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プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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21.  ウォーリー 《ネタバレ》 
廃棄物の山となった惑星で時折吹き荒れる突風の危険に曝されながら残骸を拾って生活って、まんまカート・ラッセルの「ソルジャー」ではありませんか!ディズニーもカート・ラッセルのB級SFから映画を作る時代になったんですね!…というのは間違った見方だと思いますが、男子の好きなものにディズニー風の味付けをして新たな作品を生み出すピクサーの新作は相変わらずよく出来ています。SFやロボットへの愛情に溢れており、機械の細かいギミックの面白さや巨大宇宙船の仰々しさ、EVEの破壊レーザーなど押さえ所は外していません。惚れた女に逢いに宇宙船に乗り込むというエピソードⅣの物語を軸に、HAL9000のような赤いひとつ目コンピューターの反乱が絡む話自体に新しいものはないのですが、ピクサー印の徹底的に作り込まれた脚本によりこれら旧作の面白さがわかりやすい形で甦っています。そしてやっぱり凄いのが序盤の地球パートで、本当にセリフなしで物語をやってみせています。「ソルジャー」ではカート・ラッセルという生身の役者を使っても主人公の孤独を表現しきれなかったのに対し、本作はセリフのないロボットに性格を持たせ、観客に愛着を抱かせることに成功しているのです。思えば、擬人化されたキャラクターはこれまでのディズニー作品に大きな障害を与えてきました。キャラクターと人間をダイレクトに絡ませることができなかったのです。トイ・ストーリーでは「おもちゃは人間の前ではしゃべらない」という決まりを作り、カーズではすべてが車で構成された世界という荒業をもってキャラクターと人間社会に何が何でも壁を設けざるをえなかったのですが、本作ではついにその壁を破ったことでロボット達の物語と人類の物語の二層構造となり、単なるキャラクターの冒険物語を超え、人類の進化や文明とはといった大テーマまで含んだ作品となりました。地球を使い捨ててもまだ反省せず、宇宙でも便利さに甘えた結果歩くことも考えることも子育てすらもやめてしまった人類というヘビーなテーマを、ユーモアで包みながらもかなり真剣に扱っています。ロボット君の冒険物語だけならいつものよく出来たディズニー映画止まりでしたが、このパートのおかげで深い作品になったと思います。ラスト、WALL.Eが生き返ることは読めるので特に感動はしませんでしたが、ロボットと人類が協力して文明を築くエンドクレジットにはグっときました。
[映画館(吹替)] 8点(2008-12-19 00:41:00)(良:4票)
22.  スリーデイズ
『ミリオンダラー・ベイビー』で映画界に進出後、『007/カジノロワイヤル』までは飛ぶ鳥を落とす勢いだったポール・ハギス作品ということで過剰な期待があったことの裏返しか、公開当時、本作は批評面でも興行面でも苦戦を強いられたのですが、これが十分に面白い出来でした。。。 小品だからこそ、本作ではハギスによる鮮やかなストーリーテリングを楽しむことができます。妻の逮捕により幸せな家庭生活が破壊された。しかも、物的証拠はすべて妻の有罪を示しており、合法的な手段で妻を取り戻すことは困難な状況となっている。観客に主人公家族に対する愛着を抱かせると同時に、常識人である主人公が脱獄という異常な手段を選ばざるをえなくなるまでの過程をわずか30分で描ききるという手際の良さ。また、リーアム・ニーソン演じる脱獄のプロを登場させ、これからやろうとしていることがいかに困難で無謀なことであるかを懇切丁寧に説明させるという見事な煽り。さらには、クワイ・ガン・ジンばりの渋いマスターに見えたニーソンが、去り際に「で、今日の手間賃は持って来たの?」と言って、主人公の財布から無理やり札を掴み取って行くという下品さも見せることで、これから向かおうとしているのは甘いヒロイズムの世界ではなく、野蛮なアウトローの世界であるということもきちんと理解させる。本作の情報整理は神がかり的なレベルに達しています。。。 脱獄計画が始まってからは、終始イヤ~な汗をかかされます。小市民丸出しの主人公が、明らかに不慣れな言動や仕草でヤクザの世界に足を踏み入れたり、公安施設に細工をしたりするのだから、見ている側はハラハラさせられっぱなしなのです。『プルーフ・オブ・ライフ』ではプロの傭兵を演じていたラッセル・クロウが、本作では見事に小市民になりきっています。この人の演技が顧みられることは少ないのですが、そこは腐ってもオスカー経験者、このカメレオンぶりは驚異的ではないかと思います。。。 3日というタイムリミットが唐突に設定されて以降の素早い展開も素晴らしいと感じました。主人公の脱獄準備の過程を詳細に描きながらも、具体的な脱獄計画については意図的に触れてこなかったという脚本上の仕掛けがここで有効に活かされ、最後の最後までどう転ぶか分からないというスリルを味わわされるのです。熟練した職人の仕事は素晴らしい、そんなことを再認識させられる映画でした。
[DVD(吹替)] 7点(2014-03-01 02:06:08)(良:4票)
23.  インデペンデンス・デイ 《ネタバレ》 
【2011.12.9 レビューを変更しました】 これまでさんざんバカ映画だとこき下ろしてきた本作ですが、今回の鑑賞で考えを改めました。これは決してバカ映画ではなく、練り上げられた傑作シナリオを一般受けする形に味付けし直した作品のようです。エスねこさんが詳しく書いておられますが、この映画はキャラクター造型が抜群に優れています。私が特に注目したのがホイットモア大統領で、支持率が地に落ち、指導者としてのプライドも目標も失ってしまったダメ大統領として彼は登場します。決断力がなく、部下が言い争いをはじめても言葉ひとつ発することができない、記者発表も当然原稿を読み上げるだけ。デストロイヤー飛来から攻撃までには丸一日あったにも関わらず彼は初動を完全にミスり、数千万の国民と自身の妻の命を失ってしまいます。挙句の果てに反撃作戦も大失敗に終わり、貴重な兵力をも大幅に失ってしまう始末。そんな彼でしたが、妻の臨終を看取り、残された幼いわが子を見て「この子と、この子が生きる世界は自分が守らなければならない」と腹を括ったことから、リーダーの本分を取り戻します。リスキーな奇襲作戦に独断でGOサインを出し、世界中の残存兵力をテキパキとまとめはじめるのです。人類の存亡を賭けた一大作戦を前に、原稿ではなく自分の熱い思いをぶつけた演説のかっこよさは、映画史に残ると言っても良いでしょう。この役柄を、印象の薄い二枚目だったビル・プルマンに演じさせたキャスティングも絶妙で、彼がどんどんたくましくなっていく様は、この映画が優良なドラマ作品であることを証明しています。キャスティングで言えば、当時まだスターではなかったウィル・スミスを主演に据えた判断も神がかっています。彼の演じるヒラー大尉は、エリート軍人ではあるものの婚約者がストリッパーであるために出世の道が閉ざされつつあるという設定。しかし彼は婚約者とその連れ子を心から愛し、軍人としての夢よりも彼らとの生活を優先するという根っからの善人なのです。そんな彼の性格の良さ、常に前向きで一直線なところがエリア51に集まった負け犬達の心に変化を与え、やがて一大作戦を成功に導くこととなるのですが、これを演じるにはウィル・スミスは最適な俳優でした。今でこそ彼はスターですが、96年当時、大作経験のなかったウィル・スミスによくぞこの大役を任せたものだと感心します。
[映画館(字幕)] 7点(2006-11-04 19:54:08)(笑:2票) (良:2票)
24.  エイリアン:コヴェナント 《ネタバレ》 
プリクェルではないという微妙な立ち位置で多くの観客に混乱を与えた『プロメテウス』から一転し、本作では『エイリアン』の看板が戻り、全体としては原点回帰の作風となっています。怪しげな星に立ち寄った宇宙船がどえらい目に遭わされるという物語であり、血もドバドバ出ます。これぞエイリアンです。ただし、バカな人間がバカなことをしでかしたために余計に事態が悪化するという、この手の映画でやって欲しくない展開が非常に多くて登場人物に感情移入できなかったことが、観客の恐怖心を和らげるという悪い影響をもたらしていますが。 コヴェナント号が航路を外れてまで舞台となる星にやってくるという基本的な部分から、説明がうまくいっていません。「我々の生存に必要な要素が揃っている。当初の目標である植民星オリガエではなく、こちらの星に移住しよう」という突拍子もない意思決定が実にアッサリとなされるのですが、こんな重要事項に関する判断があまりに軽すぎやしないかと驚きました。一応、この意思決定を下した艦長代理には「信仰心が厚すぎる余り、合理的な判断をできない可能性のある人」という人事評価があり、そのために艦長への昇進を見送られてきたという設定もあるにはあったのですが、ならばなぜ他のクルー達は艦長代理に反対の声を上げないのかと思いました。会社命令で行かざるをえなかったノストロモ号のクルー達と比較すると、事の発端部分に自業自得の要素があるため、コヴェナント号のクルー達には感情移入できませんでした。 惑星に降り立った後も、生命に必要な水と空気があり、植物も生い茂っている環境であれば未知の病原体等のリスクを考えなければならないのに、防護服なしで普通に探検を始めるものだから、この人達はバカなのかと思ってしまいました。いよいよバックバスターに襲われる場面では血で足を滑らせて転倒、一心不乱に撃った弾丸が可燃物を直撃して着陸艇大爆発と、こちらも愚かなキャラクターが事態を悪化させるという形で物語が進んでいくため、怖いというよりも呆れてしまいました。 そして、『プロメテウス』で活躍したデヴィッド登場により、場はさらに混乱します。隠れ家としてデヴィッドに案内されたのは未知の巨人の死体がゴロゴロ転がる、見るからに怪しい場所であるにも関わらず、「ここは安全だ」というデヴィッドの言い分を全面的に鵜呑みにするクルーのみなさん。また、一か所に固まって救援を待てばいいものを、単独行動でどんどん戦力を消耗していくものだからイライラさせられました。彼らの持つ銃火器はエイリアンに対して効果を持つようだったし、用心深く対処していれば全員で生き残ることも可能だったと思うのですが。 一応、エイリアンの起源も説明されます。前作でエンジニアが作り出したものをデヴィッドが品種改良して完成させたのがみなさんご存知のエイリアンでしたという、それを知ったところで「へぇ~」とも何ともならない、実にありがたみのない説明ではありましたが。起源を描けば描くほどエイリアンの存在は矮小化しており、「偶然出会った訳のわからん凶悪生物」という第一作のまま放っといてあげればよかったのにと思いました。 リドリー・スコットによると、次回作『エイリアン/アウェイクニング』は『プロテウス』と本作の間の時期を舞台にした作品となるようですが、エイリアンの起源に関する興味はあまりないので、これ以上の続編はもういいかなという感じです。
[映画館(字幕)] 5点(2017-09-16 12:35:20)(良:4票)
25.  ゴーストバスターズ(2016)
オリジナルは人気が絶頂に達していたサタデーナイトライブのメンバーを中心にやや脱力系の笑いを取り入れながらも、ルーカスやスピルバーグが使っているのと同等レベルのVFXがそこに同居し、コメディだからと言ってまったく手抜きはしていない、センスの良い大人達が締めるべきところはきっちりと締めながら作った楽しい娯楽作という点に特徴があったと思います。クライマックスのマシュマロマン登場なんて、笑いとテクノロジーとスペクタクルが高い次元で融合した見せ場となっており、作り手もノリノリだったことが画面越しにも伺えました。 リメイクの本作もサタデーナイトライブの人気者をメインキャストに配置しており、オリジナルと同じ方向性を意図した作品であることは分かるのですが、80年代特有のユルさのままいくのか、それとも今の感性で再構築するのかを決め切れておらず、こちらは作り手の迷いが透けて見える作りになっています。女性コメディアン達はレイティングを気にしてか毒を吐ききっておらず、本業が役者であるはずのクリス・ヘムズワースがほとんどの笑いを取りに行っているという有り様。ただしそのヘムズワースの存在も断片的な笑いをとっているに過ぎず、映画全体をパっと明るくし、全体に勢いを与えるという方向では貢献していません。 そして致命的だったのが、もはやゴーストを描いたところで観客は驚かないほど映像技術が飽和状態にあるということ。オリジナルの評価には「これだけ凄いものを見せてくれてありがとう」という感動が相当含まれていたのですが、そもそも本作はそこで勝負できない作品だったというわけです。そして案の定、スペクタクルとしては何のサプライズもない仕上がりとなっていました。21世紀の観客の度肝を抜くような何かがあれば良かったのですが。
[インターネット(吹替)] 4点(2018-05-30 02:54:40)(良:4票)
26.  アメイジング・スパイダーマン 《ネタバレ》 
IMAXシアターにて鑑賞しましたが、スパイディの背中をカメラが追う3D映像はかなりの迫力と面白さで、映画館で観てよかったなぁと思う作品でした。今回のピーター・パーカーは松潤似のルックスに天才科学者並みの頭脳、ハリー・ポッターばりにいわくつきの両親を持つ特別な人物となっていて、平凡な高校生がスーパーヒーローになるというサム・ライミ版とは大きく異なる物語ではあるのですが(ドラえもんの主人公がのび太から出木杉君に代わったくらいの大きな変更)、前シリーズを丁寧に研究して作られているおかげでこの方向転換に違和感は覚えませんでした。スパイダーマンは正義のあり方について常に思い悩むし、敵も絶対悪ではない。人情が複雑に絡み合う湿っぽい構図は健在なのです。スパイディが市井の人々に支えられているという描写もきちんとなされていて、NY市民が負傷したスパイディのために道を作る場面にはファイトシーン以上に興奮させられました。これぞスパイダーマンです。。。 旧キャストによる「スパイダーマン4」の製作がキャンセルされ、代わりに娯楽作の経験のないマーク・ウェブが新監督に抜擢された時には不安を覚えたのですが、完成した作品を見るにこの判断は正解だったようです。サム・ライミが不得意としていた恋愛パートの演出も彼にとってはお手の物だし、アクション演出は期待以上に的確です。CG全開のヒーローバトルはもちろんのこと、マスクをかぶる前のピーターが街のチンピラを倒して回るライブアクションも流れるように決まっています。粋なラストはこの監督ならではで、今後も彼が担当するのであれば、このシリーズはかなり期待できると思います(私が鑑賞した吹替版と字幕版とではグウェンの父親の最後の言葉の翻訳に違いがあるため、どちらを鑑賞したかでラストの評価は割れている様子ですが)。。。 なお、私の周囲ではウェブシューター(糸を発射する機械)の登場に戸惑いの声があがっているのですが、原作に忠実なのは本作の方。前シリーズでは「平凡な高校生が高度な機械を発明することは不自然」との理由で手首から糸を発射するという設定となっていましたが、ピーターを天才とした本作では原作通りの描写に戻されたようです。
[映画館(吹替)] 8点(2012-06-24 16:30:38)(良:4票)
27.  ダークマン
まだ好き放題やってた頃のサム・ライミの悪ノリが炸裂する映画です。冒頭のシーンから悪ふざけの固まりで、「武器を捨てろ」と言われて素直に従うのはいいんですけど、銃だけでなくヌンチャクやアイアンクロウが転がってるのに注目。義足がマシンガンになってるアイデアもナイスですが、その義足の男がマシンガンを撃つ時には片足でピョンピョンしてるのもいいですね。そして話題のピンクの象はもちろんのこと、敵を落とし入れるべく、デュランに化けて悪さをするダークマンの姿も最高です。コンビニ強盗をして、防犯カメラをにらみつけながら「俺の名前はデュランだ」。化けてる最中に本人と出会ってしまうあたりも大爆笑でした。その時のダブルデュランの表情や、困惑する手下のリアクションが最高なんですよ。こんな感じでのびのびとやってたサム・ライミですけど、「キャプテン・スーパーマーケット」を頂点に悪ふざけに疲れたのか、その後は大人の仕事をしてますね。「ダークマン」のファンとしては、それまでいっしょにふざけてた友達が、受験勉強で遊べなくなったようなさみしさがあります。
8点(2004-07-08 19:16:21)(良:4票)
28.  闇の子供たち
戦慄を覚えました、映画があまりに酷くて。社会派映画にとっての必要条件とは、キャラ造形等に脚色を加えることはあっても、作品の根幹をなすテーマについては事実に基づくということだと思うのですが、驚いたことに本作で描かれる内容はほぼウソっぱち。確かに、貧しい国で人身売買が行われているという惨い現実は実際にあります。ならば徹底した取材で現実に迫ればいいものを、本作は原作者と監督の思い込みや妄想で物語を作り上げてしまっているのです。とにかく、この映画のディティールはメチャクチャです。まず、子供が生きたままゴミ袋に入れて捨てられるということはありえません。警察に挙げられたら終わりの商売ですから、証言者になる可能性のある子供を表立って捨てるわけがないのです。また、ヤクザが子供の背中をムチで打ったり、タバコを押し付けたりする描写もありましたが、高い金を払って調達した商品をわざわざ傷ものにするバカはいません。同様に、客が子供を傷つけるようなことがあれば、管理者であるヤクザは烈火の如く怒るはず。本作に登場するヤクザの行動にはあまりにリアリティがなくて、作り手が意図したのとは別の意味で、観ていてイライラしました。同時に、グロテスクな虐待行為を妄想で作り上げた原作者と監督の負のパワーには驚かされました。彼らこそヘンタイですよ。。。 本作のメインテーマである心臓移植の件もウソっぱちです。心臓移植を行うにはその道を極めた優秀な医者が8名も必要だし、おまけに最新の医療機器も調達しなければなりません。その上、逮捕されれば漏れなく重罪に問われるというリスクまでを考慮すれば、コストがかかりすぎて商売にならないのです。こんなことは少し調べればわかる話ですが、監督にはわからなかったのでしょうか?もしくは、わかってはいたけど、冷静な分析を無視してでも扇情的な内容を求めたのでしょうか?どちらにしても、この監督に社会派映画を撮る資格はありません。。。 不自然な点を観客から指摘されるまで、本作をノンフィクションとして売っていた配給会社の責任も重く感じます。事実無根の内容でタイという国にネガティブなイメージを与えたのですから、これは国家と国民に対する名誉棄損ですよ。とにかくこの映画は酷すぎます。善人面して平然とウソをついているのですから、ゲテモノホラーや低俗なエロ映画以下の最低な代物だと思います。
[DVD(邦画)] 0点(2013-01-22 01:31:49)(良:4票)
29.  ミリオンダラー・ベイビー 《ネタバレ》 
「許されざる者」「ミスティック・リバー」と比較すると、かなりわかりやすい作品となっています。マギーの家族や対戦相手ははっきり悪人として描かれており、善悪の区別を意図的に避けてきた前述の作品達とは傾向がガラっと変わっています。またマギーが全身麻痺となる原因についても、原作では試合中のアクシンデントだったものを映画では対戦相手の明らかな反則行為に変更していることからも、よりわかりやすい形で観客の感情を刺激しようとする意図が感じられます。そう、これは観客の感情に訴える純粋なドラマ作品であり、イーストウッド流の哲学や死生観を語ってきたそれまでの作品とは別物と考えるべきでしょう。あの結末もイーストウッドの個人的な思想が反映されたものではなく、フランキーとマギーの物語の終着点があの形だったと考えるのが妥当です。。。二人の関係は、師弟であり、親子であり、友人であり、そして恋人であるという、人間が持ちうるすべての関係性が凝縮されたものでした。その相手が真剣に死を望み、ほとんど動けない体で可能な限り自分を傷つけはじめ、生きることが最大の苦痛となっている状態で、それでも枕元で「生きることが大事だ」なんて言い続けられるのか?ボクシングに生き、家族に恵まれなかったフランキーにとってマギーはただの恋人ではなく、長い人生の果てに残ったすべてと言っても過言ではありません。世界でもっともマギーの生を望んでいるのはフランキーなのです。しかしそのマギーは真剣に死を望み、一方で自身の意思を実行する手段をすべて奪われてしまった。医学も宗教も「生きることが大事だ」と定番のお題目を唱えるだけで力を貸してくれない。マギーの訴えに耳を傾け、それを実行してやれるのは世界で自分だけとなったフランキーの苦悩は、想像するだけで恐ろしくなります。泣きの演技をほとんど見せないイーストウッドが、ここではついに涙を見せ、迷いを口にします。ひたすらに強い男だったイーストウッドですら抱えきれないほどの絶望。尊厳死が社会一般で認められるべきかどうかは分かりませんが、少なくともマギーとフランキーの間においては、死以外の選択肢はなかったと思います。マギーに対するフランキーの思いは、医者と一緒になって「とりあえず生きろ」と言っていられる程度の軽いものではなかったのですから。
[DVD(吹替)] 8点(2009-12-23 18:21:00)(良:4票)
30.  パラサイト・イヴ
脱ぐなら脱ぐ!脱がないなら脱がない!
2点(2004-08-30 16:07:05)(笑:4票)
31.  ボーン・アルティメイタム 《ネタバレ》 
観客を飽きさせないよう派手なアクションをやればやるほど「んなアホな」のスパイラルに陥る作品が多い中、本作は見せ場の連続なのにバカっぽくなく、そこにリアリティを感じさせる作りとなっています。特に素晴らしいのがロンドン駅での追っかけで、追っ手の配置や視界を先読みしながら対象を的確にナビゲートする様はあまり見たことのない珍しい見せ場。ボーンはただの強い殺し屋ではなく、状況判断やとっさの決断力にも長けた人間であることをちゃんと画で見せてきているのです。「陰謀のセオリー」「ロング・キス・グッドナイト」等、記憶を失った政府の殺し屋映画はいくつもあり、ボーンシリーズもネタ的にはありふれた作品なのですが、そんな中で新しさを発揮しているのは、世界を股にかけるエージェントに必要であろう知性を描いているためでしょう。目の前の危機を腕っぷしで乗り切るかつての主人公達とは違い、二手先三手先を読んで行動し、衝突はなるべく避けるという「当たり前」のことをきっちりやっているのです。またボーンが相手とするCIAも同様で、きちんとした官僚機構として描かれているので、悪役としての存在感を発揮しています。「CIAは巨大な官僚組織である」のは当たり前なのですが、これまでのアクション映画は見事なまでにこのおいしい部分をスルーし、その結果ボスと手下数人が勝手に暴走して主人公に倒されるという、何ともこじんまりとした組織となり下がっていました。そこにきて本シリーズは、個人の通話でも自由に盗聴できるハイテク機器を操り、世界中即座にエージェントを送りこむ豊かなネットワークを持ち、警察機構に指示を出すこともできる強大な権限を持った組織として描いています。そこに従事する人々も魅力的で、その切れる頭で出世したと思われるパメラ、現場の叩きあげで汚れ仕事をしているうちに感情も麻痺してしまったアボット、組織のためなら何でもやってしまう出世の鬼ヴォーゼンら、「官僚組織にいそうな人々」の熱いやりとりも見ごたえ十分です。賛否の分かれる細切れアクションについてですが、画面も話も「リアルに見えること」を意識した本作においては、その必要性があったように思います。アクションの中にリアリティを感じさせたい場合、「仮に現場に居合わせればこのように見えるだろう」という雰囲気を作り出せる手ぶれ映像や細切れの編集は、やはり威力を発揮しているのです。
[映画館(字幕)] 9点(2008-08-26 02:26:24)(良:4票)
32.  エイリアン2/完全版
「コナンPART2」にシュワルツェネッガーを持っていかれ「ターミネーター」の撮影が1年近く中断した際、お母さんから仕送りしてもらわないと食うにも困っていたキャメロンがバイトで執筆を引き受けたのがエイリアンの続編とランボーの続編だったということですが、当時から傑作の誉れ高かった「エイリアン」をここまで自分流にアレンジしてしまう若手は怖いもの知らずというかタダモノではないというか、やはりキャメロンは普通ではありません。リドリー・スコットは続編の依頼があればぜひ引き受けようと思っていたそうですが、この脚本があまりに目を引いたためか監督はそのままキャメロンに決定し、リドリー・スコットには声すらかからなかったとのことです。密室スリラーから戦争アクションという大転換は今から見ても斬新ですが、大味に見えて第一作との連続性が十分に保たれているのは巧いところ。リプリーが収容されてからLV426へ戻るまでの過程が丁寧で、ここが第1作との橋渡しの役割を果たしているので、人間がエイリアンを殺しまくるという前作とまるで逆のことがはじまっても違和感はありません。また、機械や重火器の描写を得意とするキャメロンのおかげで宇宙海兵隊がきちんと強そうに見えるので、殺されまくるエイリアンが必要以上に弱く感じられることも避けられています。SFオンチ、機械オンチの監督ではこうはいかなかったでしょう。クライマックスにおいては【舞台の爆破→ギリギリの脱出→しつこく船に紛れ込んでいたエイリアン→宇宙への放出】と第1作と同じ展開のアップグレード版となっており、あれは意図的なオマージュでしょう。監督3作目(「殺人魚フライングキラー」は撮影3日目でクビになったので実質2作目ですが)にしてキャメロンの演出はとにかく冴えまくっています。見せ場の連続と評価される本作ですが、実際の見せ場は◆海兵隊とエイリアンの初コンタクト、◆立て籠った拠点へのエイリアンの襲撃、◆ニュートの救出、◆クィーンvsローダーの4つだけで、海兵隊がはじめて発砲するのは本編開始から75分地点。意外にも見せ場は少ないのですが、まったく弛まない緊張感と「アクションまだ?」と微塵も感じさせないドラマパートの充実により、2時間35分すべてに渡ってえらいものを見せられた気分にさせるのです。わんこそばのように見せ場を流し込むだけの昨今のアクション映画とはまるで作りが違います。
[DVD(吹替)] 8点(2008-06-22 19:00:34)(良:4票)
33.  ノーカントリー 《ネタバレ》 
"No Country for Old Men"...「年寄りの住める国はなくなった」?世も末だとボヤくベル保安官は、極めつけの事件に遭遇していよいよ愛想尽かし、保安官を引退します。しかし本当に世の中は悪くなったのか?祖父の代に保安官補をやっていた老人は、自分の叔父が殺された時の話をします。1909年、強盗に家を襲われ家族の前で叔父は殺されました。また、ベルは昨日みた夢の話をします。登場するのは彼と彼の父親で、父は若くして死んだから息子の自分の方が老けていたと言います。つまりベルは父親よりも長生きしているのです。本当に社会は昔よりも悪くなったのか?今も酷いが昔だって酷かった。タイトルは「年寄りが懐かしむ古き良き社会などなかった」ということでしょうか。ではその社会の本質とは何か?それは殺し屋シガーが象徴する理不尽で絶対的な力。同じ標的を追う同業者、親切にしてくれた一般人、さらには雇い主まで殺してしまう彼の行動には理屈も合理性もありませんが、人の運命とはそういうもの。立派な人でも事故や病気で命を奪われるし、長生きする悪人もいる。運命の前で人の考える理屈やモラルなど取るに足らぬもので、その無目的さゆえ、それはコインの裏表のようにシンプルである。コイントスで自覚のないまま生きる道を得たおやじに、シガーは「この幸運を大事にしろ。みんなこれを分かっていない」と言います。運命とは予告もなくやってくるため、これを回避しても多くの人はその幸運に気付きません。しかし何十年も何事もなく生きていることが不運に捕まらなかった証なのだから、それを大事にしろとシガーは言うのです。そんなシガーに追われるモスは、幸運に対して無自覚な私達の代表。目撃者なしで大金を拾う幸運を一旦は掴むものの、その偶然性の分からないモスは現場に戻るミスを犯し、素性を知られてしまいます。また、シガーに追い付かれる寸前で発信器に気付き、待ち伏せする機会を得て襲撃から生き延びますが、またしても彼は幸運を認識できず、自分の力で切り抜けたと勘違いして対決姿勢を強め、それが自分だけでなく妻の命も奪う結果となります。一見頭の弱そうなモスの妻は、シガーと対峙した瞬間に運命を理解し、取り乱すことなくこれを受け入れました。シガーはその帰り道で交通事故に遭い、無敵の殺し屋は呆気なく重傷を負います。運命の前に人の能力など意味を持たないと言わんばかりに。
[ブルーレイ(吹替)] 9点(2008-12-21 00:42:08)(良:4票)
34.  10 クローバーフィールド・レーン 《ネタバレ》 
IMAXにて鑑賞。 とにかくジョン・グッドマンのキ○ガイ演技が凄過ぎて、彼の出ている場面では画面からまったく目が離せませんでした。モラルに対して非常にうるさく、しかし彼のモラルには常人の考えるモラルとは一線を画した部分があるため、何をきっかけに火が点くのか読めないという緊張感。また、キレたらキレたで尋常ではない剣幕で怒り、なだめる声にも一切耳を貸さないという頑固親父ぶり。これだけ見事なキ○ガイ演技は『ミザリー』のキャシー・ベイツ以来であり、彼の存在が密室劇を否応なしに盛り上げてくれます。 密室劇でありながらイベントがしっかりと詰め込まれており、「よくぞこれだけネタを考えたものだ」と感心させられました。また、監督は初の長編ながら素晴らしい手腕で作品をまとめており、視覚的に単調になりがちな題材をとりながらも、観客を退屈させない作りとなっています。 よくよく考えれば『フォーガットン』みたいなトンデモ話なのですが、実はまったく無関係な『クローバーフィールド/HAKAISHA』の名前を借りることで観客に対して「これはパニックSFですよ」という先入観を与え、抵抗なくオチを飲み込ませるための下地を作っています。題材をどうデコレーションして見せるかという点で才能を発揮するJJエイブラムスのプロデュース力が、本作の基礎部分を支えています。こちらもお見事でした。 ガッカリしたのは、シャマランの『サイン』と同じく侵略者が異常に弱かったこと。あれだけ煽られていた殺人ガスは、緑色の霧の直接噴射さえ避けられれば問題なしというヘッポコぶりだし、火炎瓶ひとつで墜落させられるUFOにも参りました。『インデペンデンスデイ』と言い『宇宙戦争』と言い、内部を攻撃されると大爆発を起こすというUFOの安っぽい構造は何とかならんものでしょうか。
[映画館(字幕)] 7点(2016-06-19 02:08:50)(良:4票)
35.  スター・トレック/BEYOND 《ネタバレ》 
IMAX 3Dにて鑑賞。前作『イントゥ・ダークネス』に続いて3D効果を実感しやすい見せ場が多く、3D料金を払うだけの価値はありました。 ただし、内容の方は難ありです。JJエイブラムスが『スター・ウォーズ』の引き抜きに遭って監督選びが難航した新シリーズ第3弾ですが、娯楽作の経験豊かなジャスティン・リン(ここんとこの大作の監督候補にはとりあえず彼の名前が挙がる)という人選が本作では裏目に出ていました。彼の演出は常にせわしなく、じっくり見せて欲しい画を全然見せてくれないのでSF向きではないのです。例えば宇宙基地ヨークタウンなんて実に素晴らしいデザインだったのに、その全体像が見られるのは登場場面のほんの10秒程度。もったいない限りです。戦闘に入るとさらに画面は忙しくなり、もはや誰が何をやっているのかがサッパリわかりません。危険区域にいるのは誰で、その人はどっちを目指さなければならないのかという基本的な情報すら伝わってこないため、スリルも何もあったもんじゃないのです。 お話の方もイマイチです。無軌道な生き方をしていたカークが宇宙での仕事に生き甲斐を見出した前々作、大失敗の後にリーダーとしての本分を見出した前作と、本シリーズはカークの成長物語でもあったのですが、本作ではその要素が弱いために作品を貫く主軸を失っています。一応は、長い航海に飽きが来て転属を希望してたけど、いろいろあってまた仕事の楽しさが分かりましたって話はあるものの、大事なエンタープライズを破壊され、多くのクルーを殺害され、しかも敵は自分自身の将来像かもしれないという鬱展開の多かった今回の冒険でどんな楽しみややりがいを見出したんだよと思ってしまいました。これだけの災難を経験すれば、普通は艦長辞めたくなるでしょ。話の内容とドラマの方向性が一致していないため、こちらでも感じるものが少なくなっています。 また、今回は敵も微妙。「実はジャミラでした」というクラールの正体が明かされた瞬間だけはちょっと面白かったものの、連邦が生み出したテロリストという設定は前作のカーンと重複しているためにその存在意義は薄くなっています。また、終盤まで彼の正体を隠していたために、劇中のほとんどの時間においてその行動原理が不明であったことも作品のテンションを落とすことに繋がっており、監督や脚本家の意図が悪い方向に出てしまっているように感じました。細かい点をつっこむと、中盤にてカーク達が拠点として使用していたUSSフランクリンは敵に場所を知られていないということになっていたものの、そもそもクラールがフランクリンの艦長だったのならその場所を知らないはずがなく、なぜ彼はフランクリンを攻撃しに行かなかったのかと不思議に思いました。 「スタートレックは偶数回が当たり回、奇数回が外れ」と言われていますが、その伝統通り、今回はハズレ回でした。ただし、次回は傑作になるはずなので、新作が出ればまた見に行きます。 それはそうと、前作で意気揚々とエンタープライズクルーになったアリス・イヴは一体どこへ消えたんでしょうか。
[映画館(字幕)] 5点(2016-10-21 22:59:02)(良:4票)
36.  ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン! 《ネタバレ》 
映画は、時代背景により観客に馴染むかどうかは変わるし、ストーリーテリングの進歩によってかつては受け入れられていた題材が成立困難に陥ることもしばしば。日本映画界から怪獣映画が消滅したのもこの現象によるし(アバウトな設定が持ち堪えられなくなった)、ハリウッドが精出している往年SFのリメイクが解釈を大幅に変えねばならないのも、かつての姿のままでは観客に馴染まないため。ジャンルの最終作と見られる「バッド・ボーイズ2バッド」の不調等により現在絶滅危惧状態にある90年代ドンパチアクションも同様で、あのような荒唐無稽なアクションはもはやマトモには成立しない状況となっています。「ダイハード4.0」はブルース・ウィリスが出ているだけの別モノとなったし、「デジャヴ」のようにSFの域に達する作品まで登場する状態。そんな中、パロディという手法を巧く活用することで、ドンパチアクションを見事に復活させた本作は実にお見事。成立困難な部分は「これはコメディですから」と言ってうまく逃げつつ、90年代アクションの醍醐味をたっぷり味わわせるのです。見ている側までイラつかせる敵の存在、そりの合わなかったやつが思わぬ加勢となるカタルシス、そしてムチャクチャなんだけどかっこいい銃撃戦など、あの時代の燃える要素がテンコ盛り。広場での銃撃戦などはもう最高で、敵は全部年寄り、自転車から二丁拳銃を撃ってくるおばあちゃん、デスペラードばりに袖から拳銃が飛び出す神父さんなどバカバカしさの極致を行きつつも、アクションのツボは完璧に押さえていて笑いと興奮の嵐となります。落ち着いた前半も一気にペースを上げる後半とのコントラストの役割を果たしており、またここで蒔いておいた伏線が後半をさらに盛り上げているのですから、非常によく練られた構成だと言えます。ジャンルへの愛情を追いすぎて自家中毒に陥る監督も少なくない中、その愛情を万人受けするエンターテイメントへ昇華させた本作は非常に素晴らしいパロディの成功例と言えるでしょう。
[DVD(吹替)] 8点(2008-12-06 15:34:37)(良:4票)
37.  マレーナ
思春期男子の心理をここまで克明に描いた映画って他にはないでしょ。女性のみなさま笑ってやってください。12歳くらいの男子ってのはあんなもんなんです。異性に死ぬほど興味があるのに、な~んにもできずにひたすら妄想に浸ると。なので、主人公の少年が徹底的に傍観者に徹したのは大正解。普通の映画なら、少年はマレーナに近付こうとするもんです。必死で思いを打ち明けようとするんだけど、子供だからと言って相手にされずに落ち込んだり、何かの事件をきっかけにマレーナと親しくなったり。普通の映画だったらそういう流れにするはずです。しかしこの映画においては、少年はマレーナに知られてすらいないわけです。そんな状況において、少しでも相手のことを知るだけで嫉妬や妄想にかられたり、道ですれ違うだけでドキドキしたりと、これぞ現実のリアリティー!中1の頃、中3の先輩に憧れてしょうがなかったみたいな感覚、「あの先輩には彼氏がいるってウワサなのに、それにひきかえ俺は授業中に情けなくウンコをガマンしてる単なるバカだ」的な少年の無力感が完璧に再現されています。こんな気持ちを味わえる映画なんて、他にはどこにもありませんよ。ジュゼッペおじさん、あんたうますぎ!そして、この少年の行動力がまた笑わせてくれるわけです。パンツかぶって寝るくだりなんて、腹抱えて笑いましたね。それでいて、後半ではキッチリと現実の重みを突きつけてきます。この辺りのバランスもいいと思いました。少年の成長物語としては、これ以上ないくらいの傑作だと思います。それからそれから、性に目覚めた息子に女を与えてくれるだなんて、イタリアのお父さんはわかっておいでだ。
8点(2004-08-31 04:10:03)(笑:1票) (良:3票)
38.  葛城事件 《ネタバレ》 
評判に違わぬヤバイ映画でした。池田小事件や秋葉原通り魔事件などの凶悪犯達を育てた家庭とは一体どんな状態にあったのかという点を深く深く煮詰めた作品なのですが、常人では考えられないほどの凶行に及んだ人間の源流を辿っていくと、誰もが思い当たる心の闇や歪な家族関係に行き着き、「少し誤っていたら、自分も殺人犯になっていたのかも」「自分も犯罪者を育ててしまうのではないか」という不安を掻き立てられます。見ている間中「これはお前の話だ」と言われているようで、とにかく居心地が悪いのです。 家庭内でもっともソリが合わないように見える親父と次男ですが、実はこの二人はよく似ています。自意識が肥大化し、ちっぽけな自分の実像を受け入れられない男達。親父の方は継げる家業があったし、団塊の世代で若い頃には社会環境に恵まれたこともあって、それなりの社会的地位に安住することができましたが、根底には自分の可能性を一度も試してこなかったというコンプレックスがあって、その反動から「俺は強くて偉いのだ」ということを至るところでアピールしたがります。家族に対して高圧的に接するのは当然のこと、事あるごとに「男は一国一城の主で」みたいな説教を始めるので本当にめんどくさい。そして本作最大の見せ場である中華料理屋でのイチャモン場面ですよ。物凄い剣幕で店員を怒鳴りつけているので何事かと思いきや、よくよく聞いてみると「麻婆豆腐がいつもより辛い」ということを訴えているだけ。しかもカメラがパンすると、長男の奥さんとご両親が気まずそうにごはんを食べている。よりによってこの席でそんなことするかと誰もが思う一幕ですが、あの親父は、この席だからこそあのような態度をとっているのです。自分は強いということ、そして「あなた達のために不届きな店員を叱ってあげましたよ」ということを全力でアピールしているのです。この親父は万事この調子で、自己アピールや他者への愛情表現がすべて裏目に出ています。ただし悔しいのが、これを鑑賞している私自身にも恐らく同様の一面はあるということです。中華料理屋のようなことを、自分自身もやらないとは言い切れません。 次男は時代に恵まれなかったために何者にもなることができず家に引きこもり、世界で唯一自分の思い通りになる母親に対して暴言を吐いたり暴力を振るったりしながら、「自分は何事かを成し遂げられる人間だ」という自意識のみを肥大化させています。親父には「自分の城を守る」という大義名分があったものの、次男はそんな目的すら持てない中で煮詰まっていき、その後自意識と現実との間にできた絶望的なギャップを埋めるために凶悪事件を引き起こします。この凶悪犯製造プロセスもまた対岸の火事ではなく、どんな家庭でも起こりうることとして描かれています。 他方、完全に常軌を逸しているのが収監中の次男との獄中結婚をする女。面会室のガラス越しに数回接見しただけの凶悪犯との結婚を決意し、この結婚のために肉親との縁を切ってきたと言い、他の登場人物にとっても観客にとっても何を考えているのかサッパリわからないキャラクターなのですが、この女が親父と次男を容赦なく追い込みます。 まず次男。親切に差し入れをしたり、気遣いの言葉をかけてくれる女に対して彼は暴言を吐いたり、無関心を装った態度をとっているものの、これって母親に対する態度と同様のものであり、彼なりにこの女を受け入れて心地よさを感じているのです。しかし女はそんな反応を読み切れず、いつまで経っても自分が受け入れられないまま死刑の時が迫っていることに焦る中で、最後の最後に自分の身の上話を始めますが、これが次男を絶望の淵へと追い込みます。「昔、彼氏の安アパートでずっとセックスしてたのよ」という痴話ばなしなのですが、恐らくは童貞であり、かつ、世捨て人の如きこの女も当然自分と同類だと思い込んでいた次男は、この女の人生にも人並みに幸福な時期があったということを知って愕然とします。そこから彼は態度を急変させ、堰を切ったように自身の犯行について話し始めますが、これは「俺は殺人鬼だ。他人なんて虫けらにしか見えていないんだ。どうだ、凄いだろ」という最後の見栄でした。 親父は親父で、自分の元に訪ねてくる唯一の客人であるこの女に対して、自身の寂しさをぶつけようとします。クライマックスの展開は決してレイプ未遂ではなく、ただ人肌の温もりが欲しかっただけなのです。女からは「あなた、それでも人間ですか」と厳しく非難されましたが、いやいやこのみっともなさ、他者を求める行為こそが人間なんですよ。最後の一人からもそんな切実な思いを拒絶されてしまった親父は最後の糸が切れてしまい、この世との決別にまで思いが至ります。 とにかく何から何まで地獄なのですが、人間に対する深い洞察は見事なものでした。
[DVD(邦画)] 9点(2017-01-15 06:18:11)(良:4票)
39.  アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!
これは絶対に吹替えで見るべき映画です。本作におけるウィル・フェレルはオーバーリアクションで笑いをとることはほとんどなく、微妙な言葉遣いの変化で笑わせてきます。日本で言えば、アンタッチャブル山崎や柳沢慎吾のようにテレビの音を消していても何か面白いことをやっているということが伝わってくるタイプの笑いではなく、真面目な顔をして小ボケを入れてくるところが面白い高田純二や板尾創路タイプの笑いなのです。そんな微妙なニュアンスを字幕で再現することは到底不可能であり、吹替えでは大笑いできた場面が、字幕での鑑賞では面白くも何ともないという状況になっています。例えば、マーク・ウォルバーグ扮するホイツ刑事が、ウィル・フェレル扮するギャンブル刑事をしつこく質問攻めにする場面。ギャンブル刑事は礼儀正しく小市民的であるため、マッチョに憧れるホイツ刑事は強気で質問するのですが、それまでおとなしかったギャンブル刑事が突如「うっせーんだよ、てめぇ!」とキレはじめる。そしてまた小市民に戻る。そこがこの場面の笑いどころなのですが、字幕版では単なる会話にしかなっていませんでした。。。そんなわけで吹替えでの鑑賞を前提にして本作を評価すると、物凄く笑える見事なコメディ映画であると言えます。要所要所でキレるフェレルがとにかく笑わせるし、そのパートナーであるウォルバーグはフェレルの笑いを引き出す役に徹しているため、このコンビは全編に渡って非常に安定しています。「ザ・ファイター」に続いてまたしても引き立て役に回ったウォルバーグですが、一応は主役であるにも関わらず変に目立とうとしないその姿勢には感動しました。ド派手なカーチェイスや銃撃戦は目を楽しませるし(と言っても製作費1億ドルはかかり過ぎですが)、強欲なアメリカ資本主義を悪役にするという鋭い考察も交えているし、見応えのある満足度の高い娯楽作に仕上がっています。
[DVD(吹替)] 8点(2012-01-21 21:25:08)(良:4票)
40.  リディック 《ネタバレ》 
ここでのすんごい酷評ぶりに、「ものすごいヒドイ映画なんだろうな。でも罪は憎んでも映画だけは憎むまいね」と思いながら見に行ったのですが、見終わってビックリ。ものすごく気に入ってしまいました。今年のベストにも本気で選んでしまいそうです。あの重っ苦しい世界観が私にはピッタリ来たんですね。世界観に付随する美術デザインも最高で、展開がどうのとかってよりも、ひとつひとつの場面に食い入るように見入ってしまいました。とくにネクロモンガーの神殿兼宇宙船のあの仰々しさが最高です。マザーシップから戦闘機がバラバラと分離していくシーンには大興奮。未来のくせにローテクってのも大変OK。だって惑星間を移動してる連中がローソク使ってるんですよ。そんな夢のビジュアルが2時間に渡って展開されましたから、「トリプルX2よりもワイルドスピード2よりもこれがやりたかっただなんて、ヴィン・ディーゼル、あんたは男子の鑑だ」と感謝の念でいっぱいでしたね。多くの方が指摘されてる通り、これは「砂の惑星」です。あれもほとんどの人に嫌われた映画ですから、これも相当に客を選ぶ映画ですね。ちなみに私は「ブレードランナー」より「砂の惑星」というセンスの人間です。ただし完璧に神話だった「砂の惑星」に対し、こちらのお話は「ドラゴンボールZ」。フューリア族=サイヤ人、ロード・マーシャル=フリーザ、リディック=カカロットってところです。勝手な世界観に基づいて話される冒頭ナレーションの意味不明ぶり、ヘリオス惑星、フューリア族などかっこいいんだかダサいんだかなネーミングセンス。どれも私の心を捉えました。イマムはえらい坊さんに出世し、ジャックも立派なヤンキーに成長。しかしどちらもあっけなく死ぬのがこの映画のいいところ。そしてラスト、リディックは偶然にもネクロモンガーの王位を手にしますが、普通の映画ではその権力を利用して悪の軍団を解散させるなり、悪い連中を捕まえたりするもんです。しかしリディックはちゃっかり王座に居座り、クライマックスでは銅像にまでなってました。こういう不敵な所がまたいいのです。絶対に続編はないでしょうけど、でもこの2時間でお腹いっぱいになりました。とりあえず9点をつけておきますが、DVDで見返してもアラが気にならなかった場合は、10点に昇格する可能性もあります。そんなお気に入り映画。
9点(2004-08-31 22:12:42)(笑:2票) (良:2票)

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