121. アメリカン・パイ3:ウェディング大作戦
《ネタバレ》 ラブコメというのは基本、主人公とヒロインが結ばれて「めでたし、めでたし」で終わるものだから、そんなラブコメのその後、二人が結ばれた後の結婚式まで描いた本作は、とても貴重だと思います。 前二作を鑑賞済みの身としては、ジムとミッシェルに思い入れたっぷりなもので、そんな二人が結婚するというだけでも、感慨深いものがありましたね。 アメリカン・パイシリーズでは「前作まで付き合っていたカップルが、別れてしまっている」というパターンも珍しくないだけに、シリーズ中で一番好きなカップルの二人が結婚してくれた事が、もう小躍りしたくなるくらいに嬉しい。 結果的に「1で二人が出会い、初体験」「2でカップル成立」「3で結婚式」という流れになった訳で、ここまで丁寧に結ばれる過程が描かれたカップルって、映画史においても稀な例となるんじゃないでしょうか。 本作においてはシリーズ恒例の「パーティー描写」が「独身さよならパーティー」となっている訳だけど、ここの件も凄く面白い。 特に、ゲストのストリッパー達がメイドと婦警のコスプレをしていた辺り(米国だろうと日本だろうと、男の好みなんて大して変わらないんだな……)って思えて、興味深いものがありましたね。 そんな二人が花嫁の両親に見つかってしまい「本物のメイドさん」「本物の婦警さん」と言って誤魔化そうとする流れも秀逸であり、コント的な魅力があって楽しかったです。 出演者達に関しては、これまで脇役だったスティフラーが主役格となっているのが嬉しい一方、オズをはじめとした面々が多数欠席しているのが寂しいんですが…… まぁ、それに関してはカメラに写っていなかっただけで、本当は彼らも結婚式に招待され、二人を祝福していたんだと思いたいですね(「結婚式に行けなかった」と8で明言されているオズも、ビデオメッセージか何かは送ったはず) ジムの父親も、相変わらず魅力たっぷりであり「困った時は何時も父が助けてくれた」というジムの言葉を聞いて、嬉しそうにする時の表情なんか、もう最高。 (本当に息子想いの、良い父親だよなぁ……)って思えて、微笑ましくて仕方無かったです。 「チョコ」の件は流石に引いちゃったとか、ダンス対決を見せられた際は(えっ、これってそういう映画だったの?)と戸惑ったとか、欠点と呼べそうな部分も色々あるんだけど…… シリーズに共通する「登場人物に対する、作り手の優しさ」「下品なギャグだけでなく、真面目な感動もあるバランス」が、しっかり踏襲されていたので、決定的な違和感にまでは至りませんでしたね。 「真面目な感動」に関しては、ジムが仲間達に感謝を述べる場面が顕著であり「トラブルが起きても何とかなったのは、何時も皆が助けてくれたからだ」「ありがとう」という言葉には、本当にグッと来ちゃいました。 実際に、前二作にて「何とかなった」のを見守ってきたからこその感動があり、シリーズ物の強みを存分に活かした台詞だったと思います。 二度ある事は三度あるとばかりに、最後はスティフラーのママが登場して〆るのも最高。 結果的には、この後に五本も続編が作られている訳ですが、作り手としても一旦はコレで完結という事を意識した内容だったんじゃないか……って気がしましたね。 そういう意味では「三部作」の最後を飾る品として、見事な出来栄えだったんじゃないかと。 「シリーズに興味はあるけど、流石に八本も観るのは大変」って人も、とりあえず3までは観て欲しいなと思える、そんな節目の一本でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2022-07-23 15:43:47)(良:1票) |
122. 映画ドラえもん のび太の新恐竜
《ネタバレ》 名作「恐竜2006」の続編となる映画。 本作を手掛けた今井監督自身「恐竜2006を手掛けた渡辺歩さんは、僕が尊敬し憧れてやまない監督」「あの作品が無ければ今の劇場版ドラえもんは存在しない」「子供だけでなく大人も『映画』として鑑賞できる作品になった」と絶賛している品の続編であるだけに、確かな意気込みが伝わってきましたね。 とにかく映像と音楽のクオリティが素晴らしいし、脚本の川村元気氏と話し合い作り上げたというストーリーに関しても、非常に練り込まれていたと思います。 何せ、これまで頼もしい味方だったTPが敵に回り「のび太が時空犯罪者として逮捕されそうになる」という衝撃の展開まで描かれていますからね。 滅びゆく恐竜達を救おうとする終盤の展開は、ともすれば「竜の騎士」の二番煎じというだけで終わってしまいそうなものなのに、そこに独自の要素をアレコレと盛り込んで、全く新しい魅力を感じさせる品に仕上げてみせたのだから、お見事です。 一応、上述の「竜の騎士と展開が被っている」部分。 それから「恐竜2006の『続編』であるにも拘わらず、まるで『リメイク』に思わせるようなミスリード展開があった事」「キャラデザが月面探査記より微妙に思えた事」「オープニング曲が流れない事」など、細かく言えば欠点になりそうな箇所も幾つかあるんですが…… それ以上に「キューは滑空する翼竜ではなく、羽ばたいて空を飛べる始祖鳥だった」と判明する場面の爽快感。 「のび太達が冒険していた島の正体が分かる」までの脚本の巧みさなど、長所の方が圧倒的に眩しくて、霞んじゃいます。 それと、本作の好きなポイントとしては「主人公の『努力』が濃密に描かれている事」も挙げられそうですね。 これまでのドラ映画って、尺の都合もあるにせよ、主人公のび太が努力して何かを身に付けるとか、そういう展開って殆ど無かったんです。 精々が魔界大冒険の「スカートめくり」くらいであり、あれが完全にコメディタッチに描かれていた事を考えると、真面目な面持ちで何度も諦めず挑戦し、傷付きながら「逆上がり」に挑んで見せるのび太の姿は、本当に新鮮に感じられて良かったです。 これも恐竜2006以降の「僕も頑張る、とピー助に約束してみせたのび太」だからこそ、また「キャラクター達が傷付き血を流す描写を、原作同様に描くようになった」からこそ出来る展開であり、非常に味わい深い。 思えば原作コミックス第一巻にも「人にできて、きみだけにできないなんてことあるものか」とドラに励まされ、特訓の末に竹馬に乗れるようになるのび太って場面がありましたし、本作が紛れも無く原作漫画「ドラえもん」の魂を受け継いだ品である事を実感させられます。 そもそも前作の月面探査記では「これまで舞台になった事が無い月が舞台である」という分かり易い斬新さがありましたが、本作はその点不利であり「これまで何度も舞台になってきた恐竜達の時代の話」なんですよね。 それでも、そんなハンデをものともしないというか、むしろ逆手に取って「生まれ変わったピー助との再会」という、これ以上無いほどの劇的な展開に繋げてみせたんだから、もう脱帽です。 鳴き声を聞いた時点で(もしや……)と思っていましたが、スタッフロールにて「ピー助/神木隆之介」の表記を目にした際には、本当に声が出そうになったというか、涙が溢れて止まらなくなったくらい。 本作のノベライズを読んだ時点でも(これ、神木隆之介ボイスだったら良いのになぁ)と思いつつ、やはりそれは諸々の理由で難しいんじゃないかと諦めかけていただけに、まさかの神木ボイスであった事、そして別れの場面でも登場させ「恐竜は滅びていない。ピー助も生き続ける」と伝えてくれた事に対する感激というか…… 作り手の皆さんへの「ありがとう」という気持ちが抑え切れなくて、ひたすらに「涙」という代物でしか感情を表せなかったんですよね。 ドラえもんを好きで良かった、映画館に足を運び続けて良かったと、そんな事をしみじみ感じられた瞬間でした。 なお、来年の映画は山口晋監督による「新・宇宙小戦争」であるみたいで、これまた期待が高まりましたね。 原作漫画の「市民による武力革命」を映像化してくれるかどうか、戦車のカラーリングを原作準拠にしてくれるかどうかと、色んな面で注目しつつ、また来年の公開日を楽しみに待ちたいと思います。 [映画館(邦画)] 8点(2022-07-23 11:35:12) |
123. ブルー・ストリーク
《ネタバレ》 「ビバリーヒルズ・コップ」(1984年)に影響を受けた映画なんて、星の数ほどある訳ですが…… その中でもオリジナルに比肩するほどの傑作は何かと考えたら、真っ先に本作が思い浮かびますね。 単純に「面白い」「出来が良い」っていうのもありますが「元々は犯罪者という経歴を活かし、型破りな捜査を行う主人公刑事」っていう面白さを「ビバリーヒルズ・コップ」以上に描いてる点が素晴らしい。 次々に事件を解決し、周りから「アイツは凄い刑事だ」と誤解されていく様も愉快だし、この一点においては間違い無く元ネタを越えてると思えます。 それと、本作には二面性の魅力があり「マローン刑事による事件捜査パート」だけでなく「泥棒のマイルズによる侵入窃盗パート」も、しっかり面白く描けてるんですよね。 冒頭、ダイヤを盗みに入る場面だけでもワクワクさせられるし、なるべく人を傷付けないよう行動してるから、観客に不快感も抱かせない。 この辺りのバランスが絶妙で、ホントに理想的な「悪党主人公」であったように思えます。 ……先程「悪党主人公」と断ずる事によって気付かされましたが、本作って主人公のマイルズが「刑事を演じている内に正義感に目覚め、罪を悔いて改心する」なんて展開には全くならず、一貫して「悪党」のままであるっていうのも、凄いポイントですよね。 カールソン刑事達とは友情が芽生えているけど、彼らの為にと自首したりはせず、最後もダイヤを持ち逃げしちゃう。 それでも(こいつ、酷ぇ奴だな)とは思わなかったし、鮮やかに逃げ切った姿が痛快ですらあったんだから、もう御見事です。 脚本と演出、どちらも高いレベルにあったからこそ成し得た偉業と、そう呼んでも差し支えないくらい、凄い事だと思います。 一応、欠点も述べておくなら「女っ気も出しておこう」というサービス精神ゆえか「恋人のジャニース」「グリーン弁護士」などを登場させているのは、ちょっと無理矢理な感じで、浮いているように思えた事。 あと、ラストに仇敵のディークを殺す場面は、如何にも恰好付け過ぎで、違和感あった事が挙げられそうですね。 それまでのマイルズのキャラとも合ってないと思うし、事前に「ディークを殺すのを躊躇い、銃を持つ手が震える場面」があったのとも矛盾してる。 監督としては「最後を恰好良く〆て、ギャップに震えさせたい」って意図があったのかも知れませんが、正直ハズしてた気がします。 それと、マイルズとの別れの際にカールソン刑事が「その内、会えるかも」と言ってるのも、ちょっと残念。 続編を意識させるというか、期待を煽るような台詞だったのに、2022年現在「ブルー・ストリーク」の続編は作られていない訳ですからね。 これって、実に残酷な描写だと思います。 本当、今からでも続編を作って欲しいな、再びこの映画の世界に浸ってみたいなと思わせてくれる…… そんな一品でありました。 [DVD(吹替)] 8点(2022-07-23 11:14:14)(良:1票) |
124. レッド・ウォーター/サメ地獄<TVM>
《ネタバレ》 (夏だなぁ……サメ映画観なきゃ)という想いで鑑賞。 ルー・ダイアモンド・フィリップスが主演だし、割と期待値は高めだったんですが…… どうもチグハグというか「予想も期待も裏切る内容」って感じだったのが残念ですね。 これは低予算のサメ映画では結構ある事なんだけど、本作でも「銃を持った悪人の方が、サメより脅威」という現象が起きてしまっているんです。 それ自体は決して悪い事じゃないんですが、本作の場合は「銃を持った悪人を倒すカタルシス」が描かれていないのが問題なんですよね。 盗まれた金を探しに来た悪人達に、主人公グループが監禁される流れな訳だけど、主人公が頑張って反撃しようとしても、あっさり鎮圧されちゃう。 で、形勢逆転のキッカケになるのが「悪人達の仲間割れ」であり、それに乗じて主人公達が逃げ出すって形なので、何ともスッキリしないんです。 しかも悪人達の中で、最も有能でボスキャラと思われた人物が、無能な仲間に殺されるって形なので「強敵を倒した達成感」も得られず仕舞い。 流れとしては「一番有能な敵が不意打ちで無能な敵に殺される」→「その無能な敵もサメに殺される」→「主人公がサメを殺して事件解決」って形であり、どうもややこしいというか…… こんな複雑なストーリーの品よりも、最後の「主人公がサメを倒す」という一点に特化した映画が観たかったなと、つい思っちゃいました。 他にも「嫌味な憎まれ役だったジーンが死ぬ場面は感動的に描く」「良い人枠なハンクはアッサリとサメに喰われ、その後に笑いを取ったりしてる」ってのも、何ともチグハグな演出。 普通は「憎まれ役をサメに喰わせて、観客をスッキリさせる」「良い人が死ぬ場面は感動的に盛り上げる」ってのが、サメ映画のお約束ですからね。 意外性を狙ったのかも知れませんが、結果的には「ベタで王道な魅力」が失われてしまっただけに思えました。 そんなこんなで、褒めるのは難しい作品なのですが…… ラスト数分で、思い出したようにサメ映画らしい内容になり、しかも「石油採掘用のドリルでサメを倒す」っていう痛快なクライマックスを見せてくれたのは、嬉しかったですね。 これまで色んなサメ映画を観てきたけど「ドリルで倒す」ってパターンは初めてだし、何かもうそれだけで(良いもん見たな……)って満足しちゃいます。 その後にダラダラと引っ張る真似もせず、警察のヘリが現れて「助かった……」という安堵感と共に終わる辺りも気持ち良い。 主人公の船の名前は「ビターエンド」だったけど、ハッピーエンドと言って良さそうな、スッキリとした終わり方でしたね。 終わり良ければ全て良し……ってのは大袈裟かも知れませんけど、一応「サメ映画を観た」って気持ちにはさせてくれたので、満足です。 [DVD(吹替)] 5点(2022-07-16 19:56:06) |
125. ラッシュアワー3
《ネタバレ》 シリーズを重ねる毎に「ダブル主人公」ではなく「主人公のリーと、その相棒のカーター」って形に変化していった二人。 自分としては元々リーの側に肩入れする気持ちが強かった為、さほど違和感を抱かずに済んだけど…… これってカーターの方が好きな観客にとっては、結構辛かったんじゃないかって思えますね。 前作のヒロイン格であるイザベラがリーと疎遠になったのも「カーターが悪い」って事になってるし、その辺ちょっと厳しいというか、ファンに優しくない作りだった気がします。 そんな明確な欠点がある映画なんですが、2に続いて3でも魅力的な敵役を用意してみせた点に関しては、素直に評価したいです。 本作でカーターの影が薄いのって、コイツのせいじゃないのかって思えるくらい、真田広之演じるケンジが魅力的。 「主人公リーの弟分」「今は敵対し、かつての兄貴分に愛憎入り混じった想いを抱いてる」って設定だけでもオイシイし、日本刀を鮮やかに振るう姿も恰好良い。 そんなケンジとの「エッフェル塔での戦い」は、間違いなくシリーズ屈指の見せ場だったと思います。 リーが弟分のケンジから「孤独な男」と断じられた場面で「孤独じゃないわ」と女装したカーターが助けに来る場面はグッと来るし「やるじゃん、シスター」「任せて、ブラザー」ってやり取りも面白かったしで、こうして感想を書いてみると(あれ? 意外と良い映画だな)って、鑑賞後の印象とのギャップに、自分でも戸惑っちゃうくらいですね。 では、何故そんな本作の「鑑賞後の印象」が悪かったかというと…… やっぱり、終わり方のせいだと思うんです。 本当、今観返してみても「唐突過ぎる」「呆気無い」「何でこんなブツ切りで終わらせたの」って、理解に苦しむくらい。 ……ただ、上述の「唐突の終わり方」に関しては、劇場公開版&ソフト版に限った話であり、地上波放映版では、未公開だったラストシーンが追加され、グッと自然な終わり方になっていたりもするんですよね。 劇中(扱いが酷いなぁ)と思えたイザベラに関しても、リー達と再会する場面が描かれ、しっかりフォローされていますし。 狙撃されたハン大使が無事に退院した事も明かされ、文句無しのハッピーエンドになってる。 そして何より「1や2と同じく、リーとカーターが休暇に旅立つ終わり方」「俺達は相棒じゃなく、兄弟だと認め合う終わり方」であった事が、本当に良かったです。 残念ながらNG集は拝めないってマイナスを考慮しても、自分は地上波放映版の終わり方を支持したいですね。 ちなみに、本作の劇中では「ケンジのタマ取って妹にしちゃえ」という台詞がありますが、ドラマ版(2016年)では実際にリーの妹が出てきたりもするので、気になった人は是非チェックして欲しいですね。 「映画版と殆ど変わらないカーター」「寡黙な美男子という独自の魅力を出してるリー」という主人公二人の描き方も良かったし、最後も綺麗に終わってるしで、この手の「人気映画をドラマ化してみた」パターンの中では、かなり良く出来てる方だと思うので、オススメしておきたいです。 [地上波(吹替)] 6点(2022-07-11 20:40:06)(良:2票) |
126. BLACK & WHITE/ブラック&ホワイト(2012)
《ネタバレ》 凄腕のCIA捜査官である男二人が、一人の女性を奪い合うという御話。 こういった粗筋の場合、最終的には男側が二人とも振られてしまうか、明確な結論を出さぬまま女性にとっての両手の花的なエンドを迎えるパターンが多いように思えますが、本作は明確に片方を選んで終わる為、驚きましたね。 大体映画の三分の二くらいの段階で(これはFDRの方と結ばれるな)と観客に分からせる形になっており、この辺りの時間配分も良かったと思います。 それと、タックには元妻と息子がいるのに対し、FDRは完全に独り身って時点で後者の方が有利なんですが、本作に関しては「最初にローレンスとデートしたのはタックの方である」というアドバンテージを与えて、二人のスタートラインが互角になるよう、上手く調整してあるんですよね。 これによって二人の内、どちらがヒロインと結ばれるのか読めなくなっているし、結果的にFDRとローレンスが結ばれた後も「タックは元妻と復縁する」って形で、主役の三人誰もが幸せになる結末へと着地する事にも成功している。 この手の三角関係で明確に答えを出すと、どうしても一人あぶれ者が生まれて、可哀想になってしまうものですが…… 本作に関しては、そんな感情を全く抱かずに観終わる事が出来たし、ここは上手かったんじゃないかと。 男側の二人がCIAである事を活かした会話のギャグや、アクション場面も適度に盛り込まれており、特に後者に関しては「流石マックG監督」と思わせるような仕上がりとなっているんだから、嬉しい限りでしたね。 タックの息子が、父親から教わった技で柔道の組み手に勝つ場面も爽快感があったし、個人的にはココが一番好きな場面です。 そんな具合に、良いところも色々ある映画なんだけど…… 残念ながら、欠点もそれと同じくらい見つかっちゃうというんだから、困り物。 まず、ヒロインのローレンスに、どうしても魅力が感じられなかったんですよね。 それは演じているリース・ウィザースプーンが老けていて、美女とも言い難いとか、そんな外面的な理由じゃなくて、もっと深い内面的な理由で(嫌な女だなぁ……)と思ってしまったんだから、キツかったです。 決定的だったのが、FDRと初エッチを済ませた後の展開。 FDRの方は、それまでプレイボーイ気質であったにも拘らず「彼女が出来たから」と他の女の誘いを断っていたのに、ローレンスの方は悩みつつもタックとデートしたり、キスしたりしていたというんだから呆れちゃいます。 自分だって二股を掛けていたくせに、彼らが友達同士と知った途端に「騙された被害者」全開に振る舞うっていうのも酷い。 そこは三者共「ごめんなさい」するところだろうに、何で彼女だけが怒って男達が謝らなきゃいけないんだと、理不尽なものを感じちゃいました。 他にも、意味ありげな「バケツを頭に被って回る少年」は何か重要な役割を果たすのかなと思ったら、本当に単なる小ネタに過ぎなかったのが残念とか「バルカン超特急」(1938年)を「二流の作品」と断じる場面があったので、後でフォローが入るかなと思ったら貶したままで終わっちゃったとか、細かい不満点も色々多いんですよね。 自分は、この監督さんと主演の三人が好きなので、それらも含めて(まっ、良いか)とばかりに、一定の満足感は得られましたが…… そういった思い入れが無かったら、かなり厳しかったかも。 好きな顔触れが揃っているだけに、勿体無く思える一品でした。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2022-07-08 18:19:45)(良:2票) |
127. ラッシュアワー
《ネタバレ》 米国におけるジャッキー人気を決定付けたという、記念すべき一本。 そう考えると、映画史においても重要な品のはずなのですが…… そんなアレコレを加味しなくとも、単純に刑事物のバディムービーとして、良く出来てると思います。 この手の映画の場合、主人公は「常識人タイプ」と「型破りタイプ」に分かれがちであり、本作も一見するとリー刑事が「常識人」カーター刑事が「型破り」なのかと思えるのですが、映画が進むにつれ、徐々にその関係性が逆転していく様が面白いんですよね。 カーターの方は「ビバリーヒルズ・コップ」(1984年)的な「陽気な黒人刑事」というキャラクターであり、どう考えても相手を振り回す側のはずなのに、無口で真面目そうなリーに振り回されるという意外性。 旧来のバディ物、そして刑事物に慣れ親しんだ観客であればあるほど、この展開には意表を突かれ、新鮮な魅力を味わえたんじゃないでしょうか。 監督のブレット・ラトナーがジャッキーのファンだったので、アクション・シーンもジャッキーが好きなように演じる事が出来たという、その一点も素晴らしいですね。 クライマックスにて描かれる「展示品を壊さぬように、必死にフォローしながら戦う場面」「絨毯ダイブ」などの魅力は、如何にもジャッキー映画的であり、彼のファンとしても、大いに満足。 そんなジャッキー演じるリーだけでなく、相棒となるカーターが魅力的なキャラクターであった事も、忘れちゃいけないポイント。 「誰にでも出来る、下らない任務」としてリーの接待を任されたカーターだけど、見事に誘拐事件を解決してみせて「高慢なFBIの鼻を明かす」って痛快さを描いてるんですよね。 リーの側だけでなく、カーターの側に感情移入して観ても面白いって辺りは、続編の「2」や「3」では失われてしまった長所であり、本作のバディムービーとしての完成度の高さを証明してる気がします。 「カーターは銃を二丁持ってる」「リーから銃の奪い方を教わっている」などの伏線が、きちんと張られている事にも感心しちゃうし、反目する主人公達が仲良くなるキッカケが「歌と踊り」っていうのも、お約束な魅力がありましたね。 幼女のスー・ヤンに、爆弾処理に長けたタニアといった具合に、魅力的な脇役が揃ってる点も良い。 商業的な成功が、必ずしも傑作の条件という訳ではありませんが…… 本作に関しては、ヒットしたのも納得。 そしてシリーズ化したのも納得な、魅力のある映画だったと思います。 [DVD(吹替)] 7点(2022-07-07 14:18:39) |
128. ラッシュアワー2
《ネタバレ》 ラッシュアワーシリーズって、三部作全てブレット・ラトナー監督のはずなんだけど…… (あれ、もしかして監督交代した?)と思えちゃうくらい、続編物としての欠点が目立つ作りなのが寂しいですね。 一応、1にあった楽しい雰囲気は維持されてると思うんだけど、何ていうか「1と2の繋げ方が雑」なんです。 前作のラストで「カーターは中国語を話せる」ってオチになったはずなのに、実際は手帳に書いたワードを読み上げる事しか出来ないって設定になってるし、1ではビーチボーイズを馬鹿にしてたカーターが「ビーチボーイズ最高!」と言ってる辺りも、1と2の間に何があったんだよと気になっちゃう。 シークレットサービスになれたと喜ぶカーターっていうのも、1のラストにてFBIになる事を拒否し「俺はロス市警で良い」と恰好良く啖呵を切った場面を考えると、違和感があるんですよね。 この辺に関しては、監督というより脚本家の交代が原因かとも思えるんですが、真相や如何に。 そんなこんなで、ちょっと褒めるのが難しい一本なんですが…… 一応「1には無かった、2独自の良さ」も、ちゃんと備わっていたと思います。 何と言っても最大の長所は、悪役美女のフー・リを演じる、チャン・ツィイーの存在。 林檎にナイフを投げる場面とか、戦う前に鮮やかな動きで髪を結う場面とか、もう惚れ惚れしちゃうくらい魅力的でしたね。 凛々しさと可憐さ、その双方を備え持っており、爆発で死んじゃうオチなのが悲しく思えたくらい。 リーが口の中にある爆弾を作動させない為、フーにキスする場面も可笑しかったし…… 父の仇であるラスボスのタンを撃つべきか、それとも正義の為に自制するかでリーが迷う場面にて、相棒のカーターが「撃て」と急かすのも、新鮮で良かったです。 こういう場合、相棒は撃たないようにと諭すか、わざと露悪的な事を言って思い止まらせるもんなのに「俺達以外には誰もいない」とか言い出す始末ですからね。 本作の主人公二人が、型通りの「バディ物」には収まらない魅力を持ってると示した、印象深い場面です。 前作と同じように「休暇に旅立つ二人」という、楽しい雰囲気のまま終わってる辺りも、嬉しいポイント。 上述の通り、続編映画としては色々と不満もあるんですが…… これ単体で評価する限りでは、中々良く出来た映画だったと思います。 [DVD(吹替)] 6点(2022-07-07 14:14:33) |
129. ドライヴ(2011)
《ネタバレ》 「男が抱いているヒーロー願望を、そのまま映画にしましたよ」という感じですね。 理由なんて全く語られないけど、とにかく主人公は強い。 幼い少年には無邪気に懐かれて、人妻と許されぬ恋に落ちたりする。 観ていて恥ずかしさも覚えるのだけど、それでも作り手のセンスの良さや、主演俳優の恰好良さに痺れる思いの方が強かったです。 派手なカーチェイスを繰り広げる訳ではなく、警察の目から巧みに車体を隠しながら逃げおおせるという冒頭のシーンが、特に素晴らしい。 「追いかけっこ」の興奮とは違う「かくれんぼ」の緊張感を味わえたように思えます。 それだけに、中盤にて車同士で火花を散らすような「普通のカーチェイス」の場面もあった事は(あっ、結局そっちもやっちゃうの?)という落胆もあったりしたのですが……まぁ、そちらはそちらで、やはり魅力的だったし「タイプの異なるカーチェイスを両方味わえる、お得な映画」と考えたいところ。 ちょっと気になるのは「恰好良い主人公」を意識し過ぎたあまりか、敵側の恐ろしさが欠けているように思えた事ですね。 丁寧に敵側の目線での物語も描いている為「底知れない不気味さ」なんてものとは無縁だし、単純に人数も少ないものだから、作中で「強敵と立ち向かう主人公の悲壮感」を醸し出す演出がなされていても、今一つ説得力が感じられなかったのです。 ここの部分は、少々バランスの取り方を間違えたのではないかな、と。 逆に「上手いなぁ」と感じたのは、エロティックな要素の挟み方。 バイオレンスな内容である以上、性的な場面が全く存在しないというのは不自然になってしまいそうだし、ある程度は必要になってくると思うのですが、この映画では、それを「敵地に乗り込んだ際に、そこに裸の女が沢山いる」って形でクリアしているのです。 こういった場合、ついつい安易に「人妻であるヒロインと許されぬ関係を結んでしまうベッドシーン」なんて形で性的な要素を満たそうとするものですが、そこを踏み止まって、あくまでもプラトニックな恋愛描写に留めてくれた事が、本当に嬉しかったですね。 夜の車内で二人きりになって、そっと手を握るだけでも充分に「背徳感」「許されぬ逢瀬」という雰囲気が伝わってきたのだから、これはもう大成功だったかと。 ヒロインの息子との交流シーンにて、普段は滅多に笑顔を見せぬ主人公が笑ってみせる描写を挟む辺りも、ベタだけど効果的で良かったと思います。 ベタといえば、そもそも「裏稼業のプロフェッショナルな主人公が、美女や子供と交流する事によって癒され、彼らを守ろうと戦う」というストーリーライン自体、ベタで陳腐で王道な代物なんですよね。 である以上「何度も使われてきた魅力的な骨組みである」という長所と「もう観客は見飽きているマンネリな内容」という短所が混在している訳ですが、この映画に関しては、前者の方を色濃く感じる事が出来ました。 ラストシーンも、これまたお約束の「主人公の生死は曖昧にしておきます」「お好みの後日談を想像して下さい」という、観客に委ねる形の結末だったのですが、音楽の使い方やカメラワークが上手いせいか、あんまり「ズルい」って感じはしませんでした。 自分としては「お腹を刺されたけど、病院に行けば治るんじゃない?」「とりあえず一番の脅威は排除したし、残党が襲ってきても主人公なら大丈夫でしょう」「あの奥さんと子供とも、きっと再会して三人で幸せになれるよ」なんていう、楽天的な未来を想像する訳だけど、それも有り得そうな気がするんです。 バッドエンドとは程遠い、不思議な爽やかさと明るさが感じられる終わり方だったからこそ、そう思う事が出来た訳で、非常に後味が良い。 ダメ男の現実逃避用とも言われてしまいそうな、そんな感じの代物なのですが…… やっぱり好きですね、こういう映画。 [DVD(字幕)] 7点(2022-07-06 17:54:25)(良:4票) |
130. コヨーテ・アグリー
《ネタバレ》 若者が夢を叶えるまでを描いた、シンプルで気持ちの良い映画。 実在の店をモデルにしているようですが、特に柵のようなものも感じさせず、自然に仕上がっていたと思いますね。 アパートの屋上で歌う場面からは「都会で一人ぼっちの田舎娘」という切なさが伝わってきたし、ニューヨークを舞台にした意味も、しっかり有ったんじゃないかと。 一応、部屋に泥棒が入る場面などで「都会の恐ろしさ」も描いていますが「ニューヨークの人達も、良い人ばかり」という、牧歌的な世界観である辺りも嬉しい。 困窮してる主人公を見かねて、見ず知らずのオジサンが食事を奢ってくれる場面とか(良いなぁ……)って、しみじみ思っちゃいましたね。 冷たいイメージのある都会だからこそ、人の好意が身に沁みるという訳で、凄く印象深い。 「夢を叶える為にニューヨークに来たけど、妥協して別の仕事してる人なんて沢山いる」という事が丁寧に描かれているのも、本作に深みを与えていた気がします。 そんな「妥協した大人」の代表であるコヨーテ・アグリーの店長といい、主人公ヴァイオレットの父親といい、魅力的な脇役が揃っている点も良い。 自分としては、ケヴィン・オドネルというキャラクターが、特にお気に入りでしたね。 女性主人公なラブコメの相手役って、高嶺の花である「王子様」と身近で親しみやすい「彼氏くん」に分かれる訳ですが、本作のケヴィンは後者のタイプ。 幾つもの仕事を掛け持ちして、頑張って生きてる姿が眩しいくらいだったし、マッチョな二枚目なのに、意外とアメコミオタクだったりするのも憎めない。 一歩間違えれば「胡散臭い、女性に都合が良いだけのイケメンキャラ」になりそうなもんなのに、同性の自分から見ても好ましいバランスに仕上がってたんだから、お見事でした。 「アメイジング・スパイダーマン」や「最初のサイン」といったアイテムの使い方も上手いし、練習して瓶捌きが上手くなる場面など「働く楽しさ」が伝わってくる内容なのも良い。 そして何と言っても、ヴァイオレットがステージ恐怖症を克服し、唄い出す場面が素晴らしかったです。 これまで彼女を支えてきた人々が、歌声を聴いた途端に、嬉しそうな笑顔になる。 「夢を叶える事」だけでなく「夢見る人を支え、応援する事」も素晴らしいと伝えてくれる、文句無しの名場面だったと思います。 ヴァイオレットに対し、何かと嫌味な態度で接してたレイチェルが、野次を飛ばす客を黙らせる場面も痛快だったし、そういう「ツンデレな魅力」を感じさせるキャラクターが多かった気がしますね。 個人的には嬉しい事なんだけど、誰も彼もが「嫌な人かと思ったけど、実は良い人」ってオチになっちゃうので、その辺は好みが分かれてしまう部分かも。 後は主人公のステージ恐怖症について、描写が曖昧なのも(冒頭、友達と一緒にステージで唄ってるので後の展開と少々矛盾してる)欠点となりそうです。 こういう明るく楽しいノリで、若者向けの映画って、何だかそれだけで「傑作」とか「名作」とかいう言葉が似合わない気がしちゃうけど…… この映画には、そんな言葉より「好きな映画」って言葉の方が似合っちゃうんだから、仕方無いですね。 たとえ映画史に残る名作であっても、一度観れば充分だって感じる品も多いのですが、本作は定期的に観返したくなる。 オススメの一本です。 [ブルーレイ(吹替)] 8点(2022-07-01 18:24:26)(良:1票) |
131. セルラー
《ネタバレ》 「別れのワイン」もそうでしたが、ラリー・コーエン関連作だと彼が「脚本」を担当した品よりも「原案」を担当した品の方が、傑作が多い気がしますね。 根本となるアイディアを思い付く能力と、それを形にする能力とは別なのだと示す好例であるように思えます。 実際、本作においても「携帯電話が紡ぐ物語」を魅せる演出が、アイディアに負けず劣らず素晴らしかったですからね。 とにかく展開が早くて、映画が始まって三分程でヒロインの女性が拉致される様を描く辺りなんて、実に気持ち良い。 本作は「ある日突然、謎の連中が家に押し入って来て監禁された」というヒロインと「ある日突然、謎の電話が掛かって来た」というヒーローの二人によるダブル主人公制になっているのですが、この二つの導入部を立て続けに見せられると、普通ならダレちゃうはずなんです。 なんせ「一人の主人公」「一つの導入部」に比べて、単純計算で二倍の時間が必要になるし(さっき導入部やったのに、また別の主人公でやるのかよ)という観客の苛立ちだって、無視出来ませんからね。 にも拘らず、本作はとにかくスピーディーな演出で乗り切って、観客に余計な事を考えさせず、そのまま映画の世界に引きずり込んじゃう訳だから、見事という他ないです。 主演がクリス・エヴァンスにキム・ベイシンガーと、アメコミ映画好きには嬉しい顔触れが揃っている事。 更に、ジェイソン・ステイサムやウィリアム・H・メイシーまでいて、脇役陣に至るまで非常に豪華な事も、嬉しい限り。 本作は主役側の「青年」「女教師」「警官」の三人が、揃いも揃って有能という、都合が良過ぎる内容なんですけど、それに対する違和感が少なくて済んだのは、演者さんの力が大きかった気がします。 それと、普通ならエヴァンス演じる青年に視点を絞り「ある日突然、謎の電話が掛かって来た。受話器の向こうにいる彼女は何者だ? 監禁されてるというのは本当なのか?」という謎解きの物語にするところだろうに、ダブル主人公制にして、事前に答え合わせを済ませてある辺りも、本作の凄いところですよね。 「謎解きの魅力」は潔く振り切って「事件を解決しようと奔走する面白さ」を重視した作りになっており、それゆえに新鮮で、十五年近く経った今でも古臭さを感じさせない。 「携帯切れよ、運転に集中しろ!」と言いつつ、自分も携帯電話とハンドルを手放せない主人公の姿とか、非常事態ゆえのギャップの面白さを描いている点も良いですね。 大変な事件が起こっているのに、それを知っているのは主人公だけで、周りは理解してくれないというシチュエーション。 だからこそ「すれ違いコント」のような笑いがあるし、孤軍奮闘している主人公の事を、観客も応援したくなるという図式。 携帯のバッテリーを調達する為、止むを得ず店から強盗する際のカメラワークなんかも、凄く良いですね。 あえてシンプルに、画面を左から右へと移動させ、その後にまた右から左に戻すという形で「車に行って銃を取り、店に戻って来る」という主人公の動きに、完璧にシンクロさせている。 主題歌の使い方も抜群に上手くって、視覚的に印象に残る場面と、聴覚的に印象に残る場面、その両方が揃っているってのは、かなり凄い事なんじゃないでしょうか。 そんな中でも特に好きなのは、人質を取られているのを承知の上で「交渉決裂だな」と一度電話を切り、犯人側が再交渉を持ち掛けてくるのを、祈りながら待つ主人公という場面。 とにかくエヴァンスの演技が素晴らしくて、本当に感情移入させられるし、犯人側が折れる電話を掛けてくるまでの「間」も完璧で、緊迫感が凄かったです。 敵側が悪徳警官である事を活かした「(人質には)手を出さないと誓う」「市民を守ると誓ったように?」というやり取りも、皮肉が効いていて素敵でしたね。 クライマックスにおいても、アラームを駆使して敵の位置を知らせたり、ビデオ録画で証拠を押さえたりと、最後まで「携帯電話」というアイテムをフル活用している辺りも、実に見事。 ヒロインは人妻なので、ロマンスに発展したりはしないんだけど、最後は感謝を込めたキスで終わって、ハッピーエンドとなる辺りも好みですね。 携帯電話の画面を使ったスタッフロールに至るまで、とことん楽しむ事が出来た、満足度の高い一品でした。 [DVD(吹替)] 8点(2022-06-10 07:30:47)(良:2票) |
132. 生きてこそ
《ネタバレ》 実話という衝撃が大き過ぎる映画なのですが、単純にサバイバル物として考えても、良く出来てますよね。 完全なフィクションとして提供されても「これは凄い、傑作だ」と唸るくらいに面白い。 本作には「実際に起こった悲劇を風化させない為、後世に伝える為」という制作意図もあったのでしょうけど「観客を楽しませる娯楽映画」としても、立派に成立してると思います。 序盤にて飛行機が墜落する場面も迫力があり、映画としての「掴み」に成功してる辺りにも、感心しちゃいましたね。 他にも「普通の道だと思って足を踏み出したら、実は崖の上に雪が積もっていただけで転落死しそうになる場面」もあったりして、視覚的なスリルを味わえる作りになってる。 「明日救出が来ると勘違いして、配給制にしていたチョコやワインを一気に消費しちゃう」とか「新しいスーツケースを見つけ、その中の歯磨き粉を夢中で貪る」とか、極限状態ならではの可笑しさ、面白さを丁寧に描いている点も良かったです。 最初はギターを弾く余裕があったのに、後に暖を取る為にギターを燃やしてしまう描写なんかも、徐々に状況が切迫してる事を伝える効果があって、印象深い。 それと、実際にあった墜落事故について調べてみると、宗教的な色合いが強く「仲間の遺体を食べる」事が可能だったのは「彼らがキリスト教徒だったから」「聖体拝領という儀式が存在したから」こそと思える感じなのですが、本作はそういった説明を必要最小限に止めてるんですよね。 それによって、キリスト教徒ではない観客にも感情移入させる事に成功してるし、この辺りのバランス感覚の巧みさが、本作を傑作たらしめているように思えました。 主人公格と思われたキャプテンのアントニオが中盤で死亡してしまったり、最初は眼鏡姿で頼りない印象だったナンド・パラードが皆を救う為の脱出行を成功させたりといった具合に、群像劇としての魅力が詰まってる作りなのも良い。 こういったサバイバル物において「誰が生き残るのか分からない」と思える作りになってるのは、物語としての大きな強みですからね。 「前半はアントニオが主役と思わせておいて、実はナンドが主役だったと後半に明かす」「全体を通してメインになる存在としては、医学生のロベルト・カネッサを用意する」という構成にしているのは、本当に上手かったと思います。 捜索が打ち切られた事を「良い知らせだ」「これで自分の力で脱出しなきゃならん事が、ハッキリした」と語る場面や、山を越えた後に更なる山脈が広がってるのを目にしても「歩いてみせるさ」と諦めず前進を続ける場面にも、感動させられましたね。 思えば上記二つの場面とも、主人公のナンドの魅力が光る場面でしたし「途中まで脇役かと思われた人物が、実は主人公である」という変則的な手法なのに納得させられたのは、彼の魅力に依るところが大きいように思えます。 それだけに、そんなナンド達の「奇蹟の脱出行」の描写が短く「絶対無理と思ってたけど、意外と何とかなった」としか思えない描き方になってるのが気になっちゃうんですが…… まぁ「そこに尺を取り過ぎても、冗長になってしまうから」という判断ゆえなのでしょうね、きっと。 ちなみに、本作は群像劇であるがゆえに、ナンド・パラード目線で書かれた「アンデスの奇蹟」(2006年)とは受ける印象が違っており、その差異に関しても興味深いものがありました。 脱出を成し遂げた二人に関しても、本作では「無謀で我の強いナンドに苦労させられる、常識人のカネッサ」って対比になってるのに対し「アンデスの奇蹟」を読んでみると「一途で誠実なナンドと、有能だが毒舌で偏屈なカネッサ」っていうコンビになっているんです。 自分としては後者の方が魅力的に思えたくらいなので、こちらのキャラクター像に合わせた映画も、何時か観てみたいですね。 それと「アンデスの奇蹟」においては「ナンドが旅立つ際に、片方だけ残していった子供靴の由来」「目を保護する為のサングラスの作り方」に関しても詳細な説明が為されており、映画で気になってた部分の答え合わせが行われているのも、見逃せないポイント。 本作は紛れも無い傑作であり、これ単品でも満足出来ちゃう仕上がりなのですが…… 原作となったドキュメンタリーの「生存者」(1974年)そしてナンドの自伝と言うべき「アンデスの奇蹟」を併読すると、より楽しめると思うので、オススメしておきたいです。 [DVD(吹替)] 8点(2022-06-05 17:32:16)(良:2票) |
133. ナーズの復讐 集結!恐怖のオチコボレ軍団
《ネタバレ》 劇中にて「ナーズにも人権がある」という演説が行われるのですが、それが大袈裟でも何でもないくらい、彼らが迫害されている事に吃驚。 観ていて可哀想になりますが、基本的にはコメディタッチの作品なので、陰鬱になり過ぎる事も無く、程好いバランスに仕上げてありましたね。 「いじめ問題」を中心とした、堅苦しい作品となっていてもおかしくなかったのに、娯楽作品であるという線引きを忘れず「ナーズの青春」を感じさせるような、良質な学園ドラマとして完成させている辺りは、本当に見事だと思います。 最初の体育館暮らしの時点で「飛び級してきた男の子」「ゲイの黒人」「不良」「日本人」などの、後にメインとなる面子が、しっかり目立っていた辺りも良いですね。 主人公二人が眼鏡を掛けていて、見分けるのが難しいコンビであったのに比べると、この四人組は視覚的にも分かり易いし、脇役として絶妙なバランスだったんじゃないかと。 如何にも学園のマドンナといった感じのブロンド美女に、地味な眼鏡娘という二種類のヒロインを用意している辺りも、心憎い。 個人的な好みの話をすると、前者のブロンド美女には魅力を感じなかったりしたのですが…… 「互いの眼鏡の度の強さが同じという事に、運命を感じる場面」など、後者の魅力はしっかり伝わってきたし、主人公の一人であるルイスと彼女との恋を、素直に応援出来たんですよね。 こういう具合に、観客の好みに合わせて選べるような形で、タイプの違うヒロイン二人を用意してくれたっていうのは、嬉しい限りです。 学生達だけじゃなく、学長とコーチにも「文化系」と「体育会系」という個性を与えている辺りなんかも、上手かったですね。 それまでコーチの言いなり状態だった学長が、主人公達の演説を受けて奮起し、コーチより精神的に上に立って、見返してみせるという形。 これによって「虐待や阻害やイジメを経験した人は、皆さんの中にもいるはず」という主人公の訴えにも説得力が出るし、最後の「逆転」の構図が分かり易くなっているしで、本当に感心させられました。 そして何と言っても…… 皆がボロ家を大掃除するという「住処作り」の場面が、実に楽し気で良い! 無事に完成させた後の、共同生活している描写(主人公が二階から降りてくると、男の子達が見よう見まねでエクササイズしていたり、ポーカーしたり、本を読んだりしている)も、凄く好みでしたね。 こういうの、青春って感じがして良いなぁ~って、憧れちゃうものがありました。 間抜けな感じの効果音が、今となっては流石に古臭いとか、復讐の一環とはいえ女子寮を盗撮するのには引いちゃったとか、色々と気になる点もあるにはありますが、まぁ御愛嬌。 冴えない主人公の学園物という意味では「ロイドの人気者」(1925年)などから通じる王道路線のストーリーだし、この映画自体が後世に与えた影響もあってか、今となっては「どこかで見たような展開」が多い点に関しても、短所ではなく長所なんじゃないかって思えましたね。 「こいつらはメインキャラだな、と思ったら本当にメインキャラだったという展開」「最後は皆に認められるという、お約束のハッピーエンド」など、予想通りではあるんだけど、それが心地良い。 「先が読めて退屈な映画」ではなく「こうなって欲しいな、という観客の願いを叶えてくれる映画」って感じがして、観ていて楽しい一品でした。 [ビデオ(字幕)] 7点(2022-06-05 16:43:22) |
134. ネイバーズ2
《ネタバレ》 前作同様、ラドナー夫妻のセックス場面から始まる構成には笑っちゃったけど、その後のリアルな嘔吐描写にはドン引き。 それで出鼻を挫かれちゃったせいか、前作ほどには楽しめないまま終わってしまい、残念でしたね。 クロエ・グレース・モレッツ演じるシェルビーも、可愛いは可愛いんだけど「魅力的なキャラクター」とまでは思えず、存在感が薄かったです。 なんせ後日談でも、マックとテディは「二人目の子供が生まれ、父親として更に成長する」「結婚式のプランナーという天職を見つける」という成長が描かれていたのに対し、彼女だけは姿を見せないままでしたからね。 やはり本作の主人公はマックとテディの二人であり、彼女はその中に割って入る事が出来ないまま終わってしまったんだな……と思えてしまいました。 不満点は他にもあって、前作ラストにて「仲間のハグ」をして和解したはずのマックとテディが、何故か再び仲違いしてるのも、如何なものかと。 その後、二人は前作以上に仲良くなるのだから、その為に必要な前振りだったのかも知れませんが「前作のラストを台無しにされた」感もあったりして、どうにも受け入れ難いんですよね。 こう言っては何ですが、あまり必然性が感じられませんし、これなら「1と違って2では、ずっと仲良し」という設定にしても良かった気がします。 前作に比べると、隣人と決定的な対立に至る理由が「パパを呼ばれたから」っていうのも弱いですし、終盤でキーアイテムになるエアバックの伏線が分かり難いのも気になります。 特に後者に関しては、前作を未観賞の場合「なんでエアバック?」と思っちゃいそうだし、もっと丁寧に描いて欲しかったですね。 例えば、テディに「アンタ達のせいで俺は逮捕された」と言われた際「君が仕掛けたエアバックの悪戯のせいで、俺は怪我した」とマックが言い返すとか、そんな感じでも良かったでしょうし。 そうやって、序盤の段階で分かり易く説明しておけば、終盤にエアバックを使おうと言い出した際に、もっと盛り上がれたんじゃないかなって思います。 「男性主体のフラタニティと違って、女性主体のソロリティはパーティーを開けない」という理不尽さに対するウーマンリブ運動のような流れも、男性の自分としては今一つピンと来なくて、ノリ切れず仕舞いでした。 翻って、良かった点はといえば……やはり、テディのキャラクターが挙げられそうですね。 元々自分は前作を観た段階で「マックよりもテディの方が魅力的だ」と感じていたのですが、2を観てもその感覚が揺らがなかったのは、何だか嬉しかったです。 友達が社会的に成功している中で、自分だけが取り残されている寂しさとか、同居していた親友が結婚して、家から追い出されてしまう悲しさとか、凄く感情移入しちゃうんですよね。 友人の前では強がって、笑顔で別れたけど、その後に裸足で外に飛び出し、泣きながら走り続ける場面なんて、特にお気に入り。 そんな落ちこぼれのダメ人間なはずのテディが、学生グループのリーダーとしては極めて優秀であり、シェルビー達をアシストして「出来る男」っぷりを見せ付けていく流れなんかも、実に気持ち良かったです。 年齢やら性別やらがキッカケとなり、結局シェルビー達とは別れてしまい、ラドナー夫妻の家に居候する事になって、テディもまた「家族の一員」に加わる流れも、凄く好き。 その他、前作では赤ん坊だったステラが成長して幼女になっているのも、微笑ましくて良かったですね。 シェルビー達が大金を手にして、家を二件借りる事になり、ラドナー夫妻に大家になってもらうという完璧な和解エンドを迎えたのも、意外性があって良い終わり方。 総評としては、前作には及ばないまでも、充分に「好きな映画」と呼べそうな……そんな一品でありました。 [DVD(吹替)] 6点(2022-06-05 05:12:10) |
135. ネイバーズ(2014)
《ネタバレ》 バットマンといえば「クリスチャン・ベール」世代なテディと「マイケル・キートン」世代なマックとが仲良くなって、喧嘩して、仲直りするという、とても楽しい映画です。 一応、本作の主人公がどちらかといえば、太り気味のオジサンなマックとなるはずなのですが……自分としては、マッチョな若者のテディの方に感情移入しちゃいましたね。 大学では皆のリーダーでも、社会に出たら学力不足の落ちこぼれに過ぎない。 成績優秀な親友だけが立派な会社に就職して、自分は取り残されてしまう。 そんな若者特有の切なさを、ザック・エフロンが鮮やかに演じ切っており、敵役であるにも関わらず共感を抱かせてくれたんだから、お見事でした。 「赤ん坊が生まれた結果、若い頃のようにパーティーに参加出来なくなったマック達は、テディの事が羨ましかった」 「テディはマック達のような大人になりたくなかったから、現実逃避の意味を込めて嫌がらせしていた」 等々、作中に出てきた「心理学を専攻している学生」よろしく「両者の対立の原因」について推理するのも楽しいのですが…… そういった難しいアレコレを考えなくても、シンプルに面白い映画だったと思いますね。 とにかく分かり易く、丁寧に作られており、序盤で(この二階に置いてある花火が伏線なんだろうな……)と思ったら、本当にそうだったりするのが気持ち良い。 視覚的にも派手な「エアバックの悪戯」には笑っちゃったし、デニーロの物真似をはじめとして「元ネタを知らずとも面白いし、知っていたらニヤリと出来ちゃう」小ネタが散りばめられているのも、楽しかったです。 それと、これが一番大事だと思うんですが、本作は序盤にてテディとマックが意気投合する描写に、ちゃんと説得力があったんですよね。 大人になりきれない二人が、世代の壁を越えて「男友達」になる一夜を、丁寧に描いている。 だからこそ、観客としても(この二人は本来、物凄く気の合う奴らなんだ)と理解出来る訳だし、ラストにて二人が「仲間のハグ」を行うハッピーエンドも、笑顔で祝福する事が出来たんだと思います。 テディが仲間を庇って逮捕される場面では、ちょっとした感動を味わえたりもして、程好いサプライズ感があったのも嬉しかったですね。 楽しい映画だし、それ以上に、好きなタイプの映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2022-06-05 05:08:31)(良:2票) |
136. THE WAVE ウェイヴ
《ネタバレ》 これは恐ろしい映画です。 何せ作中で行われている「独裁を疑似体験する為の授業内容」が、日本の義務教育に(それも多感な時期の子供が集まる中学校での風景に)瓜二つなんですからね。 ・全員が同じ制服を着る。 ・発言する時は手を上げて、起立してから話す。 他にも色々と当てはめる事は出来そうですが、この二つに関しては特に 「えっ? それって特別な事なの?」 と感じてしまう日本人が多いのではないでしょうか。 ナチスの記憶が残るドイツだけではなく、日本の教育を受けてきた者が観賞しても、色々と考えさせられるものがあると思います。 更に興味深いのは「独裁制度の利点」と呼べるような部分を、前半にてキチっと描いている事。 同じように「支配される」立場となった時、生徒達の間で連帯感が芽生え、差別意識も弱いものイジメも無くなっていく流れなどは、目を見張るものがありました。 また「スポーツ」「演劇」などの要素も取り入れられており、集団が一つの目的に向かって行動する際に、その意思を統一する事は決して悪い事ばかりではない、と教えてくれる事にも感心。 こういった内容の場合、どうしても堅苦しい作りになってしまいそうなのですが、全編に亘って爽快な曲調のロックが配されており、若き主人公達の青春群像劇としても観賞する事が出来るのだから、非常にバランスの優れた作品なのだと思います。 生徒達にリーダーとして崇められていく内に、自分を見失っていく体育教師が 「毎週月曜日には安定剤が必要だ。学校が怖いからな」 と心情を吐露する場面なども、胸に迫るものがありました。 一方で、その「青春」部分が劇的に作用し過ぎたかのような、終盤における生徒達の「死」に関しては、蛇足であるように感じてしまい、非常に残念。 自分としては教師が「これが独裁だ!」と宣告した場面で、スパッと終わってくれた方が好みでしたね。 その方が、歴史を学び過ちを繰り返したりはしない、人間の理性の勝利というハッピーエンドに感じられたと思います。 折角あれだけ丁寧に「独裁」の恐怖を描いてくれたのに、銃を持ち出されて殺人やら自殺やら行われてしまったのでは 「少年が簡単に銃を入手出来る、その事の方が独裁云々よりも重大な問題なのでは?」 と思えてしまい、どうも軸がブレているように感じてしまったのです。 それが作り手の狙いであったという可能性もあるかも知れませんが、自分の場合、純粋に思考実験を通して「独裁制度は間違っている」と証明してもらえただけで満足だったし、その後に「……何故なら、こうやって人が死んでしまうからだ」という説明を付け足すかのような行いは、無粋ではないかと思えてなりません。 ただ、そんな風に不満も覚える一方で、この展開ならではのラストシーンの良さも、確かに感じ取る事は出来たかと。 生徒を死に至らしめた「独裁者」として逮捕される教師の視点と、観客の視点とが重なり合う演出は、実にお見事。 「独裁制を支持してしまう恐怖」だけでなく「自らが独裁者となってしまう恐怖」さえをも、はっきりと追体験させてくれたところで、綺麗に映画が終わるという形なのですよね。 幽霊や殺人鬼が登場するホラー映画などよりも、こういった代物の方が「本当に怖い映画」と言えるのじゃないかな、と改めて実感させられました。 [DVD(吹替)] 7点(2022-06-04 23:01:26) |
137. ローラーガールズ・ダイアリー
《ネタバレ》 監督としてのドリュー・バリモアの処女作という事もあってか、全体的に粗削りだったのが残念。 それも才気が尖っているがゆえの粗さって訳ではなく、なんていうか「ダンスに慣れておらず、下手だけど頑張って踊ってる女の子」って感じの粗さなんですよね。 好意的に捉えれば可愛らしく思えるし、応援したい気持ちにもなるんだけど…… それ以上に「観ていて、もどかしい」「もっと上達した後の踊りも見てみたい」って感じてしまうという、そんな未熟さの方が色濃く出ちゃってた気がします。 特に序盤において「この主人公は、どんな性格なのか」「どんな境遇の子なのか」の説明が不足しており、置いてけぼりのまま物語が進んで行っちゃうんだから、何とも居心地悪い。 明るい作風なのか暗い作風なのかも中途半端で、心のアンテナが面白さを受信出来なかったんですよね。 内気な眼鏡っ娘が「ローラーゲーム」というスポーツで才能を開花させていくっていうのは王道な魅力があるし、観ていて不愉快になる場面もなかったんですが、どうにも物足りない。 決定的な理由としては、主人公のブリスが初めてローラーゲームを観戦する場面が短過ぎて「彼女はローラーゲームに魅了された」という展開に、説得力が欠けてるのがマズかったように思えます。 その後、ブリスが「貴女達の大ファンになりました」と言い出し、入団テストを受ける流れになっても(えっ、何にそこまで感動したの?)と思えちゃうし、主人公に感情移入出来ないんです。 これなら「特に乗り気じゃないけど、親への反抗も兼ねて流されるままにテストを受けて合格した」「それから徐々にローラーゲームの魅力に目覚めていった」って形にした方が良かったんじゃないでしょうか。 ラブコメ部分の「王子様」にあたるオリバーも、やたら曖昧な立ち位置であり、結局「単なる浮気者」だったのか「誤解されて彼女にフラれた不幸な男」なのか、どっちつかずでハッキリしないのも困り物。 決勝で負けてしまう展開と併せ「恋もスポーツも、そうそう上手くいく事ばかりじゃない」という「青春の挫折」を描きたかったのかも知れませんが、それなら決勝で負けてしまうってだけでも充分だと思うし、色恋沙汰を絡める事で軸がブレてしまった気がします。 他にも「母娘の和解が雑」とか「決勝で負ける場面や、ラストシーンがアッサリし過ぎていて物足りない」とか、欠点を論えば幾らでも書けちゃう映画ではあるんですが…… 上述の通り「可愛い女の子」的な魅力も備え持ってるので、嫌いにはなれなかったんですよね。 「ローラーゲームのルール」について、劇中で分かり易く説明してあるってだけでも、娯楽映画としての最低限はクリアしていますし。 ちゃんと観客の事を考えた、独りよがりじゃない誠実な作りだったと思います。 スポーツ物のお約束である「主人公チームが生まれ変わり、初勝利を収めるシーン」は痛快だったし、仲間との協力プレイである「ホイップ」を多用するチームって設定にしたのも、正解だったと思いますね。 嫌味な敵役とも最後は心を通わせ「好敵手」って関係になるのも、実に気持ち良い。 あとは単純に、主演のエレン・ペイジ(2022年現在は、性転換してエリオット・ペイジに改名済み)や、彼女のチームメイトとして出演してるドリュー・バリモアがキュートなので、彼女達を愛でる「アイドル映画」として楽しめるっていうのも、立派な長所だと思います。 スタッフロールも愉快で賑やかな雰囲気なので、後味が良いって辺りも嬉しい。 総評としては、純粋な面白さって意味では物足りないんだけど…… 「面白い映画」ではなく「可愛い映画」を求めて観るのであれば、問題無い出来栄えじゃないかって気がしますね。 この作品の後、ドリューは監督業に手を出していないようですが、次回作にも期待したくなる一本でした。 [DVD(吹替)] 5点(2022-06-01 20:07:32)(良:2票) |
138. ビバリーヒルズ・コップ
《ネタバレ》 刑事物における金字塔と言える映画ですね。 こういったジャンルの場合、どうしても主人公二組による「バディ形式」が多くなってしまうものなのですが、本作の主人公は一人。 それだけに、主演のエディ・マーフィの魅力を堪能出来る作りになっていると思います。 と言っても、主演の魅力に頼りっ放しの映画という訳では無く、脇役にも「血が通ってる」と感じさせてくれるのが、本作の特長ですよね。 例えば、冒頭でトラックを暴走させて警察から逃げようとする悪人なんかも、カーチェイスを繰り広げている内に楽しくなって笑顔になる場面があったりして、妙に憎めない。 バナナをタダでくれたホテルの従業員にも愛嬌があるし、画廊で働いてるセルジュにも「3」で再登場するに相応しいような存在感がありましたからね。 勿論「ビバリーヒルズの警官」にあたるタガートとローズウッド達も良い味を出しており、彼らが主人公のアクセルと仲良くなっていく様は、とても微笑ましかったです。 ラストにて、皆で口裏を合わせてアクセルを庇ってみせる場面とか、悪い事をしているんだけど、それによって「仲間としての連帯感」が生まれた事を自然に描いており、観ているこっちまで、その仲間の輪に入れたような気持ちにしてくれるのも、凄く良い。 観客との「秘密の共有」を丁寧に描いているという一点においても、本作は優れた映画だと思います。 そんな本作の難点としては……主人公の行動が「模範的な刑事」とは程遠く、観ている側としても「これは、倫理的にアレコレ言うような映画じゃない」と頭を切り替える必要があるとか、精々そのくらいかな? あとは、主人公の動機となる「親友のマイキーを殺された仇討ち」に関しても、良く良く考えてみると「金(正確には無記名債券)を盗んだマイキーが悪いのでは?」って思えてきちゃうのは、引っ掛かる部分ですね。 もうちょっとマイキーを「不当に殺された被害者」として描き、自業自得な感じを抑えてくれていたら、もっと素直に主人公を応援出来たかも。 ちなみに、本作は元々シルヴェスター・スタローンが主演する予定だったとの事で、コメディ色を薄めた映画にしたいというスタローン側と制作側とで意見が分かれ、その結果「スタローンなりのビバリーヒルズ・コップ」として「コブラ」(1986年)が生まれたというのも、中々興味深い逸話ですね。 本作は後のエディ・マーフィ主演映画に比べると「親友を殺された仇討ちをするという、ハードボイルドな粗筋」「銃撃戦が意外とシリアスで恰好良い」という珍しい長所を備えているんですが、それって元々はスタローン主演作だったからでは? って思えちゃうんです。 あるいは「48時間」(1982年)の影響かとも考えられますが、そちらでも「仇討ちをする刑事」はニック・ノルティの役でしたからね。 やはり主演の交代劇により「本来エディ・マーフィには相応しくないような映画を、エディ・マーフィが自分色に染め上げている」という、独特の魅力が生まれる形になったんだと思います。 本作は映画史に残る傑作ですが、演者や監督の力だけでなく、そんな「素敵な偶然」も作用した結果、そうなったんじゃないかと思えば、浪漫を感じちゃいますね。 エディ・マーフィの代表作でありながら、エディ・マーフィらしからぬ魅力も味わえるという、何だか御得な一品でした。 [ブルーレイ(吹替)] 8点(2022-05-28 17:51:41)(良:2票) |
139. ラッキー・ガール
《ネタバレ》 「ラブコメなんて女子が観るもの」という考えだった自分に「ラブコメって、こんなに面白かったのか!」という衝撃を与えてくれた、記念すべき一本。 久々に再見してみると、非常にシンプルな作りであり(ありがちなラブコメでしかなくて、際立った傑作という訳ではなかったんだな)と、寂しい想いに駆られたりもしたんですが…… それでもなお、本作が「面白い映画」「好きな映画」である事は揺らぎませんでしたね。 主人公アシュレーを演じるリンジー・ローハンは魅力的だし、後にカーク船長となるクリス・パインが、彼女と対になる「とことん不運な彼氏」のジェイクを演じているのも面白い。 思えば、この映画を初めて観た頃の自分って(ラブコメ映画に出てくる彼氏役ときたら、男の自分には嘘臭くて耐えられないような奴ばかり)っていう偏見があった気がするんですよね。 でも、本作のジェイクには自然と感情移入出来たし(良い奴だなぁ……幸せになって欲しいな)と応援する気持ちになれたんだから、これって凄い事だと思います。 脇役も充実しており、ジェイクの隣に住んでる幼女のケイティなんて、特にキュートでしたね。 アシュレーが不運になっても決して見放したりせず、一緒に同居生活を送ってくれる女友達の存在も、実に好ましい。 ボウリング場で慣れない仕事を頑張る場面や、洗濯室で泡まみれになって戯れる場面など、昔観て(良いな)と思えた場面に対し、今観ても同じようなトキメキを感じられた事も嬉しかったです。 ラストの「二人同時にケイティにキスをする」という解決法も(そう来たか!)という感じで、意外性があって良かったですね。 今後の主人公カップルは、不運続きな人生になってしまうかも知れないけど、ケイティが傍にいて支えてあげれば大丈夫じゃないかなーって思えるし、ちゃんとハッピーエンドと呼べそうな雰囲気で終わっているのが嬉しい。 再び人生の岐路に立たされるようなイベントが起こったら、ケイティからキスしてもらって一時的に幸運を授かり、事を済ませた後に再びキスしてケイティに幸運を返す、なんて日々を送ってそうな気もしますね。 あえて難点を挙げるとすれば……「会議のプレゼンが成功」とか「車に轢かれても平気」とか(それって運が良いだけで済む話なの?)と思えてモヤッとする場面があるとか、それくらいでしょうか。 あとは、クライマックスの演奏シーンで、もっと盛り上げてくれていたら、文句無しの傑作と呼べていたかも。 思春期の頃、この映画と出会っていなかったら、ラブコメを好きになれないまま、多くのラブコメ映画を楽しめないままだったかも知れないなと思えば、ちょっと身震いするような気分になりますね。 そういう意味では、とても特別な映画ですし、忘れ難い一品です。 [DVD(吹替)] 8点(2022-05-27 06:19:35) |
140. ビバリーヒルズ・コップ2
《ネタバレ》 前作に比べると、よりエディ・マーフィらしい映画になってる気がしますね。 特に「ニトロを届けに来た」と受付の女性を騙し、目当ての情報を引き出す場面なんかは、それが顕著。 爆発シーンも派手になってるし、バズーカで車を撃ったりもするしで、笑いとアクション要素に関しては「1よりパワーアップした続編」だと、胸を張って言えると思います。 ただ、自分が1に感じた「意外とシリアスで、ハードボイルドな魅力」は薄れてしまったように思えて……そこが、ちょっと残念ですね。 前作のホテル以上に「宿泊先の確保の仕方」が傍迷惑であり、豪邸の持ち主である金持ち夫婦が可哀想に思えちゃうのも、スッキリしない感じ。 元々、主人公のアクセルって「模範的な刑事とは言えない、悪党に近い人物」ではあるんだけど、本作に関しては「やり過ぎ」だったんじゃないかと。 とはいえ、欠点らしい欠点なんてそのくらいだし、基本的には「楽しい映画」でしたね。 ブリジット・ニールセン演じるカーラは「理想的な悪役美女」って感じで、男心を擽る魅力がありましたし。 アクセルの同僚であるジェフリーが、上司のトッド警部に成り切って電話に出る場面なんかも、コント的な魅力があって好き。 そして何と言っても、1で絆を育んだ「ビバリーヒルズの警官」達との友情描写が、本当に良かったです。 1のラストで友達になった二人と、2では仲良しトリオとして一緒に行動してるってだけでも、嬉しくなっちゃうんですよね。 これはシリーズ物ならでは、続編映画ならではの魅力であり、映画一本だけでは決して生み出せない味わいがあると思います。 ローズウッドの部屋で会話する三人とか、アクセルの嘘に呆れて他二人が同時にサングラス掛ける場面とかも、凄く好き。 ある意味では、続編映画というよりも、同窓会映画って感じですね。 「1で生まれた友情を、再び確認する映画」「懐かしいアイツらと再会して、また楽しく盛り上がる映画」って考えても、本作は充分に成功してると思います。 (こいつら、仲良いなぁ……)って、主人公達を微笑ましく見守るような気持ちで、エンドロールまでの時間を楽しむ事が出来ました。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2022-05-20 07:53:25)(良:1票) |