101. 明日に向って撃て!
《ネタバレ》 ファーストシーン、ガンファイト、人間ドラマ。全部揃っているのに西部劇らしくない西部劇。だが実に映画らしい映画だ。ジョージ・ロイ・ヒルは「スティング」も面白かったけど、俺はコッチの方が好きだ(女の子もこの映画の方が可愛くて魅力的だ)。 冒頭からエドウィン・S・ポーターの「大列車強盗」を彷彿とさせる列車の襲撃→駆けつけた騎馬隊から逃げ去るスタートダッシュ。 酒場でのポーカーから振り向き様のガンファイア、見ず知らずの美女を強姦するゲス野郎なのかと思いきや、実は馴染みの女性に対するちょっとした挨拶(イタズラ)だったという。「やーね脅かさないでよ」と笑って済ませてくれる仲の良さ。ちょっとした三角関係も“さわり”で終わるぐらい絆が深いともいえる。 仲良く逃避行、断崖ダイブ、強盗、銃を持った者が避けられぬ殺し合いの連鎖。 犯罪に生き急いでしまった者たちの束の間の安らぎ、叶わぬ願い、結局は元の殺し合いの世界に戻ってしまう虚しさ・・・それを独特の静寂が包み込む。その何とも言えない雰囲気を好きになってしまった。 サイレント映画の「アクション」で魅せる事にこだわった造り込みと呼吸、音のない静けさの中からいかに“音が聞こえてくる”ような映像を撮るか。 まるで古いアルバムをめくるような・・・。そういう心意気に溢れた映画だ。アメリカン・ニューシネマ特有のアクの強さは余り無いけども、抜き撃ちや幻想的とも言える映像は見応えがある。 機関砲といった武器ではなく、自転車で時代の波に追われるガンマンたちを表現するのが良い。 殺伐した世界の中で、一瞬の平和なひと時に流れる「雨にぬれても」は印象的。 サム・ペキンパーが“動”のワイルドバンチなら、この映画は“静”のワイルドバンチ。 ラストの「奴らは死んだのか生き残ったのか!?」というテンションが上がったまま終わるクライマックスも最高。 [DVD(字幕)] 10点(2014-01-30 11:00:14)(良:2票) |
102. ウエスタン
《ネタバレ》 再評価に到ったのは、二度目以降、いや見る度にどんどん魅せられる西部劇だという事に気付いたからだ。 冒頭の長く、長く、なっがああああああい回しで溜めに溜めて溜めて放つ一撃必殺の破壊力・・・! 他のレオーネ作品と比べると断トツに退屈で、ゆったりとした、そのバネが産み出す破壊力に魅せられる。 二回目以降は、退屈に感じない心地良さ、もしくわ退屈な空気を一気に張り詰めさせ、爆発させるような長回しに痺れている自分がいた。 ベルナルド・ベルトルッチの壮大なスケール感と“女”の匂い、 ダリオ・アルジェントの“血”の匂い、 トニーノ・デリ・コリの雄大さを感じさせるキャメラワーク、 そしてセルジオ・レオーネの破破壊力と“土”、“漢”の匂い。 「リオ・ブラボー」や「大砂塵」といった往年の西部劇に対するオマージュに溢れた原点回帰。 それに、西部開拓時代の無法者を現在的なギャングとして捉えた視点。 登場人物たちも善悪で片付けられる者ばかりでなく、時代の流れに翻弄されて荒れた複雑な人物も少なくない。 男だけでなく、クラウディア・カルディナーレ演じる未亡人ジル。 自立し気丈に生きる女の強さと弱さをレオーネは正面から描き出した。 マカロニウエスタンには無かった女っ気と母性。コレはカルディナーレの女性らしさ、そしてベルトルッチの原案も手伝って成し遂げた描写だと俺は思う。 「プロフェッショナル」もエロか(ry ドラマだけでなく、冒頭の銃撃をはじめ劇中のアクションは決まる度に痛快。 列車での工夫を凝らした銃撃戦、 クライマックスの一騎打ち、 クラウディア・カルディナーレが人の良いおじさんを誘惑している様にしか見えない絡みのシーン、 ラストの死に場所を求めてさ迷うそれぞれの顛末、やるせなさ、虚しさ。 ホークス、アルドリッチたちから受け継がれてきた破壊力、ジョン・フォードのドラマ性、アンソニー・マン等のリアリズム。 ジェイソン・ロバーズの人間臭さ、 チャールズ・ブロンソンの徐々に明かされる復讐劇、 悪役を貫いたヘンリー・フォンダも見事。 西部劇を飾ったヒーローが悪役として振舞う…しかし、その男も時代の流れに翻弄され荒れた一人の人間でしか無かった。 列車に始まり列車に終わる・・・ジョン・フォードの「リバティ・バランスを射った男」を思い出す締めくくりだ。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:55:29)(良:1票) |
103. 続・夕陽のガンマン/地獄の決斗
《ネタバレ》 本作「The Good, the Bad and the Ugly 」の主題は善玉、悪玉、卑劣漢。 え? 善玉? そんな奴この映画にいねーよ。とてもセンスのあるジョークだわ。 「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」の名でも知られる本作。 エンニオ・モリコーネの最高の音楽、前半のスピーディーな展開は前作よりも好きだ。 最初10分、会話がほとんど無いのに見るものを惹きつける面白さ。 主人公ブロンディ(イーストウッド)が捕まる場面だって仲間通しのイザコザという感じで違和感はあまり無い。 前作で味方だったエンジェルが敵として立ちはだかるのも面白い。 相変わらず同じような格好のイーストウッドもまた。 トゥーコ(イーライ・ウォラック)が銃をバラしたり組んだりして試し撃ちをするシーンはマニアをくすぐる面白い場面。 南北戦争時代の銃器のこだわり振り。この時代考証は完璧だね。 とにかくイーライ・ウォラックの悪どいキャラクターが最高だった。 見た目は太めのオッサン、中身がガッチリ凄腕のガンマン。 悪党だと思ったら意外と人に優しかったりする。 最初は金が目的だったが、次第に情が芽生える場面は熱い。 そしてまた逃げられ「バカヤロ~!」素晴らしい腐れ縁。 ただ,中盤の長回しのシーンが長いこと長いこと。 トゥーコが駅馬車を発見しなかったら俺も寝るとこだった(「アラビアのロレンス」もそれで寝そうになった)。 でも、そこからのドラマ展開が面白い。 ブロンディは情報を知っているから殺されない、トゥーコは金が欲しいから殺せない。 二人が南軍や北軍に潜り込んでアレコレ騒ぎを起こす場面は面白かった。 脱線だけど良い脱線。 敵となったり味方となったりするデコボココンビなブロンディとトゥーコのやり取りは見ていて楽しい。 最高だったのが風呂場での銃撃。 「喋ってないで撃たなきゃ」。聞いてるか007の馬鹿な殺し屋ども(それが007の魅力です)。 ラストの決闘がこれまた長い長いなっげー。 モリコーネの音楽が最高すぎて笑ってしまったのは俺だけじゃ無いだろう?・・・多分。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:44:44)(良:1票) |
104. サイコ(1960)
《ネタバレ》 オープニングのヴァイオリンのストリング!バーナード・ハーマンの神BGM、ソウル・バスの演出。ヒッチコック映画のオープニングでも1、2を争うワクワクするOPだ。 ヒロインの心理描写も良かったぜ。 ハイウェイを走らせる車。闇、土砂降りの雨の中を難しい表情で走り続ける。頭の中で色んな男の野次や考えがグルグル聞こえる。これだけで不安になる。 ただ後半の展開は何だよ?気をてらったとかそんなレベルじゃねえぞ?あれだけヒロインの心理掘り下げといて何だよ?オマケにロングが可愛いジャネットをショートカットにした挙句途中下車…「何が巨匠だふざけんな」というのが俺が「サイコ」を初めて見た時の第1印象だ。 この作品を見直したのも他の作品で感動したのがキッカケだったし、そうじゃなかったら二度と再評価しようだなんて思わなかった。 まあもう1回見たらやっぱり面白かった。 でもさ、大体本作の主人公は誰だよ?現生盗んだヒロイン?それともホテルの異常な管理人か?後者が最初からメインだったら俺はこの映画に100点やるぜ。 むしろホテルの場面から始めてくれたらな~とずっと思っていた。 しかし今回はしばらく彼女のドラマが続いただろう?だから予想外の展開でビックリするのは確かだが、逆にそういう事をされる大いにガッカリしてしまうのだ俺は。 でも二重人格の異常者を演じたアンソニー・パーキンスの演技は素晴らしい。 普段は大人しい青年、だが心の中には「同居人」を匿っている。絵に隠してあった覗き穴、鳥の剥製の不気味さ、手にべったり付いた血、それに殺人の時のえぐさも凄いね。 一撃じゃなく、何回も裂くようにナイフを突き立てる。 有名なシャワーシーンだが、イマイチ迫力にかける。音楽でごまかしてんだろ。 ヒッチコックの演出かと思ったら、ソウル・バスの演出だった。それでも無残に見開いた瞳は怖い。 二度目の「ナイフ」は迫力があったぜ。ソウル・バスの演出はシャワーシーンよりも階段の場面を評価したい。 終盤のヒロインの夫や姉が殺人鬼の謎を探っていく時の緊迫感。 女の服をまとった「同居人」が怖いこと怖いこと。 ノーマンの肉体を支配したのは「同居人」だった。 愛情、嫉妬、憎悪、狂気・・・最後の笑みはノーマンか「同居人」か。 殺される側の恐怖、殺す側の狂気…沼底から引き上げられる車が印象的なラストだった。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-30 10:17:28) |
105. ブリット
《ネタバレ》 冒頭のバシッと決まったファーストシーン、 マックィーンと犯人の壮絶なカーチェイス、 ラストの銃撃。 正に名のとおり「ブリット」な映画。 それ以外は極普通の刑事ドラマという印象 ちょっと退屈に感じてしまうシーンも多かった。 それほどマックィーンのスタント抜きのアクションが凄すぎた。 中盤のカーアクションなんか凄いぜ。ウォルター・ヒルの演出もあって凄いのなんのって! 「めまい」や「恐怖の報酬」みたいにジリジリ迫る緊張も良いが、スピーディーな破壊力を見せ付けるカーチェイスはやっぱりカッコイイ。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-29 18:32:15) |
106. 皆殺しの天使
《ネタバレ》 「皆殺しの天使」・・・いやー聞いただけで「それ何てヴァイオレンスアクション?」と想像してしまうねー。 ま実質タイトル詐欺です。 中身があるんだか無いんだかよく解らない、何を考えているのか、いや何も考えていないかも知れないブニュエルらしい映画。 音、悪夢、手、そしてセクハラ・・・ブニュエルと言えばこの内3つは確実に映画の何処かに入れてくる(セクハラはほぼ100%)。 ストーリーはパーティーに招かれた様々な富豪たちを密室に閉じ込めてしまうというもの。 密室というか、パーティーに招いておいて給仕が大量に辞めたり、何故か居座り続ける富豪たち。 何処までも変な作品だ。 解ったから早く出ろよ・・・。 ウィリアム・ゴールディングの「蝿の王」って本があるな。 あれは逃げ場のない孤島で人々が殺し合うが、こっちは別に鉄格子で閉じ込められるとかそんな話じゃない。 出ようと思えばいつでも出られた。 だが「どうしてここに居続けるのか解らない」という映画だ。 「じゃあ出ればいいじゃん」と言っても誰も出て行かない。 そう、出るのは簡単だ。 だが誰も出ようとしない。 死体遺棄がバレるから? それとも下らない意地の張り合い(サウナの我慢大会みたいな)? まるでボンドを追い詰めておいていつでも殺せるのに、何故か引き金を引けない悪党みたいな連中ばっかり。 かといってボンドみたいに秘密兵器で「テレッテレー♪」してくれる人間も出てこない。 延々と屋敷に篭って我慢大会だ。 屋敷の外で見守る連中も何故か誰も入ろうとしない。 なにこの暗黙のルール。 外から入ったら時限爆弾でも爆発すんのか?どうなんだよ?さっぱり解らん。 水が欲しい? じゃあ壁を崩して水道から飲もう! 腹が減った? それなら山羊を食いつくそう! 死体が出た? 悪夢にうなされる? バカッぷるが乳繰り合ってる? い い か ら 外 に 出 ろ (怒) いい加減にしろよてめえら! 何の我慢大会だよ!? つうかいつになったら「皆殺し」が始まんだー!!(期待するところがおかしい) てっきり食べた食事に毒があって一人だけ生き残る・・・ソイツが“天使”だった!・・・的なオチを期待した俺が間違いだった ・・・だが何故か飽きない。 解ったから早く出ろよ・・・ [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:45:36)(良:1票) |
107. 女は女である
《ネタバレ》 「勝手にしやがれ」や「気狂いピエロ」は悪い意味で“頭がおかしい(褒めてる)”と思ったが、「女は女である」と「はなればなれに」は良い意味でイカれてる。 俺は好きだぜこういうの。 ゴダールのすっとんきょうな演出(いや思いつきの寄せ集め)も、ギャグとして昇華されていると思う。 ゴダールが苦手って奴も、この作品と「はなればなれに」を見てから判断しても遅くないだろう。 「ゴダールって怖いイメージが・・・」なんて思っている皆さんは是非とも。 ストーリーは至極単純。シンプルイズベスト。解りやすさこそ娯楽だ。 子供が欲しいと願う彼女と、中々子供を作りたがらない男の男女関係をコミカルに描く小気味良い内容。 ミュージカルコメディのような楽しい話だ。 ネオンのようなオープニング、 過去の映画に捧げるオマージュの数々、 機関銃のような痴話喧嘩の応酬、何でもあり。 BGMが爆音で鳴り響くので「音響はトチ狂ってんのか!?」と最初思ったが、音楽に合わせてアクションをかますシーンは「ああコレがやりたかったのね」と上手いなと関心。 ほうきで野球の場面とか、夫婦喧嘩の乱痴気具合など斬新な趣向に溢れている。 特にキスシーンの「バーン!」は笑っちゃったよ。 でも音が大きすぎてセリフが聞こえねえ(笑) 何処まで狙ってやってんだかわかりゃしない。 けどセリフいらずのシーンは本当に良い。 登場人物の服のカラーイメージはモチロン、 アパートの日除けの場面、 1日中抱き合ってんのかと想像してしまうアベック、 カメラ目線な通行人、 トンカチで動くシャワー、 目玉焼きの滞空時間、 “本”による会話・・・ゴダールってこんなに粋な奴だったのか。 女性のヌードも良い意味で「装飾」として花を添える。 異質と言えるほど毒気が無い。 何だかんだ言って男女が仲良くハッピーエンドを迎える最後も心地よかった。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:42:57) |
108. テキサスの五人の仲間
《ネタバレ》 「スティング」も面白かったけど、度肝を抜いたという意味ではこっちの方が好きだ。 西部劇としては珍しいギャンブルが主題の隠れた傑作。 人間ドラマだけでストーリーを盛り立てたその見事な脚本。 「泥棒貴族」の原案や「ハスラー」の脚本家シドニー・キャロルの見事な筋書き。 カードのテクニックよりも、ポーカーフェイスといったドラマで魅せる映画だ。 ファーストシーン。 ジョン・フォードの「駅馬車」を彷彿とさせるスピード感と集う賭博師たち。 ポーカーをやるためだけに仕事も生活も投げ出してやってくる賭博馬鹿の五人。 その一大ポーカーを観るために集まるギャラリー。 ギャラリーにとっても大イベント。 キャストもヘンリー・フォンダやジェイソン・ロバーズ、チャールス・ビックフォード、ジョアン・ウッドワードといった豪華な顔ぶれ。 とにかく登場人物がどれも魅力的。 ラストの超どんでん返しは「騙された!」の一言。 もう一回騙されたくなる面白さがあるね。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:20:47) |
109. 太陽がいっぱい
《ネタバレ》 パトリシア・ハイスミスの原作、ヌーヴェルヴァーグのスタッフが多数終結した傑作スリラー。間違いなくルネ・クレマンの最高作だ。 海を走り飛び立つ飛行機 お洒落なOPからしてこれがヌーヴェルヴァーグの要素をふんだんに盛り込んだ作品であることが解る。撮影にアンリ・ドカエ! 机の上に敷き詰められたパンフレット、写真、絵の山、二人の男の会話から物語は始まる。 パンフレットの船、男たちが友情を深める船、事件が引き起こされる密室になる船。 盲目の男にぶつかり、謝罪の気持ちの金を払い、杖をとってしまい盲人の真似、彼らは車が絶対に止まると信じて車道を横切るのである。信じてはいるが、万が一車に轢かれて死ぬかも知れないというスリルも楽しんでいる。もう一人の男は女と遊ぶために盲人の真似ごとをする。 宝石に触るわ胸にさわるわ尻を叩くわやりたい放題、口づけは挨拶のように交わされ、それが少しずつ二人の男に亀裂を生む。 手に握られた戦利品、船上であんなに仲良くやってたのに…あの娘を自分の物にしたいという欲望が男に決断させてしまう。 海中に消えたはずの者が常にその存在を感じさせ、緊張を持続させる。ホテルで追っ手を撒く駆け引き。 隙をついて扉を開け、寝室で無防備に寝る女に近づく欲望。彼は焦らない。友人を虜にした女性、今度は自分がその女性を虜にしてやろう。それは自分を裏切った者への復讐でもある。慰めるのは過去を忘れさせて自分のものにするため。 ギターは投げ捨てられ、水着姿で手をつなぐことによって二人に肉体関係が成立したことを静かに物語る。 船が運んでくる無言の帰還者、「手」。 警官が、メイドが映画の終わりが近づいていることを知らせる。太陽をあおぎ、椅子に深く腰掛けて満足げな顔を見せる主人公。何も知らずに酒をあおり、店員の呼びかけに無垢な笑顔を見せる。 それを静かに見守る船によって、物語は締めくくられる。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-25 13:14:16) |
110. 椿三十郎(1962)
前作「用心棒」を上回る絶妙なアクションとユーモアスな雰囲気が融合した映画の真骨頂とも言うべき作品。 益々野性味を増した三十郎(偽名)が介入して巻き起こる大掃除もパワーアップ! ものの数秒で数十人を斬り捨てる破壊的な爽快感。 もう馬鹿みたいに一人で叩っ斬りまくる。 予告のあの「のほほーん」としたBGMすら「これはギャグ映画だから真面目に見るな」と言いたげだ。 それを迫力ある画質と音響で堪能できるとはいやはや何とも。 何より冒頭から一気に惹き込まれる。 寺で怪しい算段をする男たち、そこに何の前触れも無しに登場する三十郎は前作「用心棒」を先に見ておかないと味わえない雰囲気だ。 その三十郎が若侍たちを嗜め、たった一人で寺を囲む男たちを叩きのめす痛快さ。やたらめったら斬るのではなく、最初は鞘で“警告”する戦術。 「リオ・ブラボー」や「ペイルライダー」もその警告に始まり無駄な流血を避けようと務めるが、結局は血みどろの戦いを避けられない哀しみ。 そんな三十郎が暴力と周到な詐欺師振りを一手に引き受け、戦を知らない若き侍たちに人を斬らせないこだわりが良い。 白刃に輝く刀のような9人の若者。それを鞘に収めて成長していく人間ドラマも見所だ。 「用心棒」に比べると無茶な部分も多い(ラストのアレの量はギャグだろもう)が、そんなたまげた映画が「椿三十郎」だ。 意地でも他の奴を血で染めたく無いのか、問答無用で地に叩き伏せる三十郎。 室戸「おまえみたいな酷い奴は許せねえ」 もっと言ってやって下さい室戸さん。 それと、三十郎のセリフにある「金魚のウンコみたいにゾロゾロ来やがって」的なセリフ。 本当に井坂(加山雄三)と保川邦衛(田中邦衛)以外見分けが付かない(笑)。 後は黒澤映画で見慣れた広瀬(土屋嘉男)くらいか。 そこにお茶目な木村(小林桂樹)を入れて11人。 まるでサッカーのチームだ。 三十郎(三船敏郎)が司令塔兼フォワード兼後方兼・・・要は全部だな。 仕事ほとんどこの人だし。 そんで加山がキャプテンか? 正に「チーム男子」。 監督はモチロン睦田夫人(入江たか子)。マネージャーが千鳥(壇令子)。これがあの「赤ひげ」で井戸端を囲む茶気茶気した娘をやると誰が思ったであろうか?同一人物が演じているとは思えないくらいキャラが薄い。 おっと、腰元のこいそ(樋口年子)も捨てがたい。この娘がいなけりゃ「室戸半兵衛終了のお知らせ」伝説も始まらなかったわけだ。 それに振り回される三人の悪人も見所。 ・・・ん? 「銀嶺の果て(原題:山小屋の三悪人)」、 「隠し砦の三悪人」、 「悪い奴ほどよく眠る」の三悪人・・・アンタどんだけ3人組の悪役が好きなんだよ監督wwww。 そして最大の見所といえば、主人公に散々振り回されて部下も上司も全員獄所にぶち込まれて人生を台無しにされてしまう室戸半兵衛(仲代達矢)。 立場が無くなり三十郎との望まぬ「血闘」。 三十郎も心臓ごと叩き切って壮絶な最期をくれてやる。 何という被害者。 情報収集とはいえ若侍を生け捕りにしてくれたり、ちょっと悪ぶりながらも何かと三十郎を気遣ってくれるなど、人間としては物凄く良い奴だった。 仲代の演技力と貫禄も素晴らしい。 あの「卯之助」が旗本一番の剣豪に化けたもんだ。 本当に同じ役者が演じているとは思えないくらい演じ分けが凄い。 殆ど刀を抜かなくとも伝わって来る強者の覇気。 そして背中から漂う哀愁! 「鞘の中の刀」でもあり続けられただろうに、三十郎に果し合いを申し込んでしまったのが武運のツキ。 三十郎と同じように「抜身の刃」と化してしまった。 「切腹」の仲代もそうだが、極限まで追い詰められたからこそ、彼らは真正面から勝負を挑んだ。 意地でもあり、誇りでもある全てを賭けて。 役者ってのはこういうもんだな~とつくづく思う。 [DVD(邦画)] 9点(2014-01-25 13:00:11)(良:1票) |
111. アラビアのロレンス
《ネタバレ》 再見。 個人的にリーンは「逢びき」といった女性映画の方が面白いが、本作も再見したことで見どころの多い作品だったことに気付いた。本作を見直そうと思ったのはデヴィッド・リーンがジョン・フォードの傑作「捜索者」を参考に本作を撮ったというエピソードを知ったからだ。 確かに砂漠の情景の壮大さ、夕陽といった自然の美しさ、奇襲を受ける瞬間の緊張と騎馬が雪崩れ込む馬のスピードと戦闘描写、銃を撃ちまくる異常性、人種差別問題、復讐の狂気に身を染めていってしまう孤独な旅人といった要素。リーンが実在したロレンスを描くのにここまでフォードの西部劇を手本にしていたということに驚く。 冒頭、男がバイクのエンジンをかけ、それにまたがり田舎道の向こうへ消えていく。 乗り手の視点でバイクは細い道を延々と走り続け、豊かな自然に包まれたのどかさ、そこを抜けた瞬間に拡がる開けた視界が一気に緊張をたかめ、上り続けるバイクのスピード、道の向こうから接近する対向車…! 木の枝に突っ込むもの、枝にひっかかるゴーグルが静かに語る「突然」の死。 そこから彼を知る者が群衆となって詰めかけ、口々に彼について語り「突然」ロレンスの過去へと飛ぶのである。 ラクダが闊歩する蒸し暑そうな外、それを余所に室内で地図作りに励む優男。 男は退屈な仕事に飽き、欲求を抑えられずにいた。ビリヤードの玉を「突然」弾き飛ばすような、地図を見るのではなくそこを自分の脚で突き進みたい、狭い室内から無限に拡がるかのように存在する砂の海原へ飛び出したい!観客も速くロレンスが砂漠に飛び出し暴れまわる姿を今か今かと待ちわびて。 マッチの火が消えた瞬間に「突然」その待ちに待った光景に切り替わる。 夜が明ける瞬間、砂、砂、砂が風に舞い絶えず動き続ける。それを幼気な処女のごとくキラキラした瞳で見つめるロレンス。ロレンスは劇中で度々顔を曇らせ独り葛藤をエスカレートさせていく。 実在のロレンスがそうだったように、ロレンスの中の異性が徐々に穢れていく様子を淡々とフィルムに刻んでいく。処女がSEXの快感に目覚めたように好戦的な戦士になっていく様を。 どんなに無精髭が生えようが、婦人が化粧をするようにそれを剃り、ドレスをプレゼントされた少女のようにはしゃぐ。短剣をアクセサリーのように掲げ、布を掴み笑みを浮かべながら楽しそうに走り、嫌らしい手つきで肌に触れる男に見せる拒否反応。 ラクダにまたがり、夜を超え、延々と進み続けた先で井戸をくみ上げるバケツが落ち「突然」やってくる地平線の彼方の黒い点。その不気味なゆらめきが徐々に近づき空気を一変させ、不意に抜き放つ銃撃! 岩の間から「突然」現れる複葉機、戦場を飛び交う機銃掃射と爆撃、成す術もなく蟻のように蹂躙される騎兵。 力を求める漢たちと夢を見つけたい旅人の出会い。利害の一致が固い絆に変わっていく。 漆黒の民アリとの憎悪を超えた友情、アラブを駆け抜ける荒くれ者アウダ、喰えない王子ファイサル、アレンビー将軍を始めとする曲者揃いの軍人たち。 ピクニック気分の行進がやがて隊列を整え、咆哮し、駱駝も馬も大地を駆け抜ける大軍団にまで成長していく! 指揮棒は挨拶代わりにコンパスを取り上げ、眠りそうな者を叩き起こし、床を叩き客人を歓迎し、振り下ろされ騎馬の大群を雪崩れ込ませる! 駱駝の群が寝そべる静寂、太陽が照り付け、砂塵が舞う砂漠を裸足で歩み続け荷物を一つずつ捨て、吹き出す汗とこびりついた砂が語る絶望。 軍服からまっさらな衣装に身を包むことで「同胞」として受け入れられ、そしてロレンスもそれを受け入れる。 盛大な歓迎、岩をよじ登り遠くの敵陣を眺めるワクワクするような瞬間、突然の殺人と処刑、哀しき対面と銃撃。投げ捨てたものに群がる仲間に向けられる複雑な視線。 基地を制圧される瞬間を上から見下ろす視点で捉え続け、基地を奪われた無力さ・砂浜でたたずむ姿によって描かれる達成はロレンスのもの。 「女狙撃兵マリュートカ」を彷彿とさせる砂漠から本物の海原にたどり着く光景。 後半はとにかく流血が強調される。 記者が探し求める人間は線路を爆破し汽車を横転させる!砂上からの一斉射撃、斜面を駆け降りる人の群れが車両を蹂躙する。 生き残りに一撃を浴びせカメラを打ち砕く頼もしさと野蛮さ、横転した列車の上を歩き回り歓声を浴び、馬の大群が一斉に飛び出し砂漠を駆け抜ける。 破壊の跡に残された瓦礫、遺体の山、疲れ果てた一団。そこに追い打ちをかける瞬間に高揚感は消え失せ、暴力と狂気が強調される。 追撃と野戦病院の惨状、ビンタを喰らい力なく崩れ去り、別れを惜しむように車上で立ち上がってしまう姿。 [DVD(字幕)] 8点(2014-01-21 23:50:23) |
112. シャレード(1963)
《ネタバレ》 純粋な娯楽として大いに楽しめる傑作サスペンス。 ヘップヴァーンのサスペンスと言えば「暗くなるまで待って」も面白いのだが、やっぱり「シャレード」の方が楽しくて好きだったりする。 なにしろ「北北西に進路を取れ」のケイリー・グラントのコミカルなキャラクターが楽しい。 ヘプヴァーンとグラントのやり取りは本当に飽きない。 疑心暗鬼が薄れたり高まったりの繰り返しもドラマを盛り立てる。 地味にジェームズ・コバーンまで出ているのも忘れがたい(当たり前だけど若っけえ)。 冒頭からセンスの塊のようなオシャレなオープニング、ヘップヴァーンの颯爽とした登場シーン。神オープニング。 今回のヘップヴァーンは色っぽいなあ。 オレンジを取るエロイ「ゲーム」で見せる艶めかしさ、パジャマ姿で髪を後ろに結ぶヘップヴァーンの可愛さ。 ストーリーは真犯人をめぐって様々な関連人物が登場するが、一人、また一人と消えていき最も信頼していた男にも裏切られるような展開はハラハラドキドキだ。 でもドーネンのユーモアに溢れた演出であまり殺伐とした空気はない。 なのに一切ダレる事なく楽しんでしまった。 ラストの劇場におけるクライマックスも面白いアイデア。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-21 23:33:56) |
113. 荒野の七人
《ネタバレ》 西部劇の最高傑作かどうかは解りませんが「最高の1つ」という事ならば迷うことなく選ぶ傑作。「七人の侍」と「駅馬車」大好きな私にはドストライクな1本です。実際に戦場から帰って来た男たちの面構え。村を守るために街に助けを求めて繰り出す村人たち。それに応じた七人のアウトローたち。冷静沈着な参謀クリス、頼りになるヴィン、未熟ながら機転が効き果敢に戦うチコ、賞金目当てのハリー、子供好きなオライリー、死に場所を求めるリー、ナイフも得意な凄腕のブリット。原作以上に個性豊かなキャラクター、2時間とコンパクトにまとめられたストーリー。原作に比べるとストーリーの厚みは無いのですが、純粋なアクションとドラマの掛け合いが面白い作品に仕上がっていると思います。ただ惜しむべきは悪党カルヴェイラの「傲慢と甘さ」。あの時撃っていれば・・・!ラストの壮絶なファイトは凄いのですが、何だか「殺りそこねたので取り敢えず」感が否めませんでした。けれどもリーの決意と最期。あれを描いた事でこの作品は意味があるなと思いました。彼の安らかな死に顔が全てを語ってくれます。そして村長と語らい悠々と去っていく男たち、村人と絆を結び「水と油」では無くなった瞬間・・・私は好きです。 [DVD(字幕)] 9点(2014-01-07 17:30:25) |
114. 切腹
《ネタバレ》 小林正樹は「あなた買います」等の初期の方が好きで、後期の作品はどうも苦手だった。 だが、今回再見したことで意識を変えることに。以前見た時は退屈に感じた作品も、改めて見るとその徹底的なこだわりに眼を見張る。 かつて武士道社会への“怒り”によって新しい時代劇を創造した先駆者の伊藤大輔(「忠治旅日記」「下郎」等)。彼と対談し、その系譜に連なるような“怒り”と反骨精神を叩き込み小林が練り上げたアンチ時代劇。 大島渚と組んだ戸田重昌の美術が創りあげる閉鎖空間、吉村公三郎や五所平之助等の下で活躍してきた宮島義勇のキャメラが盛り上げる緊迫、仲代達矢たちの冷え切ったセットとは対照的なくらい暑苦しい、苦しみ抜いて訴え続ける全身全霊を込めた演技。 リアリティを極めるために中村錦之助(萬屋錦之介)にアドバイスを求め、阪東妻三郎、片岡千恵蔵、市川雷蔵、三船敏郎の殺陣を参考にし、小林に求められた真剣同士による立ち合いにも応えて見せる。 映画における従来の「切腹」は、責任を負うために行われてきた(フリッツ・ラング「スピオーネ」や後年の岡本喜八「日本のいちばん長い日」、三島由紀夫「憂国」等)。 本作は「ハラキリ」を通して無責任な発言を行った者がたどる末路・武士道社会そのものへの疑問を投げかける“復讐”。 冒頭、鎧兜の周りに立ち込める煙・霧が晴れるように座した鎧武者が現れる。開かれる「覚書」、刀一本片手に巨大な屋敷の前に現れる一人の男。響き渡る琵琶の音、門、屏風、廊下、中庭、冒頭の鎧をまた映す。 映像だけでもこのくどさ、あの美しい岩下志麻まで恐ろしい顔で現れる! 首を捻り素知らぬ顔で「さて」と応える真意、扇子を開くのはそうとも知らずに思わず喋りたくなってしまったことを無意識に現す。仲代の表情の変化、それに反応するように顔色を変える三國連太郎たち。 意図的に似たような構図を重ねる回想、無責任そうに緩んだ表情、密室で苦々しそうにどう対応するか語り合う。 家老もまた、屋敷を尋ねる侍たち同様に事情を抱え悩み続けた存在にすぎないのかも知れない。 若い侍たちの雰囲気、それに代々受け継ぎ背負わされてきた「武士の誇り」という重荷。人が居るはずのない鎧…いや既にこの世に存在しない先祖の顔を窺い、首を下げて許しを請い、見えざるプレッシャーを感じ続け強面を通すしかなかったのだろう。 ゆるい表情を強張らせる襖の向こうから差し出す白装束、冗談交じりに手の動作で語る「これ」、襖を開けた先で逃亡を阻むもの、中庭に用意された正方形の死に場所。 鞘から抜き放たれ暴かれる“真実”、事の真相も知ろうとせずに嘲笑い叩きつけ「誇り」とやらをほざく驕り。 わざわざ切腹の方法を語り十字を切るのは相手を絶望させるため、目の前に置かれる「得物」、装束を勢いよく脱ぎ台座を叩きつけるヤケクソ、何度も突き立て、苦しみで震え、嗚咽し、凝視し、臓物をぶちまける代わりに大量の汗を吹き出し、血を流し、眼球と顔面を震わせ、天を仰ぎ、くたばり果てる。 手で強調する「このこと」、懐の得物に手をやり「笑う」本当の意味。後ろを槍で武装した者が固め、腹に何かを抱えていることを暗示するように仲代の顔には影が差し掛かり続ける。覚悟を語るように強烈に響き渡る音。 降り積もる雪、立て札、静かに迫る「死」が決断させる人生を賭けた行動。 介錯人を静止させ、家老を絶句させるものを投げつける腕の動作、風が吹き付けはじめ語られる一連の復讐劇。 密室から引き連りだすように申し込まれる“果し合い”、墓場に屹立する墓石群、竹林が挟む小道を抜け、風が激しく吹き荒ぶ薄野原で相対し抜き合う! 刀片手にジリジリと距離を詰め、両腕に持ち替え、太刀を弾き合う接近と交代を繰り返し、防御をこじ開け、刃と魂をへし折る必殺の一撃。 増えていく“手土産”は周囲を取り囲む者たちの殺気と神経を逆なで、風は汗を吹き出し睨みつける者たちを号令とともに立ち上がらせ抜刀させる。 圧倒的優位でありながら死を恐れ中々近づかない戦争未経験者、死を恐れない戦争経験者。 槍をふるい、投げつける砂利・槍、突進してくる者を盾にし、血に染まる衣服・家紋、息を荒くし、襖を薙ぎ倒し、這いつくばり、刀を突きあげ薙ぎ払い突き斬り捨てまくる一対多数、下から睨み上げ、刀を突き立てながら立ち上がり、駆け抜けたどり着く場所。 眼前に飛び込む権威の塊、それにすがりつき担ぎ上げ叩きつけ、ぶちまけられる、すべてを“切り捨てる”決断。影の落ちた表情と後ろ姿だけが、何もかも“偽る”苦汁を静かに語る。 鮮血が飛び散り、鎧が破壊され散乱した死闘を物語る“跡”も、風と後始末をする人々の手によって消えていくのだろうか。 [DVD(邦画)] 9点(2013-12-24 13:01:18) |
115. 十三人の刺客(1963)
再評価です。 前見たときは戦闘まで淡々としすぎていて退屈でしたが、今回は「太秦ライムライト」を気に色々と見直す事にしました。 そしたら退屈どころかその丁寧なドラマ作りに見入ってしまいます。 それに戦前の時代劇を幾つか見たおかげで俳優陣の豪華さに今更ながら驚いています。「鴛鴦歌合戦」や「赤西蠣太」の名演を見た後だと、片岡千恵蔵の重きを置いた演技の良さがようやく解りますし、その補佐役として「鞍馬天狗」の嵐寛寿郎や月形龍之介など時代劇を支えてきた骨太の名優たち。どうしてこんな面々の凄さに今まで気付けなかったのか。戦前日本映画の凄さを知った今の自分には、老いて尚も重厚で重い時代劇を作ろうとした野心が伝わってきます。「十三人の刺客」は今でいう「太秦ライムライト」。 黒澤映画や小林正樹の「切腹」などは、今だと最新鋭の技術の粋とも言える「驚異的な存在」だったのでしょう。時代劇の人気が続く嬉しさの反面、サイレント時代から培われた「剣劇」というカタの衰退・・・それを残すべく千恵蔵を始めとする古参の強者、里見浩太朗や丹波哲郎をといった新進気鋭、西村晃など名バイプレイヤーたち・・・今考えると恐ろしい顔ぶれです。 終盤まで戦闘が無いのも往年の時代劇のようなドラマに重きを置いた作風であるし、数十分にわたる戦闘も阪東妻三郎の「雄呂血」や伊藤大輔の「忠次旅日記」えのオマージュにも似たこだわりが感じられます。 この映画の神髄はサイレント時代の「呼吸」を理解しないと中々味わえないものなのかも知れません。 [DVD(字幕)] 8点(2013-12-24 12:53:08) |
116. 天国と地獄
《ネタバレ》 とにかく密度が凄い!前半だけでも面白いし後半のジリジリした捜査も面白い。これぞサスペンス。完成度では「椿三十郎」に並ぶ傑作。 己の一世一代がかかった主人公に突然舞い込んだ「誘拐事件」。 命よりも大切な金を取るか、息子同然の子供の命を取るか。 主人公たちの心理描写も凄いが、電車での現金受け渡しのシーンも凄え。 後半は刑事たちの執念のドラマ。飽きさせないね。 普通、話がガラッと変わるとバランスがおかしくなるがこの映画はその辺を上手く抑えて描けてる。 息子を救出して一安心。警察もようやく本腰入れて捜査開始。それが自然に流れていく。 あらゆる言語が飛び交うバーの場面。 この混沌とした感じが無性に好きだ。 麻薬、金に苦しむ若者の苦悩・・・正に天国と地獄。それぞれにしか解らない苦労。水と油。 ラストシーンも強烈で印象的。 犯人にとっては権藤への復讐のつもりかも知れない。ただ権堂や警察にとって犯人のやり方は一方的な逆恨み。 権藤は一世一代のチャンスを失った。 仲代の怒号じゃないが「権藤さんを死刑にするような」もんだ。ただ権藤は金を失ったが家族を省みてその大切さを取り戻した。金よりも大事な何かを手に入れられた。 確かに犯人の心理描写は描き足りないのかも知れない。だがそこには「七人の侍」同様に感情移入を一切許さない苛烈さが貫かれているからだろうか。 [DVD(邦画)] 9点(2013-12-17 11:53:13) |
117. 用心棒
《ネタバレ》 二大ヤクザを引っ掻き回す三十郎のキャラクター、一瞬の抜刀劇が面白い。 冒頭の「水の恩」をさらりと返す三十郎は本当カッコイイ。 殺伐とした世界をコミカルに闊歩するキャラが良いんだよなあ・・・。 終盤の一瞬で決着する破壊力。三船敏郎の太刀は早すぎて最初良くわからない。二回目見るとそのべらぼうな速さに度肝を抜かれてしまうワケです。 レオーネの「荒野の用心棒」も好きだ。 でも一瞬の破壊力はやっぱり「用心棒」が上だぜ。 見た目は冷徹な殺し屋、本当は飯を美味そうに食ったり捕まったりと人間臭い三船敏郎、ニヒルな悪党仲代達矢(後3回三船さんに斬られます)。 特に戦前から山中貞雄を始めとする時代劇で活躍していた加藤大介! 「市川莚司」時代劇から活躍し続けた時代劇には欠かせない名優。「人情紙芝居」「西鶴一代女」「元禄忠臣蔵」「血槍富士」などシリアスな役柄が多かったですが、今回は本間先生に匹敵する憎めないキャラクターに(笑)。黄門様とのやり取りも楽しくてしょうがない。 [DVD(字幕)] 9点(2013-12-17 11:49:51) |
118. 奇跡の人(1962)
《ネタバレ》 実在したヘレン・ケラーが三重苦を乗り越え“軌跡”を起こすまでを描いた作品。 もう本当に魂を揺さぶられるというか、心と体のダイナミックなぶつかりあいが舞台劇という狭苦しさを感じさせない。 ベッドで愛する我が子を突然襲う“異変”、愛するが故に悲痛な叫びをあげる母親。 物心付いた時から聞こえない、見えない、喋れないという“闇”の中をもがき続けるヘレン。唯一残された“触感”だけがヘレンを支える。 へレンが闇の中でもがくようなオープニング、常人にはヘレンの行動が奇異に見え、事情を知る家族ですら家庭崩壊寸前まで追い詰められる。 何もしてやれない悔しさ、もどかしさ。どんなに避けんでも娘には届かない…そんなヘレンの心を開こうと列車に揺られてやってくるサリヴァン先生ことアン・サリヴァン。 彼女もまた眼の病気を乗り越え“奇跡”を起こした人だった。彼女は不安と恐怖で闇に閉ざされたヘレンにかつての自分を見る。彼女は唯一彼女に残された“触感”を信じ、それにぶつかってぶつかってぶつかりまくりヘレンを救おうと尽力する。サリヴァンは真っ先に「あなたは言葉を喋れる」と信じてくれた。 水をぶっかけられたら水をぶっかけ返して“教え”、殴られたら殴り返し“教える”。 家を破壊せんばかりに野獣の如く、癇癪を起こした子供のように暴れまわるヘレン、それをねじ伏せるサリヴァンの闘い。そこまでするのもヘレンを信じているから。互いに髪や服を乱し、料理まみれになって。 ヘレンも徐々に不安からサリヴァンへの怒り、憎悪、哀しみを打ち明けサリヴァンを“信じる”ようになる。ヘレンにとって今までここまでしてくれる人はいなかっただろう。真正面から自分とぶつかってくれたサリヴァンに心を開き始める。 ヘレンに幾度と無く刻まれる“手話”、そして感触。その積み重ねがヘレレン「W...A...T...E...R...!」と叫ばせ三重苦を打ち破る。 ポンプを動かし、水に触れ、大地を踏みしめ、樹を掴み、段差を叩き、ベルを鳴らし、母、父、そして“先生”たちとギュッと抱きしめ合う瞬間の震えるような感動。 ああ、人と解り合えるって、こんなにも素晴らしい事だったんだなあって。人を愛する事、自分を愛していてくれた事に気づく事の大切さ。こんなにも良いもんなんだな。それを魂で理解する瞬間。ヘレンにはとてつもない喜びだったと思う。 [DVD(字幕)] 9点(2013-12-17 11:22:22)(良:1票) |