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なんのかんのさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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41.  鞍馬天狗 天狗廻状
ひばりの杉作は3作しかないそうで、その最後の作品。監督は同じ大曾根辰夫だが、どうも前2作とタッチの違うところが見受けられる。顔アップの多用、カメラが塀を越えたり屋根を這ったりする移動撮影、ラストの立ち回りでも3階までワンカットで天狗を追って上っていく、など若々しく、新人助監督に撮らせた部分も多いのでは。フィルムの状態が3本の中では一番いい。面白いのは配役の使い回しで、たとえば前作で倒幕派の公家だった高田浩吉が今回は桂小五郎、前々作で新撰組の配下の目明かしだった加藤嘉が今回は正規の隊員になれて青山さんと呼ばれていた。まあ、彼らは役柄そのものには大きな違いがないからいいが、前々作で西郷どんを演じ豪傑笑いをしていた三島雅夫が、今回は佐幕派に寝返ってフフフと陰気に笑っていたのには驚いた。新劇俳優は時代劇では悪役になることのほうが多い。アラカンが仏像を彫っているお堂での立ち回りが見せ場か。天狗がアッという逃げ方をする。ラストもちゃんと3階までセットを組んでて、もっと盛り上がってもいいんだけど、家族愛の話が絡んでしまって湿りがち。そう、全体にこの宗像さんの娘の話が活劇にとっては邪魔で、つまんない。ひばりは前作よりは登場時間が増えたが、男の子を演じるのは難しくなってきたよう。それより、もう脇役のギャラじゃやってらんないわ、ってことで、杉作役から下りたんだろう。追記:調べたら次の作品からシリーズは松竹でなくなっているのだった。
[DVD(邦画)] 5点(2009-10-24 11:56:29)
42.  鞍馬天狗 鞍馬の火祭 《ネタバレ》 
前作のラストで江戸へ走っていった鞍馬天狗が、舞台を変えてどんな活躍をするのか、と思って観たら、長州から帰ってきたところだ、って言って京都にいるの。そうか、そういう世界なのか。毎回完結で前作を引きずって観てはいけないのだった。ひばりは冒頭で天狗のおじちゃんを探しに長州へ歌いながら旅立ち、ラスト近くなって歌いながら戻ってくる、と出番は少ない。いろいろ仕事が忙しかったのだろう。それでもタイトルではアラカンの次に並んでいるのだから、当時の人気の凄さが分かるというものだ。ひばりファンは出番の少なさに、金返せ、と怒ったであろうな。そのかわり別の子役が歌を歌って人気を取ろうとしていたが、全然華のない子だった。でも活劇としては、前作のような山田五十鈴との恋模様がない分、良かったのではないか。行列を崖上から見下ろして登場するあたり、西部劇のノリで、馬が走るとそれだけでワクワクする。能楽堂での対決もリアリズムを離れてファンタジックな面白さ(順々に襖が閉まっていく)、庭での乱戦に移って、最後は川の流れから子どもを救うと盛りだくさん。恩師の牢獄からの救出、親王派公家の処刑寸前の救出と続き、悪玉から岸恵子を救い出す火祭のラストへと雪崩れ込む(火祭は10月22日の今日)。そりゃ、斬り捨てようとしていたひばりを次のシーンでは丁寧に縛ってて、行方を天狗に教えられちゃう、といった悪漢の側のトンマぶりには脱力させられるものの、まあこの悪玉、屈折したキャラクターだったから、それもいいではないか。
[DVD(邦画)] 6点(2009-10-22 12:11:40)
43.  鞍馬天狗 角兵衛獅子(1951) 《ネタバレ》 
鞍馬天狗のセキュリティーの甘さには困ったものだ。新撰組の配下の加藤嘉や、誤解で付け狙う山田五十鈴などに、しょっちゅう簡単に踏み込まれてる。あれじゃ普通だったら幕末まで命が持たない。彼が生き延びられてるのは敵役(というか佐幕派)のルーズさのおかげで、掴まえてもすぐ斬り捨てず、面倒な水責めで殺そうとしたりするから、たかが子どもに救出されちゃう。この大阪城のセキュリティーがまた甘く、お互いのルーズさが、活劇の興を削ぐ。馬が疾駆するところのみ痛快であった。この映画はひばりの杉作登場の記録として価値のある作品であろう。もうすでに幾つかのヒットを飛ばしていたとは言え、14歳の小娘が戦前から続くシリーズで主役を食い、ストーリー上でも、ただ脇で歌を歌うだけでなく山田五十鈴と同格の重さを持たされている。後世の私らは、ふてぶてしくすらあった貫禄十分の晩年の大スターからどうしても逆方向に眺めてしまう訳だが、当時の新鮮に輝いていたひばりが当時の観客に与えたショックは計り知れないものがあったのだろう。彼女が演じ続けた“肉親とはぐれた子ども”への共感の強さだろうか。その他大勢の役者をふんだんに使った街の雑踏の俯瞰から、徐々に角兵衛獅子に焦点が絞られていく杉作登場のシーン、これは戦後の廃墟の雑踏でつい最近まで目にしていた戦災孤児の光景そのものだったのだな。
[DVD(邦画)] 5点(2009-10-20 12:05:40)
44.  黒いオルフェ
真の愛とは一種の災難である、って話だ。だからここでは死神も愛の一部分なの。オルフェは災難のようにユリディウスに出会ってしまう。それがなければ彼も婚約者とそこそこの幸福な家庭を築いたはず。でも真の愛に出会ってしまう。最初観たときは死神を“宿命”って感じで捉えてみたが、ユリディウスとセットになってるんだよな。愛の二面性の片割れと捉えたほうがいい。サンバという音楽にそもそも二面性が感じられる。溢れかえる生命力があるのだが、そのなかにやがてボサノバへと変質していくなにかヒヤッとする神経細胞のようなものも潜んでいる。ユリディウスを探す死神が身を乗り出すところのヒヤッとした感じね。もちろん仮面をはずしながらむこうを向くシーンが最高。役所の建物が地獄堕ちのイメージに重なっていた。南米文化ってのがもともと日常と神話が隣り合わせになってる文化だから、全然展開に無理が感じられない。ラスト、少女のユリディウスが踊り出すときは涙ぐんでしまう。
[映画館(字幕)] 8点(2009-09-23 11:58:43)
45.  クロッカーズ
死体死体死体の写真で始まる。ヤクの売人が胃弱ってのがおかしい。自分ではヤクをやらない代わりに、チョコナントカの中毒で胃弱になってるという設定で、文字通りしじゅう「ムカついている」。殺気立っている日常、いい子でいることが困難な雰囲気がひしひしと伝わってきた。一人一人が立ち直ろうと思っても、とうてい個人の努力では無理なのが分かる。チクリ屋と思われるのが一番怖く、そのためにさらにツッパってるとこを誇示しなければならないわけだ。死体のまわりで刑事が不謹慎なことをしゃべり続けるあたりも、実に日常らしい。この人の映画でときどき見せる滑らかな前方移動、台車にでも役者を乗せて運んでいるのか、あのヘンな感じ、非現実感を出したいのかよく分からないけど印象には残る。タトゥーロは、わざわざ彼が演じている意味がなかった。
[映画館(字幕)] 6点(2009-09-07 09:16:01)
46.  クライマーズ・ハイ(2008) 《ネタバレ》 
ブン屋もの、ってのは、ちょっと前までは社会派映画の定番で、輪転機が回って大見出しが斜めに飛び出してくるシーンをよく目にしたものだったが、なんか久しぶりに輪転機を見た気がする。事故だ! さあ大変だ! と沸き立つ感じはやっぱり浮き浮きし、あの場に音楽を入れなかったのも正しく、こっちにまで興奮が伝わってくる。他人の不幸で堂々とイキイキできる職場だ。なのにその後、脇筋がチョコチョコと入り、これがせっかくの興奮を薄めてしまう。脇筋が絡むと主人公も暇そうに見えてしまう。いちおうそれらの脇筋も地方紙の職場をよりよく見せてはくれるんだけど、煩雑になり、そういうのは時間がたっぷりある小説にまかせておけばいい。職場内だけに話を絞る勇気が欲しかった。他社より早くスクープを押さえる、というブン屋のルールがはっきりとあるのだから、そのルール上で映画を勝負してほしかった。記者がノイローゼになるまではルール内の出来事だが、それを車に轢かせるとなると、やはり脇筋への脱線だ。現代編の山登りも、当然話の腰を折る。俳優ではでんでんが好演で、地方紙の職場はこんな人物が支えていそうだ、というリアリティがあった。彼は去年は『母べえ』の町内会長でも良く、ここんとこ大当たり。
[DVD(邦画)] 6点(2009-06-13 12:04:11)
47.  雲の上団五郎一座
戦後喜劇史の本によく出てくる三木のり平の「切られ与三」は、現在この映画でしか見られないらしい。その記録としてだけでも重要な映画となった。で、もちろん三木のり平はいいのだが、のり平の笑いを引き出す八波むと志(こうもり安)のキレの良さにうなった。脇でじれったがって悶える八波のツッコミが素晴らしい。初期の渥美清にもあった凶暴さを秘めた魅力。のり平と八波の芸質の違いが見事に噛み合って、掛け合いの笑いとはこうでなければならない、という見本のような出来だった。あと佐山俊二も懐かしかった。田舎から出てきて都会で戸惑ってるおとっつぁんというような、オドオドした笑い、この種の笑いを受け継いでいる人はいないのではないか。というより喜劇人という人種が表舞台から消えてしまっているんだな。由利徹はあまり出番がなく勿体なかったが、西部劇のならず者タイガーがまあまあ。これらベテランに対してフランキー堺も頑張ってはいたけど(弁慶でデタラメ言う、旅の衣はスズカケの~、がスズカケの小径になったり)、やはり長年舞台で鍛えた喜劇人の粘度と比べると、サラサラして感じられる。切られ与三とドドンパ・カルメンでは落差ありありだった。舞台上で十分に練り上げられた時間の蓄積の違いもあろう。劇中の一座の芝居のあまりのひどさに、小屋主のアチャコがヨイヨイになってしまう。「笑わせようとしてないのに客を笑わせてしまう笑い」を、芸達者な人々が見せるから芸のある笑いになるのであって、現在はこれがそのまま通っちゃってるからなあ。とにかく喜劇人俳優名鑑のような映画で、エノケンからフランキーまでの豪華な顔が一堂に揃って見られるだけでも、お得な作品です。 
[映画館(邦画)] 7点(2009-05-31 12:11:13)
48.  ぐるりのこと。
一方に20世紀末の世間を騒がせた事件史があり、一方に無名の夫婦の歴史がある。でもこうして裁判所での事件を並べてみると、個性的に見えたそれぞれが同じ「社会からの逃走」という病いの別の症状の現われに見えてくる。また、妻の母に認められるまでの夫婦史を眺めていると、世の夫婦というものは同じようでいてそれぞれの特殊を生きてるんだな、と思わされる。普遍と特殊がスルリスルリと交替しあっているような世界観。それらを貫いているのは「人生から逃げない」ということ。別に歯を食いしばって抗うことでなく、柔軟に、しかし逃げないということの大切さ、そんなテーマの周辺を回っていたような気がする。「とにかく面倒なことからは逃げよ」という人生訓を守って生きてきた者にとっては、粛然とさせられる。法廷スケッチという一日だけ有効な絵と、寺の天井画という永く残る絵、でもそれらが等価に支えあって夫婦になっており、また社会が成り立っている、そんなことを見ながら考えていた。夫婦のいさかいなど、長回しで場の雰囲気をそっくり捉えるところが、うまさ。ただ親戚連中は、時代の変化を見せるために動員されたような感じで薄っぺらい。それと天井画ってのがやや唐突だったような。
[DVD(邦画)] 6点(2009-05-29 12:07:23)(良:1票)
49.  グリム・ブラザーズ/スノーホワイト(1997) 《ネタバレ》 
ホラーとしての童話。一つ一つのモノが象徴性を帯び、あれこれと深読みを誘う楽しみはある。鏡とは? 森とは? って。芯にあるのは、つまりすべて嫉妬。娘の継母への、後妻の先妻への。S・ウィーヴァーは、極端なキャラクターにしてしまわずに、よくやっていたのではないか。七人の小人がハイホーなんて歌う陽気な連中ではない。王子さまが毒リンゴの後でやけに早く到着したかと思ってたら、こいつはダメで、七人の小人のリーダーがその役になる、というヒネリがあった。ディズニーの『白雪姫』の後半の物足りなさに対するアンサーというか、現代的解釈なのでしょうな。旦那は自分の足で探せ、旦那と同じく顔に傷を負って得よ、と。この旦那に連れ子の女の子がいるとオチになるのだけど。
[映画館(字幕)] 6点(2009-03-23 12:00:40)
50.  グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち 《ネタバレ》 
隠れた天才もののファンタジーの味と、心の回復物語とが、うまく噛み合っていないような気がした。そもそも精神的なものの対極にすぐ数学を持ってくるのが安易だと思うのだけど、まあ人生に対する臆病さってのが、基本的なテーマとしてあって、そこらへんで統一感はある。親友との場はいいな、おまえと会うのは楽しいけど、いつかいなくなることを期待している、って。でフトいなくなって、微笑を浮かべ車に戻り、するといつも後ろの席の奴が助手席にまわってくる。仕事に貴賤はない、人は平等と言うけれど、そうも言い切れないところにこの世の活力は生まれているのかもしれない。若者らが集まってバカ話をしているあたりの雰囲気がよかった。あとガールフレンドのミニー・ドライヴァーが、カラッとしていながらちゃんと女でもあっていい。
[映画館(字幕)] 6点(2009-02-10 12:12:44)
51.  黒い画集 あるサラリーマンの証言 《ネタバレ》 
児玉清が学生役、当時は小玉と表記していたのか。日本映画がお得意とした小市民ものの陰画のような作品で、小市民がそのささやかな地位を保身するためには、他者に対して最も残酷になれる、ってな話だ。あの男は真犯人が見つかれば助かるけど、こちらは浮気がバレれば破滅だ、と主人公小林桂樹が破滅の場面を妄想していくあたりの心理は、だれでもぐっとリアリティを持って迫ってくるのではないか。小市民映画は、そうそう、と自分たちの暮らしを微笑ましく振り返るものが多かったが、これは、あるある、とぞっとしながら振り返る小市民映画。小林がアリバイづくりのために映画を見たことにする訓練、インディアンが駅馬車を狙っておりました、と内容を頭に叩き込んでおくと、客の入りを訊かれてドキッとさせられたりする。そうまでしても、けっきょく彼はささやかな一家団欒の多摩動物園へは行けないのであった。東宝の名脇役、織田政雄が、その“影の薄い実直さ”を充分に発揮した代表作でもある。
[映画館(邦画)] 8点(2009-01-06 12:23:14)(良:1票)
52.  沓掛時次郎 遊侠一匹 《ネタバレ》 
股旅ものの根本思想には、組織は悪くて個人はつらい、ってのがある。渥美清はバカを通して殺され、心が通じあう個人と個人は対決せねばならない。一旗あげたい農村青年が「やくざは虫けらだが、百姓はもっと虫けらだ、どうせ死ぬなら羽根を広げて死にてえ」という言葉が重い。さらに家庭という組織もからんできてるわけだ。股旅ものならではの寂寥感が随所に見られるいい映画だとは思うんだけど、錦ちゃんの長谷川伸三大名作の中では、作品のうねりに不整脈みたいなギクシャクしたものが感じられて、私はちょっと不満が残るの。これよりは『瞼の母』のほうが、さらに『瞼の母』よりは『関の弥太っぺ』のほうが純度が高いように思え、私は好きです。
[映画館(邦画)] 7点(2008-12-20 12:15:59)
53.  クローバーフィールド/HAKAISHA
せっかくの趣向を生かしていない。最初のほうの混乱なんか、けっこう臨場感があって期待できたのに、しぼんでいく。物語を語り出してしまうからだ。友情物語やら救出物語やら、既存の“物語”に寄りかかって“記録”の視線を忘れてしまう。記録の目に徹する自信が作者になかったのだろう。カメラはこういう異常事態なら、とにかく怪獣を捉えようと懸命にならなければならないはずだ。それを友だちばかりに向けている。軍の発砲からパンして怪獣にカメラを向けるってのは、新米素人カメラマンのそれではなく、劇映画のカメラマンの動作である。一生懸命対象を見ようとして、それでもよく見えない、ってところにサスペンスが生まれてくるので、最初っからカメラが効果を狙って控え目なのでは、おののきたくてもおののけない。軍の前線基地みたいなところに入っちゃうのも、よくない。事態をまとめる視点を排除して、とまどいの視点に徹しきらなければ。さらに言えば、俳優の演技の質がもろにドラマのそれで。
[DVD(字幕)] 6点(2008-12-16 12:10:25)
54.  クアトロ・ディアス 《ネタバレ》 
いかにも中産階級の坊っちゃんたちの革命ごっこのように始まる。射撃訓練など、部活のノリ。しかし抽象的だった“敵”がしだいに具体的となっていくにつれ、彼らも闘士の顔になっていく。一番ヤワそうなのが、筋金入りの革命家に憧れていくのもいい、話としてはさして発展してないが。周囲も描けていて、拷問者も単なるサディストではなく、そのことによって心にうつろを抱えていたりする。大使も、恐怖で失禁しトイレでさめざめと泣くシーンなどいい。どれも人間らしい人間なのに、政治がからむことで非情になっていく世界。「けっきょく君たちは軍事政権の対極のようでいて、よく似ている」って言葉が重い。
[映画館(字幕)] 6点(2008-10-27 12:05:21)
55.  グレン・ミラー物語 《ネタバレ》 
前半がミラー・サウンドができるまでの苦闘時代、後半でその展開と、第1部が芝居・第2部がヒットパレードの、新宿コマ劇場演歌歌手公演を思わせるような構成だけど、後半にも映画としての工夫があり、飽きさせない。戦時下の英国での“イン・ザ・ムード”の野外演奏シーンなんか、並行して敵機の襲来、撃墜、聴衆が伏せて立ち上がる、というドラマも織り込み、それが曲の強弱と重なるように工夫されていて、ミュージカルのような効果をあげていた。音楽だけに映画を譲り渡してなるものか、という映像職人の意気込みを感じた。前半に伏線を揃えておいてから後半に移っているので、それらの曲を聴いているとき、観客は前半の具体的な映像(J・スチュアートが電話を掛けているシーンや、質屋で真珠の首飾りを見ているシーンなど)を思い起こせるのだ。映画全体が記憶とともに湧き返ってくる感じ。転換点となる“ムーンライト・セレナーデ”の編曲が仕上がっていくシーンなんか、ホントにうまい。J・スチュアートってアメリカ人の理想像なんだと思う。こんなであったらいいなとアメリカ人が思い続け、しかし現実にはそうはなれなかった、はにかみ屋でナイーブな自画像なのだろう。大袈裟かもしれないけど、私はこの映画にアメリカのエッセンスを感じてしまうんです。/2013/3/2追加。最初のデート、グリークラブが歌う「茶色の小瓶」が聞こえてくる場で、ヘレンが「感動すると首の後ろがゾクッとするの」てなことを言う。首の後ろに手をやる仕種は、その後も映画の要所要所に置かれ、そしてラストシーン、彼女が静かに微笑んで首の後ろに手をやる。ラストの感涙必殺技は音楽とジューン・アリスンの微笑みのダブルパンチに加え、この抑制された仕種も効いてるんだ。
[映画館(字幕)] 9点(2008-10-05 12:16:16)(良:1票)
56.  グリーンマイル 《ネタバレ》 
そうか、キリスト伝説みたいな話になってるのか。いえね、彼、冤罪じゃなくて、大きな罪を犯したために癒やしの能力が罰として降りかかってきた、って話かと初めのうちは思ってたもんで。なんかそういうほうが面白いと思いません? 愛を使って悪を為した、という罪のテーマもあって、なんかドストエフスキー的なダイナミックな構造が、もうちょっとで現われそうなとこだった。どうしても死刑を執行したい執念を持つ敵役を、三枚目っぽく造形してるのが、かえって怖い。しばしば悪は、おどけの面相をして登場する。感動的なのは、闇に差し込む光として映画を捉える場。『トップ・ハット』! I'm in heven と見守るJ.C.の頭上に、後光のように映写光が輝いていた。
[映画館(字幕)] 7点(2008-10-03 12:14:00)
57.  グラディエーター
興味深かったのは、剣闘士による歴史の再現劇いうとこ。そういえばギリシャ劇でも昔は、戦闘の殺戮シーンでホンモノの人間を使ったっていうのを聞いたことがある。これの思想を広げていけば、戦争のテレビ中継を期待する大衆論につながっていくだろう。でもこの映画はそういう大衆をそれほど批判してはいなくて、後半はその大衆の支持が主人公の補強に使われている。この大衆の浮気っぽさを織り込めばもうちょっと味わいが深まるのに、ここらへんが大衆相手のハリウッド映画の限界か。ラッセル・クロウよりホアキン・フェニックスのほうがもうけ役で、「なぜ父上は私にない美徳ばかりを挙げるのか」なんてあたりのコンプレックスぶりがいい。しかしあの皇帝の最期も、なんかマヌケだったなあ。
[映画館(字幕)] 6点(2008-09-28 14:42:02)
58.  クリクリのいた夏
誰もが「自由万歳」とは言うけれど、さらに「グータラ万歳」という心境にまで踏み込めるのは、イタリア人とフランス人くらいではないか。自由が血肉になっている。徹底している。ただイタリア人はおもに都市でヘラヘラ笑いながらグータラするが、フランス人は田園でしみじみとグータラする。この映画、田園の沼地が何ものかからの避難地となり、そこでのグータラ生活が謳歌される。「子どもを働かせちゃ駄目だ。悪いクセがついちまう」。1930年代。激動の20世紀において30年代ってのが、時間軸の上でのちょっとした避難地だったのかも知れない。物語に緊張を与える不運なボクサーがおかしい。
[映画館(字幕)] 7点(2008-09-09 12:10:52)
59.  クロッシング・ザ・ブリッジ~サウンド・オブ・イスタンブール~
最初のほうのトルコのバンドの連中、東洋と西洋の融合とか立派なことを言ってるんだけど、やってる音楽はおおむね西欧音楽の和音やリズムにオリエント風味を付けたもので、モーツァルトのトルコ行進曲の異国情緒と五十歩百歩。ヒップポップやブレイクダンスと、いまや世界中どこでも同じ光景になってしまった。やたら唇が動くトルコ語のラップは聴き応えあり。でもだんだんロードムービー的に進むにつれて、音楽世界が深まってくる。それが純粋なトルコ音楽に向かうというより、トルコ音楽と他の音楽との接点に集中していく。ジプシー音楽、クルドの民謡、アラビア音楽としてのトルコ音楽たち。純粋な伝統ってあるのか、そもそも文化とは不純な融合によって発展したものじゃないか、ってことをこの後半で言ってるみたい。そう思うと前半のバンドたちの音楽も、その中途半端さの意義を認めてやりたくなる。
[DVD(字幕)] 6点(2008-07-08 12:14:55)
60.  グレースと公爵
ヒロインは革命の是非には関せず、野蛮や不寛容への嫌悪に基づいて行動する。公爵と政治的な意見は異なっても、元恋人同士の親和の情に基づいて動く。心意気ってやつだ。革命政府と絶対王政とどっちが野蛮か、なんて暇なときに考えればいい、いま目の前にある野蛮をとりあえず回避しようとする。この行動原理は、現在世界で起こっているアレコレについても有効だな、と思ったがそれは映画とは別の話。曇天の王の処刑の日、聞こえてきた喚声を、いま民衆が蜂起して王を救い出したのかも知れない、と思うヒロイン。心意気には限界がある。『悪魔の発明』を思わせる絵画調の風景は、この映画が民衆が見たリアルな世界ではなく、あくまでヒロインの眼に映った光景だ、と言ってるよう。
[映画館(字幕)] 6点(2008-05-29 12:13:24)
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