41. 生きる
《ネタバレ》 お役所仕事のいい加減さには思わずイライラ。 主人公自身もそうした人間の一人だったが、死に直面して生まれてきた意味を見つめ直す。 男手一つで育てた息子の無理解な言動に、何のために自分を犠牲にしてミイラのような干からびた人生を送ってきたのかという空しさに駆られる。 人は誰しも生きた証しを感じたい。 家族の愛情が確かであればそこに生きがいを見出したかもしれないが、それが期待できないならば仕事しかない。 溌剌と生きている元部下の若い女との会話をヒントに生き方を変えた場面では、ハッピーバースディの歌の演出。 生まれ変わったように役所で働く姿は感動的で、こういう公務員が増えてくれればと願うばかり。 通夜の席での幹部役人の腐れっぷりが実状に近いだろうけど。 渡辺に感化されて熱く語っていた人たちも役所に戻ればすっかり元通り。 役所のセクショナリズムや形式主義、手柄の横取り、無責任さへの痛烈な批判がにじみ出ているが、役所だけに限らず社会全体への警鐘に取れる。 黒澤映画はエンターテイメント性を前面に押し出したものよりも、こうして人間をじっくり描いたもののほうがいい。 誰もが自らを振り返って考えさせられるテーマがあった。 その普遍性が時代を超えて多くの人の共感を得るのだろう。 生きることを始めて今まで気づかなかった夕焼けの美しさに感動して足を止める主人公。 他部署の酷い扱いに「こんなに踏みつけにされて腹が立たないんですか?」と部下に問われ、「人を憎んでなんかいられない。わしにはそんな時間はない」と答えていたのが印象的。 気になったのは、セリフが聞き取りにくい、ナレーションで語りすぎ、主人公に生き直すきっかけを与えた若い女がその後出てこないなど。 なので、完璧な映画だとは言い切れないが、欠けた部分を補うだけのものがあった。 この時代に日本でもこれだけの作品ができたことを加味しての満点。 [ビデオ(邦画)] 10点(2013-07-21 22:25:11)(良:1票) |
42. ベン・ハー(1959)
《ネタバレ》 雌伏のときを経ての復讐劇は、シンプルで感情移入しやすい。 親友から仇敵となった男とのプライドをかけた死闘は見ごたえたっぷり。 メッサラの汚い手を使いながらの見事なヤラれっぷりは、優秀な悪役レスラーのよう。 たかが馬車のレースに大げさなと思っていたけど、すごいド迫力。 カーレースより危険な感じで、撮影は命がけだっただろう。 家族、信義、愛、信仰、死の疫病など、物語の主要な要素がしっかり詰まった歴史大作。 疫病が神の奇跡で治るハッピーエンドは、無宗教の人間にとってはおとぎ話すぎてちょっと興ざめ。 [DVD(吹替)] 8点(2013-07-12 23:23:41) |
43. 十二人の怒れる男(1957)
《ネタバレ》 三谷幸喜のほうを先に観ていたが、本家はさすがに見応えがあった。 12人の会議室の中での会話だけでこれだけの重厚なドラマができるのは驚き。 有罪に固執する人が、議論の中で自ら墓穴を掘っていく。 論理が破綻して偏見が露になっていく過程が見事で、脚本の出来がすばらしい。 こういう奴いるよなぁと思わせるキャラ設定も見事。 [DVD(吹替)] 9点(2013-06-22 23:15:06) |
44. 赤い風船
《ネタバレ》 セリフがほとんどなく映像で詩を味わっているような感覚。 ジャンルは違うが詩情を感じる映像作品という意味ではユーリ・ノルシュテインが思い浮かんだ。 生き物のような風船と少年の友情が微笑ましい。 悪ガキどもに石をぶつかられるシーンでは本当にイジメられているように見える。 鑑賞中はさほどインパクトはなかったが、観た後でじわじわくるファンタジー。 ラストは少年の行方が気になる。 天に召されたともとれるが、少年は幸せそうだったけどハッピーエンドなのかどうか…。 一概によかったねとは思えない微妙な余韻が残った。 [DVD(字幕)] 7点(2013-06-21 23:31:52) |
45. ライムライト
《ネタバレ》 チャップリン晩年の代表作だけにハードルが高くなりすぎたのか、少し期待はずれ。 監督として峠を越えたチャップリンと、主人公のカルベロがだぶってみえる。 途中、カバレロのステージパフォーマンスで長くてダレてしまう。 ウケなくなっていた芸が再起の舞台で、シーンとしたアンコールからいきなり大喝采となったことに大きな違和感があった。 テリーの雇ったサクラではなく本物の歓声に変わったという表現だろうけど、それほどのパフォーマンスとは伝わらずちょっと無理があるように思えた。 ラストはもっとハッとするような展開を期待したが、カルベロの死も少し強引な印象もあって感動できない。 音楽は切なく美しいメロディで耳に残る。 かつてはスターコメディアンだったカルベロの凋落ぶりが切ない。 テリーとの純愛、若いネビルへの複雑な思い、舞台人としてのプライドが傷つけられていく様子がリアルで胸に迫る。 年の差を越えて支え合った二人の結ばれなかった悲恋をコメディ要素なしで描いたことが、チャップリンのイメージを覆されて意外だった。 チャップリンの喜劇人としての本音や人生哲学が主人公を通してうかがえ、明らかに自己投影したものであることがわかる。 チャップリンの集大成ともされているが、才気ほとばしる全盛期の勢いを失った悲哀も少し感じてしまう作品。 [DVD(字幕)] 7点(2013-06-20 22:14:12) |
46. 隠し砦の三悪人
よくできたエンターテイメント作品。 敵陣包囲網から脱出する過程で何度も絶体絶命の危機に遭う。 それを切り抜けるのに、味方の百姓二人が何度も欲に目がくらんで裏切ろうとするのが娯楽性を増している。 仲間割れはこうした映画のお約束だが、人の心の変化、成長、伏線の張り方などエンタメの基本となるものがこの作品には詰まっている。 登場人物それぞれのキャラが立っているのもおもしろい。 雪姫のキャラはいいけど、ノドが潰れそうな発声で聞きづらいのが難点。 [DVD(邦画)] 7点(2013-06-14 23:18:13) |
47. お熱いのがお好き
ビリー・ワイルダー監督なのでとても期待して観たのに、もともと好みじゃない女装のドタバタコメディだったのでがっかり。 女装の男性という設定だけをとっても古臭いコントのようで笑えない。 ビリー・ワイルダー&ジャック・レモンの作品は『アパートの鍵貸します』で感動したが、『あなただけ今晩は』ではドタバタテイストが少し気にかかった。 本作はドタバタに徹していたが、この監督はドタバタでない作品のほうが味わいがあって好きだ。 マリリン・モンローは魅力的だったけど。 [DVD(字幕)] 5点(2013-06-14 00:10:03) |
48. 道(1954)
《ネタバレ》 旅芸人のザンパノに売られたジェルソミーナは、けっしてかわいくはないが何ともいえない哀愁がある。 喜怒哀楽が素直で無垢な子供のよう。思わず肩入れしてしまう。 世話になった修道院で盗みを働き、犬猿の仲の旅芸人仲間を殴り殺すザンパノの蛮行に、気がふれたようになるジェルソミーナが哀れ。 そのジェルソミーナを置き去りにして旅立つザンパノは身勝手極まりないクズ男だ。 そんな男にもジェルソミーナの末路を知って流した涙のあったのが救いか。 哀しく美しいラッパの音が耳に残る。 [DVD(字幕)] 7点(2013-05-29 00:29:32) |
49. 雨に唄えば
ミュージカルの名作だが、ミュージカルが苦手なのでそこまで感動せず。 特に、終盤の妄想シーンのミュージカルは長いし退屈だった。 ただ、タップダンスの軽快な動きはすばらしい。 有名な雨中での「雨に唄えば」の曲とダンスは印象にしっかりと残る。 ストーリーはベタでラストのオチも読めたが、それでもそれなりのカタルシスはあった。 [DVD(字幕)] 5点(2013-05-15 21:43:26) |
50. 東京物語
とても静かで地味な映画なので全然好みではないけれど、なんだか不思議と印象に残っている映画。 老夫婦が上京した際の子供達の扱いに、こちらまで胸が痛んでくる。 親子の関係は誰にとっても一番基本的なものだから、心にじんわりと沁みてくるようで…。 老夫婦の姿は哀愁があって切ない。 この映画は時を経ても色あせることがなさそう。 学生時代に見れば退屈な作品だろうが、年齢を重ねて見直すごとに味わいが増していきそうな気がする。 [ビデオ(邦画)] 7点(2013-01-11 00:14:53) |
51. 七人の侍
《ネタバレ》 ハリウッド版の『荒野の七人』を子供の頃に観て感動したが、後になってこちらがオリジナルだと知ってビックリ。 野武士に立ち向かう七人の侍が頼もしい。 米の飯を腹いっぱい食わせるという条件で集まるのは、武士道の下地があってこそ。 観る前は、三船敏郎は椿三十郎のような役かと勝手にイメージしていたが、全然違った。 菊千代によって百姓の狡さと哀しみがまざまざと浮き彫りになる。 なかなかわかり合えない侍と百姓が、次第に距離を縮めていく過程がいい。 でも、最後生き残った侍に「勝ったのはあの百姓たちだ」と言わしめる百姓のしたたかな強さ。 そこにはどうにもできない距離が確かに存在する。 難点を挙げるなら、映像が見にくかったり、セリフが聞き取りにくいところや、演出にはさすがに古さを感じる箇所がある。 ただ、ストーリーは起伏があって非常によくできており、不朽の名作の名に恥じない。 こうした名作を次々と世に贈り出した黒澤監督が、世界の監督たちの尊敬を集めたのは納得だ。 [DVD(邦画)] 9点(2013-01-03 00:29:38)(良:1票) |
52. シェーン
《ネタバレ》 「シェーン! カムバーック!」 ラストのシーンが有名で、テレビでそこだけ吹き替えなしで放映したことがあったっけ。 久々に観直してみたら、バーでの乱闘シーンが長い。 店をめちゃくちゃにされるマスター、かわいそう…。 主人公はクールで強くてかっこいい、ヒーローらしいヒーロー。 ブルース・リーのカンフー、剣豪や早撃ちガンマンの決闘は、単純にシビレる。 童心に返ってワクワクできるのがいい。 ただ、この映画はそうしたカッコよさだけではない。 人間の葛藤がちゃんと描かれている。 父親よりシェーンに憧れ、無邪気に偶像化するジョーイ。 夫よりシェーンに惹かれる自分を必死で抑えるマリアン。 そのことに気づいて、心穏やかでないジョー。 大切なものを守るため、誇りをかけて敵地に乗り込む覚悟を固める。 そんなジョーを、最後は銃で殴ってまで止め、一人で決戦に向かうシェーン。 シェーンとマリアンの間には、互いに惹かれあいながらも握手しかない。 そうして戦いを終え、大好きな人たちを傷つけないようにと去っていく。 一度でも人を殺せば、抜け出そうとしても後には戻れない。 撃たれた傷を負って、シェーンはこの後どうなってしまうのか…。 そのせつなさが、ラストが名場面として語り継がれる所以だ。 撃たれていたシェーンが実は重傷で死亡説もあるが、そんな議論が皆でできるのも名画ならでは。 [インターネット(字幕)] 8点(2012-12-18 21:58:01)(良:1票) |
53. 情婦
《ネタバレ》 ビリー・ワイルダー監督の法廷ものサスペンス。 未亡人殺しの嫌疑をかけられた男は、裁判で圧倒的に不利な状況。 しかし、弁護士が妻の偽証を暴いて、すべてが決着したかに見えた。 そこから二転、三転する展開がめまぐるしい。 途中でどんでん返しのオチが見えたと思ったが、それを見事にひっくり返してくれた。 さすが、アガサ・クリスティの原作だ。 オチだけではなく、法廷での攻防も見もの。 難聴の老婆の矛盾点をつく質疑は見事だった。 看護婦やリフトなど、ビリー・ワイルダーらしいユーモアあふれるシーンも好き。 ラスト、妻や男が言わなくてもいいタネ明かしをペラペラしゃべりだすのは現実味がない。 けれど、すばらしい舞台を観るようで、十分に楽しめる。 映画より舞台のほうが向いてるかもと思ったら、やっぱり評判の高い舞台の映画化だった。 予備知識なく観ることができたのが幸い。 これを舞台でも観たかったが、肝心の結末を知ってからでは観ても感動は半減するかな。 [DVD(字幕)] 8点(2012-12-15 00:08:58) |
54. ローマの休日
《ネタバレ》 何度も見返している大好きな映画。 不朽の名作と呼ばれるにふさわしく、数々の名シーンが挙げられる。 オードリー・ヘプバーンは決して美人だとは思わないが、この作品のアン王女はハマり役でとてもキュート。 まるで無垢な子どものようで愛おしくなる。 新聞記者が大スクープを放棄するなんて本来リアリティのないことだけど、このアン王女は絶対裏切ってはいけないと思わせる存在。 お洒落で後味の良い映画なので、多くの人から愛されるのも納得。 ラストシーンの切なさが心地よい余韻を残して、「ああ、いい映画を観た」と思わせてくれる。 [DVD(字幕)] 10点(2012-12-04 20:49:52)(良:1票) |