドラマを見事に内包させ最後まで緊張感を途切れさせずに見せ切るこの監督の手腕は、素直に素晴らしいと思いました。豪華な俳優陣もそんな監督の要求に、見事な演技で応えていて見応え充分。第1部と第2部で主役を演じる、ゴズリング、クーパーの熱演は言わずもがななのですが、第3部で主役を演じるデハーン君(やっぱり「クロニクル」の彼だったのですね!)のまだまだ荒削りながら、見る者に鋭いナイフを突き付けるような圧倒的な存在感は凄かったです。将来性をビシバシ感じて今後の成長が今から楽しみ。うん、久し振りに作品世界へとどっぷりと浸れる良質の映画に出会うことが出来ました。この監督の過去の作品もあらためて観てみようと思います。
[DVD(字幕)] 8点(2014-06-14 00:11:24)(良:1票)
11.  フライト 《ネタバレ》 
酒が原因で離婚したものの、今は同僚のスチュワーデスと良い関係になっているベテランパイロット、ウィトカー。しかし生来の酒癖の悪さは今も治らず、その日のフライトもコカインとウォッカをがっつり決め込んだ状態で出発。しかし、運命のいたずらか機体が致命的な故障を起こし、墜落の危機へと見舞われてしまうと、彼は奇跡的とも言えるフライトテクニックで人気のない郊外へと不時着させることに成功する。当然、病院で目を覚ました彼は英雄と称えられるが、飲酒状態だったという事実は消せず、次第に追い詰められ、そしてまた酒の量も増えてゆくのだった――。いやぁ、これ、こんなにどっぷりアル中のお話だったとは思いもよりませんでした。元アル中の自分としては、こういう作品には弱いんだよね~。酔っ払ってロクでもないことを仕出かす→目を覚ますと情けない自分を発見して絶望的になる→そんな自分を忘れるためにまた酒を飲む→酔っ払ってロクでもないことを仕出かす→目を覚ますと(以下同文)。このアル中あるあるな悪循環は昔の自分を見てるようでほんと切ない。そんなどん底を這いずり回っていたろくでなしだったけど、最後の最後、ウィトカーは人として最低のクズになりそうなギリギリのところである一つの決断を下す。いくらろくでなしのクズ人間でも、いつかは光り輝く瞬間が来るかもしれないというメッセージに(元アル中としてはッ笑)深く心打たれました。ゼメキス&ワシントンの円熟の演出&演技も見応え充分な良作だと思います。うん、皆さん、お酒の飲み過ぎにはくれぐれも気をつけよう!
[DVD(字幕)] 8点(2013-11-26 18:11:47)
12.  プラットフォーム 《ネタバレ》 
ここは何処までも限りなくそそり立つビルの48階層。何処にも出口のないその小さな部屋の中央には、食卓がすっぽり入りそうな大きな穴があいている。その穴から上を見上げれば、ここと同じような部屋が何処までも続き、下を見れば同じような部屋が何処までも続いている。そして各階層には、男女も年齢もバラバラな二人の人間。彼らは皆、その“とき”を心待ちにしていた。一日に一度、豪華な食事が並んだ食卓が上の階層から順に下へ下へと降りてくるのだ。当然、下の階層になればなるほど、食卓は食べ残しばかりとなり、100層を越えた辺りになればそこに食事が残っていることはほとんどなかった――。48階層で目覚めたゴレンは、同居人のトリマガシと名乗る怪しい中年男とともにここで暮らし始める。一か月ごとにそれぞれ住む階層が変わるというこの施設。上の階層の食べ残しをいただきながら、ゴレンはやがてここへ来て一か月が過ぎようとしていることを知るのだった。そしてある日、彼とトリマガシは違和感を抱きながら目を覚ます。気が付くと、彼らはなんと171階層に移動させられていたのだ。もはやここまで来ると食べ残しはほとんど残っていない。飢えと不安感から二人はやがて、底知れぬ狂気へと囚われ始めるのだった……。理屈では到底説明できない不条理な事態に陥ってしまった人々の極限状況を禍々しく描き出すシチュエーション・スリラー。まあ同分野の名作『キューブ』がヒットして以来、散々作られてきたアイデア一発勝負の低予算スリラーなんですけど、目の付け所が良かったのか、けっこう面白かったですね、これ。上の階層からの食べ残しをひたすら待ち続けるというこの設定だけで90分持たせたのは凄い。最初は豪華で美味しそうだったであろう食事が、どの階層でも全く美味しそうに見えない、そればかりかほぼ残飯と変わらないと言う描写が悪趣味すぎて大変グッド(笑)。下の階層の人々が極限の飢餓状態からカニバリズムに走るというのもベタながらアリ。また、死んだ同居人たちが主人公の幻覚として現れるシーンもけっこうセンスを感じました。ただ、本作の惜しい点は、肝心のメタファーが分かりやすすぎるところ。先進国と発展途上国、そして最貧国のそれぞれの経済格差からくる搾取構造を描いてるんでしょうけど、それが単純すぎて自分は物足りないものを感じてしまいました。いつだって犠牲になるのは弱い立場にいる子供たちだ、先進国はこの現実から目を逸らすなという最後のメッセージは、余りに説教臭くて好きじゃないです。とは言え、映像的には抜群にセンスが良く、アイデア一発勝負ながらストーリーの見せ方も巧く、映画としての完成度は普通に高い。この監督の次作に期待!
[DVD(字幕)] 7点(2022-07-30 03:31:10)(良:2票)
13.  フロッグ 《ネタバレ》 
始まりは、10歳の少年の失踪事件だった――。人気のない森の中である日、一人の少年が謎の失踪を遂げる。現場に残されていたのは、少年が乗っていた自転車と緑色のナイフのみ。そしてそのナイフは、10年以上前に発生した連続誘拐殺人事件で使われた凶器と同じものだった。だが、犯人はすでに捕まり刑務所に収監されている。犯人が再び犯行を行うことは不可能だ。かつてその犯人を逮捕したハーパー刑事は再び、事件の捜査を担当することに。これは模倣犯なのか、それともかつての犯人は冤罪だったのか?難航する捜査を尻目に、今度はハーパー刑事の自宅で不可解な現象が続発するのだった。いつの間にか無くなっている銀食器、急に点灯するテレビ、そして家の中を密かに蠢く謎の影……。次第に追い詰められてゆくハーパー刑事とその家族たち。果たしてこの事件に隠された驚きの真相とは。少年誘拐事件をきっかけに、そんな不可解な現象に巻き込まれてゆくある家族を描いたサスペンス・スリラー。なんか思いっ切りB級感プンプンのそんな本作、さして期待せずに今回鑑賞してみました。ところがどうして、これがエッジの効いた演出の力が光るなかなかの掘り出し物でいい意味で裏切られました。物語の前半は余りにもお話がフワフワしてて「なんだよく分からない映画だな」と思いつつも、その不穏な世界観に引っ張られて見ていたんです。ところが物語の中盤、驚きのどんでん返しが!そうか、全てはそういうことだったのね!これは確かに予想が出来ませんでしたわ。まあネタとしては、ちょっと前の怪しいジジイをテーマにした某B級映画でも使われてましたが、見せ方としてはこちらの方が相当巧い。なるほどアレは実はそういうことで、アレはこいつのアレだったのね…ってこれだけ聞いてもさっぱり意味分からないでしょうけど(笑)。急に手持ちの手振れ映像に切り替わるのもいいセンスしてるし、なかなか面白いじゃん、これ!っと思っていたら、まさかの更なるどんでん返しが!いやー、これは完全にやられちゃいました。この脚本はかなり作り込まれてますね~~。明らかな低予算映画だけど、練られた脚本の力と工夫を凝らした映像の見せ方で幾らでも面白い映画が創れるという見本のような作品でありました。これは是非とも予備知識なしで観てもらいたい一本。
[DVD(字幕)] 7点(2022-03-03 03:37:30)(良:1票)
14.  プライベート・ウォー 《ネタバレ》 
2012年、内戦が激化していた当時のシリアに潜入し、戦場のリアルな実態を報道し続けた記者メリー・コルヴィンが亡くなった。近くで爆発した砲弾に巻き込まれ、彼女はその決して長くはない人生を終えることになった。若き日に報道記者となり、スリランカの内戦取材中には銃撃を受け片目を失うという悲劇に見舞われながらも何故、彼女は戦場に行くことを止めなかったのか――。本作は、そんな彼女の波乱に満ちた生涯を冷徹に見つめた伝記映画だ。戦場の生々しい実態に心を蝕まれ、後にアルコール依存症とまでなった彼女を演じるのは、『ゴーン・ガール』での悪女役が記憶に新しいロザムンド・パイク。このメリー・コルヴィンという人をほとんど知らないまま今回鑑賞してみたのだが、これがなかなか丁寧な演出の力が光る秀作に仕上がっていた。世界の紛争地へと突撃取材を続ける彼女とその合間に都会へと帰ってきて束の間の休息をとる彼女の姿を交互に描くという本作の構成、これが巧く効いている。戦場で明日の命もままならないような生活を余儀なくされている子供たちと向き合っていた自分が、自宅へ帰ってくると裕福な友達に囲まれ何不自由ないセレブ生活を送る。いったいこの不条理の原因とは何なのか。そして自分はそんな子供たちを金儲けの道具にしているだけなのではないのか。そんな残酷な問いを突き付けられた彼女が、徐々にアルコールへと溺れてゆくのも当然だろう。彼女の人生を迫真の演技で再現したロザムンド・パイクもいい仕事をしている。この人、こういった何処か偏屈な人間を演じるのが相当巧い。最後、彼女は自らの身を顧みずに戦場へと残り、そしてその短い生涯を閉じる。何故なら、この現実から決して目を背けてはならないという確固とした信念があったから。観終わって、僕は同じくシリアで命を落とした日本人ジャーナリスト、山本美香さんのドキュメンタリーを見て非常に感銘を受けたことを思い出してしまった。時に批判されることもあるだろうが、それでも彼女たちのような職業も社会にとって絶対に必要なのだ。何故ならその地に行かなければ決して分からない真実がそこにあるのだから。メリー・コルヴィンという人の生涯を再現することに注力するあまり、若干テーマに対する踏み込みが甘くなったような気もするが、それでも充分見応えのある伝記ドラマの秀作であった。
[DVD(字幕)] 7点(2020-10-09 05:39:42)
15.  2人のローマ教皇 《ネタバレ》 
2012年、全世界に10億人以上の信徒を有するカトリック教会は揺れていた。資金洗浄や聖職者による信者への性的虐待などスキャンダルが相次いで発覚したのだ。教会の頂点に位置するローマ教皇ベネディクト16世は、事態を打開するため異例ともいえる決断をする。それは、生前退位――。数百年に及ぶカトリックの歴史の中でも前代未聞の異例の事態だった。密かに呼び寄せられたアルゼンチンのベルゴリオ枢機卿は、ローマ教皇のその決断に断固として反対の立場を表明する。誰も居ないバチカンの密室で今後のことについて話し合う二人。すると、いつしかベルゴリオ枢機卿の心に過去の思い出が交錯しはじめる。神父になると決意した若かりし日々、当時付き合っていた恋人との哀しい別れ、常に神の存在を身近に感じていた聖職者としての人生、そして軍事独裁政権下の過去に犯した自らの過ち……。お互いの思いを述べあううちに、枢機卿はローマ教皇の本当の真意を知ることに。実話を基に、生前退位と言う前代未聞の決断を下したベネディクト16世と彼の跡を引き継ぐことになる後のフランシスコ教皇を描いた対話劇。監督は『シティ・オブ・ゴッド』や『ナイロビの蜂』などで貧困に喘ぐ第三世界の真実を見つめ続けるフェルナンド・メイレレス。実在した二人のローマ教皇を貫禄たっぷりに演じるのは名優、アンソニー・ホプキンスとジョナサン・プライス。正直、この二人の爺さんの宗教的な話し合いが延々と続くという、おおよそ面白くならなさそうな題材なのに、最後までちゃんと興味深く観られたのは、この二人の演技力による部分が大きい。健康に気を遣って万歩計を手放せなかったり、過去の確執から最初は一緒に食事をしなかったり、お互いの趣味を薦め合ったり、最後はピザ片手に一緒にサッカーを観て盛り上がる…。おおよそ宗教家らしくないそんな二人の人間的な部分に思わずほっこりしちゃいました。いくらローマ教皇でも、プライベートはそこらの定年退職した親父と大して変わらないんですね(笑)。二人揃ってアカデミー賞ノミネートも納得です。また、二人の対話劇の背景となる、バチカンの壮大な建物や美麗な装飾品の数々も歴史と伝統を感じさせて見ていて飽きさせません。そして後半、この枢機卿が過去に犯した過ち――軍部に目をつけられた信徒を救えなかったという事実に目を向ける視点はいかにもメイレレス監督らしい。歴史の巨大なうねりの陰には、常に名もなき人々の犠牲がある――。そんな普遍的な事実を改めて考えさせられる、ヒューマン・ドラマの秀作でありました。
[インターネット(字幕)] 7点(2020-04-27 18:36:37)
16.  フロントランナー 《ネタバレ》 
民主党の次期大統領選の最有力候補(フロントランナー)と目されていたゲイリー・ハート上院議員。彼が突然持ち上がった自身の女性スキャンダルによってどんどんと自滅していくさまを実話を基にして描いた政治ドラマ。監督は丁寧な心理描写には定評のあるジェイソン・ライトマン。ちょっとした心の緩みによって瞬く間に落ちてゆく中堅政治家を演じるのは、まさに嵌まり役とも言うべきヒュー・ジャックマン。このゲイリー・ハートという一政治家に過度に肩入れするわけでもなく、かといって終始批判的な目線で描くわけでもない、あくまで客観的なこの作品のスタンスには好感が持てました。英雄色を好むと言われたのはもはや過去の話、小さな女性スキャンダルが政治家にとって命取りとなる今の時代を読み違えてしまったこの人の自業自得の自滅劇はなかなか面白かったです。彼の浮気相手とされた女性と長年連れ添った妻とのそれぞれのドラマも見応え充分。特に浮気相手のケア役として親身になって相談に乗っていたと思われていた女性選挙スタッフが役目を終えた途端、飢えたマスコミの群れへと彼女を放り出すシーンは見ていてとても切なかったですね。「今はまだ離婚しない。でも、いつかは…。それまで自分がしたことの重荷に苦しめばいい」と怒りを抑えながら静かに言い放つ奥さん、とっっっっっても怖かったです。うん、皆さんも下半身のことにはなるだけ気を付けましょう(笑)。
[DVD(字幕)] 7点(2019-11-02 22:04:06)
17.  ブラックパンサー 《ネタバレ》 
宇宙より飛来した謎の鉱物の神秘的な力により高度に発達した文明を築き上げた小国ワカンダ。世界から孤絶し、秘密裡に独自の発達を遂げたそんな神秘の国の国王となった、通称ブラック・パンサーの大活躍を最新の映像技術で描いたアメコミ・アクション超大作。もはや素人には何が何だかよく分からなくなってしまった(笑)マーブル・アベンジャーズの一作でありながら、ほとんど黒人しか出てこない作風が昨今の保守化するアメリカ社会のアンチテーゼとして受け、本国で爆発的ヒットとなったのみならず今年度のアカデミー作品賞の候補にまでなった本作。なるほど、確かによく出来てますわ、これ。一級のエンタメ映画として誰もが楽しめる完成度を誇りながら、そこに昨今の人種問題をスパイスとして絡めたところなどいいセンスしてますね~。世の中には社会的弱者(黒人)が今も苦しんでいるのに平和主義を標榜して傍観を決め込む者と、時に武力行使も辞さない姿勢で積極的に介入しようとする者の思想的な対立構造などストーリーにもなかなか深みがあって大変グッド。アフリカ古来の文化と最新のテクノロジーが融合したワカンダの都市描写なども華やかでワクワクしますね。惜しいのはクライマックスのアクションが少々キレが悪くなってしまったところかな。もう少し短くても良かったような気がしなくもない。最後、主人公が国連で演説する際の「愚者は壁を築き、賢者は橋を架ける」という強烈な反トランプメッセージは、ディズニーとしてはかなり踏み込んだものだと思います。それほど昨今のアメリカ社会の対立構造は深刻なのでしょう。本作がこの先、アベンジャーズの一シリーズとして単なる軽いノリのエンタメ・アクションとなってしまうのは是非とも避けてほしいところですね。
[DVD(字幕)] 7点(2019-01-29 00:38:20)
18.  ブレードランナー 2049 《ネタバレ》 
SF映画のカルト的名作の続編。監督は現在ハリウッドでノリにのっているドニ・ヴェルヌーヴ監督。いやー、なかなか重厚な世界観はこの監督ならでは。少々冗長な面もなきにしもあらずだけど、美麗な映像や哲学的なストーリーは存分に楽しめました。レプリカントたちの心の拠り所となっている記憶を作っているのが、実は…というオチにはしてやられましたわ。
[DVD(字幕)] 7点(2018-12-27 23:46:59)
19.  フェンス 《ネタバレ》 
1950年代、ゴミ収集の仕事をしながら家族を養うアフリカ系アメリカ人、トロイ。彼とその家族の一見平凡に見える生活を描きながら、この時代に生きる黒人たちの、貧困、差別、閉塞感等々、様々な目に見えない〝フェンス〟を炙りだす社会派ヒューマン・ドラマ。主な舞台は、この主人公家族が住む一軒家とその裏庭、そしてストーリーもずっとこの家族が交わす会話でのみ進行していくという内容に、「これはもしかして舞台劇を映画化した作品なのかな」と思って観ていたら、案の定、デンゼル・ワシントンが過去に主演した舞台を基にしたものだったのですね。今回、D・ワシントンが監督も務めたということで彼の並々ならぬ熱意が伝わってきます。そう、この作品はとにかくそんな実力派の役者陣が織りなす圧倒的な演技力を堪能するためのものだと言っても過言ではないでしょう。それくらい役者の演技は素晴らしいものがあります。特にアカデミー賞を受賞した、主人公の妻役のヴィオラ・デイビスには圧倒されました。この時代、黒人で女性で主婦というもっとも弱者の象徴である彼女。その姿を通して、社会の中で虐げられた人たちの抑圧され続けてきた魂の叫びが聞こえてくるようでした。確かに内容的には地味ではあるけれど、なかなかの良作と言っていいんじゃないでしょうか。
[DVD(字幕)] 7点(2018-05-14 23:34:50)
20.  ブラック・シー 《ネタバレ》 
第二次大戦時、莫大な金塊を積んだまま海の底へと沈んでしまったナチスドイツの潜水艦、Uボート。元潜水艦乗りで現在失業中のロビンソンはある日、半世紀もの長きにわたって海の藻屑となっていたそんな潜水艦の情報を偶然耳にする。妻とは離婚、愛する息子とも自由に会うことも出来ず、仲間とともに酒場へと入り浸るようなどうしようもない毎日を送っていたロビンソン。「自分の人生を一発逆転させてやる!!」。仲間とともにそう決意した彼は、大金を求めてウクライナ近海の海底へと旅立つことを決断するのだった。だが、当然のように一人で出発することなど出来ない。旧友のつてでイギリス人とロシア人による12人のにわか混成チームをどうにか集めたロビンソンは、現在は退役した旧ソ連の潜水艦を格安で手に入れるのだった。それぞれの思惑を抱えた彼らは、見渡す限り闇に閉ざされた暗い海の底へと繰り出してゆくのだが…。潜水艦内という閉ざされた世界で繰り広げられるそんな男たちの熱いドラマを重厚に描いたサスペンス・アクション。監督は、社会性の強いエンタメを得意とするケビン・マクドナルド。彼の代表作である『ラストキング・オブ・スコットランド』同様、こういう狂気と英雄紙一重の危険な男を描かせたらやっぱり巧いですね~。ジュード・ロウ演じる主人公が最初はいかにも艦長らしくみんなを纏め上げていたのに、様々な計画の綻びや仲間たちからの反発で神経をすり減らし、次第に暴走していく過程が説得力抜群。彼らが乗るという中古の潜水艦が、その余りに年季が入っていそうな錆びついたボディで登場したときも不安感ヤバかったです。うん、今にも沈没しそうなこんなおんぼろ潜水艦に乗るなんて絶対いや(笑)。また即席で集められた12人のイギリス人とロシア人という最初からうまくいくはずなんてない彼らの内輪揉めも緊迫感があり、徐々に始まる銃撃戦は見応えありました。まあこういう映画のお約束ながら、最初から最後までむさ苦しいおっさんばかりが出ずっぱりで女っけゼロなのはご愛敬。にしてもジュード・ロウ、すっかり禿げたなぁ(笑)。ラストはちょっとあっさりし過ぎかな。もう少し彼らのその後のドラマが見たかったような気がしなくもない。それでも乗組員12人の個性もそれぞれちゃんと描き分けられていたし、潜水艦映画の醍醐味であるキリキリするような閉塞感も感じられたし、僕は充分楽しめました。7点。
[DVD(字幕)] 7点(2018-04-21 23:56:08)
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