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プロフィール
コメント数 487
性別 男性
ブログのURL https://www.jtnews.jp/blog/23806/
年齢 41歳
自己紹介 多少の恥は承知の上で素直に書きます。

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41.  ハプニング 《ネタバレ》 
多少の顰蹙は承知で、自分勝手な解釈を書きます。  おそらく毒素を出す植物が反応していたのは「人間の集団」ではなく、人間の集団に発生しやすい「憎悪」の方だったのです。  老婆が死んだとき、彼女は集団で行動こそしていないものの、直前までエリオットを罵っていました。また草原を2班に別れて移動していたときに兵士が錯乱したのは、先頭を歩いていた男性陣が激しい喧嘩を始めた直後。集団行動していれば否応なく軋轢は生じますから、エリオットが初めに立てた仮説は身を守るのにある程度は有効でした。だからてっきり正解だと思い込んだ。  毒素が「憎悪」への反応だとすると、直接的な原因は植物ですが、引き金を引いたのは人間自身。つまり集団自殺現象は、そのメカニズムにおいても文字通りの自殺行為、お互いへの憎悪で己の首を絞める、人類という種の自殺だったのです。  このように考えると、テーマとしてもしっくりきます。主人公のエリオットは情緒不安定な妻と行動を共にし、友達の娘も励ます優しい人物です。草原の移動中に高まりかけたパニックの気配を抑えて理性的に振る舞うし、妻のちょっとした裏切りにも寛大に接します。常に冷静で、人間関係の和を保とうとする性格なのです。  孤独な生活を送っていた老婆は生き延びていましたが、狂気の淵にあり、人と接した途端にあっさり破綻してしまいます。エリオットが最後に取った行動は老婆とは正反対。孤立した状況でも人と繋がり続けようとし、誰といても安全ではないことを知っていてなお、一人で死ぬくらいなら妻とともにあることを選ぶのです。  最後にエリオットが嵌める指輪が示した色は「愛情」でしょう。「憎悪」によって自滅しかけた人間の危機に、彼が生き残るのは必然でした。エピローグでの懐妊は予定調和にも見えますが、つまりは彼らこそが新しい世代を育み、人類を担っていくのだという象徴でしょう。  実のところ欠点がない作品とは言えませんが、批判は山ほどあるようなので自分は控えておきます。グロテスクなだけの場面もありましたが、集団の飛び降り、銃を手渡しての連鎖自殺などは、映像的にも鮮烈。首吊りの画なんかは残酷な宗教画のようで(不謹慎ですが)荘厳ですらありました。いかにもシャマランらしい、信仰心が滲んだ作品だと思います。
[DVD(字幕)] 7点(2009-06-21 20:38:14)(良:2票)
42.  誰も知らない(2004)
「誰も知らない」――鑑賞中、この題名を何度も頭の中で呟いていた。 来るはずのない母親を駅まで迎えに行く二人の姿、モノレールの光。援助交際で得た金を受け取ることができず、街を駆け抜ける明。暗い飛行場で穴を掘るガリガリという音。暗い道を子供だけで歩く場面を観ていると、子供の頃に迷子になってしまったときの心細い気持ちを思い出す。  あの頃は、ちょっと親とはぐれてしまっただけで、もう二度と会えないんじゃないかとパニックになって泣いていた。この映画を観ている間、ずっとそんな心細さが胸を占めていた。子供たちはこんなにも危ういのに、「誰も知らない」。哀しく、辛い題名だ。呟くだけで、寄る辺ない感じ、どうしようもない心細さが襲ってくる。安心できる居場所、守ってくれるものが何もないという途方もない寂しさ。痛みに満ちた映画だ。この痛みは決して忘れることができないと思う。
8点(2005-03-20 10:06:05)(良:2票)
43.  シベールの日曜日 《ネタバレ》 
これよりももっと感情移入のしやすい、わかりやすい感動作はたくさんある。もっと夢中になれる面白い作品はいくらでもある。しかし不思議なことに、これ以上に鮮烈に記憶に焼きついた映画はひとつもなかった。   精神が壊れてしまった男と、感受性の豊かな少女の束の間の絆。あどけない彼らの姿はなんだか足取りも覚束ない小さな生き物を見ているようで、可愛らしさになごむ反面、いつ怪我をするかとひやひやしてしまう。あやういまでの繊細さが、最後には破滅が待っていることを予感させる。   また映像の清らかさも本作を忘れ難いものにしている。湖に広がる波紋、空に入ったひび割れのように広がる木の枝、ガラスや水晶に砕かれた風景。自然物の上手な使い方にはタルコフスキーの『僕の村は戦場だった』を思い出した。   しかしなんといっても衝撃的なのは、悲劇を悲劇のままに投げ出す結末だろう。おそらくこの映画に強く共振してしまう人は、ある種の痛みを知っている人だと思う。大切なものが砕けてしまう痛み、きれいなものが汚されてしまう痛み、誰かを守れなかったという痛み――決して取り返しのつかない、圧倒的な喪失の感覚。苦い絶望のなかに、ただ優しい記憶だけが残る。   他にも同じような方がいらっしゃるので告白してしまうと、生涯で一番好きな映画を問われれば自分もこの作品を挙げる。もっと面白い、バランスの取れた映画は他にもあるとわかっているのだが、なぜかこの映画を選んでしまう。きっとこの映画が描くような痛みは、心のもっとも深い場所に眠っているもので、そこを突かれると自分が根本から揺るがされてしまうのだろうと思う。   失うことの痛み。それは辛く哀しく、しかしけっして忘れたくない大切な痛みだ。
[ビデオ(字幕)] 10点(2006-02-09 01:46:32)(良:2票)
44.  ロード・オブ・ザ・リング - スペシャル・エクステンデッド・エディション -
監督のファンだし、続く二作については文句なく素晴らしいと思うが、残念ながら一作目については手放しに褒めらずにいた――この特別版を観るまでは。  30分増えただけで、まったく別の作品になっている! キャラクターひとりひとりに厚みが増し、通常版では詰め込みすぎに思えた脚本が、長くなって逆に自然で無理のないものとなっている。原作が大長編であるだけに、特別版のほうが本来の出来に近いのだろう。  主人公が弱々しいのでのめり込むのはたやすいし、異世界を舞台とした物語でありながら、登場人物たちの抱く感情は普遍的で理解できるものだ。CGを駆使した迫力満点の映像と、心から感動できる人間ドラマを両立させている映画はなかなかない。遊園地で遊ぶように楽しんで、しっとりした小説を読むように泣くことができる。とても贅沢な作品だ。  ところで、通常版を鑑賞したときは「ドワーフのギムルはだんだんお笑い専門になってきて可哀そうだなあ」と思っていた。しかし特別版を観て、最初から最後までお笑い専門だったことを知った。思ってたよりずっととぼけた、愛すべきキャラクターだったんだなあ。
[DVD(字幕)] 10点(2005-11-04 16:30:11)(笑:2票)
45.  落下の王国 《ネタバレ》 
子役の子どもらしい可愛らしさを巧みに引き出しているのが好印象。自殺志願の青年もごくありふれた青年という感じで、大人と子どもの会話がなかなか噛みあわない場面や、錯乱した女性を目撃した女の子が怖がる下りなど、割とリアリティ重視の作りとなっている。青年のバックグラウンドが描かれないのは、ほぼ全編を子どもの視点で描こうとしたからだろう。  空想世界は言うまでもなく、幻想的なプロローグからトーキー映画の引用を集めたラストまで目が離せない美しさだった。自殺を図るための方便でしかなかった作り話が、聞き手の少女の干渉によって、いつしか青年を救う道標となる。虚構の物語が人を救うというテーマに、作り手の映画への姿勢がそのまま重なって見える。  インドの国民的作家、タゴールの代表作に『もっとほんとうのこと』という短篇小説がある。これもやはり老人が孫娘に物語を聞かせる形式を取った作品で、老人は途方もなく壮大でロマンチックなおとぎ話を語る。しかし「これはほんとうよりもっとほんとうの話」で、けっしてただの作り話じゃないんだよ、と孫に言って聞かせるのである。ターセムがインド人だからというだけで影響を読み取るのは考えすぎかもしれないが、やはり似ていると思う。空想物語のなかに込められた真実の欠片が、人間にとってどれだけ大切なものかを教えてくれている。  ラストの喜劇映画の場面集は、落下に次ぐ落下で、むしろ飛行するような高揚感があった。『落下の王国』という題名は不評なようだが、個人的には好きだ。それは青年の空想世界だけでなく、自由な想像力の結晶である、映画そのものを示す暗喩でもあるように思う。
[DVD(字幕)] 8点(2009-04-03 14:42:43)(良:2票)
46.  博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
ここまで真っ黒なコメディに抵抗なく笑ってしまった自分の人格を疑った(自分の右手と戦う博士に爆笑)。それはさておき、キューバ危機当時の国防長官のインタビューから構成されたドキュメンタリー映画『フォッグ・オブ・ウォー』をこれと併せて観ると、また興味深い。『13デイズ』ではかっこよく描かれていたケネディらだけど、マクナマラ元国防長官は「核戦争を避けられたのは単に運が良かっただけ」と断言していた。「ケネディもフルシチョフもゲバラもみんな、理性的な人間だった。それなのに、もう少しで核戦争というところまで行ったのだ。理性は、あてにならない」。そう、この映画、実はまったく洒落になってない。このどうしもうもなく狂っていて滑稽な連中は、現実の人間とそう遠くないところにいる。米軍幹部には当然のようにソ連との全面戦争を主張した人物もいたことも思い出す。ここまで強烈かつ秀逸な風刺は、映画であれ小説であれ見たことがない。ラストシーンの核の輝きは、一度観たら絶対に忘れることのできない、人間性に対する最大限の皮肉だ。
[ビデオ(字幕)] 10点(2006-01-03 02:42:40)(良:2票)
47.  双生児
感激した。江戸川乱歩という異世界を自分のものにして、原作に負けないくらいの映像にできる才能が存在するとは思わなかった。俳優、映像、メイク、美術、音楽、すべての要素において優れ、さらに全体として調和している。中でも美術班の功労は大きく、ねばりつくような耽美の世界を完璧に作り上げていた。本木雅弘がこんなに細やかで迫力のある演技ができる人だとは知らなかったし、眉毛を落としてもまったく見劣りのしないりょうの美しさには驚嘆した。浅野忠信も、ちょっと顔見せしただけなのに瞼に焼きつくくらいのかっこよさ(これも美術班の力かな?)。音楽は大好き。個人的にこういうぎゃんぎゃんしつつも綺麗な音、好きです。気持ち悪いような、心地良いような、日本的な妖しさ。だけど不思議に新しい感じもする、アヴァンギャルドな江戸川乱歩。素晴らしい。人を選ぶだろうが、選ばれた人にとっては最高の映画だ。
[DVD(字幕)] 9点(2006-01-06 04:33:02)(良:2票)
48.  エターナル・サンシャイン 《ネタバレ》 
詩的な映像と音楽がツボにはまり、最期まで夢中になって観ることができた。崩壊していく記憶のなかでの追いかけっこのシーンは美しく、ファンタジックで、それでいて身を引きちぎられるように切ない。幼年時代の記憶に紛れ込んで、ジョエルは「子供の頃に君と出会いたかった」という。愚かしい夢だけど、誰しも似たようなことを考えたことがあるんじゃないだろうか。クレメンタインが昔は自分をブスだと思っていたと話して泣き、ジョエルが抱きしめるシーンも好きだ。氷上に寝っころがった夜、転げて笑いあった雪の日、シーツごしの日差しのなかで抱き合った時間。美しい記憶の結晶が生み出した万華鏡。壊してしまって初めて価値に気づくなんて、ちょっと間抜けが過ぎる。二人で過ごした日々はお互いの心に深く深くくい込んでいて、記憶が消えたときには自分自身の一部をも失っている。失くした破片を捜して最後に再会したことは奇跡のようでいて、ある意味では必然だった。あまりにもきれい過ぎる恋愛物語は鼻につくのが通例だが、ここまで素敵な作品を差し出されては文句は言えない。斬新な脚本と洗練された映像で、『人を愛することの素晴らしさ』という普遍的過ぎてほとんど陳腐になりつつあるテーマを見事に現代的に描いてみせた。素晴らしい手腕に、素直に拍手。
[DVD(字幕)] 8点(2005-11-07 11:26:35)(良:2票)
49.  ベンジャミン・バトン/数奇な人生 《ネタバレ》 
「数奇な人生」とは逆説的な題名のつけ方で、実際にはとてもありふれた人生の悲喜を描いているように思う。より正確にいえば、特殊な人生だからこそ普遍的な人生の意味合いが象徴的に浮き上がって見える、といったところだろうか。  体が幼くなるとともに認知症が進行し、人の世話を受けなければ生きられなくなるのは、なにも赤ん坊の姿にならなくともありふれたことだ。老いるに従って身も心も子どもに近づいていくベンジャミンが「なにも思い出せない」と嘆くのを、デイジーは「それでいいのよ」と抱きしめる。人は死ぬと生まれた場所に帰っていく――と言葉にしてしまうと陳腐だけれども、“老い”というものを描くのにこんな手法があったのかと非常に感心させられた。  デイジーが事故に遭う直前の状況の推移を丁寧に追っていたのも良い。「あそこでああしていれば今頃は」という誰でも抱いたことがある後悔の念を、丹念に、繊細に拾い上げていく。ささいなことの積み重ねで人生は決定的に変わる。ときには知らないうちに選択がされていて、あとから取り返そうとしてもどうにもならない、大きな流れがある。もっとも映画全体を通して感じられるのは一瞬一瞬をいとおしむ穏やかな慈愛の気持ちであって、けっして負のトーンが強すぎるということはない。  ラストに登場人物をさらりと振り返って、なにか教訓めいたことをいうのかと思いきやそのままエンドロールに突入する、あの控えめさがまたいい。終始美しい映像だが、わざとらしい作り込みもなく、押し付けがましいドラマもない。いわゆる“泣ける映画”ではない分、切なさがいつまでも後を引く。
[DVD(字幕)] 7点(2009-07-22 14:14:11)(良:2票)
50.  スケアクロウ 《ネタバレ》 
ユーモアと知恵でもって争いごとを切り抜けていくライオネルと、己の腕力とタフさのみを頼りに生きているマックス。二人の生き方はいわば柔と剛、対照的であるがゆえにうまが合い、友情を深めていく。  ライオネルがマックスに良い影響を与えていたのは目に見えて明らかで、物語が展開するに連れてマックスはどんどん変わっていった。しかしラストに至り、実はライオネルにはマックスのようなタフさが欠けていたことがわかる。所詮案山子は案山子、おどけて戦いを避けるのは得意でも、ほんとうの試練にぶつかったときにはあっけなくへし折れてしまう。  次はマックスがライオネルを助ける番なのだろう。この映画はそこまでは描いていないけれど、あのラストシーンを観ればそうなることは明らかで、だからこそ暗い物語が嫌な後味を残していない。柔と剛、対照的な二つのタイプの強さはどちらも人生に不可欠なもので、ライオネルとマックスが一緒にいる限り、恐れるものは何もないはず――少なくとも、そう信じたいと思った。ラストに込められた幸福への願いが、忘れ難い余韻を残す。  脚本についてはまったく中だるみしていないと言えば嘘になる。けれどもだだっ広い荒地を男が歩いてくる冒頭と、空港の受付カウンターに靴の踵を打ち続けるラストカットは完璧で、それが作品全体を引き締めているように感じた。
[DVD(字幕)] 8点(2007-01-04 14:04:02)(良:2票)
51.  千年女優 《ネタバレ》 
リアルな画風だが、これが実写映像だったらかなり違和感があるだろう。何しろ虚実入り混じった回想をその場の数人で共有するという、冷静に考えたら相当に破天荒な視点だ。なまじ写実的な絵なだけに、アニメーションが通常とは異なるリアリティの分法を持っているということがよくわかる。  実は構成が『PERFECT BLUE』に引き続き、ミステリとなっている。映像と音楽で多少は誤魔かせているが、致命的に人間を描けていない。心理描写がプロモーションビデオ並みに浅く、87分の尺も長く感じられるほどだ。最後の台詞が必要なのはミステリの文法で脚本を書いているからで、ドラマ部分がちゃんとしていればあそこまで明示する必要はなかったし、仮にそのまま書いたとしても重みが全然違っただろう。  この内容ならいっそのこと一時間以内の短篇に凝縮してくれた方が、端正な秀作に仕上がったんじゃないだろうか。
[DVD(邦画)] 6点(2009-06-15 23:58:35)(良:2票)
52.  ローズ・イン・タイドランド 《ネタバレ》 
人は何かあまりにも辛い出来事があると、その現実を直視できず、まるで何事もなかったかのように振る舞うことがある。ローズのように極端な経験はなくともそんな状態は理解できないでもないから、彼女が父親の死体を無感動に飾り立てるのを観ると、胸が軋んだ。きっとローズだって心のどこかでは状況を把握しかけていたはずで、ただそれを受け入れる力がないから得意な空想の世界で防壁を張っていたんだと思う。あえてコミカルに描かれていたりするけど、彼女の生活はもともと悲惨なもので、それが父親の死をきっかけに、決定的な孤立に追い込まれる。やっと助けが現れたと思っても、頼りない狂人に過ぎない。  切ないのはローズの見る世界は歪んでいるようで、ある種異様な美しさを持っているということ。幻想を作り出すことで生き延びるのを、一概に現実逃避として否定していいのか、それとも逆にその人なりの強さとしてみるべきなのか、どうもよくわからない。ローズはかわいそうだけど、助けがなくともどうにか生きていけそうな感じもする。歪でおぞましく、でもときにはとても美しい世界で、身を守っていくような気がする。だけどそれが強さだとしたら、あまりにも哀しい強さだ。
[DVD(字幕)] 8点(2007-11-05 23:54:17)(良:2票)
53.  花とアリス〈劇場版〉
鈴木杏さんには悪いけど、最初は花というキャラクターに嫌悪感を覚えた。しょうもない嘘をついて強引に迫っていくのが個人的には気持ち悪くて、郭智博が花を好きになったことを「生理的に理解できない」と言ったときは思わず笑った。ナメクジ扱いも無理ないと思う(失礼)。 でも彼女が舞台裏で泣いた顔が、可愛かった。ぐちゃぐちゃの泣き顔なのに、すっごく可愛かった。 アリスもそうだが、実は目を見張るような美少女というわけではないのに、そのひたむきさ、不器用で傷つきやすく、そのくせ真っ直ぐに生きている姿に惹きつけられる。バレエを踊るアリスは線が細く、か弱く見えるのに、それでいて確かに強さと気高さを感じさせる。その真っ直ぐに伸びた姿勢に、息を呑むような美しさがある。 ほんとうの意味で「美しい」少女を見ることができたと思う。
[映画館(字幕)] 9点(2005-02-28 14:24:52)(良:2票)
54.  バリー・リンドン
ロココ絵画の名作を思わせる、夢のように美しくて荘厳な映像。絵画を観るのが好きな人なら、これだけでも観る価値があると思う。脚本も恐ろしく完成されており、映像がそうであるように全体の構成が完璧なシンメトリーを描いている(前半は決闘に勝利したバリーが故郷を追われた後に富と名誉を得るまで、後半は財産を浪費したあげく名誉を失ったバリーが決闘に敗れ、故郷へ舞い戻るまで)。登場人物への感情移入を拒否するような作りも面白い。バリー・リンドンは間違っても善人とはいえないが、かといってとんでもない悪党と言い切ることもできない、ある意味ではすごく人間くさいキャラクターだ。エピローグの言葉を人間に対する否定ととる向きが多いようだけど、逆に救いを読み取ることもできないわけではない。ブロンテの『嵐ヶ丘』の結末にも似たような言葉があって、そちらは激しい生を全うした人物たちがようやく安らぎを得た、という慈愛の意味で使われている。栄光を求めて這い上がり、最後には己の欲望に足をとられて転落したバリー・リンドン。ひとりの人間の生涯を、綺麗な部分も醜い部分もひっくるめてまるまる映画にする。ただ「彼が生きた」ということをありのままに提示する。人間を描く方法として、もっとも実直で嘘のないやり方だ。いつものキューブリック作品には人間に対する皮肉や批判が見られるが、今回は趣きが違う。人間の愚かさを受容する、キューブリック流の人生賛歌を唄っているのではないかとも思えた。
[DVD(字幕)] 9点(2006-01-04 01:59:32)(良:2票)
55.  オーメン(1976)
「『オーメン』をホラーと思ったことはない」、「ホラーであれば引き受けていない」と監督がメイキングで話していて、びっくりした反面、納得した。題材こそオカルトだけど、確かにホラーよりもサスペンス、ミステリーの比重が強い。だからど直球のホラーを期待していると肩透かしをくらう可能性がある。  最近の映画のショッキングな表現に慣れている人ならなおさらのことで、キリスト教に馴染みがない限りは生ぬるく感じるかもしれない。自分は中盤の謎解きの下りで眠気と闘った。期待していたのとは方向性がちょっとずれていたので。  全体を通して陰惨で重苦しい雰囲気があって、今観ると古くさい部分も却って長所になっている。個人的には退屈したけれども、きっと普段はホラーに馴染みが薄い人ほど、とくに宗教に興味がある人であればけっこう楽しめるんじゃないだろうか。意外と真面目で渋い作品なので、そこは覚悟して鑑賞すべき。  ところで、なぜか子どもの頃、この映画が大好きだった記憶がある。これを子どもが面白がったというのが、わがことながら理解できない。きっと早送りして首ちょんぱの映像だけ観てはしゃいでいたのだろう。そんな子どもだった。
[DVD(字幕)] 6点(2007-07-30 23:26:29)(笑:2票)
56.  父、帰る
シャープで洗練された映像感覚が素晴らしく、個人的につぼにはまった作品。それだけで妙に高評価になってしまったが、冷静に考えるとそんなにたいした話ではないような気もしてくる。リアルで迫力があるし、宗教や政治についての象徴性はよく考えられているが、その実こころから感動できるほどのめり込める物語ではなかった。無骨で愛情表現の下手な父親との間の絆が、悲劇を通して回復する。子供たちに欠けていた父性が、わずか一週間で受け継がれるまでを描く。父親が自分の親の姿と重なり、少し切なかった。(ところで、説明不足な点はそんなに気にならなかった。大体見当はつくし、謎解きは主眼ではないので説明しなくてもほとんど差し障りはないと思う。)
[DVD(字幕)] 9点(2005-12-02 07:26:05)(良:2票)
57.  ナポレオン・ダイナマイト
いるいる、こんな人(笑)。普通の青春ドラマでは間違ってもスポットライトの当たることがないオタクくん。でもあえてスポットライトを当ててみたら、意外と面白かったというのがこの映画。口を開きっぱなし、分厚いメガネに天パ、いつも変なTシャツを着用し(やはり裾はジーパンに入りっぱなし)、ここぞというときの服をファッションセンターしまむら(みたいな店)で購入する。いちいち言動がずれている感じが、非常にリアルだ。おそらく身の回りを捜してみれば主人公を髣髴とさせる人物が必ずいるはず。ゆるーい話なのに、ナポレオンの挙動不審ぶりが面白くてついつい夢中になってしまう。どうみても冴えないのに、いつのまにか愛すべきキャラクターとしか思えなくなっているのである。例のダンスシーンは超クール!! 文句なしに最高だった(ある意味本気)。オタクの人生にもそれなりのドラマがあり、それなりの喜びがあるということを教えてくれた。秋葉原系の人たちをバカにするような人間こそ、観るべきかもしれない。 【おまけ】本作最大の欠点は、邦題だろう。流行作品に題名を似せるだけで大して売り上げが増加するのかがまず疑問であり、むしろ一部の映画好きによって語り継がれていくような良作を埋もれさせてしまう危険すらある。変な邦題をつけたり、作品の方向性を歪めて宣伝したりするのは、短期的な視点で見ればいくらかは利益があるのだろうが長期的にはけっして得にならない。何より詐欺まがいの方法を使ってでも小金を掠め取ろうとする姿勢が、あまりにもあさましい。客に対しても作品に対しても、敬意がない。いつから配給会社はけちな詐欺師に成り下がったのだろうか? いい加減にして欲しい。
[DVD(字幕)] 8点(2005-12-03 03:48:54)(良:2票)
58.  パルプ・フィクション
時系列をばらばらにするプロットは普通ミステリーの文脈で使われるものだが、この作品はちょっと違う。無意味なものの積み重ねが、やがて絡み合い、だんだんと大きなうねりのようなパワーを生み出していく。 どこか頭のネジの足りない連中が、だらだらと無駄話をして、ときどき無節操に暴力をふるい、そしてちょっとした偶然に人生を左右される。その滑稽で、暴力的で、いかれた、しかしどうしようもなく人間くさい生き様――粗悪な紙に汚い言葉で記された俗悪な内容が、不思議と人を惹きつける。 この映画には意味がない。だけど確かに価値がある。
10点(2005-02-21 06:23:59)(良:2票)
59.  スティング
ダサくてお洒落な音楽、雰囲気は好き。レッドフォードが健脚をもって逃走するシーンはツボにはまった。駅のホームを駆け抜ける場面、異常に足速くないか(笑)。歩幅が松田優作並みだったぞ。どんでん返しとしては革新的だったのかもしれないけれど、それ以上に全編を覆う空気の心地良さが素晴らしい。どんでん返し一本頼みで、それを取ったら何も残らないような最近のサスペンス映画はこういうところを見習ってほしい。ひとつひとつの要素を吟味して、丁寧に積み上げていく職人的な仕事をこそ継承すべきだろう。
[DVD(字幕)] 7点(2008-01-05 00:54:12)(良:2票)
60.  グエムル/漢江の怪物 《ネタバレ》 
アメリカ人には逆立ちしても作れないモンスターパニック。アクションでもホラーでも、題材を替えて同じパターンを繰り返すだけになりがちなもの。安手の使い古されたネタで、よくぞここまで斬新な物語を展開したものだと思う。  まず軍や警察ではなく、どちらかという生活レベルの低い庶民、しかも一家族を主役に据えているのが新しい。こういうのはたいてい偶然居合わせた連中がやむを得ず戦ったりするわけだけど、家族を中心に展開されるだけで否応なしに引きずり込まれてしまう。馴染みやすさが全然違うし、加えて、サスペンスで無理に盛り上げなくとも観客を惹きつけることができる。結果として豊かなドラマ性が生まれ、モンスターものなのにホラーというジャンルに収まりきれない異色作となっている。  またあの怪物の大きさがイヤだ。大きすぎず小さすぎず、ありえないんだけどありえそうな、ちょうどいいくらいのサイズ。クモザルみたいにひょいひょい移動するあの動作も巣に餌を溜め込む習性も、なんだかもっともらしくて、妙な説得力がある。  そして怪物が生まれた背景には人間の浅はかさがあるというテーマは大昔の『ゴジラ』からあるものだけど、これほど怪物よりも人間の怖さを思い知らせてくれる作品も珍しい。軍隊なんか全然頼りにならないどころか、隠蔽するために危害を加えてくる始末。ここらへんのリアリティなんかもう、気色悪いくらいである。  エンターテインメントなのにシリアスで、シリアスな割にはエンターテインメントしている。バランス感覚が絶妙というか、独特だ。すべてにおいてそうで、音楽や映像のセンスもけっしてB級ではないのに気取りすぎてもいない、ほんとうに絶妙な加減にとどめている。  この妙なリアリズムからいってもベタなハッピーエンドはありえないと思っていたので、この結末には素直に納得した(少なくとも、個人的には)。怪物に襲われても政府に踏みつけにされても結局は生き残る庶民のたくましさ、雑草魂が印象付けられる、いい結末だったと思う。米国の責任問題を報道するニュース番組を、「つまんないから」の一言で消してしまう、あの図太い神経。ああ、大丈夫なんだな、何があってもこいつらは生きていけるんだな、という安心感があった。  ハッピーエンドとも言い切れず、かといって救いがないわけでもない。ここでもやはり不思議なバランス感覚が発揮されている。
[DVD(字幕)] 9点(2007-01-29 15:14:25)(良:2票)

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