1. ザ・ペスト
《ネタバレ》 これはすごい。いかにもチープなタイトルだがここでの高評価を信じて鑑賞。期待を裏切らない高密度な内容で、3時間全く飽きなかった。 ■謎の伝染病による患者が運び込まれる。調べてみると、過去の病気だと思われていたペストである可能性が強まる。信じがたいが、二件目の患者が発生する。だがパニックや都市機能低下を恐れて政治の側では大胆な封鎖措置に踏み切れない。そうこうしているうちに感染は一気に広がる。 ■しかしやはりケルンの街が隔離政策によって死に絶えていく描写が一番すさまじい。逃げ出す人々は平然と軍隊が撃ち殺す。主要登場人物も容赦なくペストにかかって死んでいく。 ■劇的なドラマがあるという感じではない。淡々と病気が広がっていく。しかしそれはかなりリアルな感じであり、そこに強い緊迫感が生まれているのだろう。傑作 [DVD(字幕)] 10点(2012-07-01 00:36:38) |
2. 鬼が来た!
《ネタバレ》 難しい作品。とりあえず単純な「日本人として恥ずかしい」型の感想は論外ではあるが、評価はさまざまな情報を加味しないと行けなくて難しい。 ■とりあえず単純な反日映画ではないだろう。確かに全体としてのバイアス(特に「中国人の善良性」についてはなかなか怪しい)はあるが、それはそもそもあの国で戦争映画を作ろうと思ったら中国政府に肩入れするようにしか出来ない状況にある(本作でさえ「日本人に優しすぎる」と上映禁止らしいし)ことを加味すれば、まあ仕方がない側面は多分にあると思う。 ■他国の人が見てどう思うかだが、戦争映画でそんなに「何人か」って見てて気にするのかはわからないところ。似たような映画だと例えば「コーカサスの虜」を見てロシアが嫌いになるかとか、そういう感じの問題じゃないのかな。 ■ちなみに敵前逃亡ってどこの国の軍でも厳しく罰しているものだから、あれは日本だけではないと思う。 ■個人的には、マーのラスト直前での行動があまりに突発的なので、そこをもう少し自然な感じでつなぎ合わせた方がいいと思った。あれだと本当にただ気がふれただけだし。 ■あと、あまり注目されていない気がするが、トンの処刑は意外と重要だと思う。マーは曲がりなりにも殺人者なわけで殺されてしかるべきともいえるのに、その処刑には自らの手を汚したがらない。他方でトンはあの状況下ではどうしようもない展開をたどり、最後には処刑されるのだが、それは躊躇せず中国軍で処刑する。そして二人とも笑顔で死ぬ。。。 ■何人かの方が触れているように、本作では「権力」「上下構造」が虐殺・殺人を招くというのがメッセージに含まれているだろう。だがその上で言うと、それだけでは実際にはなかなか殺人というものは起きず(人間は罪を犯したくないもの)、引き金になるのは「透明性(誰が殺したかわからない、死んでも自分のせいではない)」である。その意味で、虐殺の引き金となる花屋の刺殺もマーの殺人も「顔の見える状態での殺人」であり、現実の戦場とは違うなぁと思ったり思わなかったり。 [DVD(字幕)] 10点(2011-02-14 00:22:04) |
3. 第9地区
《ネタバレ》 衝撃作。冒頭の疑似ドキュメンタリータッチから、一転ありそうなアクション・サスペンスへの転換、そして人間(エイリアン?)ドラマなど、流し方は鉄板でありながら微妙にテイストが違ってうまい。しかし120分の展開が「エイリアン殺さなきゃ→エイリアンを殺すのはいいことなのか」という心の葛藤系かと思っていたので、このアクション映画的な展開はいい意味で予想外だった。 ■とりあえず最初の方は「あのエイリアンとは、かわいそうだけど一緒にやっていくのは難しいなぁ」という印象を徹底して与える。だが中盤から、主人公が追われる身となり、守ってくれるのがエイリアンのみとなる辺りから、急にエイリアンの悲哀と優しさが見え、エイリアンへの愛情と感情移入もされてくる。この見せ方は本当にうまい。 脱出のために20年かけてたったあれだけの量しかない液体を集めるって、それだけ考えても相当な執念でしょ。それを主人公に無にされても、殺すわけでもなく諦めて次の収容所への移住を考える。主人公が身を捨ててエイリアンの脱出を助ける終盤もいいけど、個人的には「自分たちの星に帰りたい」という息子を、父親が「無理なんだよ」といって諭すシーンが一番物悲しく思えた。 ■エイリアンは人間なのか動物なのか、という話があったが、サインさせなければいけないところなどは「法的には人間=事実は人間と同等」ということであろう。しかし、事実が人間と同等だからこそ、意識の上ではなおのこと「こいつらは動物」という蔑みが強化される。おそらく黒人差別の頃も「黒人=下等生物」認識はあったと思う。以前は黒人の「ペット」的なものがいたらしいし、『アーロン収容所』では、白人女性が日本人捕虜のいる部屋で平然と着替え始めた(=日本人は人ではなく犬とかと同等の認識をしている)ということが書かれていたが、それと同じだろう。 ■ところで、「コミュニケーションできる」ってのはすさまじく友好関係を築く上で重要なんだなぁと思った。他のエイリアンに感情移入できないのは彼らがただ「襲う」だけの存在だったからであり、あのエイリアンに共感できたのは彼が主人公といろいろと話し、ゆえに理解し合えたからであろう。話さなければわかりあえない。 [DVD(字幕)] 10点(2010-09-09 00:58:48)(良:3票) |
4. 月に囚われた男
《ネタバレ》 アイデア勝負に成功しているSF映画。登場人物わずか一人(!)というコンパクトな出来。短編ながら印象的なシーンも多く、予想以上の面白さだった。 ■最初から使い捨てられている運命。ニセの記憶。自分があの状況に置かれたら一体どう思うだろうか・・・・・・人間が道具として使い捨てられていく場の恐怖を思い知らされた。 ■しかし、最後の救いのある株価云々以降の話は蛇足だなぁ、と思った。ああいうのはわざわざ言わずにハッピーエンドを想起させておくのが粋というものじゃないかなぁ。 [DVD(字幕)] 10点(2010-08-23 01:33:04)(良:1票) |
5. ブラッド・ダイヤモンド
《ネタバレ》 アクションやサスペンスではなく、思い切り社会派の作品。 アクションシーンも、エンターテイメントというよりはリアリティを強く感じた。 アフリカのことって全然知らないけど、ああ、大変なんだな、日本に生まれてよかった、と思った。 でもそれで終わってしまう。「(知るだけで)多分助けには来ない」んだな。 あっちは「TIA」 だけど。 ディカプリオは成長していたね。タイタニックはくさすぎたけど、今回ははるかに上手くなってる。 エンドロールで「シエラレオネは平和になった」は「嘘だろ」と思った。 大体、紛争原因はダイヤだけではないし、ダイヤだけでもあんな協定一つで紛争解決できるとは思えない。 そして地下資源が使えないとなると、発展途上国の将来はますます大変だろうな、とも思う。 [DVD(字幕)] 10点(2008-03-03 11:17:22) |
6. サマータイムマシン・ブルース
《ネタバレ》 これは面白いです。 SF研が「SFの研究してるはずがないじゃないですか~」ってのはどこでも同じなのか。 最初の方の伏線をうまく回収できてていい。バイトの話とか、昨日も言ったじゃん!とか。カッパ伝説は読めなかったけど。そう考えると前半は重要なのに流れが悪いのは残念。 [DVD(邦画)] 10点(2006-12-31 11:22:42) |
7. クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲
《ネタバレ》 たかがしんちゃんとなめていて今まで見ていませんでしたが、かなりの出来でした。 過去に振り返っていく「ノスタルジー」というものの意義について、しばらく考えさせられました。ノスタルジーは、永遠に変化しない過去しか見ない、不確実な未来を恐れて安定な過去に停滞して安穏としていたいだけではないのか。難しい問題だ。 ■久しぶりに再見。高校生当時の自分には分からなかったひろしの回想シーンの重さは、今やっと半分ぐらい分かる。エレベーターを押さえるひろしの「俺の人生はつまらなくなんかない!」というところから、ボロボロになりながらしんのすけが階段を駆け上がるシーンまで、あそこは改めて名シーンだと思ったが、同時に一定程度の人生経験を積まないと見てもよく分からないだろうとも思った。完全に大人向けであり、むしろ小中学生→大学生→新人社会人→中年と成長していくにつれて見え方がどんどん変わっていくタイプの良作なんだと思う。 [地上波(邦画)] 10点(2006-12-19 14:40:58) |
8. オールド・ボーイ(2003)
《ネタバレ》 ともかく心身ともに疲れる2時間である。ほかのことを考える余裕すらない。(だからこそオチがわからないのだろう)最初から15年の監禁、という重い事態でぐいぐい引き込まれる。日本料理店の名前が「地中海」(原題は日本海だと思うけど韓国人はそう呼びたくないのだろう)というトンデモさも気にもならない。「エバと名前を変えて」の「エバ」が「エバーグリーン」から来ていることは2回目に気づいた。いっぱいヒントはあるのに、全く気づかなかった。 そして心に残ったのは、「復讐は健康にいい」というセリフ。「メメント」でも書いたが、なぜ人は復讐するのだろう、という問は最後まで残り続けた。 ところで、2回ぐらいアリが出てきたけど、あれは「復讐者に哀れみを」から引っ張ってるのか(示唆するセリフがある) [DVD(字幕)] 10点(2006-12-18 23:29:18) |
9. メメント
《ネタバレ》 こうした症状は実際に存在するらしい。じゃあ自分もなるかもしれないのか・・・。 落ち着いて考えれば、こうしたラスト以外はありえない(真犯人?はすでに分かっているのだから)のだが、ついていくのに精一杯で全く気づかなかった。 ただ、この作品は考えさせられるところが多い。 まず、過去というのは自分に対していかなる意味を持っているのか。過去の上に現在は立脚していると考えられがちだが、本当は現在のために過去を考えているという方が正しいのかもしれない。都合の悪い過去は廃棄され、ときには捏造される。 次に、復讐とは何のためにするのか。復讐は「犯人を殺すこと」が目的のはずなのに、いつのまにか「復讐」それ自体が目的化し、犯人であることはもはやどうでもよくなる。ただ心を慰めるために復讐し続ける。 こういったものは、どうも中韓の歴史問題とかにもつながっていそうで、大変に興味深い。 [DVD(字幕)] 10点(2006-12-18 23:24:15) |
10. オーロラの彼方へ
《ネタバレ》 似たような設定の「バタフライエフェクト」よりいいです。 あまりにも都合が良すぎるラストには1点減点ですが、父親と無線がつながるシーン、火災現場のシーン、証拠を未来へ送るシーン、犯人との死闘シーンなど、これぞ娯楽、の映画です。 個人的には、ラストで息子が犯人に殺されるが、父親が過去で犯人を殺すので助かる、みたいのを予想していました。その際に息子が父親に犯人の弱点を伝えるとか。 【追記】まああのラストでいいのかなと思い1点あげました [地上波(吹替)] 10点(2006-12-18 19:08:16) |
11. ナイト・ウルフ 武装襲撃
《ネタバレ》 超マイナーな作品だがなかなかどうして拾いもの。適当なハリウッド映画なんかよりもよほどリアルでよくできている。 ■チェチェンのテロリストがテレビ局を占拠する、というありがちなテロリストものだが、ヒーローがいるというわけでもなく、警察の対応は後手後手で終始裏目に出る。でも実際の事件はこんななんだろうな、とは思うけど。 ■後半は怒涛の展開で、徹底して先回りしていく犯人、そしてどんでん返しに銃撃戦と急展開する。ものすごくコンパクトな映画。 ■しかしタイトルやパッケージの売り文句は全然違うよねえと思う。あれに惑わされないように [DVD(字幕)] 9点(2012-06-27 22:39:42) |
12. ディア・ドクター
《ネタバレ》 「その嘘は、罪ですか。」が内容を言い表している。過疎地の無医村における偽医者、その嘘を皆で真実にしつつ、土壇場になったら手のひらを返す村人たち。偽物であり、自分とは関わりのないことだと言い張りつつも、全否定はせずにどこかでその意義を皆が認めている。そうしたギリギリの難しい問題をこの映画ではまさに投げかける。 ■なぜ釣瓶が偽医者になろうと思ったか。当人は「撃たれたから返し、を繰り返していただけ」と瑛太に語り、香川照之はわざと倒れそうになって警官が手を差し伸べたところに「なぜあなたは手を差し伸べたのか。自分を愛しているからではないですよね。それと同じだ」という。最初の動機は楽な金もうけも多少はあったのかもしれないが、来てみると全く違ったのであろう。そこは最終的には観る者に投げられたままだ。 ■八千代薫、井川遥母子の関係は非常にうまい。全体として皆素晴らしい中でこの二人の演技は際立っている。井川が泣くのをこらえるシーンは名演。 [DVD(邦画)] 9点(2012-05-05 00:49:14) |
13. レクイエム(2009)
《ネタバレ》 これは掘り出し物。「復讐」と「赦し」という難しい問題を、決してありがちな美談としてまとめるのでも、サスペンタフルな復讐劇としてまとめるのでもなく、人間の深いところをきちんと描こうとしている。 ■兄を目の前で殺されたジョー。彼はずっと母親から「あなたは止められたはずなのに」と責められ続けてきた。一方、若気の至りで殺人を犯したアリスターも、見ていたジョーを忘れることが出来ず、罪に苛まれてきた。 ■TVっぽい和解劇は失敗に終わり、ジョーは復讐の方向へと動く。アリスターも殺されるであろうことは理解していた上で出向く。結局は格闘の末にある種の「怒り」はどこかに消え、ジョーは娘たちのために生きることで過去への「終わり」を告げる。 ■結局ジョーは「赦した」のではなく、ただ「終わった」つまり過ぎ去ったものとして忘れ去ることにしたというのは、いろいろと示唆的だし同時に現実的な気がした。人はいつまでも過去に生きることは出来ない。過去に縛られるのは現在に意味を見いだせていないからだ。ジョーは「現在」として「娘たち」を見出し、過去と決別する。過去は「忘れ去る(乗り越える)」ことによってしか克服できない、そのためには「今」を生きるしかない、そう言っているように思う。 [DVD(字幕)] 9点(2011-03-26 00:38:04)(良:2票) |
14. 瞳の奥の秘密
《ネタバレ》 見終わって、ずっしりと心に響いてくるタイプの映画。ロマンスとサスペンスをギリギリのところでかけ合わせていて、細部に甘いところはあるものの、非常に好感度は高い。でもメインは多分サスペンスでもロマンスでもなくて「人間は過去とどう向き合うか」という永遠の主題であろう。 ■カメラワークがとにかく秀逸。スタジアムの中に一気に引き込む回し方や、ゴメスと一緒に落ちていき、捕まるところまで撮っていく一連の長回しは圧巻。最後を扉が閉じて終わらせたところや、牢屋の小屋に入っていくシーンなど、細かなところにも写し方をこだわっている。 ■タイトルにもあるように「瞳」の演技が素晴らしく、まさに何も語らないところで「瞳で語る」ようなシーンも多い。駅の別れや誘うシーンなどのわかりやすいところから、タイプライターを打つちょっとしたシーンまで、瞳がいろいろと語ってくる。 ■最後の展開は決して私刑を擁護しているのではなく、まさに人は過去に囚われざるを得ず、特に「時間が止まってしまった」かのような男リカルドはあのようにならざるを得ない、そういう「不条理」を示しているのであろう。過去は忘れるのでもなかったことにするのでもなく、それにとらわれながらしか生きられないし、その中で最善を尽くすしかない。「よい方の選択肢を」とベンハミンにいうリカルドは、裏を返せば自分には選択肢すら与えられなかった(妻を失うしかなかった)ということを示唆しているのだろう。 [DVD(字幕)] 9点(2011-02-21 01:20:51)(良:2票) |
15. 戦場のピアニスト
《ネタバレ》 タイトルからイメージされるような、ピアニストであることが重要であるような映画ではない(最後にちょこっと利いてくるだけだ)。極めてよくできた戦争もの、それもありそうでなかった戦争ものである。 ■多くの戦争映画は二通りに分けられる。 一つは主人公が「戦う」映画。それは主人公が兵士であったり、あるいはレジスタンス的に活動していたりである。望まないで徴兵されてしまうのもこのパターンに入れられる。 もう一つは主人公が誰かを「助ける」映画。「ホテル・ルワンダ」のように誰かをかくまったり、あるいはジャーナリストとして戦地の状況を世界に伝え、国際世論を喚起する(「サルバドル」みたいな)というがこれに当てはまる。 大概の映画はこのどちらかである。 ■ところが、本作はこのどちらにも属さない。この映画の主人公はただ「逃げる」。レジスタンス活動にも結局与することはなく、むしろレジスタンスにひたすら助けられ、かくまわれているだけだ。だから主人公はちっともかっこいい位置付けではない。 だが考えてみよう。もし実際に日本が戦場になったとしたら、我々はレジスタンスを行ったり、他の困窮している人を助けたりするだろうか。恐らく、ただ「生き延びる」ことで精いっぱいのはずだ。だからこの映画は、すばらしく等身大の戦場を描き出しているのだ。 ■ラストのピアノはいろいろと言われているようだが、個人的には弾き手の心のすさみっぷりが伝わってくるような音色だったと思う。ある種の乱暴さではないが、心の傷と棘を感じさせられるような音であった。だからなぜ大尉がシュピルマンを助けたのかを解釈するならば「ピアノに感動した」というよりも「ピアニストの心をかくも傷つけてしまうようなことを自分たちがしてきたことを恥じた」と見た方がいいのではないだろうか。 ■ただ、大尉の登場時間が短いのに、最後に「私は彼を助けたんだから、彼に私も助けてもらえるはずだ」みたいな命乞いをするのは興ざめであった。あれでは自分の命を守るために(おそらくドイツは負けるし、彼は著名人だから影響力もあるだろうと踏んで)彼をわざと生き残らせた、というえらく合理的で感動もあったものではない解釈がもっとも自然になってしまうではないか。あそこにマイナス [DVD(字幕)] 9点(2010-11-07 01:08:04)(良:1票) |
16. 空気人形
《ネタバレ》 人は誰も心に空白を持っている。ペ・ドゥナ演じる空気人形はその象徴である。しかし、空気人形はまさに人間の心の空白を埋めるために作られた心なき代用品だという事実が、皮肉な逆説性を帯びてくる。 ■空気人形は心を持つべき存在ではなかった。心は美しさを感じられるが、同時にはるかに多くの辛さ、悲しさも感じさせてくる。彼女に対して人々が求めるものは結局「自らの空白を埋めるもの」であったのであり、心持つ彼女がそれに答えるのは苦痛でしかなかった。そして逆に心持つものを心を埋める代用品にしようと腹を切っても結局そのまま死んでしまうだけであった。彼女の最後の息は他の人の心の空白を埋めていった。最後まで彼女自身は「人の心の空白を埋めるもの」でしかいられなかった。 ■ペ・ドゥナの演技は本当に素晴らしかった。あの「空っぽの中にわずかに心が宿ったような眼」は素晴らしい。いやらしさ・エロさを出さない裸というのも演技力のなせる技なのだろうか。圧巻 [DVD(字幕)] 9点(2010-08-05 01:06:58)(良:2票) |
17. 時をかける少女(2006)
《ネタバレ》 ■甘酸っぱくほんわりした良作。誰もが憧れるタイムリープを使える少女を軸にした青春ラブストーリーな感じ。純情そうでいて十代も相当屈折してるものだよ、告白を取り消すあたりとか。経験はないけどわかる気はした。 ■タイムトラベルものとしては「バタフライエフェクト」に近い感じ。決して単純にハッピーとはいかず、回避した分だけ誰かが被害に会うというあたりとか。あと、タイムリープするたびに少女が体を痛めつけるところも、タイムリープを安易なものにしていなくていい。 ■中盤がややだれ気味なのとあんまりうまくまとまっていないのとがあるのだが、「お前タイムリープしてるだろ」からラストへの展開はおおと思わされた。でもあの絵にそこまで価値あったのかなぁ。。。 ■ラストの「未来で待ってる」は、普通に「時間がたてば若いチアキと年を重ねたマコトとで出会える」という意味じゃないのかな。だから正確には待つのはマコトだけだけど、代わりにチアキは年を重ねたマコトでもなお好きだ、そういうことじゃないのかな。 [地上波(邦画)] 9点(2010-06-27 00:46:50)(笑:1票) |
18. 母なる証明
《ネタバレ》 ■冤罪はらしの骨格だけ追うと大したことはないように思うかもしれない。けど、細部までキチンと見てみるとこれは相当重い作品である。というより解釈が相当難しい作品である。以下思ったことを時系列的に ■とりあえず最後まで名前の出てこない「母」。彼女は「母」としてしか作品中で規定されていない。すなわち、自分個人としての価値が規定されず、ただ「トジュンの母」としてしか生きていないことが示されている。 ■母親とトジュンは近親相姦を思わせるような関係にある(夜の裸で寝るシーンなど)。警察でも「女と寝たことはあるか」「母親」と答える。トジュンの立ち小便を母親は必死に繕う。 ■衝撃の告白。トジュンは一度母親に殺されそうになっている。農薬を飲まされて無理心中させられそうになった。そのために今のような知能に障害を負っている。そしてそれを思い出した。母親は息子に忘れるための針を指そうとする。息子は「今度は母さんは針で殺そうとした」と叫ぶ。この辺は相当意味深。 ■携帯電話を見せられて、トジュンは目撃者のおじいさんをきちんと指摘する。なぜ???自分が犯人であることがわかってしまうかもしれないのに。もしかして、母親におじいさんを殺させようとたくらんだ???自分を殺そうとした母親に復讐? ■おじいさんの家。母が針を刺そうとする二度目。針は間違いなく何かを暗示してる。そしてその後実際にお爺さんは殺される。 ■トジュン釈放。しかし母は迎えにいかない。なぜか火事現場に立ち寄ろうと言い出すトジュン。深い意味はあるのか? ■家に帰るトジュン。母親に「なぜ死体を高く上げたんだろう」と聞く。自分が犯人なのに。そして恐らく自分が犯人だと母親が分かっているのを知ってるのに。この意味は?しかも「早く助けを呼ぶため」というえらく合理的な理由。 ■冤罪の息子を見に行って泣きだす母。ここにおいては、もはや「トジュンの母」ではなく一人の「普遍的な母」であるのではないか。 ■最後に針の箱を渡すトジュン。「忘れちゃだめじゃないか」というのはどこまで知ってのセリフなのか。 ■そして最後に針を刺して踊る母。針は忘れるためのもの。しかし彼女が忘れたのは、ただ息子が殺人したとかそういうのではなく、「自分が母であること」それ自体ではなかろうか。。。 [DVD(字幕)] 9点(2010-06-02 01:56:15)(良:2票) |
19. 私の中のあなた
《ネタバレ》 よく見かける難病ものだが、その中では群を抜いたストーリーで引きつけてくる。 難病の姉、ドナーとして作られた妹、姉を守るべく戦う母、冷静にしかし暖かく見守る父、それぞれの心の葛藤が上手く描かれている。 最初はドナーから逃れるための訴えのように見えながら・・・というのは、ぶっちゃけ姉の描写を見ている限り恐らくこういう展開では、と予想していたのに見事その通りだったのでそこまでの衝撃はなかったが、しかしなかなかいい展開だと思った。 [DVD(字幕)] 9点(2010-04-30 00:27:44) |
20. チェンジリング(2008)
《ネタバレ》 久しぶりにいい映画を見た。目を話す余裕のない2時間半、完全に吸い込まれた。母親には共感し、警察や精神病院の人にはものすごい理不尽さを感じさせられる。 ■さて、牧師とコリンズ夫人は実は結構見ている世界がずれているような気がした。夫人はただひたすら息子の帰りを信じ、警察にも「謝罪とかは何も要らない、ただ息子を返して」と訴える。他方、牧師は警察の腐敗を告発することが一番であり、きつく言えば夫人は警察被害者のワンケースにすぎない。それが象徴的に表れるのは病院釈放後、ウォルター死亡かのニュースで倒れた夫人が意識を戻した後、牧師に「今は君に注目が集まっている」と夫人に表に出ることを勧めるのに対し、夫人は家に帰ってしまうシーンだろう。 ■そう、夫人の行動を「愛」と書いている人が多いが、確かに愛と言えば愛なのだが、個人的には冒頭の息子とのやり取りで夫が逃げたことに触れて「責任」を持ちだしていたが、その「息子への責任=義務」こそがあるのではなかろうか。 ■なお、別人の息子について。あの「ハリウッドスターに会いたい」のくだりは本心じゃなくて警察に作らされた(言わされた)のだろう(もともとこの子は浮浪者に捨てられて保護されたことを思い出そう)。だからあんな鉄面皮にウォルターだと言い張り続けるのは、警察にそう言えと言われたのはそうだが、端的に「コリンズ夫人のところしか居場所がない」からではなかろうか。 [DVD(字幕)] 9点(2009-12-30 00:42:31)(良:1票) |