1. アオイホノオ
まだ一巻しか出ていないので感想を書くのは時期尚早という気もするけれど、好きなので。八十年代の、本気で漫画の世界に取り組もうという大学生の青春が相当リアルに、かつ笑いをまじえて展開される。『めぞん一刻』の連載開始に、「騙されんぞ高橋留美子……高橋留美子!!」と一人で意気込む場面には相当笑った(個人的にはこれがきっかけで『めぞん一刻』にも手を伸ばした)。若き日の庵野秀明のエピソードも強烈だが、たぶん誇張はないんだろうな。作品全体に流れる、ノスタルジックな空気がまた素晴らしい。 9点(2008-06-19 22:44:22) |
2. ルート225
《ネタバレ》 非日常を通して日常をより鮮明に表現する手際が巧みだと思う。スペースオペラのようなガチガチのSFは苦手なんだけど、こういったふうに日常生活に自然に題材を溶け込ませたものは好き。家族や友人といったあって当たり前の日常に真剣に向き合うことの大切さっていうのは、やっぱり失いかけてみなければわからないんだろうか。終始抑えた筆勢がいかにも芥川賞系作家という感じがする。 志村貴子ファンとしては、オリジナルでは絶対にありえないSFネタと台詞まわしが新鮮だった。 7点(2008-06-18 18:39:35) |
3. うさぎドロップ
ひとり暮らしの男が突然小さな女の子を引き取ることになる――って自分と置き換えて考えてみると滝のように汗が出てくる状況ではあるけれど、この作品では必要以上に深刻な雰囲気にはならない。育児というととにかく大変なイメージが強調されがちではある。覚悟すべき責任や労力に触れつつも、楽しいこと面白いこと、感動することもたくさんあるんだよ、とやんわり諭してくれるこうした作品は貴重だと思う。育児というのは特別なことではあるけれど、でもまぎれもなく日常の生活の一部であって、他のことと同じように楽しまなきゃもったいないのだと、教えてもらっているようだ。女の子も(最近の萌え系とはまったく別の意味で)とても可愛くて、読んでいて気持ちがなごむ。 8点(2008-05-31 20:31:06) |
4. 群青学舎
この素晴らしさを、どう言葉で表現すればいいのかわからない。懐かしいようで新しい、温もりのある画と、なんてことのない素直な物語を宝石にしてしまう、鮮やかな語り口。これで「新鋭」? だとしたら、入江亜季さんには語り部としての天性の才能があるのだろう。 国や時代を超えたさまざまな舞台で描かれるヴァリエーション豊かな短篇集で、一篇一篇が楽しい。まぶしいほどに青々とした青春もの、台詞のない秀逸な幻想譚、なぜか一巻に一話は入っている囚われのお姫様を題材としたファンタジー、どれも切り口は違えど、確かに群青色がかって見える。 自分も「薄明」がいちばん好きです。無理にベスト3を決めるとしたらこれと、「待宵姫は籠の中」「時鐘」、でしょうか。「ニノンの恋」や「赤い屋根の家」なども愛らしくて捨てがたい。(ていうかタイトルの付け方も絶妙だなあ。) 9点(2008-05-23 12:10:36) |
5. 鈴木先生
なんなんでしょう、これは。巻末の小難しい解説を読むと、読んだ人みんな戸惑ってるんだろうな~と思う。 どこまでがギャグなのか、マジなのか。つっこみの視点がないので、その線引きは読者任せ。すべてがギャグに思えるときもある一方で、日常生活の瑣末な問題に真剣に悩んでしまう気持ちもわからなくはなくて、妙に真剣に読めてしまうときもある。鈴木先生の細やかな視線、過剰なまでに深い思慮には大笑いできる部分もあり、なるほどとうなずく部分もあればそれはどうかと首をかしげる部分もあり。 エネルギーのこもった面白い作品であることは間違いないのだが、これまでにまったく読んだことのないマンガで、未だに正体がつかめない。どんなふうに楽しめばいいのか――真剣に読んでしまった時点で作者の思う壺というか、おちょくられてしまった気もする。なんとも不思議なマンガだ。 8点(2008-05-19 20:12:49) |
6. ブラッドハーレーの馬車
実力のある作家が深く考えずに手癖だけで描き上げてしまったという感じの、凡作。 無駄に残酷なだけで、それを通して何を伝えたいのかさっぱりわからない。凄惨な題材を選べばそれだけで深いドラマが描けるというわけではないだろう。自分は暗い系統の作品が好きなのでそれなりに知っている(マンガに限らず)方だと思うが、これはその中でもできの悪い部類に入る。 画は相変わらず上手い。しかし設定は強引でリアリティに欠け、何よりあざとい。ストーリー展開は予想通り、人物にも台詞にも血が通っていない。ほんとうに沙村広明がこれを描いたのかと疑うほど、薄い。 著者あとがきに自分でもなにがしたいのかわからなくなったとあるが、読んでいてそれがよくわかる。これならいっそ、サディスティックな成年漫画を真剣に描いた方がよかったと思う。 3点(2008-05-19 19:40:10) |
7. ヘウレーカ
《ネタバレ》 ありえねえと思うのだけど、意外と史実に基づいているそうなので驚き。“車輪”も実在したのだろうか?? 凄惨な戦場の画を見ると、『寄生獣』の頃と変わらず下手だ(笑)。 エウリュアロスの攻防がこの作品のハイライトだと思うが、そこで大喜びする男を登場させて主人公に「狂ってる」と腐させる辺りの冷静な客観性が、いかにも岩明均らしい。最後の「他にやることないのかい」という台詞もまた秀逸だ。戦いの高揚感とその後に訪れる空虚が、短いページ数の中に凝縮されている。 ただ、アルキメデスについての脚色やその死についての演出は面白かったが、最後の一ページなんかは微妙だった。やや尻切れトンボな感も否定できない。ダミッポスを中途半端な主役ではなく狂言回しに徹しさせ、アルキメデスを中心に置いた方が、話としては均衡が取れたんじゃないかと思う。 7点(2008-05-18 15:16:50) |
8. とめはねっ! 鈴里高校書道部
書道部ってこんなに面白いものなのか?! と思ってしまうけれどたぶんこれほどではないだろう。もしかしたらこれ以上かもしれないが。 合宿に大会、ライバル校の存在などなど、ジャンルは文科系ではあるが話を盛り上げる素材としては過去のスポーツものに準じていて、なんとも巧みな換骨奪胎だと思う。各人物のキャラの立ち具合も、地味すぎず過剰すぎず、順当過ぎて嫌味なくらいだ。 書道に馴染みのない者にとっては知識が得られるだけでも楽しい。こうした作品に触れてしみじみ感じるのは、自分の知らないちょっとマイナーな領域でも、蓋を開けてみれば無限といっていいほどに広く深い世界が広がっているのだなあということ。 正直いって自分が書道の世界に足を踏み入れることはないとも思う(少なくとも、本格的に筆を持つことは)。だからこの漫画でたとえ擬似的にでも書道を体験できるのは、とても幸せなことだ。 面白そうな分野に片っ端から首を突っ込んでいたら人生が何十年あっても足りないから、大概は横目で見ながら通り過ぎるだけにとどめて、自分の好奇心とは妥協する。しかしこれを読んだあとにたまたま書道の展示に出くわしたりしたなら、今までと同じように平然と通り過ぎることはできないだろう。ど素人であるのは変わりないにしても、そこに広がる世界の豊かさの一端を垣間見てしまったのだから。 7点(2008-05-18 14:48:52) |
9. 虹ヶ原ホログラフ
著者のファンではあるけれど、この人の場合は構成に凝った作品ほどつまらなくなるというのが正直な感想。あと、やたらと「世界の終わり」や「神様」といった言葉を散りばめると、中二病っぽくていやだ。書いている側は気持ちいいのだろうが。蝶の群れのシーンだけはいいと思った。 6点(2008-05-17 13:05:54) |
10. チェーザレ 破壊の創造者
《ネタバレ》 美しく完成された画と、膨大な資料に基づく重厚な世界観がほんとうに素晴らしい。天才性と残酷さを併せ持つチェーザレの人物像と、複雑に入り乱れる陰謀にはわくわくさせられる。唯一気になるのは台詞がときどき説明的に過ぎる点で、緻密な取材の効果が悪い意味で出ている。この生堅さがもう少し薄れてくれればと思う。もっともそれは瑣末な欠点で、充分に秀作といえるだけのクオリティが保たれている。ミゲルやルクレチア、ダ・ヴィンチといった脇役の面々も巧みに描かれていて、みんな魅力的だ。画も設定も、細部まで気が遣われているのがわかる。 幸か不幸か世界史には疎いので、史実を調べたくなる衝動をあえて我慢したまま新刊を楽しみにしている。 8点(2008-05-17 12:50:41) |
11. デビルエクスタシー
できごころで登録してしまったが、冷静に考えるとどうコメントしていいのかわからない。なんとも異様な味わいで、インパクトだけは強かった。 6点(2008-05-14 07:30:16) |
12. 新吼えろペン
破天荒さとリアルさがちょうどいいバランスになって、最高に面白い。それを言っちゃお終いだよ、ということを毎回のように言ってくれるのが気持ちいい。その点では前作を遥かに凌駕していると思う。 9点(2008-05-05 03:04:48) |
13. 吼えろペン
マンガ家そのものを題材にした異常に濃いいギャグマンガ。吼えまくるマンガ家といい、熱さといい、身も蓋もない発言といい、なんだか『ゴーマニズム宣言』を思い出させる。リアルなエピソードも興味深いが、なんといっても素晴らしいのはギャグが普通に面白いことだ。十巻以降ややトーンダウンしたように感じられるが、新シリーズはさらに面白くなっている。古谷実やあずまきよひこのような冷静なタッチの日常系ギャグが人気の今、こうした迸るような熱さに満ちたギャグは、貴重だ。 8点(2008-05-05 02:46:29) |
14. 謎の彼女X
今のところ女の子が何者でなにが起きているのかさっぱりわからない。でも面白いし、きっちり説明されてしまったらかえって興醒めしてしまうんだろう。よだれのネタは冷静に考えると気持ち悪いような気もするが、絵柄のおかげで毒気が抜かれている。日常を舞台にしていても、この人の作風だとなんとなく異世界の空気が漂っているのが面白い。妖気というほど怖くはないが、この世にはありえないおもちゃ箱をひっくり返したような変てこな雰囲気。著者の以前の作品はいたずらに題材や世界観に意匠を凝らして人物がはりぼてのように感じられることもあったけれど、これに関しては安心して読める。 7点(2008-04-29 19:18:04) |
15. 3月のライオン
登場人物たちの仲良しこよしぶりは前作と同じだけど、今回はより悲惨で過酷な要素が前面に出てる感じ。棋士や数学者という仕事は論理的思考を極めようとする孤独な戦いでもあるから、ある意味アーティストに似たところがある。はぐちゃんの背負っていた苦痛をより鮮明な形で体現しているのが本作の零だと思う。一人で歩くことをどうしようもなくさだめられてしまった人間、というか。 まだまだ序盤の序盤、これからの展開を楽しみにしています。 8点(2008-04-24 21:20:27) |
16. 僕の小規模な生活
《ネタバレ》 なぜ語彙の少ない妻から出てくる罵倒が「バカ」でも「アホ」でもなく「クソブタ」なのかが非常に気になるところ。これを読んで以来、気に入らないやつがいると「あのクソブタが」と影で毒づく癖がついた。 しかしキャラクター的には、妻も面白いけど作者もかなりのつわものだと思われる。バイトが長続きせず普通にばっくれるわ、意味もなくバンド活動を始めるわ、人としてやばい雰囲気がぷんぷん匂う。たぶん作者にほとんどの責任があるのであろう、編集部との生々しい軋轢の記録は相当面白い。土壇場で責任放棄しようとするところとか、ひどすぎる。半分フィクションであってほしいと願うぐらい、ひどい。 作者の鬱陶しさが、妻の可愛さと怖さと足の太さによって、ちょうどいい具合に中和されている。個人的には吾妻ひでおのアル中ノンフィクションよりもこっちのだめノンフィクションの方が好きだ。 8点(2008-04-23 01:38:54) |
17. ハチワンダイバー
エキセントリックなキャラクター、異常に字の大きい台詞や線の太い独特の絵柄に、暴力的なまでのエネルギーが漲っていて、圧倒させられる。 将棋を題材にしたものは他にもあるけれど、普通の棋界とは別物のアンダーグラウンドを舞台に選んだのが大正解。ギャンブルの要素を含むのもあってか非常にあくが強く、純粋に頭脳戦のはずなのに超異色の格闘マンガといった趣きがある。ホームレスのところで勉強する下りなんか、昔ながらのマンガにある修行シーンの頭脳バージョンともいえる。 某ランキングで1位を獲得していたのをきっかけに読んでみた……が。面白いけど、ダントツ1位というのはよくわからない、かも。 7点(2008-04-23 01:32:31) |
18. To LOVEる -とらぶる-
まあ、こういうマンガは男子小学生のリビドーに火を点けることができた時点である意味満点なんじゃないかと思う。ジャンプをめくってここを開き、(うわー……)と引いてしまうぐらいえげつないこともしばしば。本誌ではぼかしてコミックでは描き込むって……それ別に自主規制になってないんじゃ……?? 少年ジャンプにおける別に広げなくてもいい裾野を広げている、ある意味開拓者的存在です。ある意味。 3点(2008-04-23 01:23:53) |
19. おやすみプンプン
今さらながら漫画という表現の奥深さを思い知らされた。一見して超シュールな世界観でありながら、突き刺さるようなリアリティがある。とくに2巻、もはや切ないという言葉で語り尽くせる次元じゃない……。 まだまだ序盤のようですが、完全にノックアウトされました。 10点(2008-04-20 13:08:46) |
20. ソラニン
しっかりした絵と圧倒的な表現力が鮮烈だった。二人の主人公が共感できそうでできなくてイライラしたけれど、このリアリティと胸が苦しいほどの切迫感は青春ものとして稀に見る出来だと思う。 8点(2008-04-20 13:00:09) |