1. 足摺り水族館
新世代のつげ義春、水木しげるという感じの背景の緻密な描き込みが凄い。でもその中で動き回るのは極めてシンプルに描かれた可愛らしい女の子。つげ義春のようなドロドロの人間描写は無い。その代り、この世代ならではの日常的なノスタルジックなもの、シュールなもの、夢再現性的なものをひたすら追求している感じ。 『完全商店街』という一篇では、お母さんにお使いを頼まれた女の子が、メモに書かれた意味不明の文字をロシア語と判断してロシアに向かう。でも海を渡るわけではなく、商店街をひたすら北上し「樺太」と書かれたビルを左に曲がり、歩き続けた挙句にロシア人だらけの商店街に行き着いてしまう。でも結局メモはロシア語でない事が判明して更に彷徨が続く・・というお話。全編こういった感じのシュールな博物図鑑的短編集。装丁も凝りまくっててとても良い。 残念なのは人間に対する関心がやや薄いのか、キャラのバリエーションが限られている事。(対極にあるのは『伝染るんです』辺りか。) でもそれを補って余りある溢れんばかりの夢的イメージの豊かさ、再現性の的確さや、その展開力が素晴らしい。これは思いがけない拾い物でした。 9点(2021-10-16 00:26:31) |
2. アストロ球団
リアルタイムでは知りませんが復興版の太田出版全5巻で読了。 下の方も仰るとおりロッテ戦まではいまひとつ。しかし次のビクトリー球団戦が凄すぎる。シュールで尚且つ熱い。野球という枠組を使い何か全然別な事をやっていて、試合中に選手が次々と死んでいく。特攻隊の生残り氏家、熱血漢大門、冷徹なバロン、それらを束ねる球四郎・・敵役のキャラ造型も素晴しい。創造力の限りを尽くした「マンガ」でしか成し得ない表現という感じで、良くも悪くもここまでパワーのある漫画は滅多に無いと思う。 9点(2008-12-27 23:43:53) |
3. あしたのジョー
子供の頃は華々しいカーロス・リベラとの連戦やハワイ遠征が好きだったけど、今改めて読むと、力石の死からジョーが立ち直るまでのエピソードが凄く読める。「ぼんやりつっ立っているだけでも、息をしているのさえ苦しくなってくる・・」「どういうことだい・・なぜおれはこれほどまでに苦しまなくちゃならないんだ・・」という状況は、おそらくほとんどの人が人生の何らかの局面で体験するのではではなかろうか。この状態からジョーが立ち直るまでを本作はじっくりと描く。力石の死が8巻の最後、リベラとのエキシビションマッチによって完全復帰するのが13巻の前半。立ち直るまでに、なんと4巻以上の分量を費やしている。この辺りは本作が名作として語り継がれる重要な要素の一つに思う。 個人的にジョーの性格や生きざまにはあんまり共感は覚えないけど、取り巻く人たち一人一人の人物像や当時の風俗がホントに良く描けてる。改めて読んで個人的に新鮮だったのは、マンモス西を社会人として立派に更生させた乾物屋の林屋親子。今風の人間関係ではちょっと想像できないザ・昭和戦後。 8点(2022-08-15 23:19:08) |
4. 愛星団徒
松田一輝の超絶野球漫画。その突き抜け具合から「アストロ球団」とよく比較されますが、あちらが「超人」と言っても生物学上は人間なのに対し、こちらは本物の超人です。 球速は時速500km/h~マッハの世界で、最終決戦は絶海の孤島に特設されたホーム~ピッチャーズマウンドが100m、ホーム~外野スタンドが600mという巨大球場で行われます。少年漫画の王道を行く迫力の絵柄で、他にちょっと無い奇天烈な展開は読み応えあります。 残念なのは、9人の超人が参集していく経移や、巨大球場での死闘がえらくあっさり描かれている事。9人中半分以上は「何ィ!?」くらいしかセリフ無かった気がするし、最後の死闘は1巻分の長さにも満たない。この辺をもっとじっくり丹念に描いてくれたら、マンガ史に名を残すような格段に面白いものになっていたでしょうに…。この辺りは掲載誌がマンガ誌でない事が関係してるのかも知れません。惜しい。 8点(2015-01-18 22:37:59) |
5. あぁ播磨灘
格闘技漫画でも美形が小技を競い合うようなものが主流になっていた中で、この超重量級のぶつかり合いはインパクトありました。決まり手も「櫓投げ」とか「二枚蹴り」とか派手で珍しいものが多くて良かったです。2順目以降は播磨の人格が変わってきて残念。宿敵を公衆の面前で土下座させて喜ぶなんて…孤高の怒りがフォースのカンコク面に逝っちゃった感じ。「伝統を闇雲に批判すればカッコイイ」という価値観が、いかにもあの頃のバブルだなぁ…と思います。太刀風を上手く描ききれなかったのも残念。あの手の力士の若い頃は播磨以上にやんちゃだったような気がする。 7点(2011-08-01 22:27:10) |