1. ドリームプラン
《ネタバレ》 2年前に作品情報を新規登録しておきながら、ようやく重い腰を上げてレビューすることになった。 邦題を見れば白人のスポーツだったテニスの歴史に風穴を開け、 アメリカンドリームを掴んだウィリアムズ姉妹のドラマとして見ると淡々としすぎて物足りなさを感じる。 ただ、原題の"KING RICHARD"、つまり姉妹を育てた"暴君リチャード"の物語として 成功に至るまでのある種の歪みが本作の主題だろう。 姉妹が成功するのは既に分かっている。 それまでは彼の独り善がりで妄執に近い態度に誰もが関わりたくないと思ったはずだ。 常に綱渡りで彼のようなプランを作っても99%は成功しないだろう。 ただ、娘たちが貧困とドラッグに墜ちていく負の連鎖を断ち切るためであり、 日本以上に格差も差別も大きいアメリカの病みがある。 格差是正を訴えるより、自己責任で力づくで這い上がるしかなかった時代。 オファーを持ちかけられても安易に契約しない、性悪説で誰も信用できないのは弱肉強食のアメリカならでは。 時代を、人生を変えるには常に"正しい狂気"が必要だった。 その"正しい狂気"と言っても、最後は謙虚さが、聞く力が必要だ。 「試合に出たい」と練習し続けていたビーナスの声をついにリチャードは受け入れ、 どんな結末だろうとビーナスは試合に負けても勝負に勝った。 目論見通りなら、今までゲットーに生きていた黒人たちに光を与えたという意味で大きな一歩とも言える。 家父長制等、今でなら問題だらけの価値観に文句はあるかもしれないが、結果的に歴史を変えたのは事実だ。 ウィル・スミスはアカデミー賞授賞式でのひと悶着はあれど彼以外に考えられなかった。 ただ、彼のキャリアでのベストではなく、将来、より相応しい映画、役柄はあったと思う。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-06-01 00:36:28) |
2. 関心領域
《ネタバレ》 「私たちはシステムに組み込まれている」。 その枠組みの中で劇的な展開が起こることのないホームドラマ。 主要人物がアウシュヴィッツ強制収容所の所長の家族であることを除けば。 『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせるBGMのみのオープニングで"音を観る映画"だと認識させる。 一枚一枚完成度の高い、硬質でスタイリッシュなショットの数々は不純物を取り除いた無機質さであふれ、 今まで排除されてきた不純物が遠くから見え隠れする。 それが壁一枚隔てた収容所の黒い煙であり、悲鳴であり、銃声であり、 川に流れ込んだ遺灰であり、日常に溶け込んでいる。 そんな生活を送っている家族は何を思って日々を過ごしていたのか。 現在そのレビューを書いている自分にも同じことが言える。 ウクライナとガザ侵攻のニュースが対岸の火事として日々流されている裏で、 日常化したアジアや中東やアフリカや中南米の紛争・内乱について現在ほとんど触れることはない。 それだけでなく、日本でも見て見ぬふりしている問題が点在している。 100円台で提供される菓子パンの裏で、 激務の果てにベルトコンベアに巻き込まれて従業員が死亡したパン工場での事故。 ペットブームの裏で人間の身勝手で捨てられ、殺処分される愛玩動物。 セーフティーネットから取りこぼされ、命を落としていく社会的弱者。 私たちはその問題を知っている。 だが、「何もしてあげられない」。 こちらにだって社会的立場があり、生活がかかっている。 きっと80年前の所長の家族も同じだろう。 オスカー・シンドラーのように人道のために踏み出せる人などたかが知れている。 かつてジャミロクワイのPVを手掛け一躍その名を知られたジョナサン・グレイザー監督はユダヤ人の血を引く。 アカデミー賞受賞時にイスラエルのガザ侵攻を非難したが、 ハリウッドの多くを占める同胞のユダヤ系映画人は彼のスピーチに一斉に猛抗議した。 「アウシュヴィッツで起きたことと、ガザで起きていることは全く別物だ」。 自分たちが恩恵を受けてきたシステムに背くことは今まで築き上げた所有物を犠牲にする覚悟である。 大量虐殺可能なガス室の建設が決まり、 「人としておぞましいこと」を自覚しているのかは知らないが、誰もいない通路で所長は独り嘔吐しかける。 それは最後に残された彼の"人間性"か。 博物館として現代の収容所に積み上げられた虐殺の痕跡を前にルーティンワークとして淡々と掃除するスタッフたち。 ニーチェ曰く、「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている」。 80年後の世界を見つめる彼には裕福な生活を、愛する家族を守らなければならない。 異常さに耐え切れず、手紙を置いて密かに邸宅を出て行った所長の妻の母親が帰宅後に意識を切り替えるが如く、 自分もまた、悲鳴だらけのエンドロールから“普通の日常生活“へと取り繕うだろう。 「私たちはシステムに組み込まれている」。 [映画館(字幕)] 7点(2024-05-30 21:49:13) |
3. ゴーストバスターズ/アフターライフ
評判芳しくないものの、そもそも一作目自体そこまで思い入れも記憶もないため、 "継承"というテーマとして見るなら案外悪くない。 孫娘が祖父の意思を継ぎ、オリジナルを撮ったアイヴァン・ライトマンが息子にメガホンを託す。 これほど胸躍ることはない。 '80年代の明るいノリを40年近く経った現代に再現させるのは難しいだろうし、 父親と違って人間ドラマを得意とするジェイソン・ライトマンの作風からすると、 こうなるのは大体予想通りというか。 家族のわだかまりを解く終盤の展開は分かっていながらもたいへんエモーショナルであった。 温故知新を体現した映画だったかと。 続編はかつて一作目を見たときのように勢いが落ちそうなので見ないかもしれない。 「新章がこれから」という期待感がこのシリーズには似合うと思うから。 [地上波(字幕)] 7点(2024-04-08 23:19:00)(良:1票) |
4. オッペンハイマー
《ネタバレ》 専門用語が次々に現れ、時系列を交錯させ、培ってきた技法を総動員させたクリストファー・ノーランの力作だが彼のベストではない。 恐らく半分以上は話を理解できなかっただろうし、あれほどの会話劇で本国アメリカで記録的な大ヒットしたことは、ノーランのブランドがなせる業なのか、核兵器を巡る世界情勢の重大な危機に関心が大きいのか、その両方だろう。 唯一の被爆国である日本にとって胸糞悪いのは事実で、戦争という熱狂によって人道・倫理観のブレーキが壊れ、戦場が兵器の実験場に変わり、新たな秩序と発明が生み出されていく。 戦場とは遠い世界でチェスの駒を操れそうな位置にあり、やがて自分自身も利用されて棄てられていく様が同じ天才学者を描いた『イミテーション・ゲーム』に通じるものがある。 国のエゴと利害の一致によって身動きできなくなっていく理不尽と葛藤と矛盾がオッペンハイマーに強烈なストレスとして画面に発露される。 広島と長崎の投下シーンが一切ないのは予め知っていた。 これは日本への配慮とも言えるし、挿入したとしても"オッペンハイマーとは何か"をぼかしてしまうので妥当とも言える。 英雄でもなく、悲劇の人物でもなく、功績と名誉を回復しても、これらは彼以外の大多数の所有物でしかなく、本人がどう思っているのかは知る由もない。 彼がいなくても、誰かが原爆を作り、どこかで投下されていただろう。 全人類を破滅させることができる発明が世に出てしまった以上、もう止めることはできない。 昨今に論議を巻き起こしているAIが世に出てしまったように。 現実、国の最高権力者という名の狂人が核兵器というキャスティングボードを握っている。 話し合いで解決できない相手に我々だったらどう向き合うか? もはや「核兵器について議論しない」という日和見な選択肢は残されていない。 [映画館(字幕)] 6点(2024-03-30 23:12:00) |
5. ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密
《ネタバレ》 グダグダだった前作に比べれば、何とか持ち直したと言ったところ。 単品で見れば魔法界の最高権力者を目論むグリンデルバルトの野望を阻止するシンプルな筋書き。 魔法生物はやや置いてけぼりながら重要シーンで盛り込み、一応は幸福なひと時で映画を締めている。 冤罪で降板させられたジョニー・デップに代わり、マッツ・ミケルセンがグリンデルバルトを演じているが、 魅力的なヴィランを上手く引き継いでいると感じた。 しかしながら、主人公のニュートの影が薄く、ダンブルドアとグリンデルバルトの愛憎劇へと脱線していくのでは、 本筋のファンタスティック・ビーストである必要がないので次回は原点回帰して欲しいものである。 [地上波(字幕)] 5点(2024-03-30 23:02:04) |
6. アメリカン・フィクション
《ネタバレ》 "黒人"に対して何をイメージするか? エディ・マーフィーやウーピー・ゴールドバーグを代表するひと昔前のコメディ俳優か、 はたまた『それでも夜は明ける』『ムーンライト』みたいな理不尽な差別に耐える健気な主人公か、 それとも貧困と銃とドラッグにまみれた屈強で粗暴なラッパーか。 ハリウッドから提供されたイメージはその一側面に過ぎない。 これらが白人だったら我々はどう見ていたのだろう? それなりの知識層で中流階級の売れない作家兼教師である主人公も黒人だ。 大学の職を追われた彼は、長年疎遠だった実家の家族に向き合うことに。 父は不倫して自殺、母はアルツハイマー病で、母を介護していた姉は急死し、兄は同性愛者と問題だらけ。 生活苦からヤケになってステレオタイプな黒人を題材にした三文小説を偽名で書き始めるも、 あれよあれよの大ヒットで映画化決定、文学賞最有力と自分でもコントロール不能になって…… というコーエン兄弟的な筋書き。 黒人への配慮がむしろ白人の免罪符になり、エンタメとして消費されていく皮肉。 それに気付かず、白人は素晴らしいと崇め、黒人ですら面白いと問題の小説に疑問に感じない。 ただただ酔えるなら三種類のジョニーウォーカーの中から安物でも構わない。 今日のエンタメ及びポリコレ産業に横槍を入れており、真実を明かす場面を敢えてカットすることで、 観客が何を求めているかを問いかけているように感じた。 でも悲しいかな、自分の創りたいものは商業でほとんど通らないし、それがウケるとは限らない。 何も見ていなかった世間知らずな坊ちゃんである主人公が現実を突きつけられ、 悲劇のステレオタイプな黒人イメージと折り合いを付けていく。 そんなクリエイターの悲哀、日本の漫画の実写化でもよく聞く話だ。 あのラストを見ると、今までの展開はどこまでが本当なんだろうか。 白人と黒人の関係が密なアメリカだからこその笑いでそのニュアンスをどこまで理解しているかは怪しいが、 マイノリティのジレンマを案外スルスルと見れる話術と仕掛けですんなり見れた。 ダークホースで脚色賞を取れるかもしれない。 [インターネット(吹替)] 6点(2024-03-11 21:07:54) |
7. ボーン・レガシー
《ネタバレ》 ジェイソン・ボーン3部作は既に視聴済み(ただし中身は覚えていない)。 それを踏まえてのスピンオフなのに、その3部作の設定が全く活かされておらず、序盤はガチャガチャに煩雑にしただけ。 中盤から大きく話が動き出しても、重要機密を知る主人公が追手をかわしながらワクチンを手に入れて逃げるだけという。 ワクチンの在りかを知っているヒロインはおまけ程度で、 宿敵との対決もないまま終わりでは消化不良にも程がある(ヒット次第で続編も考えていたのだろう)。 アクションとしてはそれなりに楽しめるが、せめて単品として完結可能な作りにして欲しかった。 トニー・ギルロイが自分の脚本を即興で改変しまくるポール・グリーングラスとひと悶着あり、 監督も兼ねて本作が製作されたようで、むしろグリーングラスの手腕の確かさを証明してしまった。 [地上波(字幕)] 4点(2024-03-01 23:39:27) |
8. スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
《ネタバレ》 前作鑑賞は必須としても、他のMCU作品とも連動しているため、 アイアンマン=トニー・スタークが故人なのは劇中で分かるものの、 エンドゲームを見ていないと少々置いてけぼりを喰らうのは確か。 MCUでマルチバースの概念は既に知られていたが、それを利用した中盤のどんでん返しは上手かった。 ヴィランとしてミステリオが中心でありながら、かつて職を追われた者たちによるチームプレイで、 現実と非現実を揺さぶりスパイダーマンを追い詰める見せ方が良い。 ファクトチェックが当たり前になり、目の前の情報が真実とは限らない現代において、 これからディープフェイクが濫造されていく世界への抗い。 殺人犯として汚名を着せられてしまったピーターはどうなるのか期待を寄せる。 でも、エンドロール後のもうひと展開にスパイダーマン以外の映画を見ないといけないのは如何なものかと。 作品によってはTVシリーズにまで裾野を広げてしまい、近年のMCUの勢いが衰えた話も聞く。 フェーズ1の『アベンジャーズ』くらいの展開が限度で、純粋にスパイダーマン単体で完結させてほしいのが本音。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-02-24 00:54:15) |
9. スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
《ネタバレ》 スパイダーマン=ピーター・パーカーとは誰か?に対する一つの答え。 MCU作品というより、歴代スパイダーマン映画への気配りがされており、 トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールドとの共闘だけでなく、 歴代ヴィランたちもウィレム・デフォーを始めとするオリジナルキャスト大集合でよく揃えたものだ。 一番盛り上がったのは彼ら一人ひとりが登場していき、一つに集束していくことだろう。 それ故に、マルチバース設定を使いたいがために、強引で余計な展開が際立ってしまった。 進路を理由にピーターが余計なことをしなければ何も起こらなかった話であり、メイ叔母さんはただの犬死に近い。 ヴィランの救済なんて、こちらの世界線には何の関係もありゃしない。 なので感動する展開も間延びした印象を受けてしまう。 狂いに狂った時空の歪みを修正するため、ピーターの再度の願いで彼自身、忘れ去られた存在になっていく。 アベンジャーズにいたことも誰も知らない。 自分自身に親友や恋人もいたことも誰も知らない。 孤独になったスパイダーマンは真の意味で"親愛なる隣人"としてスタートを切る。 ほろ苦さを感じさせるも重い宿命を背負う、スパイダーマンならではの完結編だった。 [地上波(字幕)] 5点(2024-01-29 21:56:30) |
10. スパイダーマン:ホームカミング
《ネタバレ》 今までのスパイダーマンと違い、版権問題をクリアしてアベンジャーズと関わったこと、 そして未熟で無力なりに一人前になろうともがくピーターの青春物語が強化されたことが大きい。 功名心から正義を貫こうとして、結果的に大きな事故を招いてスタークを失望させ、 学校とヒーロー業を両立できず、片思いを失ってしまう苦みと切なさが残る。 家族のために犯罪に手を染めるマイケル・キートンを配役するセルフパロディが心憎く、 貧困と格差の問題をするりと潜り込ませる。 ディズニーに買収されたことが大きいのか、異人種間の恋愛と夫婦が珍しくなく時代の流れを感じた。 スタークからの再スカウトを断り、地に足をついて"親愛なる隣人"として歩み出したのはスパイダーマンらしい。 [地上波(吹替)] 6点(2024-01-17 19:49:29) |
11. カラー・オブ・ハート
《ネタバレ》 『天国と地獄』と『シンドラーのリスト』の演出を一本の映画にした印象にも取れるが、 無機質から有機質に移り変わっていく作品の情感を丁寧に掬い取る。 作りものの世界であることを逆に利用して、モノクロとカラーを混在させた映像が美しい。 劇中劇のホームドラマには有色人種が一人も登場せず、"色"が付いた人間を差別するとかなかなか皮肉が効いている。 恐れていた予定調和から外れ、生まれ変わった町は新しい世界を広げていくが、同時に負の要素も持ち込まれるだろう。 それが現実の世界そのものだが、過酷だからこそ、ささやかなものですら美しいと感じられるのだ。 [DVD(字幕)] 7点(2024-01-12 22:46:27) |
12. ブギーナイツ
《ネタバレ》 弱冠26歳でハードコア・ポルノを題材としながらも濃密な人間ドラマを撮り上げたP.T.アンダーソン監督は凄い。 幾度となく多用される長回しは技巧をひけらかすような幼稚なものではなく、 登場人物の背景と当時の空気を的確に捉えている。 業界で成功するも驕り高ぶる青年、作品の質を重視したい職人肌の監督、 親権を奪われドラッグに溺れる女優、家族に愛されなかったウェイトレス… 表社会から偏見にさらされ、その世界から抜け出せられなかった彼らは疑似家族として、 傷を舐め合うようにかつての栄光を演じ続ける。 一時的に楽しまれては忘れ去られていく消耗品。 それでも必要とされていた時代があったことに想いを馳せる。 絶対的な自信はあったかは知らないが、もう少し短くできた。 [DVD(字幕)] 6点(2023-12-09 22:30:35) |
13. 西部戦線異状なし(2022)
《ネタバレ》 1930年製作のハリウッド版は視聴済みであるものの、本作はリメイクではなく古典の反戦小説の再映画化であり、 現代の観点で脚色されたのもあるからか、似通ったシーンがほとんどないに等しい。 せいぜい冒頭の生徒たちの出兵を煽る教師と、中盤の妻子持ちの敵兵を直接殺してしまった狼狽ぐらいだろうか。 死んだ兵の服をはぎ取り、洗濯・お直しして新兵の服として提供するところからして、 ただの部品としか見ていない戦争の非情さを良く表している。 憔悴していく主人公の青年と並行する形で軍部上層部のやり取りで見られる豪華な食事もそう。 あと少しで停戦なはずがお偉いさんの大義のために無理矢理突入させられ、 理不尽な形で消費されていく主人公を含むその他大勢の兵士たちの死… 非常にオーソドックスながらハリウッド版とは違ったドライさが突き刺さる。 確かに今の時代だからこそ見るべき映画なのかもしれないが、現代ならではの新しい切り口が欲しかった。 もし本作みたいなことが日本で起こったら、我々にできることは国外脱出するか、 国会議事堂を包囲して大規模な反戦デモを敢行することくらいだろう。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-12-09 21:37:02) |
14. バード・ボックス
《ネタバレ》 演出と演技が上質なため、低予算ならではのチープさがあまりない。 "何か"を見たら自殺するという序盤の大混乱を見せることによって、外への行動と視界が制限され、 映画のほとんどを占める室内シーンと山林シーンを受け入れることができるからだ。 2年後のコロナ禍で"鳥かご"の中に閉じ込められてしまったことを予言しているみたいに。 過去と現在を交互に見せるため、退屈さはあまり感じられず、伏線回収が上手い。 主人公を気に掛ける男性がいつか本性を表して襲い掛からなかったのは意外。 この手の不条理パニックもので言えることだが、最後に謎が明らかにされるわけではない。 既に精神を病んでいる人ほど自殺に陥らず、目隠しなしで健常者に襲い掛かる新たな設定すら、ただの脅威で終わっている。 盲学校に辿り着いて、今後もここで生きていくにしても食料や衣類はどうするの?という疑問が湧く。 そういう意味でオチは弱いが、見て損はないと思われる。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-12-07 22:15:24) |
15. ザ・ドライバー
10年ぶりに鑑賞。 言うまでもなく『ドライヴ』の元ネタであり、 雰囲気も色使いもストイックさも本作の影響を大きく受けていることが分かる。 「最後に誰が笑うのか?」というコンゲーム的な要素はあるものの、 基本はシンプルなカーアクションだ。 クールで寡黙な逃がし屋、ミステリアスな女詐欺師、執念を燃やす刑事の化学反応が とことん無駄を削ぎ落とした作風に良い塩梅を与えている。 CGのない時代の生身のアクションに魅了される、贅肉なしの90分に程よい満足感が残る。 [地上波(吹替)] 7点(2023-11-22 23:09:27) |
16. ザ・キラー
《ネタバレ》 狙撃に失敗した殺し屋が婚約者を襲われ、報復で刺客と依頼者を淡々とじわじわと追い詰めていく。 まるで商品をただ消費するかのように、ルーティンワークの如く。 『セブン』の監督&脚本家の28年ぶりのタッグにしては非常にシンプルなストーリー。 その分、ストイックな空気感とソリッドな映像センスが際立っており、 立体的なサウンドデザインも合わさり、テレビの画面では堪能できないと思われる。 自己暗示をかけるが如く独り言が連なり、完璧な殺し屋になり切れない男のあがき。 最後の晩餐になってしまったティルダ・スウィントンによる熊と狩人の噺が象徴するように、 プロの矜持として後始末を全うしようとすることを建前に、 復讐という本音が僅かながらに彼を人間たらしめている。 婚約者とビーチで戯れる平穏なひと時も、殺し屋の宿命から逃れられないジレンマ。 アラン・ドロンの『サムライ』の系譜に近い、矛盾だらけの人間の美学を覗き込む。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-11-10 23:52:26) |
17. 西部戦線異状なし(1930)
90年以上前の傷だらけのフィルム、あからさまなオーバーアクト、ベタすぎる演出と今なら際立って見えるかもしれない。 しかしながらスクリーンから発する、余りある戦争の悲惨さ虚しさは今もなお色褪せていない。 いつの時代も大義のもとに無知な若者が扇動され、単に犬死になって消費されるだけ。 何度も繰り返す歴史に無力感を覚えながらも、無力なりに抵抗していきたいと感じさせる一本。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-11-01 00:16:02) |
18. ミニオンズ
映画は見なくてもミニオンズを知っている人は多いかもしれない。 怪盗グルーによる本伝シリーズはそっちのけで本作鑑賞。 可もなく不可もなく。 ミニオンズの能天気で奔放なキャラクターだけで突っ切るので、一見張ってありそうな伏線回収はほとんどない。 ストーリーの整合性もあったものではなく、現れてはちょっと活躍して退場していくサブキャラ達。 そう言えば、『ペット』も『SING/シング』も似たような中身であり、 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』をも手掛けるイルミネーションスタジオの"作風"なのだろう。 完全に子供向け、ファミリー向けに振り切って、 意識高いメッセージ性や巧みなストーリーテリングを求めるのは筋違いにも程があるか。 見ていて何も残らないが、純粋な娯楽映画として手堅く稼ぐにはこれが正解だろうね。 [地上波(字幕)] 5点(2023-10-21 19:23:10) |
19. ノーカントリー
《ネタバレ》 老人の住む国などない。 どの時代も「昔は良かった」とか「最近の若者は」と嘆いていただろう。 80年代のアメリカですら、常に理不尽な暴力で満ち溢れていた。 アントン・シガーは、まさに己のルールで遂行するアメリカの影の象徴だ。 目的のためなら道行く人ですら銃を向ける死神である以上、 殺害シーンが次第に省略されていき、ある種の諦めを受け入れさせる。 一方、大金をくすねたカウボーイは主人公のように思えるが、 終盤でいきなり死体で再登場する無情さ。 そして理屈を捏ね繰り回すも何も出来ない老保安官。 徹底的に行間で描かれる諦観と閉塞感がアメリカの病理を浮き彫りにさせる。 二度シャツを買うシーンが出てくるが、 もし少年たちが大怪我したシガーからお金を貰わなければ、 ひたすら物質主義に邁進する現在のアメリカに希望はあったのだろうか? 現代アメリカに警鐘を鳴らした本作の教訓が生かされることなく、 『血と暴力の国』は斜陽に突き進む。 [映画館(字幕)] 7点(2023-10-14 22:56:01) |
20. ミスティック・リバー
《ネタバレ》 犯人捜しのサスペンスとして期待すると肩透かしを食らう。 どちらかと言えば重厚な人間ドラマ寄りの作りで、その割に緩慢に感じてしまうくらい話の筋が分かり辛い。 それでも、あまりのタイミングの悪さとすれ違いで負のスパイラルに陥ってしまう不条理に苦虫を嚙み潰す。 怒りに赴くまま復讐に走り続ける男、過去から逃げられない苦しみに怯えた男、 ただ傍観するしかない男がもしあの日立場が違っていたらと思い返してももう遅い。 自分の行った"復讐"を妻から肯定された男はひたすら"贖罪"という名の自己満足を続けるだろう。 それはまさに正義を標榜してきたアメリカそのものであり、自己責任と片付ける貧困と格差社会が強くリンクする。 スクリーンで悪人を裁いてきたイーストウッドによる自戒と諦念がそこにあった。 [映画館(字幕)] 6点(2023-10-06 22:04:01) |