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プロフィール
コメント数 614
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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1.  ギャラクシー・クエスト 《ネタバレ》 
 「スタートレック」のパロディ作品なのですが、どちらかといえば「サボテン・ブラザース」の影響の方が色濃いようにも思えましたね。   「物語の中のヒーローが、本物のヒーローになる」という筋書きが全く同じであり、その枠組みを「西部劇」から「スタートレック」に置き換えただけ、という感じ。  である以上、既視感だらけで退屈な映画になりそうなものなのに……なんと吃驚。  これがまた、元ネタに優るとも劣らぬ傑作に仕上がっているのですよね。  自分の場合「サボテン・ブラザース」を観賞済みだったので、ある程度展開が読めてしまった部分があるのですが、そういった予備知識無しで観ていたら、本当に衝撃的な面白さだったんじゃないかと思います。   ストーリー展開が読めているのに、何故こんなに面白かったのかと考えてみたのですが、それに関しては「登場人物が魅力的である」という一点が大きかった気がしますね。  往年のSFテレビドラマ「ギャラクシー・クエスト」の栄光に縋って生きている、売れない俳優達。  互いに喧嘩したり、仕事に対する文句を言ったりはするんだけど「基本的には良い奴等」という線引きが絶妙であり、観客としても素直に彼らを応援出来るんです。   特に感心させられたのが、序盤にて主人公のジェイソンがファンに八つ当たりしてしまう場面。  ここって「主人公達は現状に不満を抱き、鬱屈としている」「そんな彼らが、この後ヒーローになる」という事を示す為、決して外せない場面だと思うんですが、一歩間違えば序盤の段階で「こいつは嫌な奴だ」と観客に悪印象を与えてしまう、非常に危うい場面でもあるんですよね。  でも、この映画ではヒロインのグエンが「ファンを相手に、あんなにカッとするなんて初めて」と驚く展開が用意されている。  それによって「主人公はファンサービスを大切にするような、優しい男である」「そんな彼が思わずファンに八つ当たりしてしまうほど、現状に対しては不満を抱いている」という二つの情報を、同時に観客に与える事に成功しているんだから、これは本当に上手かったと思います。   「ドラマでは直ぐに死ぬ端役だが、現実の世界では今度こそヒーローになろうともがいている男」を、ゲスト枠のような形で参戦させているのも良いですね。  主人公達が「ドラマのようにヒーローになる」という展開ならば、彼に関しては必然的に「ドラマと同じように死んでしまうのでは?」と思わされるし、その存在によって、適度な緊迫感が生まれてる。  女性型宇宙人とのロマンスを繰り広げる技術主任なんかも、程好いアクセントになっていたかと。   彼らに助けを求める宇宙人側の描写も、これまた良いんですよね。  「コスプレかと思ったら、本当に宇宙人だった」という序盤の展開だけでも面白いし、歩き方や笑い方がぎこちないという、わざとらしい「宇宙人っぽさ」の演出も素敵。  リーダー格のマセザーが、ジェイソンから「本当の俺達はヒーローなんかじゃない。全ては作り物だった」と告白されて、凄く切ない反応を返す場面も、忘れ難い味がありました。   「サリスの船から盗み出したテープ」「小さな猿のような生物」など、要所要所でハッとさせられる場面があり、コメディでありながら油断出来ない、シリアスな物語としての魅力が充分に備わっている点も、見逃せない。  そんな魅力がピークに達するのが「ドクター・ラザラスに憧れていた青年」の死亡シーンであり、彼を看取りながら「役者のアレクサンダー」が「ヒーローであるドクター・ラザラス」へと生まれ変わる流れは、本当に感動的だったと思います。   無名時代のジャスティン・ロングがオタク少年役で出てくるサプライズも嬉しかったし「いつも一秒で止まるのよね」などの台詞も、ユーモアがあって好み。  仲の悪かったジェイソンとアレクサンダーが、咄嗟の機転で一芝居打ってみせ、窮地を脱する辺りも面白かったですね。  無事に悪者を退治した後「ギャラクシー・クエスト、十八年振りのシリーズ復活!」「かつての端役が、今度はレギュラーに抜擢」「技術主任と女性宇宙人も、ラブラブなカップルに」といった映像が次々に流れるハッピーエンドも、非常に後味爽やか。   気になる点としては、切り札であるオメガ13の使用シーンにて(明らかに十三秒以上、時間が巻き戻ってない?)とツッコまされる事。  そして、上述のオタク少年も皆を救った功労者なのに、それが認められる場面が無かった事なんかが挙げられそうですが、精々そのくらいですね。   元ネタありきの内容でありながら「これは元ネタより面白いんじゃないか」と思わせてくれる。  非常に貴重な映画でありました。
[DVD(吹替)] 8点(2018-05-29 14:19:58)(良:4票)
2.  メッセンジャー(1999) 《ネタバレ》 
 これは好きな映画です。   バブル期の若者を主役に、オシャレな青春映画を撮り続けてきた馬場監督が「バブル崩壊後、肉体労働で生計を立てる主人公」を描いてみせたという、その舞台背景も面白いし、そんな予備知識無しで、シンプルに作品を観賞するだけでも面白い。  初見の際には、主人公の尚実に感情移入出来ず「何だ、この女は」と呆れる思いもあったんですが、今となっては彼女の存在ひっくるめて好きな映画になったんだから、本当に不思議ですね。   理由としては、もう一人の主人公である鈴木が尚実に反発しつつも、少しずつ認め、惹かれていく過程が、観客である自分の心境と、上手くシンクロしてくれたのが大きいかと。  とにかく最初の印象は最悪で、車で人を轢いておきながら相手よりも先に車の傷を心配する場面なんてもう、正直ドン引き。   それでも「携帯電話を届ける依頼」をやり遂げてみせた辺りから、徐々に見方が変わってくるんです。  ここの演出が上手くて、それまで日焼けを気にして着込んでいた上着を「邪魔」と言って脱ぎ捨てるシーンを挟むなど、視覚的にも分かり易く「彼女は生まれ変わった」事を示しているんですよね。  また「ありがとうの一つも言われないような最低の仕事」という台詞が伏線になっており「ありがとう」と言われる事で、初めて彼女がメッセンジャーとしての喜びに目覚める形でもある。  これまた凄く分かり易くて、その分かり易さが心地良い。   「ビール」と「シャンペン」を巡る一連のやり取りも面白かったですね。  汗水垂らして働いた後はビールに限るという鈴木と、高級なシャンペンが一番という尚実。  中盤にて、尚実の方が労働後のビールの美味しさを認め、それによって彼女が正式にメッセンジャーの仲間入りを果たす訳ですが、この映画はそれだけで済まさないんです。  鈴木もこっそりシャンペンを注文してみせたり、ラストにて皆でシャンペンで乾杯したりするという、素敵なオマケを付け足しているんですよね。  それによって、単なる肉体労働賛歌だけに終始せず、高級品の魅力もキチンと認めてるのだという、作り手のバランスの良さが伝わってきました。   バランスと言えば、尚実が一方的に「汗水垂らして働く喜びに目覚める」という受け身な立場に終始せず、元キャリアウーマンの経験を活かし、メッセンジャー業の改革に貢献していく流れも気持ち良いんですよね。  その他にも、憎まれ役と思われた尚実の元恋人や、取引先の太田さんなども「実は良い奴」オチが付くものだから、非常に後味爽やか。  そんな中、最後まで悪役の座を貫いたバイク便の「セルート」は実在の会社との事で、イメージダウンを覚悟で悪役を演じ切ってみせた、その懐の深さにも拍手を送りたいところです。    ラストの競争にて、チーム内で封筒の受け渡しを行う際の演出も、逐一恰好良い。  「何も言ってないだろ」「自転車よりバイクの方が速い」「楽勝」という台詞の使い方も上手いし、鉛筆や無線機などの小道具の使い方も上手い。  演者さんの棒読み率が高い事、エンディングでのアマチュア感漂うラップなども、普通なら減点対象となったかも知れないけど、本作に関しては「愛嬌」に思えてくるんですよね。  最初はメッセンジャー業を恥じらい、元同僚に対し「別の仕事をしている」と見得を張っていた尚実が、誇らしげに働く姿を見せるようになる様も良いし、鈴木が尚実を後ろに乗せて、自転車に二人乗りして帰るシーンなんかも、凄く好き。   全体的に「分かり易い面白さ」に溢れている中で、唯一つだけ「尚実は鈴木に何を言ったのか」という謎掛けが残されているのも良かったですね。  自分としては、凄ぉ~くベタだけど「アンタが好きだから」が正解だったんじゃないかな……と思いたいところです。
[DVD(邦画)] 9点(2017-09-27 08:18:55)(良:4票)
3.  ドライヴ(2011) 《ネタバレ》 
 「男が抱いているヒーロー願望を、そのまま映画にしましたよ」という感じですね。  理由なんて全く語られないけど、とにかく主人公は強い。  幼い少年には無邪気に懐かれて、人妻と許されぬ恋に落ちたりする。  観ていて恥ずかしさも覚えるのだけど、それでも作り手のセンスの良さや、主演俳優の恰好良さに痺れる思いの方が強かったです。   派手なカーチェイスを繰り広げる訳ではなく、警察の目から巧みに車体を隠しながら逃げおおせるという冒頭のシーンが、特に素晴らしい。  「追いかけっこ」の興奮とは違う「かくれんぼ」の緊張感を味わえたように思えます。  それだけに、中盤にて車同士で火花を散らすような「普通のカーチェイス」の場面もあった事は(あっ、結局そっちもやっちゃうの?)という落胆もあったりしたのですが……まぁ、そちらはそちらで、やはり魅力的だったし「タイプの異なるカーチェイスを両方味わえる、お得な映画」と考えたいところ。   ちょっと気になるのは「恰好良い主人公」を意識し過ぎたあまりか、敵側の恐ろしさが欠けているように思えた事ですね。  丁寧に敵側の目線での物語も描いている為「底知れない不気味さ」なんてものとは無縁だし、単純に人数も少ないものだから、作中で「強敵と立ち向かう主人公の悲壮感」を醸し出す演出がなされていても、今一つ説得力が感じられなかったのです。  ここの部分は、少々バランスの取り方を間違えたのではないかな、と。   逆に「上手いなぁ」と感じたのは、エロティックな要素の挟み方。  バイオレンスな内容である以上、性的な場面が全く存在しないというのは不自然になってしまいそうだし、ある程度は必要になってくると思うのですが、この映画では、それを「敵地に乗り込んだ際に、そこに裸の女が沢山いる」って形でクリアしているのです。  こういった場合、ついつい安易に「人妻であるヒロインと許されぬ関係を結んでしまうベッドシーン」なんて形で性的な要素を満たそうとするものですが、そこを踏み止まって、あくまでもプラトニックな恋愛描写に留めてくれた事が、本当に嬉しかったですね。  夜の車内で二人きりになって、そっと手を握るだけでも充分に「背徳感」「許されぬ逢瀬」という雰囲気が伝わってきたのだから、これはもう大成功だったかと。  ヒロインの息子との交流シーンにて、普段は滅多に笑顔を見せぬ主人公が笑ってみせる描写を挟む辺りも、ベタだけど効果的で良かったと思います。   ベタといえば、そもそも「裏稼業のプロフェッショナルな主人公が、美女や子供と交流する事によって癒され、彼らを守ろうと戦う」というストーリーライン自体、ベタで陳腐で王道な代物なんですよね。  である以上「何度も使われてきた魅力的な骨組みである」という長所と「もう観客は見飽きているマンネリな内容」という短所が混在している訳ですが、この映画に関しては、前者の方を色濃く感じる事が出来ました。   ラストシーンも、これまたお約束の「主人公の生死は曖昧にしておきます」「お好みの後日談を想像して下さい」という、観客に委ねる形の結末だったのですが、音楽の使い方やカメラワークが上手いせいか、あんまり「ズルい」って感じはしませんでした。  自分としては「お腹を刺されたけど、病院に行けば治るんじゃない?」「とりあえず一番の脅威は排除したし、残党が襲ってきても主人公なら大丈夫でしょう」「あの奥さんと子供とも、きっと再会して三人で幸せになれるよ」なんていう、楽天的な未来を想像する訳だけど、それも有り得そうな気がするんです。  バッドエンドとは程遠い、不思議な爽やかさと明るさが感じられる終わり方だったからこそ、そう思う事が出来た訳で、非常に後味が良い。   ダメ男の現実逃避用とも言われてしまいそうな、そんな感じの代物なのですが……  やっぱり好きですね、こういう映画。
[DVD(字幕)] 7点(2017-02-20 21:44:39)(良:4票)
4.  鬼畜 《ネタバレ》 
 これまた、何とも判断の難しい一品ですね。   まず、ストーリーは文句無しで面白い。  演出も冴えているし、主演の緒形拳も、難しい役どころを見事に演じ切っていると思います。  ただ、子役の台詞が……ちょっと棒読み過ぎて、辛かったです。   他人様が「棒読みだ」と指摘するような役者さんでも「これはこれで味があって良いじゃないか」と感じる事が多いはずなのですが、今回ばかりは白旗を上げてしまいましたね。  特にキツかったのが、岩下志麻演じる継母に折檻される場面で「痛い、痛い、痛い。放せ。やだよう」と言う息子の声が、どう考えても打たれている時の声じゃないんです。  それでも効果音で身体を叩く音が聞こえてくるし、岩下志麻の方は鬼気迫る熱演をしているしで、そのすれ違い様が実にシュールでした。   ただ、そんな子役達も、黙って大人を見つめる時の目力は凄いものがあって、それには素直に感心。  また、上述の棒読み演技が効果的に作用している面もあり、ラストシーンの「違うよ、父ちゃんじゃないよ」に関しては、感情が籠っていない声だからこそ良かったのだと思いますね。   この場面、脚本の流れを考えれば「息子の利一が嘘をついて父親を庇っている」はずなのです。 (父子で新幹線に乗っている時、父親の懐具合を思いやった息子が、車掌に嘘をついてみせるのが伏線)  けれども、その感情の窺えない、どこか突き放したような声色がゆえに「息子を捨てたりした人間は、父親なんかじゃない」という意味合いも含んでいるように聞こえてくるのですよね。  意図的な演出だったのかどうかは分かりませんが、結果としては、映画に深みを与える形になったんじゃないかと。   娘が東京タワーに捨てられるシークエンスにも、印象深い場面が幾つもありました。  父親が娘に対し「父ちゃんの名前、知っているか?」「お家はどこだ?」と確かめて、娘が幼く無知であり、我が身に警察の手が及ばない事を確信してから捨ててみせる流れなんて、観ていて恐ろしくなります。  何かを勘付いたのか、娘が中々父親から離れようとしない辺りの演技も良かったですし、父親が娘を置いてエレベーターに乗り込んだ際、閉じゆくドアの隙間越しに、一瞬だけ父娘の目が合うシーンの衝撃も、これまた凄まじい。  希望的観測ですが、あの娘さんに関しては、途中で出会った優しい着物の婦人に拾われて、幸せに暮らす事が出来たのだと思いたいですね。   利一が、楽しそうに笑い合う他の家族を見つめて「何故自分達はそうじゃないのだろう?」とばかりに、寂しげにしている姿も切なかったし、前半と後半にて「子供の口に無理矢理ものを押し込む親の姿」を二度描き、最初は同情的だったはずの父親さえも、継母と同じ鬼畜に堕ちてしまったのを、間接的に表す辺りも上手い。   全体的に息が詰まるような、苦しい映画だったのですが、そんな中、田中邦衛に大竹しのぶなど、子供達を保護する警官役が本当に善良そうで、優しそうで、観客にも癒しを与えてくれた辺りは、嬉しかったですね。  こういったバランス感覚の巧みさが、本作のエンタメ性を、大いに高めているのだと思います。   この映画を観終わった後、自然と脳裏に浮かんでくる「一番の鬼畜は、誰だったのか?」という問い掛け。  自分としては、父親でもなく、継母でもなく、三人の子供を残して姿を消した、小川真由美演じる菊代が一番酷かったと、迷いなく答えられますね。  彼女の顛末は語られず仕舞いですが、せめて遠く離れた場所で、子供達の幸せを祈っていたのだと思いたいところです。
[DVD(邦画)] 7点(2016-08-03 06:44:49)(良:4票)
5.  レフト・ビハインド 《ネタバレ》 
 飛行機パニック物としては、それなりに楽しめる代物だったと思います。   ただ、それは裏を返せば「世界中から人々が消失する」という展開に、あまり必然性を感じなかった、という事にもなってしまうのが辛いところです。  だって、作中のクライマックスが明らかに「無事に飛行機が不時着出来た」場面であって、人間消失の件が全く関係無い事になっていますからね。  それこそ機長が消えてしまったのならば意味もあったのでしょうが、本作は主人公である機長が現世に健在であり、しかも彼が有能な人物であるものだから、問題無く不時着を成功させて、それでお終い。  これほど無意味で、なおかつスケールの大きい設定というのも、中々珍しいのではないでしょうか。   神様を信じる者だけが消えてしまったとなると、悪人だけが残った世界なのかと身構えてしまいますが、この映画では、その辺りも極めて曖昧。  肝心の主人公達が「神を信じていない」という一点を除けば、比較的善人である事も相まって、あまり危機感だとか絶望感だとかが伝わってこないのですよね。  何せ、主な舞台となる飛行機内に「こいつは文句無しに悪人だ」と思える人物がいないのだから、外の世界が大変な事になっているのが不自然に感じてしまうくらいです。   原作小説はベストセラーであり、これ以前にも三度映画化されているそうですが、いずれも「キリスト教を信じる事」が絶対的に正しいと描かれている内容なのだとか。  そうなると「飛行機が墜落するかも知れない」という展開に着目して、自分みたいな不心得者でも楽しめるような娯楽映画に仕上げてくれた監督さんに、感謝すべきなのかも知れません。   いずれにしても、自らを信奉する人間しか救わないのだとしたら、神様ってのは嫌な奴なのでしょうね。  そんな意地悪な神様なんかではなく、もっと誰にでも優しく出来る存在であって欲しいものです。
[DVD(吹替)] 4点(2016-05-25 13:42:58)(笑:1票) (良:2票)
6.  アイアン・スカイ 《ネタバレ》 
 これは面白いっていうよりは、観ていて楽しい映画ですね。   月の文明を発見する件や、宇宙船同士の戦いを描いた場面なんかは純粋にワクワクさせられるし、各所にシニカルな笑いも散りばめてある。  円盤型の宇宙船に、ハーケンクロイツを模った月面建造物など、魅力的なビジュアルが次々に飛び出す辺りも良かったです。  一歩間違えば「正義のアメリカ」VS「悪のナチス」な映画になっていてもおかしくなかったのに、ちゃんとアメリカ側も悪役っぽいバランスで描いているので、違和感無く観賞出来たのも、非常にありがたい。  軍服姿の金髪美人に、眼鏡の女性大統領(サラ・ペイリンがモデル)など、オタク心をくすぐる女性キャラクター達まで登場しているので、所謂「萌え映画」として楽しむ事も可能なんじゃないかな、って気がしました。   チャップリンの「独裁者」を効果的に活用し「月世界の住人は偏った教育を受けている」と分かり易く説明している点も上手いですね。  120分以上もある反戦映画が大幅にカットされ、月世界ではヒトラーを称える十分間の短編映画として扱われているとの事なのですが、その十分間バージョンの「独裁者」も是非観たいなぁ……なんて思っちゃいました。  他にも、手を震わせながら眼鏡を外す「ヒトラー 最期の12日間」のパロティ描写など、クスっとさせられる場面が多かったです。   ただ、どうせ「独裁者」と「最期の12日間」を劇中で扱うなら、いっそヒトラー本人を復活させても良かったんじゃないかとも思えたんですが……  まぁ、そちらのネタに関しては続編の「アイアン・スカイ:ザ・カミング・レース」に持ち越し、という事なんでしょうね。  でも、映画単体として考えると「この流れならヒトラーも出るんじゃないかと思ったのに、結局出ない」って辺りの肩透かし感は、欠点になってしまうかも。   その他にも……  1:地球のスマホに驚いたりして、文明レベルは月の方が劣る描写があったのに、軍事力では互角に近いバランスだと終盤明らかになるのは違和感がある(せめて、もっと早めに説明しておいて欲しい) 2:国家を流すとナチス兵達は敬礼してしまう習性を利用して形成逆転する流れを、二度もやるのは流石に白ける。 3:ヴィヴィアンとアドラーの因縁を描いておきながら、両者を対決させずに終わるのは残念。   といった具合に、色々気になる点や、不満点も多かったりするんですよね、この映画。  黒人の主人公が白人に改造されてしまう件はショッキングだったけど、終わってみれば(別に白人に改造されなくても、話としては成立したのでは?)と思えちゃうしで、どうにも消化不良。  この辺りは正直、設定倒れというか、面白い設定を思い付いたら全体のバランスなど考えずに詰め込んじゃうという、オタク映画の悪い部分が出ちゃってる気がします。   あとは「女性大統領が、ナチス式の演説を取り入れて支持率をアップさせる」って件が一番シニカルで面白かったですし、月育ちのアドラー准将と婚約者のリヒター伍長が大統領の側近となり、月と地球のカルチャーショックに戸惑いつつ馴染んでいくという「三ヵ月」の件も、出来れば省略せずに描いて欲しかったですね。  ナチス兵達が地球のヌード雑誌に興奮する件なんかも良かったですし、もっと「月と地球のギャップの面白さ」を押し出した脚本にしてくれていたら、より楽しめたかも。   ラストも「博士の異常な愛情」のパロディっていうのは分かるんですが、世界中で核戦争が起こっている様を描いて終わりっていうのは、ちょっと微妙でしたね。  「月と地球との戦争によって、月の住民は大変な目に遭った」→「それでも主人公とヒロインは力を合わせ、月を復興させる」という、悲劇からのハッピーエンドの流れが心地良かっただけに、その後に更に「悲劇」を上乗せするブラックユーモアなどは付け足さず、あのまま気持ち良く終わって欲しかったです。   それこそ、続編に繋がるような「ヒトラーは生きていた!」という衝撃を与える終わり方でも良かったかも知れませんね。
[ブルーレイ(吹替)] 6点(2019-03-13 17:26:18)(良:3票)
7.  ニューイヤーズ・イブ 《ネタバレ》 
 前々から観たいと思っていたタイトルを、待ちに待って大晦日に観賞。   この手のオムニバス形式の映画だと、観賞後には「どのエピソードが一番好きだった?」という話題で盛り上がりたくなるものですが、自分としては「仕事を辞めた女性と、メッセンジャーの男性」の話がお気に入りでしたね。  年明けを目前として「今年の誓いリスト」を次々に達成していく様が痛快であり、ベタな表現ですが「これ一本で映画にしても良かったな」と思えたくらいです。  「ハイスクール・ミュージカル」などで、ティーンズの印象が強いザック・エフロンが、髭を生やして働く若者を演じているのも初々しくて良かったし「私、貴方の二倍の歳よ?」なんて言っちゃうミシェル・ファイファーも、実にキュート。  豪華キャストの中でも、この二人が特に光っているように感じられました。   その他のエピソードとしては「新年最初の赤ちゃん」と「エレベーターに閉じ込められた男女」が印象的。  前者にて「新年最初の出産を迎えた夫婦に贈られる賞金」を巡り、争っていた二組の夫婦が、出産後には和解し、片方がもう片方に賞金を譲る形で決着を付ける辺りなんて、とても良かったです。  後者に関しても、男女のロマンスとしては、一番綺麗に纏まっていた気がしますね。  男性が女性を追い掛け「忘れ物」と言ってキスをするシーンなんて、観ていて照れ臭い気持ちになるけど、ベタで王道な魅力がある。   他にも、様々な形で複数のカップルが結ばれており、誰もが幸せになるか、あるいは「悲しみを乗り越えて、一歩前進する」という結末を迎えており、非常に後味爽やかな作りなのも、嬉しい限り。  ・年明けのカウントダウンが主題となっているのに、時間経過が分かり難い。 ・個々のエピソードの繋がりが弱く、複数の流れが一つの大きな結末に収束していく快感は得られない。 ・ラストのNG集は、無くても良かったかも?   なんて具合に、気になる点も幾つかありましたが、作品全体を包む優しい雰囲気を思えば(まぁ、良いか……)と、笑って受け流したくなりますね。  大晦日というベストな環境で観られたゆえかも知れませんが、満足度は高めの一品でした。   ……それと、自分の「2018年の誓いリスト」には「バレンタイン当日に『バレンタインデー』を観る事」と書かれている訳ですが、果たせるかどうか。  二ヶ月後を、楽しみに待ちたいと思います。
[DVD(吹替)] 7点(2017-12-31 21:21:26)(良:3票)
8.  決算!忠臣蔵 《ネタバレ》 
 関西弁で話す赤穂浪士と、やたら柄の悪い大石内蔵助。  それらに対し、最初は戸惑いが大きかったのですが……   (要するにコレは、ヤクザ映画なんだ)と気付いてからは、問題無く楽しめましたね。  現代人が忠臣蔵を観賞する際にネックとなる「浅野は加害者で吉良は被害者であり、赤穂浪士は逆恨みしてるだけ」って部分に関しても「親分の死後、残った組員が面子を守る為に復讐した」と考えれば、分かり易い。  「よう見とけ、赤穂の浪人共がする事を」と大石が静かに呟く場面も印象的であり、この映画では主人公達を立派な「赤穂義士」ではなく、庶民的なヤクザとしての「赤穂の浪人共」として描いているんです。  極端に美化された忠臣蔵より、ずっと感情移入し易い作りになってるし、この路線で仕上げたのは、正解だったんじゃないかと。   それだけでなく「経済的に見た忠臣蔵」という魅力が、しっかり描かれているのも良い。  「籠城すべきか否か」を、退職金の多寡で決める序盤の時点で、もう面白かったし、最初に軍資金が幾らあるかを分かり易く現代の価値換算で示し、それが徐々に減っていく様を数字で見せる演出にしたのも、上手かったですね。  地元と江戸を行き来するだけでも旅費が掛かるのに、何度も無駄足を重ねてる様とかもう、本当に観ていて「無駄遣いすんなよ!」って気持ちにさせられる。  そんな観客の想いを、勘定方の面々が代弁し、劇中で実際に文句を言ってくれるんだから、非常に痛快。  我らは戦の担当だからと言い訳し、勘定方を見下す同僚に対し「戦なんぞ、一度もした事無いやろが!」と大野九郎兵衛が啖呵を切る場面なんかは、特に良かったですね。  観客の喜ばせ方を知ってるなと、嬉しくなっちゃいました。   そんな勘定方の代表である矢頭長助の死を、中盤の山場として用意してあるから観ていてダレないし、吉良邸への討ち入り場面を省略し「討ち入り前の、予算内に収まるかどうかの葛藤」をクライマックスに据えたのも、結果的には良かったかと。  一応、演習として討ち入る姿を大石達が思い浮かべる形になっており、観客としても「どんな風に討ち入ったのか」を、自然と想像出来るバランスになっていましたからね。  この辺り「太鼓じゃなく銅鑼を叩くのか」と落胆しちゃう大石を描いたりして「討ち入りの際には、太鼓を叩く大石内蔵助」を期待していた観客と、主人公の心情とをシンクロさせていたのも上手い。  確実に勝利する為「一向二離(一人が相手と向き合ってる隙に、他の二人が回り込んで相手を仕留める)」の兵法を用いる事に対し「それは卑怯では?」と問う者に対し「これは戦や」と返す場面なんかも「忠臣蔵」(1990年)が大好きな自分としては、嬉しくなっちゃう部分。  赤い着物ではなく、火消し用の着物を選ぶ場面とか「経費を節約出来た時の快感」を描いているのも良いですね。  限られた予算が減っていくという、マイナスの焦燥感だけでなく、プラスの充足感も味わえる作りにしたのは、本当に上手い。  そんな節約が「討ち入り後の、残された者達を救う工作資金」に繋がるというのも、ハッピーエンド色を強める効果があって、お見事でした。    難点としては……  コメディ色が強い作りゆえか、ピー音を連発する場面なんかは、ちょっと雰囲気を壊してる感じがして、微妙に思えた事。  良い味を出していた矢頭長助が、死後は回想シーンなどでも一切姿を見せないので、寂しく思えちゃう事。  そして、忠臣蔵を代表する人気者の堀部安兵衛が、徹底的に情けなくて、良い所も無く終わっちゃうのが残念とか、そのくらいになるでしょうか。  幸い、それらの点を自分は「決定的な傷」とは思わなかった訳だけど、これを駄作と断ずる人の気持ちも、分かるような気がします。   でもまぁ、2019年にもなって「面白い忠臣蔵」を撮ってくれたという、その事に対する感謝の方が、ずっと大きいですね。  忠臣蔵という鉱脈は、まだまだ掘れるんだ、面白く出来るんだって事を証明してみせたという意味でも、非常に価値ある一本だと思います。
[DVD(邦画)] 7点(2023-02-02 13:50:35)(良:3票)
9.  スリーデイズ 《ネタバレ》 
 久し振りに再見し、細かい部分まで「すべて彼女のために」(2008年)をそのまま再現してるんだと感心させられた一方で、物語の根幹に関わる部分を大きく改変してるって事にも気が付き、驚かされましたね。  自分は最初に本作を鑑賞し、その何年後かに「すべて彼女のために」を観賞し、此度感想を書く為に二本連続で観てみたという形なのですが……  最初に観た時より衝撃が大きかったし、それに伴って、本作に対する評価も更に高まったように思えます。   何せ本作ってば、主人公が妻への疑いを捨て切れていないんです。  一応台詞では「妻を信じる」というスタンスだし、疑いを持ってるだなんて、それこそ自分の邪推に過ぎないのかも知れませんが、一途に妻を信じていた「すべて彼女のために」の主人公に比べると、見るからに様子が違うんですよね。  でも、それによって妻への愛が弱々しく感じられるなんて事は無く「たとえ妻が殺人を犯したとしても、それでも妻を愛する」という意思の強さが感じられる形になっているんだから、本当に見事。  「すべて彼女のために」は「妻を一途に信じ抜く男」を描いたのに対し、本作では「妻に疑惑を抱きつつも、それでも愛する男」を描いたのかな、と思えました。  だからこそ、同じストーリーの映画なのに「違った味わい」「独自の魅力」が生み出されている訳で、この辺りは本当に上手い。   「ドン・キホーテ」から影響を受けて「理性を捨てた方が人は強くなれる」と言い出す場面とか「狂人となっても、絶望に生きるよりはマシ」と覚悟を決める場面とか、この主人公は愛ゆえに狂気の暴走を果たす事になると、序盤の段階で示してるのも良いですね。  「すべて彼女のために」では、中盤以降の主人公の暴走っぷりに驚かされ、多少引いちゃう気持ちになったりもしたんだけど……  その点、本作は主人公に肩入れし易いし、過激な選択に至るまでの説得力も増していた気がします。   物語の途中で出会う「ママ友」ならぬ「親友(おやとも)」な女性の活かし方も上手い。  「すべて彼女のために」では主人公とのロマンスを予感させ「その気になれば他の女性と幸せになる事も出来るが、それでも妻を選ぶ主人公」って示すだけの存在だったと思うんですが、本作は彼女に他の役目も与えているんですよね。  いざという時に備え、息子のルークを預ける場面を挟み、主人公の「もしかしたら、自分は助からないかも知れない」という悲壮感を高めるのに成功してる。  こういうリメイク映画における「既存の人物の重要性を高める改変」っていうのは、観ていて本当に嬉しくなっちゃうし、もう大好物です。   他にも「あえて偽の証拠を残しておき、警察の捜査を欺く」という罠を用いる事によって、主人公の有能さが増している事。  妻に嫌疑が掛かった殺人事件の真犯人が誰か、観客に教えてくれる事なんかも、嬉しい改変。  これらの改変部分に関しては「余計な事をした」「何でもかんでも説明し過ぎて、野暮な作りになった」と感じる人もいるんでしょうけど、自分としては正解だったと思いますね。  あれだけ用意周到に計画を立てていた主人公が、証拠を燃やしもせずにゴミ箱に捨てて警察に見つかっちゃうってのは違和感あったし、殺人事件の真相についても、明確に描いておいた方が、スッキリとした後味になるんじゃないかと。   そんな具合に、色々と改変している一方で「すべて彼女のために」でも印象的だった、不仲だった父との別れ際のハグについては、ほぼそのまま情感たっぷりに描いてくれてるのも、実に嬉しい配慮。  主人公の妻は美女で、息子は美少年っていう辺りも、殆どそのまま再現しており、感心させられましたね。   そのままの方が良い箇所に関しては、そのまま。  そして変えるべき箇所に関しては、思い切って変えるという采配が絶妙でした。   本作「スリーデイズ」は傑作であり、これ単品で鑑賞しても、文句無しに楽しめるのですが……  「すべて彼女のために」とセットで鑑賞すれば「リメイクの妙味」「新たに映画を作り直すという意義」についても感じ取る事が出来るんじゃないかって、そんな風に思えましたね。  娯楽作品としても、リメイク映画の理想形としても、オススメしたい一本です。
[DVD(吹替)] 8点(2023-09-28 21:29:31)(良:3票)
10.  ショコラ(2000) 《ネタバレ》 
 こういった内容の映画である以上、観賞後に「チョコレートを食べてみたい」と観客に思わせる事が出来れば成功なのだと思います。   自分はといえば、事前に買い込んでおいたチョコレート菓子の包装を解いて、美味しく頂かせてもらったので、まず満足。  基本的に優しい映画であり、作中の人物殆どが幸せな結末を迎えてくれるので、後味も良かったですね。   特に感心させられたのが主人公の扱いで、こういった御話では 『主人公は癒しを与える天使のような存在なので、心の弱さを見せて取り乱したりしない』 『村の人々が幸せになるのを見届けた後、主人公は次の村に幸せを運ぶ為に風のように去っていく』  という不文律が存在しているにも関わらず、本作は意図的にそれを覆しているのです。  終盤に北風が誘い掛けるシーンでは(あぁ、やはり立ち去ってしまうのか……)と寂しく思っていただけに、それを否定して窓を閉め、街に留まる事を選択する姿に驚き、安堵もさせられましたね。  遺灰を撒いて、それが北風に運ばれる描写もあったとなると、次の「幸せを運ぶ旅人」の役目は、あのお婆ちゃんにバトンタッチされたのかな? とも推理出来て楽しかったです。   ちょっと気になったのは、作中で唯一「救われない」人物として、セルジュが存在している事。  彼の扱いが完全なハッピーエンドとなる事を妨げているので、そこをもう少し上手くやってくれていたら、より満足出来たんじゃないかと思えましたね。  女性目線の映画なのだから「家庭内暴力」を振るった以上は許されるべきではないという判断なのかも知れませんが、一応彼なりに妻を愛していて、反省し、許しを乞うていたのだから、復縁するのは無理としても、もうちょっと救いを感じさせる顛末にしても良かったんじゃないかなぁ、と。  火事の件など、物語の進行上に必要な悪事は全て彼に押し付けて、村から追放したという形だったのが、どうにも居心地が悪かったです。  意地悪な見方かも知れませんが、村長の妻だって浮気という罪を犯しているのに、そちらは全く罰せられる描写が無しというのも、何だか女性に都合の良い世界観に思えてしまいました。  いっそ次の「幸せを運ぶ旅人」の役目を、セルジュに担わせても良かったんじゃないかと思えるのですが、どうなんでしょう。   そんな本作の中で自分の一番のお気に入りは、倦怠期に陥っていた夫婦が「情熱を呼び戻すカカオ豆」を通じて、仲睦まじい夫婦に変わっていくシークエンス。  ちょっと下世話な描写でしたが、お風呂掃除中の妻のお尻に欲情してしまう件なんかが、非常に共感を持てたのですよね。  その後に、妻の荷物を「持つよ」と優しく提案する姿など、些細な描写の中にも「不器用ながらも、妻想いな旦那様」に変わった事が窺えて、微笑ましかったです。   断食の果てにチョコレートに貪り付く村長の姿からは、一種のカタルシスが感じられたし 「人間の価値は何を禁じるか、何を否定するか、誰を排除するかではなく、何を受け入れ、何を創造し、誰を歓迎するかで決まる」  というアンリ神父のお説教も、心に沁みるものがあって良かったですね。  娘の友達であるカンガルーの存在も、物語の寓話性を高める程好いアクセントになっていたと思います。   ゆったりと身を委ねたくなるような甘みと、微かな苦み、両方を味わえた映画でありました。
[DVD(吹替)] 7点(2017-02-03 05:58:00)(良:3票)
11.  地獄の変異 《ネタバレ》 
 某探検隊風の予告編とは異なり、コメディ要素は皆無で、至って真面目に作られた一品ですね。   洞窟内の映像も美しく、しっかり作り込まれているのが伝わってきます。  ……ただ、どうも真面目過ぎるというか、強くダメ出しする部分も無いけど、大きく褒める部分も見つからない。  退屈はしなかったけれど、面白いとも感じなかったという、何とも微妙な印象を受けてしまいました。   楽しめなかった理由を分析してみるに、まず全編に亘って舞台が洞窟内に絞り込まれており、洞窟外のシーンが僅かしか存在しないので、息苦しい構成になっている事。  そして「主人公の兄が怪物に変異して敵対するのかと思いきや、最後まで味方のままで終わる」事が大きかったのではないでしょうか。  この辺りは「徹底して洞窟探検に拘った、潔い映画」「観客の予想を裏切る脚本」と褒める事も出来そうなんですけど、自分としてはマイナス点に感じられましたね。  前者に関しては、やはりずっと洞窟内のままだと画面が代わり映えしなくて単調になってしまうし、後者に関しては「頼れる兄との対比で情けない弟だった主人公が、最後まで情けないまま成長せずに終わる」という落胆に繋がってしまった気がします。   終盤の怪物達との戦闘、そして兄が完全に怪物になってしまう前に自己犠牲で相打ちとなる事を選ぶ展開などは良かったと思うのですが、実はヒロインも地底生物に寄生されており「怪物が地上に解き放たれてしまった」という後味の悪いオチが付く辺りも、ちょっと微妙。  ここの部分、ヒロインが寄生されていると分かった時の音楽や演出などが「えっ、何? まだ終わっていなくて続くの?」と思わせる感じだったもので、その後すぐ音楽が止んで完結を迎えるのが、何かチグハグだったのですよね。  それなら「実は彼女も寄生されていた」という衝撃と共に映画を終わらせる……具体的に言うと「ヒロインが立ち去る場面」で、そのまま終わらせて「主人公がヒロインを追いかけようとするけど見つからなくて途方にくれる場面」の数十秒はカットした方が、余韻が残って良かったんじゃないかな、と思えました。   それにしても「カタコンベ」といい「ディセント」といい、地下を舞台としたホラー映画って後味が悪いというか(うわぁ……)と感じさせる終わり方が多いですね。  これって偶々なのか、それとも「やっぱり地下系ホラーは、こういう終わり方じゃないとな!」という拘りのようなものが存在しているのか、気になるところです。
[DVD(吹替)] 5点(2017-03-08 11:15:26)(良:3票)
12.  団塊ボーイズ 《ネタバレ》 
 「Wild Hogs」という原題が恰好良過ぎるので、邦題もそのまま「ワイルド・ホッグス」にして欲しかったなぁ……なんて、つい思っちゃいますね。  かつて「バス男」が「ナポレオン・ダイナマイト」と改題し再販されたように、こちらも再販して欲しいものですが、流石に難しいでしょうか。   そんなタイトルに関するアレコレはさておいて、映画本編はといえば、実に心地良い「旅行映画」であり「青春映画」であり、自分としては、もう大満足。  ツーリング中の風景は美しいし、音楽も良い感じだし、何より「水場を見つけて、そこで泳ぐ」「テントを張って、皆で焚き火を囲む」などのお約束場面が、しっかり盛り込まれているんですよね。  こういった映画である以上「良いなぁ、自分もツーリングしたいなぁ」と感じさせる事は必要だと思いますし、それは間違いなく成功していたんじゃないかと。   主人公のウディは「破産」に「離婚」にと、様々な問題を抱えているのに、ラストにおいてもそれらの問題が一切解決していないというのも、本作の凄い部分ですよね。  それが決して投げっ放しにならず、劇中で語られた通り「たとえ仕事も家族も失っても、俺には仲間がいる」という前向きな結論に繋がっているんだから、お見事です。  聞くところによると続編の予定もあったそうで、諸々の問題については、その続編にて解決するつもりだったのかも知れませんが、これ一作でも充分綺麗に纏まっていた気がしますね。  この「仲間がいる」という結論は「仲間との絆さえあれば、どんな逆境でも乗り越えられる」というメッセージに繋がっているように思えて、本当に好きです。   一緒に水浴びしたハイウェイポリスをはじめ、同性愛ネタが多いのは鼻白むし「イージー・ライダー」を鑑賞済みじゃないとクライマックスで盛り上がれないんじゃないかと思える辺りは欠点なのでしょうが……それでもやっぱり好きなんですよね、この映画。  特に後者については、元ネタありきのパロディ展開なのを承知の上でも、観ていて熱くなるものがありました。  ピーター・フォンダって、恰好良い歳の取り方をしているなぁって、惚れ惚れしちゃいましたね。   腕時計を投げ捨てて旅に出る「イージー・ライダー」と重ね合わせる為、携帯電話を投げ捨ててから旅に出るシーンも面白かったし、それを踏まえての「時計を捨てろ」というラストの台詞も最高。  敵役となるデル・フェゴスのアジトを爆発炎上させちゃったのは「やり過ぎ」感があり、これじゃあ主人公達が悪者みたいでスッキリしないなと思っていたら、最後の最後で「以前より素敵な住処をプレゼント」というフォローが入っていたのも嬉しいですね。  その後、仲間達による乾杯シーンで終わるというのも、凄く気持ち良い〆方。  この「後味の良さ」は、偉大な先達である「イージー・ライダー」には備わっていなかった部分であり、本作が単なる模倣ではない、オリジナルの魅力を備えた品である事を証明している気がします。   「バイク好き限定」「中年男限定」などの枠に囚われず、女性や子供が観たとしても結構楽しめるんじゃないかな、と思えてくる。  とても愉快な、浪漫のある映画でした。
[DVD(吹替)] 8点(2018-07-23 05:17:06)(良:3票)
13.  ゾンビランド 《ネタバレ》 
 世にゾンビ映画は数多く存在しますが「その中で一番好きなのは何?」と問われたら、本作を挙げるかも知れません。   そのくらい面白いし、楽しいし、魅力的な一品なんですよね。  文明社会が崩壊した理由を長々と語らず「ゾンビウイルスに汚染されたハンバーガー」がキッカケだとナレーションで軽く説明してしまい、後はひたすら主人公達が「ゾンビランド」で生き抜く様を描くという、そのシンプルさが心地良い。  主人公のオタク青年に、相棒となるタフガイ、ヒロイン枠とマスコット枠となる美少女姉妹という、登場人物のバランスも良かったです。   主人公が「ピエロ恐怖症」なんだと告白すれば、その後にピエロゾンビと戦うシーンが挟まれ、恐怖を乗り越えて成長する姿が描かれたりして、とにかく観客の期待を裏切らない作りになっている辺りも、実に素晴らしい。  そうやって、本筋に関しては王道を守りつつ、要所要所で「意外性のある場面」を挟み、飽きさせないようにしている工夫も上手かったですね。  「姉妹達の裏切り」にせよ「相棒のタラハシーが可愛がっていた仔犬の正体」にせよ、直接本筋と絡むエピソードではないので「初遭遇時から姉妹と仲良くなる」でも「タラハシーは仔犬を失ってしまった男」でも、構わないといえば構わないはずなんです。  でも、そこをあえて「裏切られた後に仲良くなる」「仔犬ではなく息子を失ったのだと知って、一同の絆が強まる」という形にする事によって、観客を驚かせる事にも、劇中の人物達に深みを与える事にも成功している。  この辺りの「お約束な魅力」と「意外性の魅力」との使い分けが絶妙で、本当に上手い脚本だなぁと、観ていて感心する事しきりでした。   恐らくは軍隊が乗り捨てていったのであろう戦車がさりげなく背景に映っている(しかも主人公達はそれを驚きもしない)とか、文明崩壊後の世界の描写に、ちゃんと説得力があった点も良いですね。  土産物屋で暴れて、店内を滅茶苦茶にする場面では「ゾンビ」(1978年)から通じる「文明が崩壊した世界で好き勝手やる楽しさ」が感じられたし、皆で暖炉の前に集まってモノポリーする場面なんかも、凄く好き。  「お金はいくらでもあるけど、もうモノポリーで使う事くらいしか出来ない」っていう皮肉さを、さらりと描く辺りなんて、本当に御洒落だと思います。   ビル・マーレイが呆気無く死んじゃうのは寂しいとか、姉妹はシャワーを渇望していたのだから、それを叶えるシーンがあっても良かったのにとか、遊園地でピンチになるまでの流れが無理矢理過ぎるとか、不満点もあるにはあるんですが……  それらもテンポ良く、ギャグを交えながら描かれているので、あまり気になりませんでしたね。   それよりも、小さな売店に籠城して、四方八方から襲い掛かるゾンビを迎え撃つ場面が、痺れるほど恰好良かった事。  クライマックスの舞台が遊園地だからこその、様々なアトラクションを駆使した「対ゾンビ戦」も丁寧に描かれている事など、長所の方が、ずっと印象深い。   終盤にて、主人公は「女の子の髪を撫でる」という夢を叶える事が出来たし、相棒も念願のトゥインキ―を無事ゲット出来たしで、カタルシスを存分に味わえる作りになっているのも、嬉しかったですね。  「僕達は皆、ゾンビランドで一人ぼっちだ」と呟いていた主人公が、家族を手に入れて、再び旅立っていく。  そんなハッピーエンドで終わる辺りも、文句無し。   遊園地で一日過ごした後のような、心地良い充足感に浸れる映画でありました。
[ブルーレイ(吹替)] 9点(2019-04-24 23:26:26)(良:3票)
14.  ロッキー 《ネタバレ》 
 あまりにも有名過ぎて、本編を観る前から結末を知っていた映画というものが幾つか存在します。  それは「第三の男」であったり「猿の惑星」であったりする訳ですが、そんな中でも代表的な一本は何かと問われたら「ロッキー」こそが答えに相応しいのではないでしょうか。  あのラストシーン。互いの名前をひたすら呼び合う二人、抱き合う二人。本やテレビの映画名場面特集などでも挙げられるし、パロディでも度々取り上げられています。  勝敗など度外視し、リマッチの誘いすらも「知った事か!」と言い放ち、自らは殴られて変形した顔でありながら恋人の帽子が無くなった事の方を気にする主人公と、そんな彼に勇気を与えてくれたヒロイン。本当に素晴らしいです。   ラスト以外でも、トレーニングシーンの高揚感も特筆物なのですが、僕が一番好きなのは試合の前夜、ふっと夢が醒めたように現実に引き戻されたロッキーが「勝てる訳が無い」とエイドリアンに心情を告白する場面。  アポロは史上最強と謳われた王者、という当然の現実を受け止めて、冷静に自己分析しながらも、それでも逃げずに戦う。  勝つ為ではなく、自己証明の為に、という姿勢に痺れちゃいますね。   裏話によると、この映画には「偶々通りかかった電車」「偶々オレンジを投げ渡してくれた人」「偶々間違っていたポスター」「偶々大き過ぎた衣装」など、幾つもの偶然が素敵に作用しており、その結果として完成した品であるのだとか。  僕にとって、とても大切で特別な映画でありますし、それと同じように感じるファンを永遠に獲得し続けていく映画でないかな、と思えます。
[DVD(字幕)] 10点(2016-04-01 22:52:09)(良:3票)
15.  プロジェクトA 《ネタバレ》 
 映画史に残る大傑作。   ジャッキーの自伝に曰く「少林寺や彷徨う戦士達を主人公にしなくても、格闘時代劇が作れる事を証明した」点が画期的との事で、言われてみれば本作の主人公って、現代の刑事物にも通じる「正義感溢れる警官」として描かれてるんですよね。  だからこそ、現代の観客にとっても感情移入し易いし、時代を越えた普遍性が有る。  そもそも中国(&香港)においては「官は悪、侠は善」(役人は庶民をいじめる悪役であり、御上に逆らう無頼漢が庶民の味方)という作劇上の伝統があった訳で、警官を主役に据えてる時点で、本作が斬新な映画であった事が窺えます。   その一方で「警察なんて辞めてやるぜ!」と啖呵を切ってバッジを投げ捨てる場面など、ちゃんと「理不尽な役人に逆らうアウトローな主人公」としての魅力も描いてるのが凄い。  当時の人々や「権力者側を善玉として描くのを嫌がる人」でも受け入れ易いよう作ってある訳で、この辺りのバランス感覚が、本当に見事。  「王道を裏切らずに、斬新な事をやってる」という形であり、これって理想的な「時代の先取り」の仕方だと思います。    自転車を駆使してのアクション(自分は「ノック」の件が特にお気に入り)も素晴らしいし、今や語り草になってる「時計台からの落下」シーンも、迫力満点。  後者に関しては、怯えるジャッキーを叱咤激励する形でサモ・ハンが監督しているとの事で、あの場面ではジャッキーが「監督」ではなく、単なる「役者」そして「スタントマン」に立ち返っているという意味でも、趣深い魅力がありますね。  「あの画には全く演技がなく、全て真剣だった」とジャッキーが語る通り、本当に限界を越えて手から力が抜けて(もう、だめだ)と思いながら落下したとの事で、作り物ではない「本物」の迫力が感じられるのも納得。   ただ、そんな名場面にも唯一の瑕が有り「時間が巻き戻ったかのように、違う落ち方を二度見せている」のが不自然なのですが……  これに関しては、劇中で「大口」役を演じたマースが、念の為に一度ジャッキーの代役として落下しているという裏話が影響していそうなんですよね。  つまり、ジャッキーが彼に敬意を表して、彼のスタント場面も無理やり本編に挿入した結果、不自然な形になったのではないかと推測出来るんですか、真相や如何に。   上述の「大口」への敬意の表れが、終盤の展開に影響してるように思える辺りも、ちょっと気になります。  本作のラスボスであるサン親分って、ジャッキーとサモ・ハンとユン・ピョウが三人掛かりで立ち向かうような強敵だったのに、何故か大口がトドメを刺す形になっているんです。  最後の漂流シーンでも、三大スターを押しのけて大口が一番目立っているし……  大口が当初から準主役だった訳でもなく、脇役に過ぎなかった事を考えると、この「急に何かが変わったかのような優遇っぷり」は、如何にも不自然。  これも、時計台落下という危険なスタントをこなした大口に対する、ジャッキー監督からの「ご褒美」だったんじゃないかと、そんな風に妄想しちゃいますね。   でもまぁ、そういった難点があったとしても、本作が傑作である事は、疑う余地が無いです。  冒頭、ジャッキーが自転車を柵に突っ込ませる場面で、もう面白くって「これから凄い映画が始まる」って予感で、ワクワクしますし。  酒場での乱闘シーンなど、音楽の使い方も上手かったです。  沿岸警備隊が復活し「これより、プロジェクトAを決行致します」と告げる場面も恰好良くって、もしかしたらココが一番の名場面じゃないかと思えたくらい。   サモ・ハン演じるフェイとドラゴンが再会する件で、自然な流れで食事してジャンケンする場面など、短い尺で「二人は旧知の仲」と納得させる演出なんかも、流石だなぁと唸っちゃいますね。  この辺りは、実際に少年時代からの付き合いである二人だからこその、阿吽の呼吸を感じました。  京劇出身な二人らしい一幕もあったりするし、色んなジャッキー映画の中でも「サモ・ハンとの絆」が、最も良い具合に作用したのが本作だったように思えます。   他にも「時計台落下はハロルド・ロイドから、逃走シーンはバスター・キートンから影響を受けている」とか、この映画について語り出すと、止まらなくなっちゃいますね。   映画の評価なんて移ろい易いものであり「子供の頃に好きだった映画が、今観るとつまらなくて幻滅しちゃう」とか、逆に「子供の頃は退屈だった映画が、名作だと気付かされる」とか、色んなパターンがある訳ですが……  本作に関しては「子供の頃も、大人になった今でも、大好きな映画」だと、胸を張って言えそうです。
[DVD(吹替)] 9点(2023-10-10 10:00:19)(良:3票)
16.  遊びの時間は終らない 《ネタバレ》 
 タイトル通りの結末を迎えてくれるという、とても親切な映画。   一応、劇中にて「遊びの時間が終った」瞬間も描いており(主人公の平田が捕まったら、どうなってしまうんだ?)って疑問に対する答えを、きちんと用意してる辺りも嬉しいですね。  中途半端で、投げっ放しとも言える終わり方なんだけど、この「一度は逮捕エンドを迎えさせ、その後に再開している」という構成の御陰で、後味も悪くなかったです。   人質を「レイプ」する代わりに腕立て伏せで体力を消耗するとか、原作小説で印象深い場面はキチンと映像化してくれてるし、原作には無い映画オリジナルの要素として、阪神ファンのおじさんを登場させてるのも上手い。  そもそも原作の時点で「下っ端のヒラ巡査である主人公が、警察組織を翻弄する」「上流階級のエリートの鼻を明かす」という要素は含まれていた訳だけど「阪神を応援する時みたいに、犯人役を応援し始めるおじさん」って展開のお陰で、そういう「平田が庶民のヒーローになる」までの流れが、非常に分かり易くなっているんですよね。  思えば原作が発表された1985年当時、阪神タイガースには平田勝男という守備の名手がおり、優勝に貢献していたりもする訳だから、映画版スタッフも、その辺を踏まえて「平田=阪神」という重ね合わせを行ったのかも知れません。    そんな具合に「面白い原作小説を、更に面白く仕上げた映画」って形になっており、小説の映像化としては、ほぼ理想に近い出来栄え。  あえて言うなら「原作ではエリートの深川が二枚目で、主人公の平田は二枚目じゃない」という設定なのに反し、映画版では本木雅弘が平田を演じてるのが、原作との最大の違いなんだけど……  それも「平田がアイドル的な人気を得る」って展開に合っていたし、良い改変というか、良い配役だったと思います。   深川が「実は防弾チョッキを着ていた」と主張すれば、平田は防犯ビデオの映像を持ち出し「頭を撃ってるので、防弾チョッキを着ていようと死んでる」と証明してみせる場面とか、文字媒体ではない、映像媒体ならではの面白さを描いてる点も良い。  脱出の為に「金」をバラ撒く場面も「嘘を現実に変えてみせた」という不思議なカタルシスがあるし、視覚的に派手な見せ場にもなっているしで、良かったですね。  「原作通りで面白い場面」「原作には無かったけど面白い場面」その両方を描く事に成功しているんだから、本当にお見事です。   終盤、とうとう銀行から飛び出して逃亡する際に、相棒である中野が「……ここまでヤッちゃって、大丈夫かな?」と、ふと夢から醒めたような台詞を吐く件も、妙に好きなんですよね。  このまま続けたら、遊びが遊びじゃなくなってしまうかも知れない。  警察側が再び実弾を使用し、本物の犯人みたいに撃ち殺されるかも知れない。  それでも遊びを止められず、最後まで突っ走ろうとする主人公達が恰好良くて、何だか眩しく見えてくるような、忘れ難い名場面でした。   ……以下は、映画本編には関係無い余談というか、思い出話。  実は、この映画を初めて観た頃の自分って「邦画は洋画よりつまらない」「日本には、本当に面白い映画なんて全然無い」っていう偏見を抱いていたんですよね。  今は単純に映画を観た本数も増えて、面白い邦画も沢山あるのを知った訳だけど、当時の無知な自分は、本気でそう考えていたんです。  そんなある日、颯爽と現れた「本当に面白い映画」がコレだったんだから、初見の際の衝撃は、それはもう凄いもんでした。   そんな訳で、かつての自分のように「邦画は面白くない」って考えてる人がいたら、ついコレを薦めたくなっちゃうんですよね。  今なら、他にも面白い邦画を色々知ってるし、中にはコレより面白いって思える品もチラホラあったりするんですが……  やっぱり、そういう時は、この映画が一番頼もしく思えちゃいます。   自分にとっての、ヒーローのような映画です。
[DVD(邦画)] 9点(2022-12-27 14:45:40)(良:3票)
17.  吸血鬼ゴケミドロ 《ネタバレ》 
 とにかくもう、展開が早い早い。  映画が始まって十分も経っていないのに「旅客機がハイジャックされる」→「不時着する」までを描き、その間にも「血の海のように赤い空」「その中を泳ぐように飛ぶ旅客機」「窓に激突して血みどろになる鳥」と、印象的な場面をバンバン盛り込んできますからね。  「爆弾魔は誰か?」「狙撃犯は誰か?」といった作中の謎も、手早く解き明かし「人間VSゴケミドロ」「人間VS人間」という対立劇に移行する。  その潔さ、割り切りの良さ、実に天晴です。  本作は国内外でカルト的な人気を誇っており、あのタランティーノ監督もお気に入りとの事ですが、その理由の一つは、この「早さ」が心地良いからじゃないかな? と思えました。   作品のテイストとしては、自分の大好きな「マタンゴ」に近いものがあり、ゴケミドロなんかよりも、人間の方がよっぽど恐ろしいと思える作りになっているのも特徴ですね。  日頃恨みを抱いている相手に、喉が焼けて苦しくなると承知の上で、水ではなくウィスキーを飲ませる件なんて、特に印象深い。  また、如何にもな悪徳政治家とその手下だけでなく、金髪美人のニールさんまでエゴを剥き出しにする辺りも、意外性があって良かったです。  ヒロインと並んで「善人側」であると思っていた彼女が、銃を手にして主人公に発砲し、自分だけでも助かろうと足掻く姿を見せてくる訳ですからね。  これは、本当にショッキングでした。   楠侑子演じる法子さんがゴケミドロに操られ「人類の滅亡は目前に迫っている」と語った後、笑って崖から身を投げるシーンも、忘れ難い味があります。  干からびてミイラになり、恐ろしい姿になっていた、その死体よりも何よりも(もしや、最後の笑いと自殺に関しては、操られての事ではなく、自らの意思だったのでは?)と思える辺りが怖いんですよね。  それは人間の意思がゴケミドロに敗北してしまった事の証明、狂気に負けてしまう人間の弱さの証明に他ならず、深い絶望感を与えてくれます。   そんな風に「テンポの良さ」「随所に盛り込まれる衝撃的な場面」などの長所がある為、細かな脚本の粗は気にならない……と言いたいのですが、ちょっと粗が多過ぎて、流石に気になっちゃう辺りが、玉に瑕。  まず、高英男演じる殺し屋は素晴らしい存在感があり、ゴケミドロに寄生されて襲い掛かって来る姿もインパクトがあって良いんですが、これって脚本的に考えると、凄く変なんですよね。  だって彼、最初から主人公達と敵対している殺し屋であり、別に寄生なんてされなくても、元々が銃を使って争っていた相手なんです。  にも拘らず寄生されてからはゾンビや吸血鬼よろしく、ゆっくりと動いて襲い掛かって来るのだから「見た目が怖くなっただけで、むしろ敵としての危険度は下がっている」訳であり、これは明らかにチグハグ。  ベタかも知れませんが、こういった寄生型の場合「本来なら敵対するような間柄じゃなかった相手に襲われてしまう」「善良だった人物が化け物に変わってしまう」という形の方が、よりショッキングだったんじゃないかなと。  もしかしたら「ゴケミドロよりも人間の方が恐ろしい。だからこそ寄生される前の方が危険な存在だった」というメッセージを意図的に盛り込んだのかも知れませんが、それならゴケミドロなんか襲来しなくても人類が勝手に自滅したという結末の方が相応しい訳で、やっぱりチグハグ。  脚本上の難点は他にも色々とあるのですが、自分としては、そこが一番気になっちゃいました。   ただ、バッドエンドが苦手な自分でも、本作の「人類滅亡エンド」に関しては、不思議と受け入れられるものがありましたね。  最後まで善良さを保っていた主人公とヒロインが、直接死亡する描写が無い事。  「宇宙の生物は、人間が下らん戦争に明け暮れている隙を狙って攻撃しようとしている」との言葉通り、戦争批判が根底にある事。  そして何より「人類が戦争を続けていると、何時かこうなっちゃうかも知れないよ」という反面教師的なメッセージが込められているからこそ、観ていて嫌な気持ちにならなかったのだと思われます。   そういった具合に、歪だけど不思議と整っていて、もしかしたら凄い映画なんじゃないか……と錯覚しそうになる。  そんな絶妙な、しかして危ういバランスこそが、本作最大の魅力なのかも知れません。
[DVD(邦画)] 7点(2017-10-28 06:41:00)(良:3票)
18.  ラブ・アクチュアリー 《ネタバレ》 
 「ラブ・アクチュアリーを観た日」という曲を聴いた勢いで、元ネタである本作も鑑賞。   所謂「グランド・ホテル」形式の群像劇であり、エピソードの殆どを「恋愛」で纏めている点と「クリスマス」という特別な日にスポットを当てた点が、当時としては斬新だったのでしょうね。  この映画から数年後に「バレンタイン」や「大晦日」にスポットを当てたラブコメ群像劇が作られていますし、影響力の強さが窺えます。   登場人物が多く、同時進行するエピソードも多くて、難易度の高い作品なのですが、それをギリギリで混乱させず、破綻させずに仕上げてる手腕も見事。  特に「場面転換の際に音楽を用いて、各話の繋ぎを自然にしてる事」には感心させられましたね。  主人公の一人が歌手である点も含め、全体的に音楽の使い方が上手かったと思います。   個人的に一番好きなのは、義理の親子であるダニエルとサムが、少しずつ距離を縮めていくエピソード。  そして、ラブストーリーとして一番好きなのは「小説家と家政婦の恋」になりそうですね。  後者に関しては「言葉が通じない彼女とも、キスによって互いの想いを確認する」「片言のポルトガル語で告白したら、相手も片言の英語で答えてくれて、互いに相手の為に言葉を習ってたと分かる」って場面が凄く良かったし、映画全体の構成を考えても、この二組の話が主軸になってた気がします。   それと、オールスターキャストも魅力的でしたが、やはり一番印象深いのは、ローワン・アトキンソン。  カメオ出演のような形で「店員役」として登場し、それで出番終了とばかり思っていたのに、終盤まさかの再登場でしたからね。  しかも、デパートでは傍迷惑だった「緩慢な動作」が、空港では恋する少年を助ける形になってたりするんだから、これには脱帽。  つまり「誰かにとっては迷惑な人物が、他の誰かにとっては有益な人物と成り得る」って事を描いている訳で、群像劇ならではの魅力があるんです。  正直、各キャラの繋がりが「たまたま知り合いだった」「血縁だった」程度な事にはガッカリしちゃったけど……  彼の存在だけでも、本作を群像劇にしたのは正解だったと言えるんじゃないでしょうか。   その他、欠点としては  ・歌手からマネージャーへの想いが、友情なのか同性愛なのか分かり難い。 ・サムがダニエルの事を初めて「パパ」と呼んだ場面が、アッサリし過ぎていて戸惑う。 ・クラウディア・シファー演じるキャロルが出てくる場面は意味深なのに「本当に偶々、ダニエル憧れのクラウディア・シファーに似てるだけ」ってオチなのが残念。   等々が挙げられそうですが……  これらに関しては「脚本が説明不足」というより「演出が拙くて、場面の意味が伝わり難い」って印象を受けましたね。  やはり、リチャード・カーティスは「監督」というよりも「脚本家」気質の人なんだと思います。   後は「アメリカに行けば俺はモテまくるはず!」って一念で渡米した若者が、本当にモテモテになっちゃうオチだったのは吃驚したとか、精神を病んだ弟がいるサラだけは意中のカールと結ばれず可哀想とか……気になったのは、そのくらいかな?  サラという例外もありましたけど、彼女は彼女で「恋愛」よりも「姉弟愛」を選んだと言えそうな感じですし、色んな形の「愛」を肯定し、優しく包み込んでるような雰囲気が心地良かったです。   「ハッピーエンドな恋愛映画」の代表として、曲のタイトルに選ばれるのも納得なくらいの、良い映画でした。    ……ちなみに、2017年の続編ドラマ(米国版)では、サラがカール以外の男性と結婚する展開になってたりもするんですよね。  本作を鑑賞後にモヤモヤが残ってしまった人は、そちらも是非チェックして欲しいです。
[DVD(吹替)] 7点(2021-12-25 21:12:45)(良:3票)
19.  スクリーム(1996) 《ネタバレ》 
 2021年に鑑賞してみると「主演はドリューバリモアかと思ったのに、冒頭で殺されて吃驚」感が当時より高まってる気がしますね。   この「電話の向こうの殺人鬼に襲われる」導入部は秀逸であり、ウェス・クレイブン初期の秀作「鮮血の美学」に通じるような、陰鬱さと絶望感があったと思います。  此度再鑑賞してみて(ここだけクオリティ高過ぎて、浮いてるなぁ……)と感じちゃったくらい、見事な仕上がりでした。   作中で論理的な手掛かりが示された訳でもない為「犯人探しのミステリー」としては成立していないんじゃないかと思えますが……  それでも「犯人は二人組」「最初に犯人かと疑われた彼氏のビリーが、本当に犯人」ってのは意外性があって、良かったですね。  この辺りは、単なるスラッシャー映画の枠に留まらない魅力を感じます。  鑑賞後に「スクリームの犯人は誰か知ってる?」と周りに語りたくなっちゃいますし、本作が公開当時ヒットしたのも、大いに納得。  冒頭から「二つのドア、どっちにいるでしょう?」というクイズを出したり「ビリーは犯人ではない」と思わせるミスリードに貢献したりと「犯人が二人いる」事に、ちゃんと意味があるのも良かったです。   作中にて「ホラー映画の法則」を茶化す場面が挟まれているのも、特長の一つ。  「ヴァージンの特権」とか「すぐ戻るって台詞だけは言わない」とか、生き残るコツについて説明する件も面白かったけど、個人的に一番ツボだったのは「殺さないで」「続編にも出たい」と訴えてた女友達キャラが、本当に殺されちゃった場面ですね。  その後、殺人鬼達も「俺達は生き残って、続編を作ってやるんだ!」と言ってたのに死んじゃうし……  何とも皮肉で滑稽で、人死にが絡んでるのに、つい笑っちゃいました。   ホラー映画が嫌いなヴァージン少女のシドニーと、ホラー映画オタクな殺人鬼のビリーっていう主人公カップルの組み合わせも面白くって、真相を知った上で再見すると、序盤のやり取りが更に楽しめちゃう作りなのも良いですね。  ビリーは「エクソシスト」のテレビ放送版で、過激なシーンが省略されてる事に不満を示したりと、実は序盤からオタク的な一面を見せていたし、ビデオ店で働くランディに絡む場面では「主人公の彼氏」とは思えないくらいの「嫌な奴」っぷりを披露していたしで、その後の展開に自然に繋げてる辺りも上手い。  犯人の動機について「ホラー映画が原因じゃない」「両親が離婚したせい」「周りの期待がプレッシャーになったせい」とわざわざ語らせているのも、脚本家の「ホラー映画愛好家」としての譲れない一線のようなものが窺えて、面白かったです。   「怪しまれないように自分達も傷を負っておく」にしても、シドニーに止めを刺してからやるべきだろうに、勝手に自滅した犯人達が間抜け過ぎるとか、デューイとゲイルのロマンスなど、中途半端に終わった要素が多くて消化不良とか、不満点も色々あるんだけど……  まぁ、この映画の場合、作中でホラー映画を観て楽しんでる若者達同様、そういう部分にツッコミ入れつつ観るのが正しい作法なんでしょうね。  実際、誰かと一緒にコレ観た時は絶対「いや、先にシドニー殺せよ!」ってツッコんじゃいますし。  そういった諸々も計算して、意図的に「ツッコミ所」を用意した脚本だったのだとしたら、本当に見事だと思います。    あとは……「エルム街の悪夢」は1以外は最低と作中で言わせるのは、ちょっと大人げないって思えた事(ウェス・クレイヴン監督は初代「エルム街の悪夢」の監督&脚本担当)  それと「13日の金曜日」でジェイソンが出てくるのは二作目からってのは間違いでは?(一作目ラストの夢のシーンでも少年ジェイソンが出てくる)って事が気になったとか、そのくらいですね。   今回、スクリーム4まで一気に再見する予定なのですが、それによって「スクリームは1が一番面白い」っていう自分の固定観念が揺らぐかどうか、今から楽しみです。
[DVD(吹替)] 7点(2021-11-03 08:37:04)(良:3票)
20.  サボテン・ブラザース 《ネタバレ》 
 「物語の中のヒーローが、本物のヒーローになる」映画の、元祖的存在ですね。   洋画では「ギャラクシー・クエスト」邦画では「ザ・マジックアワー」アニメにおいても「バグズ・ライフ」に「宇宙英雄記」と、様々な媒体で本作のプロットを拝借した作品が見つかる事に、その影響力の大きさが窺えます。  もしかしたら1986年以前にも似たような映画があったのかも知れませんが、自分は未だそんな映画に出会えていませんし(あえて言うなら「荒野の七人」?)やはり本作のオリジナリティはズバ抜けているんじゃないかと。   そんな訳で「映画史を語る上では外せない一本」「非常に斬新な、革命的作品」と、ひたすら絶賛したい気持ちもあるんですが……  正直、中弛みしている部分もあって、完成度が高いとは言い難い映画なんですよね。   象徴的なのが「唄う樹」と「透明な剣士」の存在であり、彼らだけ妙にファンタジー度が高い点も併せて、凄く浮いちゃっている。  作り手側としてもそれを気にしたのか、直前に「馬や亀も唄ったり喋ったりするシーン」を挟み、自然に感じられるようにと配慮しているのは窺えるのですが、それが成功しているとは言い難いかと。  結局、悪党のアジトは飛行機が原因で判明するので「アジトの場所を知る為には、唄う樹がある場所に辿り着き、透明な剣士に教えてもらう必要がある」って流れ自体が不要になっており、本当に(何だったんだアレは……)って思えちゃうんですよね。  そんな肩透かし感も、本作を彩るギャグの一種、愛嬌の一つではあるんですが「この映画の、そこが嫌」と言われたら、全く反論出来ない部分でもあります。  実際、上述の作品群も本作のプロットを拝借する一方で、この「唄う樹」と「透明な剣士」については、殆どスルーしちゃっていますからね。   それでも、やっぱりこの映画は好きというか……本当に魅力的な部分が幾らでもあって、語り出すと止まらなくなっちゃうくらいなんです。   まず、劇中劇となる白黒映画が意図的に稚拙に作られており(柵に切れ目があるのが破壊される前から見えてしまっている、など)それによって後の「映画ではない、本当の戦い」に迫力が生まれている点が素晴らしい。  主人公達が、一頭の馬に三人で乗ったり、一つのベッドに三人で寝たりする場面なんかも「仲良過ぎだろっ!」とツッコまされて、楽しかったですね。  荒野を彷徨い、他の二人が乾いている中で、ダスティだけが浴びるように水を飲む場面も可笑しくって、ギャグとしてはここが一番好きな場面かも。   「唄う樹」と「透明な剣士」とは反対に、後続の作品で頻繁に真似されている「相手が本物の悪党と分かって、怯える主人公達」の場面も、極めて面白く描かれており(こりゃあ真似したくなるわ)と、大いに納得させられました。   また「本当のヒーローじゃなかった」とヒロイン達がショックを受ける一方で、同じように「映画は嘘だった」とショックを受けて、かつての憧れが恨みに変わった男を敵役に配している辺りも凄い。  「映画の中のヒーロー」が、人々に希望を与えるだけでなく、絶望を与える事もあるという、非常に考えさせられる一幕。  このジャンルの映画が成熟して、数十年後にようやく生まれそうな展開を、元祖的存在の本作で既にやってのけているんだから、もう驚嘆するばかりです。   主役三人組の中で、一番頼りないかと思われたネッドが「男になるか、逃げだすか」と言い出して、三人が本物のヒーローになるキッカケを作ったり、銃による決闘に勝利したりと、作中で最も活躍しているという意外性も心地良い。  ラッキーによる終盤の演説「人は皆、心にそれぞれのエル・アポを抱えている」も胸を打つものがあり、本作に普遍的な物語性を与えているように思えましたね。    そして何といっても「正義。それが我らの報酬だ!」と劇中の映画同様に叫び、お金の入った袋を村の人々に投げ返してから別れるラストシーンが……もう、本当に名場面としか言いようが無い。  ここ、最初からお金を受け取らないつもりだった訳じゃなく、数秒の沈黙を挟んで、考えて、見つめ合って、それから「映画のように恰好付けて」袋を投げ返すっていうのが、たまらなく好きなんですよね。  決して完璧なヒーローではなく(このままお金を受け取っても良いかも?)と一瞬迷うという、人間的な弱さを備えている主人公達。  そんな彼らが、心の弱さに打ち勝って、女性や子供達に「ヒーローとは、斯くあるべし」という姿を見せ付け、颯爽と去っていく。   本当に素晴らしい、傑作という言葉が似合う一品でありました。
[DVD(吹替)] 9点(2018-05-30 14:03:26)(良:3票)

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