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ユーカラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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41.  ファインディング・ドリー 《ネタバレ》 
ルイ・アームストロングが流れ出したスローモーションシーンの何とはない既視感。すぐには浮かばなかったが、 矢口史靖『スイングガールズ』の猪シーンだと思い出した。 移動に不自由を課された主人公たちが様々に飛ぶこと(上昇と落下)をモチーフに冒険を繰り広げるが、 そのクライマックスとなる大ジャンプを例の曲が情感とヒューモア豊かに彩っている。  トラックを一旦は止めたものの再びドアを閉ざされ移送される。今度こそ万事休すかと思われた瞬間、目に入るのは天井の非常ハッチである。 クライマックスの水平運動に慣らされた目に垂直軸のベクトルを不意に導入させることで驚きを創出する。 『トイ・ストーリー』から一貫した、軸転換によるアクションと作劇のスタイルだ。  ドリーにとって大切なのは、目の前に広がる光景すべてに、全方位的にまずは目を凝らして「見る」こと。 それが下方の貝殻の発見につながり、ピクサー的かつアメリカ映画的な「家に帰ること」に繋がっている。
[映画館(吹替)] 8点(2016-08-07 08:26:19)
42.  シン・ゴジラ 《ネタバレ》 
ドラマパートと特撮パートの比率、構成は確かに第一作を踏襲している感じで塩梅がいい。 官房や防衛省など、相当のリサーチが行われたのだろう。そうしたいわゆるリアリズムの対価として、しがらみや忖度が付随するのはこうした作品の宿命だが、 制約の中で軽やかかつ真摯に風刺を混ぜ込んだシナリオには唸る部分が多い。  当然批判は覚悟しているだろう会議シーンの多さもいわゆる喜八カッティング&アングルと怒涛のダイアログによって活劇化しようという試みか。 実際、颯爽とした石原さとみや市川実日子の台詞廻しなどは内容以上に語りのリズムでシーンを動態化している。 とは云うものの、肝心の凝固剤注入シーンまで台詞で全解説というのは残念だし、長谷川博己が檄を飛ばすスピーチシーンも冗長に感じる。 (語る長谷川は特権的なクロースアップ、聴く側の民間協力企業隊員らは背中か手元だけで表情を一切映さないあたり、徹底して意地が悪い。)  特撮シーンは快晴の昼間、夕暮れ、夜景とバランスよく、庵野的な工場群や電線越しにゴジラを捉えた仰角ショットがよく決まっている。 やはりこういう部分で作り手のフェティシズムがものをいう。 怪獣の歩みによって屋根瓦が細かく振動するなど前半の純日本特撮的な数ショットに心躍るが、後半のビル倒壊アクションなどはハリウッド大作に 先行されている分、分が悪い。 それでも旧作に囚われすぎることなく、火の海を背景に陽炎に滲む「巨神」のイメージを象ったセルフオマージュ等も盛り込んでしっかり己の映画に仕上げているのだから天晴れである。  第一作同様、海のショットで始まるこの最新作。ラストは海へ還すことなく、日本を睥睨させる。
[映画館(邦画)] 8点(2016-07-30 22:55:06)
43.  トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男 《ネタバレ》 
とうとう密告フォームまで登場したこの国の今現在と重ね合わせず観ることは困難であるという不幸。 憲法修正第一条を巡る言及から何から引っくるめて、ただの感動的な物語映画として見終えさせてはくれない。  映画でも簡潔明瞭に語られている『スパルタカス』の顛末は、『カーク・ダグラス自伝』の『スパルタカスの戦い』の項などにも詳しく記述されているが スタンリー・キューブリックとの確執なども加わって実際はより複雑で興味深い人間ドラマがあったことがわかる。 その辺りも映像化されれば面白いのだろうが、尺的にはやはり端折ったのが正解だろう。  カーク・ダグラスが「名前を取り返してくれたこと」への感謝のエピソードは、劇場でそのクレジットを見るブライアン・クランストンの表情によって 視覚的にも印象深いものとなった。  脚本家を題材とした映画らしく、映像的な突出はないものの、台詞の妙味と劇展開の面白さで一気に見せる。 手動のタイプライターによる速筆がさらにテンポを生む。  エドワード・G・ロビンソン役やジョン・ウェイン役の俳優らも、顔貌の相似以上に佇まいと台詞を語る口跡が皆素晴らしく、 ジョン・グッドマンの啖呵には胸がすく。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2016-07-28 23:56:19)
44.  帰ってきたヒトラー 《ネタバレ》 
タイムスリップしたらしいヒトラー(オリヴァ―・マスッチ)が軍服で街中をふらつくゲリラ撮影的シーンで通行人たちが様々な反応を示す。 それがどこまで仕込まれたものなのか、完全なアドリブなのか当初は判然とせず、フィクションとドキュメンタリー的画面が せめぎ合う中、現在の人々が彼との対話の中で示すリアクションに強く興味を惹かれていく。 白眉はNPD本部に突撃しての党首との対論だろうか。 御本人なのか俳優なのか、畳みかけるオリヴァ―・マスッチの饒舌とその迫力に強張る党首氏と取り巻きの表情に、こちらも息を呑む。 ふと『ゆきゆきて、神軍』を思い起こすシーンでもあるが、そうしたリスキーな対話シーンが度々登場してくるのが面白くもありスリリングでもある。 そこだけとっても、監督や主演俳優の果敢さは大いに評価されていい。  そのフィクションとドキュメンタリーを転倒してみせるラストも唸らせる。
[映画館(字幕)] 8点(2016-06-26 22:15:06)
45.  ボーダーライン(2015) 《ネタバレ》 
高空から撮られた地表や街並みのショットが、ただそれだけで静かな不穏と緊迫を醸し出す。 スコープサイズの画面に美しく広がる地平線と独特の雲とトワイライトは、血生臭いドラマと対照を為す形で印象深い情景を見せつけてくる。  銀行の監視カメラ映像、暗視スコープ映像など、様々な媒体の挿入も効果的に決まっている上に、環境音に似せたBGMも画面から浮く事がない。  中盤のバーでのジョン・バーンサルや、ベッド脇に置かれた札束バンド、そしてラストのベランダで銃を持つエミリー・ブラントなど、フォーカスを巧妙に外すことで逆にそのぼやけた対象を強く意識させ観客に注視を促すという、サスペンスと情感の演出にもついつい乗せられてしまう。  べニチオ・デル・トロ自身の佇まいもさながら、特に後半の彼が凄みを増していくのは、暗闇と影を相乗的に活かした撮影にも拠るところも大だろう。 レースカーテンの揺れる奥に佇むデル・トロ。彼の表情に落ちる陰影の黒味は彼の内面を見事に具象化している。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2016-04-25 23:25:50)
46.  モヒカン故郷に帰る 《ネタバレ》 
島のところどころに腰掛け、メインキャストらと自然体であいさつをかわす島のエキストラがいい。 夫のガン告知を受け、台所で悄然としているもたいまさこの背中のショットに聞こえてくる、下校途中らしき子供たちの声。 木場勝己と将棋をさす柄本明の病床に聞こえてくる波音。あるいは鳥のさえずり、犬の鳴き声、枝を剪定する音など、 オフの音響の豊かさも各シーンの情趣や哀切をポリフォニックに、ときにユーモラスに盛り上げる。  贔屓の球団がサヨナラ勝ちしたプロ野球中継を見ているところに一旦帰郷したはずの松田龍平と前田敦子が突然戻ってきて、もたいまさこは嬉しさを隠せない。 野球以上に2人の帰宅が嬉しいのだが、画面は彼らをナメて、あえてテレビ中継画面のほうをフォーカスする。 あるいは浜辺のシーン。柄本の言葉に涙ぐみそうになる松田だが、その感極まるシーンでカメラは彼らの背後にまわり、 砂浜に座る2人の背中と海のショットに切り替える。  主人公の押し付けがましい大泣きを感傷的なアップで撮りたがる最近のメジャー邦画をさんざん見させられていると、 こういう節度ある演出が新鮮に思えてくる。 地元球団のファンという設定を、こうした情動を盛り上げるワンシーンのために用意するのがにくい。  主人公家族の乗る車のナンバーはしっかりと「830」。細部も凝ってくる映画なので、画面をみるのも楽しく、 沖田監督らしい食事シーンの豊かさもいい。刺身や竹輪の単品料理に四苦八苦していた前田が、 めんつゆを介して雑多な野菜を煮物として調和させていく。ささやかながら映画のモチーフとの絡ませ方も具体的だ。  病院での結婚式。雨だれが反射する室内のショットは芦澤明子の真骨頂といった感じである。
[映画館(邦画)] 8点(2016-04-11 14:55:20)
47.  先輩と彼女 《ネタバレ》 
部室の窓際が映画のメイン舞台である。 タイトルバックでは画面左手の窓枠に座る志尊淳と、それを画面右手下から見上げる芳根京子の構図が 中盤から少しづつその位置関係を変化させ、ラストでそれを逆転させる。 乗り越えられる窓、揺れるカーテンと風鈴、逆光気味の白バックなどがここで活かされる。  序盤はファンタジック調の浮つき気味にみえる画面に不安が募るが、春から冬への季節の進行と恋愛ドラマの起伏に伴って 寒色系も織り交ぜた、しっとりした画面に変化していくのがいい。  背景の電車の進行方向も、手前の人物の感情に同調させる細やかさも見事だ。  外光を綺麗に反射させた学校の廊下、白い雲と空のショットなども丁寧に撮られている。  そして、ヒロイン芳根の天真爛漫な表情が魅力的だ。
[DVD(邦画)] 8点(2016-03-31 23:59:29)
48.  恋人たち(2015) 《ネタバレ》 
地に足をつけ、ペットボトルを踏みつぶし、自転車を漕ぎ、高台で放尿する成嶋瞳子が身体性をフルに発揮して素晴らしい。 橋梁を叩き、冷たいパンを貪り、鬱憤を溜め込んでいく篠原篤の佇まいも口舌も、見事に映画の芝居である。 闇と光と水、接触と不具。それらの主題によって、単なる観念映画とは一線を画す。  黒田大輔に思いを吐き出す篠原の叫びの痛ましさ。その表情に、劇中でただ一度カメラが一気にズームする。 それが正しいのかどうかは判らぬが、カメラも思わず自制を失い図らずも寄ってしまったという感じの画面の動揺と合わさり、心を揺さぶられる。  ラスト、青い空を背にボートに乗る男たちの、前を見つめる凛とした表情が心に残る。 カーテンの開かれたアパートの窓から陽光が美しく差し込み、黄色いチューリップ瑞々しく照らし出す。 部屋の佇まいもまた、人物の感情を見事に表象している。
[映画館(邦画)] 8点(2016-03-16 01:47:26)
49.  ヘイトフル・エイト 《ネタバレ》 
何となしに山の稜線か地平線がまず最初に来るだろうと予想すると、それ以上の画と音楽でもって魅せてくれる。 下半身を雪に隠したキリスト像を配した印象的なアバンタイトルは後々のドラマを早くも仄めかすものだろう。 主舞台となるロッジは勿論、種田陽平氏の映画美術が冒頭から光る。  ドアや窓にこだわる種田氏だけあって、馬車のドアから始まり、山小屋のドアも、地下扉もキャラクターと密接に関係する。 そのメインのドアを幾度も幾度も開けては打ちつけさせて映画にアクセントをつけるタランティーノも流石というべきだろう。 納屋の大きな扉の開閉を逆光でシルエット処理したショットは、ジョン・フォードへの目くばせとしか思えない。  雪が家屋の隙間からチラホラと舞い散っている。毒入りポットのブルーが不吉なカラーを創り出す。 ロバート・リチャードソンの刻印たる強いライトが屋内のテーブル上に注がれ、タランティーノの毒を表すかのように独特の風情を帯びている。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2016-02-28 21:30:23)
50.  野火(2014) 《ネタバレ》 
ほぼ自主製作である。製作から撮影、編集までこなした上で飢餓状態の主人公の役作りは尋常ではあるまい。 ロケによるジャングル撮影はみるからに過酷そうで、画面からは作り手の気迫と執念がありありと解る。 ハンディカメラによる荒々しい画面の揺れ。熱帯の太陽に焼かれ、乾ききった肌と顔貌の鬼気迫る凄み。 人体の損傷への拘りにあるのは誠実さだ。  モノクロの市川版からデジタル・カラーの塚本版へ。 炎のオレンジ、口角にこびりついた血の赤はより鮮烈であり、深い緑と空の青は対照的に美しい。 岩山だったクライマックスのロケーションはより原作のイメージに近い泉となり、「狂人日記」の章にあたる戦後のトラウマ描写も映像化されたが、 この後遺症のシークエンスが、現代ではより大きな意味を持つだろう。 書斎で「儀式」にふける主人公の後ろ姿が、凄惨な戦場シーン以上の恐ろしさでもって迫る。
[映画館(邦画)] 8点(2016-02-21 23:49:19)
51.  ディーパンの闘い 《ネタバレ》 
偽装家族として暮らす内に、試行錯誤しつつも徐々に心を通わせていく二人の男女。 夜の窓辺で寄り添う二人がぎこちなく手を重ね合わせるツーショットに流れる静かな時間。  抱き合うアントニーターサン・ジェスターサンとカレアスワリ・スリニバサンのそれぞれの瞳の深い黒味に緩やかなフェードアウトが重なって 官能的なショット連鎖を形づくっている。  心を許したかと思えば、仲違いし、トラブルにも巻き込まれ、偽装家族三人間の溝はそう簡単には埋まらない。  ラストに展開するアクションシークエンスも、階段と歩行・白煙・黒煙。銃撃音が目いっぱい活用され、ちょっとした造形だ。
[映画館(字幕)] 8点(2016-02-13 23:57:24)
52.  オデッセイ(2015) 《ネタバレ》 
この類の作品ならば普通なら主人公の追悼セレモニーのシーンなどで悲嘆にくれる家族の姿が登場するものなのだが、それが一切無いので、おや?と思う。 これはラストまで徹底していて、マット・デイモンの家族は台詞の中では語られても、それとわかる形では登場しない。 この省略は英断だろう。彼はあくまで一個のプロフェッショナルとして存在している。  火星への転進を決定した宇宙船のクルーが、家族と交信する中で帰還の延期を伝えると、彼の妻は画面の向こうで即座に理解を示し、 スクリーン上で互いに手を合わせる。 往年のトニー・スコットを思わせる、スクリーンを通してのさりげなくもエモーショナルな交感シーンに打たれる。  陽性の挿入曲に彩られながら、録画画面の中のマット・デイモンは軽妙に語り、 その一方で、終盤に控えめに登場する彼の痣だらけで痩せた裸身の後ろ姿のビジュアルは彼の艱難辛苦を雄弁に語る。 「危機感がない」からの冗談や軽口なのではない。絶望的状況だからこその精一杯のジョークなのだ。 こういった語りのバランスに唸る。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2016-02-12 21:46:57)
53.  俳優 亀岡拓次 《ネタバレ》 
視線を案内・誘導するフォーカスではなく、虚実のドラマの演出に沿ったファジーさを残し、空間を獲得するフォーカスは意図的なものだろう。 手前で安田顕らが会話する奥で山崎努の黄色いダウンが何やらうごめいている図の面白さは、前景を邪魔しない後景のソフトフォーカスの選択センスによる。 カブを飛ばす安田と背景のスクリーンバックのシュールな味わい。山形の地下道がふと照明が変化した瞬間に異空間に変貌する様。 居酒屋のカウンターでの、安田と麻生久美子が交わす対話と間が絶妙だ。  原作ものだが、如何にも横浜聡子らしい奔放なセンスとユーモアを満喫させてくれる。
[映画館(邦画)] 8点(2016-02-01 23:47:42)
54.  ザ・ウォーク 《ネタバレ》 
パリの町中、歌を披露するヒロインとの出会いは視線劇から始まる。主人公の作った輪の内と外で今度は彼女とのパントマイムが始まる。 突然に雨が降り出し、彼は彼女を大きなパラソルの輪の内側へと招き入れる。2人が心を通わしていく流れがテンポよく進んで心地いい。  軽快な大道芸の動きの楽しさ。米語と仏語が交じり合う、言葉の響きの楽しさ。ふと挿入されるサイレントの趣向。 こうなると、ルネ・クレールを連想せずにはいられない。  高層階を一気に上っていき街を一望するカメラも、「自由の女神像」の上での語りも、 緊張のクライマックスに静かに『エリーゼのために』を奏でるセンスも、そこに通じるような感覚がある。  夜明けに向かい、うっすらと明るくなっていく地平線。 ジョセフ・ゴードン=レヴィットが歩みだす直前、雲が切れて景観が広がる瞬間には、張られたワイヤーの直線が生む 造形美とともに、映画の美がある。  エレベーターの運転員をはじめ、ビルを建造した作業者たちが連行される彼を拍手で讃える。 このようなシーンがあるゆえに、ラストに映し出される二棟のビルのロングショットの感動が増す。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2016-01-27 16:41:44)
55.  クリード チャンプを継ぐ男 《ネタバレ》 
助演とはいえ、ここでも自らの実人生をだぶらせ、老いと衰えを体現してみせるシルヴェスター・スタローンが素晴らしい。 第一作を意識した構図とステディカムによる滑らかなカメラワークで美術館の階段をゆっくりと登っていく彼の柔らかな笑顔に泣かされる。 あえてクロースアップで強調された、顔に刻まれた皺が人間的魅力となっている。  ワンマン映画気味であったシリーズから一歩脇に引いた形となったことでロッキーというキャラクターもより深みを増し、 チームの映画をより強く印象付けるものとなっただろう。 冒頭でマイケル・B・ジョーダンの孤独な背中を追うロングテイクは、ジムの階段やロードワーク、タイトルマッチの入場シーンや美術館の階段で 彼と並んで歩むスタローンやバイク軍団を伴うそれぞれのワンカットに昇華する。  音楽的な要素をより強調したのも新味といった感じで、トレーニングシーンも打撃音をリズミカルに響かせ、BGMを盛大に被せてくるが、 結局は最終ラウンドでのビル・コンティの旋律がすべてをかっさらってしまう。  マイケル・B・ジョーダンとアンソニー・ベリューによるファイトシーンの切れの良い動きとカメラワークも相乗してアクションを盛り上げる。 そのロングテイクが素晴らしいのは、単にワンカットであることではなくカメラが選手の至近距離に肉薄し、動きの間に入り込みながら カメラをほとんどぶれさせないテクニックにあるが、これもまた第一作のステディカムへのオマージュであり、かつそこからの飛躍でもある。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2015-12-23 16:46:05)
56.  ガールズ&パンツァー 劇場版 《ネタバレ》 
キャラクターの絵柄も、声優の声音もまるで苦手。だが活劇として文句なく面白い。 誰が誰やらという感じの女性軍団が延々と賑やかなトークを繰り広げるが、それらは常にアクションを伴うから心地よい。 それはメカニックの擬人化ともなる。そして迷いのない決断と行動が一貫していて清々しい。 これはホークス的と云ってよいかもしれない。  ラスト近く、二台対三台となり科白がほとんど省かれてからの近接戦闘とぶつかり合いの素晴らしさ。 舞台装置や大道具を存分に駆使しふんだんに投入された戦術のアイデア。 斜面やコーナーでの遠心力や重力を活かしたアクションの物理性。重量と戦速の感覚。 映画ならではの市街破壊のカタルシス。 その過剰とも言えるサービス精神と、今のご時世でミリタリー趣味と街おこしの相性のデリケートさを踏まえた上で尚 ひたすら活劇性に徹してみせる作り手の心意気が感動させる。  全編通してカット数も多い分、大洗町内の背景画の数も膨大である。ランドマークだけでなく其処此処の路地までロケハンが尽くされているのがわかる。 単に街並みを絵で忠実に再現するだけならどうということもない。そのロケーション(地形・建築)をアクションにどう活かすか、がポイントなのだとよく心得られている。  「A級」気取りの作品が入れたがる冗長な後日談を一切カットした、この潔いB的感覚も嬉しい。
[映画館(邦画)] 8点(2015-11-26 23:55:55)
57.  ミケランジェロ・プロジェクト 《ネタバレ》 
ノルマンディー、レマゲン、etc、、。CG処理であれ何であれ、戦争映画で馴染みの場所の見事な再現だけでも心ワクワクなのだが、 科白を大幅に削ってテンポよく描写される隊員集めのシーンからその軽快さに心が沸き、 アルデンヌの森の夜に響く、レコードの澄んだ歌声の清らかさに泣かされる。  女心をみせるケイト・ブランシェットに「I love my tie.」と返すマット・デイモンはまるで 『荒野の決闘』のラストのヘンリー・フォンダのようだ。  ブルージュの聖母子像をめぐるエピソードの中で、ヒュー・ボネヴィルが殉職する場面で逆光のジョージ・クルーニーが フラッシュ・フォワードで挿入される。トリッキーな印象の編集だが、それがクライマックスで岩塩鉱の中から眩い光の中に運び出される聖母子像と モニュメントマンたちのシルエットへ、さらにラストで教会の外へ歩み出る彼のシルエットへと変奏されていくことで、 スライドの映写でレクチャーする巻頭巻末のシーンとあわせて、光を巡るドラマとしても印象深い連携になっている。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2015-11-09 20:52:31)
58.  岸辺の旅 《ネタバレ》 
並みの演出家なら、過去のフラッシュバックをジャンジャン繰り出すのだろう。その類は一切やらないところはさすが。 小松宅のシーンで、浅野忠信が「怖い夢だった。」と過去形の語りを始めるとカメラがゆっくりと彼の顔に寄っていく。 ほとんど回想突入のパターンなのだが、カメラは彼の背後にあるドアの曇りガラスに映る影のほうに対象を移す。  あくまで現在進行形でドラマを語る。これもまた監督にとっては倫理感みたいなものなのだろう。  これ見よがしでない実演奏の提示、三人のレイアウト、ショットの持続と照明が見事に決まったピアノシーンが美しい。  そして風があり、滝があり、カーテンの揺れがあり、森の霧がある。  直近の侯孝賢と比較してしまうのは酷だろうけれど、あの山を立ち登る濃霧を見せられた後でこの申し訳程度の霧はどうしても見劣りしてしまう。 『リアル』であれだけの霧をやっているのだから。  ドラマの性質ということもあろうが、カレンダーで年月を提示しつつも携帯電話を一切出さず、それでいて違和感をまるで感じさせないのも流石。 山麓のシークエンスでは、深津絵里はモンペ姿。ラジカセや時計印マッチや小学校のレトロ感がなんともいい味を出している。  そして監督がメロドラマと語るだけあって、ラストの浜辺で響く波音の演出が素晴らしい。
[映画館(邦画)] 8点(2015-10-03 22:35:11)
59.  黒衣の刺客 《ネタバレ》 
何処其処のシーンがどれそれの映画を想起させ、、といった紋切り型はあまり相応しくないだろうが、 監督本人もパンフレットで「黒澤明などの侍映画」の影響について言及しているのだから、あの霧とか突き刺さる弓矢とか山中の騎馬の撮り方は 『蜘蛛巣城』あたりの淡い影響なのかもしれない。忽那汐里は『羅生門』?呪術を使った水の流れは何やら『雨月物語』のような。  その緩やかなカメラワークと大気の流れと人物の動きは、数々の美しいロケーションそれ自体による画面の固定化(審美化)、観念化を阻んでいる。 そしてスタンダード(一部ビスタ)のフレームゆえに意識が向く画面の深度と重層性。  襲い来る剣先を紙一重のスウェイで冷静にかわし、受け流していくスー・チーの優雅な動きと寡黙な表情にも惚れ惚れする。
[映画館(字幕)] 8点(2015-09-27 22:26:06)
60.  ローリング 《ネタバレ》 
屋内シーンでの、自然光を主体としたギリギリの暗さが絶妙な味を出していて、そこに浮かび上がる柳英里紗の露出した肌が艶かしい。 『パンドラの匣』の時ののっぺりした夜間シーンに比べても格段に良くなっている。 シネコンにかかる凡百ご当地映画のような、方言強調や有名観光スポットアピールもなく、かといって中心街の寂れぶりをそれらしく見せつけるでもない、 街角や郊外の飾らぬ佇まいを淡々と切り取る誠実さもいい。  ありふれた郊外の雑草地のロケーションがオープニングとエンディングを飾る「審美性からは思い切り遠い映画ならではの艶やかな時空」(「映画時評」『Playback』の頁)として画面に広がっている。  元教師を演じる川瀬陽太の卑屈でありながらごこか憎めぬ風貌とナレーション。癖のある脇役俳優達もそれぞれが個性的で面白い。  正気を失った松浦祐也が電気ドリルを持って三浦貴大に迫るシーンなどにもっとアクションとしての面白さがあれば尚良かったが。  タイトルであるローリングのモチーフ、「おしぼり」のリサイクルについてももう少し即物的な描写、あるいは回転・流転の画面が欲しかった。
[映画館(邦画)] 8点(2015-09-21 22:58:09)
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