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ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 614
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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201.  もう頬づえはつかない 《ネタバレ》 
 桃井かおりの存在感が素晴らしいですね。  あの喋り方、表情。気怠さの中に垣間見せる女の弱さ、強かさ。  考えてみれば、彼女が主演の映画は初体験のはずなのですが、観ていて全く違和感を抱かない。  彼女が主人公なのは当たり前、画面の中央に映っているのは当たり前、と思わせるような魅力がありました。   そんな彼女を観賞する為のアイドル映画とすら言えそうな一作なのですが、舞台設定なども中々に興味深く、画面に映る街並みを見ているだけでも物珍しくて、楽しかったですね。  七十年代後半の日本といえば、自分は生まれてもいない、近くて遠い世界。  学生運動も下火となり、若者達が「権力に反抗しても何も変える事など出来ない」という、無力感に包まれていたと思しき世代。  そこで暮らしている人々の姿が、時代を越えて自らの青春時代と重なる瞬間もあり、何とも言えず切ない気持ちに包まれました。   そんな普遍性を生み出している理由は、やはり丁寧な人物描写にあるのでしょうね。  同棲している男と女とが、狭いアパートの中で 「ちゃんと自分の歯ブラシを使って欲しい」 「口を濯いだ水を、食器を洗っている隣で吐き出さないで欲しい」  などと言い争ったりしている。  現代の目線からすれば、ベタで退屈とも受け取れる日常の一コマから、不思議な説得力を感じる事が出来ました。  主人公の女性がメロンを食べる姿を、如何にもエロティックに撮ってみせる辺りなど「あぁ、当時は目新しい表現だったのかもなぁ……」と、気持ちが醒めてしまう瞬間もありましたが、総じて新鮮に感じる場面の方が多かったですね。   「主人公に素っ気ないが、魅力的な男である恒雄」「主人公に馴れ馴れしくて、ダメ男な橋本」という構図であったのに、それが逆転していく辺りなんかも面白い。  特に前者の存在感は強烈で、終盤にて妊娠を告げる主人公に対し「堕ろしてくれ」と答える辺りなんかは(うわぁ、最低だ……)と心底から嫌悪。  対する後者に関しては、段々と真面目で優しい人柄が明らかになっていき、ちゃんと彼女と結婚して責任を取るつもりだったと判明した瞬間には(良い奴じゃん!)と、胸中で叫ぶ事になりました。   けれど、悲しいかな、主人公の女性は恒雄を愛しており、橋本には愛情に似た何かしか抱いていないのです。  だから橋本と同棲していながら、平気で恒雄と浮気してしまう。  橋本に結婚を仄めかされた事で、初めて「愛していない存在から愛される疎ましさ」を理解する。  こういった場合、自分は主人公の女性に嫌悪感を抱く事が多いのですが、何故か本作は、そんな彼女の気持ちが理解出来たというか、同情すらしてしまったのですよね。   中でも「私は、ただ男を待っているだけの女じゃないからね」という台詞が、実に物悲しい。  それは結果的に「置いてけぼりにされても、本心では待っていた」事を告白してしまっているというか「愛されていないと薄々感じながら、愛する男に対して強がってみせている」心情が伝わって来るかのようで、本当にやるせない思いがしました。  この世には「痛いほど気持ちが分かる」と思わせる女優さんが、確かに存在するのだと、強く実感させられましたね。   そんな行き詰った暮らしの中で、堕胎の悲しみを乗り越えた彼女が、二人の男と決別し、自立する事を示して終わるエンディングは、非常に爽やか。  荷造りの最中に転んでしまっても、すぐに笑顔になって立ち上がってみせる辺りに、女性の力強さを感じられました。   ただ、自分としては(主人公にとってはハッピーエンドかも知れないけど、振られちゃった橋本君が可哀想だよなぁ……)と思えてしまい、そこだけが残念。  彼女は彼を愛していないのだから、仕方ない事かも知れないけど、出来る事ならば、彼女が彼を愛するようになり、結ばれて幸せになる結末なんかも見てみたかったものです。
[DVD(邦画)] 7点(2016-06-29 12:31:03)
202.  シャークネード<TVM> 《ネタバレ》 
 「サメ映画」というジャンルは、非常に当たり外れが大きいです。  もしかしたら当たりよりも外れの方が多いのでは……と考えてしまう事も屡々。   それだけに、本作のような掘り出し物に出会えた時は、その喜びも一入ですね。  無数のサメが竜巻によって空に舞い上げられ、それが浸水状態の市街地に降り注いでくる。  そのアイディアだけでも拍手喝采なのですが、本作が面白い要因としては、きちんとパニック映画としての基本を押さえた筋運びになっている事が大きいのだと思います。   「アイディアと勢いさえあれば、面白い映画は撮れる!」という考えも間違いではないでしょうけれど、やはり基本は大事。  まず、この作品においては「誰が死ぬのか分からない」というドキドキ感の煽り方が、とても巧みなのですよね。  冒頭にて、主要人物っぽく登場した船上の二人が、すぐに殺されてしまう辺りは少々やり過ぎ感もありましたが、それが結果的に上手く作用しており、後に登場する人物達の生存予測を、適度に困難にしてくれています。   そして、もう一つ大事なのが「観客が納得するような人物を生き残らせる」という点。  上述の「誰が死ぬのか分からない」展開と相反してしまう、この条件。  生き残りそうな人物でも死ぬからこそ油断ならない面白さに繋がる一方で、やはり観賞後の爽快感を考えると、生き残って欲しいと思わされた人物が死んでしまうのは、納得出来ないものがありますからね。  大抵のサメ映画は、この矛盾を解消する為に四苦八苦している印象がありますが、本作においては、そのバランス感覚が絶妙。  ラストには反則的な「実は生きていた」展開も駆使して、観客の後味を良くしてくれるのだから、嬉しい限りです。   サメが泳いでいる「道路」の上を、車で走って避難するという絵面だけでも面白いし、血生臭いシーンは控えめになっている辺りも好み。  主人公のフィンは「困っている人を放っておけない」という、典型的なタイプではあるのですが、決してテンプレをなぞるだけで終わっていない点も、良かったと思います。  その性格ゆえに 「私達家族よりも、他人の方が大事なの?」  と妻に責められて、家族関係が不和となっている設定など、きちんと個性が確立されているのですよね。  他人よりも家族を優先して守ろうとする事だって、決して間違いではない。  それでも主人公は、孤立したスクールバスを見かければ、避難する足を止めて、子供達を助け出そうとする。  あまりの「良い奴」っぷりに、惚れ惚れさせられます。   中盤から終盤にかけて、やや間延びしてしまった印象があるのは残念でしたが、その代わりのように「チェーンソーを携えてサメの口の中に飛び込む主人公」なんていう、トンデモないクライマックスを用意してくれているのだから、もう大満足。  愛すべき映画でありました。
[DVD(吹替)] 7点(2016-06-22 11:16:24)(良:3票)
203.  シーズンチケット 《ネタバレ》 
 この映画はハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、それを読ませないバランス感覚が、非常に優れていたと思います。  正直に告白するならば、銀行強盗を企てる直前までの流れにて、少年二人の破滅的な最後も覚悟していただけに、あの心温まる結末には意表を突かれましたし、安堵もさせられましたね。  本来望んでいた通りの形では無かったけれど、彼らなりの「シーズンチケット」を手に入れる事が出来た……というのは、凄く良い終わり方だと思います。  奉仕活動が十二ヶ月という期限付きなのも、上手いなぁと感心。   その一方で、少し気になったのは、作中で一番悲惨な境遇だと思われる主人公の姉、ブリジットの顛末が語られず仕舞いだった事でしょうか。  彼女の行方が不明のままだったので、ラストの爽快感も薄れてしまった印象があるのですよね。  意地悪な言い方をするならば、意外なハッピーエンドに繋げる為に不幸な要素を数多く盛り込み過ぎて、それを回収しそびれたという印象も受けてしまいました。  主人公達が悪事を働いているのを誤魔化すかのように、父親や教師などの「もっと酷い悪役」を登場させてバランスを取ってみせたかのような部分も、あまり好みとは言えません。  チケットを買う為の貯金を、最悪な父親に奪われてしまうのは確かに可哀想なのですが、あんまり同情的に描かれてしまうと(それって、元々は悪い事して貯めた金でもあるんだよね?)と、疑問符も湧いてきました。   でも、やっぱり全体的には「良かった」と思える部分の方が多かったですね。  特に印象的なのは、主人公が父親と一緒にサッカー観戦した思い出を語る場面。  (へぇ、あの親父さんも昔は良い人だったのかな……)などと感じていたところで、実はそれが主人公本人の思い出ではなく、親友から聞かされた思い出話を、さも我が事であるかのように語っていただけなのだと明かされる件なんかは、とても切ない気持ちに襲われました。   チケットを「二人分」手に入れるのではなく「一人分」だけ手に入れて、それを交互に使ってはどうかと親友が提案するも、主人公が首を振って否定するシーンなんかも良い。  二人で観戦しなければ意味が無いんだよ、という友情が伝わってきて、犯罪者であるはずの彼らを、ついつい応援したくなってしまいましたね。   焚火を前にして、一度はチケットを手にするのを諦めた親友が「結構、楽しかったよ」「最低の暮らしの中で見た、一つの夢さ」と語る場面なんかも、忘れ難い味わいがあります。  その後、銀行強盗で捕まり、夢破れた後も奇妙に満足そうにしていた彼の姿が、何だか象徴的。  結局、この映画ではラストにて夢が叶った形なのだけど、夢を叶えたという結果以上に「夢を叶えようと頑張る」過程にこそ、本当に大切なものがあるのかも知れないな、と思わされました。
[DVD(吹替)] 7点(2016-06-15 07:05:12)
204.  隠し砦の三悪人 《ネタバレ》 
 黒澤明が凄い監督さんだという事は「七人の侍」や「用心棒」で充分に承知済みだったはずなのですが、こういうタイプの映画も撮れるんだなと、再び衝撃を受ける事になりましたね。  冒険活劇であり、全編に亘ってコメディ色が強く、作中で人が次々に死んでいるはずなのに、何処か呆気らかんとしている。  必要以上に緊迫感を与えたりしない為、観ている側としても、リラックスして楽しめる一品だったと思います。  やや冗長に感じる場面も、あるにはありますが、面白く観賞出来た時間の方が、ずっと長かったですね。   そんな本作独自の魅力として、特に目を惹くのは、ヒロインである雪姫の存在。  主人公であり、タイトルにもなっていると思われる六郎太、太平、又七に関しては、他の黒澤映画でも似たようなタイプの人物が見つかりやすいのに対して、彼女は非常に個性的だったと思います。  とにかく目力の凄い美人さんで、独特の甲高い声に関しても、最初は「うへぇ」と思っていたはずなのに、気が付けば「これはこれで……」と、それを個性として受け入れる心境になっていたのだから、不思議なもの。  彼女に命を助けられ、その恩に報いる為とばかりに尽くしてくれる名もなき娘さんの存在も、心を癒されるものがありました。   三船敏郎演じる六郎太に関しては、腕っぷしも強く、頭も良く、男気もあり、清濁併せ呑む度量もあってと、文句の付けどころのない人物なのですが、ちょっと主人公としては愛嬌に欠けるような印象も受けましたね。  その弱点を補うかのように、太平と又七とが愛嬌を振りまいてくれているのですが「結局、誰が主人公なんだ?」という疑念も頭に浮かんできて、観賞している間、集中力が削がれてしまったのが残念。  六郎太は作中に登場するのが遅すぎるし、太平と又七に関してはクライマックスに不在だったりするしで、どうも話の核が散漫に思えてしまいました。  特に後者の不在問題に関しては深刻で「えっ? 何で太平と又七は出て来ないの?」と、本気で戸惑う事になりましたね。  てっきり、敵方に密告しても褒美を貰えないと悟った二人が、それならばとばかりに姫様を救出し、ついでに金も取り戻す展開かと思っていただけに、大いに拍子抜け。  窮地の一行を助け出すオイシイ役は、途中から出てきた兵衛さんの担うところとなる訳ですが、六郎太に「百年の知己」と言われても、具体的にどんな過去があったかなどは語られないし、今一つ盛り上がれません。   結局、太平と又七は肝心な場面で六郎太達を見捨てて逃げ出したっきりな訳であり、いくら愛嬌があっても、主役として感情移入出来る範疇を逸脱しているように感じられました。  自分の好みとしては、もっと六郎太を中心に据えた作りの方が嬉しかったかも。   それでも、そんな臆病者の二人が殺されたり、罪人として囚われる終り方ではなく、目当ての金を僅かでも手に入れて、願いを叶えられたハッピーエンドだった事には、ホッとさせられましたね。  立派になった姫様に諭されて、すっかり仲良しになった二人。  だけど、ずっとそのままという訳ではなく、村まで帰る道中では、また喧嘩をしては、仲直りしたりもするんじゃないかな……と、微笑ましく思えました。
[DVD(邦画)] 7点(2016-06-08 07:50:23)(良:1票)
205.  ラン・オールナイト 《ネタバレ》 
 リーアム・ニーソンとエド・ハリス。  二人が画面に映っているだけでも映画として成立しそうな名優の共演作、たっぷり楽しませて頂きました。   一緒に煙草を吸うシーンでの思い出話により、二人が長年の親友である事を自然と理解させてくれる作りなど、上手かったですね。  そして作中で主人公が息子に語り掛ける「お前は撃つな」という台詞。  汚れ仕事を引き受け続けてきた彼の過去とも合致しているし、何より息子を想う父としての願いが伝わってくるものがあって、非常に良かったと思います。   脇役である「誰よりも主人公を憎んでいるはずの警官」も、オイシイ役どころ。  そんな彼が、憎んでいるはずの相手の息子を救う事になる結末なんかも、渋くて好みでした。   一方で、最後の敵という形になる殺し屋に関しては、特にコレといった背景が描かれていなかった事も含めて、どうにも印象が薄くなってしまい、残念。  監督としても、この映画のクライマックスは主人公が親友を殺すシーンであると考えており、その後は簡略的に済ませて「後始末」のように主人公を死なせてみせた、という事なのかも知れませんね。  ただ、自分としては今一つ物足りないものがあって、これなら普通に自首させて終わりでも良かったんじゃないかな、と思えた次第。   それと、この映画のストーリーラインを考えてみるに「飲んだくれのダメ親父と化した主人公だが、実は今でも殺し屋として凄腕である」というサプライズが存在していた事も窺えました。  自分が「96時間」などを未見であったなら (えっ? この親父さん、こんなに強かったの!?)  という衝撃を受けて、もっと楽しめた可能性も高そうです。
[DVD(吹替)] 7点(2016-05-27 14:39:37)(良:1票)
206.  高校大パニック(1978) 《ネタバレ》 
 1974年のニューヨークにて、生徒が銃を携えて高校を襲撃する事件が発生し、それに着想を得たと思しき作品が幾つか作られましたが(リチャード・バックマン著「ハイスクール・パニック」など)日本でも作られていた事に驚きです。  ただ、どちらかといえば作中でも語られている通り、瀬戸内シージャック事件の影響が色濃いようにも感じられますね。  いずれにしても、当時の日本は今よりも身近に銃があったからこそ成立したお話なのだろうな、と思います。   印象深いのは、数学教師に向けて発砲した銃弾が、女子生徒に命中してしまった場面。  その瞬間、主人公である犯人の中にあったであろう「自殺した生徒の仇討ち」という大義名分が消え失せて、もう決して後戻り出来なくなってしまった事が伝わってきました。   他にも、事件によって授業を中断される事となった生徒達が、大喜びして騒いでみせる姿。  図書室に立て籠もる犯人に対し、説得に訪れた母親が泣きながら息子を気遣うの対し、父親は激昂して「早う出て来て、男らしゅう死刑になって、世間様にお詫びせんか!」と言い出すシーンなども、強く心に残っています。   抵抗を続けるも、とうとう逮捕されてしまった主人公。  途中、微かに心を通わせていたヒロインが警官隊に誤射されて、殺されてしまったという展開もあり、その事に対して怒りをぶちまけるのかと思いきや 「放せよ! 来年、受験があんだよ!」  と言い出すのだから、恐ろしくなりましたね。   完全に心が壊れてしまった主人公の叫びによって終わるという、文句無しのバッドエンドなのですが、その衝撃度の高さは折り紙付き。  観て良かった、と思える映画でした。
[DVD(吹替)] 7点(2016-05-22 14:47:07)
207.  何かが道をやってくる
 物語の前半部にて語られる  「何時か僕が年上になってやる」 「彼女は町一番の美人だった」 「貴方が必要なものは、特製のヘアカラーです」  等の何気ない台詞の数々が、後半にて伏線となっているのが、実に見事。   レイ・ブラッドベリの著作といえば「霧笛」を目当てに購入した「ウは宇宙船のウ」くらしか読んでいなかったりするのですが……  本作のストーリーラインも、非常に秀逸だったと思いますね。  主人公の子供が遊園地で不気味な体験をして、自宅まで追い詰められる事になるという点では「ヘンダーランドの大冒険」の元ネタなのかも?  「後の展開の為に必要な部分だったとはいえ、前半を観ている間は、やや退屈」 「大人になった主人公の回想形式である為、最後は無事に生き延びると分かってしまう」  等の欠点もあるかも知れませんが、それらを補って余りある魅力を感じられました。  特に後者に関しては、さながら途中から主人公が交代したかのように「主人公の父親」の方にスポットが当てられており (もしかして、主人公の身代わりとなって親父さんが死んでしまうのでは?)  とドキドキさせられるという、巧みな仕掛けが施されている形。   逆回転する木馬に乗る事によって、大人が子供に若返るという、とても幻想的でグロテスクな場面も良いですね。  程度の差こそあれど、大人なら誰しもが抱いていそうな「子供に戻りたい」という願望。  そんな願望を刺激して、心の隙間に潜り込んでいく悪魔の姿が、実に恐ろしく描かれている映画でした。
[DVD(吹替)] 7点(2016-05-22 04:11:09)(良:1票)
208.  知らなすぎた男 《ネタバレ》 
 主人公が有能なヒーローであると勘違いされる映画、好きですね。  「サボテン・ブラザース」然り「ギャラクシー・クエスト」然り。   そういった訳で、上述の作品を愛する身としては 「何時、主人公が真実に気付いて、慌てふためく事になるのかな?」  なんて思いながら観賞していたのですが……   結局、最後まで周りを勘違いさせたままエンディングを迎えたんだから、もう吃驚です。  さながら「刑事コロンボ」で犯人が捕まらずに、そのまま逃げ切ってみせたかのような衝撃。   でも、決して「裏切られた」という印象は受けず、完走し切ってくれた事に、心地良い満足感を味わえましたね。  途中で主人公が真実に気付いた方が、そこから二転三転させてのストーリーを展開させ易いだろうに、あえて初志貫徹してみせたかのような作りは、本当に天晴だと思います。   ラストのキスシーンの背後で、悪役を乗せたヘリが爆発するんだけど、その事にも主人公は気が付かないまま。  何かが爆発したかと思うくらいに衝撃的なキスだった、と呑気にヒロインに話す辺りなんて、実に微笑ましい。   他にも、自白剤を飲まされた主人公が「今日は誕生日だ」という情報を口にした途端、悪役達が反射的に「ハッピーバースディ」と声を揃えて祝福してみせる場面なんかも、お気に入りですね。  この映画が備えている「愛嬌」を、如実に示したワンシーンだと思います。   そんな中で、あえて不満点を挙げるとしたら……  「最後は弟と一緒に葉巻を吸って欲しかった」と、それくらいになるでしょうか。  序盤にて、葉巻を吸う事が誕生日のゴールであるかのように描かれていたので、その予想が正解であって欲しかったんですよね。  あとは、主人公である兄に比べると、弟の扱いが不憫だったので、兄弟仲良くハッピーエンドを迎えて欲しかったなと、そう思えちゃいました。   映画が終わった後も、主人公は周りを勘違いさせたまま、敏腕エージェントとして活躍し続けるのか。  はたまた正体がバレてしまい、無事に結ばれたはずのヒロインとの仲も危うくなってしまうのか。  そんな後日談について考えるだけでも、楽しい気分にさせられる一品でした。
[DVD(吹替)] 7点(2016-05-21 05:38:57)(良:2票)
209.  THE WAVE ウェイヴ 《ネタバレ》 
 これは恐ろしい映画です。  何せ作中で行われている「独裁を疑似体験する為の授業内容」が、日本の義務教育に(それも多感な時期の子供が集まる中学校での風景に)瓜二つなんですからね。 ・全員が同じ制服を着る。 ・発言する時は手を上げて、起立してから話す。  他にも色々と当てはめる事は出来そうですが、この二つに関しては特に 「えっ? それって特別な事なの?」  と感じてしまう日本人が多いのではないでしょうか。  ナチスの記憶が残るドイツだけではなく、日本の教育を受けてきた者が観賞しても、色々と考えさせられるものがあると思います。   更に興味深いのは「独裁制度の利点」と呼べるような部分を、前半にてキチっと描いている事。  同じように「支配される」立場となった時、生徒達の間で連帯感が芽生え、差別意識も弱いものイジメも無くなっていく流れなどは、目を見張るものがありました。  また「スポーツ」「演劇」などの要素も取り入れられており、集団が一つの目的に向かって行動する際に、その意思を統一する事は決して悪い事ばかりではない、と教えてくれる事にも感心。   こういった内容の場合、どうしても堅苦しい作りになってしまいそうなのですが、全編に亘って爽快な曲調のロックが配されており、若き主人公達の青春群像劇としても観賞する事が出来るのだから、非常にバランスの優れた作品なのだと思います。  生徒達にリーダーとして崇められていく内に、自分を見失っていく体育教師が 「毎週月曜日には安定剤が必要だ。学校が怖いからな」  と心情を吐露する場面なども、胸に迫るものがありました。   一方で、その「青春」部分が劇的に作用し過ぎたかのような、終盤における生徒達の「死」に関しては、蛇足であるように感じてしまい、非常に残念。  自分としては教師が「これが独裁だ!」と宣告した場面で、スパッと終わってくれた方が好みでしたね。  その方が、歴史を学び過ちを繰り返したりはしない、人間の理性の勝利というハッピーエンドに感じられたと思います。   折角あれだけ丁寧に「独裁」の恐怖を描いてくれたのに、銃を持ち出されて殺人やら自殺やら行われてしまったのでは 「少年が簡単に銃を入手出来る、その事の方が独裁云々よりも重大な問題なのでは?」  と思えてしまい、どうも軸がブレているように感じてしまったのです。  それが作り手の狙いであったという可能性もあるかも知れませんが、自分の場合、純粋に思考実験を通して「独裁制度は間違っている」と証明してもらえただけで満足だったし、その後に「……何故なら、こうやって人が死んでしまうからだ」という説明を付け足すかのような行いは、無粋ではないかと思えてなりません。   ただ、そんな風に不満も覚える一方で、この展開ならではのラストシーンの良さも、確かに感じ取る事は出来たかと。  生徒を死に至らしめた「独裁者」として逮捕される教師の視点と、観客の視点とが重なり合う演出は、実にお見事。  「独裁制を支持してしまう恐怖」だけでなく「自らが独裁者となってしまう恐怖」さえをも、はっきりと追体験させてくれたところで、綺麗に映画が終わるという形なのですよね。   幽霊や殺人鬼が登場するホラー映画などよりも、こういった代物の方が「本当に怖い映画」と言えるのじゃないかな、と改めて実感させられました。
[DVD(吹替)] 7点(2016-05-19 07:54:30)
210.  コンドル(1975) 《ネタバレ》 
「新聞に出ると思うか?」  というラストでの台詞に、ドキリとさせられましたね。  この手の映画は、主人公が新聞社に真実を告げる事によって、無事にハッピーエンドを迎えるもの……という固定観念のあった頃に観たもので、その台詞に秘められた恐ろしさには、本当に背筋が凍る思いがしました。  主人公が真実を告発する前に殺されてしまうアメリカン・ニューシネマな結末よりも、更に恐怖や無力感、やるせなさを感じさせる結末ではないでしょうか。   冒頭の事務所襲撃シーンでの、日常が瞬く間に破壊されてしまうシークエンスも迫力がありましたし、マックス・フォン・シドー演じる殺し屋と向き合う事となる、終盤の緊迫感も良かったですね。  ただ、映画の中盤に関しては、CIAのワシントン本部の描写が非常にチープであった点や、ヒロインであるフェイ・ダナウェイとのロマンスに、今一つノリきれなかった点などが響いてしまい、少々退屈に感じてしまったのも事実です。   勿論彼女は美人さんだし、こんな状況下においてもベッドシーンに突入してしまう男の気持ちも、分からないではないのですが 「えっ? これって仲間を殺された復讐の為に行動する、ストイックな主人公の話じゃなかったの?」  と、どうしても戸惑ってしまいましたね。  こういった展開を迎えた以上、彼女も殺されてしまうのじゃないかな、と思っていたら、そんな事も無く、ロマンティックな会話と共に別れる事となり、ホッとさせられる一方で、どこか物足りないような気持ちにもさせられました。   観客がマスコミの力を信じられるかどうかによって、ハッピーエンドともバッドエンドとも解釈する事が出来そうな結末ともども、色々と判断が分かれそうな要素が多いのですよね。  どんな映画にだって当てはまるでしょうが、この品は特に「これを名作と感じるも、駄作と感じるも受け手次第」という側面が強いというか。  自分がプラスに思った上述の部分だって「後味が悪い」「殺し屋と撃ち合いもせずに会話だけで別れるだなんて拍子抜け」と受け取る人もいるでしょうからね。  そういった諸々も含めて、面白い映画だと思います。
[DVD(字幕)] 7点(2016-05-12 10:57:27)
211.  ミクロキッズ 《ネタバレ》 
 漫画「刑務所の中」にて、囚人が所内で観賞させてもらったビデオ映画として本作の名前が挙げられており、驚いた記憶がありますね。  これを観たら、さぞかし家族が恋しくなってしまうのでは……と思わされました。   作品そのものに関しては、これぞ安心して観られるファミリー映画といった印象。  ミクロ化してしまったら、散らばる機械の破片だけでなく、降り注ぐ水滴さえも兵器のような威力に感じられるという内容が、とても面白いですよね。  こういった設定であれば、間違いなく期待してしまうであろう「食べ物」「昆虫」などの要素を忘れず押さえてくれているのも嬉しい。  色々と知的好奇心をくすぐるものがあり、ちょっと穿った見方をするならば「教育ママが幼い我が子に観せたくなるような映画」という評価を下す事も出来そうです。   何よりもこの映画の優れた点というか、バランスの良さは、全編にわたって心地良いユーモアが散りばめられており 「たとえ子供がミクロ化しなかったとしても、この家族達のドラマなら面白そう」  と感じさせてくれる事にあると思います。  実際、自分なんかは冒頭部分の「宗教上の理由で別れたカップル」「小柄な息子と大柄な父親」などの件でも、充分に楽しめましたからね。  さながら連続ドラマの中の一話として「今度は子供達が小さくなる話」というのを観せてもらったかのような感覚。   大きなサプライズ展開も無く、強烈な感動を味わう事は難しいかも知れませんが、安心して心地良い作中世界に浸る事が出来る。  そんな映画です。
[DVD(吹替)] 7点(2016-05-08 04:31:04)(良:1票)
212.  Dearダニー 君へのうた 《ネタバレ》 
 「ジョン・レノンからの手紙」というと、何だかそれだけを主題にして一本の映画が作れそうな魅力を感じますが、本作に関しては、決して彼からの手紙だけで終わる映画ではありませんでしたね。  手紙は確かに劇的な効果を齎してくれますが、それはあくまでも主人公ダニーの意識を変えて、行動を起こさせてくれたキッカケに過ぎないというバランス。とても好みでした。   それにしてもまぁ、アル・パチーノという人は本当に演技が上手いなぁ、としみじみ実感。  往年のロックスターだが、若い妻は浮気しているし、息子との関係は断絶中。  麻薬も手放せなくて、もう何十年も曲を書かずに、往年のヒット曲「ベイビードール」をツアーで歌い続ける日々を送っている男。  こんな具合に文章で列挙してみれば、幾つもの要素が絡み合った複雑な役柄のはずなのに、非常にシンプルな人間であると感じさせるほど、スッキリと演じきっています。   序盤に、ジョンからの手紙を読んで衝撃を受ける件も良かったですし、妻とその愛人とに別れを告げて、豪邸を後にする姿も、何だか妙に格好良い。  宿泊先のホテルにて、若い従業員達と小粋なジョークを交えた会話を繰り広げたり、お堅い女性従業員を口説いてみせたりする様が、観ているだけで楽しい気分にさせられるのですよね。  確かなスターのオーラを感じます。   終盤にて、苦労の末に完成させた新曲のバラードを歌おうとするも、客に要求されるのはいつもの「ベイビードール」。  迷った末に、寂しげな笑みを浮かべながらも「分かってる。皆が聴きたいのは、この曲だよね」と、望まれた通りの曲を歌い出す姿には、実に深い人間味を感じられました。  この主人公の選択に関しては、作中でハッキリと否定的に描かれており、実際に後になってから、新曲を楽しみにしていた女性従業員に非難されたりもしています。  それでも、何処となく「自分の理想を追い求めるよりも、客が望むものに素直に応えてみせたプロとしての姿」という切なさ、悲しさのようなものを感じさせてくれたのが、パチーノの演技が生み出す深みというものなのかも知れません。   その後の、長年の友人であるマネージャーが「ダニーは凄く良い奴だ」と彼の息子に語り掛けるシーンも素晴らしかったですし、ラストシーンにて、吉報を表すジンクスの「やぁ、トム」という息子の名前を呼びかける台詞で終わる構成も、凄く気持ちが良い。  実話を元にしたがゆえか、色々と煮え切らない部分もあり、主人公が一度は辞めたはずの麻薬に再び手を染める展開など、少し劇中との距離を感じてしまう瞬間もありましたが、総じて満足度高めの時間を過ごせましたね。  冷たい現実を内包しながらも、なお温かい映画だと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2016-04-27 06:01:40)
213.  あるいは裏切りという名の犬 《ネタバレ》 
 ダニエル・オートゥイユといえば「メルシィ!人生」などのコメディ映画の印象が強かっただけに、今作には衝撃を受けました。  とてもシリアスであり、それ以上にシンプルな力強さを備えた刑事ドラマ兼犯罪ドラマであったと思います。   邦題は格好良いけれど、そこまで「裏切り」に重点が置かれた映画とも思えなかったので、観賞後には少し違和感を覚えましたね。  けれど自分のように、このタイトルのお蔭で興味を持つ方も多いでしょうし、プラマイゼロ、あるいはプラスの方が上、といった感じでしょうか。   主人公レオの存在感も素晴らしかったのですが、個人的に圧倒される思いがしたのは、悪役であるクランの方。  このキャラクターは、一概に「悪役」とは言い切れないくらいの深みがあるんですよね。  元々は主人公の親友だったのに敵対してしまう事になるとか、主人公の妻も交えた三角関係だとか、よくよく考えてみれば王道で、ありがちな設定ばかりなのだけど、観ている間は凄く新鮮な気持ちを味わえました。  理由を分析してみるに、恐らくは演じている役者さんの「うわぁ、こいつぁ如何にも悪そうだ!」という風貌と立ち振る舞いに、単純な「嫌な奴」であると思い込んでいたところで、少しずつ「善人」の名残を見せてくれるというギャップに、すっかり参ってしまったのでしょうね。   特に唸らされたのが、囚人となった主人公が娘を抱きしめられるように、そっと手錠を外してみせる場面。  そこには確かに善意や友情を感じられる一方で、同時に主人公の怒りを和らげるのが目的の罪滅ぼし、醜い誤魔化しといった負の感情も伝わってきて、非常に味わい深いものとなっています。  この映画で、最も印象に残るシークエンスでしたね。  こういった物語では、単なる背景設定だけで終わってしまう事も珍しくない「今は争っている二人だが、元々は親友でありパートナーであった」という要素を、実に上手く活用していたと思います。   そして出所した主人公が裏切り者に制裁を加えるべく動き出す終盤で、映画は最高の盛り上がりを見せる……と言いたいところなのですが、あまりにも展開が早過ぎて、あっさりと決着を付けた印象があり、少々残念でした。  確認してみたら、映画が始まって「主人公の逮捕」に至るまでが約一時間。  そこから二十分ほどで「主人公の出所」。  そして残り二十分で結末まで辿り着く訳だから、どうしても後半が駆け足に感じられます。  もう少し、主人公が刑務所に入る前と後のバランスを考慮して、多少上映時間が伸びるのを覚悟の上で前後の尺を同じくらいにしても良かったんじゃないかな、と思う次第。   ラストシーンに関しては「これって主人公も死ぬんじゃない?」と予想していた中で、娘と共に和やかなハッピーエンドを迎えてくれて、嬉しかったですね。  あぁ、そうか、だから主人公に復讐の引鉄をひかせなかったのか……と、しみじみ納得させられました。  亡き妻の仇に対して、自ら手を下す姿だって、そりゃあ絵になるかも知れませんが、残された娘の事を思えば、やはり主人公の決断は正しかったのでしょう。   静かなエンディング曲も相まって、ノワール映画とは思えぬほどに、優しい余韻を与えてくれる映画でした。
[DVD(吹替)] 7点(2016-04-25 21:34:13)
214.  スティーブン・キング/ドランのキャデラック 《ネタバレ》 
 クリスチャン・スレーター主演という情報を元に観賞してみたら、まさかの悪役。  元々善玉だけでなく悪党も器用に演じきる俳優さんという印象がありましたが、今回もハマっていましたね。  彼が演じた役柄で一番好きなのは「フラッド」の主人公なのですが、この映画のドラン役も、それに次ぐインパクトを与えてくれました。  特に終盤、自慢のキャデラックの中に閉じ込められてしまうシーンでの焦燥感や、息苦しさを伝えてくれる演技なんかは、必見です。   そして、そのキャデラック。  映画のタイトルになっているだけの事はあり、魅力たっぷりなアイテムとして描かれています。  完全防弾、背後を追跡してくる車を観察出来るカメラ、車内用パソコンに、緊急時の酸素吸入器(?)まで付いているという至れり尽くせりっぷり。  劇中では悪役が乗り回している代物であり、主人公にとっての復讐の対象となる車なのですが、妙に男の子心を刺激され、憧れてしまう存在でした。   原作がキングという事もあってか、主人公に妻の亡霊が見える設定もあるのですが、こちらに関しては必然性があったのか、少々疑問。  妻が妊娠していた事を悟らせる効果があったのでしょうが「それって幽霊経由でなくとも良かったのでは?」という疑念を抱いてしまいましたね。  映画後半では主人公とドランとの一騎打ちとなって、妻の幽霊は全く姿を見せませんし、決着が付いた後に、何か一言残して天国へと旅立ってくれる訳でも無し。  よって、幽霊の存在が途中から立ち消えする形となり、何だか宙ぶらりんに感じてしまうのです。  超常現象などを絡めずとも、純粋に復讐譚として楽しめるクオリティがあるじゃないかと思えただけに、そこが気になってしまいました。   映画終盤「主人公が行動を起こさずとも、いずれドランは逮捕される運命だった」と判明する件に関しては、実に皮肉が利いていて良かったと思います。  逮捕のキッカケとなった児童売買についても、ドランは決して乗り気ではなく、むしろ苦悩すら垣間見せていた辺りなんかも、好みのバランス。  主人公側だけでなく、ドラン側にも感情移入させてくれて、両者の対決の行方がどうなるのかに注目させてくれました。   全てが終わった後に、空を見上げて、乾いた高笑いを響かせる主人公。  そこには達成感が多分に含まれていたのでしょうが、それと同時に、復讐の空しさも感じていたのではないかな、と思えます。  独特の後味を与えてくれる映画でした。
[DVD(吹替)] 7点(2016-04-13 16:56:31)
215.  パラノーマン ブライス・ホローの謎 《ネタバレ》 
 導入部の短い時間の中で、主人公に感情移入させるのが巧いなぁ、と感心。  「幽霊が見えて、話す事が出来る」という能力の持ち主が、周囲からは如何に奇怪な存在に思えるか、という点をテンポ良く説明してみせる親切さが心地良いんですよね。  学校でのイジメも陰鬱になり過ぎない範囲で、同情を誘うように描かれており、この後に彼が周囲に理解され、立場が改善される展開になる事を願わされます。   他にも、変人のように描かれていたお婆ちゃんが「実は幽霊である」という最初の種明かしの時点で、これは自分好みの映画だと直感的に覚る事が出来ましたね。  主人公を見守るお婆ちゃんの霊というと、性格的にも分かり易く優しかったり、あるいは窮地を救ってくれる助っ人的なポジションだったりするのを予想するところなのですが、この映画では本当に孫を見守っているだけで、出番すらも僅かで、直接的に役立ってはくれないんです。  それを作劇として不誠実と感じる向きもあるでしょうが、自分としては何となく、その「すっとぼけ」具合が好ましく思えました。   一番面白かったのは、中盤のゾンビが町を訪れるシークエンス。  目の前にゾンビが迫ってきているのに、自販機で買ったお菓子が出てくるまでは逃げ出す事が出来ずにいる市民の姿なんかが、妙にツボでした。  ただゾンビ映画のテンプレをクレイアニメでなぞるだけでなく、こういった独自のユーモア感覚が全編に散りばめられているから楽しい。  格好良くショットガンを取り出して「頭を吹っ飛ばせーっ!」と叫ぶ金髪のオバちゃんの姿なんかには、こちらのテンションも大いに高まりました。   「ゾンビよりも人間の方が怖い」というのは、これまでにも何度か描かれてきたテーマではありますが、この作品くらいハイテンションに、かつギャグの色も濃密に描いたパターンというのは、初めての体験でしたね。  ゾンビが人間を襲うのではなく、人間がゾンビを襲っているというアベコベな風景を、途中までは笑って観ていられたのに、段々と「魔女狩り」の色合いを帯びてくる集団の姿に、ゾッとさせられるという二段仕掛けの構成も秀逸。  狂気とは笑いにも恐怖にも通じるものなのだなぁ、と実感させられました。   一方で、終盤の展開に関しては少し不満というか、期待していたのとは違う方向性に話が進んだように思えて、残念な気持ちに。  まず、一度は弟を見捨てたはずの主人公の姉が味方になってくれる展開が、どうにも唐突に感じられてしまった事。  そして騒動の根源となっている魔女との対決が、似通った境遇の少年と少女の対話によって解決されるという展開に「えっ? そんな道徳的な話になるの?」と戸惑ってしまった事が大きいですね。  後になって思い出せば、冒頭のお婆ちゃんの台詞「ちゃんと落ち着いて話し合えば、違う結末になる」が伏線になっていたのだと分かるのですが、観ている最中は?マークに頭を占められてしまいました。   個人的好みとしては、中盤までの悪ノリとブラックユーモアに溢れた世界観で突っ走って欲しかったという思いがあるのですが、終盤の感動的なシークエンスによって、この映画に「誰でも安心して楽しめるような優等生的作品」という長所が生まれたのも確かですね。  主人公の友達となってくれるニールや、その兄など、脇を固めるキャラクター陣も魅力的。   ラストシーンの、それまで頑なに息子を否定していた父親が、ようやく幽霊の存在を受け入れて亡き母に語り掛けてくれるという、静かなカタルシスを与えてくれる終わり方も良かったです。  一家揃って仲良くホラー映画を観る姿には、憧れを感じさせるものがありました。
[DVD(吹替)] 7点(2016-04-13 09:47:05)
216.  トランスポーター 《ネタバレ》 
 これは度胆を抜かれた映画ですね。   「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」や「スナッチ」でお馴染みの顔だったジェイソン・ステイサム。  彼が主演の映画という事で、軽い気持ちで観賞してみたら、予想を遥かに上回るアクション濃度。  特に終盤の上半身裸になっての格闘シーンは圧巻で 「えっ? この人こんなに強かったの!?」  と、画面の中で躍動する彼の姿に、呆気に取られ、次いで笑みが込み上げてきたのを覚えています。   序盤に繰り広げられるストーリーや、主人公とヒロインの設定に関しては 「あぁ、リュック・ベッソンだなぁ……」  としか思えず、完全に油断していただけに、今作で明かされた「強さ」というステイサムの強烈な個性に、痺れてしまいました。   今は日本でも気軽に購入出来るようになったジュースのオレンジーナを、作中でヒロインに飲ませてあげるシーンなんかも印象深いですね。  ラストも囚われの人々を開放するのと同時に、スパっと切れ味良く終わるのも好印象。  エンディング曲も好みでしたし、気持ちの良い時間を過ごせた一品でした。
[DVD(吹替)] 7点(2016-04-12 08:04:04)(良:1票)
217.  HELL ヘル(2003) 《ネタバレ》 
 刑務所映画が好きで、ジャン=クロード・ヴァン・ダムが好きな自分としては期待しつつ観賞したのですが、それを裏切らない内容でありました。   まず、入所時の主人公が決して強くはない事が意外。 「これはアクション要素を極力排した、シリアスな刑務所物語なのか?」  と思わせて、事実その通りに陰鬱とした展開が続き、中盤にて「スパルカ」の存在が明かされて、一気にアクション映画の色合いが強くなる。  その後のトレーニングシーンは中々に心躍るものがあるし、ヴァン・ダムがヴァン・ダムらしい強さで敵となる囚人達を倒す姿には、大いに満足。  かと思えば終盤には主人公は戦う事を否定し始めて……といった具合に、二転三転する内容が飽きさせなかったですね。 「あれ? 結局どういった映画になるんだ?」  という興味も相まって、先の展開や結末を推理しながら楽しむ事が出来ました。  この構成は主役を演じたのがヴァン・ダムだからこそ、と思えますね。  アクション俳優として抜群の存在感がある彼が主役だからこそ、この映画は一体どちらなんだ? と考えを巡らせる事が出来るという。   また、主人公の妻がレイプされて殺されており、それがトラウマとなって何度も夢に出てくるのですが、そんな妻の姿と重なるように、主人公の同房人には少年期にレイプされた過去があるし、刑務所で仲間となった若い美男子も現在進行形で囚人達にレイプされている、という設定にも感心。  それゆえに、後者の死に衝撃を受けた主人公が「俺はもう看守の言いなりになって戦わない」という宣言に至る流れも理解出来るし、前者と共に脱獄を図る展開にも、自然と応援したくなる気持ちが湧いてきます。  逆に、他の囚人までもが主人公に影響を受けて「スパルカ」を否定する展開には、少々唐突なものを感じたのも事実ですね。  自分としては「これまで数多くの死者が出ていただけに、元々不満も溜まっていたのだ」と解釈しています。   全編に渡って暗い雰囲気が立ち込める映画であり、ラストシーンも解放された喜び、自由を手に入れた達成感などは希薄。  それでも、地獄のような刑務所生活の中でも、最後まで愛する妻が傍にいてくれたし、これからも共にい続けるのだ、と静かに再確認するかのような主人公の姿には、心を打たれるものがありました。  ヴァン・ダム主演映画の中では「その男ヴァン・ダム」と並んで好きな映画となりそうです。
[DVD(字幕)] 7点(2016-04-02 06:44:13)
218.  あなたが寝てる間に・・・ 《ネタバレ》 
 家族を求めていた主人公が、家族を得るまでを描いた物語。   その点、あまりラブコメらしくないというか……  「恋人を求め、恋人を得るまでを描いた」という普通のラブコメ映画とは、一線を画すものがありますね。  何せ彼氏役のジャックが登場するのが、本編開始後30分くらいになってからというんだから、徹底しています。  最後のプロポーズ場面でも、ジャック単独ではなく家族同伴で行ってるくらいだし、本作のハッピーエンドとは「素敵な恋人が出来た事」ではなく「素敵な家族が出来た事」なのだと伝わってきました。   そんな本作の特長としては、やはり主演のサンドラ・ブロックの魅力が挙げられると思います。  冷静に考えたら、こんな美女が「恋人のいない孤独な女性」を演じるって、かなり無理があるはずなのに、映画を観てる間はそう感じさせないんだから凄い。  シカゴの地下鉄で改札嬢として働き、毎朝見かける客に恋してるって設定なのですが、その姿が本当に健気で、応援したくなっちゃうんですよね。  憧れの彼に「メリークリスマス」と言ってもらえたのに、上手い返事が出来ずに落ち込んじゃう様なんてもう、実にキュート。  主人公のルーシーが嘘を吐き、ジャックの家族を騙してる形なのに、全然「嫌な女」とは思えなかったし、無理のある設定を主演女優の魅力で補ってみせているんだから、本当に見事でした。   脚本も中々凝っており、特に大家の息子のジョーは良いキャラしてたというか、物語の中での使い方が上手かった気がしますね。  彼が得意気に「ルーシーと付き合ってる」と言い出した時、観客としては(なんて図々しい)と感じるんだけど、良く考えたらルーシーも同じような嘘を吐いてるんだと気が付かせる形になってるんです。  だからこそ、終盤で罪悪感ゆえにルーシーが結婚式を破綻させちゃう流れにも、自然と納得出来ちゃう。  ある意味、ルーシーには一番お似合いというか、似た者同士な二人であり、終盤で二人がハグを交わし「良い友達」という関係性に収まるオチには、ほのぼのさせられました。   難点としては……駅でピーターを突き落とした二人がどうなったのか、謎のままなのでスッキリしない事。  そして「寝てる間に婚約者が出来て、それを弟に奪われた」って形になるピーターが哀れで、ハッピーエンドに影を落としている事が挙げられそうですね。   優しい作風の品なのだから、最後も「主人公は幸せになりました」というだけでなく「皆が幸せになりました」という形の方が似合ったんじゃないかなって、そんな風に思えました。
[DVD(吹替)] 6点(2023-12-26 02:32:31)(良:2票)
219.  メリーに首ったけ 《ネタバレ》 
 破天荒なラブコメ作品。   この頃のファレリー兄弟作が好きな人にとっては、後の作品は「良い子ぶってる」と思えるだろうし「これぞファレリー兄弟の真骨頂」と本作を賛美する人の気持ちも、分かるような気はしますが……  自分としては「後の飛躍を感じさせる、粗削りな初期作品」って印象でしたね。  決して嫌いではないけど、完成度は低かった気がします。   主人公のテッドが小説家志望とか、冒頭に出てきたルイーズの存在とか、色んな設定やキャラを活かしきれていない気がするし、あれもこれもと面白そうな要素を詰め込んだ結果、粗が目立つ形になってるのが、良くも悪くもアマチュア的。  序盤の「ナニをチャックに挟んでしまった」展開も痛々し過ぎて笑えないし、最後の終わり方も唐突過ぎて(雑だなぁ)と感じちゃいます。  自分は本作を何度か観返してるんだけど、その度に序盤で(うわ、痛そう)と引いちゃうし、最後には(すっごい雑な終わり方)と呆れてるんだから、これはもう筋金入りというか、この二点に関してだけは、とことん自分に合わないポイントなんでしょうね。   でもまぁ、やっぱり嫌いじゃないというか……むしろ好きな映画なんです、これ。  そもそも監督がファレリー兄弟で、主演がキャメロン・ディアスとベン・スティラーという自分好みな布陣なんだから、嫌いになれという方が無理な話。   メリーに言い寄る男共を多数用意して、群像劇として描いてるにも関わらず、主人公のテッド以外が酷い奴揃いで「誰がメリーと結ばれるか」みたいなドキドキ感が無い(ブレット・ファーヴは例外的に聖人として描かれてるけど、実在人物である彼がメリーと結ばれるはず無いと観客は分かっちゃう)辺りとか、映画としては致命的な欠点だと思うけど……  ベン・スティラーという名優がテッドを演じ(こいつとメリーが結ばれなきゃ駄目だ)と思わせてくれるお陰で、その辺も気にならなかったです。   あと、一番大事なポイントとして「作中で色んな男に言い寄られるくらいに、メリーは良い女である」って事に、しっかり説得力があったのも素晴らしいですね。  これはもう脚本とか演出以上に、キャメロン・ディアスという存在ありきの、力業みたいなもんだと思います。  「ヘアジェル」で髪が逆立ったメリーの姿を、下品にし過ぎず、可哀想にもし過ぎずに(この子、可愛いな)と笑える形で演じられるのって、彼女だけじゃなかろうかって思えたくらい。   それから、本作って下品なギャグが目立つけど、実は凄く道徳的な話でもあると思うんですよね。  メリーの弟のウォーレンに関しても、知的障碍者である以上、映画としては「天使のように良い子」として描かれるのがお約束なのに、本作では全然そんな事無いんです。  テッドの顔に釣り針を引っかけても「僕じゃない、テッドが悪いんだ」と言ったりして、むしろ嫌な奴というか、悪い子として描いてる。  でも、最終的にはテッドに心を開いて、耳に触れられても怒らない場面を見せたりして、可愛いとこあるじゃないかって思わせたりもする。  つまり「基本的には悪い子だけど、それなりに可愛気もある」という、非常にリアルなバランスなんですね。  その辺り「障碍者だからといって、特別扱いはしない」「障碍者は皆して善人だなんて、そんなの馬鹿げてる」っていう作り手のスタンスが窺えて、自分としては好ましく思えました。   誠実なテッドがメリーと結ばれ、嘘ついて彼女に言い寄ってたパット達は振られちゃうのも、如何にも道徳的というか、童話的。  「好きな映画が一緒」って事に浪漫を感じる身としては、本当は好きな映画でもないのに騙してメリーに言い寄るパットって場面が一番抵抗あったし、その後の顛末にも大満足。  やっぱり、映画オタクとしては、映画の好き嫌いでは嘘ついて欲しくないです。   最後は人が撃たれて、悲劇的な幕切れのはずなのに、エンドロールでは皆で唄って賑やかに終わるのも、何だかアンバランスな魅力があって良い。  ファレリー兄弟の映画って、観た後は大体明るく楽しい気持ちになれるんだけど……  それは本作に関しても、例外ではなかったです。
[ブルーレイ(吹替)] 6点(2023-12-20 10:49:39)(良:2票)
220.  メイズ・ランナー2 砂漠の迷宮 《ネタバレ》 
 まさかのゾンビ映画。   一本の映画の中で「実はホラー映画でした」と中盤で判明する例なら、これまでにも何度か体験済みですが「三部作の2からゾンビ映画になる」ってパターンは、流石に初体験です。  これ、前作のファンにとっては辛いというか「ゾンビなんて良いから、迷路で探検して欲しい」って気持ちになって、失望しちゃったかも知れませんね。   でも、自分みたいに「ゾンビ映画が好き」「そもそも1の時点で、迷路が主体の映画ではなかったと思う」ってタイプにとっては、このサプライズ展開、かなり良かったです。  「近未来が舞台の、ティーンズゾンビ映画」って時点で貴重だと思うし、そういうものだと割り切って観れば、中々目新しい魅力があるんですよね。  序盤にて、主人公達が収容施設から逃げ出す展開になるのも、脱獄物としての面白さがあって、これまた自分好み。  廃墟と化した都市の描写なども、低予算映画では中々拝めないような絵面で良かったです。   三部作を一気見して気付いた事なんですが、このシリーズって「全体の完成度はイマイチだけど、ちゃんと観客を喜ばせるような見せ場は用意してある」って特徴があり、本作も例外ではなかったって辺りも、嬉しいポイント。  特に「ゾンビと争ってる最中に、ガラスの床を割って高所から落として倒す」って場面は、かなりお気に入りですね。  これまで色んなゾンビ映画を観てきたけど、こういう倒し方もあるんだなぁって感心しちゃいました。   仲間内で最も強くて頼もしい存在だったミンホが、最後に連れ去られ「囚われのお姫様」ポジションになってしまう事。  そして、影の薄いヒロインのテレサが敵組織の内通者となる事も、程好いサプライズ展開って感じであり、良かったと思います。   序盤にて(施設内に監視カメラとか無いの?)と思っていたら、脱走した後に各所に監視カメラがあると発覚し(いや、主人公達の部屋にも設置しとけよ)とツッコまされたりとか、作り込みの甘さは否めないけど……  そういった諸々込みで、割と楽しめちゃいましたね。   シリーズ中でも異端の品であり、真っ当なファンなら反発しちゃうかも知れない、本作品。  だけど、天邪鬼な自分としては、こういう映画って結構好きです。
[DVD(吹替)] 6点(2023-11-28 18:50:40)(良:2票)
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