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サムサッカー・サムさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 211
性別 男性
年齢 34歳
自己紹介 日本は公開日が世界的に遅い傾向があるので、最近の大作系は海外で鑑賞しています。
福岡在住ですが、終業後に出国して海外(主に韓国)で映画を観て、翌日の朝イチで帰国して出社したりしています。ちょっとキツイけど。

Filmarksというアプリでも感想を投稿していますので、内容が被ることがあるかもしれません。ご了承ください。

これからも素晴らしい映画に沢山出会えたらいいなと思います。よろしくお願いします。

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41.  ドクター・スリープ 《ネタバレ》 
そもそも傑作の呼び声高いキューブリックの「シャイニング」は、キングの原作小説とはかけ離れた終焉を見せ、原作者自らに「俺は映画版は認めん」と言わしめた代物だ。 おかげで本作は「映画版の続編」でありつつ、かつ、原作小説の続編として執筆された「ドクター・スリープ」の映画化でなければならない。 ややこしいが、とっても脚色が難しそうだということである。  しかしながらマイク・フラナガンは映画版と小説版との噛み合いを上手く調整し、キングお墨付きの「ドクター・スリープ」を完成させた。 ここで留意して欲しいのは、「ドクター・スリープ」は「シャイニング」の続編であることは間違いはないが、「シャイニング」を下敷きとして、世界観を発展させた別の作品であるという事だ。 宣伝やコピーを見る限り、成長したダニー坊やが例のホテルに戻って恐怖に見舞われる…というような印象を受けるが、本作は原作の時点で「シャイニング」とはまったくの別物であり「ドクター・スリープ」としては、これは正解なのである。  初見では続々と出てくる新キャラや、世界観の広さに面食らうだろう。 しかし、印象操作のせいで「シャイニング2を観に行ったら、X-MENっぽいバトル映画だった。ナニコレ思ってたのと違うから受け付けねぇ」と早々に本作を切り捨てるのはあまりに勿体ない。 「ドクター・スリープ」は、手に汗握る攻防や、前作から発展したドラマを内包した素晴らしいエンターテインメント作品だ。  孤立と閉塞の前作から一転、追跡と逃避の目まぐるしいスリリングな展開が良い。 「子どもの誘拐」というアメリカに蔓延る闇を足掛かりにし、彼らに対する凶悪な拷問シーンで敵軍の狂気を強烈に印象付けたのも上手い。(「ワンダー 君は太陽」「ルーム」のジェイコブ君のリアルな演技に、レベッカ・ファーガソンも恐怖を感じたとのこと) ローズ・ザ・ハットやらスネークバイト・アンディやら、とんだ中二病軍団と思わせながら、その実態は危険なカルト教団である。若く正義感に溢れるアブラが怒りをぶつける相手として不足はない。  他にも、前作とまったく異なるジャンルでありながら、「シャイニング」の世界観を上手く匂わせている点も楽しめる。 あくまでも前作の延長線上にあるからこそ、狂戦士として登場するオーバールックホテルにも熱い必然性が出る。 これぞワイルドカード。 毒を以て毒を制す、活劇の締めはこうでないとつまらない。  また、エンタメ方向に走った本作が、それでも大人の鑑賞者に静かな余韻を与えるのは、本作が扱う(特にアメリカで顕著な)諸問題の内包に他ならない。 「これは…薬なんだよ」 実際に中毒から立ち直ったキングの経験則もあるのだろうか、悪夢的なジャックの登場は空気の重さが違う。 また先に述べた子供の誘拐にも関連するが、子どもに対して大人たちがどのように接するのかという点にも踏み込んでおり、ダニーの成長、ひいてはシャイニングの謎にまで昇華させているのが素晴らしいところだ。  酒をかっ喰らった挙句、斧振り回して追い掛け回すなど持ってのほか。実は誰もが持つシャイニングという個性を、大人たちは守り、道を示してあげねばならない。 それが悪夢を呼ぶのなら、悪夢を閉じ込める箱を与え、それを振りかざす者があれば、身を守り闘う方法を共に考える。 ディックがダニー坊やを導いたように。  バッグス・バニーの決まり文句「ワッツアップドク?(どったのセンセー?)」の通り、ドクター・スリープへと成長したダニーもまた、アブラの良きメンターとして彼女を導いていくのである。 キングが込めたヒューマン・ドラマがしっかりと息づいていることを感じた。 (この人オビ=ワン・ケノービみたいなことやってるなと思ったら、たしかにオビ=ワン・ケノービでしたわ)
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2019-11-21 16:01:01)(笑:1票) (良:1票)
42.  ターミネーター:ニュー・フェイト 《ネタバレ》 
「ターミネーター」ほど歪な続編を持つシリーズもないだろう。 有無を言わさぬ完成度を誇った2の呪縛。以降、毎回続編は「なかったこと」にして新たな3を作り続けている。  正統派の「3」、未来の戦争の「サルベーション(4)」、新たな三部作を目指した「ジェニシス」と、個性的な続編が続いたが、今回はシュワちゃんのみならず、リンダ・ハミルトンまで引っ張り出した「正統な続編」とのこと。  特徴は役者の年齢を加味して、作品内でも時間が流れていることである。 別のターミネーターにジョンが殺害され、どんな変化が起きたのか。  しかしながらプロットとしては、未来の要人を敵から保護するといういつものやつである。ジョンの死や強化兵士の投入など工夫がみられたが、冒頭~中盤はマンネリ気味に思えた。 またカーチェイスも迫力は満点だが、凡庸なものになっており少し残念である。音楽の変調などは「2」のチェイスを彷彿とさせるが、物量に任せた大味なシーンに感じた。  「2」では、不気味な敵、ハーレー FLSTF ファットボーイの存在感、そして片手装填のレミントンなど、プラスアルファとなる熱い驚きに満ちていた。 「3」でもクレーン車を利用した度肝を抜くチェイスが用意されていたので、ここでもっと頑張ってほしかったなと思った。  しかしながら中盤以降、シュワちゃんが登場してからは凄まじい盛り返しだ。 (監督のT・ストーリーが適切に演出できているかは、いささか疑問ではあるが)中盤以降に明かされるJ・キャメロンがに作り出した「設定」の上手さには舌を巻く。  協力者はなんとジョンを殺害したターミネーター。 しかも人間性が芽生え、カールおじさん史上最強のカールおじさんとして生活しているのである。 しかしこれは「2」の「理想の父親像」の発展として捉えられることができ、正当な続編という実感が沸く。 人が涙を流す理由を学ぶように、この個体も人の愛を数年かけて学んでいったのだ。 ちなみに犬が懐いている点からもカールおじさんの人間性が伺える。(REV-9は犬に吠えられている)  またシリーズのテーマである「運命」への言及も巧い。 「サラ、お前は運命を信じるか?」 任務を完遂したターミネーターは、贖罪の念とともに生き続け、結果としてジョンを失ったサラに生きる理由を与えた。 心の奥にジョンという傷を抱えた二人が邂逅し、今、目の前には新たなジョン、ダニーがいる。 これを運命といわずなんというか。  「サルベーション(4)」では蘇ったマーカスが「セカンドチャンス」という言葉を使ったが、彼らにとってのそれはまさに運命が与えた救済なのだ。 ターミネーターをも運命に抵抗する戦士として登場させたアイデアには感服である。  シュワちゃんの猛ブーストはアクション面でも活きており、空から水中へのダイナミックな構成がキマる。(ちなみに劇中で活躍するハンヴィーだけど、シュワちゃんの要望で民生化してハマーH1が生まれたんだよ) 今回、人間として暮らす元殺人ロボットを演じたシュワちゃんだが、その演技は円熟味を見せており、本当にいい役者だなぁという面白みもあった。 欲を言えばグレースのドラマもしっかり時間をかけて欲しかったが、それでも「ニュー・フェイト」は感情面ににも訴えかけてくる良作に仕上がっている。  あえて「2」をなぞる構成も、このドラマを見れば納得できる仕掛けだ。 戦いを終え、ダニーは今度こそグレースを救うのだと異なる未来への思いを語る。今までシリーズを観てきた僕が一つだけ言えることは、「恐れるな、未来は変えられる」ということだ。
[映画館(字幕)] 8点(2019-11-09 21:05:44)
43.  IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 《ネタバレ》 
ホラー映画としては異例のメガヒットを飛ばしたITの続編。 90年に制作されたテレビシリーズも前後編に分かれており、初の劇場版シリーズの本作も、90年版と同様のプロットを辿るが、その構成は大きく異なっている。  90年版は子ども編と大人編が交互に挿入される。どの少年/少女にどのような特徴があり、その結果どんな大人になったかが分かりやすく説明されるため、早くからキャラクタに感情移入しやすい。 前後2作の長丁場もダレずに演出できる工夫が凝らしてあると言える。 実際、日本では前後編をまとめ3時間の映画として扱っているので、偶然ではあるが効果的な手法に思える。  対して劇場版シリーズでは、独立した映画2本という体制を活かし、子ども編と大人編をきっちりと分けた真っ向勝負で挑んでくる。 とは言っても、本作だけでも90年版の2作を足した上映時間に匹敵する長尺を誇っており、ホラー映画としては異質の存在である。  前作から(観客にとっての)時間が経過したことが懸念されるが、適宜、子供時代の描写を挿入することで、観客が記憶をサルベージ出来るようになっているので安心だ。 本作では、失った記憶が徐々に戻ってくるという設定があるので、劇中人物と観客との記憶の再構築がリンクするという面白さもある。  前作での人間関係も大体は盛り込まれているので、ぶっちゃけたところ、これ一作でもITの大部分を補完できてしまうほどのボリューム感がある。前作未見の人にも易しい作りだ。(本作の存在意義が薄れる本末転倒な部分でもあるが)  スティーブン・キングのITとは、ホラーと人間ドラマの2つの柱を持つ物語であるが、惜しむらくはホラー部分がビックリ箱的な見せ方になってしまった点か。 3時間に届こうかという長尺ゆえ、視覚効果を効かせたハイテンションなホラー描写が散見される。 多くの年齢層が楽しめるように考えられた妙案ではあるが、大人の観客にとっては「ビックリするけど怖くはない」という感想になってしまうかもしれない。 この辺りは見る世代によって満足度も変わり、調整が難しい部分である。賛否あるだろうが丁寧に健闘している点は評価したい。  面白いなと思ったのは視覚効果の使い方である。 異なる方向に目玉を向けるペニー・ワイズが印象に残ったが、何とこれは演じるビルくんがCGナシで実際にやっているという。さすが超人だらけのスカルスガルド一家の末弟、妙な特技を持っている。 逆に、子供たちをCGで若く見せているという点もまた面白い。 長期撮影期間に、子役たちがグッと成長してしまったことをカバーするための施策だが、言われてみるまで全く分からなかった。 単にクリーチャーを創り出すだけがCGの仕事ではないようだ。  また「シャイニング」の名せりふを言わせたり、「クリスティーン」のプリマスのナンバープレートが登場したりとフフっとなる小ネタも楽しい。  話がそれたが、、、 最も素晴らしい点は、「スタンド・バイ・ミー」もホラー版とも言われるITにおいて、ノスタルジックな人間ドラマをしっかり描けている点だ。 マカヴォイとチャスティンという、数か月前まで超能力で殺し合っていた二人の再共演だが、チームの中心的な役割を担っており、安定感がある。 ITを倒した後にもしっかりと人間描写が描き込まれるのもいい。 この優雅なフォロースルーでは、長い冒険が終わるという充足感、そして大作映画を観たという満足感が確かにある。  27年後にデリーの街に集ったルーザーズの面々は確かに変わってしまった。もう一緒にいられなくなった仲間もいた。変わらないものなどないのだ。 出来事は全て記憶になっていき、それを思い出すことしかできない。  この映画を観た少し前、僕はちょうど友人の結婚式で旧友達と再会し、朝まで騒いだばかりだった。 大人になるにつれ、皆それぞれの人生を歩みだし、今はこういう席でしか集まることはないが、それでも一緒にいると楽しかった。  変わらないものはない。 でも、お店のガラスに映ったルーザーズは確かに昔と同じような記憶を共有していたのだと思う。  思い出の中にある悲しさや儚さ、青春時代のきらめき。色んなキラキラした思いが胸に込み上げ、なんだか切なくなっちゃう「IT」なのでした。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2019-10-09 18:24:25)
44.  ジョン・ウィック:パラベラム 《ネタバレ》 
キレッキレのキアヌが観れるシリーズ三作目。 「ジョン・ウィック」シリーズは2014の登場以来、5年で3作を展開させてきたが、軸をブレさせずにどんどん面白くなっている。  短いスパンで3作も作るとなると、マンネリ打破とか、新たな展開とかで、そもそものアイデンティティを失って自爆してしまう例は多い。近年で思い出されるのは、誘拐の解決が見せ場だったのに、ただの濡れ衣サスペンスになった「○○時間」、記憶が飛ぶほど飲んだ翌日のドタバタのない「●●●オーバー」などだろうか。  変わって本作は、右肩上がりに批評家・観客の評価を得続けているのが凄いところ。 少なめだった予算も、作品の成功と共に少しずつ拡大されている。つまり、初期コンセプトの範囲内で、「出来ること」が単純に増えていき、面白いアクションシーンをどんどん実現できているのではないか。  もちろん派手になったからと言って、大味な部分はない。個々のアクションシーンのアイデアや徒手格闘の練度には驚嘆すべきモノがある。  もうね、笑っちゃうんですよ。 キアヌがめっちゃ頑張ってて、半笑いで応援するしかないんですよこれ。  キアヌがちょっと街を流しただけで、刺されるわ殴られるわ車に跳ねられるわと、序盤のテンションから既にぶっ飛びすぎだろうと。 ニューヨークの治安はどうなってんだと。 馬の蹴りとか、キアヌちょと気に入ってるし。  話も単純というか潔い作りで。行きたい場所に移動して、戦って、、、でもハル姐さんとワンちゃん部隊とか、要所で素晴らしいアイデアが炸裂してて面白い。これは良い。唐突なにんじゃりばんばんも良い。  終盤に至っては、ガチなシラット勢に囲まれボコられる我らがキアヌ。 これはヤバイ(笑) キアヌさんってこんなに雑に壁にぶつけても良いの?良いんです。   観た後は「え、キアヌ…死んでないよな」という心配がよぎるほど、体を張ったキアヌが観れる本作。 面白かった。  続編を匂わせる終わり方で、まだまだジョン・ウィックの受難は続きそうだけど、 頑張れキアヌ、おまえがナンバーワンだ。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2019-08-26 18:09:58)
45.  ブラックパンサー 《ネタバレ》 
今春に「インフィニティ・ウォー」を控え、通算でいうと20作品に届こうかというMCU。  ファンタスティック・フォーのコミックのゲストキャラに端を発し、90年代にはW・スナイプスで映画化する企画もあったブラックパンサーはシビル・ウォーでの活躍を経て、今回満を持しての単独映画化である。 特に本国での存在感は圧倒的で、メガヒットを飛ばし社会現象になっている。  やはりアフリカン・カルチャーを押し出したヴィジュアルや音楽のインパクトがすごい。 砂風呂でラリッて三途のサバンナに直行するなど、架空の国ながらもそれっぽい感じがよく出ている。そこにプラスされるワカンダのSFチックな映像も本作を独特なものにしている。ストーリーはいい意味で定石から外れず、こういう新鮮さをスポイルしない。  アクション面においては、シビル・ウォーでは渋い近接戦闘が目立ったが、今作ではド派手なアクションに切り替えており、特に中盤の釜山のシーンは盛り上がる。 チャガルチ市場にある(という設定の)闇カジノから、クァンアン大橋で繰り広げられるカーチェイスは、海外ロケとしては出色の出来だ。アフリカの風景とはっきりした対比ができているし、衝撃を蓄えたスーツのエフェクトが夜のネオンに負けじと映えてカッコいい。  また重いテーマを扱いながらも、大人向けヒーロー映画に寄りすぎず、万人に向けたヒーロー映画にあつらえた点も評価したい。  こと発端となるヴィブラニウム採掘についても、作品内では武器転用への懸念程度に収められている。 しかし大人の観客ならこれには思うところがあるだろう。 ワカンダのような超絶文明もない現実のアフリカの国々では何が起きている? 現実世界では、これは搾取という形で顕在化している。僕たちが使っているハイテク機器など、まさに第三世界の大人子供が命を懸けて採掘した魔法の鉱石の結晶そのものではないか。その富がどこに向かうのかなどもはや言うまでもあるまい。  アフリカをテーマに据えるといくらでも複雑な社会派寄りに出来そうだが、しかしながら本作はあえてその線を外し、シンプルに心を揺さぶるメッセージに転嫁している。  安全を守るために陥る対立。救える力を持ちながら傍観者に徹することが果たして正義か。シンプルである。 だが難しく救いのない映画にする必要はない。そこはキャプテン・アメリカの仕事でいい。 多様性の時代に、多くの子供たちに新時代のヒーローを提示することが本作の使命なのだ。  そんなヒーローが対峙することになるヴィランの処理もうまい。 エイジ・オブ・ウルトロンに登場したクロウの退場後、存在感を増すキルモンガーが背負うドラマこそ本作の肝。どこのベジータなんだよという恰好ながら、これがなかなか魅力的な敵だ。  抑圧された同胞のために闘う決意と、目の前で傷ついたアメリカ人を助けようと即断した行動にどのような違いがあり、どのように共通しているのだろうか。 キルモンガーとはティ・チャラが成りえたもう一つのブラックパンサーであり、嘘に守られたティ・チャラが受け入れ、そして超えていかねばならない試練である。 真実を世界に明かし、人々を助ける道を選んだティ・チャラ国王の決断も尊いが、キルモンガーが流した涙、祖国の夕日に漏らした言葉もまた偽りのない真実だった。 演じるマイケル・B・ジョーダンはクーグラー監督と今作で3回目のコラボだが、体作りも含め素晴らしいパフォーマンスだ。(クソ映画として爆死した新F4で実はヒューマン・トーチを演じていた彼だが、今回はいい役をもらえたようで良かった) 他の黒人女優のキレイどころも、「ゲット・アウト」では酷い目にあった彼も、キャストが総じて素晴らしい。(アメリカ英語のマーチン・フリーマンも味があるのかな)  マイノリティの秘めるとんでもないパワーに注がれる世界の眼差し。ホワイト・ウォッシングなどという言葉が頻出していたハリウッドで、黒人キャスト・制作陣が中心となるメインストリームのヒーロー映画の意義。正に偉業であり、ハリウッド史に残る事件だろうが、まぁそこらへんは他の方に任せておいて…。  「ブラックパンサー」は映画としてとても面白く、そしてヒーローとしてメチャクチャカッコいい。 MCU史上1・2を争うほどの出来だと言える。  最後に、本作はワカンダの政権転覆と内戦の話であるが、ポストクレジットの演説シーンも見逃せない。国王はあたかも地球が同じ人間同士の内戦状態に陥っていると捉えているのである。人類規模で話しているのである。デカい、とてつもなくデカい。アフリカの大地の如く器のデカい国王である。腕をクロスさせてブラックパンサーの誕生を讃えるしかない。
[映画館(字幕)] 8点(2018-03-02 01:54:15)(良:1票)
46.  X-MEN:アポカリプス 《ネタバレ》 
今年だけでもすでに多くのアメコミヒーローがスクリーンに登場したが、この老舗シリーズの存在感と面白さこそ真打ちと呼ぶに相応しい。 本作は「ファースト・ジェネレーション」から始まった新三部作に一応の決着を着ける体で制作されており、ドラマとバトルが渾然一体となった熱いアクション映画に仕上がっている。新三部作を予習していれば、より感慨深く楽しめるだろう。  前作DOFPで新たなタイムラインが発生し、映画シリーズも原作の平行世界の概念を持ち込んだような形になった。もしかすると日本では馴染みのないスタイルかもしれないが、「これはこういうモン」として、あまり気にせずに鑑賞する方が良い。  特徴としては、前作が時間移動を取り入れた怒涛の展開を見せたのに対し、アポカリプスは極めてX-MENらしい構成で語られることだろうか。  前半はアポカリプスの再誕を核に、様々なキャラクターのドラマが描写される。その感触はもはや群像ドラマのそれであり、DOFPのような勢いは無いものの、しっかりとクライマックスに繋がっていく。 このドラマの多彩さこそX-MENの核、そしてアイデンティティと言える部分だ。間違いない演出だと言える。  しかしながら中盤に大きな山場が挿入されなかったのは少々食い足りないか。 アポカリプスを際立たせる描写が不足していることから、具体的な強さがぼやけてしまった。もちろんアポカリプスは分子構造を操り、大陸間を瞬間移動すれば、驚異的な速さで移動することもできる。明らかに最強クラスのミュータントだ。しかし単に力の大きさを見せているだけで、敵に回すことの怖さに直結していないのが惜しい。  実際、中盤には先走ったハボックが大爆発を誘発し、それを通りかかったクイックシルバーが助けるという見せ場が用意されているが、これは少し雑な印象を受ける。例えばここを「成長して超強力になったハボックがアポカリプスの圧倒的な力の前に完敗し、学校を破壊される」という展開にしても良かったのではとも思う。これならアポカリプスの怖さを印象付けられるし、クイックシルバーも活躍できる。  過去作品と比べると、評価の高いファースト・ジェネレーションでは、ショウの恐ろしさを描くシーンがしっかりある。進化論を掲げたミュータントをより強い進化で圧倒する。皮肉の効いた象徴的な一幕がショウの悪役としての魅力を底上げしたのだ。こういう描写が本作にも欲しかった。  しかし不満点はあるものの、終盤はそれらを吹き飛ばすほどの勢いと熱量になっており興奮必至。特にチャールズを救出してからのクライマックスの盛り上がりは特筆に値する。  刀折れ矢尽きたかという場面での味方の助太刀は、まさに王道。 「お前は一人、だが私たちはちがう」「俺が裏切ってしまったのはお前(アポカリプス)じゃない」 丁寧にドラマを描いたからこそ熱い台詞がバシバシきまるというものだ。  それだけではない。様々な葛藤が入り乱れた最終戦で浮かび上がるメッセージとは、このシリーズが訴えて続けてきた「希望」そのものである。 差別や恐怖に支配された60年代に世相を反映して登場したXmenというコミックは、映画になってもより良き世界への希望を模索してきた。激しい戦闘描写の中で、この戦いの勝敗を分けうる鍵として希望に言及した点が見事である。  回想シーンにもあるが、過去作でチャールズがエリックやレイブンに送った言葉が、本作で大きな希望として集約されていることに気付く。 アポカリプスという絶望が迫る中、そこに敢然と立ちはだかったのは「X」という希望のシンボルなのだ。その熱さ、カッコよさといったらこのシリーズ屈指の名シーンになるに違いない。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2016-06-30 14:13:08)
47.  白鯨との闘い 《ネタバレ》 
「白鯨との闘い」とはなかなか吹っ掛けた邦題である。モビー・ディックとの死闘を描くアクションかと思いきや、この映画で語られるのは「白鯨」のモデルとなった凄惨な海難事件を描いたドラマである。白鯨の課した過酷なサバイバルとの闘いを指しての邦題だろう。アサイラムあたりが「白鯨VSメカシャーク」とかを作ってしまいそうなところ、ロン・ハワードはこれを奥深いドラマに仕上げている。  石油という燃料にあやかる私たちにとって、産業革命を支えた一昔前の燃料のストーリーは充分に通じるテーマといえる。ましてや米国の技術革新によりシェールオイルが増産され、OPECはじめ世界にきな臭い影響を与えている昨今である。この映画においてオイルが示すもの、それと人類との関係性が胸に突き刺さるはずだ。  そもそも本来の捕鯨とは食用に行う狩猟であったはずである。しかし鯨油がもたらす恩恵に気づくと、捕鯨は生活を豊かにするための行為へと変貌した。いかに立派な帆船と言えど鯨油以外を置く場所は無いので残りは海に捨ててしまうのだ。  街の灯を絶やさぬために海洋の心臓部で鯨油を追う。人間の英知を象徴する物が火なら、それを動かす燃料の一つは人間の傲慢である。これを悪とは思わないが、しかし同時にこのような行為に伴う業の深さを忘れてはいないか。知っていても、普段意識したりすることもないのではないか。  そこで白鯨は、鯨油を求める船乗り達に試練を与えた。油はもちろん食べるものもない。ただ一つの渇望は飢えを満たすことである。 生きるために食べる。至極単純ながら苦渋の決断を下さなければ乗り越えられない試練だ。だからこそ再び白鯨と対峙したときにオーウェンは武器を置き、ジョージは自らの行為の業の深さを話したのだろう。  クジラの数も減り、海の果ての宝を求める捕鯨も衰退期に入った。しかし映画のラストには新たな燃料の存在を匂わせる。今度は地の果てまでオイルを求める時代が来るのだ。知っての通り、これは豊かさと同時に人類に混乱や破壊をもたらすことになる代物でもある。つまり現代人も、豊かさに伴うエゴや、それが引き起こす悲劇を、意識せずとも実は知っているということだ。
[映画館(字幕)] 8点(2016-01-25 13:26:41)(良:1票)
48.  ターミネーター:新起動/ジェニシス 《ネタバレ》 
「1」の前日譚となる未来の戦争から、舞台は見覚えのあるロスへ。 そこから始まる超展開の中、おなじみのセリフが響き渡る。  "Come with me if you want to live!!(生き残りたいなら来い!)"  本来なら、サラを守るために派遣されたカイルがクラブで言うはずの言葉。だが今はこの言葉に従ってついていくしかない。スカイネットとの戦いは、「Genisys」で新たな局面へと突入していく。今までのタイムラインをぶち壊し、より強力なターミネーターを出現させ、もはや何でもありの世界観で重量級のアクションを展開させながら。  思えば、「3」は基本的には「2」のプロットを流用し、「4」は現代をすっとばしてひたすら未来の戦争を描いていた。それに比べて本作は、まるでファンボーイが自分の夢を好き放題詰め込んだようなサービス精神あふれる作風だ。 しかしシリーズのエッセンスはいい意味で十分すぎるほどに踏襲され、なおかつ新起動ともいえる斬新な脚本も内包している。J・キャメロンが太鼓判を押す本作だが、もしかしたら作り手としてこうした挑戦をしたかったから本作を評価したのかもしれない。  また、過去作品では「運命を受け入れる」「運命を変える」といった具合に、運命をテーマにした戦いを描いていた。今回も例に漏れず「運命を突き進む」というテーマに基づいて作られているのも小さな感動ポイントだ。今作では、トリッキーで予測のつかない運命を描くからこそ、このテーマも活きてくる。「ターミネーター」である必然性を、ファンサービスや主演俳優の復帰以外でもアプローチできているのが素晴らしい。  もちろんシュワちゃんの存在感も忘れてはならない。 複数の時間軸を移動する設定も、これは同時にありのままのシュワちゃんを無理なく活躍させられる妙案である。そこを監督がしっかり理解しているから演出にもブレがない。鈍い音が響くガチンコの殴り合い、ことあるごとに挿入されるあのテーマ曲。老いても彼のスター性に陰りナシだ、いつだって僕のヒーローである。  総じて満足度の高い娯楽作品だった。ジェニシスはシリーズの正当な続編であると同時に、熱いシュワ映画に仕上がっているといえる。
[映画館(字幕)] 8点(2015-07-31 14:03:02)(良:2票)
49.  フォックスキャッチャー 《ネタバレ》 
コメディ俳優のスティーブ・カレルがアカデミー賞にノミネートされたことが話題となっている本作。実在の事件を描いた陰鬱な雰囲気と、ひりつくような演技合戦が不気味に調和した1本になっている。  監督のベネット・ミラーの過去作品をみてみると、今は亡きP・S・ホフマンにアカデミー賞をもたらした「カポーティ」、そしてブラピ主演の野球ドラマ「マネー・ボール」がある。どちらも実在の人物にフォーカスした作品であり、もちろん本作でもその手腕を発揮している。  なぜ大企業の御曹司が、五輪のチャンピオンを殺したのか。結局その謎は明確には明らかにならない。しかし凶行に至ったデュポンの心境を、観客も一緒に推測できるような作りになっている点が面白い。  ドラマチックな脚色を排し、役者の演技でストーリーを引っ張っているのが素晴らしいところだ。 その空気感たるや、まるでサイコな恐ろしさを感じさせる出来であり、終始緊張を強いられる。  デュポンという男は、普通の人には理解できないほどの闇を心に秘めていたのだろう。欲しいものは何でも手に入るが、実は真の友達すらいないという特異な状況。母を愛する思いと、また認められたい(認めさせたい)という葛藤。  しかしながら何一つうまくはいかなかった。愛国心を共有する友人と、レスリングで結果を残したにも関わらず、結局母には永遠に認められなかったこと。その友人さえも、金で繋ぎ留めなければ側にはいてくれないこと。頂点に立つ男が、底辺の人々が持つような家庭を持っていなかったこと。 直接的なエピソードこそないが、デュポンの心が擦り切れ、ついには一線を越えてしまうまでが丁寧に描写されている。  また、天と地ほどの差がある人間が愛国心というキーワードで繋がるのも興味深い。彼らにとっての愛国心とは何か。 その名の通り国を思う気持ちには思えない。もしかしたら社会に適合できなかった彼らが、現実から逃れるために見つけた逃げ道だったのかもしれない。 デュポンと決別したシュルツ弟は、彼らの聖域であったレスリングを離れ、それでもなおUSAの声援を背に浴びる。焦燥や自己弁護、(彼らにとって)の愛国心を感じさせるラストまでも恐ろしく、最後まで気を抜くことができない。
[映画館(字幕)] 8点(2015-02-25 13:47:26)(良:2票)
50.  イコライザー 《ネタバレ》 
「デンジャラス・ラン」「2ガンズ」に続き、今年も「秋のデンゼルアクション」の季節が来た。  イコライザーは、そもそも昔のTVシリーズの映画化であり、目新しさはないかもしれないが、フークア監督らしい無骨な演出がカッチリはまった作品に仕上がっている。  作風としてはかなりハードボイルドな印象を受けた。戦うきっかけとなったクロエは、一旦退場させ、ラストの再開までひたすらデンゼルとマートンの攻防が描かれていく。 正義の心と、悪人に対する非常さを併せ持つデンゼル、狂気と冷静さを感じさせるマートンの対比が、互いの人物像を行動によって掘り下げていく仕組みだ。捜索、接触、戦闘…その過程が人間描写として機能している点が秀逸である。  それに加えてフークアの演出もまたカッコいいのだ。今時爆発をバックに悠然と歩くシーンをカッコよくみせるとは中々である。  「目を見れば分かる」というド直球(なにしろセリフで言っているのだから)な誘導。その後には人物の表情のクローズアップが入り、いやがおうにも目に注意がいく。このデンゼルの目の演技、そして演出は要所要所でストーリーの鍵となっており、例えば、密室で相手を倒すための算段を立てる頭脳を、あるいは止めをさす際の沈着かつ冷徹な技術など強調する。 スプリンクラーの雨の中、ライバルの前に立ちはだかった時にも、スクリーンに映し出されるのは、やはりデンゼルの目なのである。もはや美しさをも感じてしまうこのシーンのカッコよさ。この手の映画の醍醐味ではないだろうか。   19秒で世の不正を完全に抹消する男。 このコピーを見る限り、斬新な設定もない本作のコピーは難航したことだろう。まだ「夜のホームセンターに現れるDIY妖怪」の方がしっくりくる、こないか。 しかし、それとは裏腹に、本作のデンゼル=ロバートはキャラが立ちまくっており、さらにはB級かと思わせておいて、意外にも味わいのある脚本や演出に唸らされる。  今秋のデンゼルアクションは演技力と渋さで魅せるノワールの良作である。
[映画館(字幕)] 8点(2014-10-29 01:17:30)
51.  フライト・ゲーム 《ネタバレ》 
最近、飛行機を利用する人が、自分は何処に行くと言った後に「落ちなかったらね」と冗談を付け加えるのをよく耳にする。統計学的にみると安全らしいが、こうも立て続けに墜落のニュースを聞いては、少しばかりは不安を抱いてしまうもの。心のどこかで、ほんの少しだけ、ナーバスな気持ちを感じてしまう。そんな不安にさらなる拍車をかけてしまいそうなのが本作「フライト・ゲーム」だ。  監督は「アンノウン」でもリーアムと組んだジャウマ・コレット=セラ。ホラーだったり、サッカー映画であったり、いろんな作品を撮っている彼だが、一貫して安定感のある演出を見せてくれるため、個人的には気になる監督だったりする。  そんな彼の新作は飛行機パニックもの。よくもまぁ定期的に作るもんだ。ネタは出尽くした感があるジャンルだが、本作はその原題どおり、ミステリとスリラーがまさにノン・ストップで展開する佳作に仕上がっている。  いや実に巧い。恥ずかしながら、まったく犯人の目星を掴むことなく映画が終わってしまった。いや正確に言えば、犯人を捜すための時間すら貰えなかったというのが正しいか。なにしろ、容疑者は紛れもない自分(リーアム)。ダイ・ハード並みに孤立無援、乗客VSリーアムのパワーゲーム。時間制限のある中、いかにスマートに嫌疑を払拭するかに、手に汗握り、引き込まれてしまう。  冷静に考えることが出来たなら、犯人が分かったかもしれないし、脚本の粗を探したり出来たかもしれない。しかしこうも矢継ぎ早に展開されては、考えることもままならない。そんな状態ではいられない。そんな心理的なパニックに自然に導く、「緻密」な力業が、本作の巧いところだろうか。まさにノン・ストップな構成に、完全にやられてしまった。  犯人が分かったときの「おまえかー!」って感覚、なんだか久しぶりって言うか新鮮で、素直に楽しかったなぁ。
[映画館(字幕)] 8点(2014-09-17 00:31:31)
52.  エクスペンダブルズ3 ワールドミッション 《ネタバレ》 
クライマックス、悪党を成敗し、崩壊するビルの屋上を駆け抜けるスタローンが、仲間の待機するヘリへ決死の大ジャンプを試みる。爆風と粉塵にかき消されたスタローンの行方を、固唾をのんで見守るエクスペンダブル達がスクリーンに映された瞬間、再度思い知らされる。  「すげぇなこの映画。」  ヘリの中には、ステイサム、バンデラス、ジェット、スナイプス、ラングレン、ハリソン、シュワだ。 ヘリを墜落させかねない程の質量、密度、空気、そして筋肉。  もちろんスタローンがタイトロープを握りしめていることなど予想はつく。 しかしながら、粉塵が晴れ、彼の無事を確認した瞬間、エクスペンダブルズと一緒にガッツポーズである。  大味な作りだが、集結したスーパースターにバランスよく見せ場を設けており、これだけの筋肉をよくまとめられたなと感心する。意外にもコメディリリーフとして登場するバンデラスをはじめ、新キャラには、ハッカーやバイク乗りなど、分かりやすい設定が与えられており、容易に受け入れられるのも好印象。  ストーリーが緻密とは絶対言えない。新兵のリクルートに時間をかけすぎるのもスマートではない。 しかし「エクスペンダブルズ」を観に来たお客さんに対しては、木曜洋画劇場テイストの感動を、おなかいっぱい味あわせてくれるであろう逸品だ。 とんでもない描写でも、荒唐無稽な展開でもいい。スターの魅力と筋肉で「すげぇな」と思わせてくれれば。   封切日のレイトショー終了後、映画の興奮も冷めやらぬ中、スタッフのおっさんが「どうだった?」声をかけてきた。 「クソすげぇ!」とだけ伝えると、おっさんはニヤニヤと嬉しそうな表情を見せて掃除をはじめた。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2014-09-07 18:57:41)(笑:1票) (良:2票)
53.  思い出のマーニー 《ネタバレ》 
ディズニーのWヒロインがレリゴーで世を席巻する中、ジブリもWヒロインを採用。ミステリー調のストーリーテリングと、スーパーネガティブな主人公が、異色さを醸し出す一方、「不思議な経験を通して、ちょっぴり成長する女の子」という、ジブリの鉄板プロットに沿った良作となっている。  仕上がりに関して率直に言えば、物足りないと感じた部分はある。  例えば、マーニーにまつわる真相については、最後は語りで大部分をまとめてしまい、拍子抜け感は否めない。 主軸となる安奈の成長についても、やや記号的な描かれ方なので、もしくは時間をかけた方がよかったのかもしれない。  それでも個人的には、不思議な味わい深さを感じる、とても満足できる一作だった。  面白いと感じたのは、杏奈の成長の着地点、「自分は外側の人間」と決め込んでいた彼女が、どのように成長したのかという点だ。 普通、映画で描かれるような成長をすれば、外側だった人間が、内側に入り、みんなと仲良くハッピーエンドという終点が用意されると思う。しかし本作では、正当な成長過程を描きながらも、異なった終点に辿り着くのが興味深い。   マーニーとは、杏奈の人形に自分の憧れを投影したような存在であるとともに、似ているようで違う、水辺に映りこんだ自分のような面もあった。 マーニーと杏奈の立場が入れ替わリ始めたのは、マーニーとの交流で杏奈の考えが変化し、自分が愛されていることを受け入れ始めたからだろう。それ故に、人を許すことのできなかった杏奈は、マーニーを許すことが出来たし、「外側の自分が嫌い」だったことについても、「外側でも大丈夫なの」と思えるようになった。  結局、ふとっちょぶた(本名忘れてスマン)と大親友になるとか、そんな大きな変化は起きていない。とりあえず仲直りが出来ただけ。でもそれぐらいのちょっぴりの変化でいい。杏奈の心は大きく成長したのだから。 杏奈は「外側」のまま。でもそんな私が嫌いとは、もう思っていまい。   「ありのーままのー」ではないが、自分を受け入れること、そんな気負うことのない優しいメッセージが、美しい風景や空気感とともに、すっと心に沁みこんでくる。この不思議で優しい感じ、そしてテーマ曲の心地よさ。 理由もなくプリシラ・アーンを起用したわけではない。映画が終わってもすぐには席を立たず、音楽に身を委ねて、爽やかな余韻を楽しみたい。 
[映画館(邦画)] 8点(2014-08-04 01:42:40)
54.  キャプテン・フィリップス 《ネタバレ》 
「極限」。魔の海で展開する生還へのエクストリーム・ウェイズ。極限と言う言葉がまさに相応しい、ポール・グリーングラスの新たな傑作である。  実話モノという触れ込みで鑑賞したが、今になって思えば、その緻密に計算された構成に唸らされる。 序盤のボートチェイス、海賊侵入後の船上の駆け引きから、救命艇での攻防までがノンストップで進んでいく。目まぐるしく変化するシチュエーションだが、その導入は全く無理がなく自然であり、数々の事象が整然と処理されていることに気づく。実際に起きたこの事件を、入念に分析しまとめ上げるその手腕は、ジャーナリスト出身のグリーングラスだからこその技だと言える。  また、監督は「ボーン」シリーズなどのエンターテイメント作品においても良作を作っており、「面白く見せる事」についても非常に長けている。キャラクタについては、必要最低限ながらインパクトのある描写でしっかりとキャラ付を行なっているので、娯楽性とテンポを損ねることはない。 例えば海賊達には、腕が伸びる奴も喋るトナカイもいないが、しっかりとキャラが立っている。悲劇の激痩せリーダー、ギョロ目の怒りんぼさん、心優しき裸足少年、運転担当の空気海賊など、ある意味分かりやすい人物象で描写されている。故に軍介入によるパワーバランスの崩壊で、何をしでかすか分からない不安定な状況がこの上なくスリリングに昇華できている。   狭い救命艇に海賊4人と一緒という、ジグソウでも仕掛けるのをためらいそうなソリッドシチュエーションだが、 「前はギリシアの船を襲い大金をせしめた。」 「ではなぜ今ここにいるんだ?」 という会話劇では、この事件の背後にあるグローバリズムの弊害がちらつく。その見せ方にも徹底したフェアネス精神が貫かれており、やはりジャーナリストでもあるグリーングラスの性分を伺わせるファクターとなっている。  「ボーン」シリーズで、グリーングラスは自らのスタイルを極めたと勝手に思っていたが、この監督はまたも凄まじい程の極限をみせてくれた。改めて演技派を印象付けたトム・ハンクスの熱演も忘れ難い。
[映画館(字幕)] 8点(2013-12-18 00:22:38)
55.  キャリー(2013) 《ネタバレ》 
デ・パルマ版を知っている世代ではないんだけど、一応オリジナルは鑑賞済み。リメイクなので、オリジナルとの相違点を意識してしまうけど、本作も記憶に残る「キャリー」に仕上がっていたと思う。  まずキャリーがかわいい。最初からかわいいキャリーって映画的にどうなの?とも思うが、この点においては、クラスメート達に、っていうかホントに高校生?て感じの方たちを起用することで、相対的にみたバランスはギリギリ確保できている(のかな)。強烈な印象のキャリーママも健在で、亀裂から手を出して外に出ようとするシーンでは、女シャイニングになっちゃいそうでハラハラする。ジュリアン・ムーアの怪演もオリジナルには負けてはいない。  構成はオリジナルに忠実という印象だが、当然ながら数十年の時を経ているので、演出はより現代的に、キャリーはより強力に描かれている。その割に、映像の衝撃度や面白さでいえば、映像技術の面で不利なハズのオリジナル版の方がキレキレだった気がしないこともない。そこらへんは監督の毛色の違いなんかを感じられて興味深い。  ドラマ面に関しては、少しばかり本作の方がスムーズでわかりやすかったか。オリジナルではトミーの詩をキャリーが褒める描写があったと思うが、今回は好きな詩を披露して嘲笑されるキャリーをトミーがかばう。これによってトミーの立ち位置がより明確になったし、他にはプロムを諦めるスーの気持ちもしっかりと描くため、彼女の誠実な気持ちがより伝わってくる。またネットにアップした写真やつぶやきが大騒動に発展することも珍しくない昨今、スマホやSNSなどの現代的要素も、若い世代が物語をより身近に感じられる要因になっているといえる。  なにより評価したい点は、一般的にホラーに位置づけられる本作「キャリー」の青春ドラマとしての側面をしっかりと描き切っている点だ。青春ドラマというポイントは「キャリー」のアイデンティティーでもあり、個人的には一番好きな点だったりする。本作でも、プロムという一大イベントを舞台にしたシンデレラストーリーを軸に、嬉しさとか恥ずかしさとか、そういったキラキラした思春期の感情が瑞々しく伝わってくる。技術面の進化や、演出のトレンドを感じる一方で、オリジナルと同様に、普遍の青春像を映し出す本作は、きっと初めて「キャリー」を観る世代にも、キャリーという名を知らしめる良作になると思う。
[試写会(吹替)] 8点(2013-11-09 01:58:53)(良:2票)
56.  127時間 《ネタバレ》 
監督の技量や個性がよく出る映画、またはそういったモノを感じられる映画とはどういう映画だろうか。僕は「脚本が既に面白い映画」と「脚本がないような映画」かなぁと思う。誰が撮っても面白くなる映画なら、監督は自分の色を作品に入れたいだろうし、脚本が不利な映画なら監督は面白く演出しようと躍起になるハズ。いかにも素人発想だがこの場合、本作「127時間」は後者に当たるだろう。制約の多い実話物で、尚且つワンシチュエーションだから、監督にとっては技術とセンスを問われる難題に違いない。しかしダニー・ボイル監督はこの難題を巧くまとめ、力強いドラマを作り上げた。さすがアカデミー"個性派"監督。腕を切るという選択肢しかない中、それを実行に移す必然性の導き方は見事の一言だ。自分が窮地に立たされた経緯から、絶望の中で自分のこれまでの人生を静観し生への情熱を燃やし、生き残ったからこそ前へ!失ったからこそ得る!シンプルながら力強い、ポジティブな一作だ。また個人的には主人公に共感できたのも本作を楽しめた要因だろう。自分はよく一人で出掛ける方で、「単車にガソリン入れてくる。」と言い残してガソリン入れ、なんだか遠出したくなってそのまま装備無しで数日放浪することもある。映画ほど派手にやらかしはしないが、危険な目にも遭ったりするのでこの映画は僕(旅先で心細くなると確かに人生や家族や女のこと考えるんだよなぁ。)にとってはリアルで、気が気でない作品だった。以下余談ですが、僕は頭を怪我して赤黒い血がいっぱい出たのを見て以来、血が苦手で見ると気分が悪くなります。映画の流血とかは大丈夫なのですがリアル志向のヤツとかは苦手です。そういうシーンのときは、なるべく見ないように目をそらします。しかし今回は、行き先も言わずに一人旅をする僕なので「他人事じゃねぇぜ!しっかり見届けるんだ!」と腕切シーンを凝視。そして切断を見届けてホッとした瞬間、目の前が真っ暗になってそのまま数分気絶しました。ホントに。マジで。気づいたらアーロンがヘリで運ばれてたのでホントに数分と思いますが。結局は足元フラフラ、汗ダラダラながらも映画館から無事「生還」出来ました。失神モノの映画体験です。最近の3Dより刺激的でした。
[映画館(字幕)] 8点(2011-06-26 23:14:14)(良:3票)
57.  X-MEN:ファースト・ジェネレーション 《ネタバレ》 
ミュータントの起源や、プロフェッサーXとマグニートーの若き日を描いた「X-MEN」シリーズ5作目。過去の「X-MEN」シリーズでの人気キャラであるウルヴァリンやストームを登場させることが出来ない(出てたけど。)という制約を受けながらも、史実を絡めたストーリーと丁寧に描かれるドラマで見事な娯楽作品に仕上がっている。監督のマシュー・ボーンは「レイヤー・ケ-キ」「スターダスト」「キック・アス」に続き、また素晴らしい仕事をしている。3Dが主流になりつつある大作映画だが、本作の豊かなイマジネーションで描写される映像は3D以上の迫力を内包している。社会派な展開を匂わせつつ、多彩な能力を駆使した奇想天外な見せ場の連続。この映画はまさしく「X-MEN」映画であり、その代表作だ。ストーリーはチャールズとエリックの、出会いと決別を軸にしており、他のミュータント達のドラマも本筋と適度に絡ませているので、終盤でミュータントが二つの勢力に別れるという落としドコロが違和感無くまとめられている。また一般に「悪」と見られる集団、エリック側(ブラザーフッド)にも、多彩な団結の動機を描いた点を評価したい。自分が受けた仕打ちへの復讐のためや、能力を悪用するためという理由もあるかも知れないが、ある者にとっては自分が自分らしく生きる為の手段であり、またある者にとっては生きるための「平和」以外のオプションだったかのかもしれない。「自分を誇りに思いたい」という主張を「悪」と思えなかったから、チャールズは妹分でもあるレイブンを行かせたのではないだろうか。1~3作目のエリックとチャールズの敵同士ながら互いに尊敬している関係を考えると本作のドラマが魅力的にかつ、無理なく構築されていることに気づく。そんな細やかな演出に加え、セレブロ、ストライカー、ウルヴァリンなどのファンサービスをも忘れない。「ファースト・ジェネレーション」は大変満足度の高い一本となっている。
[映画館(字幕)] 8点(2011-06-12 05:52:45)(良:3票)
58.  アンストッパブル 《ネタバレ》 
メチャクチャおもしろい映画。「スピード」のスリルと「鉄道員(ぽっぽや)」(←無理矢理)のドラマ。内容は至ってシンプル、電車を止めるだけ。ただそれがおもしろい。尺も100分足らずとコンパクト、その割に熱い。男気に燃える。トニー×デンゼル映画は完成の域に達したと言っていい出来映えだ。冒頭で列車によってみたり、引いてみたり、ブレてみたりするカメラワークは100人が観たら100人が「こりゃトニーさんの映画やわ。」とわかる程の独特さ。全作の「サブウェイ123」では正直乗り切れなかったが、本作ではベストマッチ。素晴らしい臨場感を醸し出しており、不注意がめまぐるしく大惨事に発展していく様を活写している。クリスとデンゼルそのまんまの立ち位置の配役も良い。いがみ合う若手とベテラン(ただの若手・ベテランではなく、若手車掌のお陰で熟練作業員が解雇されていると言う付加設定が巧い。)が共に地獄をくぐって信頼を築く展開はアリガチだけど熱い。実は家族に問題を抱えているって事をサラっと紹介した後は、いかにもな馬鹿二人組の怠慢から生まれたあまりにも不注意な人為的ミスが事の発端となり、怒りは馬鹿二人組に集中。会社の上層部は社の利益ばかり考えて現場の事は全然だし、警察は役に立たないし(頑張りすぎてクラッシュ!)、ライアンはアッサリだし、頼みの綱は二人のぽっぽやだけ。罪のない天使のような子供達と善良なアメリカ市民が危ないとなればもう心の底から、時速100マイルのモンスターに立ち向かう男達を応援するしかない。圧倒的なスリルとスピード感に身を委ね、気づけばラストまで疾走し、痛快な大団円を迎える。事件が起きてそれを解決、誰しもが予想しうるエンディングだがこれでいいのだ。娯楽映画なんだから非日常に連れていってくれた後は、仕事も家族とも上手くいったデンゼルの満面の笑顔でいいのだ。ブサメン二人がやらかしたらイケメン二人が奇跡を起こしていいのだ。
[映画館(字幕)] 8点(2011-01-10 06:43:51)(良:2票)
59.  借りぐらしのアリエッティ 《ネタバレ》 
例えば、田舎から出てきた意地っ張りで、でも傷つきやすい魔女の少女が海のみえる街で出会った少年と二人で彼の作った自転車に乗って、ようやく心を開いて打ち解けることができたのに、彼の都会的でお洒落な女性の友達を見ると、それは当然のことだって分かってるのに、彼は絶対に悪くないって理解してるんだけど、悲しいような悔しいような言いようもない思いに気持ちはうつむいてしまう。そんな少女の繊細な心の機微をみずみずしく切り取った演出を観たとき、人間描写の細かさにただただ関心し、男ながらにその少女と気持ちを共有した思い出がある。今回「アリエッティ」を鑑賞してそんなことを思い出した。自分はもう一人前で父さんと一緒に借りだって出来るし、立派なマチ針の剣もあるから怖いものなのなんてない。そう思っていたのに借りの失敗はおろか、存在を気づかれ家族を危険にさらしてしまう。そんなときに角砂糖の下の「わすれもの」。これを見たときの翔の善意に対しての自分の無力さや小人の掟の間で揺れるアリエッティの心の機微を僕は共有していたと思う。監督は違うといえど、ジブリらしさを感じた瞬間。嬉しいものだ。ただ、尺の短さ故に薄味なのも事実。人間と小人の互いの長所と信頼で活路を見出せるし、ハルさんは「絶対捕まえてやるぅっ!」って言っている。危険な森という場も立っていることだし、もうひとつ物語にヤマを入れても良かったのではと感じる。しかし小人の生活のアイデアや、借りのユニークさに見られる美しい映像や抜かりないディテールはやっぱりジブリクオリティ。個人的には大満足。必死に生きる小人との交流で翔に芽生えた感情も良く描けている。物語に未消化の部分もあるが、ジブリらしい芯が強く美しい女性像の流れを汲むヒロインを僕は好きになった。
[映画館(邦画)] 8点(2010-07-21 13:03:27)(良:1票)
60.  バッド・ルーテナント 《ネタバレ》 
オリジナル未見で鑑賞。構成が独特で映像もアーティスティックな、かなりクセのある映画であり、客層が限られるかもしれないが、なかなかの出来映えだと感じた。話の本筋としては「殺人事件の解決」という目的が一応用意されているが、扱いは添え物程度で、悪徳警官のニューオーリンズでの日常を描くことに焦点をあてているようだ。警察ながら権力を振りかざして人を傷つけ、ドラッグに溺れ、賭博に興じ破産寸前。好き放題の末に問題を起こすも、悪銭で助かり事件も解決。恋人と一緒になり、昇進も果たしたが、心は決して安まらない。彼を見ていると、出来るだけ正しいことやりたいんだが、面倒ならば力を行使してしまう弱さ、権力によって他人にばれなかったり、許されるのならば悪いことでも平気で行動に移す弱さなど、色々な人としての弱さを感じ取れる。僕にも、人間的な弱さの部分で(ケイジほど激しくやってはいないが)非常に通ずる点があり、とても共感できたのが、本作を楽しめた要因だと思う。ニコラス・ケイジの名演と相まって、深い人間ドラマを堪能できた。また物事が良い方向に進むか、悪い方向に進むかは検討がつかず、脅した相手が大物だったり、八百長試合が失敗しても自然な結果で勝利したりと、人生は何が起きるか分からないモノだ。事件を解決し、ひと段落ついたこの男の顛末も非常に考えさせられるポイントだ。自分も、いやほとんどの人が思うように進まない、ままならない人生を送っているんだと思う。この映画を鑑賞したからといって、強くなれたり、答えが出るわけではないが、鑑賞する価値はあると思う。
[映画館(字幕)] 8点(2010-03-04 19:42:40)(良:1票)
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