1. 泥の河
《ネタバレ》 これはすばらしかった。子供と大人、それぞれの世界をバランスよく描いていました。そのからませ方がうまく、とくにきっちゃんが「戦友」を歌う場面は絶品。父の田村高廣と母の藤田弓子はやさしさが光るし、加賀まりこは出番が少ないのに存在感抜群。姿を見せない時から存在感があります。 本作では、一部を除いて町の中にあまり人が見られません。ほとんど主要2家族だけで話が進んでいきます。予算の都合とかあったのかもしれませんが、この家族が「もはや戦後ではない」、「神武景気」といったような世相とは、離れたところにいることを象徴しているように思えます。右肩上がりとは異なる、当時忘れられようとしていたかもしれない人の心を感じさせました。有名な映画だと思うのですが意外とレビューが少ないですね。モノクロだからでしょうか。もっと多くの人に見てもらいたい作でした。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2011-11-29 22:26:28)(良:1票) |
2. トイレット
よかったと思います。話としてはありがちなんだけど、登場人物のキャラクターと、それによってかもし出される雰囲気が好き。悪人が登場しないところもいい。『かもめ食堂』よりも、ドラマ『すいか』っぽい感じがします。言葉が通じなくても心が通じればオッケー、みたいなところがあって、何とはなしに嬉しくなってきます。まあこの映画に関しては、あれこれ理屈を並べるよりも、実際に見て味わうに如くはないでしょうね。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-02-05 22:12:14) |
3. 東京物語
《ネタバレ》 子どもが親から独立し、自分自身の家庭を持ったら、やはりそれが一番大事になるでしょう。外からやってきた人は、自分の親であっても「来訪者」であり、平穏な毎日に乱れを生む存在になってしまいます。それはつまり、子が親離れしたということで、必ずしも非難されるものではありません。作中でも否定的には描かれていませんでした。「遠くの親類より近くの他人」とも言いますし。とはいえ、子どもに相手にされないと親としては寂しいもので、そのあたりのバランス感覚が絶妙です。ここが小津作品ならではの味わいになっていると思います。 本作では、終盤での周吉と紀子の会話がキモでしょうが、ここで紀子が「わたくし狡いんです」と言っているのは、どういうことでしょう。死んだ次男(夫)のことを忘れてきているのに、義父母に優しくしたのが狡いのか。紀子は「将来が不安になることがある」とも言っていることから、孤独な毎日を送っていると想像されます。特に友達がいるような描写も見られませんし。上京した義父母の面倒を見るというのは、淋しい日常を忘れさせてくれる格好の慰めだったのではないでしょうか。つまり、彼女はむしろ自分自身のために義父母に優しい態度をとったことを「狡い」と表現したのではないかと思われました。何にせよ、こうした戦争未亡人の孤独も取り入れたことが、本作にさらなる陰影をつけていると感じます。 なお、NHKのデジタル・リマスター版で見ましたが、画像だけでなく音声も改善されていて、聞きやすくなっているのは幸いでした。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-07-30 19:47:50)(良:2票) |
4. 東京暮色
《ネタバレ》 重い映画、であります。もはや父親が家長としての機能を果たさなくなってきた時代、その結果を気負いや批評もなく、ただあるがまま提示している。かなりクールですね。というか、クールにならないと、こうした映画は撮れないのでしょう。ある意味運が悪い家族とも思いますが、以前ならそこを団結して乗り越えるところを、団結できず坂を転げ落ちるように悪い方へと向かってしまう。近くにいるはずなのに(いるから?)何も言えない明子が哀しい。そういえば、彼女は病院ではそれほど重症に見えなかったのに、あっさり死んでしまうとは意外。もしかすると、あの時は助かったけどその後自殺したとか? この辺は曖昧に処理されていて、見る側の想像に任せているのでしょうか。それと、明子の死まではほとんどBGMを使わず、死後音楽が流れまくるというのも、効果的というか意味深ですね。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2010-02-05 19:47:51) |
5. 東海道四谷怪談
《ネタバレ》 うん、これはいいですよ。四谷怪談の詳しいストーリーは知らないのですが、この映画ではけっこう端折っているようですね。それでちょっとわかりづらい部分もありましたが、あまり大きな傷ではありません。冒頭のクレジットが劇場を使っているように、映画というより歌舞伎の舞台の再現を狙っているところがあるようで、所作や台詞回しなどにもそういうことを感じました。天知茂が時々見得を切るところは格好いいです。色の使い方も濃くてあくどい印象を受けますが、これも舞台を意識してのことでしょうか。ともかく効果を上げています。花火の使い方とか巧いです。 しかしなんといっても圧巻は、最後のシーン! 子供を抱いて昇天するお岩さんは、鬼子母神を意識したのか、はたまたイエスをかき抱くマリアがイメージにあったのか? いずれにせよ、それまでの暗くおどろおどろしい調子を一変させる、実に澄んだ美しい場面でした。これだけでも見た甲斐があったというものです。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2010-01-16 17:59:13) |
6. 東京流れ者
《ネタバレ》 いろんな意味で面白い。お話自体は川内康範が好きそうな義理と人情の物語なのですが、鈴木清順の演出が凝っていて見ものです。前半はつながりの変なところもあるのですが、ヌーベルバーグの影響でしょうか。後半、二谷英明が登場すると、なぜか笑えてくる。なにしろ登場シーンからして、渡哲也の身代わりとなるために歌っているんですから。二谷英明が歌! もう笑うしかないでしょ。佐世保での大乱闘なんて、店を壊したりしてほとんど「全員集合」のノリ。ここのところは西部劇を模倣したのでしょうが、シナリオではどうなっているのか、ちょっと気になります。しかし決めるところはちゃんと決めているし、全体的にスタイリッシュな映像が、泥臭い「義理と人情」と案外うまくマッチして、独特の雰囲気をかもし出しています。松原智恵子の歌が吹き替えだったことが残念。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2018-11-01 20:12:04) |
7. 特攻大作戦
《ネタバレ》 演習まではまずまず面白い。囚人たちがチームとしてまとまっていく展開、特にライズマン少佐との関係はユーモアもあって楽しめました。相手の裏をかく演習もいい。ただ、相手がドイツ軍だとドイツ語を話せる人間がもっといないと無理なので、あくまで演習用ということですが。本番の攻撃も序盤は緊張感がありますが、ドンパチが始まってしまうと大味になってしまい残念です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2017-01-04 20:32:10) |
8. 突破口!
《ネタバレ》 70年代らしい作ですね。主人公が犯罪者(アンチヒーロー)であるところと、武力でなく知恵で難局を乗り切るということ。こうした要素は、ベトナム戦争への反発から来ているのかもしれません。ちょっとうまく行きすぎというところもありますが、あまり気になりません。アクションは前半の車での逃亡と後半での飛行機と車との小競り合いですが、やはり後者の方が見ごたえがあり楽しめました。それ以外は動きの少ない、むしろ地味な展開ですが、なかなか引きつけられました。まあ、本作での教訓は「金を持った奴が勝ち」ということでしょうか(笑) [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-11-11 08:53:25) |
9. ドクトル・ジバゴ(1965)
《ネタバレ》 歴史に翻弄される人々っていうことで、人間ドラマの方はそれほど濃くない。とはいえ、主人公が医者というところがミソで、そのおかげか長時間でも飽きずに見ることができました。ドラマ性が薄いとどうしても男女関係に頼らざるを得ず、本作でも後半は単なるメロドラマになってしまったのは残念でした。そこに至るまでの人物たちの関係はなかなか面白かったです。個人的には、ジバゴとラーラの関係よりも、トーニャと息子が結局どうなったのかということが気になりました。パリに逃げても、このあと第二次世界大戦が始まるわけですし……。一応ロシア革命批判などもあるようですが、革命そのものよりも、主義にかかわらず人間性を否定する社会機構そのものに対する批判というものが感じられました。そもそも人民といってもいろいろな主義主張があるわけで、それを十把一絡げにして語るあたり、個人というものを無視したうさん臭さが感じられます。 [映画館(字幕)] 7点(2016-07-24 16:28:04) |
10. 東京おにぎり娘
《ネタバレ》 一見するとラブコメなんですが、実はホームドラマ。いや、実際恋愛ドラマの要素もあるわけで、その組み合わせがなかなか上手くいっていたと思います。鴈治郎の頑固親父や伊藤雄之助の嫌味な社長など、さすがにはまっています。沢村貞子の関西弁は、さすがに無理がありましたが。あと、出番の少ない川崎敬三が結局結ばれるようなラストは、見ていてちょっとどうかと思いました。けど、踊っている叶順子はとってもかわいい。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2015-05-16 20:32:38) |
11. 東京マダムと大阪夫人
《ネタバレ》 コメディなんですが、今笑えるかというと、それほどでもない。しかし、おしゃべりな奥様方や会社でのご亭主たちは「さもありなん」という感じで、楽しめました。お隣同士仲良くしつつ対抗意識を持っているという、微妙な線がよく出ていました。社員のアメリカ行きに八郎君をめぐる三角関係がからむのですが、この組み合わせ方もなかなかうまい。こういう題材って、やり方によってはかなり陰湿でとげとげしいものにもなりますが、そこをコメディ仕立てでカラッと描いているところが、大変よかったです。出演者では、最後に八郎君を譲っちゃう北原三枝がなかなか。おとなしい芦川いづみとの対比もよかったです。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2015-05-15 21:21:15) |
12. 鳥(1963)
《ネタバレ》 改めて見て、こんなのだったかという印象。鳥が人間を襲う場面は実は一部で、それ以外のドラマ部分が結構あります。特にリディアの設定が暗示的なのですが、それが暗示だけではっきりしないのが、どうにも歯がゆい。「父性の喪失」みたいなものも関係しているのかもしれませんが、よくわかりません。 とりあえずは、鳥が襲ってくる場面だけでも見どころはあります。ただ、今の機器で見ると合成だということがはっきりわかってしまうのが、少々残念。それでも、技術的にはたいへんすばらしいとは思います。それにしても、メラニーをわざわざ電話ボックスに閉じこめて撮るなど、あざとい気もしますが。エヴァン・ハンターのシナリオがどうにも理屈っぽくて、襲撃のアクションとかみ合わず、サスペンスを削いでるように思われました。 ちなみに原作も読みましたが、こちらもかなり不気味。特に最後は、小説の方が勝ってます。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2014-07-13 16:26:17)(良:1票) |
13. 東京オリンピック
《ネタバレ》 初めにお断りしておきますが、私はスポーツにはまったく関心がありません。ただオリンピックの記録映画だということだけで、見てみました。 色々な競技を次々と映していくので、そういう点では平板で退屈になるときもありました。しかしそこを映像的な工夫で補助していて、全体としては飽きずに見ることができました。特に印象的だったのは、女子ハードルと自転車競技。前者の、全走者を正面から捉えたショット、後者の自転車を流した撮り方、共通しているのはカメラを固定しているということでしょうか。スポーツの場合どうしても競技者の動きに合わせてカメラも移動するのが常でしょうが、そこを逆手にとったあたりがよかったと思います。競技者以外の裏方を映しているのも、大会全体を見せるということで成功していました。個人的には、こちらをもっと紹介してもらいたかったほどです。また、マラソンの給水場では、先頭走者以外のさまざまな様子が見て取れて興味深かった。こうしたところも、この映画の長所でしょう。このように、なかなか面白い見どころのある作でした。 1964年といえばまだ東西陣営で争っていた時代ということで、それを緩和するイベントとしてオリンピックが成り立っていたと思います。それはスポーツの政治利用という面もありますが、近年のようにオリンピックの場であからさまにナショナリズムを掲げることはなく、むしろそれを隠すことによって緊張をほぐすという、ある種の上品さが伺えました。そういう時代の記録としても、この映画は価値があると思います。 昨今のオリンピックはもっぱら商業利用が目的のようですが、おかしなナショナリズムに利用されるならば、むしろそちらの方が健全ではないかと思ってしまいます。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2014-01-03 17:29:25)(良:1票) |
14. ドドンパ酔虎伝
《ネタバレ》 基本的には忠臣蔵外伝みたいな趣向で、高田馬場の決闘がクライマックスになっています(ただし松の廊下事件はすでに起こっていて、赤穂の藩士は浪人)。それともう1つ、安兵衛が長屋の連中のために一肌脱ぐ話があるのですが、この2つにあまり関連がないことが残念でした。しかし本作では、時代考証無視の「酒呑みコンクール」とか、ドドンパ大流行(大高源吾作詞・中山安兵衛作曲!)あたりが面白いので、あまり気になりません。若い女優2人はあまり魅力を感じませんが、脇役がなかな濃いのでこれも大きなマイナスではありませんでした。前半は歌う場面が多かったのに、途中から普通の時代劇になったのも残念。などとよくない点もありますが、明るく楽しいコメディ時代劇で楽しめました。 [地上波(邦画)] 7点(2013-09-07 22:22:31) |
15. Dr.パルナサスの鏡
《ネタバレ》 なかなかよかったですが、こういう映画はスクリーンで見ないと面白さ半減(以下?)でしょうね。元ネタが『ファウスト』だと知らない場合も、ちょっと辛いかも(と言いつつ、私も読んだことはない)。あと、NHKでの放送時間が120分だったのが気になりますが……。 お話としては、ニックがトニーの死を望む理由がよくわからないのですが、ヴァレンティナがいなくなってゲームが続けられなくなるからでしょうか。このあたり、悪魔の価値観がわかりません。出演者はそれぞれ好演でしたし、映像的にも堪能できました。代役の3人も、あまり不自然さを感じさせずよかったと思います。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-07-14 11:14:04) |
16. 東京五人男
《ネタバレ》 関西人としては、エンタツ・アチャコの漫才が見られたのが嬉しいです。大きな流れはありますが、エピソードをコント風につなげた形。今見てもけっこう笑えます。特にエンタツ・アチャコが風呂で歌うところは、今の漫才でもありそうなネタです。 話としては、政府(GHQ?)から何か出ているんじゃないかと思いそうな内容ですが、ヤミ屋がはびこる時代に作ったというのは、なかなか天晴れ。「みんなの配給品はみんなのもの」というセリフは、配給品を「税金」に替えれば現代でも通用しそう。金持ち百姓の嫌みっぷりとか、戦後まもなくの映画とはいえ侮れません。当時の東京の様子を知る資料としても一級品でしょう。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2012-08-06 07:52:58) |
17. 突撃隊
《ネタバレ》 序盤で各人物のキャラクターをきちんと描いているので、その後の展開に納得がいくし引き込まれる。中盤、小隊だけで防衛するところは、サスペンスだけでなくユーモアもあって、よかった。閉塞感を感じさせたあとに、ロングを生かし切った攻略戦に移るのも、非常に効果的です。アクション性と戦争の悲惨さのバランスも、うまくとってあると思います。マックィーンは、こういうとんがった役をやらせると、ものすごくはまりますね。その他のキャストも好演。ニック・アダムスが出ているので、東宝特撮好きは話のネタにチェックしておくのもいいでしょう。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-01-17 22:20:27) |
18. 扉をたたく人
《ネタバレ》 うーん、「惰性で生きていた初老の男が、前向きに生きる力を取り戻す」という点は、よく描かれていたと思います。特にそのきっかけが、異邦人やそれまで縁のなかった楽器(ジャンベ)だったというのも説得力があります。が、それと同時にアメリカでの中東移民の扱いについても取り上げています。これについては、タレクが収監された拘置所の所員がなぜか黒人ばかりだったり(実際そうなんでしょうか)、壁に自由の女神の絵が書かれていたりと、なかなか細かい配慮がうかがえます。モーナの「(ここはアメリカなのに)まるでシリアのよう」という台詞も記憶に残ります。ただ、その両方にウェイトが置かれたためか、中途半端なできという印象を受けました。タレクが不法滞在者となったのは役所からの通知を(母親が)無視したからで、本人は「何もしていないのに」と言っていましたが、何もしなかったから不法滞在になってしまったというのは深いアイロニーです。要は本人の“自己責任”なわけですから、これを以て移民政策がどうのとか、役人の態度が冷たいとか言うのは、ちょっと見当違いではないかと感じます。そのあたりがうまく処理できていれば、よかったのですが。でも、地味ですがなかなかの佳作です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-03-23 15:30:21) |
19. 遠すぎた橋
中学の同級生に映画好きの奴(♂)がいたのですが、この映画にかなり入れ込んでいて、メインのスター全員の名前を暗記して一気にまくし立てたりしていました。私はまったく興味がなかったので、そもそも見に行かなかったのですが……。 そもそも「マーケット・ガーデン作戦」なるものをよく知らないわけですが、これは連合軍の失策であるために、取り上げられることが少ないのかと思います。この映画自体も、公開当時は超大作として宣伝されたものの、近年では存在自体知らない映画ファンも少なくなさそうです。私も以前のテレビ放送以来数10年ぶりに見ました。たしかに力の入った作だとは思いますが、オールスター映画にありがちな総花的なところがあり、話の展開にもメリハリがあまり感じられないので、映画的な面白さは今ひとつかと思います。正直、作戦が始まるまでの1時間くらいがもっとも面白かったです。 とはいえ、「忘れられた作戦」を描いているという意義はあるので、この映画は今後忘れられることがないよう祈っておきましょう。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2019-11-23 19:56:47) |
20. ドノバン珊瑚礁
南国を舞台にしたゆる~いラブコメ。やはり常夏の国にいると、人間ああいう風に温厚になるのでしょうか。ジョン・フォードは喜劇もうまいと思いますが、これもなかなかおかしい。終始平和で呑気でアホらしくて楽しいけど、刺激がないのであまり印象には残らない。そういう映画でした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2016-10-05 08:42:39) |